00702_株式公開企業が行う「二重帳簿」ならぬ「三重会計」とは

1つの企業(会計主体)について、複数の会計が存在します。

一般に
「二重帳簿」
というと、犯罪の匂いというかダーティーな印象が感じられますが、
こと「会計」に関しては、
「二重会計」「三重会計」
はごく普通に行われます。

株式公開企業を例にとりますと、

(1)企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための財務会計
(2)株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社計算規則に基づく会社法会計
(3)担税力に応じて適正かつ公平な課税を目的として、税務当局に上納するミカジメ料を正しく計算するための税務会計

の3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。

上場企業の会計は三つ存在する(帳簿は単一で二重性はないが、会計は三重会計となっている)
                   ↓
金商法会計:投資家が正しい投資判断ができるようにすべく、正確な損益計算を行ない、企業の正確な財政状況・財産状態を開示させることを目的とした会計
会社法会計:株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護することを目的とした会計
税務会計:適正かつ公平な課税実現のため、税務当局が企業の担税力を正確に計測することを目的とした会計

何だか狐につままれたような感じを受けられるかもしれませんので、背景を申しておきます。

帳簿がいくつもあるとそれはオカシイですが、
「帳簿が1つである限り、そこから枝分かれするような形で(誘導法というロジックを使います)、ユーザー別にインターフェースを違えて、会計という企業の姿を浮かび上がらせることはまったく問題ない」
ということがいえるのです。

このように、いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が企業会計や会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。

逆に、税務会計には、
「担税力に応じて適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。

また、納税者の人数は膨大な数に及び、納税者それぞれの具体的事情を考慮することは非常に困難ですので、課税にあたっては、公平性を維持する観点から、外観に着目せざるを得ないということもあります。

このようなことから、租税法規の適正かつ公正な運用(ミカジメ料の効率的で疎漏のない徴収)にあたっては、課税の対象となる行為の形式的外観を重視する観点において実施されることがあり、このような状況も手伝って、税務会計が他の2つの会計と違った形となる遠因となっています。

このような事情を考えますと、
「企業会計・会社法会計によって処理された結果(証券取引等監視委員会の見解)と、税務会計によって処理された結果(税務当局の見解)が異なった形であらわれる」事態
も十分あり得ます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00701_契約書のスタイル今昔:ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイル

企業法務において作成される契約書のスタイルにもトレンドがあります。

1 ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイ

昭和時代、平成初期のころは、産業界が大きなムラ社会で、阿吽の呼吸で形成される自生的秩序があり、細かいことをガタガタ・グチャグチャ言わずとも、たいていの紛争は円満に解決できました。

このころの契約書のスタイルは、
「ジャパニーズ・クラシカル・スタイル」
ともいうべきもので、契約書は、
「良好な関係と輝かしい将来への期待を相互に宣言し、不幸な事態の想定を忌避した儀礼的なビジネス文書」
という意味合いでした。

そして、言霊思想に基づき、結婚の際に破綻を示唆・暗示するものをすべて排除する考え方で、細かい定義条項や、詳しい取引メカニズムの記述、契約違反した場合の制裁に関する解除条項や違約罰条項、中には紛争発生を念頭に置いた管轄条項すら記述を欠いた契約書までありました。

このスタイルの契約書でもっとも重視されたのは、誠実協議条項と呼ばれるものでした。

これは、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項については、その都度甲乙誠実に協議の上決定するものとする」
といった、何も書いていないに等しい無意味・無内容な条項でした。

いってみれば、
「指切りげんまん、嘘ついたら、そのときは、お互い誠実に協議しましょう」
というヌルい契約書がほとんでだったのです。

実際、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項」
が発生して、お互い譲れない内容の場合、
「何が信義に適い、誠実と言えるか」
を巡り、訴訟をおっぱじめることになり、途方もない時間と費用を使って戦っているうちに、お互い時間とコストとエネルギーに疲弊して、嫌になって和解で解決するということがよく行われていました。

2 アングロサクソン・スタイル

しかし、ベルリンの壁が崩れ、東西冷戦が集結し、ソ連が崩壊し、世界が単一市場に向かい出した(マーケット・グローバライゼーション)ころから、ドライでクールで阿吽が通じない青い目のビジネスプレーヤーが日本の産業界に登場し、また、黒い目ながらそれまでの常識や暗黙のムラの掟が通用しない新参者のベンチャー経営者も台頭しはじめたところから、契約書のスタイルも変わりだしました。

このころから、契約書は、関係破綻を視野に入れた、法的危機管理における有効な道具としての法的証拠としての意味を持つようになりました。

Prenup(夫婦財産契約)等結婚前に離婚の際の清算合意書を取り交わすのと同様の考え方です。

定義条項や取引メカニズムの詳細な記述、違反事由の明確化と違反認定の手順、制裁条項、管轄条項を含め、契約書がボリュームアップし分厚さを増しました。

例えば、違約が生じた場合について、それまでの抽象的で多義的な制裁条項から、違約罰条項などのように、
「指切りついたら、針千本飲んでいただく」
のような違反の際のリアルな制裁を明確に定めた契約書スタイルが登場しはじめます。

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00700_ノーアクションレター制度のメリットとデメリット

ノーアクションレター制度とは、 企業が検討している事業活動が孕む許認可等の取得の必要性や行政処分・罰則等の適用可能性について監督行政機関に事前に見解を求める手続きです。

これには、メリットとデメリットの両面があります。

メリットとしては、正式な事前確認の照会があれば、行政機関は一定期間内に回答をすべき義務を負い、法令違反リスクが明らかになり、企業活動の法務安全保障上、絶大な保障を発揮します。

デメリットとしては、行政機関の回答がウェブサイトに公表されるため、事業の保秘が困難となります。

もちろん、一定の時間、コスト、労力を要しますので、全体として面倒で負荷がかかり、事業開始は遅れます。

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00699_所属企業の法令環境把握:大前提としての所属企業の法令環境の調査と把握

企業を取り巻く法的リスク状況を把握するために、
これまで企業が経験した法令課題の把握、
これまで同業の企業が経験した法令課題の把握、
これまで業界として経験した法令課題の把握、
法令担当者及び顧問弁護士が調査により発見した法令課題の把握、
等が必要になります。

また、常に業界全体の問題意識や業界内の法務対策水準を把握しておくべきです。

そのためには、
・監督行政機関の各種プレスリリースや違反事実・ガイドラインの公表等を参照したり、
・顧問弁護士に企業動向の一般的見解を求める形で知見やヒントを引き出す(顧問弁護士は、守秘義務の関係で取扱事件の具体的事実や経過を教示することはできないが、抽象的一般的な知見やノウハウを教えることができる)、
ことが必要です。

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00698_所属企業の法令環境把握:小前提としての所属企業の実体・現実の調査と把握

法的リスク管理を行うに際し、法務担当者としては、まず、企業全体の法務リスク環境を把握しておかなければなりませんが、法律上の課題は、
「一定の事実関係に法を適用し、所定の法的効果を導き出す」
というロジックにより発見されます。

このような課題発生の構造上、企業の法的リスクの発見には、まず、前提たる事実関係、すなわち、現状の企業の事業内容等の企業活動実態の把握が必須の前提となります。

すなわち、法務担当者としては、企業活動に関連する法令に精通することは当然ですが、それ以上に、所属する企業の事業内容等の企業活動実態の把握が必須の前提です。

企業活動の広がりは企業規模に比例し、大企業になればなるほど、トップマネジメントですら全容を把握できないほど広汎にわたります。

すなわち、大企業になればなるほど、企業活動の広がりは広汎になります。

また、タイムリーな企業法務支援のため、現在の企業活動のみならず、今後進出展開していく企業構想の調査把握も必要となります。

また、現在の企業活動のみならず、今後進出・展開していく事業構想も整理しておかなければタイムリーな企業法務支援が困難になります。

経営企画室長室等企画部門の中枢と連携し、効率的な情報収集を図るべきです。

また、あまりにも状況が複雑で手に余る場合、監査法人・会計士や経営コンサルタント、弁護士とチームを組成し、法務部としても、
「法適用の小前提」
としての
「企業活動の全容把握」
に努めるべきです 。

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00697_文書管理の基本その5:英文文書管理

企業によっては、英文を取り扱うところもありますが、一般に英文契約等は、そのままの状態で管理される場合が多いです。  

無論、担当者が英語に堪能であれば特段問題はありません。

しかし、後任者や上司・担当役員等の英語読解力に難があったりすると、契約問題が発生した場合など、社内でのスピーディーなコミュニケーションや対策検討のための議論の早期着手に困難を来します。  

そういう場合を想定し、英文契約等重要な英文文書については、必ず対訳を付し、管理しておくことが推奨されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP60TO61

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00696_文書管理の基本その4:文書の保存期間や保存方法

文書の保存期間は利用可能性を完全に喪失した時期を基準にすべきです。

一般に税務上の時効を基準として文書保存期間を定める企業が多いようですが、契約書や領収書等について、税務時効に基づき形式的に保存期間を定めるのではなく、後日の法的紛争も視野に入れて保存期間を定めるべきです。

商事時効を念頭にするなら5年ですが、民事時効や不法行為責任まで視野に入れるならさらに長くなります(例えば不法行為の消滅時効の最も長い期間は不法行為時から20年にも及びます) 。

したがって、処分証書や重要な報告証書は、税務上の時効に基づき形式的に保存期間を定めるのではなく、後日の法的紛争も視野に入れてしかるべき期間まで保存しておくべきです。

なお、原本保存が理想ですが、こちらは物理的なスペースを費消するので、
原本管理とデータ管理を概念区分し、
新しい文書管理ツールを活用することで、
永年保存が可能となります。

すなわち、
スキャニングをして、セキュアなクラウドで管理すれば、物理的スペースを費消することなく、文書に格納された内容を電子情報としてであれば半永久的に保管することができます。

なお、ICT技術の進化により、文書の管理技術の基本的思想も変化が起きつつあります。

すなわち、
「分類して整理せよ」
から
「分類や整理に時間を使うな。蓄積して検索せよ」
へと変質しました。

これに、スキャニングのスピードやOCRの精度や検索ソフトの向上の技術進化が重なり、文書管理は圧倒的に効率的かつ低コストで大量のデータを容易に管理できるようになっています。

なお、クラウドによる文書管理は、BCPに基づく分散管理を同時に実現できるので、災害や物理的障害にも耐性を発揮することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00695_文書管理の基本その3:処分証書(契約書)とともに、厳重な保管管理が必要な文書

処分証書(契約書)は、その強力な証拠としてのパワーから、厳重な保管が必要ですが、その他、法定文書や、有価証券(処分証書の一種ですが)や証書等で紛失すると権利行使が困難になるものは、現金と同等の保管管理が必要です。

具体的には、
有価証券については、株券や手形や小切手など、
証書については、会員権証書や保険証書や機器保証書など、
行政文書(許可証、免許証等)や司法関連文書(判決、決定、公正証書等)、
会社法関係では、定款、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿、会計帳簿等
です。

ちなみに、株式公開を目指そうとしたところ、定款が紛失していた、株主名簿が不明、株券が誰に渡ったかわからない、といったずさんな管理実体のため、大きな障害に直面する場合があります(無論、リカバリーする方法がないわけではありませんが)。

いずれにせよ、重要な文書は、紛失等しないよう、体系と秩序を構築・維持し、しっかり管理する必要があります。

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00694_文書管理の基本その2:処分証書と報告証書

訴訟においては、書証が決定的な重要性をもちます。

訴訟は、筆談戦、文書戦の様相を呈しているといえるほど、文書が偏重されます。

そして、書証(文書の証拠)においても、序列はあります。

それは、処分証書と報告証書という証拠価値における序列区分です。

処分証書とは、証明の対象である意思表示その他の法律行為(要するに契約の存在や内容が問題となっている場合の契約)を記載した文書(要するに契約書)をいいます。

契約書が代表例ですが、判決文、遺言書、手形、解除通知書等もあります。

処分証書については、裁判において特別の取扱ルールが定められています。

すなわち、
処分証書が偽造等ではなく、きちんとした作成者によって作成されたことが明らかになれば(真正に成立していれば)、原則としてその記載通りの事実が認定されますし、
処分証書が真正に成立していれば、本人尋問の結果よりも、処分証書の記載が尊重されることとなる、
という取扱ルールです。

要するに、
いい大人が契約書にサインしたなら、よく読まなかったとか、理解していなかったとか、そんな中身とは知らずに誤解があった、とかの寝言は一切通用せず、証人尋問とかでいろいろ泣いたり喚いたりしても一切関係なく、契約書の記載どおりの権利や義務が成立する、
というもので、これは、独裁的覇権的権力を有する裁判官すら拘束する事実認定のルールです。

これに対して、報告証書とは、 体験した事実を述べた文書に過ぎないため、法的に争いのある事実を間接的・補助的に裏付ける意味しかなく、処分証書ほど強力な事実認定拘束力はありません。

ちなみに、
「覚書」
「確認書」
といったタイトルの文書であっても、その内容が一定の法的合意を示すものであれば、処分証書に当たる、ということがあります。

したがって、タイトルだけで報告証書と判断し、文書を廃棄したり、イージーに文書に署名・押印する行為は危険です。

いずれにせよ、処分証書は、まず、作成段階で慎重に中身を確認する必要がありますし、また、作成後も厳重に保管するべき必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00693_文書管理の基本その1:原本(オリジナル)と写し(コピー)

裁判手続きにおける適式な証拠とは原則として原本を指します。

写し(コピー)は証拠として信用性がないものとして扱われるリスクがあります。

この取扱には、いろいろな背景や理由があります。

ハードコピーだろうが、PDF等のソフトコピーだろうが、別に証拠としても良さそうな気がしますが、裁判における事実認定に供する以上、偽造や改ざんの可能性を排除できない以上、まともな書証として取り扱わない、というのが裁判所のスタンスです。

それと、民事裁判の実体として、かなり、イージーでカジュアルで何でもありの無法地帯となっています。

ウソや誤魔化し、誇張にインチキ、果ては偽証に偽造が蔓延する世界です。

10万件単位の裁判があり、すなわち、どちらかがウソをついてる事件が10万単位で、偽証罪の摘発が2、30件程度、というのが民事裁判の実態です。

これは、暗に、民事裁判はウソつき放題であり、裁判でウソをつかない方がバカ、ということを国家として暗に黙認している、そんな狂気の現実が垣間見られます。

こんな状況で、事実認定の最低限を保障する原本による確認実務が放擲され
「コピーも原本並みの証拠として扱う」
なんて運用が始まったら、お座なりとはいえ実態の堕落を食い止める最低限の建前すらなくなり、文書まで嘘つき放題という凄まじい状況となることが予測されます。

加えて、契約書等の取引内容の証拠文書には、印紙税の貼付を求められており、これが税収財源となっておりますが、コピーでも構わない、となると、誰もわざわざ印紙を貼って契約書を作ろうという動機を喪失し、税収財源が減り、国家財政への負担が増します。

こういう事情もあり、司法・行政においては、いまだに原本を異常なまでに偏重する手続運用システムが根強く残っているのです。

なお、
「印紙を貼っていない契約書は、裁判所で証拠提出できるか」
と聞かれることがありますが、印紙税法に違反した文書であっても、証拠としての価値は厳然と存在しますので、問題なく、証拠として事実認定に供することができます。

三権分立の思想が確立しているせいか、税の問題(行政の問題)があっても、裁判(司法マター)はまったく問題として扱いませんので。

以上のとおり、紛争が訴訟に至り、裁判所に一定の事実を認めてもらおうとしたときは、必ず原本の提出を求められます。

したがって、特に、重要な事実を立証する紛争予防道具としての文書、すなわち契約書や議事録といった文書については、保管管理をする際には、原本と写しを明確な区別ないし区分管理をした上で、原本の厳重な保管が必要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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