00704_契約書のチェックの段取りと実務その1:「契約書」はなくとも「契約」は成立する

法務部においては、
「契約書のチェック」
という業務カテゴリーが非常に重要なものと考えられています。

しかしながら、
「契約書のチェック」
とは、一体、何を目的として、どのような段取りで、どのようにすすめていけばいいのか、法務担当者も、あるいは、顧問弁護士も今ひとつ理解されないまま、すすめられているような実情があるような気がします。

ここでは、
「契約書のチェック」
という極めて多義的で曖昧で内容不明な業務について、目的や段取りや進め方を解説していきます。

ここで、契約書とは、そもそも、どのような目的で作成され、どのような価値と意義があり、作らなかったり、中途半端なものを作った場合にどのようなリスクやダメージが想定されるのか、ということを始めに明らかにしておきたいと思います。

まず、
「契約」

「契約書」
のことについてお話ししたいと思いますが、
「契約と契約書」
なんて言い方をすると、
「何をややこしいこと言うてんねん。そんなもん、“ファミリーレストラン”と“ファミレス”みたいなもんで、言い方変えとるだけで、同じもんやろー!」
というツッコミが返ってきそうです。

ですが、法律上、
「契約」と「契約書」は、まったく別物として区別
されるのです。

まず、
「契約『書』」
はなくとも、
「契約」そのもの
は問題なく成立します。

そもそも
「契約『書』」
なんて意味不明で難解な漢字がたくさん書いてある紙切れなどなくたって、当事者間できちんと意思表示が取り交わされていれば、契約は成立するものです。

すなわち、
「契約『書』」などというご大層な紙切れ
を逐一作成しなくとも、
電子メールでおこなったものであれ、
口頭で行おこなったものであれ、
「何を、いくらで、取引する」
ということが明確にされている限り、原則として
「契約」は法律上有効に成立
するのです。

民法上、
「取引を円滑・活発にする上では、当事者の意思こそが尊重されるべきである。当事者が互いに納得したのであれば、方式や手続などおかまいなしに取引を成立させるべきだ。当事者間に。“お上”ないし“当局”が介入し、あれこれ無駄で煩瑣な方式や手続を強制するのは自由主義経済の発展を阻害する」
という考え方の下、
「契約成立における意思主義の原則」
というドクトリンが採用されております。

意志主義の帰結として、
「契約当事者同士が、適切に取引上の意思表示を取り交わして取引が成立したのであれば、契約目的物の交付や契約書面などといった別途のプロセスや手続がなくとも、契約は完全かつ有効に成立する」
とされるのです。

無論、
「契約『書』という文書がなくとも契約は成立する」
という原則にも例外はあります。

例えば、
「約束手形の振出」等
というのは、
「手形」という紙切れ
が絶対的なものとして要求され、手形もなく支払いを約束するは、法的な意味での手形行為として成立しえません。

また、保証契約には書面あるいは電子データという要式が必要となったのと、遺言については遺言書という要式書面が必要となりました。

ですが、このように一定の方式が要求される契約は極めて隈定されており、法律上の原則論としては、
「契約書がなくとも契約は問題なく成立する」
という取扱が取引一般において貫徹されています。

運営管理コード:HLMGZ13-1

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00703_海外ビジネスを初めて展開するが、取引や手続きが不案内で不安この上ない。他方、自社に海外ビジネス経験者や海外法務ができる者がおらず、支援を求めたい。具体的に何が問題で、これらをどういう手順で、どんな支援を求めて不安解消していくべきか?

海外ビジネス未経験の企業が新しく海外に進出する場合、
「海外ビジネスを初めて展開するが、取引や手続きが不案内で不安この上ないが、他方、自社に海外ビジネス経験者や海外法務ができる者がおらず、支援を求めたい。具体的に何が問題で、これらをどういう手順で、どんな支援を求めて不安解消していくべきか?」
というかなり曖昧で何が不安かすら特定できない漠たるニーズが発生する場合があります。

まず、この不安には、いくつか不安の種別やレベルが観念できるので、こちらから整理してみましょう。

海外ビジネスにおける不安の正体を具体的に分類しますと、

1 コトバが通じるか不安
2 話が通じているか不安(話が理解できない、わからない、法的云々以前に、経済合理性、目的合理性を判断できない)

3 法的トラップがないか不安

の3段階の不安があり、それぞれの不安が、リスクアセスメントという対処課題上の対象事項となります。

1 コトバが通じないことの不安

まず、コトバが通じる通じないの不安は、信頼できる翻訳業者に翻訳を依頼すれば解消できます。

なお、翻訳業者が信頼できなかったり、取引相手が行った翻訳や取引相手が手配した翻訳は、間違いやトラップが仕込まれている可能性があります。

また、国によっては、高い費用にかかわらずいい加減で適当な人間が適当に処理する、ということもあります。

この点、普通の日本人が行う仕事の品質で考えると、大きな失敗をします。

日本人の仕事の品質や出来栄えや費用対効果は、世界でみても突出していて、このことは、翻訳であれ、コンサルティングであれ、法務サービスであれ、事情は変わりません。

信頼できない翻訳については、バックチェックをすることも含め、きっちり不安の根源を解消しておく必要があります。

2 話が通じないことの不安(話が理解できない、わからない、法的云々以前に、経済合理性、目的合理性を判断できない)

きっちりした翻訳文が入手され、和文に修正された内容をみても、例えば、

====================>引用開始
第二十七条の二第二項から第六項まで、第二十七条の三(第一項後段及び第二項第二号を除く。)、第二十七条の四、第二十七条の五(各号列記以外の部分に限る。第五項及び次条第五項において同じ。)、第二十七条の六から第二十七条の九まで(第二十七条の八第六項、第十項及び第十二項を除く。)、第二十七条の十一から第二十七条の十五まで(第二十七条の十一第四項並びに第二十七条の十三第三項及び第四項第一号を除く。)、第二十七条の十七、第二十七条の十八、第二十七条の二十一第一項及び前条(第二項を除く。)の規定は、前項の規定により公開買付けによる買付け等を行う場合について準用する。この場合において、これらの規定(第二十七条の三第四項及び第二十七条の十一第一項ただし書を除く。)中「株券等」とあるのは「上場株券等」と、第二十七条の二第六項中「売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。以下この章において同じ。)」とあるのは「売付け等」と、第二十七条の三第二項中「次に」とあるのは「第一号及び第三号に」と、同項第一号中「買付け等の期間(前項後段の規定により公告において明示した内容を含む。)」とあるのは「買付け等の期間」と、同条第三項中「公開買付者、その特別関係者(第二十七条の二第七項に規定する特別関係者をいう。以下この節において同じ。)その他政令で定める関係者」とあるのは「公開買付者その他政令で定める関係者」と、同条第四項前段中「当該公開買付けに係る株券等の発行者(当該公開買付届出書を提出した日において、既に当該発行者の株券等に係る公開買付届出書の提出をしている者がある場合には、当該提出をしている者を含む。)に送付するとともに、当該公開買付けに係る株券等が次の各号に掲げる株券等に該当する場合には、当該各号に掲げる株券等の区分に応じ、当該各号に定める者」とあるのは「次の各号に掲げる当該公開買付けに係る上場株券等の区分に応じ、当該各号に定める者に送付するとともに、当該公開買付届出書を提出した日において、既に当該公開買付者が発行者である株券等に係る公開買付届出書の提出をしている者がある場合には、当該提出をしている者」と、同項各号中「株券等」とあるのは「上場株券等」と、第二十七条の五ただし書中「次に掲げる」とあるのは「政令で定める」と、第二十七条の六第一項第一号中「買付け等の価格の引下げ(公開買付開始公告及び公開買付届出書において公開買付期間中に対象者(第二十七条の十第一項に規定する対象者をいう。)が株式の分割その他の政令で定める行為を行つたときは内閣府令で定める基準に従い買付け等の価格の引下げを行うことがある旨の条件を付した場合に行うものを除く。)」とあるのは「買付け等の価格の引下げ」と、同条第二項中「買付条件等の変更の内容(第二十七条の十第三項の規定により買付け等の期間が延長された場合における当該買付け等の期間の延長を除く。)」とあるのは「買付条件等の変更の内容」と、第二十七条の八第二項中「買付条件等の変更(第二十七条の十第三項の規定による買付け等の期間の延長を除く。)」とあるのは「買付条件等の変更」と、第二十七条の十一第一項ただし書中「公開買付者が公開買付開始公告及び公開買付届出書において公開買付けに係る株券等の発行者若しくはその子会社(会社法第二条第三号に規定する子会社をいう。)の業務若しくは財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情(政令で定めるものに限る。)が生じたときは公開買付けの撤回等をすることがある旨の条件を付した場合又は公開買付者に関し破産手続開始の決定その他の政令で定める重要な事情の変更が生じた」とあるのは「当該公開買付けにより当該上場株券等の買付け等を行うことが他の法に違反することとなる場合又は他の法に違反することとなるおそれがある事情として政令で定める事情が生じた」と、第二十七条の十三第四項中「次に掲げる条件を付した場合(第二号の条件を付す場合にあつては、当該公開買付けの後における公開買付者の所有に係る株券等の株券等所有割合(第二十七条の二第八項に規定する株券等所有割合をいい、当該公開買付者に同条第一項第一号に規定する特別関係者がある場合にあつては、当該特別関係者の所有に係る株券等の同条第八項に規定する株券等所有割合を加算したものをいう。)が政令で定める割合を下回る場合に限る。)」とあるのは「第二号に掲げる条件を付した場合」と、第二十七条の十四第一項中「、意見表明報告書及び対質問回答報告書(これらの」とあるのは「(その」と、同条第三項中「並びに第二十七条の十第九項(同条第十項において準用する場合を含む。)及び第十三項(同条第十四項において準用する場合を含む。)の規定」とあるのは「の規定」と、同条第五項第一号中「第二十七条の八第三項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第二項において準用する第二十七条の八第三項」と、同項第二号中「第二十七条の十第八項若しくは第十二項又は前条第三項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第七項」と、第二十七条の十五第一項中「、公開買付報告書、意見表明報告書又は対質問回答報告書」とあるのは「又は公開買付報告書」と、同条第二項中「公開買付者等及び対象者」とあるのは「公開買付者等」と、前条第一項中「若しくは第二十七条の二第一項本文の規定により公開買付けによつて株券等の買付け等を行うべきであると認められる者若しくはこれらの特別関係者」とあるのは「若しくは第二十七条の二十二の二第一項本文の規定により公開買付けによつて上場株券等の買付け等を行うべきであると認められる者」と、同条第三項中「前二項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第二項において準用する第一項」と読み替えるものとする。
<====================引用終了

といった日本語が出てきたら、この言語のカタマリを目にした時に頭の中に投影される認識風景は、

「象形文字」の画像検索結果

といったものとなり、
「なんだ、これ。日本語で書いてあるが、日本語の文章ではないだろ。暗号か呪文か? まだ般若心経の方が、なんとなくだが意味はわかるが、この不気味で奇っ怪な呪文か暗号は何なんだ・・・・」
という機能的非識字の状況に陥ります。

この場合、機能的非識字の状態に陥っているわけですから、知ったかぶりのままやり過ごしたところで、何日経過しても、何ヶ月経過しても、何年経過しても、不安が払拭されず、却って不安が増殖するだけです。

機能的非識字を解消し、不安をなくすためには、
「日本語の翻訳」「日本語の意味翻訳」「日本語の機能的解釈」
といった作業が必要になります。

これは、法律に長けた経験豊かな法務担当者が必要となります。

このような人材が不在であれば、適切な弁護士に外注して、
「日本語の翻訳」「日本語の意味翻訳」「日本語の機能的解釈」
を支援してもらうべきです。

弁護士というと、後述の
「法的トラップの発見と特定と解消手段の構築」
だけ行うイメージがあります。

しかし、特に、海外法務を支援する企業法務系法律事務所で中堅中小企業やベンチャー企業に理解と配慮のあるところでは、
「法律に長けた経験豊かな法務担当者」
を配備せずに海外ビジネスを始めるという企業に対する
「臨時法務部機能提供サービス」
といった形で、この種の
「日本語の意味翻訳」
を支援することもあります。

ちなみに、この
「日本語の翻訳」「日本語の意味翻訳」「日本語の機能的解釈」
を軽視し、
「不安を解消しないまま、巨額の海外ビジネスを進め、その結果、倒産の危機に瀕する」
という
「歴史に燦然と残る大しくじりをやらかした、日本を代表する大企業」
があります。

電機メーカー東芝は、7125億円もの損失を原子力事業全体で発生させ、2016年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、同年12月末時点で自己資本が1912億円のマイナスという、債務超過の状況に陥りました。

この惨事のグラウンド・ゼロ(根源的起点)は、
意思決定者(経営陣)が機能的非識字状態に陥っていたことと、
にもかかわらず、
「日本語の翻訳」「日本語の意味翻訳」「日本語の機能的解釈」
を行うことなく、機能的非識字状態のまま契約に突入した、
というあまりに未熟で愚かで情けない失敗にあります。

東芝傘下のウェスティングハウスは、2015年末に買原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収した際、買収直後に、ある価格契約を締結しました。

複雑な契約を要約すると、
「工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担する」
というものでした。

原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化し、追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になりました。

しかし、問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにあり(機能的非識字状態)、にもかかわらず契約締結処理を敢行したことにありました。

原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「米CB&Iは上場企業だったし、提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませた、とされます。

「提示された資料を信じるしかなかった」
という弁解ですが、いかにも他に選択肢がなかったという他律的で外罰的な言い訳をしていますが、別に、アタマに銃を突きつけられて契約を點せられたわけではありません。

自らが自らの責任でやらかしたアホなミスであり、自己責任、因果応報、自業自得の帰結であり責任逃れのしようがない、愚かな考えと愚かな行動の結果です。

(以上、出典は、日経新聞2017年2月21日付記事 「もう会社が成り立たない」東芝4度目の危機 (迫真)

提示された資料を信じず、不安に感じ、不安を放置せず、きっちりと理解できるまで、
「日本語の翻訳」「日本語の意味翻訳」「日本語の機能的解釈」
さえきっちり行ってさえいれば、こんな馬鹿げた事件は防げたところです。

にもかかわらず、これを漫然と怠ったことによる、歴然たる人災です。

なお、話を確認する、というプロセスについては、
「ビジネス面での合理性」「ビジネス面での目的合理性や経済合理性」
の検証や確認も含まれます。

こちらは、企業内部において、機能的非識字状態を克服した後、
話の内容の整合性(目的とする取引が文書として表現されているか)や、
話の内容の合理性(1万円札を3万円で購入するような不利でアホな内容となっていないか)
を確認・検証する必要があります。

そもそも、どういう目的でやっているのか、そんなプロセスが必要かどうか、目的とプロセスが整合しているか(=「無残に失敗した日本最大の失敗公共事業」である太平戦争のように、目的不明、プロセスむちゃくちゃ、目的とプロセスが完全矛盾、といった欠陥がないかどうか)については、
「法的チェック以前の段階の話」
です。

もし、この段階で危険や不安やリスクがあるなら、これを解消すべきであり、解消できないのであれば、サンクコストとの兼ね合いも視野に入れて、取引見合わせ、ビジネス撤退も考えるべきです。

いずれにせよ、コトバが通じてない状況を克服した後、話の筋や、目的整合性、ビジネス合理性をを把握し、検証する作業をしっかり行うことが推奨されます。

3 法的トラップがないか不安

最後に、法的トラップの有無についての確認作業に入ります。

これは、おそらく外部の弁護士に依頼して進めていくことが多いと思います。

ただ、弁護士は
「法的」トラップ
は確認できますが、
「ビジネス面での合理性」「ビジネス面での目的合理性や経済合理性」
は判断できません(指摘をしたり、任意の付加サービスとしてお節介を焼いてくれる場合もあるでしょうが、本質的な依頼事項から外れます)。

なお、法的トラップにも、お国柄や記述されざる運用といったものが含まれますので、経験のある弁護士や、経験から保守的考察ができる弁護士等を起用することが推奨されます。

4 全体の段取りや遂行実務の構築

法務担当者は、以上のプロセスの全体の段取りを考え、必要な資源を調達し、効率的に運用するマネジメントが求められます。

因数分解して、相応のスピードと合理性をもって事に当たれば、さほど難しいことではない、と考えられますし、開成高校2年生の平均的な成績の生徒にやらせても、十分できる程度の仕事です。

とはいえ、
「そんな面倒くさいことできないけど、カネがあるので、カネを払って済ませたい」
ということもあり得ます。

こういう場合、法律事務所等で対応人員を用意し、ホットラインを開設し、一次対応から最終対応処理まで一貫して引き受けてもらう、という外注手配による対応もありえます。

その場合のコストは、商社の法務部スタッフの給与をイメージした上で、そのようなスタッフをテンプスタッフとして、緊急に臨時雇用するような条件(緊急かつ臨時に手配することや、手配行為そのものについて、プレミアムが生じる)をイメージすればよいでしょう。

よほど人材難か、よほどカネが有り余っている企業でもない限り、検討にすら値しないオプションですが、法務体制が貧弱な企業にとっては、積極的検討に値する打開策です。

海外進出を試みる企業の中には、
「バカにするんじゃねえ。何が機能的非識字だ。字くらいよめらァ」
「ビジネスのことなどいちいち外の人間に聞かなくてもわかるわい」
「このくらいの契約書読めなくてどうする。オレでもできるわ」
と反発され、噛み付かれるところもありますが、実際、やってみると、
・できない、
・できるが、時間がかかりすぎてどうにも進まない、
・できないし、面倒だし、不安だが、不安は放置して乗り越えて、相手を信じて、楽観的にすすめてしまう(その結果、前記の東芝の悲劇の二の舞、三の舞を演じることになる)
という事態に直面することになったりします。

海外進出は、天下の(?)東芝ですら、大失敗して倒産の危機に見舞われるほど、困難であり、相応の体制整備が必要なものです。

したがって、冷静に自社の体制の状況(貧弱性)をみつめ、外部に支援を求めるか、海外進出自体を見直すことを考えるべきです(東芝も、機能的非識字のまま契約処理するような貧弱な経営陣体制であったのに、無謀にも海外進出したことで、倒産の危機に瀕したが、海外に出なければ倒産の危機に至ることもなかったと思われます)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00702_株式公開企業が行う「二重帳簿」ならぬ「三重会計」とは

1つの企業(会計主体)について、複数の会計が存在します。

一般に
「二重帳簿」
というと、犯罪の匂いというかダーティーな印象が感じられますが、
こと「会計」に関しては、
「二重会計」「三重会計」
はごく普通に行われます。

株式公開企業を例にとりますと、

(1)企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための財務会計
(2)株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社計算規則に基づく会社法会計
(3)担税力に応じて適正かつ公平な課税を目的として、税務当局に上納するミカジメ料を正しく計算するための税務会計

の3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。

上場企業の会計は三つ存在する(帳簿は単一で二重性はないが、会計は三重会計となっている)
                   ↓
金商法会計:投資家が正しい投資判断ができるようにすべく、正確な損益計算を行ない、企業の正確な財政状況・財産状態を開示させることを目的とした会計
会社法会計:株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護することを目的とした会計
税務会計:適正かつ公平な課税実現のため、税務当局が企業の担税力を正確に計測することを目的とした会計

何だか狐につままれたような感じを受けられるかもしれませんので、背景を申しておきます。

帳簿がいくつもあるとそれはオカシイですが、
「帳簿が1つである限り、そこから枝分かれするような形で(誘導法というロジックを使います)、ユーザー別にインターフェースを違えて、会計という企業の姿を浮かび上がらせることはまったく問題ない」
ということがいえるのです。

このように、いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が企業会計や会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。

逆に、税務会計には、
「担税力に応じて適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。

また、納税者の人数は膨大な数に及び、納税者それぞれの具体的事情を考慮することは非常に困難ですので、課税にあたっては、公平性を維持する観点から、外観に着目せざるを得ないということもあります。

このようなことから、租税法規の適正かつ公正な運用(ミカジメ料の効率的で疎漏のない徴収)にあたっては、課税の対象となる行為の形式的外観を重視する観点において実施されることがあり、このような状況も手伝って、税務会計が他の2つの会計と違った形となる遠因となっています。

このような事情を考えますと、
「企業会計・会社法会計によって処理された結果(証券取引等監視委員会の見解)と、税務会計によって処理された結果(税務当局の見解)が異なった形であらわれる」事態
も十分あり得ます。

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00701_契約書のスタイル今昔:ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイル

企業法務において作成される契約書のスタイルにもトレンドがあります。

1 ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイ

昭和時代、平成初期のころは、産業界が大きなムラ社会で、阿吽の呼吸で形成される自生的秩序があり、細かいことをガタガタ・グチャグチャ言わずとも、たいていの紛争は円満に解決できました。

このころの契約書のスタイルは、
「ジャパニーズ・クラシカル・スタイル」
ともいうべきもので、契約書は、
「良好な関係と輝かしい将来への期待を相互に宣言し、不幸な事態の想定を忌避した儀礼的なビジネス文書」
という意味合いでした。

そして、言霊思想に基づき、結婚の際に破綻を示唆・暗示するものをすべて排除する考え方で、細かい定義条項や、詳しい取引メカニズムの記述、契約違反した場合の制裁に関する解除条項や違約罰条項、中には紛争発生を念頭に置いた管轄条項すら記述を欠いた契約書までありました。

このスタイルの契約書でもっとも重視されたのは、誠実協議条項と呼ばれるものでした。

これは、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項については、その都度甲乙誠実に協議の上決定するものとする」
といった、何も書いていないに等しい無意味・無内容な条項でした。

いってみれば、
「指切りげんまん、嘘ついたら、そのときは、お互い誠実に協議しましょう」
というヌルい契約書がほとんでだったのです。

実際、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項」
が発生して、お互い譲れない内容の場合、
「何が信義に適い、誠実と言えるか」
を巡り、訴訟をおっぱじめることになり、途方もない時間と費用を使って戦っているうちに、お互い時間とコストとエネルギーに疲弊して、嫌になって和解で解決するということがよく行われていました。

2 アングロサクソン・スタイル

しかし、ベルリンの壁が崩れ、東西冷戦が集結し、ソ連が崩壊し、世界が単一市場に向かい出した(マーケット・グローバライゼーション)ころから、ドライでクールで阿吽が通じない青い目のビジネスプレーヤーが日本の産業界に登場し、また、黒い目ながらそれまでの常識や暗黙のムラの掟が通用しない新参者のベンチャー経営者も台頭しはじめたところから、契約書のスタイルも変わりだしました。

このころから、契約書は、関係破綻を視野に入れた、法的危機管理における有効な道具としての法的証拠としての意味を持つようになりました。

Prenup(夫婦財産契約)等結婚前に離婚の際の清算合意書を取り交わすのと同様の考え方です。

定義条項や取引メカニズムの詳細な記述、違反事由の明確化と違反認定の手順、制裁条項、管轄条項を含め、契約書がボリュームアップし分厚さを増しました。

例えば、違約が生じた場合について、それまでの抽象的で多義的な制裁条項から、違約罰条項などのように、
「指切りついたら、針千本飲んでいただく」
のような違反の際のリアルな制裁を明確に定めた契約書スタイルが登場しはじめます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00700_ノーアクションレター制度のメリットとデメリット

ノーアクションレター制度とは、 企業が検討している事業活動が孕む許認可等の取得の必要性や行政処分・罰則等の適用可能性について監督行政機関に事前に見解を求める手続きです。

これには、メリットとデメリットの両面があります。

メリットとしては、正式な事前確認の照会があれば、行政機関は一定期間内に回答をすべき義務を負い、法令違反リスクが明らかになり、企業活動の法務安全保障上、絶大な保障を発揮します。

デメリットとしては、行政機関の回答がウェブサイトに公表されるため、事業の保秘が困難となります。

もちろん、一定の時間、コスト、労力を要しますので、全体として面倒で負荷がかかり、事業開始は遅れます。

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00699_所属企業の法令環境把握:大前提としての所属企業の法令環境の調査と把握

企業を取り巻く法的リスク状況を把握するために、
これまで企業が経験した法令課題の把握、
これまで同業の企業が経験した法令課題の把握、
これまで業界として経験した法令課題の把握、
法令担当者及び顧問弁護士が調査により発見した法令課題の把握、
等が必要になります。

また、常に業界全体の問題意識や業界内の法務対策水準を把握しておくべきです。

そのためには、
・監督行政機関の各種プレスリリースや違反事実・ガイドラインの公表等を参照したり、
・顧問弁護士に企業動向の一般的見解を求める形で知見やヒントを引き出す(顧問弁護士は、守秘義務の関係で取扱事件の具体的事実や経過を教示することはできないが、抽象的一般的な知見やノウハウを教えることができる)、
ことが必要です。

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00698_所属企業の法令環境把握:小前提としての所属企業の実体・現実の調査と把握

法的リスク管理を行うに際し、法務担当者としては、まず、企業全体の法務リスク環境を把握しておかなければなりませんが、法律上の課題は、
「一定の事実関係に法を適用し、所定の法的効果を導き出す」
というロジックにより発見されます。

このような課題発生の構造上、企業の法的リスクの発見には、まず、前提たる事実関係、すなわち、現状の企業の事業内容等の企業活動実態の把握が必須の前提となります。

すなわち、法務担当者としては、企業活動に関連する法令に精通することは当然ですが、それ以上に、所属する企業の事業内容等の企業活動実態の把握が必須の前提です。

企業活動の広がりは企業規模に比例し、大企業になればなるほど、トップマネジメントですら全容を把握できないほど広汎にわたります。

すなわち、大企業になればなるほど、企業活動の広がりは広汎になります。

また、タイムリーな企業法務支援のため、現在の企業活動のみならず、今後進出展開していく企業構想の調査把握も必要となります。

また、現在の企業活動のみならず、今後進出・展開していく事業構想も整理しておかなければタイムリーな企業法務支援が困難になります。

経営企画室長室等企画部門の中枢と連携し、効率的な情報収集を図るべきです。

また、あまりにも状況が複雑で手に余る場合、監査法人・会計士や経営コンサルタント、弁護士とチームを組成し、法務部としても、
「法適用の小前提」
としての
「企業活動の全容把握」
に努めるべきです 。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00697_文書管理の基本その5:英文文書管理

企業によっては、英文を取り扱うところもありますが、一般に英文契約等は、そのままの状態で管理される場合が多いです。  

無論、担当者が英語に堪能であれば特段問題はありません。

しかし、後任者や上司・担当役員等の英語読解力に難があったりすると、契約問題が発生した場合など、社内でのスピーディーなコミュニケーションや対策検討のための議論の早期着手に困難を来します。  

そういう場合を想定し、英文契約等重要な英文文書については、必ず対訳を付し、管理しておくことが推奨されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00696_文書管理の基本その4:文書の保存期間や保存方法

文書の保存期間は利用可能性を完全に喪失した時期を基準にすべきです。

一般に税務上の時効を基準として文書保存期間を定める企業が多いようですが、契約書や領収書等について、税務時効に基づき形式的に保存期間を定めるのではなく、後日の法的紛争も視野に入れて保存期間を定めるべきです。

商事時効を念頭にするなら5年ですが、民事時効や不法行為責任まで視野に入れるならさらに長くなります(例えば不法行為の消滅時効の最も長い期間は不法行為時から20年にも及びます) 。

したがって、処分証書や重要な報告証書は、税務上の時効に基づき形式的に保存期間を定めるのではなく、後日の法的紛争も視野に入れてしかるべき期間まで保存しておくべきです。

なお、原本保存が理想ですが、こちらは物理的なスペースを費消するので、
原本管理とデータ管理を概念区分し、
新しい文書管理ツールを活用することで、
永年保存が可能となります。

すなわち、
スキャニングをして、セキュアなクラウドで管理すれば、物理的スペースを費消することなく、文書に格納された内容を電子情報としてであれば半永久的に保管することができます。

なお、ICT技術の進化により、文書の管理技術の基本的思想も変化が起きつつあります。

すなわち、
「分類して整理せよ」
から
「分類や整理に時間を使うな。蓄積して検索せよ」
へと変質しました。

これに、スキャニングのスピードやOCRの精度や検索ソフトの向上の技術進化が重なり、文書管理は圧倒的に効率的かつ低コストで大量のデータを容易に管理できるようになっています。

なお、クラウドによる文書管理は、BCPに基づく分散管理を同時に実現できるので、災害や物理的障害にも耐性を発揮することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00695_文書管理の基本その3:処分証書(契約書)とともに、厳重な保管管理が必要な文書

処分証書(契約書)は、その強力な証拠としてのパワーから、厳重な保管が必要ですが、その他、法定文書や、有価証券(処分証書の一種ですが)や証書等で紛失すると権利行使が困難になるものは、現金と同等の保管管理が必要です。

具体的には、
有価証券については、株券や手形や小切手など、
証書については、会員権証書や保険証書や機器保証書など、
行政文書(許可証、免許証等)や司法関連文書(判決、決定、公正証書等)、
会社法関係では、定款、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿、会計帳簿等
です。

ちなみに、株式公開を目指そうとしたところ、定款が紛失していた、株主名簿が不明、株券が誰に渡ったかわからない、といったずさんな管理実体のため、大きな障害に直面する場合があります(無論、リカバリーする方法がないわけではありませんが)。

いずれにせよ、重要な文書は、紛失等しないよう、体系と秩序を構築・維持し、しっかり管理する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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