00584_企業法務ケーススタディ(No.0194):個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズの ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!をご覧ください。

相談者プロフィール:
(株)寸銅講(ずんどうこう)教育出版 代表取締役社長 永川 きよし(えがわ きよし、36歳)

相談概要: 
相談者の会社では、ユーザー情報を派遣従業員に盗み取られ、売り飛ばされてしまいました。
社内の役員は、
「直接謝罪したほうがいい」
「誠意を見せるべき 」
といいます。
個人情報漏洩の場合の賠償額の相場というものはあるのでしょうか。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 個人情報保護法とは
個人情報保護法が制定施行され、個人情報保護の問題は、単なるマナー、エチケットといった努力指針ではなく、適切な保護を懈怠した場合、法律問題とされるようになっています。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【個人情報保護法】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 個人情報保護法違反事件における侵害論と損害論
個人情報保護法に違反した事件が生じた場合の被告側(企業側)としては、侵害論と損害論を検討することになります。
個人情報保護に関する侵害行為があったとしても、それによって具体的にどのような損害が発生し、当該損害が金銭評価としていくらになるか、というのは別問題であり、裁判所の判断を待たないと明確にはなりません。
(社会的、道義的な話はさておき)法的に賠償義務を負担しない状況において、自発的に損害賠償義務を認めるのは、道徳的・倫理的には立派でも、戦略的・功利的には愚かな行動といえなくもありません。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【侵害論と損害論】をご覧ください。

モデル助言
漏洩された被害者から賠償請求されたわけでもありませんので、この段階では、法律上、賠償義務は観念し得ません。
個人情報が漏洩した場合の賠償問題について法的に確定したルールがない以上、
「リーガルマター」
ではなく
「ビジネスマター」
として対応すべきであると考えます。
損害賠償請求を受ける前に、例えば、受講割引券を配布するなり、通常であれば有償のテキストや特別講義のDVDを無償で配るなどして、
「顧客の怒りを静めつつ、これによって新たなビジネスを開拓する」
意気込みをもって対応し、ちゃっかりビジネスチャンスを創出するのもアリだと思いますよ。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【今回の経営者・永川(えがわ)社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00583_控訴審における訴訟弁護活動のポイント

みなさんは、小さいころ、社会科で
「日本は三審制であり、1つの事件を、地方裁判所、高等裁判所、そして最高裁判所の3つの裁判所で慎重に判断してくれます」
ということを習ったかもしれませんが、これは民事・商事実務では事態を正確にあらわした表現とはいえません。

現在の民事・商事実務においては、最高裁で審理されることはほとんどなく、高等裁判所が事実上の最終審となります。

じゃあ、事実上の最終審である高等裁判所で地方裁判所での一審同様、いろいろ話を聞いてくれるか、という点についても、これもNOです。

一審での判決が極端にひどいものであった場合等を除き、高等裁判所で一審の判断がひっくり返ることはまずありません。

ですが、高等裁判所においては、ほとんどといっていいくらい、和解を勧めてくれますし、高等裁判所における和解は非常に重みがあり、かなりの割合で高裁における和解はまとまるのです。

高等裁判所の裁判官は、いうまでもなく地裁の判事よりも権威がありかつプライドも高く、また、彼ら・彼女たちが勧める和解内容は一審の審理や判決を前提としている点で合理的な提案が多いといえます。

その意味で、高裁判事から勧められた和解を、当事者が不合理な理由で拒否すると、いたく彼ら・彼女たちの権威やプライドを傷つける結果となります。

特に、
「いろいろ主張に問題はあるが、どっちかというとこっちに証拠があるから負けさせるのもどうかと思うので、とりあえず勝たせてあげる」
みたいな判決内容で一審勝訴した当事者が、勝った余勢をバックに、
「和解? うるせーバカ。早く控訴棄却判決(原審維持判決)出せ、このタコ」
みたいな態度で不合理に提案を拒否すると、逆転判決を食らうことも結構な割合であったりします。

すなわち、我々民事・商事実務弁護士の間では、
「高裁の和解提案は意味なく蹴るな」
という暗黙のルールがあり、そういう点で、高裁での和解提案拒否は勝った方も負けた方もリスクがあるため、高裁で和解が成立する可能性は地裁に比して格段に高いといえるのです。

逆にいえば、一審での和解交渉に失敗し、敗訴判決を食らっても、めげずに高裁に控訴し、高裁判事に再度言い分を切々と訴えると共に、少しでも有利な和解を勧めてもらえるよう粘ることで、何らかの状況改善を図れるチャンスがある、ということもいえるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00582_敗訴の予測と敗訴対策

軍事上の天才ナポレオンがロシアで失敗したように、海道一の弓取りと言われた徳川家康が三方原で敗北したように、どんな訴訟においても敗訴という事態が存在します。

ただ、敗訴といっても、剣道や柔道のように勝敗が一瞬にして決まるわけではありません。

これまで述べてきたとおり、裁判は、双方の言い分を整理し、双方の言い分の裏付けを確認し、関係者に対して直接質疑し、和解の条件を出させ、譲歩をし、また和解の条件を出させ、さらに譲歩をさせ・・・という重畳かつ緩慢な過程を経て進んでいきます。

結審前後になっても、裁判所は、なお
「被告ももうちょっとお金出せるでしょ。お金出せないっていうんだったら、敗訴させますよ。
本当にいいんですか? 知りませんよ。本当に本当にこれが最後なんですよ。ちゃんと空気読めてますか」
みたいな形で和解を勧め、それでもダメと見極めた上で、判決を下します。

その意味では
「準備ができずパニックになる」
というようなものではありません。

ですが、やはり、不利な結論を見越してある程度の備えはしておくべきだと思います。

まず、敗戦対策のもっとも重要なポイントは、負けた側にどのような不利が発生するか正確に認識することです。

民事の場合、判決に基づいて、収監されたり、首を吊るされたりするわけではなく、判決といっても
「債務者の財産に対して強制執行をしても差し支えない」
ということを宣言した紙切れが裁判所から送られてくるに過ぎません。

強制執行というと
「身ぐるみ剥がれる」
みたいな非常に陰惨なイメージがありますが、実際は、それほど厳しいものではありません。

無論、高価な財産があれば差し押さえられオークションされますが、生活に必要な家財(テレビや冷蔵庫も)まで差し押さえられることはありません(「着ている服以外の服は全部差し押さえられるから、執行官がやってきたら、とりあえず十二単のように服という服を全部着ろ」なんてのは迷信です)。

無論、理論上、債権者からの申立により強制破産される可能性はあります。

ですが、強制破産には、債権者側において相当額の予納金を用意する必要があり、どこかのマンション分譲業者のように資産隠しをしてそうな相手にはそれなりの意味はありそうですが、本当にお金がない人に対しては、まったく意味がありません。

予納金(葬儀費用に相当)を負担してまで
「経済人としてのお葬式」
をあげようなどという債権者は、債務者にとって実に奇特な存在に映るはずです。

ただ、資産家や企業経営者が訴えられたような場合、所有資産や、会社のオーナーとして相当数の株式を保有しており、これが差し押さえられる可能性がありますので、上記のようにタカをくくるというわけにはいきません。

そして、こういう場合は、やはり控訴せざるを得ません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00581_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(4) 清算条項

裁判内外の和解において、
「原告及び被告は、本和解契約に定める外、当事者間に何らの債権債務関係が存在しないことを、相互に確認する」
などという条項を入れることがよくあります(債権債務関係の清算を行うことから「清算条項」などといいます)。

ここで注意が必要なのは、
「原告及び被告は、『本件に関し、』本和解契約に定める外、当事者間に何らの債権債務関係が存在しないことを、相互に確認する」
タイプの条項と、
「原告及び被告は、本和解契約に定める外、当事者間に何らの債権債務関係が存在しないことを、相互に確認する」
タイプの条項
の2つがあるということです。

なんだ、
「2つともたいして変わんないじゃん」
なんて声が聞こえてきそうですが、
「本件に関し、」
があるのとないのとで、実は大きく異なるのです。

前者(「本件に関し、」がついている方)だと、本件以外の問題について従前の事実関係に基づき債権者(被害者・原告)が被告(加害者・債務者)に対して請求すべき事案が生じた場合、原告債権者が、再度、被告に対して訴訟を提起する余地を残すことになりますが、これは被告にとって脅威となります。

後者(「本件に関し、」がついていない方。「包括清算条項」などということもあります)だと、
「本件も含め、和解時点において被告と原告との間には、一切、請求したり・されたりの関係がないこと」
を確認することになりますので、たとえ従前の事実関係に基づき原告が被告に対して請求すべきようなネタを発見した場合でも、原告は被告に対して訴訟を提起できなくなります。

例えば、二当事者間に根深い対立があり、こっちの土地の問題、あっちの土地の問題、こっちの建物の問題、あっちの建物の問題、遺産分割の問題、損害賠償の問題等々雑多な事件が複数存在する場合、包括清算条項にするかしないかでは、大きな差異を生じることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00580_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(3) 守秘義務

今後同種の訴訟が生じないタイプの事件であれば格別、引き続き、同種事件の同種被害者から訴えが生じ得るケースについては、 守秘義務契約を和解契約に盛り込んでおくことも考える必要があるでしょう。

すなわち、
「特定の債権者との訴訟において、名目はともあれ、加害者・被告が債権者・原告に結構な額のカネを支払った」
という事実が他の被害者・債権者(潜在的原告)に知れると、また損害賠償請求訴訟のターゲットになる危険が出てきます。

ですから、今回和解をする債権者との間で、和解に金銭の授受が伴っていることを秘匿してもらう旨の約束をいただくと、和解することが後に活きてきます。

一番良いのは、
「裁判外で守秘義務を含む和解をし、当該和解に基づき、訴訟手続としては債権者が無条件に訴えを放棄した格好にしてもらう」
という形でしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00579_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(2) 和解金の支払名目

和解金の支払名目ですが、今後同種の訴訟が生じないタイプの事件であれば格別、引き続き、同種事件の同種被害者から訴えが生じうるケースについては、法律上の損害賠償義務の存在を前提としない、解決金とかの名目にしておいた方がいいでしょう。

すなわち、大規模な被害原告が生じうる事件の損害賠償義務の相手方は、何も現在原告となっている債権者だけとは限りません。

すなわち、今後、ほかにもうじゃうじゃ損害賠償を求めて提訴してくる連中がいるかもしれません。

そんなときに、加害者・被告が、今回の裁判で、
「自分の非違や相手に金銭に換算し得る具体的損害を被らせたこと」
を認めたとなると、これが前例として、次回の裁判で相手方に援用されるかもしれません。

ですので、 引き続き、同種事件の同種被害者から訴えが生じ得るケースについては、
「お互い大人として、悪いことをしたかどうかは明らかにしないようにして、とりあえずこんな無駄な紛争は止めましょう。そういう大人の解決のためにお金で関係を清算しましょう」
という趣旨のお金のやりとりだけにしておくことには意味があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00578_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(1) 和解金の支払は分割か、一括の場合は値切交渉を

訴訟上の和解が成立する場合、被告側は、和解の内容として一定の金銭の支払に合意させられることになると思います。

ここで、被告側としては、支払う金額自体が極力安くなるよう値切り倒すのは当然として、支払方法もなるべく分割にしてもらうよう交渉すべきです。

一旦分割提案をし、その上で相手方がなお一括支払を求める場合、
「知人から借りて支払いますが、限度があるので、全部は無理」
などといってさらに値切ってみるのも一つの戦術です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00577_「訴訟上の和解」の条件設計テクニック

訴訟上の和解の機運が高まり、和解プロセスが前に進むようであれば、具体的にどのような和解の条件設計を行うか、という点が大きな課題となります。

どのように和解の条件を設計していけばいいのでしょうか?
和解条件を設計する上で、何か決まりはあるのでしょうか?
ということについて説明してまいります。

そもそも和解とは何か、というと、これは一種の契約です。

そして、契約には
「契約自由の原則」
が働きます。

「契約自由の原則」
とは、契約の内容として、どのような権利や義務を盛り込むかはまったく当事者の自由であり、権利や義務の内容がきちんと特定してあるにもかかわらずこれが守られない場合、裁判所という国家権力がその実現を助けるというルールです(麻薬の売買や殺人の依頼契約や賭博に関わる合意や愛人契約・奴隷契約の類は公序良俗に反するという理由で無効になりますが)。

すなわち、和解が契約である以上、その内容は、当事者間の自由、交渉によって決まったらその内容は何だっていい、ということです。

このように、和解内容を勝手に設計するのは自由です。

しかしながら、契約である以上相手の承諾が必要ですので、相手方がNOといえば和解契約としては成立しません。

また、訴訟の行く末や場の空気を読めず、あまり不当な条件に固執していると裁判所の不興を被り、和解交渉を打ち切られ、そのまま判決に移行されてしまいます。

したがって、
「『裁判所の共感を呼び、相手方が同意してくれる』という範囲において、いかに自分にとって有利な和解条件を設計するか」
が和解の具体的条件を作る上でのポイントになります。

ここで、被告代理人弁護士(訴訟の被告となってカネを支払わされる側)の立場を例に取りますと、和解条件設計の上では

1 和解金の支払は分割か、一括の場合は値切交渉を
2 和解金の支払名目
3 守秘義務
4 清算条項

といったポイントに注意すべき、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00576_「訴訟上の和解」交渉における「最重要プレーヤー」たる裁判所を味方につけるテクニック

和解とは最後は当事者双方が納得しなければならないものなのですから、裁判所は勧告したり助言したりするだけの立場に過ぎません。

ですが、裁判外の和解と異なり、訴訟手続の和解となると裁判所は極めて重要な役割を果たしますので、相手方を説得する以上に裁判所を味方につけて裁判所を通じて交渉を動かしていくことが重要になってきます。

すなわち、和解は原被告当事者だけの問題ではなく、裁判所も
「和解か判決か」
という事件の帰趨に大きな利害と関心をもっており、このため、裁判所は和解の運営には大きな役割を果たします(平たくいえば、かなり強くお節介を焼いてくれます)。

そもそも裁判官は、民間企業の営業達成ノルマなどと同じように、
「多数の手持ち事件の迅速で適切な解決」
というノルマを上から課され、当事者以上に重圧を抱えています。

ここで
「解決」
と書いたのは意味があります。

すなわち、裁判所にとって、和解であろうが判決であろうが
「事件の解決」
となり、こなした仕事としてカウントされるようなのです。

そうした状況にあって、
「和解をしてくれたら判決を書く手間が省ける」
という意味で、和解は
「大幅な作業負担から解放される解決形態」
としてどの裁判官からも歓迎されます。

加えて、判断が微妙な事件の判決となると、裁判官も神経を使いますし、自分の判断が上級審でひっくり返されると
「判断を誤って当事者に迷惑をかけた」
という意味で、非常にイヤな気分にさせられますし、出世にも響く可能性もあります。

また、裁判官は和解を勧めるに大きな権力をもっています。

すなわち、
「ここで和解に協力しないと、あんたに不利な判断をしちゃうよ」
という隠然たるパワーを匂わすことができるのです。

この空気を読めないと、有利なはずの事件で逆転で負けることだって起こり得ます。

以上のとおり、和解を有利に進めるためには、相手をどう譲歩させるか以上に、裁判官をどう動かすかという点に注力すべきであり、裁判官の態度如何で解決の有り様が大きく変わる場合があります。

被告側の弁護士としては、
「原告の主張に対する有意なケチ・難癖」
を様々につけて、裁判官に対して
「判決となると微妙な判断になるし、高裁にもってちゃうかもしれないよ」
ということをソフトにアピールしつつ
(裁判官は恫喝を嫌いますので、間違っても機嫌を損ねてはなりません。
「こんなもん、払えるか、ボケ」
「裁判なんてナンボのもんじゃい」
「判決上等じゃい上にもっていったるさかい、やれるもんやったら、やってみんかい」
「公僕風情が納税者に向かってエラそうに何いいさらしとんねん」
みたいな態度は絶対禁物です)、
「私としても和解で解決したいんで、強硬な相手を説得してくださいよ」
と裁判官を味方につけるような形で和解手続を進めることが重要になってきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00575_「訴訟上の和解」の意味と価値

「和解」
というと、何やら弱気で迎合的な印象がぬぐえない言葉ですが、実際には、ほとんどの裁判は
「和解」
で終結します。

主義主張や社会運動、さらには意地や沽券、メンツのために訴訟をやっている特殊な方は別として、経済合理性に基づいて理性的訴訟活動を展開するほとんどの法律家(弁護士のほか、裁判官も、という意味です)は
「和解による解決」
を上策とします。

例えば第1審で勝訴判決を得ても、日本では三審制を取る以上、上級審で逆転敗訴するかもしれませんし、何より、解決が長引くことを好む当事者はいないはずです。

当然のことながら、和解は相互の譲歩が前提となりますが、相手方についても、上級審に移行して追加の弁護士費用がかかったり、時間を要したり、はては逆転敗訴したりする事態は回避したいはずですし、多少の譲歩をしても和解をすることの方がメリットがあるケースがほとんどと思われます。 

そもそも民事裁判なんて正義のためでなく、所詮カネや権利のためにやっているわけですから(離婚訴訟とか「カネや権利のためにやっているわけではない」裁判もありますが)、膨大な時間とエネルギーをかければかけるほど、裁判によって得られるべき成果の正味価値は反比例して逓減していくはずです。 

当事者はいきり立っているかもしれませんが、以上のとおり冷静に考えればどんな事件でも譲歩により早期に解決するメリットがあるはずです。

さらにいえば、高裁・最高裁を経由して訴訟に勝ったとしても相手が判決内容を任意に履行してくれないと強制執行するという別の手続を遂行するため、これまた膨大な時間とエネルギーを解決のために投入しなければなりませんが、和解の場合、たいてい金銭や権利の移譲が相手の任意で行われることを前提ないし条件とされますので、執行(解決内容の実現)の手間ヒマが省けるというメリットもあります。

「判決は、訴訟上の和解交渉の失敗」
なんて言葉があるくらいで、むやみやたらと判決を求めるのは訴訟戦略としては下策です。

昔、ローマがポエニ戦争でカルタゴに勝った後、カルタゴの地を焼き払って塩を撒いたとの故事があるようですが、これ自体はローマの未熟による愚策と思います。

筆者がローマの指導者であれば、勝敗が決した段階で和解して完全な植民地としてカルタゴを残し、巧みな統治手法によってその経済力を我が物にする方法を考えますから。 

勝訴実績を誇示したり後先を考えず好戦的なことを売りにする弁護士さんは業界内に少なからずいらっしゃいますが、頭の弱いお客をひっかけるための営業トークとして言っておられるのであればまだしも、
「どんな事件でも判決獲得が唯一かつ最上のゴールである」
旨本気で信じておられ、これを誇示することが、自分が優秀であることの表明であると考えておられるのであれば、ちょっと知的成熟性や実務的感性に問題があるかもしれません。

いずれにせよ、訴訟の最終解決形態として和解が優れたものである以上、ほとんどの訴訟弁護士は自己に有利な和解に導くことをゴールとして法廷の内外で活動することになりますし、
「狙いどおりの、ありうべき形の和解」
に持ち込める弁護士ほど、腕のいい弁護士ということになります。

最後に、どんなに条件的に不服であっても、一旦和解した以上、事件を高裁や最高裁に本件を持ち込むことはできません。

このように、訴訟上の和解というのは、
「事件を終わらせる」
という意味において確定判決と同じくらい、大きな意味と価値を有します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所