00524_企業法務とテクノロジー

企業法務に、人工知能やRPA(Robotic Process Automation)を導入する、という動きが始まっています。

「法務とテクノロジーの融合がはじまった」
などというニュース等で語られる“祝詞”を聞くと、
「こういう新しい技術を用いると、法務という仕事が革新的に進化するのではないか」
と漠たる期待をもちますし、(印象だけですが)非常に夢のある話のような印象を受けます。

しかし、私は、法務は、まだ、テクノロジーと融合する段階ではなく、したがって、多くの企業は、この種の技術やテクノロジー導入に、慌てて飛びつくのではなく、もう少し状況をみてからで差し支えないと思います。

理由はいくつかあります。

法務の世界は、この種のテクノロジーを利用する前提がまだまだ整っていない状況と思われるからです。

すなわち、
「企業法務」
という業務分野は、業務の内容が整理されておらず、基準も標準もなく、ミエル化・透明化もされず、混乱し、ブラックボックス化している段階です。

こんな原始的で混沌とした業務分野については、どんなに優秀なコンピュータやAIを導入しても、業務革新はまったく前に進みません。

コンピュータであれ、人工知能であれ、これらは、
「一定の整序されたルールや法則を前提として最適な答えを探し出す」
というメカニズムが基本となっています。

しかし、業務自体が曖昧で不明確で多義的で無秩序に混乱している状態では、システムによって合理化しようとしても、システム化する以前の課題で躓いてしまいます。

現在、
「法務」
と呼ばれる企業活動は、システム化以前に、業務要件ないし業務仕様が混乱を極めており、秩序の発見や対象業務の明確化・具体化・記述化という課題の段階で足踏みしている状況です。

「人工知能を使って契約書をどのように作成するか」
という課題以前に、そもそも
「企業活動や取引活動をミエル化・言語化・文書化して記録として記述していく」
という管理活動すら十分に根付いていない企業も多く存在します。

M&Aの法務デューデリジェンスをやってみると現象として明確に理解できますが、売り買いの対象になる程度の実体を有する企業であっても、
「法務文書管理」
という課題すら満足に遂行できておらず、企業活動に関する文書は、整理秩序もなく、混沌としたゴミ屋敷の状態、といった趣を感じるところがほとんどです。

さらにいえば、そもそも
「経営陣や管理担当者において、契約書の意味や、機能的な読解すらできないほど、法務リテラシーが絶望的に欠如している」
という企業も多く、このあたりの知的基盤の改善を先決課題として対処すべきといえます。

また、別の話として、契約書作成という点については、特定の取引状況における完全解が一義的に存在するわけではありません。

意図的に、義務内容をぼかしたり、こちら側に有利になるように不公平で片面的な内容を定めたり、あえて、契約書のボリュームをサイズダウンしたり、さらに、契約書自体を作らない方が契約上有利な場合など、
「バグ」
を選択することが功利上正解となる状況もあります。

「契約書に不合理なバグを注入する」
という芸当は、人工知能にはおそらく無理でしょうし、力関係や状況を踏まえた妥協といった政治的なセンスを人工知能に期待するのも困難でしょう。

もちろん、
「あまりに退屈なルーティンや陳腐に過ぎる単純作業で、およそヒトがやるような仕事とはいえないようなくだらない雑用」
などで、明確に業務仕様が記述できるものは、どんどんAIやRPAを活用するべきだと思います。

例えば、プレシデントやテンプレートを探してきたり、契約書のモレぬけをチェックしたりする、といった、
「時間はかかるが、頭はつかないし、人間がやるにはくだらなすぎる作業」
などにはAIやRPAの導入は向いています(が、そもそも相当高いレベルで仕事をしていないとこの種の恩恵には預かれる状況とは程遠いものと思います)。

いずれにせよ、現在のほとんどの企業の法務は、
「何か先進的で高機能な仕組みやツールを導入して生産性を一挙に改善する段階」
には至っておらず、とりあえず、混沌の極みにある業務内容に秩序を与え、整理し、ミエル化・カタチ化・透明化・言語化・文書化することに着手しはじめるような、極めてプリミティブな段階といえます。

たとえ話を用いますと、日本の多くの企業の法務のレベルは、東大を志望する受験生でいうと、勉強部屋が、漫画やプラモデルやアイドルのポスターやゲームや遊び道具がいっぱい散らかってゴミ屋敷のようになっている状態です。

こんな状態のまま、予備校を選んだり、家庭教師を探したり、参考書を買いに行くことを検討する、という挙に出るのは、物事の順序を完全に間違えています。

予備校だの、家庭教師だの、参考書だのといった話の前に、まずは、混沌の極みとなっている勉強部屋を整理して、勉強する体制を整えることが先決課題です。

無論、
「勉強部屋が、漫画やプラモデルやアイドルのポスターやゲームや遊び道具がいっぱい散らかってゴミ屋敷のようになっている状態」
であっても、予備校に通い、家庭教師に来てもらい、参考書を買って、勉強して東大に合格するような人間もゼロとは言い切れませんが、あまり一般的ではありません。

いずれにせよ、
「法務とテクノロジーの融合」
の前に、
「基準もゴールもロジックもなく、あまりに多義的で、業務の内包も外延もはっきりせず、混沌を極めている法務」
の実体を、
「テクノロジーに融合・親和できる程度の論理性・秩序性」
をもたせるべく、整理・明確化することが先決課題と考えます。

最後になりますが、私も、法務がテクノロジーにより大きく進化する方向性は確信しております。

「混乱や無秩序を内包したまま、跛行的・蛇行的に、時に退嬰したり、立ち止まったりといった、不合理で無駄と空回りの多い、進歩よりも後退や停滞要素の多い、全くはかばかしくない前進」
にならないためにも、
「急がば回れ」
ではありませんが、まずは、業務仕様・業務要件を合理的に固める努力をすべき、と考える次第です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00523_「委ねる」ことのリスク

かなり前になりますが、某国産冷凍食品に有毒性の農薬が混入していた、という問題が発生しました。

問題が発生してから、販売者もメーカーも日本及び某国両政府もマスコミも
「製造からスーパーに出回るまでのどの段階で、どのような形で農薬が混入したのか」
ということを、さまざまな角度から検証することを開始しました。

しかし、私は、農薬の問題は非常に瑣末な問題であり、かりに混入の詳細な経緯が明らかになっても、某国産冷凍食品の買い控え傾向はかなりの期間続くのではないかと思いましたし、実際、問題は相当長期間継続することになりました。

当時、テレビ等で某国の現地における加工ラインの様子が紹介されましたが、現代の日本人の衛生感覚からは、当該加工ラインの衛生状況は明らかに容認の限界を超えていました。

というよりも、そもそも、日本人の口に入るものを、衛生環境や衛生感覚の異なる某国の工場で生産するということに相当な無理があったのではないかとさえ思える状況でした。

この問題の背景には、冷凍食品メーカーが、
「委託」
すなわち
「委ねる」
ことの難しさを深く考えずに、目先のもうけに踊らされて、漫然と某国での生産委託ないし加工委託した、という経営判断ミスがあるように思います。

そもそも、物事には、委託に馴染むものと馴染まないものとがあります。

また、委託に馴染むものであっても、委託するにふさわしい相手先とそうでないところというのがあります。

実際、職業上遭遇する事件には、
「委ねる」
ことにまつわる失敗が原因となった事件が実に多く存在します。

たいていの方が、
「ラクをするため」
「面倒くさいことから解放されたいため」
「もうかりそうだから」
という理由で、ロクな検証もフォローもせず、見ず知らずの人間に、財産や権利や印鑑を委ねてしまい、その結果、委ねられた方が勝手な行動をして、大きなトラブルが発生します。

トラブルが委ねた相手方との間に留まっている間はいいのですが、たいていのケースでは、第三者を巻き込んで取り返しのつかない状態に陥っており、権利も財産も失くすことがほとんどですし、身に覚えのない債務まで負わされるケースすらあります。

このように、そもそも
「委ねる」
ということは大変難しく、チェックやフォローをせずに、ラクして丸投げしようとすると、必ず大きなツケを払わされます。

自動車部品や衣服やスニーカーや工作機械については、工場内の衛生状況や工員の衛生感覚はあまり考慮せず、一定の品質のものが安い工賃で作ることのみを考えて、某国その他の国に加工を委託することは実に合理的であり、市場にとって有益な選択といえます。

しかしながら、食品の生産や加工委託となると、自動車部品や衣服やスニーカーや工作機械と同じに考えるわけにはいきません。

レクサスにちょっとした傷がついていたり、アルマーニやゼニアのスーツにちょっとしたほころびがあっても、安く購入する人が存在し、その限りで市場性を有しますが、
「少し腐って、食べたら腹痛がするかもしれない大トロ」

「ちょっと寄生虫がついたシャトーブリアン」
などというのは、市場性がないどころか、有害な廃棄物にすぎません。

その意味で、食品には、一定の品質、それも衛生状況における絶対的な基準というものが存在しますし、これをクリアしない限り、どんなに廉価に生産・加工できても意味をなしません。

今後、日本向け食品を某国で生産・加工するというトレンドに大きな歯止めがかかることになる、あるいは日本と同様の衛生水準が確保されるようになるまで完璧な(というか強力で高圧的で植民地支配的な)衛生コンプライアンスが整備されるのでしょうが、私個人としては、この問題を教訓として、食品メーカーの経営陣が
「委ねる」
ことの難しさを再認識し、よりよき生産形態を構築していただきたい、と思います。

そして、その1つのあり方として、
「ラクをするため」
「面倒くさいことから解放されたいため」
「もうかりそうだから」
という安直な理由で、安易に海外進出するトレンドに抑制がかかり、多少経済的に後退した条件ないし環境であっても、口に入るものは、国内での生産を維持する方向で考える、という選択を真剣に検討すべきことになれば、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00522_令和の時代になっても、企業不祥事は絶対なくならない

企業法務、なかんずく、コンプライアンスについてのセミナーにおいて、冒頭、私がよく引用する事件があります。

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宗教法人の高野山真言宗(総本山・金剛峯寺、和歌山県高野町)の宗務総長が宗団の資産運用を巡り交代した問題で、外部調査委員会が損失額を当初の約6億9600万円から約17億円に訂正していたことが明らかになった(2013年9月11日の毎日新聞「高野山真言宗」「損失額、大幅に増」「外部調査委)」。その他、2013年4月22日付「朝日新聞」朝刊「高野山真言宗 30億円投資 浄財でリスク商品も 信者に実態伝えず 『粉飾の疑い』混乱」など多数の報道)
=======================
高野山真言宗の八事山興正寺(名古屋市昭和区)の土地を無断で売却し、利益を不正流用したとして総本山の高野山側と前住職(69)が対立している問題で、名古屋地検特捜部は12日、寺事務所など複数の関係先を背任容疑で家宅捜索した(日本経済新聞電子版2017年9月12日20:50配信)
同寺の前住職らが約80億円を不正に流用したとして、現住職側が背任と業務上横領容疑で告訴状を名古屋地検に提出したことが16日、分かった。14日付。関係者によると、前住職は在任中の平成24年、寺の土地約6万6000平方メートルを学校法人に約138億円で売却。現住職側は、前住職がこのうち約25億円を外国法人に、約28億円を東京都内のコンサルタント会社に送金したと主張。いずれの送金先も前住職と関連のある会社だったとしている。前住職の代理人弁護士は取材に「告訴内容を把握しておらず、コメントは控えたい」と話した。高野山真言宗は無断で土地を売却したとして、前住職を26年に罷免しているが、前住職は「罷免は不当」として現在も興正寺にとどまっている。興正寺は名古屋国税局の税務調査を受け、27年3月期までの3年間に約6億5000万円の申告漏れを指摘された(産経WEST2016年9月16日12時57分配信)。
=======================

という事件です。

実に味わいがある、というか、深い、というか、考えさせられる事件です。

「どこの金の亡者の話か?」
と思えば、千日回峰行(空海が教えた密教の修行)を完遂した阿闍梨(仏陀の「完全な人格」にかぎりなく近づいている高僧)もいらっしゃる、立派で、高邁な組織で実際あった事件です。

この話以外にも、宮司姉弟間の殺人で話題になった昨年末の富岡八幡宮事件や、カトリック教会の性的虐待事件など、
「我々、無知蒙昧で、欲まみれで、薄汚れた、迷えるダメ人間」
を導いてくださるはずの、
「難行苦行や修行や日々の祈りによって、欲を克服した、精神の高みに達したはずの聖職者の方々」
も、私のような小心者の想像を絶する、大胆で、えげつないことを、敢行します。

私も
「非日常」
を扱う弁護士という仕事をかれこれ20年超もやっていますから、そこそこヤンチャというか、えげつないというか、大胆な人間を知っていますが、このレベルのワイルドな人間は、弁護士からみても、かなりレアというか、メダリスト級です。

そして、特定の、という限定はつくにせよ、聖職者の方々が敢行された犯罪行為の凶悪さ、大胆さをみるにつけ、なんとも感慨深い気持ちになります。

すなわち、これらの事件やトラブルに接すると、
「どんなに立派な修行を積んでも、人間、決して、欲には勝てない」
という、シンプルだが鮮烈な事実を、我々に改めて再確認させてくれる、ということです。

この話が、何につながるか、といいますと、
「人間が欲に勝てない以上、法やモラルを守れといっても、本能と衝突した場面では、必ず、本能が法やモラルに打ち勝つ」
という社会科学上の絶対真実ともいうべき原理ないし法則につながります。

この文脈から、私が、かねてから唱えております、
「太陽が東から昇ってくることが永遠かつ絶対的であるように、企業不祥事は永遠になくならない」
という趣旨の結論に至ります。

人間は、生きている限り、法を犯さずにはいられません。

これは、歴史上証明された事実です。

「人間は、生きている限り、どうしても法を守れない」

「人間は、生きている限り、どうしても病気や怪我と無縁ではいられない」

こういう厳然たる事実があるからこそ、医者と弁護士という、
「人の不幸を生業とするプロフェッション」
が、古代ローマ以来現在まで営々と存在し、今後も、未来永劫存続するのです。

普段暮らしていると、忘れてしまいがちな、重要な前提があります。

「人間は動物の一種である」
という命題です。

人間は、パソコンでもスマホでもAI(人工知能)でもなく、これらとは一線を画する、
「動物」
の一種です。

そして、
「パソコンでもスマホでもAI(人工知能)でもない、動物」
である人間は、生きて活動する限り、ルールやモラルと本能が衝突したときには、本能を優先します。

なんとなれば、我々は
「動物」
の一種ですから。

もし、本能に反して、ルールやモラルを優先する人間がいるとしたら、もはや、その人は
「動物」
ではなく、機械かロボットか人工知能です。

日々、そんな、清く正しく美しい選択をする人間がいるとすれば、心理学上稀有な事例として、研究対象となり、
「なんで、そんな異常なこと、理解に苦しむことをやらかすんだ?」
と考察と検証が行われます(心理学では、反態度的行動といって、立派な研究テーマを構成しているそうです)。

「人間は、生きている限り、法を犯さずにはいられない」
という命題についてはそうとしても、人の集合体ないし組織である企業や法人はどうでしょうか?

「たとえ、赤字転落しても、正直に赤字決算を発表しようよ」

「どんなに切羽詰まっても、また、どんなに実質的に影響がないということがあっても、杭打ちデータのコピペは良くないからやめとこうよ」

「会社がつぶれても、我々の生活が破壊され、家族一同路頭に迷うことになっても、守るべき法や正義はある。ここは、生活を犠牲にしても、法令に違反したことを反省して、社会や外部からいろいろといわれる前に、非を認めて、責任をとって、会社を早急につぶそうよ」

企業に集う人間たちが、そんなご立派なキレイゴトを、意識高く話し合い、高潔に、自分の立場や生活や財産を投げ打って、家族を犠牲にしてでも、法を尊重していくのでしょうか?

ちがいますね。

まったく逆ですね。

人が群れると、

「互いに牽制しあって、モラルを高め合い、法を尊重する方向で高次な方向性を目指す」
どころか、
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
という方向で、下劣な集団意識の下、理念や志や品性の微塵もない集団行動が展開していきますね。

では、
「企業の目的」、
すなわち、企業を
「人間」
となぞらえた場合の
「本能」
に相当するものは何でしょうか?

それは、
「営利の追求」
です。

弱者救済でも、差別なき社会の実現でも、社会秩序や倫理の発展でも、健全な道徳的価値観の確立でも、世界平和の実現でも、環境問題の解決でも、人類の調和的発展でも、持続可能な社会の創造でもありません。

そんなことは、ビタ1ミリ、会社法に書いてありませんし、株主も、徴税当局も、そんなことを根源的な目的として望んでいるわけではありません。

会社法のどの本をみても、例外なく、株式会社の目的を
「営利の追求」
としています。

こういうことから、
「本能」
レベルの観察でいうと、
「人が集まる組織である企業も、存続する限り、法やルールを犯さずにはいれない」
と断言できるのです。

無論、がんばって、精神力を発揮して、本能を押さえ込み、たとえ、利益やコストや納期を犠牲にしても、法を守り、ルールを守り、(目にみえないし、誰も調べもしないし、バレることもまずあり得ない)品質基準を守る、ということは、“一過性”の話として、実現することはなくはありません。

ですが、“永続的な持続可能性”の問題としては、そんな
「本能」
に反する話、長続きしませんし、長続きさせることは絶対的に不可能です。

下りのエスカレーターを登り続けるのがおよそ困難であるのと同様、やがて、本能が露呈し、構造的な無理は維持することができなくなり、コンプライアンス問題が発生し、構造化・恒常化し、大きくなり、露呈するのが時間の問題となります。

平成最後となった2018年も、たくさんの企業不祥事がありました。

日産、スバル、ヤマハ、KYB、日立化成、三菱日立パワーシステムズなどなど。

「平成の時代に、こんだけ、企業不祥事が出たから、株式投資で言う『悪材料出尽くし』じゃありませんが、令和の時代になったら、企業不祥事など、ビタ1つ出てこない、清廉で、潔白で、すみれの花のような、清々しい企業社会が訪れる・・・」
と皆さん、思われるかもしれませんが、・・・残念でした。

断言します。

令和の時代になっても、その次の時代になっても、次々と、たくさんの、ほんとイヤになるくらい、たっくさんの企業不祥事が起こるでしょう。

絶対です。

完全です。

100%です。

小心者で、度胸がなく、何より間違ったことを言うことが大嫌いな私は、めったに
「絶対」
とか
「断言」
という言葉は使いません。

ですが、この場面では、そんな私でも言い切れます。

繰り返しになりますが、
「令和の時代になっても、その次の時代になっても、次々と、たくさんの、ほんとイヤになるくらい、たっくさんの企業不祥事が起こるでしょう」
と、絶対、必ず、180%の確証を以て断言します。

人は法を守れない、組織も法を守れない。

人が本能に忠実であり、企業も、その本能、すなわち、利益の追求、根源的本質に向かって行動するべくデザインされた組織である以上、本能と法やモラルが衝突する限り、必ず、本能が法やモラルを乗り越えます。

ましてや、すべての情報が暴露され、瞬時に広がるネット社会。

昭和や平成の時代であれば、隠蔽可能であった
「企業内部の恥部」
を隠し通すなどもはや不可能です。

こういう話はさておき、平成の時代も終わりましたので、平成時代のヘマ、しくじりは、とりあえず、リセット・清算し、新しい御世を迎えましょう。

とはいえ、リセット・清算しても、煩悩は決してなくなりません。

御代代わり如きで、煩悩がなくなるのであれば、苦労はしません。

立派で、修行や祈りに人生を捧げた聖職者ですら、想像を絶する凶悪な犯罪やありえないくらい欲深さによるトラブルを起こすわけですから、人間、欲には勝てないし、煩悩は生きている限りなくなりません。

人間が、神でも人工知能ではなく、本能をもち、誤りを無限に犯す存在である限り、
「ミス、エラー、ヘマ、しくじり、ちょんぼ、モレ、ヌケ」
をやらかしまくることを素直に受け入れるほかありません。

私たち凡人ができることは、自分や自分の周りの人間がやらかす
「ミス、エラー、ヘマ、しくじり、ちょんぼ、モレ、ヌケ」
を予知・予測するとともに、常に不安に感じてこれら発生に備え、
「仮に起こってしまったら、早期に発見、特定し、その上で、大事が小事に、小事が無事になるよう、がんばるほかない」
という気持ちで、前に進んでいくだけですね。

私のような、リスク管理や有事対処のプロ(とかっこよくいっていますが、実際は、他人の不幸を生業とする事業者に過ぎません)としては、令和の時代になっても確実に発生するであろう事件の早期解決のためのアイデアを巡らせながら、事件に備えて英気を養うくらいです。

経営者も、私のような
「企業ないし経営者に仕えてリスク管理を実践する弁護士」
も、楽観的にならず、かつ、絶望もすることもなく、夢もなく、恐れもなく、
「人間は欲には勝てないし、ミスやエラーは決してなくならない」
と腹をくくり、不安を感じるセンスを鍛え、1秒でも2秒でも早くリスクを発見・特定し、正しく手を打ち、大事が小事に、小事が無事になるように、企業が危機をうまいこと乗り越えていただくよう、知恵やスキルを向上させていくだけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00521_ベンチャー企業を立ち上げる際、統治秩序構築上、一人株主による独裁・ワンマン体制が推奨される理由

起業する際、友人に出資してもらい、一緒に会社を立ち上げる方や、また、友人を取締役に迎えたり、果ては、共同代表体制を取られる方がいます。

しかし、想定外に儲かった場合でも、想定外に会社が潰れそうになった場合でも、儲けの分配を巡る紛争や、責任のなすりつけあいのトラブルなど、醜い紛争に発展することが結構な割合で発生します。

完全なイコールパートナーであれば格別、事業責任、財政責任を単独のオーナー兼リーダーが担うのであれば、単独株主、単独代表のワンマン体制がもっとも適切です。

その上で、協力者を参加させる場合、社内に常駐して手助けするのであれば雇用契約によって部下として処遇すべきですし、社外あるいは非常勤の立場で協力するならアドバイザリー契約等でお願いすればいいだけです。

これを超えて、基本的意思決定、業務上の意思決定にまで、多人数を巻き込むと、意思決定スピードが遅れますし、また、トラブルが起こったときに、脆弱性を露呈します。

というのは、ベンチャー起業で、まともに取締役会や株主総会を開催しているところはほぼ皆無であり、いざトラブルになると、これまでの会社の意思決定プロセスがいきなり法的に検証され、その結果、今まで一度も取締役会や株主総会を開催したことはなく、違法手続きのオンパレードで、モメる要素満載となり、野党サイドからすると、足を引っ張る材料に事欠かない、という状況に陥るからです。

皆で、ワイワイガヤガヤ楽しくというのも快適ですが、商売という、ゼニカネのかかった真剣勝負であれば、責任者がワンマンでガツガツ進めるのがもっとも適切な運営形態と考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00520_消費者に対する重大事故が発生した場合、経営者としての弁解・謝罪メッセージの設計・構築方法

消費者に対する重大事故が発生した場合、経営者はどのように申し開きをするべきでしょうか。

経営者が考えなければならないのは、消費者の信頼を失わないことと、必要以上に法的責任を負担しないことです。

多くの事故は
「過失」
によって生じます。

法律は、一定の例外を除いて、
「過失」
によって生じた事故についての責任は負担すべきとしていますが、何の過失もないのに、被害が出た以上はすべて責任を負え、などという無過失責任は許していません(過失責任主義)。

そこで
「過失」
とは何か、が問題となるのですが、一般的には、注意義務に違反したことなどと定義されています。

要するに
「被害が予測されるような状況では、それを防止するべき具体的な義務があったはずなのに、それを漫然と懈怠した」
ということを指します。

この
「注意義務」
は、ビジネスの業態や、その時々の管理体制、担当者の能力等の様々な要因によって判断されますが、経営者が
「われわれの責任でした!」
と何の留保もなく言明してしまった場合には、
「経営陣は、危険な状況を理解していたのに何もしなかったから、責任がある、と言っているのだな」
と間違いなく思われてしまいます。

要するに、
「過失があった」
と自白しているのと同じなのです。

過失を自白する対応は、法的責任(=民事法上の損害賠償責任や、会社法上の任務懈怠責任等)に直結するため、最も採ってはならない対応といえるでしょう。

もちろん、
「ウチにはなんの責任もない! 直前に食べた何かがよくなかったに違いない!」
みたいな客観的事実に相違する責任転嫁は、消費者の信頼を喪失することとなりますので、このような対応も採り得ません。

したがって、法的責任を基礎づける
「過失」
の自白にはならないように、でも、消費者に対する説明も一定程度は行っているかにみえるような、玉虫色の表現で釈明せざるを得ないのです。  

もちろん、玉虫色とはいっても、法的責任に程遠いつっけんどんな表現から、一定程度は責任を認めて消費者に受け入れられやすい表現までいろいろありますので、その中から、法律家のアドバイスを受けながら適切な表現を選択すべき、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00519_賃借人が破産に至った場合、賃貸人が破産を理由に解除することは可能か?

賃借人が破産に至った場合、賃貸人は、賃料の支払いが見込めないことから解約を申し込めるでしょうか。

この点、旧民法には、賃借人の破産に基づき解約申入れが可能と読める条文がありましたが、破産法の改正に伴い廃止され、現在では、賃貸借契約については、破産管財人のみしか解除できないといった立て付けとなっています(破産法53条1項)。

ここで、賃貸借契約においては、
「賃貸人は、賃借人が破産したときには賃貸借契約を解除できる」
といった、賃借人が破産したことを解除事由とする内容の特約が定められていることが通常ですので、これと前記破産法の定めとの関係が問題となります。

最高裁1968(昭和43)年11月21日判決は、
「建物の賃借人が・・・破産宣告の申立を受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条の2(註:現在の借地借家法28条)の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから・・・無効である」
と判断しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00518_破産手続の概要

会社が経営破綻や重度の経営不振に陥った際に利用される手続きには、破産手続きだけではなく、会社更生手続きや民事再生手続きなどの裁判所における法的手続きのほか、広い意味での倒産処理手続きとして私的整理や倒産ADRなどの手法もあります。

このうち、破産手続きは、
「破綻会社の息の根を止めて、わずかに残った財産を清算し、債権者みんなで山分けする」
もの(清算型)ですが、既に破綻に陥っており、債権者全員に全額弁済するなどということは期待できず、弁済率は極めて低いのが通常です。

ですので、このような破産手続きで最も重視されるべきは、
「残余財産を公平に分配すること」
になりますから、間に裁判所が入り、第三者である破産管財人に破綻会社の清算業務の一切を任せるとともに、公平な分配等処理がなされているかどうかについて都度チェックを行う、という仕組みが採用されています。

破産管財人は、通常、経験ある弁護士が就任しますが、その権能は個人会社の一人代表のように強大なものであり、また、会社法も民法も適用が排除され、破産法が幅を利かせるという、通常の取引法とは大きく異なる一種の治外法権となっています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00517_食材の誤表示をした場合の法的リスク

景品表示法第4条第1項第1号は、事業者が、商品やサービスに関して、その品質・規格その他の内容について、一般消費者に対し、
1 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
2 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
など、不当な顧客誘引効果があったり、一般消費者の選択を誤らせるような表示を禁止しています。 

この規制は、わざと(故意に)偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、優良誤認と外形的に認められる場合には、同報の規制を受けることになります。

例えば、
「代替品」
などとして、表記と異なる低価格な素材が用いられていた場合に、別の表記をした場合、
「品質」
について虚偽の表記がなされていたと思われます。

「夢のある表示」
とか
「誤表示」
などという主張をするのは勝手ですが、主観は関係ありませんので、法令違反の事態には変わりありません。

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00516_景表法(不当景品類及び不当表示防止法)とは

企業のコンシューマーセールス(消費者向営業、BtoCビジネス)を規制するものとして、消費者を誤認させるような不当な商品表示や射幸心を煽るような過大な景品類の提供に対しては、これらを禁止する目的で定められた景表法(不当景品類及び不当表示防止法)の規制が及んでいます。

顧客誘引にそれほど力を入れなくても十分なブランド力があるような企業等は、これまで景表法など意識すらしなかったと思われます。

しかし、最近では、個人消費が冷え込み、また業界再編の波を受けて企業間競争も活発になり、積極的に顧客誘引を行おうとした結果、大企業でも景表法に抵触してしまう、という事例が出てきています。

そうすると、BtoCビジネスを展開する企業においては、十分なブランド力がある企業においても、コスト削減の波に押されて偽装表示等問題になる事例も増えておりますので、業種・業容を問わず、景表法は適正に把握しておかなければならない、ということができます。

景表法違反の措置としては、各顧客からの民事上の責任が問われうる他、排除措置命令(同法6条)が用意されております。

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00515_株式を担保に取る場合の段取り・ステップ・注意点

株式には経済的な価値がありますので、質入れや譲渡担保の対象となります。

ですので、株式を担保に差し入れることで、金融を得ることができるとされています。

しかしながら、非上場株式においては、株式市場に上場された株式のように評価が客観的に定まっているわけではなく、その株式の価値を算定することは極めて困難ですので、純粋に担保として用いられることはそれほど多いとは思われません。

一方で、M&A等の際には、後に質権を実行して支配権を得ることを想定に入れ、あらかじめ株式に質権を設定しておくなどという手段が用いられることがあります。

これは、株式の
「経済的価値」
というよりも、むしろ支配権につながる
「持分的価値(発言権や、会社を好き勝手仕切る権利に基づくオーナーシップとしての価値)」
に着目して質権設定がなされているということができます。

さて、株式の質入れの話について簡単に説明いたしますと、一般に、
「略式質」

「登録質」
の方法があるとされています。

株券発行会社においては、株券自体を担保設定時に引き渡すことで、質権者に株券の占有を現実に移し、簡易に質権設定が可能となります(略式質)。

一方、登録質は、これに加えて株主名簿に質権者である旨の記載を行うことで、会社に対しても質権者であることを明確に対抗可能とする形式を指します。

質権を含む担保権の実行は原則的に
「法律に定める方法」
によって行わなければなりません。

担保権の実行は、要するに、強制執行を意味していますから、そのような債務者の権利義務に直接影響がある事柄に関しては、裁判所を通じた公平な形での執行がなされなければならない、ということを意味しています。

例えば、抵当権が設定された不動産が競売されるときに、必ず裁判所を通して行われるのはこの趣旨に基づいています。

そこで、質権に関しても、民法349条により、私的に
「質権者に弁済として質物の所有権を取得させ」
ることが禁止されており(流質合意の禁止)、このような裁判所を通じた強制執行手続を経ることが必要とされています。

非上場株式の強制執行について付言しますと、非上場株式の経済的価値を客観的に評価し、それを売却し、当該売却代金をもって債務に充当するという手続きを踏むべきことになりますが、そのいずれも裁判所関与の下で行わなくてはならず、株価の鑑定も含めると、多大な時間と労力と手続費用が必要となります。

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