00309_総会屋の撃退に失敗したことが企業危機に発展した事例:蛇の目ミシン事件

ある仕手集団が88年から90年にかけて蛇の目ミシン工業株式を買い占め、同社の経営陣(当時)に対して高値引き取りを要求し、融資名目で約300億円を脅し取ったり、蛇の目ミシンに子会社の債務保証をさせる等した事件が発生しました。

仕手集団元代表自身は恐喝等の罪で懲役7年の実刑判決が確定しましたが、その後、
「この事件が原因で会社が巨額の負債を抱える等の損害を被った」
などとして、蛇の目ミシン工業の株主が、当時の社長ら旧経営陣5人に対して、同社へ939億円の損害賠償をなすよう求めた株主代表訴訟が提起されました。

東京地裁(1審)も東京高裁(2審)も、金員の要求が生命に関わる暴力的な脅しであった点を重視し、
「やむを得なかった」
として旧経営陣らの責任を否定しました。 

ところが、最高裁判所は
「経営陣には株主の地位を乱用した不当な要求に対し、経営者は法令に従った適切な対応をする義務があった。恐喝行為について警察に届けず、会社が巨額の損失を被るような理不尽な要求に応じた」
旨判示し、取締役の責任を認めました(東京高裁に差戻しされた後、損害賠償額は約583億円で確定)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00308_株主の権利の行使に関する利益供与罪

日本の企業社会では古くからの悪習として、株主総会の進行の補助や妨害を行わないことの見返りとして金品を要求する特定の筋の方々(いわゆる総会屋。法曹業界用語では「特殊株主」などといいます)に対する利益供与が繰り返されておりました。

この悪習は、
「自社の体面を保ち、株主総会をトラブルなく済ませたい」
という経営者側の意向と、
「株主総会のスムーズな進行に協力することを収入源のひとつとしたい」
という特殊株主の意向が見事に合致し、これに
「どうせ、サイフを痛めるのは会社だから」
という経営者の無責任な姿勢が融合して産まれた、世界にあまり誇れない日本の企業文化です。

しかしながら、1981年の商法(現会社法)改正以来、このような利益供与行為は罰則をもって禁止されるようになり、その後さらに処罰範囲が広げられ、現会社法は、特殊株主が企業に対して利益供与を要求した段階で犯罪とする(会社法970条3項)仕組を設けるに至っています。

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00307_残業代不払問題が刑事事件化して、処罰される危険性が生じ得ること

従業員と前述の36協定を締結することなく、従業員を週40時間以上勤務させた場合違法残業になりますし、週40時間を超える勤務時間につき法定の割増賃金(残業代)を支払わない場合、36協定締結の有無に関わらず、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる場合があります。

この場合、割増賃金の支払いを懈怠している人事部長等の担当者のみならず、当該不払いを放置し、必要な措置を講じなかった役員も同罪に問われる可能性があるので注意が必要です。 

実際、2005年2月に、時間外賃金を支払わずに従業員にサービス残業をさせていたことを理由として、家電量販店大手Bカメラ社長ら役員8人らが労働基準法違反(割増賃金不払いなど)容疑で書類送検(刑事事件として立件する方法のひとつ)される、といった事件も起きていますので十分な注意が必要です。

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00306_残業代不払問題が「取締法規としての労働法に基づくコンプライアンス・リスク」を生じる場合

会社と従業員との関係は、労働契約という民事の契約関係で成り立っていますので、残業代不払い等も単に民事上の問題と思われがちです。

しかしながら、労働者の生活を保障する観点から労働基準法により最低限の労働条件を定められており、国が会社と従業員との契約関係に介入し、罰則の制裁を以て、企業側一定の労働基準の順守を強制しています。

一口に労働法といっても民事、行政、刑事といったさまざまな問題があります。

懲戒処分の有効性や解雇理由の有無・解雇権濫用等が純粋な民事上の問題であり、また、労働安全衛生法違反や労災隠しが取締法令順守の問題であることは明白です。

ところが、残業不払いの問題は、残業代支払い義務の存否という一見民事上の問題だけでなく、他方で取締法令遵守の問題もはらむので、やっかいです。

すなわち、労働基準法36条において義務付けられた労働協約を締結することなく法定労働時間を超えて残業させたような場合には同条違反の問題が生じますし、また法的に明らかに発生したと考えられる残業代の支払いを拒否した場合には賃金全額払原則違反(労働基準法24条違反)が生じるなど、残業問題は労働取締法令コンプライアンスも含むのです。

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00305_国際合弁事業をキックオフする際、注意・警戒すべき法的リスク

ビジネスを展開していく上で、新規分野に参入したり、海外進出するような場合が出てきます。

もちろん、会社の新規事業部門が、
「事業環境や会社の経営資源等から考えて、参入してうまくいくかどうか」
「うまくいくとして、どのくらいのタイミングで投資回収できるか」
等について事前検証(フィージビリティスタティ)をした上で、
「イケる」
と判断したら、そのまま新しい分野や外国市場に突入するというシンプルな戦略もアリです。

しかし、新規事業分野については調査では分からない妙な業界慣行やマーケット特有の不文律があったりしますし、海外市場進出の場合、文化や商慣習の違いによる苦戦や、外国企業参入に対する忌避感による猛烈な抵抗に遭遇することもあります。

そこで、事業進出リスクの分散・低減や既進出企業や現地企業との協力を得る目的で、複数の企業の資による新たな会社(合弁企業)を設立し、その会社に経営資源を投入して、新しい事業分野への進出が図られることがあります。

これが、合弁事業あるいはジョイントベンチャーと呼ばれるものです。

以上のような話を聞くと、合弁事業は非常に素晴らしいビジネス手法のように思われがちですが、実際は結構大変で、無残に失敗する例も相当存在します。

そもそも、合弁事業では、複数の企業が、複数の思惑で、ヒトやカネやエネルギーを投入しますが、
「同床異夢」
の状況が生じがちです。

加えて、海外の現地企業との合弁の場合、合弁そのものの難しさの上に、言語や文化、契約慣行等の乖離の克服という課題がのし掛かり、合弁契約締結まで参加企業の思惑の調整と文書化にエラい苦労しますし、契約をしてからも、日々文化的ギャップ克服の苦労が絶えません。 

苦労が実らず、国際合弁事業が失敗した場合、その事後処理はさらに大変で、
「国際結婚破 綻後の離婚紛争」
と同じような、かつ面倒くさい修羅場になることもあります。

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00304_企業活動を妨害する行政指導への対処テクニック

ビジネスを進める上で、行政から必要な許認可を取得するため申請や届出を行う場合があります。

例えば、ある企業が、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(以下、「建設リサイクル法」といいます)21条に基づき、ある県に解体工事業者の登録申請を行ったしましょう。

申請があった場合、県側は、申請書の記載不備の有無等の形式的審査を行い、申請を受理するかしないか、の判断を行わなければなりません。

もし、県が、形式的に不備がないにもかかわらず不受理とした場合、企業側としては、不受理処分取消を求めて行政訴訟を提起することになります。

しかしながら、行政指導と称して、形式的に不備がない申請行為であっても、いろいろ因縁・難癖をつけ申請を受け付けないことがあります。

もちろん、正面切って不受理とするわけではなく、現実の行政手法は、もっと巧妙なやり口で
「登録申請書を持ち帰ったのは、あくまで企業側の自主的判断」
という形にするのです。

これは、後日、
「形式的に不備がないにもかかわらず、屁理屈こねて不受理にしたのは問題だ!」
ということをいわれても、
「申請書の受理を拒否したって?とんでもない。県としては、『県内の業者の皆様といろいろとお話し合いをなさってからお越しになったほうがいいんじゃないですか』と助言しただけで、南野社が勝手に届出書をお持ち帰りになっただけですよ」
との逃げ口上で責任回避できるようにしているわけです。

行政側の
「われわれはあくまで助言しただけ。企業側が助言を聞き入れて勝手に申請書を取りやめた」
との言い種は、行政指導という手法によるものです。

行政指導は、上品に表現すれば
「行政機関が権限の範囲において行政目的を達成すべく市民に行う勧告、助言等であって処分でないもの」
等といわれますが、端的にいえば
「権力を背景に無言の圧力で市民や企業を従わせる」
ものです。

行政指導は、上記ケースのようなものだけでなく、建築行政、金融行政、運輸行政、医療保険行政等、行政の許認可を要する事業活動を展開する際に広く活用されており、中には不当な指導が行われる場合もありますので、注意と警戒と実際に遭遇した場合の対処の心構えと対応戦略が必要です。

対応戦略ですが、上記ケースの場合でいいますと、申請書は、別に県に持参する必要などありません。

県知事宛に書留で送っても申請行為としての効力に影響ありません。

申請書送付と同時に、県知事宛に
「本日、別便で解体工事業者の登録申請を送付したので、受理されたい。申請書自体は、一切の不備が見当たらないので、まさか不受理ということはないと思うが、仮に不受理という不利益取り扱いをされる場合は、行政手続法に基づく所定の処分を行われたい。なお、先般、申請受理に当たって『県内の業者と話し合うこと』を受理の条件として求められたが、当方としてはどのような行政目的達成を企図した指導なのか全く理解できない。貴庁があくまで行政指導を実施される場合、行政手続法35条2項の定めに従い、指導内容を示した文書を交付されたい」
という趣旨の内容証明の送付を検討すべきです。

県の役人も、自分のクビを懸けて不受理処分をしたり、文書で行政指導するだけの根性もなく、権力を背景にちくちくイヤミを言いたいだけですから、ここまでやると、相手も折れて、受理してくれる可能性が出てきます。

このように、行政と事を構える場合、行政手続法をよくスタディーして、効果的に対応する方法を構築するべきです。

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00303_「ファンド協力・支援型MBO」の実体とリスク

MBOとは、マネジメント・バイアウト(Management Buyout)の略です。

英語で表現すると、何だか、物すごく斬新で高尚なことをやっているように思われがちですが、日本で昔からある
「暖簾(のれん)分け」
のようなもので、要するに雇われ社長がオーナーから株を譲ってもらって独立するという話です。

中小零細の非公開企業であれば、簡単に実施できるのですが、上場企業(株式公開企業)の場合、厄介で面倒です。

すなわち、MBOは、社長をはじめとした経営陣が、会社のオーナーである株主から株式を買い受けることにより行われますが、金融商品取引法上、一定割合の株式を買い集めるにはTOBの方法によらなければなりません。

このTOB価格をいくらにするかは重要な問題で、あまり安い価格でTOBをやろうとすると、ライバル会社や抜け目のないファンド筋からカウンターTOBを仕掛けられる可能性があります。

加えて、高値で購入した株主がTOBに応じず、MBO実施後の最終的な追い出し(スクイーズアウト)の場面でグズグズ言い出し、買取価格を巡る訴訟トラブルに発展する場合もあります。

さらに大きな問題は、MBOで株式を買い受ける場合、会社の経営陣に株式を買い受けるだけの財力がなくファンドの力を借りないとMBOができない、ということです。

もちろん、ファンド(実際には、ファンドを組成し、運営を取り仕切る金融機関)は、MBO実施までは、
「経営の自由度が増す」
「上場維持にまつわるさまざまな負担からの解放」
等、経営陣に上場廃止後のバラ色の未来を語ります。

ですが、上場を廃止し、会社の株式の大半をMBOファンドが掌握した瞬間、事情は一変します。

新しくオーナーとなった
「金と数字にシビアな投資家連中」
は、経営陣に対し
「『経営の自由度が増す』といってもあくまで一定の経営成果を出した上での話であり、ファンドの意向を無視して好き勝手できるわけではない」
ということを言い始めるのです。

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00302_アメリカのドラマや映画で有名な懲罰的損害賠償制度は、日本国内の企業もリスクとして捉えるべきか?

懲罰的損害賠償(punitive damages)とは、アメリカやイギリス等のコモンロー体系の国の法制度で、不法行為に基づく損害賠償請求事件において加害者側の非違性が強い場合に、一般予防目的(加害者に懲罰を与えて、将来の同様の行為を抑止する目的)の観点から、実損害の塡補としての賠償(補償的賠償)に上乗せして支払うことを命じられる高額の賠償のことです。

懲罰的損害賠償は、日本企業のアメリカ進出が盛んだった頃、アメリカの法体系の不気味で恐ろい部分を顕著に示す、アメリカの産業社会のダークサイドとして進出企業関係者の間で有名なものでした。

アメリカに進出した企業が、アメリカで提訴され、アメリカの裁判で敗訴して損害賠償債務が確定した場合、無論、判決に基づいて強制執行され、これに基づいてアメリカ国内の被告企業の資産が取り上げられてしまいます。

ところが、被告企業が既にアメリカを引き揚げ同国内に全く資産を持たない場合、原告側としては、日本まで追っかけていき、日本国内の被告企業資産に強制執行しようとしますが、これが実は一筋縄ではいきません。

アメリカで獲得した英文の判決書を、裁判所の執行受付に持ち込んで、
「すぐに強制執行してくれ」
とわめいたところで、何が書いてあるか不明な英語の紙切れを片手に強制執行を求める人間など、裁判所は一切相手する必要はありません。

裁判所は、
「外国判決に基づき日本国内で強制執行したいのであれば、当該判決を承認し、これを執行する旨の判決を日本の裁判所で取ってきてから、出直してこい」
と冷たくあしらうだけです(そりゃそうですね)。

アメリカの判決が日本で無条件に承認・執行されると考えるのは、大間違いです。

裁判も国家主権の行使である以上、日本の裁判所としては、外国の裁判所の判決で気に入らない部分があれば、一切無視できます。

実際、懲罰的賠償責任を含むアメリカの判決の承認・執行の是非が争われた事件(萬世工業事件)で、最高裁は、
「見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しない」
として、
「補償的賠償責任を超える懲罰的損害賠償責任に関しては、日本での強制執行は認めない」
旨判断しています。

国際司法秩序は、全世界的に普遍的に通用する単一法秩序ではなく、各国の縄張りを、それぞれを仕切る暴力団が、それぞれの掟で支配・運営している、そんなモザイク的なものとなっています。

要するに、
「アメリカ組」の「シマ」

「おめえんところは、不義理したヤツから、10倍のペナルティを食らわして構わねえから」
というお墨付きをもらって、
「日本一家」の「シマ」
に行ってカチ込もうとしたら、
「日本一家」の「総長」
から
「てめえ、オレのシマで何勝手なことなことしてやがんだ! オレのシマでは、10倍とか20倍とか、そんな景気のいいペナルティは、掟にねえんだ! 黙ってすっこんでろ!」
と一喝食らった、という構図です。

したがって、マルドメ企業(まるでドメスティックな企業。純国内企業)としては、懲罰的損害賠償は、海外ドラマや映画で楽しく観ていればすむ話で、実際の企業活動に対する法的安全保障のテーマとしては、まず気にしなくていい論点といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00301_価格引き上げ追随行為のカルテル認定リスク

独禁法が禁止しているカルテルは、事業者間の
「協定」
であり、何らかの話し合いが想定されています。

逆に言えば、価格引き上げ追随行為、すなわち、
「話し合いが始まってすぐに逃げ出し、協定自体に参加せず、同業者が実施したカルテルに一方的に便乗する行為」
は問題なさそうにも見えます。

しかしながら、商品価格の協調的価格引上げにつき黙示の意思の連絡による共同行為が存在したか否かが争われた事件で、東京高等裁判所は、
「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をしたような場合には、特段の事情が認められない限り、事業者間に協調的行動をとることを期待し合う関係があり、『意思の連絡』があるものと推認される」
という趣旨の判断を下しています。

上記ケースにおいても、会合に参加しなければ格別、
「会合に参加したものの、その後、逃げ出したが、会合参加企業が行った価格引き上げに便乗した」
というケースは、原則として違法と判断される可能性が高いといえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00300_「企業経営者の誰もが理解に苦しむ『独占禁止法』」を制定趣旨から理解し(させ)、リテラシーを改善するための説明ロジック

「商売をする目的は、稼いで稼いで稼ぎまくって、テッペンとって、マーケットをわがモノとし、やりたい放題できる経済的地位を手に入れるためだ。共産主義国家でもない、自由主義経済体制を採用する日本では、自由に商売をして、自由に稼いで、やりたい放題やっていいはずだ! それなのに、独占しちゃいかん、やりたい放題やっちゃいかん、とはどういうことだ! 独占禁止法は、狂っているぞ。こんな愚劣で下劣な法律は、自由主義経済体制にふさわしくない。独禁法などという、自由主義経済体制とは真逆の、下品で、高圧的で、商売敵視の法律は、共産主義、独裁体制の香りがするから、こんなもの、とっとと失くしちまえ!」
口にこそ出さないものの、ほとんどの企業経営者の、独禁法に対する本音は、このようなものであろう、と推察されます。

こういう状況にあるから、なかなか独禁法違反がなくならないのでしょうし、コンプライアンス責任者としても、有事対応責任者としても、根源的な意識ギャップが埋まらず、苦労するのであろうと思います。

例えば、独占禁止法2条6項は、
「事業者間の共同行為で、相互に当該事業者の事業活動を拘束するものであって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」
を禁止しています。

要するにカルテルや談合はイカンということですが、この
「イカンとされる理由」
がピンとこないため、多くの企業がカルテルや談合に安易に手を染めてしまいますし、違反事例が後を絶たないのです。

さらに言えば、明々白々のカルテルや談合をしたとの理由で摘発されてもなお、
「日本の商売をわかっていない」
「相身互いで、仲良くやる日本の美風を理解してくれ」
と愚にもつかない弁解をしたり、
「これはカルテルではない。業界協調行為だ」
と強弁を試みたりする企業がなくなりません。

経営者に対して、独禁法の制定背景を根本からご理解いただくためには、単に、法律の仕組みを百万回唱えても無益であり、腹落ちするようなリテラシーが必要になります。

私は、このような
「経営者啓蒙」
を行う際、アナロジー(たとえ話)を用いて説明します。

オリンピックの100m競争をイメージしてください。

ある国が何がなんでも確実に金メダルを取りたいという場合、
(A)最終ランナー全員を当該国の国民にしてしまう
(B)最終ランナー同士の話し合いで当該国のランナー がトップでゴールできるよう競争をやめる
(C)当該国のランナーが自分の前を走る選手の足を引っ張ったりつかんだりして転ばせてしまう
ことが考えられます。

こんなことは競技の意味をなくしてしまうので、ダメに決まっていますが、独占禁止法も、同じ理念の下、市場での公正な競争を促すため、
(A)を私的独占とし
(B)をカルテルとし
(C)を不公正取引として
それぞれ禁止しているのです。

自由主義経済体制といっても、これは、別に、商売人がやりたい放題やって、自分たちだけが稼いで稼いで稼ぎまくらせることに意義と価値を置いているわけではありません。

すなわち、自由主義経済体制は、
「能率競争(価格と品質による競争)を活発にさせ、経済発展の原動力にする」
ということに目的があるのであって、
「特定の分野の、特定の事業者が、未来永劫、儲け続ける立場を保障すること」
に意義があるわけではありません。

むしろ、
「そのような独占・寡占状態は、競争の障害となり、あるいは競争の前提を破壊して経済発展の邪魔をするという下劣な行動を産む」
ということが歴史上の事実として証明されており、こういう状態を放置すると、国や社会の発展を損ねる、という理念や哲学が確固たる前提として存在します。

こういう点から、事業者による反競争的な行為を取り締まるべく、独禁法というものが制定され、かなり厳しく取り締まられているのです。

なお、厳しくなったとはいえ、日本の独禁法の法システムや規制実務は、ユルユルの甘々な方で、それこそ、欧米の場合、課徴金(制裁金)の額が0が2つ、3つ違いますし、刑事処罰や、捜査妨害に対する苛烈な処分など、想像をはるかに超えた厳しさと強烈さがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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