00411_下請法(下請代金支払遅延等防止法)の内容と射程範囲

市場において価格と品質を自由に競わせる原理(自由競争原理)は、資本主義経済体制を採用するわが国において、国是ともいうべき重要なドクトリンです。

とはいえ、自由競争も、度が過ぎれば
「一部の強大なプレーヤーが市場を勝手に操り、自由競争の基盤を破壊して、かえって経済の発展を困難にする」
という弊害を招きます。

そこで、法は、
「市場における一部の強大なプレーヤー」
が自由競争の基盤を破壊するような横暴な行為を、取引社会の健全な発展のため、例外的に禁止しています。

このような規制は、独禁法
「不公正取引の禁止」
が有名ですが、独禁法違反で処理をするには時間を要します。

そこで、
「強大な発注者側企業が、下請業者に対して、無理難題・暴虐の限りを尽くし、能率競争に基づく経済の健全な発展を害するような事態が生じる」
と一般的に想定される事例を類型化し、簡易迅速な手続でこのような事態を適正化することを盛り込んだ
「下請代金支払遅延等防止法」(いわゆる「下請法」)
が制定されています。

下請法では、下請業者に対して従前要求されがちであった11種類の不公正取引行為を禁止しており、これに違反すると、公取委から是正勧告がなされ、違反内容等とともに会社名が公表されます。

同法4条1項3号は
「下請代金の減額」
を禁止しており、下請業者にキックバックを支払わせる等の行為も、この
「下請代金の減額」
となるとされていますので、下請法違反となるのが大原則です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00410_「直接雇用した労働者」以外の者が怪我した場合でも企業が責任を負う場合

安全配慮義務は、長らく労働者と直接の雇用主の間にのみ発生する義務であると考えられてきました。

ところが、近年、
「注文者が、単に請負人から仕事の成果を受領する」
だけでなく、
「実質的にみて、注文者が、請負人所属の労働者から、直接労働の提供を受けているのと同視できる」
形式の契約も登場するようになりました。

このような産業社会の動きに対して、裁判例は、労働者保護の観点から、安全配慮義務を負担すべき主体を拡大して解釈しつつあるようです。

実際、東京地裁2008(平成20)年2月23日判決は
「1 注文者が有する設備などを用いて、
2 注文者の指示のもとに労務の提供を行う等、
『注文者』と『請負人の雇用する労働者』との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、信義則上、当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うべきである」
旨判示し、安全配慮義務を負う責任の主体を拡大しています。

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00409_工場や職場でけが人が出た場合に企業が負うべきリスク・責任

雇用契約では、雇用主は、
「賃金さえしっかり支払ってさえいれば、それ以外の義務は特段負う必要はない」
と考えるのが自然かつ素直な理屈といえます。

しかし、世の中には、労働者の生命や身体に危険を及ぼす可能性のある危険が伴う労働があることから、雇用主はこのような危険から労働者の生命や身体を保護すべきである、との考え方が広まっていました。

このような中、自動車整備作業中に車両に轢かれて死亡した自衛隊員の遺族が国に対し損害賠償などを請求した事件において、1975年2月25日、最高裁判所は、
「国は、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解すべきであり、このような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである」
旨判示し、国に対し損害の賠償を命じました。前記最高裁判例以降、雇用主は、
「賃金を支払う義務」
だけではなく、
「契約信義則から派生する付随義務として、労働者の生命及び健康等を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)」
をも尽くさなければならない、という考えが定着しました。

その後、2007年に施行された労働契約法は第5条において
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
と規定し、雇用主の法律上の義務として明示するに至りました。

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00408_ネガティブ・オプション(送りつけ商法)で消費者が商品を使ってしまった場合の契約法上の取扱

消費者が気ままに商品を使ってしまった場合も、契約が成立することはなく、会社は常に代金を求めることができないことになるのかといえば、そうでもありません。

この点、消費者の中には、気に入った製品がたまたま送られてきたと思い、満足して利用する者もいるでしょうし、そこまでいかなくとも、少し怪しいけれど使ってみたらなかなか良くて買ってもいいと考える者もいることでしょう。

そこで、このような事態を想定し、民法526条2項は
「契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する」
と定めています。

ここにいう
「承諾の意思表示と認めるべき事実」
とは、消費者に
「送られてきた商品を認識しながらあえて使用した」
などを指し、要するに、
「普通、そのような事実があるのであれば、商品を購入するつもりがあったのだろう」
と考えられ、契約成立の余地があるということになります。

以上からすると、消費者は、
「勝手に送りつけられたものだから、契約が成立しているわけでもなく支払義務はないが、かといって商品を使用することもできず預かっておく」
という中途半端状態に陥ります。

そこで、特定商取引法59条は、
「14日間預かっておけばその後は処分しても大丈夫」
と、中途半端な状態に期限をもうけ、それ以降は、返品すべき義務がないのはもちろん、使おうが売ろうが自由と定め、消費者を手厚く保護しています。

すなわち、その反面、事業者としては、売買契約が締結できないどころか、商品を失うだけという事態が多く生じることが想定されるわけです。

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00407_ネガティブ・オプション(送りつけ商法)の問題点

一方的に商品を送りつけて消費者に購入をさせることを、
「送りつけ商法」
とか
「ネガティブオプション」
とかいいますが、少し前にはやりました。

ここでは、売買契約が成立しているのかどうかがまずは問題になります。

この点、民法上の契約は
「申し込み&承諾」
という当事者の意思の合致によって成立するのが大原則のため、商品を送りつけた段階で、契約が成立することはありません。

こうはいっても、
「承諾したとみなす」
なんて書いてあるし、
「返品しなかった」
という事実によって
「承諾」
したのと同じといえ、売買契約はやはり成立しているのではないのか? などと考える方がいるかもしれません。

しかしながら、法律上、一方当事者の意思を
「みなす」
なんてことはよほどのこと(通常は法律に具体的に明定されています)がなければあり得ませんから、送りつけられた商品の注意事項を破ったからといって
「承諾」
の意思表示がみなされることはありません。

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00406_うっかりインサイダーを予防する究極テクニック

うっかりインサイダーのようなチョンボを防ぐには、会社内部の重要事実をとっとと公表しておけばいい、ということがいえます。

すなわちインサイダー取引とは未公表の重要事実を知って取引することですから、重要事実を内部にため込まず、タイムリーに開示しておけば
「ズル」
だの
「抜け駆け」
だのといわれることがなくなる、というわけです。

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00405_うっかりインサイダーとは

インサイダー取引というと、
「金儲けに異常に執着する犯罪的人格の所有者が暗い情熱と周到な計画の下に犯罪を実現する」
というイメージがあるかもしれません。

しかしながら、会社において
「重要事実が発生した」
との自覚がないため、連携不足のまま、財務部門がせっせと自社株の購入を行ってしまい、結果、インサイダー取引規制に違反してお叱りを受けるような事例も存在します(うっかりインサイダー取引)。

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00404_インサイダー取引規制の概要と規制理由

金融商品取引法(以下、金商法)は、ある会社の株価の評価に重要な影響を与える重要事実については、その重要事実が金商法に従った方法で公表された後でなければ、その会社の関係者(インサイダー)は、その株式の売買ができないと定めています。

この規制の理由ですが、
「財の効率的な配分の実現にあたっては、市場に参加する者全員が正確な情報を知っている状態が前提となるが、インサイダー取引はこの前提を破壊し、市場の機能不全を招くので、健全な資本市場を守るため、規制が必要だ」
等といわれます。

わかりやすくいうと、
「特定の内部情報を利用した者による抜け駆け的なズルの投資を容認すると、内部情報を持たない一般の投資家は、そんな歪んだマーケットに誰もあほらしくて参加しなくなり、結果、市場が機能しなくなり、みんなが迷惑する」
というわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00403_株式公開買付け(TOB)の規制内容と規制理由

アクティビスト・ファンドによる企業買収劇などで注目を集めることがある株式公開買付けですが、TOBとは、公開買付者が、対象となる企業の株主と証券取引所の外で行う株式の買い付け行為であって、短期間のうちに会社の支配権に影響を及ぼすような量の株式の取得を行う取引をいいます。

公開買付者によって、対象となる株式会社の支配権が移動することから、経営陣やステークホールダーズにとってみれば今後の経営方針に重大な影響を及ぼす行為になります。

また、支配権が移転する結果、公開買付者の事業とのシナジーなどによって対象となる企業の価値が増大することが見込めますので、公開買付者がTOB価格を決めるにあたっては
「コントロールプレミア(通常の企業価値に加えて考慮される経営支配権に対する上乗せ価値)を既存株主に公平に分配するべき」
という考え方が働き、株主にとっては株価の上昇も見込めることになります。

このような観点から、金融商品取引法は、TOB実施に際し、一定の情報を開示するよう義務付けるなどの規制を設け、取引の公正と既存投資家の保護を図ることとしました。

ただし、証券取引所外での株式の買い付け行為のすべてに上記の義務や規制が課せられるというわけではなく、
1 一定数以上の者からの買い付けであって、買い付け後の株式保有割合が5%を超える場合
2 一定数以下の者からの買い付けであっても、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
3 証券取引所内の株式の買い付けであってもToSTNetなど一定の取引を利用し、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
4 3カ月以内の短期間に、合計10%を超える株式を急速に所得する場合で、そのうち5%以上が証券取引所外での取引などであって、且つ買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
に限って、いわゆるTOB規制が発動されることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00402_期間雇用の雇止めを行う際のリスクと回避テクニック

従業員からすれば、契約の種類としては
「期間の定めがある労働契約」
であるとしても、これまでもずっと更新されてきた場合には、
「いちいち更新という手続はあるもののこれからもずっとこの会社で働いていけるのだな」
との期待を抱くことも当然ともいえます。

このようなときに、企業が、人手がいらなくなったとして一方的に有期労働契約の更新を止めてしまうことは、従業員の期待を害する可能性が高く、社会的にも問題になったため、判例上も一定の要件の下で保護されてきました。

この問題は従来
「雇い止め」
と呼ばれ、著名な判例(東芝柳町工場事件)では、有期労働契約を更新し長期間雇用している臨時工の雇い止めについて、期間の定めが一応あったとしても、
「期間満了ごとに契約更新を重ねることは、期間の定めのない契約と実質的に変わりがない」
ため、雇い止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示と同じであり、解雇権濫用法理が類推適用されるとしました。

つまり、雇止めをするときには、通常の労働契約における解雇と同様に、厳しい要件を満たさない限り無効とされる可能性があるというわけです。

もちろん、紹介した判例は、その事案について雇い止めが無効であると個別的に判断されたに過ぎず、すべての有期雇用契約について更新しなければならない義務が企業にあるわけではありません。

つまり、当該有期雇用契約の実情がどのようなものか(仕事の内容・性質、更新の回数や更新手続きが形式的かどうか、雇用期間の長さ、企業内での地位、採用時に契約の特殊性について説明を行っていたかなど)に大きく左右されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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