00390_会社分割を行う際の障害:労働契約の移管

「会社の一方的都合だけで契約関係が電光石火の如く切り替えられる」
というのは会社にとっては実に都合がいいようですが、見ず知らずの承継会社に突如転籍させられてしまった従業員にとっては大事です。

そこで、会社と従業員の利害調整のため
「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」
が定められております。

同法は、従業員を、
1 承継される事業に従事していた従業員
2 それ以外の従業員(承継される事業に従事していなかった従業員)
に分類した上で、会社分割において、
1 の従業員を承継会社に「承継させない」場合と
2 従業員を「承継させる」場合に
それぞれの従業員に
「異議権」
を与えています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00389_事業譲渡の煩雑さを回避することのできる会社分割の妙味・効用

会社分割とは、大きく分けて、会社がその事業の一部を切り離し、新しく設立する会社に事業を承継させる
「新設分割」
と、既存の別会社に事業の一部を承継させる
「吸収分割」
があります。

この制度は、2001年の商法改正の際に導入されたものですが、その後、05年に成立した会社法によってより簡易な手続きで会社分割等ができるように制度整備がなされ、組織再編の一手法として多用されるようになってきています。

会社分割という手法の妙味は、会社の経営に関わる各契約関係を、事業を承継する新しい会社(あるいは、事業を承継する既存の会社。以下、「承継会社」)に一挙に付け替えることができるという点です。

すなわち、事業譲渡のように、取引先との契約や従業員との間の労働契約を締結し直したり、事業用設備・商品在庫・預金等をはじめとする会社資産の譲渡手続きを行ったり、といった面倒なことをせず、スムーズに分社化ができるところが会社分割の旨味といえます。

具体的には、承継会社に承継させたい各契約関係や資産等を、会社分割手続きにおいて作成する新設分割計画書ないし吸収分割契約に記載すれば、原則として、取引相手の個別の同意を要することなく承継先に引き継がれていくことになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00388_金融リテラシーの欠如した企業が余剰資金運用に手を出す場合の重大なリスク

リーマンショックのちょっと前から、本件のように、大学が資産運用に色気を見せ始めるようになりました。

ただその結果といえばお粗末なもので、K澤大学は190億円の損失、K応大学は179億円の損失、I知大学、いえ、もとい、A知大学、N山大学、J智大学も軒並み100億円程度の損失を出していました。

他にも数十億円の単位で損失を出していた大学が多数ありますが、その中でも、K奈川歯科大学では、損失問題から刑事事件にまで発展しました。

同校では、人事権を掌握する理事が、その権力を背景に、実体のない投資先に巨額の投資をし、業務上横領等で逮捕されています。

経営陣が逮捕されるという異常事態から、年間7億円の補助金も打ち切られかねないという状況に陥りました。

K奈川歯科大学では、強大な権力を一手に握る理事を誰も止めることができなかったというガバナンスの欠如を指摘することができます。

また、K澤大学においては、多額の損失が通貨スワップ等のデリバティブ取引により生じましたが、これを運用していたのは一経理課長でした。

取引開始時には、理事長による最終決裁を経ていたものの、その後の取引を、同課長が理事長名義で捺印することにより行い、市況の悪化に伴い追加保証金が要求されたときにも、ひとりで処理を続けていたようです。

このことからは、商品特性に応じた運用ルールが全く定められていなかったことも明白といえます。

これらのガバナンスの問題や、運用ルールの不備は、組織作りの観点からの分析ですが、より重大なことは、担当者を含む学校経営陣に金融知識が全く欠如していることでしょう。

このことは、刑事事件等に発展してはいないものの、多額の損失を生んでいる多くの大学に共通していえることです。

金融リテラシーの欠如した経営人らがなぜ複雑な金融商品に手を出すのかといえば、金融機関に完全に依存した結果であるといわざるを得ません。

金融に明るい人が大学経営陣にいればよいのですが、そのようなことは稀ですし、多額のキャッシュを有する大学は金融機関にとってはおいしいカモ、もとい、お客様として、強烈な営業の対象となりがちです。

知識はないのに営業攻勢をかけられ、かつ、組織としてもやめる仕組みを設けていないとなったら、金融機関の食い物にされることは明らかでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00387_「ホワイトナイトを依頼した際に買ってもらった株が塩漬け状態となった場合」の買受・引取テクニック

敵対的 TOBで乗っ取られそうになっている企業を助太刀すべく、ホワイトナイトとして登場し、第三者割当増資等で株式を引き受けたりする会社がときどき脚光を浴びることがあります。

しかし、ホワイトナイトとして活躍して役目を終えた会社が、その後、
「どのようにして舞台をハケていくのか」
という点についてはあまり語られません。

ホワイトナイトとして助太刀したのはいいが、そのために買い取った大量の株式(しかも買収騒動が終わった後は、もとの地味な会社に戻るため、株価はぐんぐん下がり始める)の処理は、ホワイトナイト側として正直頭を痛めるところです。

市場で大量に売却するとなると、株価の下落にさらに拍車をかけることになりますし、自己株式として引き取るといっても株主全員に対して声をかける必要があり(株主平等原則)、
「ホワイトナイトさんだけ特別扱いしてあげて、会社が株を引き取ってあげる」
というのも会社法上特別決議を要します(会社法160条1項、309条2項2号)。

このように、通常は、特定の株主から自己株式を取得することは非常に難しいのですが、
「会社の合併など、組織再編行為の場合の、反対株主からの自己株式の取得」
については、このような制限がありません。

その理由ですが、
「会社が合併などの組織再編をする必要性の高さと、それに反対する株主の利益を両立させるためにはやむを得ない措置であるから」
等と説明されています。

そこで、このような株式買取請求制度に目を付け、
「ホワイトナイトの手許の塩漬け株を自己株式として引き取る」
という離れ業をやってのけた事例が出てきました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00386_TOBに最後まで反対する株主が残存した場合の対処法

会社法は、例えば取締役を選任する場合や新たに株式を発行する場合など、会社における基本的な事項を決めたり変更したりする場合には、一部の例外を除き、議決権の過半数をもって決することとしています(資本多数決の原則)。

もちろん、反対する株主であっても、一度、多数決が採られた以上、これに従わなければなりません。

しかしながら、
「常にかつ絶対的に多数決原理が優先され、反対株主(少数派株主)は、いついかなるときでもこれに従い続けなければならない」
というルールがまかり通れば、多数派が企業価値を下げるような不合理な多数決に及んだ場合、反対株主にとってあまりにも不当な結果を招来しかねません。

そこで、会社法は、株式の権利内容を変更したり、重要な事業を譲渡する場合など、株主権の変更や会社の重要事項の変更を伴う決議に反対する株主について、会社に対して自己の株式を
「公正な価格」
で買い取ることを請求できる権利を付与する旨の規定を設けています。

そして、このような株式買い取り請求があった場合、会社は反対株主と株式の買い取り価格に関する協議を行うこととなります。

しかしながら、反対株主側とすれば1円でも高く買い取って欲しいし、会社側とすればなるべく安く買い取りたいところであり、実際は、互いの利害が相反し、なかなか協議が進みません。

そこで、会社法は、30日以内に当該協議が整わない場合には、会社または反対株主からも申し立てにより、裁判所は、会社の資産内容、財務状況、収益力、将来の業績見通し、直近の株価などを総合的に考慮し、
「公正な価格」
を決定することとなります。

これまで、設例のような投資ファンド主導による企業買収のケースにおいて、個人株主等の少数株主が、意に反して予想外に安い価格での株式売却を迫られ、泣き寝入りすることが多かったようです。

しかしながら、昨今では、個人株主がインターネットを通じて同じ立場の個人株主を探し出し、被害者の会を結成するなどして、会社側が提示した株式の買い取り価格に集団で反対を表明したり、場合によっては、前記のとおり、裁判所に対し、株価を決定する手続を申し立てたりするケースが出始めており(旧カネボウ株式買い取り価格決定事件、レックス・ホールディングス株式買い取り価格決定事件など) 、今後、このような傾向が顕著になることが予想されています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00385_譲受しようとした債権に譲渡禁止特約がついていた場合の取扱テクニック

債権譲渡禁止特約とは、通常、債権者と債務者との間の契約で、(債務者の承諾なしに)債権を譲渡してもその効力を認めないものとすることをいいます。

具体的には、
「もとの債権者」

「債務者」
との間で
「売掛債権は譲渡できないものとする」
と約束すると、
「もとの債権者」
は第三者に売掛債権を譲渡できなくなります。

その結果、
「債務者」
から承諾のないまま
「もとの債権者」
との間で売掛債権を譲り受ける約束をしても、
「新しい債権者」(債権の譲受人)
は当該売掛債権を取得することができないことになります(譲渡禁止特約の物権的効力)。

なお、取引基本契約書とは、当事者の間で個々に行われる取引に共通して適用される約束事を定めたもので、
「債務者」
が示した取引基本契約の対象に含まれる限り、同社と
「もとの債権者」
との間の個々の取引に適用されることになります。

しかしながら、民法466条1項は
「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない」
として、原則として、債権は自由に譲り渡すことができる旨宣言しています。

これは
「信用流通を高め、金融資本主義を発展させるためにも債権は自由に譲渡されるべき」
というわけです(債権の自由譲渡性)。

そして、譲渡禁止特約の効力を定める同条2項は、その但書において、
「(譲渡禁止特約は)善意の第三者に対抗することができない」
と規定し、譲受人(新しい債権者)が
「譲渡禁止特約の存在」
を知らなかったのであれば譲渡は有効になるとしました。

この点については、かつ
「譲渡禁止特約の存在を知らなかった(善意)としても、知らなかったことに過失があれば、やはり債権譲渡は無効」
という議論もありましたが、通常の過失を超えた重大な過失のない限り、善意の譲受人は当該債権を取得することができるというのが裁判の趨勢です。 

債権の自由譲渡性という原則を重んじ、譲受人の保護を重視しているものといえるでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00384_手付倍返しをすれば、何時でも、契約をキャンセルできるか?

売買契約は、当事者の
「売る」「買う」
という意思の合致によって成立します(民法555条)。

そして、いったん契約が成立すると、当事者は、契約に拘束され、一方的に解約等をすることは原則としてできません。

もちろん、相手方に契約条項の違反等があり、それにより当事者が契約に拘束され続けることが不当だと思われるような場合には、解除や損害賠償といった手段が用意されていることはご存じのとおりですが、あとから考えたら不利だから
「やっぱヤンペ! ノーカン、ノーカン!」
なんてことはできません。

他方、
「オイシイ取引があるが、最終的に契約するかどうかちょっと考えたいので、しばし、ホールドしておきたい」
というときに、ツバを付けておく趣旨で、手付金が交付される場合があります。

この
「手付金」
ですが、よりよい条件での契約を締結できるよう、自由な取引を保護する趣旨で、
「売り主は、受け取った手付金の倍返しをすれば負担なく契約を解約できる(買い主は、差し入れた手付金を放棄すれば負担なく契約を解約できる)」
ことを意味し、
「解約手付」
と呼ばれます。

しかし、このような手付金の交付がなされていた場合、
「わずかなカネで、何カ月であれ、何年であれ、気の向くまま解除が認められる」
というのでは、そんな不安定な関係を強いられる相手方としてはタマったもんじゃありません。

契約から引き渡しまでに一定の時間と手間が必要な取引を考えてみれば、ある程度履行の準備をした後は、
「他との取引のチャンスはもう考えず、相手のためだけに履行を完了しよう」
という信頼関係が構築されます。

いくら手付金のやり取りがなされているからといって、自由に解約が認められるべきとは考えられません。

そこで、民法557条1項は
「買い主が売り主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」
解除できるとしております。

すなわち、この反対解釈から、
「いくら手付が打たれているからといっても、一度、相手方が履行に着手したら、手付を使った解除はできない」
というルールが導かれるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00383_取締役をクビにする場合の具体的手法

会社の従業員を会社の都合で一方的に解雇することは労働契約法をはじめとする法令等により禁じられており、解雇にはそれを正当化するような合理的な理由が必要です。

同様に、いくら
「会社役員」
といっても、取締役だって会社から報酬を支給されているわけですから、合理的な理由もなく一方的に辞めさせること(解任)はできないように思われます。

ですが、実は、従業員と取締役とでは、会社との関係に本質的な違いが存在します。

会社と従業員の関係は雇用関係と呼ばれ、要するに
「強い使用者(会社)と弱い労働者」
というモデルで捉えられます。

そのため、
「弱い立場の労働者」
を守るべく、労働基準法や労働契約法等が従業員を厚く保護するわけです。

これに対し、会社と取締役の関係は、簡単に言ってしまえば
「経営のプロ(取締役)とカネに不自由していない出資者(株主、つまり会社の所有者)」
という対等の地位にある当事者同士が想定されており、雇用ではなく委任に準じた関係であるとされています(会社法330条参照)。

従って、原則として取締役には労働基準法等の適用はなく、
「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」(民法651条1項)
との原則に倣い、会社法339条1項も、取締役について
「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」
と規定しています。

つまり、100%株主は株主総会を開いて、いつでも自由に不愉快な取締役(もちろん、代表取締役を含みます)を解任できるというわけです。

ただし、
「対等な当事者間の契約」
といえども、一方の当事者の気まぐれで無闇に契約を解消されては、やられた側にとってはたまったものではありません。そこで、会社法339条2項は、解任に
「正当な理由」
がない場合には、会社は解任した取締役に対して
「解任によって生じた損害」
を賠償しなければならない旨を規定しました。

これは、株主に解任の自由を保障する一方で、取締役の任期に対する期待を保護し、両者の利益の調和を図ったものです。

したがって、
「解任によって生じた損害」
とは、取締役が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益の額であり、簡単にいえば
「任期満了までの役員報酬」
を意味します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00382_「残業代を減らすための代替休暇」制度の効用

労働基準法の労働時間に関する規定として、
1 1カ月の時間外労働の時間が60時間を超えた場合の割増賃金率を50%以上とすること(ややこしいのですが、「通常の割増賃金」と割増率と取り扱いが異なるので「上乗せ割増賃金」といいます)
2 「上乗せ割増賃金」部分を休暇に振り替える代替休暇制度
3 有給休暇を「時間」で取得する制度
等が定められています。

2の代替休暇制度についてですが、前提として、そもそも、雇用者が、1日8時間、週40時間を超える労働をさせる場合、労働基準法36条に基づいた、いわゆる時間外労働に関する労使協定を締結しなければなりません。

そして、当該時間外労働分については、従来、25%以上の割増賃金を支払うものとされていました(「通常の割増賃金」)。

ところが、労働基準法上、1カ月の時間外労働の合計が60時間を超える場合、雇用者は、当該60時間を超える部分について、50%以上の割増賃金を支払わなければならないこととなりました(「上乗せ割増賃金」)。

整理しますと、1カ月の時間外労働について、
60時間を超えない分は25%以上の割増賃金を、
60時間を超える部分については「さらに」25%以上を「上乗せ」した割増賃金(合計50%以上)を
支払わなければならないこととされました(ただし、一定の資本金額に満たない中小企業には「当分の間」は適用されないこととされております〔労働基準法138条〕が、2023年4月から中小企業にも適用される予定です)。

なお
「上乗せ割増賃金」部分
に関し、支払いに代えて休暇を付与する、という制度が法定されています。

なお、これは、グッタリするほど長時間勤務した労働者に休暇を与え、リフレッシュさせるという労働者のための制度ですので、
「上乗せ」分
を休暇とするかどうかは、労働者の意向を踏まえることが必要となります。

すなわち、実施する上では、あらかじめ、労使協定をもって
「幾らの割増賃金」

「何日の休暇」
とするかなど、その換算率などを定め、その上で、就業規則に休暇の種類のひとつとして規定しなければなりません。

以上のとおり、残業代の割増率は、60時間を超えたあたりから一挙にハネ上がることになりましたので、繁閑の差が激しい業態の企業では、
「バカ高くなった残業代を、カネの代わりに休暇で払いたい」
というニーズが少なくありません。

もっとも、この代替休暇制度は、あくまで
「上乗せ割増賃金」部分を休暇に代える制度
であり、
「通常の割増賃金」
は、原則どおり、カネで精算しなければなりませんので、この点、十分注意してください。

割増賃金をもらうか、その分を休暇とするかは、あくまで労働者の選択によるものなので、無理強いはできません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00381_「超安売り品をおとりに、客寄せを企図するセールス」のリスク

事業者は自らの販売計画に従って、商品を販売し、これに付随して広告を出すことができることは当然です。

自らの商品をどのように売ったら利益が出るのかを決定する自由がありますから、ある商品については赤字になろうとも、これを誘因として顧客を多く呼び込み、店全体として儲けようという仕組みが非難されることは原則としてありません(もちろん不当廉売等に至る規模での安売りは独占禁止法上規制され得ます)。

しかし景品表示法(以下では「景表法」といいますが、正式には、不当景品類及び不当表示防止法といいます)では、商品の性能や価格を示す
「表示」
に着目して規制がされています。

現代において
「広告」
が有する顧客誘因力の大きさを否定することは誰もできないでしょう。

広告媒体については新聞の折り込みチラシからテレビ、インターネットとさまざまですが、これらに載っている情報は、消費者による商品選択に多大な影響を及ぼします。

そのような広告に、品質や価格等に関する不当な表示などが表示されると、良質廉価なものを選ぼうとする消費者の適正な選択に悪影響を与える一方、そのような広告が許されると、商品力や販売努力など公正な競争を頑張る企業も減少し、結果的に、公正な競争が阻害されることになります。

そこで、独占禁止法の特例法として景表法が制定されました。

このように不当な広告により顧客を誘引することを規制する一態様として、景表法には
「おとり広告」
の禁止が定められています。

正確にいえば、具体的に何が
「おとり広告」
に該当するのかについては、景表法は、同法第4条1項3号によって公正取引委員会の指定に委ねており、これを受けた公正取引委員会が
「おとり広告に関する表示」
を告示しています。

具体的には、同告示第2号の
「取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」
が問題になります。

行政によりこれに該当すると認定されると、定期的に広告の仕方について報告をさせられたり、立ち入り検査が行われたり、さらには差し止め等の措置命令が出される可能性もあり、当該措置命令に違反したときには刑事罰も定められています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所