00179_企業法務ケーススタディ(No.0134):会社私物化のリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社林家ホールディングス 代表取締役会長 林 正蔵(はやし しょうぞう、48歳)

相談内容: 
ウチは、おじいちゃんの代で会社を立ち上げ、そこから、3代目の私で株式公開を果たし、そこそこの規模の企業グループにまで成長しました。
上場つっても、ま、会社の株の大半はウチのファミリーが保有しており、上場基準に抵触しない程度に浮動株がチョロチョロある程度。
ま、いったら、ウチは、文字通り、林ファミリーのオーナー企業みたいなもんです。
で、ですね。
私も調子に乗って、飲食業やら不動産業やらビル建設やら慣れないサイドビジネスに手を出しちゃいまして、これが、あっという間に全部失敗。
先祖伝来の屋敷についた担保が実行される状況に陥りました。
ま、負債といっても、わがファミリーがもっている弊社株の時価総額で十分賄える範囲のもので、カネがないというわけではありません。
そこで、急場をしのぐためにカネが余っている複数の子会社からカネを借り、ギャーギャーとうるさい債権者に返済しました。
そしたら、弊社株をほんのちょっぴり保有している弊社親戚のおじさんが、電話をかけてきて
「株主の1人として、物申す。お前のやってることは何から何まで違法だ! 刑事告訴をしてブタ箱にぶち込んでやる!」
なんてブチ切れてんですよ。
ま、分家筋で妬みやっかみもあるんでしょうが、ほんと言いたい放題でしたよ。
ただの借金に大袈裟なんですよ。
そりゃ今すぐ返せっていわれても、株式市場は今低迷していますから、無理ですよ。
でも、1年ばかし様子をみて、株を売却してきちんと返済するつもりですよ。
まあ、借り方はちょっと強引だったかもしれませんが、
「オーナーが会社からちょいと寸借したくらいで、ブタ箱行き」
なんて物騒な話はないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:役員と会社との融資取引
取締役は、会社に対して善管注意義務を負っています。
これは、
「会社の利益を最大限にするように、取締役として全力を尽くすように」
という、会社と取締役との間の委任契約に根拠を有しています(会社法330条、民法644条)。
また、この義務は、別名、会社に対する
「忠実義務」
ともいわれるものであり、会社の利益を横取りするなどして会社を裏切るようなことは法令違反とされています(会社法355条)。
そして、役員が会社からの借り入れる取引については、
「有利な条件で融資を受けたい取締役の思惑」

「確実な担保を取り、高い利息を設定したい会社の利益」
とが矛盾・衝突する契約(利益相反取引)となります。
このような会社の利益を損ねる危険性のある取引を行うには、当該会社の取締役会等の法定機関で当該取引を承認する決議を経由すべきことが法律上要請されています(会社法356条、365条)。
本件では、
「借り方はちょっと強引だったかもしれません」
ということですから、この種の手続きを経由していない可能性もあり、取引の有効性自体に疑問が残るところです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特別背任罪
オーナー役員が自分がコントロールする企業から融資を受けるという場合、民事上、取引の有効性が否定されることや、役員が損害賠償責任を負うことに加え、刑事罰を受けるリスクまで想定すべきなのでしょうか。
「会社を取り巻く多数の利害関係者を調整する」
という目的を有する会社法は、役員による会社の私物化行為について、民事的な責任に加え、刑事罰による制裁を予定しています。
すなわち、会社の役員が、
「自己もしくは第三者の利益や会社に損害を与える目的」

「その任務に背く行為」
をし、
「会社に財産上の損害を加えた」
とき、特別背任罪として、厳しい処罰される可能性があるのです。
その意味では、
「オーナーが会社からちょいと寸借したくらいで、ブタ箱行き」
という親戚のおじさんの話もあながち誇張ではない、ということがいえます。

モデル助言: 
特別背任罪ですが、犯罪構成要件は、刑法上の背任罪とあまり変わりませんが、会社役員の責任と権限の大きさに鑑み、刑罰を加重しており、10年以下の懲役、1千万円以下の罰金あるいはこれらの併科という重罪とされております。
また、未遂でも処罰されることになっており、想像以上に厳しい内容なっています。
林さんが通常の利息より好条件で融資を受けていた場合、その差額分が
「会社に対する損害」
と認定されるおそれは十分ありますし、想定外の事態が起こって、返済が滞ったり、返済そのものが難しい状況になったら、それこそ大問題です。
とにかく、大問題にならないうちに、金融機関と再度交渉するなりして外部からきちんと調達したお金で会社に対する借入全部を早急に返済しておくべきです。
それでも事態が沈静化しないようであれば、いったん取締役を辞任するなりして責任を取った形にするなどの処置を取っておいたほうがいいかもしれませんね。
100%オーナー会社から脱却し、株式公開したわけですから、公私混同はご法度です。
よく肝に銘じておいてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00178_企業法務ケーススタディ(No.0133):定期賃貸借の罠

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
西塚食品株式会社 代表取締役 西塚 英彦(にしづか ひでひこ、49歳)

相談内容: 
先生、ウチの会社、今度、ファストフード業界に進出するんです。
え? 何? この不況下で外食なんて大丈夫かって?
それは、ご心配なく。
安い、大盛り、メタボ、を合言葉に、大盛りのご飯のどんぶりにカレーとトンカツと牛すきをのっけた
「メガメタボ丼」
ってのを主力にしたファストフード店をチェーン展開していくんですよ。
でも、なかなかいい物件が見つからなくって困っていたんですけど、友人の紹介でM&Aで買った
「メグミの大地」
っていう八百屋チェーンが都内に10店舗の店舗を持っているんで、そのうちの一部の店舗をリニューアルしてオープンすることにしたんです。
その名も
「命知らずのメタボ達!」
もともと、八百屋だったから、キッチンを作ったりして、結構、造作費用がかかったんですけど、まぁ、うまいもののためなら、背に腹は代えられません。
ところで、この前、店を改装する際、店のオーナーに挨拶に行ったら
「この店は定期賃貸借だから、あと1年で期間満了だよ。
ま、これまでメモ書きみたいな覚書でやってたけど、この機会に契約書もちゃんと作っておくから、これにサインしておいて」
なんつって、なんか契約書みたいなの、渡されました。
でも、これって、期間がきたら更新できるんですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:借地借家法における契約期間更新のルール
賃貸借契約とは、当事者の一方が他方に物の使用等をさせ、これに対し相手方は使用等の対価を支払うことを約束する内容の契約です。
民法は、賃貸借契約の
「期間」
について、
「賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。
契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする(604条)」
と定めるのみで、あとは、当事者間で自由に決めてよいという建前をとっております(私的自治の原則)。
ところで、期間が満了する際、それまでと同一条件で、または若干の変更を加えた上で、賃貸借契約を継続させることを
「更新」
といいますが、この点についても民法は、更新が可能かどうかや、その際の条件等については、原則として当事者間の合意に委ねております。
とはいいながら、ふつう、物を貸す側(大家)と借りる側(店子等)とでは、前者の立場が圧倒的に強いわけで、貸す側としてみれば、もっと良い条件で借りてくれる候補者がいれば、借りる側が賃借物の造作等にどんなに費用をかけていたとしても、
「次に入る人が決まっているんで、契約が終了したら、とっとと出ていってくれ。
あん? 更新? そんなの絶対にだめ」
となってしまうことがままあります。
そこで、圧倒的に弱い立場の借りる側を保護すべく、借地借家法は、
「貸す側は、期間満了の6か月前までに、更新を拒絶する意思表示をしなければ、賃貸借契約は同一条件で更新されたとみなす(「みなす」とは、更新の効果を争うことは一切できないという意味です)」
「さらには、借りる側にカネをつんだり、どうしても自分で使わなければならない等、更新拒絶の正当事由の存在を証明しない限り、更新の拒絶はできない」
と定め、両者の力関係の調整を図っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:定期賃貸借
ところが、前記の借地借家法の規定だと、何だかいつまでも更新が繰り返されてしまいそうですし、実際に、裁判例も、借りる側に有利になるよう、
「正当事由の存在」
についてとても厳しく判断しており、これでは、逆に不動産オーナーにとってあまりに不当な結果となりますし、これでは、優良不動産の有効活用ができなくなってしまいます。
そこで、借地借家法において、“例外の例外”ともいうべき
「定期賃貸借」制度
が設けられるようになりました。
これは、賃貸借契約期間を一定期間とする契約で、一定の要件を充足した定期借家契約は、どんな理由があっても更新は許されない、というものなのです。

モデル助言: 
オーナー(賃貸人)との間の契約が
「定期賃貸借」契約
であれば、どんなに高額の費用を投資して店舗を改装していたとしても、期間が満了すれば、契約は終了し更新はできません。
どんなに泣きついたって、
「定期賃貸借」契約
の場合の契約期間は絶対です。
したがって、せっかくオープンした
「命知らずのメタボ達!」
も、有無をいわさず閉店しなければなりませんよ。
もっとも、
「定期賃貸借」契約
は、強行的な内容になっていることとのバランス上、契約の成立が認められるためには、いくつかの条件があります。
ひとつは、
「必ず、契約の内容を書面にすること」
もうひとつは、
「この賃貸借契約は更新できません、といった文書を交付して説明すること」です。
西塚さんの場合、どうやら、契約書も上記の説明文書もないようなので、店のオーナーが勝手に、
「定期賃貸借契約だ!」
といっているだけの可能性が大きいです。
状況次第では、そもそも
「定期賃貸借」契約
は成立せず、更新が認められそうですので、大切なお店も継続できそうですね。
とはいえ、契約の内容が
「定期賃貸借」
か否かは、投資回収期間を考える上で大きな要因になりますので、これを機にきっちりと勉強しておきましょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00177_企業法務ケーススタディ(No.0132):粉飾決算の罪と罰

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ビッグ・システム株式会社 代表取締役社長 中山 栄太(なかやま えいた、28歳)

相談内容: 
ウチは、5年前、新興市場に上場を果たしましたが、実は、ココだけのハナシ、今期、本当は数億円規模の赤字だったんです。
メーンバンクからは、
「黒字であり続けないと、新規融資はストップです。
既存の融資についても厳しい対応をしなければなりません」
っていわれてましてね。
これじゃ、今進めている一攫千金のプロジェクトがおじゃんになってしまうんです。
これが軌道に乗ったら、銀行だけでなく株主の皆さんにもジャンジャン還元してあげられるんですよ。
それで、IT企業仲間の末田隆平ってダチと助け合って循環取引をやったりしてイロを付けて、ちょっとだけ黒字になるようにしちゃいました。
そしたら、
「不況の中、着実に黒字を上げる優良企業」
ってゆう評価をもらっちゃって、融資も安泰。
新規の資本調達までうまくいきました。
それで喜んだのも束の間・・・一昨日、末田から電話があって、
「証券取引等監視委員会に、オマエとの循環取引のことを聞かれて、ゲロっちゃった」
って、いうんです。
さっき、僕にも証券取引等監視委員会から電話があって、
「末田さんの件でお話をうかがいたい」
って、いうんですよ。
まあ、ぶっちゃけ覚悟はしてますよ。
といっても、いってみりゃ、私が個人のカネを突っ込んで利益付けてやってもよかった程度の額で、たいしたことのない話ですよ。
ま、謝ったら済んじゃいますよね。
で、先生、どうやって謝ったらいいっすか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:金融商品取引法の目的
数十年前までは、我が国の産業金融は、銀行の提供する間接金融が中心でした。
資本市場は
「一攫千金を夢見る相場師たちの鉄火場」
としてみられており、証券会社の地位や役割が低かったこともあり、直接金融、すなわち資本市場を通じた企業の金融システムはあまり重要視されていませんでした。
しかしながら、現代の資本市場は、
「限りある金融資源を効率的に配分するための重要な社会インフラ」
に様変わりしています。
このような観点から、証券取引法、さらにこれを引き継いだ金融商品取引法(以下、金商法)において、法規制は年々強化され、社会インフラにふさわしい厳しい運用がされるようになっています。
金商法の規制の大きな柱のひとつが、資本市場(株式・社債市場等)への正しい情報提供であり、
「資本市場を用いて金融を行う企業の価値が、必要十分な正しい情報に基づいて評価される環境」
をつくるため、さまざまな規制や罰則が設けられています。
金商法は、上場企業、すなわち
「資本市場という社会インフラを利用して多数の投資家らから資金を調達する株式会社」
に対しては、有価証券報告書等の継続開示書類の提出を義務付けるとともに、その内容の正確性を担保するために、不実の記載に関する民事上の責任(投資家が蒙った損害に対する賠償責任)・行政上の責任(課徴金)のみならず、重要な事項につき虚偽の記載をした者については、
「10年以下の懲役、1千万円以下の罰金、またはこれらの両方」
の刑事罰を定めています(同法197条1項1号)。
「法定刑の上限が懲役10年」
というと、窃盗や詐欺と同等ということですから、犯罪の相場としては、相当重い部類に入ります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:金商法違反に対する刑罰の状況
金商法違反となる粉飾決算に対する刑事罰については、非常に厳しい運用がなされており、報道を見ても、
「執行猶予が付かず、実刑となり、そのまま刑務所に収監されることになった事案」
が複数確認されます。
2011年4月には、粉飾決算したライブドア社の元社長に対する懲役2年6月の実刑判決が確定していますし、11年9月、循環取引によって売上高や経常利益を水増しして虚偽の有価証券報告書を提出したシステム開発会社の元会長に対する横浜地裁の裁判でも、懲役3年の実刑判決が下されています。
上場企業の経営者の中には
「ちょっとウソついたくらいだから、大目にみてくれよ」
などという考えをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、
「資本市場の金融インフラとしての重要性に鑑みれば、投資家の判断を損ね、市場への信頼を傷つけるような不心得者に対しては、厳しい処罰をもって臨む」
というのが今や常識になっていますので、注意が必要です。

モデル助言: 
上場企業として情報開示する局面においては、
「ウソも方便」
などという諺は忘れてください。
要するに、司法当局、行政当局は、
「資本市場は、上水道や道路や鉄道と同じく、社会運営上、必須の公共インフラである」
ととらえており、
「“資本市場において上場企業が粉飾決算や虚偽の報告を行うこと”は、“上水道に毒を流す行為”や“道路を破壊する行為”や“線路に置き石する行為”と同じ、一種のテロ行為であり、厳罰を以て臨むべきである」
という考え方を有しています。
事態を甘く見ていると、本当にムショ暮らしをする羽目になりますよ。
とにかく、決算修正と速やかな開示を行い、
「第三者委員会を立ち上げて、その調査報告書を受けて、中山さんが引責辞任する」
くらいのシナリオを描いて、うまく事態を収拾することを考えるべきでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00176_企業法務ケーススタディ(No.0131):暴対法の中止命令を活用せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
八ッ津毛(ヤッツケ)建設株式会社 専務取締役 正狩 雅雄(まさかり まさお、59歳)

相談内容: 
いやぁ~、先生、まったくもって参ってしまいましたよ。
この前、中学校の時の同窓会に参加した時、あまり親しくなかった梅宮っていう奴と
「オレも土建屋だ。
仲良くしようぜ」
って話になって、2次会から意気投合しました。
その後も、すっかり仲良くなり、私の知らないいろんなところに連れて行ってもらって、あれやこれやですっかり世話になってしまいました。
そしたら、この間、いきなり、
「マサちゃんとこの会社、今度、市から橋梁修復工事を請け負ったみたいじゃない。
ウチの下請連中を使ってくれねえかい」
なんて持ち掛けられたんですよ。
「下請業者はもう全部決まっちゃってるし、そのあたりの差配は全部親父がやっているから、ちょっと無理なんだよ」
っていってやんわりとお断りしたら、梅宮の奴、いきなり態度を変えて
「あれだけ世話させといて、そりゃないだろ。
そこを曲げて何とかしろ!」
と怒鳴り始めたんです。
そして、
「極道組」
って書かれた名刺を差し出しながら、
「いやね、実は、オレ、ここの組のまあ、準会員みたいなもんなわけさ。
てゆうか、組からもいろいろ世話受けててさ。
マサちゃんのところも、円満に商売やりてえだろ。
ちょっと協力してくれよ」
って絡みつくように話し掛け、それでも断ると、
「ウチの組織分かっとんのか!」
といってすごむんですよ。
それで、
「何とかしてみるよ」
といってその場は取り繕って帰ってきたんですけど。
「極道組」
はここらでも有名な暴力団で、要求を無視した時の報復も怖いし、先生、どうしたらいいですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:反社会的勢力への基本対応
暴力団員などから不当な要求を受けたり、彼らから嫌がらせや生命・身体・財産などに対する危険を伴う言動を受けたりした場合の基本対応は、弁護士や警察に相談し、刑事告訴や民事上の手続(面談禁止を求める仮処分手続等)を速やかに行うことです。
暴力団サイドも、ビジネス(専門用語で「シノギ」等といいます)で動いているわけであり、ビジネスである以上、
「最小限の犠牲で、最大限の成果を得る」
という損得計算が稼働の前提となります。
警察や弁護士が動き出し、
「告訴だ」
「裁判だ」
となってくると、見込める成果に比べて犠牲があまりに大き過ぎ、ビジネスとしての採算性が破綻し、暴力団サイドとしても手を引かざるを得なくなるのです。
このように、毅然とした対応を整然と行うことこそが、解決のための早道なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:暴力団対策法上の中止命令
ところで、暴力団への対抗策としては、伝統的な方法である刑事告訴や民事手続以外に、暴力団対策法(以下、「暴対法」)に基づく措置も検討すべきです。
暴対法は、暴力団員などが市民生活に不当に介入する行為を
「暴力的要求行為」
として類型化し、これらの行為が行われた場合、警察署長に対して当該行為を禁止する命令(中止命令)を発する権限を付与しています。
そして、中止命令を申し立てる際、暴力的要求行為を行っている本人のみならず、当該暴力団員が所属する組織の代表者等も中止命令の対象者とすることができる、という点が重要なポイントになります。
すなわち、組織のトップに中止命令が発令された場合、
「暴力的要求行為」
を行っている者にとっては、
「目上の者には絶対に迷惑をかけられない」
という状況となるため、
「暴力的要求行為」
を萎縮させる効果を与えることができるのです(なお、2008年暴対法改正で、暴力団員による一定の不法行為に関し、暴力団の代表者に無過失の責任が課されるようになっています)。
以上のとおり、暴対法上の中止命令には、
「組織内の上下関係が効果的に働き、事案を早期かつ劇的に解決することができる」
という巧妙なメカニズムが内包されているのです。

モデル助言: 
まずは、所轄の警察署に相談して、
「極道組」
が、暴力団対策法上の
「指定暴力団」
として指定されているか、または、
「極道組」
の上位組織が
「指定暴力団」
として指定されているかと、梅宮がこれらの暴力団員かどうかを調べてもらいましょう。
その結果、
「指定暴力団」
の暴力団員であることが判明した場合、まずは、
「そのような不当な下請参入要求は、暴力団対策法上の暴力的要求行為に該当するので、所轄警察署長に中止命令発令を申し立てます。
その際、極道組のトップも中止命令の名宛人として加えさせていただきます」
と明確に伝えてみましょう。
恐らく、これでほぼ退散すると思いますが、それでも収まらないようであれば、所要の手続を粛々と取っていくことになります。
たまに、暴力団と関係のない者が暴力団員を騙って不当な要求を行うケースもあります。
本件の梅宮もエセ暴力団である可能性もありますので、
「貴殿は、極道組の組員ということですが、中止命令発令の前に、念のため、『貴殿が構成員であるか否か』、また、『貴殿が構成員であるとして、組として貴殿の行為を認めているのか』ということを組に対して照会してみますが、よろしいな」
といってみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00175_企業法務ケーススタディ(No.0130):工場抵当法の活用

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ヤンキーナ 代表取締役 木下 椰樹菜(きのした やきな、23歳)

相談内容: 
チョリーッス、先生。
今日はお世話になった人の会社にカネを貸す件で、一応相談に来ました!
アタシさ、今の会社立ち上げるまでは給食工場で働いてたんだぁ。
似合わないっていうと思うけどさ、人にはそういう時代だってあるもんなの!
その工場持ってる今田食品って会社には、今田一助(ぴんすけ)っていう社長がいるんだけどぉ、工場は特許技術満載のオートメーション化した無菌工場だから
「競合なんておらへん!」
ってブイブイいわせてたの。
彼は根っからのバクチ好きで、最近ではヤクザの賭場にまで出張ってるって噂を聞いてたから、
「それはアウトだからやめな!」
って何度もいってたの!
でも、全て聞く耳ナシ!
ま、とうとう警察のガサが入って、賭場への出入りがばれ、で、小うるさいPTAから責められて、結局、納入してた学校全部から契約切られちゃって瀕死状態、お馬鹿よね!
商売人だから、オフィス向けの宅配弁当に業態を変えて何とか乗り切ろうとしてて、いつも馬鹿にしてた私に頼ってきたってわけ。
不動産全部に抵当つけて構わないから、運転資金や機械のレイアウト変更のために5億円貸してっていうんだけど、不動産の評価はぎりぎり3億円くらい。
世話になったし、万一の場合、2億円は泣く覚悟で貸そうと思ってんだ。
ほんとは、5億円貸すなら、5億円分きっちりガッツリ担保取りたいけど、ま、そんな方法なさそうだし。
これって、しょうがないよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:企業への事業資金の融資の注意点
企業が、取引先や関係先に対して事業資金の融資を行う、ということはよく見受けられます。
もちろん、収益が見込める事業を計画的かつ合理的に営んでいる限り、何もプライベートな企業なんかに泣きつかなくても銀行が貸してくれるはずですが、無計画あるいは不合理な冒険的事業を企図するような場合や、不祥事等が発生して企業の存続に疑義が持たれるような場合には、銀行が相手にしてくれません。
このようなときには、設例のように、取引先や知人の経営者に泣きつく、といったことが生じます。
企業間の融資においては、
「困ったときはお互いさま」
という情実が働き、経済合理性のない形で無責任な融資が行われ、その結果、トラブルに発展しがちです。
しかし、よくよく考えれば、
「金貸しのプロである銀行が相手にしない」
という属性を有した債務者にカネを貸すのですから、
「フツーに貸したのではまず返ってこない」
とみるべきです。
したがって、
「そもそも貸すのを断るか、適当な見舞金を差し出して追い返すか、どうしても貸すのであれば、ガッチリ担保を取って貸す」
というのが経営者として取るべき行動ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:工場抵当
ところで、設例のように、評価額3億円程度の不動産を担保に取って、5億円貸すのは、極めてリスキーといえます。
地方銀行や信金・信組で、こういうリスキーな融資が行われることがありますが、この種の経済合理性のない融資は、法律上、背任という犯罪行為となりますし、実際、この種のことが露見して、逮捕者が出たり、自殺者が出たりしていることは皆さんご承知のことと思います。
この状況で貸すなら1億円ないしせいぜい1億5千万円が妥当なところですが、どうしても5億円貸すという場合は、担保の取得方法を一層工夫しなくてはなりません。
すなわち、担保提供者が工場設備を有している場合、土地やその上の工場といった不動産だけでなく、有機的な企業施設を一体として抵当権の設定対象とする工場財団抵当という方法により、担保価値を再評価することで、融資判断を再考する余地があります。
設例では、
「特許技術満載のオートメーション化した無菌工場」
ということですから、施設丸ごと担保に取れるのであれば、
「有機的に一体となったいつでも動かすことが可能な工場」
という状態の担保価値を把握できるのですから、5億円をはるかに上回る担保評価となる可能性があります。

モデル助言: 
そもそもの話ですが、今田さんには申し訳ないですが、経営判断と情実は切り離すべきであり、適当な見舞金を差し出して、まずは追い返すことを検討するべきですね。
今田さんの目論見が現実的かつ合理的な事業計画というのであれば、そもそも銀行が資金を貸してくれているはずですし、銀行が貸さない、ということは彼の計画に根拠がない、ということなんでしょうね。
それに、御社の体力から考えると、万が一2億円については回収できないなどという事態になりますと、経営に影響が出かねません。
まあ、どうしても貸したいというのであれば、先ほど申しあげたとおり、特許権やノウハウ等の知的財産権をも含めた工場施設全体を担保に取る
「工場財団抵当」
という方法によるべきです。
工場財団目録を作成したり、他人の担保権が設定されていないかを確認する等もろもろ面倒くさい手続きが必要になりますが、こういう抵当方法を前提として工場そのものの価値を丸ごと評価して、7億円程度の価値が見込めるならば、万が一の場合も回収が見込めますね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00174_企業法務ケーススタディ(No.0129):DM送付コストダウンのリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社幸楽チェーン 代表取締役 角野 春菜(かどの はるな、28歳)

相談内容: 
先生、ウチは、
「油控えめで、あっさり中華を楽しんでいただける」
をコンセプトとしたファミレスチェーンをやっています。
それで、顧客層は高齢者の方々が多いので、お値引き企画へのご招待やらについて、電子メールで送るわけにはいかないんですよ。
電子メールだったら、通信料がほとんどかからないし、ご招待状も顧客がプリントアウトしてくれればいいから楽なんですけれどもね。
そういうわけで、ウチでは、顧客名簿に基づいて、来店利用履歴を見ながら、常連さんや、最近ご無沙汰のお客様に対して重点的に、毎回、封書でダイレクトメールを送っているのですが、ウチの顧客って数万人単位でいるでしょ?
郵送料がホントバカにならないんですよね。
そしたら、ウチの従業員が、宅急便が提供している、安いメール便を見つけてきたんですよ。
これで実際の送付コストをシミュレーションしてみたら、年間で数百万円単位で安いんですよ。
これはもうメール便にするしかないです。
ただ、メール便の利用約款には、
「信書はお取り扱いできません」
ってあるんですよ。
「信書」
ってなんでしょうか?
まあ、私的には、
「個人的なことが書いてある、秘密めいた手紙」
とかですかねえ。
ウチがお願いするのは、秘密でも何でもない、お客さん全員に出してるような広告なんだから、別に問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「信書」に関する郵便事業株式会社の独占
国民が自分の意思を他人に対して安心確実に伝達する手段が確保されることは、近代国家においては非常に重要です。
例えば、政治批判を含む議論以外のビジネスの分野でも、競合する第三者に秘密のまま自分の意思を意図する相手へ確実に送る手段が整備されていなければ、自由な競争すら危ぶまれますから、
「安価で、安心確実に通信を行う」
ことは、重要なインフラといえます。
憲法21条2項も、
「検閲は、これをしてはならない。
通信の秘密は、これを侵してはならない」
と規定して、国民が持つ
「通信の自由」
を重視しています。
これをうけて、郵便法は、郵便事業株式会社に対して、
「総務省令で定められた料金」
のもと、法令で定められた様々なサービスの提供を要求しています。
さらに、同法79条は、サービスの提供を担保するために、
「郵便の業務に従事する者が殊更に郵便の取扱いをせず、又はこれを遅延させたとき」
について、
「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」
まで定めています。
そして、同法4条は、同社に法令上厳しい責任を課す一方で、通信インフラたる郵便事業が確実に実施されるように、
「信書」
の取扱いについては、一定の例外(「民間事業者による信書の送達に関する法律」による例外)を除いて、原則として同社に独占権を与えております。
他方、同法76条は、同社以外の者が
「信書」
を運んだり、同社以外の者に対して信書の送付を依頼した場合には、
「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
を科しています。
要するに、
「ショボい業者が安物の郵便サービスをやると、秘密がダダ漏れしたり郵便が届かなかったりして通信に対する社会的信用が低下するので、アングラなサービスはまかりならん。
郵便事業株式会社みたいなマトモな御用達商人に全部任せろ」
ということです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「信書」とは
郵便法4条は、
「信書」
について、
「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう」
と規定しています。
これでは何が
「信書」
にあたるか否かがわかりにくいところですが、総務省は、
「信書に該当する文書に関する指針」
で具体例を示しています。
これによれば、ダイレクトメールは
「特定の受取人を選別し、その者に対して商品の購入等を勧誘する文書」
であるから信書に該当する、とされていますから、
「信書」
の範囲は世間相場よりも広いです。
その他の具体例としては、
「見積書、契約書」
「業務を報告する文書」
「表彰状」
などが挙げられています。

モデル助言: 
宅急便業者が提供しているメール便サービスには、軽く
「信書はお取り扱いできません」
とか書いてある程度で、まさか、自分が送ろうとしていた
「見積書」
「表彰状」
さらには
「ダイレクトメール」

「信書」
にあたるとの認識はなかったかもしれません。
しかし、刑法上、自分が例えば
「見積書」
を送っていることはわかっているが、法律を知らなかったために、自分の行為が違法でないと誤解していた場合(講学上、「違法性の錯誤」といいます。)であっても、裁判所では、
「法律を知らなかったオマエが悪い」
という扱いしかされず、処罰の対象となってしまいます。
実際、2009年に、埼玉県が、信書に該当する書類を郵便ではなくメール便サービスを利用して送付したところ、警察が捜査を開始しました。
結局、法人たる宅急便業者及びその従業員らだけでなく、メール便を利用した県、発送を担当した県職員個人までもが、書類送検されました。
最近は、宅配業者の中にも、
「民間事業者による信書の送達に関する法律」
に基づいて許可を得て、信書を扱える御用達業者も増えています。
安物を使うと、知らない間に犯罪者になるかもしれないので、要注意ですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00173_企業法務ケーススタディ(No.0128):PL(製造物責任)リスクに注意せよ

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
白鳥堂本舗株式会社 専務取締役 白鳥 珠子(しらとり たまこ、29歳)

相談内容: 
先生、ウチは代々、京都で和菓子屋を経営してるんですけどぉ、このたび、アタシに似て白雪のような、うつくし~
「バニラ味白玉団子」
の販売を始めるんです。
実は、コレ、ウチで新しく開発した上新粉(うるち米の粉)でできていて、ツルッとかまなくても飲み込めるように、それでいて、のど越しもごっくんとしっかりと楽しんでもらえるように大きめに作ってあるんです。
さらに、今回、新商品のキャンペーンとして、お年寄りとお子さまを対象にした
「つるりん! ごっくん! バニラ味白玉団子早食い大会」
を企画しているんです!
なんと、優勝者には
「白玉王子(女)」
の称号とトロフィー、そして、
「バニラ味白玉団子1年分」
をプレゼントします!
まぁ、アタシに似て、清楚で可憐で色白で、それでいて色白な白玉団子ですから~、アタシみたいなオ、ト、メ、のような子供が優勝するといいですね~。
あ、そうそう、最近、世間では産地偽装とか、賞味期限のゴマカシとかやっているみたいだけど、ウチの上新粉は全て新潟産だし、品質管理だって、東大工学部卒の超優秀エンジニアを管理部長として雇い入れ、彼に全て任せてあるから、何の問題もないわ!
おーほほほほ!
あとは、顧問弁護士の鐵丸先生が、お墨付きをくれるだけっ!
ヨロシクねっ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:製造物責任法(PL法)
ある商品が原因となって損害が発生した場合、損害の賠償を請求するためには、民法の不法行為規定(民法709条以下)に従って、被害者側が、加害者の故意・過失などを立証しなければなりません。
しかしながら、当該商品の詳細や製造過程に関する情報はすべて加害者の下にあることから、この故意・過失を立証することは容易ではなく、商品が原因で事故が起きても、消費者は賠償を諦めなければならなかったことも多々ありました。
そこで、このような“消費者の泣き寝入り”を打破すべく制定された製造物責任法(PL法)は、
「製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害賠償をする責めに任ずる」
と定め、故意・過失を問わず、とにかく商品に“欠陥”があった場合には、有無を言わさず責任を負わせることとしました。
要するに、
「物を製造した以上、その物に欠陥があってこれが原因で損害が発生した場合には、四の五の言わずに全責任を負え」
というものです。
そして、このPL法の適用に際しては、“製造物の欠陥”を、概ね
1 製造上の欠陥
2 設計上の欠陥
3 指示・警告上の欠陥
に分類し、それぞれの項目において適切な安全性を有していたかどうかが判断されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:こんにゃくゼリー事件
2007年頃から、こんにゃくを材料としたやや弾力性の高いゼリーを噛まずに飲み込み窒息してしまう事件が相次ぎ、社会問題にもなっていました。
そして、2008年7月、
「子供や高齢者は喉に詰まるおそれがあるため食べないように」
と記載された警告文に気付かず、1歳9カ月の幼児に凍ったこんにゃくゼリーを食べさせてしまい、窒息死するという痛ましい事件が発生しました。
この事件は、その後、PL訴訟に発展し、昨年(2010年)9月、神戸地裁姫路支部は、
1 製造上の欠陥
2 設計上の欠陥
3 指示・警告上の欠陥
の観点から製造元の責任を検証しましたが、最終的に遺族からのこんにゃくゼリーの製造元に対する損害賠償請求を退けました。
訴訟には勝利したものの、マスコミやインターネット上の誹謗中傷などで製造元が被った社会的な制裁は大きく、また、商品の販売停止・改良を余儀なくされました。
事件を受け、2010年7月、消費者庁が食べ物の形や硬さを規制する法整備が必要との見解をまとめるなど、現在、法的な規制の動きも活発化しております。

モデル助言: 
白鳥堂本舗さんの新商品ですが、かまなくても飲み込める? 大きめに作ってある? お子さまを対象にした
「バニラ味白玉団子早食い大会」
を企画している? PLリスクに対する認識が甘すぎます。
確かにこんにゃくゼリーの裁判では製造元が勝ったものの(現在、控訴審が係属中)、被った社会的制裁は大きく、そんなリスキーな事業に“お墨付き”なんて絶対にあげられません。
真面目に消費者の安全を考えるなら、品質管理をしっかりするだけじゃなく、例えば、団子の真ん中に穴を開けるとか、団子の形を平べったくするとか、喉に詰まらないような形状にするようにするための安全性改良の努力を惜しむべきではありません。
「バニラ味白玉団子早食い大会」
なんて発表した瞬間に、ネットの掲示板で祭りが始まりますよ。
まずは、PL法の趣旨、背景、近時の事件や解釈動向をきちんと説明しますので、早速社内ミニセミナーを企画してください。
あ、その際、バニラ味白玉団子の試食とかのつまらぬ気遣いは結構ですので。
念のため。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00172_企業法務ケーススタディ(No.0127):長時間労働の悲劇

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ライト・ライム代表取締役 光田 萬九郎(みつだ まんくろう、36歳)

相談内容:
「女装者限定、ノーマルな方はお断り」
っていうコンセプトのバーってやつ、最近、なかなか調子が良くって、多店舗展開とかしてんだけどね。
何せ飲食業で、しかもバーって業態ということもあって、就業時間がどうしても不規則になっちゃうのよ。
それで、ちょっと不安になって相談にきたのよ。
別に、今のところ従業員から苦情が出てるとかそういうんじゃないわよ。
もちろん前に先生に教えてもらったナントカ協定とかいう届け出はしてるし、残業代だって支払ってるわよ!
といっても、給与に、何時間分かの時間外労働分を上乗せして支払う、って感じでやってんだけど。
でね、業界の噂なんだけど、深夜までやってる飲食店を経営している会社があって、少ない人数で目一杯残業させてたら、ある従業員が亡くなったらしいのよ。
それで、未払残業代とか過労に対する損害賠償責任を会社が背負わせれそうになってんだけど、役員報酬とかバンバン取ってるから、会社にはほとんど財産とかないわけよ。
そしたらね、その会社では、役員個人が賠償責任を負わされて、相当な金額を払わされたとかって、怖い噂があんのよ。
そんなことあり得るの??
ちょっと後学のために教えておいてちょうだいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:違法残業のリスク
残業とは、法定労働時間を超過して働かせることを言いますが、この場合、まず労働基準法36条に基づく協定(36協定)の締結が必要です。
そして、週40時間以上勤務させるような法定外残業の場合には、残業代として基本給の25%増を支払わなければなりませんし、それが休日の場合には35%増とする等の規制が働くことになります。
加えて、これらは取締法規であるため、違反行為に対しては刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)も定められております。
実際に、2003年2月3日には、特別養護老人ホームの経営者が、残業手当を支払わずにサービス残業をさせていたなどとして逮捕されるという事件が起きています(共同通信)。
このように、会社には、法で定められた時間を超えて従業員に残業をさせている場合には、未払残業代の支払い義務が生じることはもちろんですが、さらに、仮に超過勤務が原因で従業員が過労死してしまったような場合には、安全配慮義務違反(労働者の生命及び健康等を危険から保護すべき義務の違反)があったとして損害賠償義務まで負担するとされています(「電通事件」、最高裁平成12年3月24日判決)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:役員個人の責任
さて、会社が責任を負うとしても、役員個人が賠償責任を負うなどということがあるのでしょうか。
この点について、過労死等の場合、会社が責任を負うのはともかく、役員
「個人」
が賠償の義務を負うなんて考えられないという経営者が大半であると思われます。
しかしながら、役員個人も損害賠償責任を負うとの裁判例が近年出されていますので十分な注意が必要です。
これは、前述の
「安全配慮義務」
を会社が負う以上、取締役個人としても、かかる義務を実施可能な会社の体制を万全に構築する義務があり、それを構築していなかったということが責任の理由とされました(「大庄事件」京都地判平成22年5月25日及び大阪高判平成23年5月25日。ただし、2011年7月現在、最高裁に経営陣が上告中)。
取締役らが、企業経営の全般について重い善管注意義務を負っていることは皆さんご存じのとおりです。
そして、役員は善管注意義務違反によって損害賠償責任を負うことになるのですが、同判決では、労使関係が企業経営に不可欠であるため、会社の
「安全配慮義務」
を万全にするための体制構築義務も、善管注意義務の具体的な一内容であると明確に判示されたわけです。

モデル助言: 
大庄事件判決では、会社の責任とは別に、役員4人で連帯して約4000万円を支払えとの厳しい判決が言い渡されています。
ここでは、
「基本給の中に、時間外労働80時間分が組み込まれているなど、到底、被告会社において、労働者の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制を確立していたものとは言えない」
という過酷な労働環境が前提とされており、社長の会社とは状況が違うはずですけど・・・ん?
社長、ふくよかな顔色が良くないですけど大丈夫ですか?
大庄事件のポイントは、経営者個人としては、従業員個人の労働状況なんて把握できるわけがないにもかかわらず、
「不合理な超過勤務を許容するシステムを作っていた」
という理由で具体的指揮の及ばない個別の事故についてまで、役員
「個人」
として損害賠償責任まで負うとされた点です。
長引く不況の中で、労働コストの削減に安易な削減に流れがちですが、不合理な労務システムを放置しておくと、会社だけでなく、経営者個人まで責任を負わされかねません。
飲食業は確かに時間が不規則ですが、だからこそ、労働時間規制に対応した雇用体系を作り上げるべきです。
そうしたほうがかえって能力のある人材を集めやすくなりますし、長い目で見れば会社にメリットが生じますから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00171_企業法務ケーススタディ(No.0126):長年続いた契約を突然打ち切られた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社タイタン物産 代表取締役 大高 光(おおだか ひかる、46歳)

相談内容: 
こんにちは。
ダチだと思っていた取引先の社長から、契約を切られそうなんですよ・・・。
小田中(おだなか)酒造と商売を始めたのは20年前。
当時まだ若社長だった小田中の奴、腕は良いがなかなか知名度がないんで、ワインの輸入販売を手広くやっており各地の酒類流通とのネットワークを持ってたウチと二人三脚で、販売を続けたんです。
雑誌とタイアップしたり、テレビで有名人に飲んでもらったりと、ウチの会社でも、小田中酒造の商品が売れるようにすごく工夫して頑張ってきました。
ウチも少ない営業人員を小田中酒造製品に絞り込んで投下し、他の製品は半ばホッタラカシにする状態で、取り組んできたんです。
こういう状況は、当の小田中が一番知っているはずです。
それでようやく小田中の知名度が消費者の間で浸透してきて、小売店さんからガンガン注文が入るようになりました。
そしたらウチの会社の利用価値がなくなったと踏んだのか、小田中酒造から
「契約期間が今年9月末日に終了しますが、今回は更新をしません。
タイタンさんのお陰でウチもなんとか自力で商売できるようになりました。
これまでいろいろありがとうございました」
などといってきやがったんです。
たしかに契約書上はそうですが、今契約を切られたら、ウチは倒産ですよ。
こんなのってアリですか。
どう考えても納得いきません。
どうにかならないものなんでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約終了の自由
わが国の取引における基本的ルールとして、誰とどのような契約をしようが一切自由である、とされています(契約自由の原則)。
これは、
「取引社会に参加する者が、それぞれ己の知力や財力を最大限に活用して、自由に契約交渉を行い、互いに競争させる基盤を確保することが、市場経済の発展には必須である」
という考えに基づくものであり、資本主義的自由競争国家である日本にとっては国是ともいえる法理です。
契約の自由の原則は、契約をぶった切る自由(契約終了の自由)も保障しております。
したがって、
「契約期間2年の契約を3回更新して合計6年間にわたってお付き合いをした後、より好条件の相手が見つかったので、更新を拒否し、それまで世話になった相手をボロ雑巾のように捨て去り、新しい相手に乗り換える」
という事も本来自由です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:継続的契約の更新拒否に対する歯止め
とはいえ、長期間、強固な信頼関係の下に反復継続して更新されてきた契約関係を、一方当事者が全く自由気ままに解消できることを許すと、本設例のように、一方の当事者にとって死活問題となるほどの打撃を被らせることになり、あまりに衡平の理念に違背します。
このようなことから、一定期間反復継続されて更新されてきた継続的契約において、更新拒絶が他方当事者にとって不当な打撃を被らせるような場合には、一定の要件の下、
「継続的契約の自由勝手な更新拒絶」
に対する歯止めをかける裁判例が登場するようになりました。
裁判例としては、
「契約の有効期間を1年間とし、期間満了3か月前までに当事者のどちらか一方が通知すれば、契約を終了させる」
との約定があった事案について、札幌高裁1987年9月30日判決は、
「契約を存続させることが当事者にとって酷であり、契約を終了させてもやむを得ないという事情がある場合には契約を告知し得る旨を定めたものと解するのが相当である」
と判示しました。
これ以外にも、複数の裁判例が、
1 「製品の供給を受ける側が、契約の存在を前提として製品販売のために人的物的投資をしている場合など、取引が相当期間継続することについての合理的期待が生じていたと認められる場合」であって、
2 「製品の供給をする側もその期待を認識していた場合」には、
公平原則又は信義誠実原則に基づき、契約の継続性が要請されるなどとして、継続的契約の更新拒絶に合理的理由を求めるべし、としています。

モデル助言: 
大高さんの場合、取引を始めてから20年間も経過していますね。
しかも、大高さんは、小田中酒造製品販売に注力するため、人員配置を変えたり、他社製品の取扱量を減らしたりして、小田中酒造製品を販売するために、人的物的投資をしており、取引が相当期間継続することに合理的期待が生じていたところです。
しかも、小田中側には更新拒絶をする合理的理由が乏しいようですから、場合によっては、訴訟を提起し、
「更新拒絶は違法」
との判断を引き出すことも可能かと思われます。
加えて、小田中の行為は、優越的地位の乱用その他独占禁止法が禁止する不公正な取引方法に該当する可能性もあるので、こちらもきっちりと調べて、場合によっては公正取引委員会に排除措置命令申立でもして、側面攻撃を展開してみましょう。
相手も本気でタイタンをつぶそうとしているわけではないでしょうし、事を荒立てて抵抗しているうちに妥協点が見つかり、最終的には一定年数の契約期間延長を勝ち取れるかもしれませんね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00170_企業法務ケーススタディ(No.0125):検収せず放置しても、別に問題ないでしょ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社World’s End 代表取締役 宮沢大助(みやざわ だいすけ、38歳)

相談内容: 
ご存知のとおり、ウチは、命知らずのバイヤーが世界の果てまで行ってきて探した民芸品を、傘下のチェーン店
「World’s End」
で販売する、ゆう商売です。
今回、大手商社の渡辺物産の井ノ本ってゆうブっさいくな女のバイヤーが、アフリカの聞いたことない村から大量に仕入れてきた“木彫りのヘビ”の置物を200個安く売ってくれることになりましたんや。
ほんで、先週、商品が届いたんゆうんで、早速中身を見てみたら、“木彫りのヘビ”の頭が取れていたり、ごっつ嫌な匂いがしたり、“木彫りのクマ”みたいなのが混ざってたり、それにどう数えても120個くらいしか入ってないし、もう、何やワヤクチャになっとったんですわ。
とはいえ、次の日から家族旅行で2週間ほどハワイに行くところやったんで、
「文句は帰ってきてからいうたるさかい、ま、待っとけよ」
と思ってそのまま出かけたんですわ。
昨日、ハワイから帰ってきたんで、井ノ本呼びつけて
「あの商品はなんや! どないなっとんねん!」
って怒鳴ったら、あのアホ、シレッとして
「あれぇ~、もう2週間も何も連絡がなかったから、てっきり、お気に召していただいたものとばかり思ってましたよ~」
なんてなめくさった対応をしよるんです。
もう、こうなったら、イテまうしかないかな、と思てます。
先生、一発ドカンと法的措置を取ってやってください!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債務不履行責任の原則
頼んだ商品がまだ届かない、頼んだ商品が届く前に消滅してしまった、商品は届いたが数が足りない、といった
「債務者が債務の本旨に従った履行をしない」
場合を総称して債務不履行といいます。
そして、この債務不履行は、概ね、
1 例えば、12月24日までにケーキを届けるという契約において、24日を過ぎてもケーキが届かないといった場合の「履行遅滞」
2 例えば、神奈川県葉山の別荘を買う契約を締結した後に別荘が燃えてしまったといった場合の「履行不能」
3 例えば、赤ワインを10本頼んだのに、8本しか届かず、しかも3本は白ワインだったといった場合の「不完全履行」
に分類することができます。
今回のような“一部破損”や“数の不足”といった場合、前記3に該当すると考えられますが、このような場合、債権者は民法上、
「債務の本旨に従った履行を求める権利」
を行使し、完全品との交換を請求したり、足りない分の追完を請求することができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:商人間取引の特則
以上は民法一般の話ですが他方、ビジネスのプロ(商人)同士の取引を規律する商法は特別なルールを定めています。
すなわち、商法526条は、商人間の取引について、
「1項 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2項 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があることまたはその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができない」
と定めております。
要するに、商法においては
「プロの商売人として取引を行っている者同士の取引の場合、商品を受け取った買主は、直ちにその商品の数量、品質等を検査せよ。
そういう大事なことを怠って、家族旅行等というどうでもいいことを優先するダメな商売人は法的措置を取ることは許さん!」
とされているのです。

モデル助言: 
今回は、事態を放置せず
「“木彫りのヘビ”の頭がとれているから壊れていない商品と取り替えろ」
「頼んだ商品と違う」
「数が足りない」
といったことを、直ちに相手に通知すべきでしたね。
こちらが検査義務を懈怠している以上、商法の解釈上、相手に分がありそうです。
大事な商売をほったらかしにして遊びに行ったりするから、バチが当たりましたね。
とはいえ、何とかやり返したいですね。
商法526条の3項は
「売主がその瑕疵または数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない」
とも規定しています。
200個のところを120個しか郵送せず、しかも“木彫りのヘビ”に“木彫りのクマ”を混ぜてくるような売主ですから、場合によっては、数量不足等について知っていたにも関わらず、あえて送ってきたことも考えられます。
また、
「ごっつ嫌な匂いがする」
とのことですので、“木彫りのヘビ”の胴体部分の“木の中身”が腐っているのかもしれません。この場合、
「直ちに発見することのできない瑕疵」
に該当することが考えられますので、商品が届いてから6カ月以内であれば別な商品と取り替えるよう請求したり、損害賠償請求することができる場合もあります(商法526条2項第2文)。
ま、このあたりをうまく使って相手に反撃してみましょうかね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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