00245_解雇不自由の原則

労働法の世界では、解雇権濫用の法理といわれるルールがあるほか、解雇予告制度や即時解雇の際の事前認定制度等、労働者保護の建前の下、どんなに労働者に非違性があっても、解雇が容易に実施できないようなさまざまな仕組が存在します。

映画やドラマで町工場の経営者が、娘と交際した勤労青年に対して、
「ウチの娘に手ぇ出しやがって。お前なんか今すぐクビだ、ここから出てけ!」
なんていう科白を言う場面がありますが、こんなことは労働法上到底許されない蛮行です。

そもそも、 解雇権濫用法理を定めた労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」)からすれば、
「代表取締役の娘と従業員が交際した事実」
を解雇理由とすることは濫用の典型事例であり、解雇は明らかに無効です。

仮に解雇理由があっても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定を取らない限り、解雇は一カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払って即時解雇することしかできませんので、
「今すぐクビ」
というのも手続上無理。

婚姻関係が
「婚姻は自由だが、離婚は不自由」
と言われるのと同様、従業員雇用も
「採用は自由だが、解雇は不自由」
とも言うべき原則が働きます。

ちなみに、日本の社会政策的私法制度(弱者救済のため、自由主義を国家政策によって捻じ曲げているシステム)としては、

1 解雇の不自由
2 借地借家の解除の不自由
3 離婚の不自由

があります。

すなわち、
・雇用契約は自由だが、一端雇用したら、解雇は事実上不可能
・家や土地を貸すのは自由だから、一度貸したら、事実上、家や土地は、借りた人間のモノで取り上げることはほぼ不可能
・結婚は自由だが、離婚は不自由であり、もめた場合、多大な時間とコストとエネルギーを消耗する
という社会政策的な自由弾圧型法システムを確立し、弱者を保護しています。

いずれにせよ、解雇は
「勢い」
でするのではなく、法的環境を冷静に認識した上で、慎重かつ合理的に行うべき必要があります。

というより、
「採用する」
ということは、決してノリや、
「ビビっときたから」
といったインスピレーションに依拠して、気軽にすべきではなく、結婚と同じくらい、
「一旦エンゲージしたら、ちょっとたんま。やっぱり、やーんぺ、というわけにはいかない」
という前提環境をしっかい理解して、慎重に行うべきです。

また、一度採用してしまったら、基本、取り返しがつかない状態に陥っており、解消には、離婚同様、多大な時間とコストとエネルギーを要する(というか、離婚と違って、定年まで解雇ができない状況に陥る)ことを理解把握しておくべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00244_性悪説に立った契約書設計

今どきの契約書において、カネを払う側は、取引相手を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
としたうえで、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することがトレンドです。

「先生、信頼に足る適正な関係を構築するために必要な、関係構築哲学とはどのようなものでしょうか?」
こんな問いに対して、私は、こう答えています。

「とことん相手を信頼しない前提で関係構築すること。それが、信頼に足る正しい関係を構築する前提思想」
と。

相手を、とことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような契約条項を考案しておけば、取引相手も諸事、自重し、慎重に丁寧な行動を心がけ、ナメた行動をしなくなり、甘えた考えをもたなくなります。

結果、相手は、やましい心をもたなくなり、真面目に、誠実に、契約履行を心がけ、双方にとって歓迎すべき帰結を迎えることができます。

厳しい契約で、利益を得るのは、カネを払って商品や役務を受け取る側もそうですが、適切な自己規律で、正しく義務を果たすことで、トラブルの種を自主的に排除できた相手方も同様です。

ところが、細かいスペックや期限、義務不履行の際のリカバリースキームやペナルティを取り決めていくと、たまに、これを忌避する相手がいます。

本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような契約相手のスタンスは、
「モレやヌケがあったり、チョンボやズルをしても文句を言わないでくれ」
というのを求めているのと同義です。

こんなヤツとは、付き合わないか、契約を解消し、
「約束した以上、命をかけても、契約を履行するし、できなかったら、いかなる制裁も甘受する」
ということを宣言できる、信頼に足る別の契約相手を探した方がいいということになります。

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00243_契約自由の原則:愚かでリスキーな契約上の立場に陥れられたら、それは自己責任であり、そんな愚かでリスキーな契約した方が全て悪い

民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。

これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。

逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
みたいな法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。

無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
ということを許すことになります。

要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00242_国際取引において、仲裁地の交渉がデッドロックになった場合のブレイクスルー・テクニック

国際契約においては、お互い仲裁地を譲らないことが多いです。

これによって、国際取引が暗礁に乗り上げてしまうことがあります。

無論、どちらかが契約交渉上に有利な地位を有していれば、力関係を通じて解決されます。

すなわち、強者が弱者に
「契約条件についてオレの言うこときけないなら、契約はヤメだ」
と要求すれば済む話です。

しかしながら、両者対等の立場ですと、調整は難航します。

ひとつの案としては、第三国を選ぶという考え方です。

すなわち、各当事者の国以外の特定の国、例えばイギリスとかスイスとかを仲裁地とする方法です。

とはいえ、当該第三国の仲裁地までの移動にかかる負荷や当該仲裁地における仲裁の質や信頼性、当該仲裁地の弁護士が確保できるか等いろいろ調査の手間がかかります。

もう1つの案としては、仲裁を申し立てる側が、相手方当事者の場所に乗り込んで仲裁するという方法です。

すなわち、当方が契約に関して文句があるときは相手国を仲裁地とする仲裁を申立て、相手方が契約に関して文句があるときは当地(例えば東京都)を仲裁地とする仲裁を申し立てる、という取り決めをして、デッドロックを解消する方法です。

参考:
00074_企業法務ケーススタディ(No.0028):国際契約での仲裁地の引っ張り合い解消法

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00241_管轄地・仲裁地の重要性

日本国内の会社同士の取引なんかですと、ある程度中味のしっかりした契約書を取り交わし、日常のコミュニケーションがしっかりしている限り、トラブルが裁判に発展するなんてことはありません。

とはいえ、いざ裁判になった場合、弁護士として一番気になるのは裁判管轄です。

サッカーや野球の場合、
「試合の場所がホーム(当地)であるかアウェー(敵地)であるかは、試合結果を左右するくらい重要」
などと言われますが、これは裁判でも同じです。

私の場合、東京地方裁判所の裁判ですと散歩感覚で行けるのですが、地方での裁判は移動の時間やこれにかかるエネルギー(弁護士は膨大な書類を持ち歩く必要があり、遠隔地への移動は大変体力を消耗します)は非常に重くのしかかります。

依頼者にとっては、日当や稼働時間報酬というコスト負担の問題が生じます。

これが海外になると、アウェーでの裁判や仲裁はさらに不利になります。

裁判官なり仲裁人は現地の文化や言語を基礎に手続を進めますし、当然ながら、相手国の弁護士を採用しないとこちらの言い分が満足に伝えられません。

仲裁期日のほか、相手国の弁護士との打合せに要する時間やコスト、コーディネイターのコスト、証人等社内関係者の渡航による事業活動への影響等々を考えると、紛争を継続するコストは、ホームでやる場合に比べ、ケタが1つないし2つくらい違ってきます。

国際仲裁において仲裁地を相手国とすることは非常な不利を招き、トラブルが生じても仲裁でこれを是正する途が事実上閉ざされてしまうことになりかねません。

要するに、国際取引契約で、
「取引紛争が生じた際、相手先の管轄地や仲裁地で解決する」
という条項が定められたら最後、機能的な意味解釈をほどこせば、
「紛争が生じたら、訴訟や仲裁手続きはギブアップし、相手のいうなりになる」
ということ同義といえます。

そのくらい、管轄地や仲裁地の定めは契約上重要性を帯びています。

こういう言い方をすれば、
「そんな、まさか、トラブルなんて、そうしょっちゅう起こらないでしょ」
といって、ビジネスサイドや営業サイドから楽観的な見解を示される場合があります。

しかしながら、経験上、国際取引においては、相手の企業と、話も通じず、言葉も通じず、感受性も常識も通じない、と考え、警戒してちょうどいいくらいです。

しかも、大きなカネや権利がかかわると、相手の立場の配慮や、信義誠実や、紳士的な振る舞いというのは、大きく後退し、暴力的な強欲さが浮上してきます。

加えて、万国共通の契約ルールは、
「書いてないことはやっていいこと」
「甘い、ぬるい、ゆるい記載で解釈の幅がある契約条項は、我田引水の解釈をして差し支えない」
「契約の穴は、いくらでも都合よく解釈していい」
という、品位のかけらもない、野蛮なものであり、取引がうまくいってうまみや利益の取り合いになる場面でも、取引がうまくいかず責任を押し付け合う場面のいずれでも、トラブルの種は山のように存在します。

そういった意味では、紛争を予知して、紛争になった場合の対処イメージを具体的に把握しながら、ホーム戦か、アウェー戦となるか(=戦いをギブアップして、不戦敗を受け入れるか)という、契約条件設計上の態度決定課題は、真剣に考えておくべきテーマといえます。

参考:
00074_企業法務ケーススタディ(No.0028):国際契約での仲裁地の引っ張り合い解消法

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00240_売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じ

売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じです。

身なりや話しぶりだけで、いきなり新規取引先に売掛で商品を販売するような、物を知らない、世間を知らないベンチャー企業を見受けることがありますが、これは、見ず知らずの人に担保もなしにカネを貸したのと同じくらいアホなものだったということです。

代金引換で売り渡すのであればリスクはないですが、掛で売る以上は、取引相手が信用に足るかどうか調査した上で、債権を適正に保全する方法を構築することが必要です。

掛で売ることはカネを貸すのと同じといいましたが、
「どうやって信用を調査するか」
には、資本主義社会という生態系の頂点に立つ、全ての企業の霊長とも言える、銀行のビヘイビアをベンチマークにするのが賢明です。

すなわち、売掛で商品を販売する先の信用調査は、銀行がカネを貸す時に行うことを参考にするのが手っとり早く確実な方法です。

銀行からカネを借りる時には、登記簿謄本をもってこい、印鑑証明もってこい、決算書もってこいなんて鬱陶しいことを言われます。

ですが、掛売を行う際は、この状況を彼我の立場を替えて再現すればいいだけです。

こちらの商品をどうしても掛(代金後払い)で欲するような相手に対しては、たとえ相手の会社が、立派そうで、金を持ってそうでも、登記簿謄本や決算書を要求すればいいだけです。

見ず知らずの人間に、商品代金相当のカネを無担保で貸すわけですから、そのくらい要求するのは不当とも思えません。

実務上経験するのは、そうやって、
「新規に大量の売掛を要求する」
という傲慢な企業の中には、登記簿謄本や信用調査会社のスコアや決算書等を要求したら、
「プライバシーの侵害だ」
「個人情報だろ(←いえいえ、法人情報ですが)」
「無礼だろ」
などと意味不明なことを言って騒ぎ出し、激怒して逆ギレするようなところもなくもありません。

しかし、後から調べると、会社の実体がなかったり、破産寸前だったり、ということがあり、あやうく取り込み詐欺に遭いそうになっていたところで、
「取引をしなくてよかった」
ということが判明する場合があります。

考えてみれば、上場・非上場、規模の大小を問わず、株式会社は、商業登記簿は法務局で世界にあまねく公開しておりますし、決算についても、会社法に基づき公告義務が課せられており、プライバシーもへったくれもありません。

公開が法律上義務づけられているものを、不合理にしぶるのは、存在しなかったり(私も実務上、「株式会社の名刺をもっているが、実は、そんな株式会社が存在しなかった」というコテコテの詐欺の被害にあった会社の事件を受けたことがあります)、見られたら即信用をなくすような相当ひどい内容が書かれている場合の可能性が高いです。

いずれにせよ、会って間もない相手に、いきなり、掛けで大量の商品をもってこい、というのは、かなり非常識な話で、話の筋だけで、眉にツバをべったりつけて、対応すべきであり、
「みかけの受注話に舞い上がって、取り込み詐欺の被害者になるような愚かな真似」
をすべきではありません。

参考:
00073_企業法務ケーススタディ(No.0027):商品売掛先に騙された!

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00239_著作者人格権:著作物を買った人間は、カネを払った以上、煮るなり焼くなり、いじくり回したり、落書きしたり、やりたい放題できるか?

資本主義社会においては、カネを持ってるヤツ、カネを出したヤツが一番エラい、というのがシンプルなルールです。

貧乏な芸術家に、シビれるくらいの大金を出して、絵画や彫刻を依頼して、作品の制作を委託した。カネに困っていた芸術家は、欣喜雀躍して、ひれ伏せんばかりに、制作を快諾した。

では、制作を委託した側は、出来上がった絵画や彫刻を、落書きしたり、一部を意図的に壊したり、好き勝手に、イタズラして構わないでしょうか?

資本主義社会の常識では、カネを持ってるヤツ、カネを出したヤツが一番エライ、ということですから、何をやっても許されそうな気がします。

ところが、この絵画や彫刻が著作物の場合、制作者の権利は、カネをもらって引き渡した後でも、ゾンビのように残存しており、制作委託した金持ちのやりたい放題を制限します。

すなわち、契約書上
「代金支払とともに全ての著作権を譲り受ける」
との約定を明記して、ある著作物の制作を依頼した場合であっても、カネを払って買い上げた側が勝手に著作物に変更を加えることができないのです。

画家に肖像画の制作を依頼して引渡しを受けた後、当該肖像画にヒゲやメガネや鼻毛を書き加えた場合、当該画家の著作者人格権の侵害という法的問題が生じます。

絵画や彫刻というと、ビジネスにあまり関係ないように思われがちですが、ウェブサイトのデザインも著作物と考えられます。

したがって、ウェッブサイトの制作も同様で、納入されたページデザインを勝手にいじったりすると、場合によっては制作を委託した業者から著作者人格権の侵害などとケチをつけられる場合が考えられるのです。

これを防ぐのはどうすればいいか?

著作者人格権自体は、著作物が誕生したら勝手に発生しますし、この権利自体を消し去ることができるかどうかは未解明なところもあるので、一番簡単なのは、権利があっても、これを使わせないように封印することがもっとも簡単な処置です。

そこで、実務的に使われる手法は、著作者人格権不行使特約と呼ばれるもので、制作委託契約の際に、この特約を盛り込んでおくと、資本主義社会の本来のルール通り、
「カネを払った人間が、買った著作物を、煮るなり焼くなり、いじくり回したり、落書きしたり、やりたい放題できる」
という設定にすることができます。

参考:
00072_企業法務ケーススタディ(No.0026):開発委託契約書はよく読むべし

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00238_知的財産権のデフォルトルール:権利は、誰のもの? 作った人? カネを出したスポンサー?

大工さんに家を造ってもらった場合、お金を払えば、当然ながら、出来上がった家は施主の所有となります。

「出来上がった家の所有権は代金支払と同時に施主に移転する」
みたいなアホな条項を逐一契約書に記載する必要もありませんし、そんな当たり前なことが契約書に書かれていないことを盾にとって、大工さんが、
「施主がこの家の所有者だなんてどこにも書いていない。オレは、この家を造ったんだから、この家の所有者だ。たとえカネを払った施主といえども、施主は借家人としてこの家を事実上使えるにすぎない」
なんてことを言い出したら、それこそ大問題ですし、法律上もこんな暴論は認められませんが、知的財産権の世界では、大工さんの言い分が正しいとされる場合があります。

すなわち、カネを払って開発を委託したケースにおいて、契約上開発成果物に生じた権利の帰属が明記されていないと、当該権利は、カネを払った人間ではなく、開発した業者の所有に帰すことになります。

無論、カネを払った側は少なくとも開発成果を使うくらいは許されそうです。

しかし、契約書に明記していない以上、開発成果に関する権利は業者の所有物として、業者が特許を取得しようが、その特許を委託者のライバル企業に売り渡そうが、法律上は許されることになります。

「そんなアホな」
と言われそうですが、知的財産権制度は
「知恵を出した人間が知的財産権者である」
という建前で構築されており、カネやインフラを提供した奴は部外者という扱いです。

契約で権利者として扱うことを取り決めがない限り、少なくとも知的財産権の世界ではカネを出した人間は
「お呼びでない」
ことになります。

知的財産権はカネを出した人間ではなく創った人間のモノ。

この(資本主義社会の常識から考えると)異常で狂った取扱が、デフォルトルールです。

参考:
00072_企業法務ケーススタディ(No.0026):開発委託契約書はよく読むべし

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00237_意匠登録をしていなかったら、自社商品をパクられても、何も文句は言えないのか?

パクリ商品が販売された場合、もし、自社商品を意匠登録していれば、侵害の停止や予防のための措置、損害賠償請求に加え、謝罪広告等も求められます。

とはいえ、自動車や家電等であれば別ですが、玩具や雑貨や文房具といった廉価な製品を全て意匠登録するのは現実的でありません。

「下手な鉄砲」
を数打って市場の反応をみてみる、という戦略も一定の合理性があります。

突然どんな商品がどんなキッカケでヒットするかどうかわからないわけですから、長期の戦略にしたがって販売を取り組む主力商品でもない限り、逐一、意匠登録するのは大変です。

すなわち、意匠制度は、登録費用や手間の負担があるため、おもちゃのように多品種少量生産品で、はやりすたりの激しい(商品ライフサイクルの短い)ものには、マッチしない制度なのです。

とはいえ、意匠登録をしていなければすべてのパクリ商品を黙ってみていなければならない、というわけではありません。

すなわち、
「不正競争防止法」
という法律があり、模倣品を売るようなあくどい連中に対しては、この法律にもとづいてヤキを入れてやることができます。

ちなみに、この
「不正競争防止法」
という法律、本件のように模倣商品の販売を禁止したりすることはもとより、著名なブランドの無断使用の禁止、紛らわしい商品名の使用禁止から、営業秘密の侵害禁止、さらには外国公務員への贈賄禁止まで、いろいろな趣旨の規定がヤミ鍋のようにブチ込まれている法律で、使い方も広汎であり、権利救済を考えるときに伝家の宝刀のように使える法律です。

ですので、
「いかに自由競争とはいえ、こんな汚いやり方、ありかよ!」
というときにあたってみると打開策のヒントになることが書いてあり、知っておくと便利なツールです。

不正競争防止法は、商品の最初に販売の日から3年は、当該商品の形態を保護しており、形態模倣をされた被害者は、差止請求、損害賠償請求が可能です。

さらに、平成17年改正に刑事罰も導入され、商品形態の保護が強化されております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00236_戦略法務を担える、「ルーティンオペレーターではない、戦略人材としての法務部員」を調達・養成するには

法務を
「サービス」
としてデザインする観点でこれまでのトレンドを沿革として俯瞰しますと、
「法務活動」
として社内から期待されているサービスは、企業法務黎明期とも言える昭和時代は紛争法務・事件ないし事故処理法務に限定されていました。

といっても、実際、法務部員が裁判の現場で訴訟代理人として活動するのではなく、もっぱら、軍監(軍事監察役、軍目付)のように、
「顧問弁護士等の外注先の法律事務所」
の活動管理(外注管理)がその役割でした。

その後、昭和後期ないし平成初期に入ったころに、
「紛争法務(臨床法務)から予防法務へ」
というサービス範囲の拡大的発展に伴い、法務部提供のサービスの重点が、紛争予防活動、すなわち、契約書整備等にシフトしていきます。

とはいえ、こちらも、法務部で完全内製化できるサービスは、定型的でディールサイズが大きくない取引の予防法務に限定されており、新規・非定型・大規模という属性を有する各取引の予防は、顧問弁護士等の外注プロフェッショナルが大きなプレゼンスをもち、法務部は、その稼働環境整備活動(社内予算の処理や調達手配)がそのメインの所掌範囲となっていました。

2000年以降、企業不祥事が多発し、また、資本市場のグローバル化によって主に海外投資家からガバナンスやコンプライアンスを強化する要請が行われるようになり、経営に
「それまでの閉鎖的で牧歌的で、シビアな合理性や緊張感が欠如した、日本的経営意思決定」
ではなく、
「(欧米的で海外投資家の厳しい目線に耐えうる、グローバルな)合理性と合法性が担保されたシビアな経営意思決定」
が要求されるようになりました。

そこで、経営意思決定の際に、弁護士や法務プロフェッショナルを取締役としてボードにビルドインし、(外部目線、グローバル目線での)合理性と合法性の視点提供や、これら視点による協議参加を担わせるようになりました。

加えて、競争激化やカルテル的体制の崩壊に伴い、個別の事業、プロジェクト、取引を構築する際も、
「書いていないことはやっていいこと」
「相手の無知や無能は徹底的にこちらに有利に利用する」
「規制ニッチはビジネスチャンス」
といった趣の、法律に関する戦術的知見をアグレッシブに活用するプレースタイルのビジネス展開も求められるようになりました。

このように、法務のサービスは、
「紛争法務(臨床法務)から予防法務へ」
「さらに、予防法務から戦略法務へ」
という形で、進化・拡大(サービスの範囲と質のアップグレード)を遂げていきます。

しかしながら、各企業において、現在、この戦略法務を担える
「戦略人材としての法務部員(法務パースン)」
の調達・育成に苦労している状況のようです。

戦略法務、すなわち、経営意思決定に関わるような法務サービスを行ったり(経営政策法務)、戦術的知見を活用して事業モデルを構築したり修正したり再構築したり(戦略法務)、といったことを行える人材が見つからないし、そもそも人材定義も難しく、正直どうしていいかわからない、というのが直面(というか、スタック)している課題対応状況のようです。

日本の管理部門(ホワイトカラーが担う企業内サービス部門)については、
「非常に生産性が低く、また、付加価値も低く、正直、あってもなくてもよく、今後、AIやRPAが企業内サービスの担い手として蚕食しはじめると、大量のリストラが行われる」
などといわれています。

そして、この状況は管理部門である法務も同じであろう、と考えられます。

ただ、これはある意味、不可避で仕方ない現象といえます。

というのは、現状の日本の管理部門のサービス内容は、ほとんど、コモディティ的なルーティンにとどまっており、AIやRPA、さらには外注によって、代替できるものばかりともいえる状況だからです。

しかし、AIやRPAや外注では決して担えない、非コモディティ的なサービス分野もあります。

これが、まさしく戦略的なサービスであり、 経営意思決定に関わるような法務サービスを行ったり(経営政策法務)、戦術的知見を活用して事業モデルを構築し、修正し、あるいは再構築したり(戦略法務) という活動です。

「戦術的知見を活用して事業モデルを構築し、修正し、あるいは再構築したり(戦略法務)」
についてですが、松竹の迫本社長(弁護士資格をお持ちです)がインタビューで
「利益を最大化するため、ぎりぎりまで踏み込んだ強気の経営判断を下す際、弁護士としての経験が生きている。経営上は他社がやらない事業への挑戦も求められ、リスクを乗り越えてこそ見返りも大きい。法の枠内で挑戦し、リスクをとるために重要なのが企業法務だ」
とおしゃっていましたが、この文脈における
「アグレッシブな企業法務」
が戦略法務です。

このような、経営政策法務に加え、戦略法務をやりきる人材が、戦略人材としての法務部員を意味するものと考えます(シンプルに言えば、弁護士資格を持ち、弁護士経験〔迫本氏は三井安田法律事務所での実務経験もあります〕をもち、長い社歴を有する東証一部上場企業である松竹の社長を務めておられる迫本淳一こそが、「戦略人材としての法務部員」になるのではないでしょうか)。

では、どうやって
「コモディティ人材」

「戦略人材」
とし、
「ルーティン部門」

「戦略部門」
にしていけばいいのでしょうか。

一義的な解答が示せるわけではないので、なかなかうまく伝えられませんが、私の個人的なイメージで語ると、
「戦略人材」
とは、
「単に優秀というだけでなく、(ずる賢いという意味で)頭がキレて、大胆でアグレッシブなことを考え、現実の成果が出るまで、信じられないくらいしつこくゲームチェンジができる人間」
という意味ととらえられ、もっと、シンプルにいえば、
「カネが大好きな、負けず嫌いの、インテリヤクザ」
のような人材という意味です。

すなわち、
「コモディティ人材」

「戦略人材」
に変革させ、
「ルーティン部門としての法務部」

「戦略部門としての法務部」
にアップグレードするには、
「(悪い意味での)頭はいいがやる気がなくルーティンだけやっている役人」
的な人材を、
「カネとケンカが大好きな、目つきの鋭いインテリヤクザ」
に変え、法務部を、
「圧倒的な戦略知性とプレゼンスをもつ、泣く子も黙る、任侠集団」
のような組織に変えるような努力が必要であろう、と考えます(あくまでイメージであり、反社は、絶対ダメです)。

そうなると、法務部員のイメージは、
「やる気がないが、温和で善良な村役場の職員」
から、

・強烈な強制の契機をはらんだ圧倒的なオーラを醸し出し、徹底して高圧的な支配を実行する
・法を愚弄する精神で、競争者の存在を否定し、あるいは新規参入の目を容赦なく摘む形で、市場を迅速かつ圧倒的に支配する(つもりで頑張る。実際は法令には触れないように細心の注意を払う)
・このような市場支配(を目指した、法に触れない経済活動)を、大量のカネ、物量を背景に、高圧的に、スピーディーに、合理性・効率性を徹底追求して行う
・法を「ビジネスに対する邪魔、障害」と考え、これを無機能化するために暗い情熱を注ぎ込む
というタスクイメージを持ち、これらタフなタスクを、眉一つ動かさず、クールに、スマートに、完璧に成し遂げる

人材イメージとなります。

しかも、

・各タスクを、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
・平然かつ冷静にやり抜くスキルと、
・スキルとミッションにふさわしい経済的処遇と、成功時に得られる、額を聞いたら鼻血が出るほど莫大なインセンティブと、
・声一つ発することなく、他部門が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
・悪魔の手先のような性根と
・常に、エレガントに振る舞える典雅さ

をもつ、そんな、
「あまり友達になりたくないインテリヤクザ」
のイメージを纏った人材像に変質することになります。

私個人としては、このような
「戦略人材」
は、会社員としての協調性とは親和性が保てず、また、無理に協調性をもたせると、
「遊牧民や大陸馬賊に、畑を耕せ」
と命じるに等しく、求めるべき
「戦略センス」
とハレーションを起こしかねません。

というより、
「スキルとミッションにふさわしい経済的処遇と、成功時に得られる、額を聞いたら鼻血が出るほど莫大なインセンティブ」
を一会社員に提供するのは、現在の日本企業の処遇体系からすると、困難であろうと思います。

したがって、私としては、このような
「企業内での処遇が困難な嫌われ者、鼻つまみ者」
を無理に養成したり、内製化することは、不可能あるいは現実的ではなく、社外取締役への就任等の形で、顧問弁護士との関係を蜜にして、外注活用することが当面の現実解になると考えます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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