01943_従業員の退職撤回リスク

従業員の退職撤回・覆滅にまつわる事件は枚挙にいとまがなく、裁判例も数多く存在します。

これらトラブルは、会社からの退職勧奨が起因となっていることが多く見受けられます。

裁判となって会社が勝訴したとしても、会社側にとっては経過そのものがリスク、となり得ます。

年単位の裁判に関わらされ、薄氷を踏むような勝利であった事実は、経営そのものに影響がなかったとはいえないからです。

たとえば、以下の事件では別の論理で最終的に会社が勝訴しています。

引用開始==========================>
【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成26年(ワ)第8169号
【判決日付】平成27年11月26日
(前略)
2 争点1について
(1) 争点1
ア(原告が,7月29日の面談において,本件退職の意思表示を撤回したか否か)について
(中略)
本件退職の意思表示は,合意退職の申込みであると解されるところ,原告は,7月22日及び同月29日の面談を通じ,原告が働き続けたいという意向を有する限り,これに反して退職させることはできず,妊娠・出産に伴い休暇を取得したいというのであれば,原告の要望を容れるので辞めないでほしいという監査役の言葉に感謝するとともに,これを受け入れ,その具体的な日程・段取り等については監査役に任せると述べたものと認められる。
そうすると,原告は,上記両日の面談をもって(最終的には,7月29日の面談をもって),合意退職の申込みである本件退職の意思表示を撤回したものと認めるのが相当である。
イ 被告は,本件退職の意思表示は,被告の退職勧奨なしに原告が自発的に行ったものであることをもって,これは合意退職の申込みではなく,これが被告に到達した時点で退職の効果が発生し,撤回することができないと主張する。
しかしながら,被告の退職勧奨がなかったことから,直ちに,退職願の提出をもって退職の効果が発生するとはいえないし,また,その後の原告の対応を見ても,退職願を提出したことの一事をもって被告との労働契約が解消されるという前提で行動していないことは明らかであり,被告の就業規則における退職の手続(前提事実(2)エ)にも併せ鑑みると,本件退職の意思表示が被告主張のようなものであると解釈することはできず,被告の上記主張は採用することができない。
(以下、略)
<==========================引用終了

労務問題対処実務においては、
「揉めてから考える」
のではなく、
「揉めないようにするため、事前に出来ることは、全て疎漏なく尽くしておく」
という不文律が確立しています。

「揉めた」
場合、その時点で、すでに解消困難なリスクが出現している可能性があり、対処行動上の選択肢が非常に限定された状況となります。

話を戻すと、 会社側が退職勧奨をする場合、
「揉めないようにするため」
のお作法がある、ということになります。

さらにいえば、従業員に退職勧奨する前の段階において(たとえば、休職中や定年など)、
会社は、
「事前に出来ること」

「全て」
洗い出すなど、心づもりしておくこと(人事担当者の教育を含めて)も、リスクを軽減する、という意味と意義においては有効でしょう。

労務問題対処を適切に行う経営者の多くは、 平時より、実務経験に照らした状況評価や展開予測とこれに対する対処行動上の
「選択肢」
について、弁護士と密接にやり取りを交わしています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01942_法務課題解決プランが複数同時に進行する弊害とトップの役割

企業が、ある法務課題について、顧問弁護士に支援を依頼し、具体的行動を計画・準備・着手し、顧問弁護士が代理人として対処している最中に、企業内にて、不協和音が生じることがあります。

ほとんどの場合、ある取締役(責任役員)が不安や不満を発し、複数の取締役(責任役員)に伝播し(あるいは、根回しらしきものが行われ)、進行中(フェーズが変わったとはいえないようなタイミング)に、プラン変更をトップに迫り、トップが押し切られる形でプラン変更を決意する、というような場合です。

言い出しっぺの取締役(責任役員)は、独自の方法、独自の手法、独自のネットワークでの解決を試みます。

他方で、トップは、顧問弁護士に対し、事をなすにあたって挨拶をしておくという意味合いで、
「進行中のプランに並行する形で、別プランも進めようと思う」
「進行中のプランに並行する形で、別プランを進めるが、どうだろうか」
と、連絡をすることもありましょう。

たいてい、別プランの手法等が顧問弁護士に明らかにされることは、ほとんどありません。

相談を受けた顧問弁護士としては、その手法が適法・適正である限りにおいて、特段、許否についてコメントを差し上げるものではありません(手法等が明らかにされないとなると、コメントのしようもありません)。

そして、別プランの手法等が奏効し、法務課題の解決に一歩近づいた(あるいは近づいたように見えた)としても、ガバナンス実務のテクニカルな問題として、手続き等の各種の純法的課題や事務課題が出来することは、容易に想定されます。

そのような法的課題対処においては、(もちろん、法的に適正妥当であることが前提ないし条件とはなりますが)法技術介入の要素ないし契機が存在しますし、その限りと前提においては、顧問弁護士独自の資源動員と、その成果による成功・不成功という事態が確認されます。

したがって、顧問弁護士としては、

・本件については、純粋な法的事案、独立の事案として、継続して遂行する
・別プランの試みについては、その詳細を知らされていないことからも、顧問弁護士は関知できないし、その適否についても、何らコメントできないし、適正性等を保証するものではない(詳細が知らされていないのであれば、意見すら形成できない)
・単純な一般論として、今後、事案全体をより複雑にする可能性も否定できないので、この点に留意していただきたい、とのコメントを提示せざるを得ない

という形で、態度を整理することとなります。

しいて言えば、法務課題の解決は、正解や定石なき営みであり、いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。誰が、どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いて判断するかによって、結果が変わってきます。

トップが右往左往し、プランが複数同時に進行するのは、
「船頭多くして船山に上る」
「役人多くして事絶えず」
となりかねない、ということは確実に言えます。

結局のところ、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行い、失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となるのは、企業経営者以外にはいない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01941_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その2_役割分担設計

弁護士の起用については、その役割分担設計が、カギをにぎります。

弁護士の側にたってみる(弁護士視点)と、留意すべきことが明瞭となるでしょう。

たとえば、オーナー経営者が弁護士に対して
「契約書の文言の違いを教えてほしい」
と、助言を求める場合があります。

それは、交渉ごとの、作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違いを求めているということであり、作戦全体の協議では、ありません。

整理すると、オーナー経営者の求めた助言は、
「作戦環境の認識・評価・解釈、適用されるべき作戦原理(交渉ごとのアーキテクチャ・ロジック・ルール)、作戦目標の設定、障害課題の抽出、選択肢の創出、プロコン分析、遂行方針の決定、遂行」
のすべてを、依頼者であるオーナー経営者本人の権限と責任で実行する前提で、依頼された弁護士は、
「作戦全体の協議に応じる必要はなく、個別課題の部分最適に徹すればよい」
ということを意味します。

ですから、弁護士としては、作戦全体の協議を求められているわけではないので、余計な口を挟むことなく、
「作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違い」
に対して端的に答えるだけ、という役割になります。

さて、ここで、弁護士として困るのは、(法務専門家でない)オーナー経営者本人がとりあえずやってみて、うまくいかなかった場合に、突然、弁護士に
「ここから先は頼んだ」
とバトンタッチする、という場合です。

弁護士側からすると、途中から、
「作戦全体についてよろしく」
ということで、はじめて聞く内容を伝えられ、そこには弁護士が認識していた交渉ごとの実体・仕組みとはまったく異なる交渉経過が記されている、というようなことなのです。

そして、このケースは、現実には少なくありません。

むしろ、現実は、規模の小さな会社組織であればあるほど、多いのです。

たとえるなら、
・「索敵と敵情視察だけしてきて報告せよ、作戦構築は口出し無用」と厳命され作戦協議から排除されながら、戦局不利となったら参謀総長と全体指揮を任される状況
あるいは、
・最高級の食材を、料理経験のない人間の適当な仕込みで途中まで仕上げた得体のしれない料理を、うまくいきそうにないから「後は任せる」と3ツ星シェフが言われるような状況
です。

「ことの発端から、タブーや遠慮なき、自由な議論を求められ、その上で、作戦に関与する」
というならさておき、議論にタブーや遠慮が求められ、また、個別最適の論点のみ聞かされるような状況で、失敗したら途端にスケープゴートにされる、というのは、弁護士としては愉快ならざる状況であり、仕事の道義としてもどうだろうか、ということなのです。

「契約書の文言の違い」
の1つとっても、弁護士との役割分担設計が明確になされなければ、結果として、カネ・時間という資源がどんどん費消され、オーナー経営者が願う結末にたどり着く可能性が限りなく低くなるのは当然、となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01940_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その1_弁護士の関与のあり方

有事における法的な交渉は、その実体も仕組みも、すべて、複雑な形式知と経験に基づく暗黙知で構成されており、素人がタッチすると、たいてい失敗します。

有事における法的な交渉において、プロ(弁護士)の介入は早期なほどよい、というのは鉄則です。

ですから、有事が発生すると、多くの企業は、弁護士を起用します。

さて、弁護士を起用する前に、オーナー経営者がすべきことがあります。

それは、
「弁護士の関与のあり方」
について、オーナー経営者自身が態度決定することです。

弁護士の関与が
1 企業の利益の実現やリスク・損害の逓減・排除なのか、
2 企業の中にいる特定の方々の立場やメンツやプライドやメンタリティを健全に維持することなのか、
は、重要な論点となり得ます。

当然のことながら、弁護士は、倫理上も道義上も(2ではなく)1を優先する、という立場を固持します(し、それは、長い目でみれば、クライアントの利益に適っています)。

要するに、弁護士は、作戦協議において、禁忌も遠慮も一切無用で、ただひたすらに、作戦原理に基づいて1を優先して交渉事をすすめていきますが、その過程で、
「それは、あまりにも峻烈すぎるのではないか」
「相手方は、今までの取引先なのに」
「このことが、噂となって他の取引先にも広がったら・・・」
と、法務の専門知見の欠如した管理職が、あらぬ心配を口にし始め、その挙句、
「その表現では相手方を刺激しすぎるのではないか」
「もう少しやわらかく交渉した方がいいのではないか」
「社長、本当に、あの弁護士のやり方でいいと思っているのですか」
「このやり方をすすめるのであれば、私はついていけません」
などと、妥協論を唱え、弁護士のやり方を批判することが、(会社の規模や形態・業種にもよりますが)少なくありません。

オーナー経営者が、1を優先させて、管理職の意見を退ければ、作戦目的は達成できるでしょう。

しかし、オーナー経営者が、2を優先させて、管理職の意見を聞き入れ、弁護士のやり方を退けると、内部による利敵行為に足を引っ張られることとなり、作戦目的の達成はなし得ません。

平時では、
「そんなの当たり前だ」
「何を今さら」
「そんなことは、わかっている」
と一笑に付されれそうですが、有事においては作戦目的達成のカギとなるほど、1・2の論点は重要性を帯びてくるのです。

有事における法的な交渉の成否は、オーナー経営者が
「弁護士の関与のあり方」
についてどれほど理解しているかにかかっている、といっても過言ではありません。

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01939_有事の際の心得_弁護士とのコミュニケーション

有事の際、弁護士は、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
のコミュニケーション に徹し、クライアント側からすると腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えます。

それは、 ひとえに
「長期的にはクライアントの利益」
のためであり、 (クライアントの)課題や対処事項、その方向性を適正にするためにほかなりませんが、 なかには、
「わたしはクライアントです(もっと丁重に扱われるべき存在です)」
「ここまで無能扱いされるとは心外です(現実をみせないでください)」
「もっと礼儀をわきまえた言い方をしてください(もっと丁寧にやさしく言ってください)」
と、 激怒する方も少なくありません。

弁護士としては、クライアントが望むのであれば、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
ではなく、
「目的後退、儀礼優先」
として、ジェントルで、エレガントなコミュケーションを図る方針に大転換することも可能です。

わかりやすくいえば、クライアントが望むのであれば、弁護士は、 腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えるのではなく、ふわっと曖昧でクライアントの耳に心地いい会話に大転換することも可能です。

しかし、その瞬間、クライアントは、
「時間」

「機会」
を喪失し、結果として、利敵の結果を生み、長期的にはクライアント自身の利益を大きく損ねる結果になり得ます。

すべてはトレードオフといえましょう。

クライアントは、
「何を優先させたいのか」
を、よくよく
「思考」
し、
「選択」
しなければ、事態の改善・解決に向かってすすむことはできない、ということです。

厳しいようですが、これが現実なのです。

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01938_相手とケンカをする際のアクションプランの整理

ケンカをする際、相手方によって、アクションは変わります。

弁護士としては、アクションは、4つに整理できると考えます。

アクションプラン1
相手方を「常識が通用するマトモな組織である」との前提で、ジェントルに、エレガントに、良識を以て、おだやかに交渉する

アクションプラン2
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「有力な権力者の威光を以てすれば、相手方はこれにひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、有力な権力者を動かす

アクションプラン3
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「弁護士が出てくれば、弁護士の威光にひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、特に、具体的な圧力を明示せず、とりあえず対話をするため、弁護士を動かしてみる

アクションプラン4
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつ、また、「有力な権力者の威光も、弁護士の威光なども、まったく意に介さないし、相手方には常識が一切通用しない」との前提で、裁判所への提訴を所与として、その準備をしつつ、また、具体的準備状況をちらつかせつつ(具体的な圧力明示)、弁護士を通じた交渉(対話)を行い、頓挫すれば、ただちに訴訟に移行する

アクションプラン1や2であれば、弁護士は要りません。

アクションプラン3や4となると、相応にコストがかかります。

そして、アクションプラン4となれば、相応にコストがかかるうえに、コストを上回る期待値はどうか、といいますと、弁護士として冷静なエコノミクスの分析をしても、その結果については、実際は、腹の立つような結果となることが少なくありません。

どのようなアクションを選択するにせよ、
感情を優先するか
勘定を優先するか
このジレンマをきちっと解消しないまま、相手とケンカをすすめ、
「事件」
に突入することは、さらに不幸が大きくなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01937_紛議になったら、まず整えるべき体制

紛議になれば、本格的に調査・解明を進める
「体制」
を整えることとなります。

それは、資源動員を柔軟にすることと、調査権限を弁護士に付託すること(オーソライゼイション)による、調査を円滑化にすることを目的とします。 

1 調査体制の整備
1)プロジェクトオーナー
2)プロジェクトマネージャー
3)事務局長
4)対策本部顧問

2 計画策定
1)予算
2)時間(期限とそこに至る工程)
3)稼働体制・協力体制に関する調整

3 方法論
1)証拠の入手と整理
2)相関図を含むリストの作成(登記簿謄本などオープンソースとして入手可能な関連資料も)
3)取引等の全記録の抽出
4)(3)のカテゴライズ(ホワイトなのか、グレーなのか、ブラックなのか)
5)推定を含め全容の解明

このように本格的な
「調査体制」
を整えないと、 時間ばかりを費消させ、また、資源の効率的運用という点でも顕著なマイナスが生じかねません。

調査のやり方といった方法論もさることながら、遂行資源を
「体制」
として組織的に整備し、
「時間資源」
をもスケジューリングしながら管理して進める、ということです。

そして、
「調査」
が終われば、その次に、
「調査認定」、
それから、
「各種訴訟提起」
という流れとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01936_訴訟提起されそうな気配を察知したときの選択肢

訴訟されそうな気配を察知したら、すぐさま応戦体制を敷く、ということもありましょうが、ケースによっては、
1 何もせずに、訴えられるのを待つ
2 相手に対して、裁判例を示して、牽制を加える
という戦略もあります。

2は、訴訟を進める上で(相手方に)重大な障害にぶち当たることを予知させることで、訴訟提起を断念させる方向への誘導が可能となります。

ここでいう
「(相手方に)重大な障害」
を、細かくみていきましょう。

裁判例をみた相手方弁護士からすると、訴訟に難航が予知され、長陣になった上に、最後に敗訴を食らうことも想定され、赤字事件化しかねません。

そこで、相手方弁護士としては、赤字覚悟で事件を引き受けるよりも、(相手方本人に対し)着手金を高めに設定したり月額費用を追加するなどの措置を取るでしょう。

それは、相手方本人にとっては、訴訟コストが跳ね上がることを意味します。

「訴訟に難航が予知」
「長陣」
「敗訴」
は、すなわち
「訴訟コストの大幅アップ」
を意味するだけでなく、
「こんなはずではなかった」
「話が違う」
と、相手方において、弁護士サイドと本人サイドとの内部抗争を誘発することになりますし、訴訟提起を断念させる方向への誘導が可能となります。

こちらとしては、
「いいことづくめ」
といえるのです。

ただし、以上の戦略は、顧問弁護士の手腕(交渉力)に依拠することを忘れてはなりません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01935_トラブル解決のための段取り

トラブルを法的に解決するためには、次のような流れで、段取りを組んでいくこととなります。

1 トラブル解決を行う上での基本的前提の共有

トラブルを解決するには、
「日常空間」
とはまったく異なる
「ビジネス空間」、
さらには、
「ビジネス空間」
よりも特異度の顕著な
「リーガル(有事・法的紛争)空間」
における、基本的な空間支配プロトコルを知らなければなりません。

そのうえで、弁護士は、クライアントに対し、3つの各空間における
「トラブル解決のアーキテクチャ」
「トラブル解決のロジックやルール」
を、事例に即して伝えます。

2 具体的な落とし込みの検討

クライアントのリテラシー実装を前提として、行動対処計画(「トラブル解決のアーキテクチャ」「トラブル解決のロジックやルール」に即応し、最適化したトラブル解決プラン)の具体的落とし込みを検討します。

3 行動計画の立案・提示し、予算計画や動員計画をたてる

・クライアントにおいて対処する事柄
・弁護士が準備して、クライアント名義で対処する事柄
・クライアントと弁護士が共同して対処する事柄
・弁護士がクライアントの代理人として対処する事柄

といった形で、それぞれの状況対処課題について最適な行動計画を立案し、提示し、予算計画や動員計画を詳らかにして、対処していくこととなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01934_予防法務の大切さ_現状総括

プロジェクト責任者が、企業トップに対し、
「現在の状況については結果的にはそこまで悪い状況ではないと考えていますが・・・」
などと前置きしながら報告をする場合、 たいていは、状況は悪化しています。

悪化、すなわち不快な状況にいたるには、

ゲーム空間の構造、論理、秩序、ルールの理解の不全
状況認知の不全
状況評価の不全
状況解釈の不全
展開予測の不全
ゴールデザインの不全
課題抽出の不全
対処行動選択肢抽出の不全
実行上のミス

等、実に様々な失敗の連鎖があるはずです。

そして、
「現在の状況については結果的にはそこまで悪い状況ではないと考えていますが・・・」
と言うプロジェクト責任者の、その認識ないし解釈そのものが
「不全」
となっている可能性があります。

企業トップが、不快な状況を変えようと、ゲームチェンジを行うのであれば、
「経路遮断」
を前提に、 現状総括をしなければなりません。

プロジェクト責任者が、どの部分から病巣部位が始まっているのかを認識していない状況では、自己保存バイアスが働き、
「経路依存」
が顕著となり、小手先のゲームチェンジとなって、また、より悲惨な失敗にいたるからです。

弁護士が加わったとしても、認知が歪んでいる責任者と、ロジカルな戦略を議論したところで、時間と労力の無駄になりかねません。

「現状総括すら困難であり、認知支援を」
と、企業トップが弁護士に相談するのであれば、非法律的案件として、
「現状総括DD」
を依頼することとなります。

企業にとっては、それすら、お金と時間を垂れ流すことになりますが、まずは現状の総括をしないことには、ゲームチェンジなど行えないのです。

こまめに顧問弁護士と連携をとり、フェーズが変わるごとに現状総括することは、予防法務に通じます。

「虫歯が広がってから虫歯の治療をはじめるよりも、虫歯にならないようにこまめに歯をメンテナンスすること」
に照らし合わせると、わかりやすいでしょうか。

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