01842_予防法務_経営戦略

予防法務について弁護士に相談するには、以下の経営戦略を調査・分析することが前提となります。

1 環境分析として、マーケットの実像や顧客の姿
2 企業がつくるモノあるいはサービスは、プロダクト・アウトなのか、マーケット・インなのか
3 顧客の具体像を、欲求、現実、価値という3つのファクターで明らかにする
4 ゴールデザイン

このうち、3については、よくよく考えぬかねばなりません。

3 顧客の具体像を、欲求、現実、価値という3つのファクターで明らかにする

ビジネスのゴールは顧客を変えることではありません。

顧客は変わりません。

変わりたくありません。

無理に変えようとすると、反発し、喧嘩になります。

そして、宗教戦争をみればわかるように、最後は殺し合いまで始める。

だから、顧客を変えようとしてはいけません。

ビジネスのゴールは、顧客を
「満足」
させることです。

満足とは、
「価値の提供」
です。

そして、
「価値の提供」
とは、ビジネスの文脈においては、
「(顧客が現実的に直面している)課題の解決」
とほぼ同義です。

そのためには、
「顧客の課題」
「顧客の現実」
を知らなければなりません。

(1)顧客がどのような現実をみていて(どんな不快な状況に陥っていて)
(2)何を求めていて(製品を求めているのか、便益を求めているのか)
(3)求めているものにどのくらいの価値を認めるか(いくら払ってくれるのか)
を知る必要があります。

「顧客にとっても価値のあるものとは何か」
「顧客は何を求めて製品を買うのか」
という問題に解答を見出すことが起点になります。

よく言われるたとえは、
「ドリルを買う顧客は、ドリルが欲しいのではなく、壁に穴を空けてカレンダーをかけたいだけ」
というものです。

この場合、壁に穴を空けなくてもカレンダーを貼れるものがあれば顧客の課題は解決します。

顧客が買いたいものは、
「製品」
ではなく、
「(製品を通して得ることのできる)便益(ベネフィット)」
ということです。

企業が
「顧客に対して何を提供すべきか」
を考える時には、
「顧客が本当に買いたいと思っているものは何か」
を考え、考え、考え抜く必要があります。

企業がビジネスに失敗する最大の原因は、
「我々(企業)は、『自分たちの売り物(製品やサービス)が、現状どのようもので、今後どのようなものであるべきであり、どのようなプロセスで買われ、どのように使われるか』について、顧客以上に知っている」
と根拠なく信じることです。

企業が、顧客を観察せず、市場との対話を放棄したとき、企業は、必ず、ビジネスに失敗します。

必ず、です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01841_有事の際のセカンドオピニオンの活用について

企業が有事に直面し、決定した作戦状況(「ゲーム」と筆者は呼びますが)を進めてきたはいいが、想定していたような進み具合ではない、あるいは関係者から提案され、ゲームチェンジを考えたとします。

このようなとき、たいていのトップ(プロジェクトオーナー)は、ほかの弁護士にセカンドオピニオンを聞きます。

医療でいうところの、患者が納得のいく治療法を選択できるよう、担当医とは別に、違う医療機関の医師に第2の意見を聞くことと同じで、経営者がセカンドオピニオンを求めて顧問弁護士とは違う弁護士に意見を聞くのは、めずらしいことではありません。

さらにいえば、すぐに転院し担当医を替え治療法を変えるわけではないのと同じで、まずは第2の意見を聞くだけです。

相談された弁護士が最初に助言することは、まずは、現在の作戦状況の認識、評価、見極めが先決、ということです。

なぜなら、もし、
「上手く行っている」
と評価できるのであれば、ゲームチェンジは不要だからです。

そして、
「上手く行っていない」
と評価したなら、なぜ、そのような仕儀に至ったのか、原因と責任を追及しなければなりません。

それは、簡単な課題ではありません。

戦犯を特定することとなるからです。

指示した人間は誰なのか? 

いつ何をどのように指示したのか?

指示を受けて遂行した人間は誰なのか?

いつ何をどのように遂行したのか?

5W2Hで、時系列でミエル化・カタチ化・言語化・文書化しなければなりません。

ここで注意すべきは、戦犯を吊るし上げるという話ではないということです。

戦犯を特定する、それだけです。

ゲームチェンジを行うのであれば、戦犯を排除することが絶対条件です。

戦犯が新しいゲームに関わると、新しいゲームも失敗します。

実際、ゲームの失敗の総括をあいまいにしたまま(=戦犯をぼかしたまま)、戦犯がチームに残存したまま、ゲームチェンジをした際、戦犯は、
「猫の粗相隠し」が如く、
自己保存バイアスを働かせ、ゲームを不合理なものに誘導します。

失敗をした人間の愚行の隠蔽工作のために、ゲームチェンジをするのではありません。

企業の利益のために、ゲームチェンジをするのです。

そのためにも、新しいゲームをキックオフする場合には、
「失敗した人間をはっきりさせ、新しいゲームに一切関わらせない」
ということが、作戦成功の絶対条件になるのです。

この一連の課題を達成するには、ゲームをはじめるとき以上に、時間と資源の動員が必要になりましょう。

失われた時間によって、戦況が不利にならないとも限りません。

ゲームチェンジは、それほど簡単ではない、ということです。

だからこそ、予防法務が大切になってくるのです。

弁護士はミリタリーとして、企業の利益と軍事作戦の合理的遂行の助言をしますが、企業として、弁護士をもっとも有益かつ合理的につかうのであれば、予防法務のために助言を求めることです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01840_有事の際、作戦状況を変えるには、現在の作戦状況の認識、評価、見極めが先決

有事の際、作戦状況(「ゲーム」と筆者は呼びますが)を変えるには、現在の作戦状況の認識、評価、見極めが先決課題となります。

なぜなら、もし、
「上手く行っている」
と評価できるのであれば、ゲームチェンジは不要だからです。

そして、
「上手く行っていない」
と評価したなら、なぜ、そのような仕儀に至ったのか、原因と責任を追及しなければなりません。

それは、戦犯を特定することとなります。

戦犯を吊るし上げるという話ではありません。

戦犯は排除する、ことが、ゲームチェンジの絶対条件です。

戦犯が新しいゲームに関わると、新しいゲームも失敗します。

実際、ゲームの失敗の総括をあいまいにしたまま(=戦犯をぼかしたまま)、戦犯がチームに残存したまま、ゲームチェンジをした際、戦犯は、「猫の粗相隠し」が如く、自己保存バイアスを働かせ、ゲームを不合理なものに誘導します。

失敗をした人間の愚行の隠蔽工作のために、ゲームチェンジをするのではありません。

そのためにも、ゲームチェンジをして、新しいゲームをキックオフする場合には、失敗した人間をはっきりさせ、そいつは、新しいゲームに一切関わらせない、ということが、作戦成功の絶対条件になるのです。

なぜ、このような状況に陥ったのか

指示した人間が愚鈍なのか

指示を受けて遂行したやつが愚鈍なのか

アホを紹介したやつが愚鈍なのか

全員が愚鈍なのか

愚鈍な状況に陥ったにも関わらず、愚鈍な状況であることに気づかないほど愚鈍なのか

なぜ、ここまで
「愚鈍」
を連発するかといいますと、ゲームチェンジをするには、徹底的に、現在までのゲームの認識、評価、見極めが必要だからです。

繰り返しになりますが、ゲームの失敗の総括をあいまいにしたまま(=戦犯をぼかしたまま)、戦犯がチームに残存したまま、ゲームチェンジをした際、戦犯は、
「猫の粗相隠し」が如く、
自己保存バイアスを働かせ、ゲームを不合理なものに誘導するからです。

愚鈍の奥行きの程度と病理の深度を総括して計測しておくべきことは、今後の再発防止にも有益なのです。

もしも、
「愚鈍」
という言葉が不快であるなら、
「アホ」「バカ」
という言葉で置き換えてもいいでしょう。

「愚鈍」「アホ」「バカ」
といわれるほど、失敗していない、と思うかもしれませんが、失敗していなかったら、ゲームチェンジは不要です。

成功しているのなら、ゲームチェンジは不要なのです。

ゲームチェンジが不要なら、弁護士の出る幕はないのですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01839_有事において無責任の情緒的論評を許すことは、戦う前から負ける_その2

企業によっては、経営コンサルタントをつけている企業があります。

企業が有事に直面したとき、経営者と経営コンサルタントに、(状況の認知、解釈、評価、捉え方の部分で)温度差が生じることがあります。

なぜなら、有事にかかわる安全保障課題というものは、ある意味、ビジネスパーソンにとっては、経済合理性を完全に逸脱した、実に厄介な問題だからです。

しかも、経営者と経営コンサルタントが長きにわたる関係である場合、その温度差はより大きなものとなります。

親しい間でチーム内での濃密な同調環境も手伝ってか、有事状況を、明確な論理と分析によって、言語化・文書化することなく、同じ風景を同じ感受性でみている、という双方の思い込みが邪魔をするからです。

この種のトラブルは、有事の専門家である弁護士としては、よく目にする光景です。

しかしながら、基本的に、有事事態対処の状況評価・状況解釈・展開予測・ゴール設定・課題定義・方法論策定抽出と選択・ゲームチェンジ、という一連の選択課題を決定する総大将(トップあるいはプロジェクトオーナー)は、一人です。

有事において、経営者と経営コンサルタントに温度差が生じるような場合、弁護士は、あえて、どぎつい言葉を使って、極端な論理や、毒々しい展開予測を使って、意図的に状況を誇張し、乖離を明確にし、曖昧さを徹底的に排除していくようなプロセスで、事態を冷徹に捉えていきます。

また、このプロセスを早急に行うため、ときとして、目的優先、儀礼軽視のスタンスで、クライアントである企業経営者に不快な物言いをすることがあります。

弁護士はミリタリーとして、企業の利益と軍事作戦の合理的遂行のため、無責任なデマを戒め、経営者に俯瞰させようとしているのです。

傍目八目とはよくいったものです。

人間は自分のことは決して俯瞰してみることができません。

経営者としては、弁護士の不快な物言いにとらわれることなく、その俯瞰した助言から、まずは、状況を評価する主体と、当該評価した状況を前提にした作戦目標や作戦範囲を一定の予算規律の下に決定する主体を決めることです。

そうでなければ、先に進むことはできません。

要するに、経営者は、経営コンサルタントと弁護士の役割は、まったく違うということを頭に入れ、有事にあたらなければならない、ということです(頭では理解はしているが、無意識下では同じと捉える経営者があまりにも多いのが現実です)。

ただし、会社を経営する弁護士は、この限りではありません。

経済合理性と安全保障課題、この相反する課題に精通している弁護士は、まれでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01838_有事において無責任の情緒的論評を許すことは、戦う前から負ける

基本的に、有事事態対処の状況評価・状況解釈・展開予測・ゴール設定・課題定義・方法論策定抽出と選択・ゲームチェンジ、という一連の選択課題を決定する総大将(トップあるいはプロジェクトオーナー)は、一人です。

すなわち、社長をトップとする経営上の指揮命令系統は整備されているものです。

しかし、企業によっては、それ以外の役員も作戦について自由な論評をしている企業があります。

さて、ミリタリーの常識は、シビリアンの常識とは異なります。

そして、(シビリアン空間とはまったく異質の)ミリタリー空間における事態対処は、ミリタリーの常識で対処すべきですが、その際、必ず、シビリアンが、シビリアンの常識による批判や反発が生じます。

もちろん、論評は自由です。

ただ、責任ある論評以外の無責任の情緒的論評は、混乱を招き、利敵に失します。

責任ある論評とは、

1 軍事作戦の結果について責任をもつ覚悟がある。すなわち、

01654_クライアント(プロジェクト・オーナー)の義務や役割や責任(1)_勝敗・成功失敗・首尾不首尾というものが観念され、結果が蓋然性に依存する事件(争訟事件)の場合

2 軍事作戦協議のすべてにおいて出席し、ミリタリーの面前で、しっかりと自分の意見を述べる

3 作戦を批判するのは自由だが、批判する場合、より高度で現実的で達成蓋然性の高い代案を提示する

これら、すべての要素を実装した意見です。

反対に、

1’ 軍事作戦の成否に責任を負担しない立場で、

2’ 軍事作戦協議には出席を忌避し、出席しても、自分の意見を述べずに、陰口を陰湿に叩き、

3’ 批判はするが、対案を述べないか、対案を述べても、「証拠はないが気合で勝つべき」「証言や陳述書作成は断るが、証言や陳述書がなくても裁判官がわかってくれるはず」「相手を叩きのめすために必要な状況のミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化は面倒でやらないか、言語化知性や事務的資源がないのでできないが、正義はこちらにあるので当然勝てる」という愚劣な精神論レベルのものである

というような論評を許すことは、戦う前から、負けています。

企業によっては、有事対処のためのミリタリー体制が未熟で、総大将(トップあるいはプロジェクトオーナー)一人が責任をもつ、というよりも、ろくでもないシビリアンが跳梁跋扈して、内部秩序や統制が崩壊しているところもあります。

逆に、トップ(プロジェクトオーナー)が、作戦協議への参加を拒否するのであれば、そのトップは、作戦遂行の上では、部外者です。

部外者が、無責任な論評をすることは、明らかに内部秩序の崩壊をもたらし、利敵に失します。

弁護士は、ミリタリーとして、企業の利益と軍事作戦の合理的遂行のため、無責任なデマを戒め、責任ある言論を歓迎します。

ステークホールドしている関係者は何人でも弁護士と対話すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01837_「65歳定年後に再雇用としての有期雇用契約を締結しその後更新されることなく雇止めとされた労働者」の労務問題についての法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装と、評価・解釈・展開予測

1 法務課題

企業側の、期間雇用の更新拒絶という事案は、
「何か文書を発出すれば、それで問題なく契約終了という効果が生じる」
事務ルーティンではなく、
「相手が抵抗し、抵抗すれば、相手方の主張が認められる可能性がある」
法務課題です。

「仕方ない、それなら雇用を継続しよう」
と考える経営者もいましょうが、これは法務課題の意味を誤解しています。

すべては、環境と相手(従業員)の出方に依存する課題ですので、有利・不利の問題であっても、こうすれば絶対こうなる、という類の話ではありません。

2 法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装

継続雇用実績ある期間雇用者の更新拒絶という法務課題を理解するための、前提リテラシーとしては、
「裁判所が徹底した労働者保護の哲学をもっている」
という点にあります。

具体的には、更新回数が1回と少ないにもかかわらず、雇用継続に対する合理的な期待の存在が肯定された裁判例があります。

「定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(労契法19条2号)がある」
とされ、65歳定年後に再雇用としての有期雇用契約を締結しその後更新されることなく雇止めとされた労働者についても、同様に更新を期待する合理的理由があるとされたものです。

交通事故等が雇止めの客観的合理的理由になるかどうかという点についても,免許取消処分や免許停止処分を受けたわけではない等とされ,雇止めが違法とされています。

「そんなのやってみないと解らないではないか」
という理解で、雇い止め通知をしてみたり、退職合意書の押印を求めたり、というのは、不可逆的な不利をもたらす可能性があります。

もちろん、相手が応じてくれればいいのですが、相手が応じず、
「御社が退職を求めて、相手が拒否した」という事実だけが残った場合、
その後、法的資源(予算)を動員して、いろいろ状況を整備し、理由を構築して、改めて、最善解に近い形で雇い止めをしたとしても、
後日、訴訟沙汰となれば、裁判所は
「雇い止めそのもの」を権利の濫用として処理
するからです。

3 評価・解釈・展開予測

要するに、雇い止めや、退職を求めるのは、一発勝負で、後日、裁判にもつれ込んでも、裁判所が納得するロゴス(論理)とパトス(情緒)とエトス(信頼・証拠)を実装した上で行わないと、雇用停止の機会を不可逆的に喪失する危険性があるのです。

その意味で、抽象的な評価概念を羅列しただけの雇い止め通知や、交渉のためのアメやムチを整備しないまま退職勧奨になだれ込むのは、
「弁護士としては同意いたしかねる想定に基づく悪手」
と評価できます。

4 裁判例

【判例番号】L07530284 地位確認等請求事件
【事件番号】東京地方裁判所判決/令和元年(ワ)第11642号
【判決日付】令和2年5月22日
【判示事項】
1 労契法19条2号における,雇用契約が更新されるものと期待することについての合理的理由の存否は,当該雇用の臨時性,常用性,更新の回数,雇用の通算期間,雇用期間の管理の状況等を総合考慮して決すべきものと解されるとされた例
2 被告Y社のタクシー運転手のうち,70歳以上の運転手は16%以上に上ること,原告Xは昭和57年に入社後からタクシー運転手として勤務し,定年退職後の嘱託雇用契約についても契約書や同意書等の書面の作成がないまま,嘱託雇用契約を一度更新したこと等が認められ,これらの事実に照らすと,69歳に達したXにおいても,体調や運転技術に問題が生じない限り,嘱託雇用契約が更新され,定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて,合理的な理由が認められ,X・Y社間の嘱託雇用契約は,労契法19条2号に該当するとされた例
3 本件接触および本件不申告のみを理由に雇止めとすることは,重すぎるというべきであり,本件雇止めは,客観的に合理的理由があり,社会通念上相当であるとは認められず,したがって,労契法19条に反して無効であるとされた例
【掲載誌】労働判例1228号54頁 LLI/DB 判例秘書登載

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01836_労務に関する法務課題についての動員コスト

企業によっては、楽観想定を堅持し、楽観想定に基づく具体的行動を計画・準備・着手し、また、この点について弁護士に支援をしている最中であったとしても、悲観想定に基づく動員計画(予算見積もり)もみてみたい、予備的に欲しい、という場合もあるでしょう。

その場合、裁判例を抽出し、抽象的な評価概念を、具体的な事実と実例によって根拠構築する必要があります。

要するに、状況を、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化するプロセスが必要になります。

そして、最善手として対処するのであれば、フォーマル化し、交渉することまで想定しなければなりません。

それには、相応の資源動員が必要です。

フェーズ1 状況を、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化するプロセス
フェーズ2 文書化したものをフォーマル化し、後の紛議を見越した通知を起案・作成・発出
フェーズ3 最終的に、和解合意書を取り付ける交渉

フェーズ1~2の事務支援だけではなく、フェーズ3において、弁護士が代理人として対処するのであれば、別途、弁護士インセンティブを設計することになります。

「そんなに面倒なのか、そんなにコストがかかるのか」
と驚く経営者も少なくありませんが、そこまで費用と手間をかけても、なおも、敗北する可能性もある、というのが、一般的な労務に関する法務課題の現実なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01835_企業トップと弁護士のコミュニケーションインフラが排除されるとロクなことがおこらない

01836に書いたとおり、法務事案(リーガルマター)はすべからくトップマターであり、弁護士からトップに発するメッセージは、相応に重要性があります。

そもそも法務事案であるにもかかわらず、企業トップと弁護士との直接のコミュニケーションインフラを、 中間管理者(企業の担当者)が、
「弁護士のいうことは大げさ過ぎる」
「経営課題ではないから」
などといって、ブロックし、
「法務・安全保障課題の発見・認知」
「法務・安全保障課題に関する前提リテラシーの実装と、評価・解釈・展開予測」
「課題対処の計画立案」
を省略し、いきなり
「課題対処の着手・遂行」
にジャンプすることがあります。

しかも、その方策を、弁護士に相談することなく、単なる事務ルーティンとして処理しようとします。

これまでの経験上、中間管理者(企業の担当者)に、 トップとの直接のコミュニケーションインフラを排除あるいはブロックされた場合、ロクなことが起こりません。

そこで、弁護士は、担当者に、当該プロセスや、プロジェクト担当者の課題認知のための資源の有無について、疑義を呈します。

なぜなら、弁護士は、その立場・役割として、常に悲観想定をしているからです。

しかしながら、企業トップとの対話が成立することなく、弁護士としては同意いたしかねるような楽観想定に基づく悪手をすすめる企業も少なくありません。

悪手であったとしても、
「これがトップの決定だ」
といわれれば、弁護士は、指示に従いますし、その範囲と限度において最善を尽くすでしょう。

ただし、弁護士の想定どおり芳しからざる結果となれば、課題対処に関わったとはいえ、法律上はもちろんのこと、事実上も道義上も、弁護士としては責任を負担いたしかねることとなります。

企業の担当者は、従業員としての責任を負うことにはなるでしょうが、全責任を負うわけではありません。

全責任を負うのは、企業経営者以外にはいないのです。

何にせよ、法務事案はすべからくトップマターである認識にたち、トップに連絡を差し上げる前提を崩さない弁護士は、誠実であるとみるべきでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01834_危機管理対策本部のトップ

一般的な企業有事の方法論では、有事の際に最初に行うことは、有事安全保障のための特殊な組織(例えば危機管理対策本部のような臨時組織)を立ち上げ、
・トップ
・情報機関並びに参謀機関
を決定することです。

トップとは、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行う存在です。

失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となります。

さて、このような思考負荷を忌避する経営者もいます。

そして、試行錯誤するといって、フォアキャスティング(行きあたりばったりの出たとこ勝負)で何かトライしてみて、後はPDCAで、ということを強く志向します。

他方で、
「臨時組織を立ち上げることなど、理解できないし、小難しいし、ビジネス課題でなく所掌外だから」
といって、下に丸投げのスタンスをとる経営者もいます。

そうなると、制御不能の状態に陥りかねません。

正解や定石が明らかな課題であれば、丸投げされる下の人間も対処可能でしょうが、投げる側の人間もよくわかっていない、正解も定石もない有事の難題を丸投げされる、という状況は、下の人間の政治的安全保障という点でも最悪の状況です。

上手くいっても称賛されず、失敗したら、責任を問われるのですから。

結局のところ、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行い、失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となるのは、企業経営者以外にはいない、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01833_安全保障課題に関する前提リテラシーの実装と、評価・解釈・展開予測

発見された安全保障課題を認知したら、問題とすべき状況(直面する病理状況)について、評価・観察・解釈・展開予測を行う必要があります。

ただ、
「病理状況について、評価・観察・解釈・展開予測を行う」
といっても、
「状況を認知・観察・評価・解釈・展開予測する」ことそのもの
が一つの大きな課題であり、正解や定石なき営みであり、
いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。

誰が、どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いて判断するかによって、結果が変わってきます。

1 誰が判断するのか

2 どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いるのか
1)シビリアンの常識を用いるのか
2)ミリタリーのアノマリーを用いるのか

3 誰が、判断するのか
1)楽観バイアスで希望的観測をベースにするのか
2)保守的な判断をベースにするのか

これらを前提にして、はじめて、作戦目標の策定(ゴールデザイン)と、作戦計画の立案・作戦行動の遂行をすることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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