01832_安全保障課題の発見・認知

しかるべき有事・安全保障課題の遂行体制が整備されましたら、次に、有事・安全保障課題の発見・認知を行う必要があります。

ただ、
「有事・安全保障課題の発見・認知を行う」
といっても、
「有事・安全保障課題の発見・認知を行う」
というのも一つの大きな課題であり、正解や定石なき営みであり、
いってみれば、選択であり、ギャンブルです。

まずは、状況について、

1 (相応の時間がたち、《確約があるわけではないが》特に目立つ動きがないようにみえるようだから)課題自体消失、と判断するのか(終結宣言)

2 相応の資源を動員して、解決すべき課題として残存している、と判断するのか

について、明確な態度決定をしなければなりません。

課題を解決したとみるのか、対処すべき課題があるとみるのか、このあたりの発見・特定・具体化が、曖昧な状態で場当たり的な対処をするだけですと、有事において、傷を深める結果になりかねません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01831_安全保障課題に対処するミリタリー空間における遂行体制

上場準備をするような規模の企業においては、すでに、社長をトップとする経営上の指揮命令系統は整備されているものと推察されます。

この統治秩序の整備は必須課題であり、当然のことです。

しかし、これは、ビジネス空間における遂行体制であり、いわば、シビリアン空間における指揮命令系統です。

他方で、安全保障課題に対処するミリタリー空間における遂行体制は脆弱、というよりも、明確に体制整備がされていない企業が多くみられます。

要するに、有事安全保障においては、
「状況を認知・観察・評価・解釈・展開予測する」
というのも1つの大きな課題であり、正解や定石なき営みであり、いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。

この
「状況を認知・観察・評価・解釈・展開予測する」
を、誰が責任を以てジャッジし、また、誰がジャッジの前提としての選択肢を整理するか、ということが、体制として必要不可欠です。

この点、ミリタリー空間におけるゲームのロジックやルールやプレースタイル(ソフト面)については、「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する1~11にまとめています。

また、 ミリタリー空間におけるゲーム遂行のためのチームビルディング(ハード面)については、正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える1~7に詳しく述べています。

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01829_クライアントにおける「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」二択の対処方向性

訴訟を提起する前に知っておくべきこと・ただしておくべき誤解・検討しておくべきこと_その3_「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」にて記しましたが、結局のところ、各種被害事案のミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が先決課題となります。

この課題は、法的専門性とは無関係のプロセスです。

当該プロセスは
「法的課題」
などではなく、
「自らが体験した事実の、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化」
という単純な事務課題であり、誰もが小学生のときに行った経験のある
「夏休みの日記」や「朝顔の観察日記」と同様、
「国語の問題」であり、
「(新聞記者や事務系公務員勤務経験2年程度の知的資源と事務資源があれば対処可能な)報連相(報告、連絡及び相談)という純然たる事務課題」
です。

これを完遂しないと、嫌がらせも、猫パンチも、ゲリラ戦といった展開も先に進みません。

他方で、過去の状況の想起や整理統合と、観察・想起・認識状況のミエル化・カタチ化・言語化・文書化プロセスを遂行するには、相応の事務資源(知的資源や整理課題遂行資源や言語化・文書化遂行のための資源)が必要となります。

クライアントにおいては、
「そのような資源(単純な事務課題であり国語の問題を遂行する資源)が存在しない」
という場合もあれば、現場において
「こんなくだらないことに時間をかけている場合ではない」
という抵抗も予想されます。

要するに

1)あくまで内製化を志向し、担当や原局・原課に対して、「宿題」の作成を指示し、クライアントにおいて遂行する
2)「宿題」遂行のための資源(単純な事務課題であり国語の問題を遂行する資源)が存在しない、とギブアップし、カネを払って済ませる

という二択になります。

後者の場合、弁護士が
「カンニング、替え玉受験、レポート丸写し」
のための事務資源提供を行うことになりますので、相応の費用がかかります。

クライアント側において、かなり予算が厳しい、という状況であれば、弁護士としては、あえて、コストのかかる提案(言ってみれば、小学校でやっていた夏休み日記課題や、朝顔の観察日記程度の、体験事実や認知内容のミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化プロジェクトなので、偏差値48程度でできる話ですし)は差し控えることとなります。

ということで、結局は、

1)あくまで内製化を志向し、担当や原局・原課に対して、「宿題」の作成を指示し、御社において遂行する
2)「宿題」遂行のための資源(単純な事務課題であり国語の問題を遂行する資源)が存在しない、とギブアップし、カネを払って済ませる

という二択の対処方向性について、選択を判断しなければなりません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01828_法的・戦略的ランドスケーピング(機能的状況俯瞰)の意義・価値・重要性~弁護士とクライアント、それぞれ眺めている風景が異なると、悲劇を生む~_その4_圧力なき対話の限界・対話をするにはまずは圧力の準備を

相手が訴訟慣れしているとなれば、百戦錬磨です。

当方が、あれこれ法的な正当性を実装した主張を展開しても、相手は、やはり、のらりくらり、曖昧戦略で、時間稼ぎをして、引き延ばすだけでしょう。

相手方は、

引用開始==========================>
真剣かつ誠実に裁判を遂行しようとすると、「弁護士費用や裁判所利用料としての印紙代という外部化客観化されたコスト」以外に、気の遠くなるような資源を動員して、クライアントサイドにおいて、「事実経緯を、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、文書化する」という作業を貫徹することが要求されます
<==========================引用終了

と見切って、
「どうせ訴えてこないだろう」
と、ある意味、正しい展開予測の下に、こちらの要求を無視してくることが想定されます。

圧力がなければ、対話のみでは、まったく交渉が機能しません。

その意味で、(例えは不適切ですが、)核ミサイルを装備して、核ミサイルの発射ボタンを片手に、交渉し、破談となれば、ただちに、ミサイルを発射するような交渉なり戦争を想定しないと、
「足元をみられる」
ということになりかねません。

もしも、当方のクライアントが、
「(弁護士に相談しておきながらも)私は裁判を望んでいない」
という言いだすようであれば、それは、悪手中の悪手です。

前述の例で言うと、核ミサイルをもっていないことを暴露して、難しい安全保障交渉をするわけですから、外交手法として最悪です。

ですので、交渉に際しては、
「戦争上等」
「戦争辞さず」
「むしろ、戦争する気満々なんだけど、ま、そちらがどうしても話したければ聞いてやるわ」
という準備と環境を実装することが、先決課題となるのです。

「“戦争”だなんて、そこまで大ごとにせずとも、わたしの知り合いの有力者の仲裁で迅速に解決できるかもしれない」
と、言い出すクライアントもいます。

そのように思いたくなる気持ちもわからないではありませんが、魔法のような解決方法が(本当に)あるのなら、弁護士のやり方(不愉快で、面倒くさく、コストがかかり、期待値も各種条件・環境に依存する)よりも圧倒的に利便性が高いわけですから、弁護士に相談にくるより前に、試みればよかっただけの話です(どこかに、モヤモヤとした不安や不満があるから、弁護士に相談にきたのでしょうが)。

弁護士としては、有力者の仲介によって迅速に解決できた、という事例は寡聞にして知りませんし、たいてい、有力者に相談してもやんわり断られたりして、時間と機会を喪失した挙げ句、最後に、恥ずかしそうに、弁護士の門を叩く、というケースが99.9%、というのが現実です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01827_法的・戦略的ランドスケーピング(機能的状況俯瞰)の意義・価値・重要性~弁護士とクライアント、それぞれ眺めている風景が異なると、悲劇を生む~_その3_そもそも「事件」なのか

クライアントが
「事件」
として認識せずに、
「当たり前の話、常識にしたがった処理がされるべきであり、相手方は、当方の主張を当然受け入れるはず」
と思い込んでいる場合、しかも、相手方が
「(言いたいことがあれば)弁護士を呼んでこい」
と言うのであれば、それは完全に
「事件」
です。

すなわち、相手は
「あっかんべー」
して、当方の要求を拒否している状況です。

実は、民事紛争においては、この
「あっかんべー」戦略
は、実に効果的に機能します。

引用開始==========================>
こう考えると、裁判制度は、原告に対して、腹の立つくらい面倒で、しびれるくらい過酷で、ムカつくくらい負担の重い偏頗的なシステムであり、「日本の民事紛争に関する法制度や裁判制度は、加害者・被告が感涙にむせぶほど優しく、被害者・原告には身も凍るくらい冷徹で過酷である」と総括できてしまうほどの現状が存在します。
<==========================引用終了

という厳然たる状況がある以上、加害者である相手方は、自らに有利な状況を最大限利用し、言を左右にして、のらりくらりして、当方の機先を削いでいくのが、(道義的には誤っていても)戦略的には正しいのです。

「『巧言令色鮮し仁』という対処哲学を固持して、のらりくらり、曖昧戦略で、時間稼ぎをして、引き延ばせ」
という外交方針は、作戦指示として正しい、ということです。

まずは、この状況を、 クライアントが
「事件」
と認識するところから、始めなければならないでしょう。

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01826_法的・戦略的ランドスケーピング(機能的状況俯瞰)の意義・価値・重要性~弁護士とクライアント、それぞれ眺めている風景が異なると、悲劇を生む~_その2_評価・解釈・展開予測

事件を対処していく上では、前提リテラシーを実装し、当該リテラシーを基礎に、評価・解釈・展開予測のプロセスが必要となります。

弁護士が採用する前提リテラシーは、かなり悲観的なものとなります。

「裁判外で会談を持てば、チョチョイのチョイで解決できる」
という展開は予測されず、結果、訴訟しなければ事態進展せず、また、訴訟を提起しようとすると、コスパでパンクする、という展開が予測されます。

この「訴訟を提起しようとすると、コスパでパンクする、という展開」を支えるリテラシーは、

経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!

に記述しています。

ここで、問題が生じる可能性があります。

例えば、弁護士として(A)という悲観想定での展開予測を行ったものの、クライアントが(B)という楽観想定を強く信じた場合です。

加えて、クライアントが、弁護士に、(B)の楽観想定を前提とした課題対処を求めた場合です。

そして、案の定、弁護士の悲観想定(A)が現実化し、(B)の楽観想定を前提とした雑な手法が悪手となって、事件が不可逆的にどうしょうもない状況に陥る事態を懸念します。

この場合、たとえ弁護士として課題対処に関わったとはいえ、もともと、クライアントが愚劣にも信奉した間違った想定が原因で発生した災いであり、責任は、楽観想定を選択したクライアントに帰すことになります。

しかし、クライアントは、
「なぜ、もっと強く悲観想定を薦めなかった」
などと愚劣なことを言って、弁護士のことを恨みはじめます。

こうなると、醜悪な内部分裂が始まります。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)は、除斥期間(時効)が定められており、このような内ゲバ(内部抗争)をやっているうちに、時間が過ぎて、請求権が消失した事例は実にたくさんあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01825_法的・戦略的ランドスケーピング(機能的状況俯瞰)の意義・価値・重要性~弁護士とクライアント、それぞれ眺めている風景が異なると、悲劇を生む~_その1_楽観バイアスによる「法的課題」の認識の有無

戦いにおける地の利の分析や、安全保障における地政学と同様、法的紛争解決を戦略的に志向する場合にあっても、環境を俯瞰的・客観的に観察し、機能的に理解・評価することは、非常に重要です。

これは筆者の造語ですが、この種の機能的状況観察(場合によっては、経時的変化を検討する、展開予測も含む)という営みを「ランドスケーピング」「法的・戦略的ランドスケーピング」と言うことがあります。

まず、そもそも、クライアントにおいて、
「こんなの法務課題ではない」
「こんなの普通に雑談していれば自然に解決できる」
「相手も常識人として普通に対応してくれるはずだから弁護士が出るような話でもない」
といった形で、楽観想定、楽観バイアスが働いている場合があります。

「こんなの法務課題ではない」
「こんなの普通に雑談していれば自然に解決できる」
「相手も常識人として普通に対応してくれるはずだから弁護士が出るような話でもない」
という素人さんの見立て(ランドスケーピング)が往々にして致命的に誤っている点については、下記拙稿で指摘しているとおりです。

引用開始==========================>
そんな
「言った言わない、話が違う」
ということなんて、普通の認知と記憶と常識があれば、起こり得ない、と言われそうです。

確かに、1000円貸した貸さない、とか、
「その本、私もう読んじゃったのがあって、メリカリで売ろうと思っていたから、500円で譲ってあげる」
みたいな話であれば、
「言った言わない、話が違う」
なんてことは生じ得ません。

お互い譲り合えばいいだけですから。

しかし、億単位、あるいは数十億円単位の話となれば、別です。

億単位、あるいは数十億円単位の話は、常識を超えた話です。

そんな常識を超えた話にトラブルが発生し、
そこは1つ常識的に、
ここはお互い譲り合って穏便に、
まあまあ、相身互いで、円満に行きましょう、
といって、納得するはずがありません。

だって、常識を超えた額の話ですから。

常識が通用しないスケールの話ですから。

ちょっと勘違い、食い違い、想定外、思惑違いがあったので、
ちょっとタンマ、
ちょいノーカン、
そこは許して、
譲って、
という話のサイズが、数億円、数十億円のロスやダメージの容認となります。

そんなことをにっこり笑って許容するなんてしびれるくらいのアホは、ビジネス社会では生きていけません。

たとえ、しっかり認知していて、はっきり記憶していて、ただ、契約書がなかった、あるいは契約書の記載があいまいだった、という事情があって、相手の言っている内容が事実としても記憶としても間違いなく常識的で正当な内容であっても、
「契約書みてもそんなことは書いていない。書いていない以上、認めるわけにはいかない」
と突っ張るのが、責任ある企業の経営者としての態度です。

すなわち、
「言った言わない、話が違う」
ということなんて、普通の認知と記憶と常識があれば、起こり得ない、
というのは、1000円、1万円の話であればそのとおりですが、ビジネスや企業間のやりとりにおいては、些細な勘違い、食い違い、想定外、思惑違いであっても、契約書や確認した文書がなければ、すぐさま、
「言った言わない、話が違う」

のケンカに発展し、常識も情緒もへったくれも通用しないトラブルに発展することは日常茶飯事なのです。
<==========================引用終了

億単位の話ではないとしても、企業としては、沽券やメンツがかかっているので、そう簡単にミスを認めるわけにはいきません。

このような企業の沽券やメンツという価値は、それこそプライスレスであり、表面的な金額とは別に、億単位以上の話かもしれません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01824_定年後の従業員との雇用関係解消

定年後の従業員を再雇用することなく、退職勧奨によって雇用関係解消をする場合、承諾書をつかうという手法があります。

その効果は大きいですが、つかいかたを誤ると、紛議の元となりますので、内容はもとより、その扱いには慎重を要します。

すなわち、従業員より承諾書を徴求できると、潜在的紛議は消失したものと評価されますが、承諾書を徴収できないとなると、潜在的紛議が残るということを意味します。

無論、承諾書を徴求できたとしても、その後、従業員が翻意して、錯誤で取り消すなどとして、紛争になる可能性はなくはありませんが、その場合でも、承諾書が有力な証拠になると推測されますので、企業側は有利にことを運べると推察します。

さて、受諾の見通しが不透明である場合、当該従業員に承諾書を送り、相手方からの自発的サインバックを待つ、というのは、良い方策とはいえません。

理由としては、

1 そもそも、相手方において、たとえ雇用関係解消に同意していても、サインするメリットがなく、自発的な行動を期待することが困難

2 加えて、相手方において、もともと、雇用関係解消に不同意であり、争う気であれば、退職勧奨があったことの証拠が相手の手許に残り、不利に援用される危険がある(「もともと会社は労働者を嫌悪・忌避し、退職させたがっていたのであって、縷縷説明する理由も、すべておざなりのものであって、更新拒絶の濫用である」といった主張を展開し、その際の証拠として利用される危険がある)

というものです。

したがって、承諾書を徴求する際は、

1 対面で

2 その場で徴求を試みる(できれば、現金で、承諾料代わりの退職給付を受け取らせて)

3 だめなら、承諾書を撤収する(「退職勧奨」の証拠を隠滅し、後日の紛争の際に、「会社は労働者を嫌悪・忌避し、退職させたがっていた」などと援用されないようにする)

ということが推奨されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01823_理解しているつもりでも、全く成立していない「弁護士との対話」

クライアントが弁護士に不満を募らせることがあります。

弁護士が対応しているにも関わらず、未だ解決していない、あるいは、解決に時間がかかりすぎている、と感じるような場合、弁護士の見ている風景と、クライアントが見ている風景が違うことがあります。

たとえば、弁護士が年単位で時間がかかるとみる一方で、数か月以内には解決するだろう、と考えるクライアントもいます。

たとえば、流れが変わったから作戦変更を唱える弁護士、他方で、何も変わりがないからと作戦続行を命令するクライアントもいます。

もっともやっかいなのが、弁護士の目的と、クライアントの目的がずれている場合です。

そもそも、当然の理として、何か問題を解決するためには、多くの段階を踏まなければなりません。

そして、それぞれの段階には、それぞれ目的があります。

弁護士はクライアントの課題を俯瞰しつつ、段階一つひとつを打破するための方法論をいろいろと披瀝しますが、クライアントには、弁護士さえ入れば一気呵成に解決できると信じて疑わない方が少なくありません。

弁護士がクライアントに披瀝するのは、まずは、圧力の契機、強制の契機となるようなものです。

クライアントに依頼されれば、その
「圧力の契機」なるもの
を実践していきます。

そこで、懸念されるのは、
「圧力の契機」の検討依頼
が、いつのまにか、
「絶対的に圧力として作用することを保証せよ」
という話にすりかわり、
圧力が機能しなかった場合、
「約束に違反した」
などと詰問されるような事態です。

さらに、
「圧力などではない。これは聖戦だ。絶対負けられない戦いである。負けたら許さない」
とエスカレートする場合です。

弁護士のいう方法論は、あくまで、目的に近づくための方法論として、合理的に考えられる
「圧力の『契機』」
であり、これがどの程度作用するかは、やってみなければわかりません。

それは、クライアントの望む確実な勝訴・勝利ではない、ということなのです。

このようなことを、クライアントにわかりやすく噛み砕いて説明する弁護士もいれば、ふわりとオブラートに包むようにして話す弁護士もいます。

たとえ話で説明する弁護士もいれば、判例を並べみせる弁護士もいます。

いずれにせよ、弁護士との対話を重ねなければ、望む目的に近づけないことは想像に難くありません。

不満を募らせるよりも、対話を重ねましょう。

そういう意味では、クライアントにとっては、弁護士の話すことを正しく理解することが、問題解決の肝、であるともいえましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01822_課題対処のためのリテラシーその3_訴訟を提起して大ごと化

訴訟を提起して、相手から出てきたミスやエラーや心得違いや違法行為を、増幅して、大事(オオゴト)にして、法的メッセージとして構築して、相手がもっともビビるような体裁でフォーマル化して、どんどんぶつけていきます。

このような前提にして、また、企業の取り組み哲学を明確にして、猫パンチをどんどん繰り出して、相手に負荷を与える、という形で、圧力を加え、その上で、対話の改善を目指すことが全般の戦略として考えられます。

弁護士に法務相談にくるクライアントのおかれた状況の多くは、相手との対話一辺倒になっていますが、猫パンチでもいいので、訴訟提起の圧力を加えることで、対話の状況が変わることが期待できるかもしれませんし、仮に対話ができなかったとしても、相手へダメージを与えられることができるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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