01682_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(25)_各論1_会社法・ガバナンス(企業統治)に関する業務

1 序

会社法・ガバナンスに関する基本知識・前提知識に不安がある方は、


を事前にご高覧下さい。

2 株式会社制度

1)法人制度と有限責任制度

01502_株式会社には「責任者」などという者は存在しない1「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義
01503_株式会社には「責任者」などという者は存在しないビジネス・ジャッジメント・ルール
01504_株式会社には「責任者」などという者は存在しない「法人制度」の本質とそのダークサイド
01505_株式会社には「責任者」などという者は存在しない会社が破産しても、社長も連座して破産するとは限らない

2)株式会社運営システム

00720_株式会社運営システムと国家運営システムとの相似性

3 取締役の「期待される役割・与えられている権限・責任」と「実体・実情」とのギャップ

01545_取締役の悲劇(1)_取締役なるためには、学校も、試験も、資格も、能力も、条件も何にもない。したがって、「取締役」というだけで、一定の知的水準や専門能力の裏付けとはみなせない
01546_取締役の悲劇(2)_取締役は、現実の知的水準に関係なく、会社法上、すべからく「経営のプロ」とみなされて、会社運営に関する大きな権限を与えられてしまう
01547_取締役の悲劇(3)世間知らずの「取締役」が約束手形に触れたことで始まる悲劇その1「取締役」氏、約束手形と出会う
01548_取締役の悲劇(4)世間知らずの「取締役」が約束手形に触れたことで始まる悲劇その2「取締役」氏、約束手形の換金に成功する
01549_取締役の悲劇(5)世間知らずの「取締役」が約束手形に触れたことで始まる悲劇その3「取締役」氏、知らない間に、手形の連帯保証人として、手形訴訟を提起される
01550_取締役の悲劇(6・終)_圧倒的大多数が法律知識を欠落している「取締役」が法的トラブルに遭わないようにするための推奨行動

4 会社法違反に対するペナルティとしての刑事罰

会社法や金融商品取引法においては、多数の利害関係者の利害を規律する関係上、特定の規範については刑事罰の制裁を以て履行を強制しています。

現実に、会社法違反に関する事案の多くが刑事事件に発展しており、この点において、企業組織運営上の法務リスクとして、刑事裁判も視野に入れざるを得ません。

参照:
01176_ガバナンス法務>企業の組織運営・内部統制に関する個別法務課題>ガバナンス法務(フェーズ1)>アセスメント・環境整備フェーズ>法令環境>刑事訴訟法

5 企業組織運営に関する予防法務課題
経営陣として、法務安全保障上、法務部にきちんと把握し、常に答えてもらいたい事柄として想定されるもの:
「企業経営に『失敗』した場合において経営幹部が負担しなければならない責任としては、どのようなものがあるか?」
→ 失敗の種類により、負担する責任の性質・軽重が異なる

1)経営上の失敗・経済合理性を欠如した経営(経営が下手くそで、儲けるどころか損して資産を減らした、資金繰りに失敗して銀行や取引先や社員・関係者等に迷惑をかけた)

(1)経営責任:
経営責任は発生する。辞任に追い込まれる。辞任を拒んでも、解任されたり、任期満了後再任されなかったりして、会社を追われる。

(2)法的責任:
よほどひどい失敗でもない限り、ビジネスジャッジメントルール(経営裁量保護の法理)により免責される。
参考:
00573_取締役の重い責任から解放するロジックとしての「経営判断の原則」

(3)オーナーとしての責任(オーナー経営者の場合におけるオーナーとしての責任):
株主有限責任(社会的意味としては、「株主無責任」と同じ)であり、責任なし(投資した金を無くすだけ)

2)法令に違反する失敗・合法性を欠如した経営(より大きく、より効率的に、より早く儲けようとするあまり、法令や定款に違反する経営を行い、それが露見した)

(1)経営責任:
やはり、経営責任は発生する。辞任に追い込まれる。辞任を拒んでも、解任されたり、任期満了後再任されなかったりして、会社を追われる。 →辞任・解任

(2)法的責任:
ビジネスジャッジメントルール(経営裁量保護の法理)により免責されず、法的責任は発生する。

いかにビジネス・ジャッジメント・ルールがあるといっても、法令違反行為には経営裁量が働く余地はなく、免責が一切なされない。例えば、取締役等が、投機取引を実施する際に為替取引や商品先物取引の複数の信頼性ある専門家の意見といった適切な情報を収集し、かつ取締役会決議といった適切な意思決定プロセスを経ていたとしても、明確な法令違反を構成する以上、ビジネス・ジャッジメント・ルールが働く余地はなく、これに関与した取締役が罪を免れることは、ほぼ不可能であるということになる。

参照:
00921_企業法務ケーススタディ(No.0241):善管注意義務とビジネス・ジャッジメント・ルール

ア 民事責任(善良なる管理者としての注意義務の違反):

(ア)株主代表訴訟(株主が会社に代わって、賠償請求)
参照:
01192_ガバナンス法務>企業の組織運営・内部統制に関する個別法務課題>ガバナンス法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>代表訴訟その1
01193_ガバナンス法務>企業の組織運営・内部統制に関する個別法務課題>ガバナンス法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>代表訴訟その2

(イ)株主からの直接の損害賠償請求

イ 刑事責任:

(ア)回収可能性がないにもかかわらず貸し付けを行うことは状況によっては背任罪を構成する可能性がある
参照:
00437_会社私物化をした場合に役員個人が負うべき刑事責任リスク
00994_企業法務ケーススタディ(No.0314):ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?

6 ありがちな取締役の失敗事例

1)利益相反取引:
00591_企業法務ケーススタディ(No.0199):トップの公私混同取引が発覚した!

2)競業取引:
00508_取締役が競業避止義務に反して、ライバル企業となる事業を始めた場合の法的責任

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01681_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(24)_課題対応に最適な企業法務弁護士の発見・調達・運用スキル

課題対応に最適な企業法務弁護士の発見・調達・運用スキル、くだけた言い方をしますと、法務リスクをきちんと制御して、自分の大手柄にするために必要な、弁護士の見つけ方・使いこなし方・つきあい方も
「企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、内製化すべき(外注すべきでない)固有の業務分野」
の重要な1つです。

しかしながら、この種の外注管理スキルについては、まったくといいほど本に書いていませんし、ロースクールや司法研修所でも教えてくれませんし、誰も口にしません。

00764_社外弁護士への外注スキル1:法務担当者の外注スキルの意義・重要性

外注管理の前提として、外注先が何者で、どのようなスキルがあり、相場的に正しいコストかどうかを知っておく必要があります。

00765_社外弁護士への外注スキル2:外注先業者たる弁護士の実体と生態(1)弁護士バッジをもらうまで
00766_社外弁護士への外注スキル3:外注先業者たる弁護士の実体と生態(2)弁護士に専門分野があるのか?
00767_社外弁護士への外注スキル4:外注先業者たる弁護士の実体と生態(3)弁護士の実態把握と能力検証
00768_社外弁護士への外注スキル5:外注先業者たる弁護士の実体と生態(4)弁護士を上手に使いこなすコツ

外注先が決まったら、コスト管理(予算管理)・期限管理・品質管理といった営みが必要になります。

また、
「外注」は「丸投げ」
であってはならず、また、外注先は、弁護士といえども、全面的に信用するべきではなく、全面的に信用して管理を放棄するのは、法務担当者としての任務懈怠と言われても仕方ありません。

外注先の機能限界を前提とした危機管理も外注管理の必須の内容です。
すなわち、
1 代替性:その外注先以外に外注できる外注先を保持して接点を保っておく。
2 繁閑性:繁閑状況を知っておき、発注量などを制御する。
3 以上の前提として、外注先を「任せれば安心」と慢心せず、緊張感をもって関係構築する。常に、繁閑性や品質や対応力の限界がありうることを想定し、代替候補のリストアップと関係構築も視野に入れた準備を怠らない。実務はマネできないにしても、よく知っておく。任せっぱなしではなく、必要に応じて、全体のつなぎ合わせ(編集と統合)による最適化まで手をつっこんで参画する。
4 うまくいかない場合、単に外注先担当者にプレッシャーをかけたり、上層部に平謝りをするだけでなく、どこをどう改善するべきかまで課題特定し、改善のための代替プランを提案するつもりで、冷静に観察する。
といった心構えや営みが必要となります。

00769_社外弁護士への外注スキル6:外注先業者たる弁護士の実体と生態(5)弁護士の競争調達と外注管理

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01680_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(23)_存立危機事態・シビアアクシデントへの対応

1 有事(存立危機事態・シビアアクシデント)対処の際のタスクアイテム

(1) 有事対応哲学の再確認
(2) 有事対応チームの組成(予算と専門家と意思決定及び実施体制の手配)
(3)  有事対応の戦略と段取りのデザイン(ゲームチェンジや敗戦を見越したダメージ・コントロールを含む)
(4)  裁判回避戦略・和解戦略
(5)  メディア対策・ネット対策・取引所対策その他有事外交戦略

2 有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)

00792_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)1:正解がない、正解があるのかないのかすら不明の事態
00793_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)2:学校で教わったこと、親が教えてくれた常識や幻想はすべて忘れ去る
00794_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)3:現実的な状況認識・状況解釈の上、現実的な目標を設定する
00795_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)4:正しく課題を見つける
00796_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)5:正しくチーム(組織)を動かすため、正しい命令(指示)を企画し、具体的に文書化し、しっかり伝わるように伝達する
00797_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)6:受命したチーム(組織)が命令(指示)を正しく実行するよう環境を整える
00798_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)7:受命したチーム(組織)の命令(指示)達成状況を確認する
00799_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)8:正しい試行錯誤(ゲーム・チェンジ)をする
00800_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)9:正しく結末を総括する(見極めを行う)
00801_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)10:参考にしてはいけない考え方や対処

3 有事対応チームの組成

00893_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える1:チーム理念
00894_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える2:責任者(トップ、プロジェクトオーナー)
00895_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える3:参謀(インテリジェンス、ゲームプラン担当)
00897_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える4:現場参謀(管理系エリート、戦術担当、作業計画策定・統括)
00898_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える5:実務遂行者(ソルジャー・下士官、作戦遂行者・現場責任者)
00899_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える6:ゲームチェンジャー(秩序破壊型アドバイザー)
00900_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える7:チームビルディング(人的リソースの組み合わせと活用のための営み)

4 有事対応の戦略と段取りのデザイン(ゲームチェンジや敗戦を見越したダメージ・コントロールを含む)

00864_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する1:「逃げるが勝ち」「出口戦略」の重要性
00865_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する2: 正しい戦略リテラシーを実装する
00866_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する3: 置かれた状況や環境を客観的かつ冷静に認識する
00867_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する4: 正しい目的を設定する
00868_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する5: 正しく課題をみつける
00869_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する7: 正しい命令を企画・制作し、正しくデリバリ(発令)する
00870_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する8: 命令を正しく実行させる
00871_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する9: 命令の達成状況をモニタリング(監視)する
00872_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する10: 正しく試行錯誤する
00873_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する11: 結末を正しく総括する

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01679_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(22)_「取引事故に伴う民事紛争」に関する有事対応スキル

有事対応スキル(会社が法務問題でしくじって、「マジで、ヤヴァイ状況」になったときの切り抜け方のスキルやテクニック)を述べる前提として、対処すべき有事課題としては、
・取引事故に伴う民事紛争
・存立危機事態/シビアアクシデント
が想定されますが、まず、前者、
「取引事故に伴う民事紛争」
について述べていきます。

0 ゲームオプション(紛争処理メニュー)、訴訟提起するまで・訴訟提起されるまで、裁判外交渉

01051_企業間紛争におけるゲームメニュー、プレースタイル(話し合いか、脅し合いか、殴り合いか、殺し合いか)

00676_交渉において「条件を先に言い出す」ことの致命的有害性

00557_訴訟を提起する目的その1:経済的動機(カネがほしいから訴える)
00558_訴訟を提起する目的その2:社会的目的でやっている(目立ちたいからやっている)
00559_アクティビスト・ファンドが、株主代表訴訟を提起する目的は?
00560_訴訟を提起する目的その3:怨恨を晴らすためにやっている(相手方をイジメたいからやっている)
00561_訴訟を提起する目的その4:仕方なくやっている・パターンA(税務的都合でやっている)
00562_訴訟を提起する目的その5:仕方なくやっている・パターンB(株主や経営幹部への説明対策上やっている)

01657_想定どおりの結果が期待できる事件(勝訴見込事件 )であれば気を抜いてもいいか? 敗訴見込事件であれば、訴訟を提起しても無意味か?

1 ゲーム環境としての裁判システムの本質的実体を理解する

00770_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する1:期待はずれの裁判所
00771_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する2:「三権分立」というアングルでみた、裁判所というお役所の際立った特異性
00772_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する3:裁判所における事件処理の実体(1)民事裁判官の事件のススメ方
00773_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する4:裁判所における事件処理の実体(2)証人尋問はただのセレモニー
00774_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する5:裁判所における事件処理の実体(3)旧司法試験・司法試験予備試験と民事訴訟手続の酷似性
00775_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する6:裁判所における事件処理の実体(4)裁判官に好まれる処理しやすい事件と面倒な事件
00776_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する7:裁判所における事件処理の実体(5)裁判は初動が肝心
00777_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する8:裁判所における事件処理の実体(6)裁判における「真の敵」とは裁判官なり
00778_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する9:裁判所における事件処理の実体(7)裁判所の判断ロジック
00779_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する10:裁判所における事件処理の実体(8)「お客様は神様」「裁判官こそがお客様」
00780_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する11:裁判所における事件処理の実体(9)合理的法律人仮説
00781_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する12:裁判所における事件処理の実体(10)裁判官の大好きな言葉は「自己責任」「因果応報」「自業自得」
00782_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する13:裁判所における事件処理の実体(11)裁判官の頭脳の中の「常識」
00783_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する14:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(1)ルーズなことをしない。納期は絶対厳守する。
00784_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する15:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(2)裁判官に早めに事件の全体像を見せるように努め、仕事が効率的に処理できるよう協力する
00785_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する16:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(3)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただく工夫をすることの意義・重要性
00786_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する17:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(4)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅰ)10頁の原則
00787_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する18:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(5)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅱ)修飾語やレトリックは「法曹禁止用語」
00788_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する19:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(6)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅲ)裁判所の業界内部ルールである「要件事実」を意識する
00789_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する20:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(7)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅳ)相手のリアクションを見越した言い方で主張する
00790_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する21:裁判所は「気まぐれな神様」

01555_ウソをついて何が悪い(5)_「ウソつき」人口密度がもっとも高い裁判所
01556_ウソをついて何が悪い(6)_裁判官は「ウソつき」に対する強い免疫・耐性をもつ
01557_ウソをついて何が悪い(7)_ 裁判では「ウソ」はつき放題

00565_裁判所への「自己の事案認識」を売り込むセールスを展開する際に、認識しておくべき前提環境(ゲーム環境及びゲームルール)

2 民事裁判というゲームにおいて、ゲームの帰趨に決定的なパワーを操る、キープレーヤーたる「民事裁判官」の本質的実体を理解する

00662_民事裁判官のアタマとココロを分析する(1):正義の実現や真実の発見より、スピードと効率性(訴訟経済)
00663_民事裁判官のアタマとココロを分析する(2):「予断と偏見」を以て事件に向き合う
00664_民事裁判官のアタマとココロを分析する(3):国民の支持とか賛成とかどうでもいいが、「国民の信頼」を無くさないよう、むちゃくちゃ気を遣う
00665_民事裁判官のアタマとココロを分析する(4):証人尋問は退屈で無意味なセレモニー

01011_企業法務ケーススタディ(No.0331):あの裁判官は正義というものをわかっとらん!

00097_企業法務ケーススタディ(No.0051):裁判所は権利実現に勤勉な者がお好き

00563_訴訟における、最重要の「敵」、裁判所を知る

00564_裁判所の「偏向的思考習性(独特のバイアスや認知フィルター)」を知る

3 民事裁判における証人尋問という手続の本質的実体を理解する

00672_民事裁判における証人尋問の意義

00651_ドラマチックな要素が皆無の民事裁訴訟における証人尋問の実体
00673_証人尋問の最大のヤマ場は反対尋問ではない
01012_企業法務ケーススタディ(No.0332):証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?
01037_企業法務ケーススタディ(No.0357):証人尋問のお作法!?

4 民事裁判における和解手続の本質的実体を理解する

00618_企業法務ケーススタディ(No.0209):どんなに腹が立っても高裁の和解勧告は蹴り飛ばすな!

00575_「訴訟上の和解」の意味と価値

00576_「訴訟上の和解」交渉における「最重要プレーヤー」たる裁判所を味方につけるテクニック

00577_「訴訟上の和解」の条件設計テクニック
00578_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(1) 和解金の支払は分割か、一括の場合は値切交渉を
00579_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(2) 和解金の支払名目
00580_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(3) 守秘義務
00581_被告が「訴訟上の和解」条件設計に際して考慮すべきポイント:(4) 清算条項

5 事実と文書が全ての民事裁判

01041_訴訟や裁判外紛争を遂行する前提としての事実の調査の困難性
00287_訴訟の勝敗は、人柄や印象や品位や常識や社会性ではなく、「文書」が全てを決する

6 判決は訴訟上の和解の失敗

00536_判決にまでもつれ込むのは、訴訟上の和解交渉の失敗

7 敗訴対策

00582_敗訴の予測と敗訴対策

8 控訴審

00583_控訴審における訴訟弁護活動のポイント

9 訴訟のエコノミクス

00640_企業法務ケーススタディ(No.0222):訴訟のコスパ やられたらやり返すな!

00996_企業法務ケーススタディ(No.0316):債権が焦げついた!?  債務者を相手に裁判!?  やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!

10 民事弁護活動の実際

00470_民事訴訟弁護活動の実際:訴訟弁護士の戦略思考や活動戦術の具体的内容
01137_民商事争訟法務における対応の基本・ポイント_納期厳守

00566_訴訟弁護士として、「対裁判所外交(渉外活動)」展開上、注意すべきポイント1:納期厳守
00567_訴訟弁護士として、「対裁判所外交(渉外活動)」展開上、注意すべきポイント2:早めの心証形成に協力
00568_訴訟弁護士として、「対裁判所外交(渉外活動)」展開上、注意すべきポイント3:文書を負荷なく読んでいただくための工夫
00569_裁判所提出書面への 「読ませる工夫」:(1)10頁の原則
00570_裁判所提出書面への 「読ませる工夫」:(2)修飾語やレトリックは「法曹禁止用語」としてなるべく使わない
00571_裁判所提出書面への 「読ませる工夫」:(3)要件事実を意識しながらストーリーにメリハリをつける
00572_裁判所提出書面への 「読ませる工夫」:(4)相手が争いようのない客観証拠を共通認識としてストーリーを構築していく

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01678_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(21)_リスク管理スキル

発見・特定されたリスクや危機をどうするか?

リスクや危機が発見・特定され、これらが意思決定者である経営陣に共有され理解されるまでは非常に負荷がかかりますが、そこから先のプロセスは実はさほど大変ではありません。

発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、リスクや危機はなくせますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、リスクや危機は予防できますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機は回避できますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機は転嫁できますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機は対応・対処できますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機はは制御できますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機は小さくできますし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機を受け入れ(リスクテイク)、乗り越えることもできるかもしれませんし(乗り越えられなければリスクテイクをやめればいい)、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機が現実化した場合のダメージ想定とダメージコントロール(損害軽減化)計画の立案も可能ですし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機が現実となってしまったことを受け容れた上で、発生し、現実化してしまったリスクやダメージについて働きかけ、
「大事を小事に、小事を無事に」
するための努力を尽くして相応の成果を達成することは可能ですし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスク対策や危機対策のチーム作りや専門家を調査・発見・依頼し、チーム体制を整備すること(ヒトの問題への対処)は可能ですし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、リスク対策や危機対策の予算を確保して十全な予算体制を構築すること(カネの問題への対処)は可能ですし、
発見し、特定しさえすれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、 リスクや危機に効果的に対処するための知見・経験・スキルや当該知見・経験・スキルを保有する専門家を調査・発見し、これらを実装すること(チエの問題への対処)が可能となります。

以下、リスクや危機の扱い方の要諦を述べたいと思います。

1 前提を変えればリスクはなくなったり回避できる

法的リスクは、法的三段論法によって、生じます。

法的三段論法とは、
「法規を大前提とし、事実を小前提として、事実を法規にあてはめて結論を導く推論の方法」
ですが、
特定の事業(小前提)があり、
特定の法令や契約や定款等(大前提)があり、
事業に法規をあてはめてみると、法令違反・抵触(あるいは契約違反や定款違反等)という結論が出た、
というプロセスを経て、法的リスクが顕在化するわけです。

法令や契約内容や定款等を変更するのは非常に大変です。

特に法令を変えようとすると、国会を動かす必要がありますし、一度成立した契約や定款を変更するのも無理あるいは非常に難易度が高いです。

ただ、小前提すなわち事業を修正したり、変更したりすることはさほど難しくありません。

事業の相手方を変える、事業の内容を変える、事業を複雑にする、事業を簡素にする、事業の一部を止める、事業の一部を加えるといった形で、小前提に修正や変更を加えれば、大前提の適用を免れたり、曖昧さや冗長性が出来して大前提が適用されない可能性が出てきたりします。

さらにいえば、事業自体をやめてしまう、ということが決断できれば、そもそも、命題自体が消失します。

例えば、飲食店等事業を展開する企業において、サービス残業を前提として事業を構築しようと足掻いているところがありますが、この種の違法リスクを解消するのは実に簡単です。
残業管理を適正に行ない、残業が不可避な業態の場合「三六協定」の締結を含めた法令遵守を実施し、きちんと残業代を支払うことです。
残業代を現実に支払うと事業として維持できないようであれば、基本給の見直しを行なって従業員に不利益変更に応じてもらうか、それもできないのであれば事業自体止めればいいのです。

2 取引リスク、契約リスクは上書きできる

取引リスクや契約リスクについても、簡単に制御できます。

取引リスクや契約リスクについて、リスクや危機が発見・特定されないまま契約書に調印してしまえばもちろん回避困難ですが、事前に発見・特定できれば、当該リスクや危機を免責させるなり、回避するなり、転嫁するなり、小さくする(損害額上限条項)なりして、その旨契約書に上書きしてしまえば、当該リスクや危機は完全に対処できます。

それでもなお、リスクや危機が対処できなければ、そんな契約やめちまえばいいのです。

契約自由の原則がありますから、不愉快な契約を無理強いして締結されることはありません。

他方で、魅力的な取引や契約であって、相応のリスクや危機にまつわるダメージやコストを受容してもなお余りあるベネフィットがある、というのであれば、自己責任において、リスクや危機を受容(リスクテイク)すればいいだけです。

そのような緻密なリスク計算を含めた高度な打算(経営判断)を乗り越えて、突如想定外のものとして出現した、といった取引リスクや契約リスクは、ほとんどお見かけしません。

取引リスクや契約リスクの多くは、 単なる、想定不足、展開予測の不備、リスクシナリオの未検証、楽観バイアス・正常性バイアスによる低劣で未熟で幼稚な思考ないし推定といった法務担当者(や社内弁護士や顧問弁護士)のミスや無能による
「人災」
です。

要するに、リスクの発見・特定ができなかったことで、対処想定以前に、危険な取引を無自覚に進めてしまった、という事態です。

一昔前、「不適切会計(実体は粉飾ですが、“粉飾”、という言葉は、それこそ不適切である、という社会的コンセンサスがあるようですので、これに倣います)」で有名になった大手上場企業東芝に関して、同社がさらなるミスで債務超過・東証二部降格に至った事件
の根源的原因も、このような
「人災」
にあります。

こうやってみると、改めて、
危機管理において最も重要で、かつほとんどの管理主体が難しいと感じている事柄は、危機ないしリスクの発見と特定である
という命題の圧倒的正しさが再認識されます。

3 「ダメージがたいしたことない」ものであったり「ダメージが不明確で曖昧で、長期間かけて相手を消耗させるほど損害の発生の有無・程度・額を徹底的に争える余地がある」なら、法的リスクや危機があっても、あえて受容する(リスクテイク)判断もあり得る

仮に、法的リスクや法的危機が発生しても、ダメージが想定可能で、コントロールや受容が可能なものであれば、慌てる必要もありません。

例えば、
訴訟が提起され、 これ以上事実が調べられると、こちらが隠しておきたいことまで洗いざらい暴露されてしまうようなリスクや危機にさらされた場合、
「訴状記載内容は、全くの事実無根で争うが、大所高所の見地から、請求は認諾して、本件トラブルを早期に終わらせる」
といった対応、すなわち、請求を認諾してしまって、訴訟を一方的かつ強制的に終了させ、裁判という公開の場でネチネチ事実調べをされることをなくしてしまう、という方法(カネに糸目を付けずに、スキャンダルそのものを無くしてしまうなら、この方法が一番)

といったものがあります。

また、契約違反をせざるを得ないリスクや危機が生じたとしても、違約罰等の措置が定められておらず、損害の発生の有無・程度・額を徹底的に争える余地があるなら、契約違反(侵害論)はギブアップしたとしても、損害論において、損害論において、長期間かけて相手を消耗させる泥沼に誘い込む構えをみせて、大事を小事に、小事を無事に近づける戦法を取ることも考えられます。
参照:
00574_民事の被告弁護の手法:侵害論(注意義務違反等)は争えないとしても、損害や因果関係について、しぶとく争う

4 まとめ

こうやってみると、発見し、特定しさえすれば、法的リスクや法的危機などといったものは、いくらでも、回避し、転嫁し、制御し、小さくし、あるいはなくしてしまうことすらできます。

経験豊かなプロの企業法務弁護士の手にかかれば、どんな法的リスクや法的危機であっても、発見し、特定しさえできていれば、一定の時間的冗長性を前提として一定の資源を投入することにより、
「どないでもなる(如何様にも対処可能)」程度
のものに過ぎないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01677_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(20)_企業法務リスク発見・特定技術

1 危機管理における最重要課題

「企業法務とは、『企業経営・企業活動に関連して生じる法的脅威に対する安全保障活動全般のマネジメント』を指す」
わけですが、さらに簡潔に述べれば、
法的リスクに関するリスク管理・危機管理
という言い方もできます。

では、リスク管理・危機管理において最も重要なプロセスはどのようなものでしょうか?

リスクや危機をなくすことでしょうか?
リスクや危機の予防でしょうか?
リスクや危機の回避でしょうか?
リスクや危機の転嫁でしょうか?
リスクや危機への対応でしょうか?
リスクや危機を制御する努力でしょうか?
リスクや危機を出来るだけ小さくする営みでしょうか?
リスクや危機を受け入れ(リスクテイク)、乗り越えることでしょうか?
リスクや危機が現実化した場合のダメージ想定とダメージコントロール(損害軽減化)計画の立案でしょうか?
リスクや危機が現実となってしまったことを受け容れ、発生し、現実化してしまったリスクやダメージについて働きかけ、「大事を小事に、小事を無事に」するための努力を尽くすことでしょうか?
リスク対策や危機対策のチーム作りや専門家の招集(ヒトの問題への対処)でしょうか?
リスク対策や危機対策の予算を確保すること(カネの問題への対処)でしょうか?
リスクや危機に効果的に対処するための知見・経験・スキルや当該知見・経験・スキルを保有する専門家を調査・発見し、これらを実装すること(チエの問題への対処)でしょうか?

いずれも、リスク管理や危機管理にとって、必要なアイテムであり、“そこそこ”重要かもしれませんが、“最も” 重要とまではいえません。

リスク管理・危機管理において、“最も”重要なことは、言われてみれば当たり前のことですが、リスクや危機を発見し、特定することです。

「見えない敵は討てない」
という軍事上の格言がありますが、リスクも危機も見えていなかったり、ぼんやりしたままでは、どんなにあくせく、一生懸命、リスクへの対応(予防する、最小化する、回避する、転嫁する等)したところで、空回りするだけです。

ゴールデザインを明確にせず、とにかくアドホックに対処することを
「フォアキャスティング」
といいます。

英語で表現すると、なんだか格好良く響きますが、要するに、行きあたりばったりの出たとこ勝負であり、
「何もしないより、何かした方がマシ。何かしていれば落ち着く」
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」
的な、愚劣な空回りと同義です。

危機管理もリスク管理も、だいた切羽詰まった状況で行う場合が多く、
「有限で、かつ、希少な資源や時間や冗長性や機会」
がどんどん奪われる状況下での営みとなることも多く、無駄な動きなどやっている暇はありません。

したがって、
「バックキャスティング」、
すなわち、精緻な展開予測と現実的なゴールデザインを前提に、そこから逆算して、最短距離で効率的な段取り設計をして、合理的な試行錯誤をしていく、という手法によらなければなりません。

そのためには、まず、展開予測の前提となる、現状の認知(メタ認知と呼ばれる、客観認知・俯瞰認知)と現状の正しい評価・解釈が必須となります。

その意味では、リスクや危機の発見や特定という営みがもっとも重要です。

ところが、これが非常に難しいのです。

したがって、法務担当者として、ビジネス活動や企業運営から、ミスやエラーといった軽微な綻びを見出し、そこからリスクに成長・増殖し、さらに危機(重大インシデント)に発展する状況の発見・推定・想像・特定・具体化・予測を行うスキルが必須になります。

2 日本の産業界においては、法務リスクを効果的に発見・特定できている企業はほとんどない

しかし、残念ながら、日本の産業界においては、法務リスクを効果的に発見・特定できている企業は皆無といっていいほどです。

その原因ないし理由としては、
(1)正常性バイアス・楽観バイアスの存在
(2)そもそも法律自体、理解しがたいし、よくわからない。というか、読む気も失せるようなインターフェースである
ということが考えられます。

そして、ある意味、上記のような克服すべき状況ないし有害環境があるからこそ、企業法務担当者としての価値や役割が見出されるのです。

逆にいえば、企業法務担当者としては、
(1)正常性バイアスや楽観バイアスを克服して、正しく危険を感知し、発見し、特定できるこ
(2) 「法務リスク」において、リスクや危機の根源となっている「理解しがたいし、よくわからない。というか、読む気も失せるようなインターフェースである」法律を正しく理解し、これを咀嚼し、経営幹部に対してしびれるくらいわかりやすくフィードバックする
というスキルを実装しなければ価値がない、ということになります。

もちろん、自分自身で上記を成し遂げられればいうことはありませんが、会社の予算を使って、会社の外部資源である顧問弁護士を競争調達して、合理的・戦略的に外注管理して効果的に使いこなし、上記スキルを実装し、あるいは課題実現してもいいのです。

3 予防段階にいても最重要課題となる「法務課題の発見、特定」、そして、これらの「理解」

「『法的リスクを現実化させないこと』を目的とする『予防法務』こそが、臨床法務や事故対応法務よりはるかに重要である」
という認識が、昨今、企業関係者の間で広まってきています。

特定の取引や契約について、
「個別具体的法的リスクを現実化させないことを目的とする予防法務」
が、契約法務といわれるものです。

そして、
「企業組織運営全体の法的リスクを現実化させないことを目的とする予防法務」
については、コンプライアンス法務あるいは内部統制構築法務、といわれます。

しかし、上場企業ですら、
「企業不祥事」
によって経営が傾く実例が多々存在することからもわかるように、
「予防法務」
を現実に効果的に実施する能力や環境にある企業はわずかしかありません。

ここで、一昔前、
「不適切会計(実体は粉飾ですが、“粉飾”、という言葉は、それこそ不適切である、という社会的コンセンサスがあるようですので、これに倣います)」
で有名になった大手上場企業東芝に関して、同社がさらなるミスで債務超過・東証二部降格に至った事件に関する報道を検証してみましょう(2017年2月21日付日本経済新聞「もう会社が成り立たない」~東芝4度目の危機 (迫真)~より抜粋)。


(引用開始)
会長の志賀が
「WHで数千億円の損失が発生するかもしれません」
と報告すると出席者は声を失ったという。ようやく
「もう減損したはずでは」
との問いが出ると
「別件です」。
社長の綱川は
「何のことなのか理解できない」
と繰り返した。
WHが15年末に買収した原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)でただならぬ出来事が起きた。
105億円のマイナスと見ていた企業価値は6253億円のマイナスと60倍に膨らんでいた。「買収直後に結んだ価格契約が原因」
と、ある幹部は打ち明ける。
複雑な契約を要約すると、工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担するというものだ。
原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化した。
追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になった。
問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにある。
米CB&Iは上場企業で、原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませるが、会計不祥事で内部管理の刷新を進めるさなかの失態に社内外から批判の声がわき上がった。

出典は、 日経新聞2017年2月21日付記事 「もう会社が成り立たない」東芝4度目の危機 (迫真)
参考:00627_ビジネス社会における機能的識字能力欠如(機能性文盲)問題

上記記事をみていただければおわかりかと思いますが、
「課題が発見されないこと」
の恐ろしさが明確に書かれています。

東芝の当時の経営陣が、もし、課題、すなわち、このM&Aの法的リスクを正しく理解・認識していたら、漫然と放置することなく、何らかの対処を取っていたはずです。

契約上、買収したWHの債務を負担しないような取り決めをしておく交渉をしたはずですし、最悪、債務負担が免れないようであれば、ディールブレイク(交渉破談)として、M&A自体をやめてしまってもよかったはずです。

回避行動を取る前提として、予見や認識の段階で、躓いていた、というのがこの事件の本質です。

「リスクや課題を知るなんて簡単だし、誰でもできる」

そう思われている方は多いかもしれませんが、実際は、天下の国際的大企業の東芝(ただし、当時の東芝。その後は東証二部に降格したので「天下の国際的大企業」といえるかどうかは微妙)の経営陣であっても、
「リスクや課題を知る」
程度のことすら、まったくできていなかったのです。

多くの医者(外科医を除く)がやっているのは、病気を治すことではありません。

病気を治すのは、薬であり、薬剤師です。

医者がやっているのは、病気を発見し、特定する作業です。

「課題を発見・抽出・特定する」
のは、
「課題そのものを処理する」
よりも、実は、非常に重要で高度な業務なのです。

課題が明確に特定され正しく認識されていれば、契約取引も、企業運営も、大過なく進められ、成功します。

逆に、大きなプロジェクトにおいて、
「特に、課題らしき課題は見当たらない」
という状況は必ず失敗に終わります。

参考:00092_苛酷な社会を生き抜くための「正しい非常識」21_(6)「目的の発見・特定・明確化」の次に大事なことは、「課題や障害の発見・特定・明確化」_20191220

4 リスクや課題の発見特定を阻害するもの-正常性バイアス・楽観バイアス・常識

我々の脳内には、リスクや課題の効果的発見・認知・特定を阻む
「有害な情報解釈機能」
が巣食っています。

正常性バイアスや楽観バイアスといわれるものです。

さらにいえば、
「常識」
自体、効果的なリスク発見を阻害します。

常識とは、物心つくまでに身につけた偏見のコレクションを指します。
参考:
00098_苛酷な社会を生き抜くための「正しい非常識」27_(12)大きな仕事をするのに、常識は有害です_20200520
参考:
00014_人生をうまいこと送るためのリテラシーその1:「常識とは偏見のコレクション」

「人は皆、法を守る」
「企業においては、皆、あらゆる法を守り、健全に活動している」
いずれも、
「致命的に誤った偏見」
であることは、
01634_企業法務におけるリーガルマインド
で詳述しているとおりです。

5 リスクや課題の発見特定を阻害するもの-霞が関文学や霞が関言葉

さらに、法律の無知や無理解が、法的リスクの正しい認識・解釈を阻害します。

そもそも、
「法律は、常識とは無関係に、特に、経済人・企業人のバイアスの塊である『経済常識』『経営常識』『業界常識』と、むしろ対立する形で作られ、遵守を強制される」
という前提が存在します。
参考:
00686_企業経営者のココロとアタマを分析する:「商売の邪魔」としての法律

その意味では、
「自分の常識なり感覚なりを信じる経営」
「迷ったら、横をみて(同業者の常識と平仄をあわせる)、後ろを振り返る(これまでやってきたことを踏襲すれば大丈夫と楽観バイアスに依拠する)経営」

が一番危ない、ということになります。

そして、さらに、
「法律」という「特殊で難解な文学」
が、経営陣の法律の無知・無理解に拍車をかけます。

「霞が関文学」
という文芸ジャンルがあるのをご存知でしょうか。

これは
「霞が関言葉」
を用いた文書成果である、法令用語を指します。

この霞ヶ関言葉とは、お役人たちが使うような、
「ありふれたことを滑稽なほどまわりくどく、もったいぶって表現する言葉」
と定義されています。 

日常用語霞ヶ関言葉
ゴミ一般廃棄物
ビジネス街特定商業集積
これから農業をやりたい人新規就農希望者
マザコン過度な母子の密着
外国語ブーム語学学習意欲の高まり
クビになって職探しをしている人非自発的離職求職者
みんな勝手にやればいい各主体の自主的対応を尊重する
簡単な英会話ができるようにする外国人旅行者への対応能力を整備する
普通のサラリーマンは家が買えない平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある
転職しやすくする人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う
エレベーターを入れる円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく
家が狭くて子供が作れなくなっている住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている

(出典:『中央公論』1995年5月号、イアン・アーシー著「『霞が関ことば』入門講座(前篇)」93ページ を元に筆者が作成)
 

例えば、

====================>引用開始
販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。
<====================引用終了

という漢字がやたらと多い言語のカタマリを提示すると(これは、訪問販売における契約の申込みの撤回について定めた特定商取引法9条1項の条文です)、

これをみた企業の役職員の頭の中に投影されるのは、

「象形文字」の画像検索結果

となっている可能性が大きいです。

すなわち、法律という
「特殊文学」
は、普通の日本人が普通の日本語として、決して理解できないように作られているのです。

経営ないし企業運営は、常識ではなく、法律にしたがって行わなければならない。

しかし、当該法律自体、無意味な象形文字の羅列のようにしか表現されておらず、決して理解できるようなシロモノではない。

にもかかわらず、自分は
「ルールは理解している」
「法を犯しているはずなどない」
と盲信している。

そんな状況にある企業や組織がかなりの数存在します。
参考:
00635_霞が関文学・霞が関言葉

6 一見正常で問題なさそうに見えるビジネス活動や企業運営から、ミスやエラーやリスクや危機といった「リアルにヤヴァくなりそうな法務リスク」をピンポイントで効率よく発見するスキルの身につけ方

では、一見正常で問題なさそうに見えるビジネス活動や企業運営から、ミスやエラーやリスクや危機といった
「リアルにヤヴァくなりそうな法務リスク」
をピンポイントで効率よく発見するスキルを身につけるにはどうすればいいのでしょうか?

まずは、
1)小前提たる自社(所属企業)の活動モデルの理解
です。

次に、
2)企業活動と法令体系との整理・統合
を行うことです。

そして、
3)企業の活動モデルと「法令違反リスク」のマッピング(ハザードマップの作成)
を行い、リスクの発生ポイント(ホットスポット)を把握しておくことが必要になります。

それだけでは、不十分です。

法務担当者だけが、リスクをわかっていて、一生懸命、将来の危険を喧伝しても、聞く相手が同じ理解力・リテラシー・危険感受性がないと、
「トロイのカサンドラ王女の予言(パリスがヘレネーを誘拐してきたときも、トロイアの木馬をイリオス市民が市内に運び込もうとしたときも、これらが破滅につながることを予言して抗議したが、誰も信じなかった)」
と同じく、無意味であり、無価値であり、結局リスクが実現して、企業が崩壊してしまいますから。

そうならないためには、企業全体として、なかんずく、経営陣において、
5)“常識”に基づく経営を志向(「常識とは、社会人になるまでに身につけた偏見のコレクションである」)から脱して、 “法律”に基づく経営を志向する

6)法律は、常識とは無関係に、特に、経済人・企業人のバイアスの塊である「経済常識」 「経営常識」とむしろ対立する形で作られ、遵守を強制される、ということを理解する

7)「自分の常識なり感覚なりを信じる経営」「迷ったら、横をみて(同業者の常識と平仄をあわせる)、後ろを振り返る(これまでやってきたことを踏襲すれば大丈夫と楽観バイアスに依拠する)経営」が一番ヤヴァイ、と気づく

8)「危険を感じられない。というか、そもそも不安にすら感じない」という事態の危険性に陥りがちな自分や周囲を戒める

9)法令違反リスクで、危険を感じる場面というのは、「崖から落ちて、海に着水する直前(=手遅れ)」であるが、たいていの経営陣は、このような精神状態にあり、法務担当者としては、早めに、「刺さる」ようなプレゼンで、経営陣に危険を正しく、早く、効果的に伝える
ことが肝要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01676_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(19)_「君はデキる」と役員から褒められる、「法務課題・対策」のスマートプレゼン術

1 経営陣向け法務啓発・法務プレゼンの難しさ

代表取締役や常務会等の意思決定機関、取締役会のようなオーソライズ機関、いずれに対する啓発ないし政策提言であれ、
「物を申す」べき対象者
は法務スタッフにとっては指揮命令系統上の上位者であり、彼らは日々のビジネスジャシジメントに追われ、多忙なことは明らかです。
警告を行ったり、意見を具申すべき対象者がこのような状況ですと、抽象的な法令リスクを通りー遍の表現で伝えようとしても疎まれるだけであり、本質的なことが伝わる前にコミュニケーションが断絶してしまう場合があります。
このような状況を克服するためには、より具体的かつリアルにリスクを述べるような工夫が必要になります。

2 経営陣は、「経営の専門家」であっても、「法律の専門家」ではない

経営者は、経営の専門家であっても、法律の専門家ではありません。

他方で、法律の条文、思考枠組、運用メカニズム、限界領域の解釈、運用相場観、すべてが、腹が立つくらい、難解で高尚で、一般人の理解を拒絶します。

3 伝える側(法務担当者サイド)に伝達の工夫が必要

企業法務スタッフとしては、伝達する法情報の正しさに意識を向けることはもちろんですが、多忙な経営幹部に適切な注意を促すべく表現・伝達の方法に創意工夫が必要です。
すなわち、
「これは法令違反」「あれも法令違反」
といった単なる
「ダメ出し」
だけでも不十分であり、打開策や回避策を複数併せて進言するような創造性・柔軟性が必要となります。
これら経営幹部への啓発がなされることにより、経営幹部による合理的な基本方針の策定がなされることが期待されます。

4 ダメな法務プレゼン・法務啓発例

抽象的で難解だけど、具体的に何を指しているか意味不明な言葉を唱えるような非知的なプレゼンはNGです。

例えば、企業内の法務部員が、経営陣からの法的諮問や依頼部署からの法律相談に対して、
「コンプライアンス的に問題です」
という応答をすることがありますが、この
「コンプライアンス的に問題です」
という応答は、法務戦略としての思考を放棄したことを示しており、法務部員としてあり得ない怠慢さを表すものと考えられます。

では、正確無比なデータをそのまま経営陣に対して提出すればいいか、となると、これもNGです。

5 「データ」を投げつけるのではなく、「リテラシー」や「ストーリー」が書かれた「コンテンツ」を使ってプレゼンする

知的専門分野に関する文書は、3つに大別されます。

1)「データ(文字や符号や数値の集合に過ぎません。データが記述・表現できるのは、単純で中立で無機質で無意味で無味乾燥な事実ないし状況だけ)」
2)「リテラシー(データを適切に理解・解釈・分析し、意味と価値を有するように、再記述したもの、あるいはそのような本質的な知的能力)」
3)「ストーリー(特定の状況や課題に対応して、目的性と方向性を有した思考を、明確化・ミエル化・カタチ化・言語化・論理化・構造化・共有可能化・記録化(痕跡化ないし証拠援用可能化や改ざん不能化)したもので、リテラシーに従って再構成されたデータや情報の断片を組み合わせて〔作成者が意図的につまみ食いや再構築して〕作成されたもの)」
4)「コンテンツ(読み手の理解度や知的水準に併せて、読み手がストレスなく理解できるような工夫が加えられた価値ある創作物)」
です。

条文や法律や漢字がやたらめったら多い分厚い法律書は、
「データ(文字や符号や数値の集合に過ぎません。データが記述・表現できるのは、単純で中立で無機質で無意味で無味乾燥な事実ないし状況だけ)」
であって
「コンテンツ」
ではありません。

経営陣や一般人やその他法律の素人の方々が、いきなり
「データ」
を示されたとしても、たとえ、提示されたものがどれだけ正確無比でも、

となるだけです。

法務担当者として、経営陣を啓発する場合、提示すべきは、
「データ」
であってはならず、
「リテラシー」か「ストーリー仕立て」にした「コンテンツ」にすべき
です。

(1)「データ」と「リテラシー」

「データ」と「リテラシー」の違いですが、例えば、


株式会社制度に関する説明を探してみると、
株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とする。当該目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで、会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を割合的単位として細分化した。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにしたのである
といった類の記述が見られます。
これじゃあ、まるで外国語ですね。
一般人でもわかるように
「翻訳」
して解説します。
日本語のセンスに相当難のある人間が書いたと思われる上記文章が、伝えたかったことは、
デカい商売やるのには、少数の慎重な金持ちをナンパして口説くより、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい。とは言え、小口の出資しかしない貧乏人に、会社がつぶれた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さない。だから、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしてやるようにした。これが株式会社だ
ということです。

01502_株式会社には「責任者」などという者は存在しない1「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義

という例を挙げると、前者の正確無比だが難解な説明が
「データ」
であり、後者の腹が立つくらいわかりやすい
「日本語の翻訳」

「リテラシー」あるいはこれに近いもの
といえば、イメージできるかと思います。

さらに、わかりやすく
「リテラシー」
として再記述すれば、
「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義
という言い方になろう、と思います。

(2)「リテラシー」と「ストーリー」

そして、
「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義
という、
「ある意味、真っ当な常識に逆らい、常識人にとっては、やや耳障りな『リテラシー』」
をそのまま、ストレートに(経営の専門家であっても、法律の素人で、常識というバイアスに罹患している)経営陣に伝えると、当然、反感を買います。

そこで、「ストーリー」の出番です。


代表的な事件としては、
「AIJ投資顧問事件」
で、運送会社や建設会社、電気工事会社など中小企業の厚生年金基金を高利回りで運用するなどと称し、2011年9月末時点で、124の企業年金(アドバンテストや安川電機といった大企業の企業年金も含まれていたようです)から1984億円の資産の運用を受託していましたが。
しかし、実際は、2003年に年金の運用を開始した時点で預かった資金の半分を失っており、2008年には損失が500億円にまで膨れ上がり、その後は、粉飾決算して、損失を隠し続けて資金集めをしていました。
結局、関係者は詐欺で告訴され、投資顧問会社も子会社の証券会社も破産し、預けたお金は消失しました。
このとき、顧客への説明として
「ケイマン籍の子会社を通じ日経225オプションの売り戦略を主力としている」
とのセールストークでだったようです。
この
「ケイマン籍の子会社」
の実体や背景等については、当初、年金基金の代理人や破産管財人も回収を企図して相当調査したものと思われますが、その後も具体的な回収成果については報道もなく、最終的に7%程度になったと言われる債権者配当割合等を考えると、雲散霧消してしまったと思われます。
「ケイマン籍の子会社」
は、千数百億円もの金銭を預かっていたようですが、こんな無責任なことをやって、タダで済むものなのでしょうか。
担当者とか責任者とかそういった関係者が出てきて説明してもよさそうですが、事件としては、
「消失」「消えた」
と、なんとも頼りない結末になっているようです。
お金がドライアイスのように
「消える」
わけはないのであって、バクチで消えたのか、盗んだのか、飲んだり食ったりして使ったのか(1千億円以上も飲み食いしたら痛風を発症するかもしれず、生命や健康をリスクにさらす行為ですが、できなくはありません)、ミサイルを買ったりロケットを飛ばしたりといった尋常じゃない無駄遣いをしたのか等、何らかの背景事実が存在するはずです。

加えて、盗むといっても、現金でもっていくとしたら、1400億円だと、1万円札で14トンになりますし、ドルでもそのレベルのボリューム感なので、まずあり得ないので、おそらく、振込送金をしているはずで、振込送金をたどっていけば、お金の流れは相当程度解明できるはずです。
ですが、
「消失」
というのは、なんとも不可解で、納得できない説明であり、逆に言えば、
「カネを預けた先の民間企業相手に債権者や利害関係人として調査を求める」
という非常に当たり前なことを要求しただけにもかかわらず、ものすごい障害に遭遇し、事実上断念したのであろう、と推測されるところです。
ただ、これは構造上、当初から想定されているリスクが実現しただけ、とも言えます。
これは、LLCとかLLPという横文字の本質的意味を読み解けば簡単に説明できる話です。
LLCとは、Limited Liability Corporation(有限責任会社)の略であり、LLPとはLimite Liability Partnership(有限責任組合)の略です。
両者に共通する、このLimited Liability(有限責任)、響きとしてはなんだかカッコいいし、日本語の
「有限責任」
という言葉ないし概念も、かつて存在して聞き覚えのある
「有限会社」
等の言葉としては、ある程度馴染みのあるもので、それなりの、しっかりとした責任をイメージさせてくれます。
しかし、このLimited Liability(有限責任)とは、
「しっかりとした責任」
とは全く逆の実体を内包する概念であり、Limited Liability Corporation なりLimite Liability Partnership が、どれだけ関係者に迷惑をかけ損害を被らせようが、法人ないし組合の出資者は、出資した金額がなくなるだけで、それ以上一切の責任を負わない、という意味です。
とはいえ、1千数百億円もの金銭を預かるわけですから、さぞデッカイ出資金があって、会社の構えも立派で、従業員が何百人も働いているイメージを彷彿とさせてくれそうですが、実際は、資本金ないし出資金は1$とかそのくらいで、会社のオフィスはなく、従業員はおらず、私書箱の中でのみ存在する、ペーパーカンパニーというか幽霊法人がほとんどです。
Limited Liability Corporation なりLimite Liability Partnershipに出資したオーナーがやってきて
「今回の事件ではいろいろご迷惑をおけけしました。いろいろ紆余曲折あってお預かりした大事な1千数百億円(※1千数百円ではない)を消失させてしまいました。責任を痛感し、出資金全額をもって有限責任を果たします」
といっても、資本金ないし出資金の1$を放棄するだけ。
要するに、Limited Liability(有限責任)という御大層な形容詞ですが、一般的な言葉に翻訳すると、No Liability(無責任)という意味です。
年金基金の担当者が、大事な虎の子を預けた先は、遠い遠い異国の離れ小島にある、
「No Liability Coporation(無責任会社)やNo Liability Partnership(無責任組合)」
ということです。
これを、預かった会社ないし法人から観察すると、
「どこか遠い国のお金持から、1千数百億円(※1千数百円ではない)ものお金が振り込まれて、どんなに好き勝手やってお金が全額なくなっても、弁償するのは1$」
という状況です。
この状況で、
「食い物にするな」
という方が不自然であり、無理筋でしょう。

00262_「LLC(ないしLLP)」なる法人に多額のカネを預けるリスク

と、具体的な事例を踏まえて「ストーリー」を提示すると、
「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義
という、やや、挑発的で、世間の常識を逆なでするような
「リテラシー」
も、(不承不承であっても)常識人である経営陣も納得せざるを得ない、ということになります。

(3)「コンテンツ」を創作してプレゼンする

「コンテンツ」とは、
・「リテラシー」を改善・向上させるような本質的なことが書いてあったり、
・「リテラシー」を用いて状況が改善するプロセスを描いた「ストーリー」の、
いずれかです。

なお、
「リテラシー」
をそのまま提示する際、どうしても上から目線で説教臭くなりますし、
「(法務担当者とはいえ)下っ端」
から啓蒙されてそれを愉快に思う経営陣などこの世にいませんので、言い方や口の利き方には格段の注意が必要です。

また、自分で言いにくい場合、
「外部」の「専門家」

「性能の良いメガフォン」
のように使って、自分の代わりに言わせることも検討する価値があります。

「専門家」
であれば、経営陣も
「上から目線」
で説教されることも受け入れて啓蒙を是とすることもありますし、最悪、経営陣が説教や啓蒙を拒否して、あるいは、(正しいが、主観的には)不愉快な内容に激怒したとしても、
「外部」の人間
なので、ダメージは回避・転嫁できます。

6 「頭がよく、正確な知識がある」からといって、「リテラシー」を実装し、「ストーリー」を作れ、「コンテンツ」を創作できる、とは限らない

ここで、リテラシーだの、ストーリーだの、コンテンツだの、といいましたが、
「データ」
に詳しいからといって、その人間(法務担当者であれ、社内弁護士であれ、外部の顧問弁護士であれ)が、
リテラシーに長け、
ストーリーを語れ、
コンテンツを作成できるか、
というと、そうとは限りません。

むしろ、データばかりマニアックに追いかけている人間は、教養や相手への配慮や愛嬌や想像力がなく、リテラシーが欠如し、ストーリーを描けない可能性があります。

そして、役員に、法律に関する経営課題を提議する際、データを羅列しても、
「無機質で無意味で無味乾燥な事実ないし状況を示す文字や数字や符号の羅列」

「(法務担当者とはいえ)下っ端」風情
から、上から目線で、暴力的かつ無愛想に投げつけられた、と感じられ、辟易されるだけとなります。 

経営陣には、
「リテラシー」と「ストーリー」

「コンテンツ」を創作して語るべき
であり、それが、
「刺さる」プレゼンの極意、
という言い方になります。

7 経営陣、ひいては企業全体として、迫りくる現実的なリスクや課題の発見特定を阻害するもの

企業のリスク管理、なかんずく法務リスク管理や有事対処に失敗するのは、正しいリスク情報(リスクに関するメタ認知〔客観認知・俯瞰認知〕、リスク重篤さの定性・定量両面の評価・解釈、ストレステスト、展開予測)が意思決定者である経営陣に伝わらず、共有されず、錯誤状態・混乱した状態のまま、何もしないか、後手後手に回るか、誤った対処をするからです。

(1)経営陣の知ったかぶり

そして、この現象の根源的原因は、リスク管理に携わる実務担当者の
「伝える力」の貧困さ
と、
企業役職員の知ったかぶり
によるものです。

企業の役職員が、法的リスクやコンプライアンス課題を正しく認識把握できない事態に陥る原因としては、属人的なものもあります。

くどいようですが、企業の役職員は、経営(効率的な金儲け)については詳しくても、法律の専門家ではありません。

他方で、法律の条文、思考枠組、運用メカニズム、限界領域の解釈、運用相場観、すべてが、腹が立つくらい、難解で高尚で、一般人の理解を拒絶します。

経営陣も、法律のことについて知らないなら知らないで、
「知らない」「わからない」「理解できない」
と謙虚にギブアップしてくれたらいいのですが、
「判読不能な象形文字」
にしか見えていない
「難解な漢字の羅列である特殊文学である法律条文」
を目にしても、
「無知をさらけ出すと沽券に関わる」
と考えるためか、企業の役職員は、エラそうに知ったかぶりをしてしまいます。

(2)法務担当者の「伝える力」の貧弱さ

また、
「データ」は扱えても、
「リテラシー」が欠落していて、
「ストーリー」を創作する創造力がなく、
「コンテンツ」に仕上げるスキルを欠如した、
法務担当者(リスク管理を実施する実務担当者)側にも問題があります。

(経営や数字には詳しいが)経営陣が「法的には」無知で、
経営陣に対して「刺さる」プレゼンができない法務担当者が、
「高尚で難解で抽象的で意味不明な法的専門用語」
を羅列して、
リスクに関する議論をしても、
結局、誰も理解されることなく、素通りされていく、という事態を招きます。

(3)東芝の悲劇


電機メーカー東芝は、7125億円もの損失を原子力事業全体で発生させ、2016年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、同年12月末時点で自己資本が1912億円のマイナスという、債務超過の状況に陥りました。
この状況の原因となったのは、東芝傘下のウェスティングハウスは、2015年末に買原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収した際、買収直後に、ある価格契約を締結したことにあります。
複雑な契約を要約すると、
「工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担する」
というものでした。
原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化し、追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になりました。
しかし、問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにあり(機能的非識字状態)、さらに言えば、この「価格契約」が極めて不利で合理性がない契約、すなわち狂った内容であったにもかかわらず、このリスクを発見・特定・認知できず、リスクに気づかないまま契約締結処理を敢行したことにありました。
原子力担当の執行役常務、H(57)らは「米CB&Iは上場企業だったし、提示された資料を信じるしかなかった」と悔しさをにじませた、とされます。
この事件をみていただければおわかりかと思いますが、「課題が発見されないこと」の恐ろしさが明確に書かれています。
東芝の経営陣ないし担当役員が、もし、課題、すなわち、この価格契約の法的リスクを正しく理解・認識していたら、漫然と放置することなく、何らかの対処を取っていたはずです。
契約上、追加コストを負担しないような取り決めをしておく交渉をしたはずですし、最悪、ディールブレイクさせ、契約自体をやめてしまってもよかったはずです。
回避行動を取る前提として、予見や認識の段階で、躓いていた、というのがこの事件の本質です。
「リスクや課題を知るなんて簡単だし、誰でもできる」
そう思われている方は多いかもしれませんが、実際は、天下の国際的大企業の経営陣すら「リスクや課題を知る」程度のことすら、まったくできていないのです。

00759_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法1:日本の産業界において、法務リスクを効果的に発見・特定できている企業はほとんどない

以上のとおり、
(経営や数字には詳しいが)経営陣が
「法的には」無知で、
経営陣に対して「刺さる」プレゼンができない法務担当者が、
「高尚で難解で抽象的で意味不明な法的専門用語」
を羅列して、リスクに関する議論をしても、
結局、誰も理解されることなく、素通りされていく、という事態を招いた場合、
その先にある結末は、
上記のとおり、原発事業が原因で債務超過に陥り、東証二部降格の悲劇を味わった東芝のように
担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していない」という状況を招き、
挙句の果てには、
事業全体の損失額は7125億円にのぼった。16年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、12月末時点で自己資本は1912億円のマイナスだ。先達が営々と蓄積してきた利益が全て吹き飛ばされ、ついに債務超過に陥」る、
という悲惨な結末が待ち構えているのです。

8 (「法的状況」の伝達ターゲットである)経営陣の想定知的年齢・精神年齢は11~12歳

ビジネスパースンの想定精神年齢を11、12歳として設定し、その程度の精神年齢に語りかけるくらいに咀嚼すると、
担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していない
という事態を招きません。

「ドラえもん」に出てくる野比のび太くんや、
妖怪ウォッチに出てくるケイタくんですら、
「なるほど」
「そういうことか」
と感心して食いつくような内容・本質が、
しびれるくらいわかりやすく語られていないと、
リスクを伝えたことにならない、ということです。

リスク管理の実務担当者は、そのくらい伝える力、すなわち、
「データ」から「リテラシー」を抽出し、
「ストーリー」に仕立てて、
ビジネスパースンが理解し、
心に刺さり、実感として体感できるまで、
リスクを提示する能力
を、磨くことが重要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01675_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(18)_契約法務

1 契約書のスタイル今昔

00701_契約書のスタイル今昔:ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイル

2 契約が対象とする取引の経済合理性検証

取引の交渉がまとまった、という段階において、改めて、当該交渉によってまとまったとされる
「約束内容」
の具体的内容を確認・明確化するとともに、その内容の合目的性や経済合理性等を精査しなければなりません。

3 契約が対象とする取引の会計税務との整合性検証

(1)前提としての株式公開企業を取り巻く「(二重帳簿ならぬ)三重会計」現象

00702_株式公開企業が行う「二重帳簿」ならぬ「三重会計」とは

(2)会計・税務との整合検証

法的な観点で契約事故・企業間紛争を防ぐ合意内容としては適正であっても、当該契約締結の結果、会計上、税務上の不都合が生じる場合があります。
例えば、物品販売の場合、委託方式か買取方式かによって売り主・買主のどちらが在庫を負担するかが変わってきますし、資産譲渡の価格の決定如何によっては税務上低額譲渡等と認定され、思わぬ課税がなされることもあります。さらに、M&AやSPCを用いたオフバランス取引等を実施する場合も、
「適格要件充足判断において企業組織再編税制の活用が可能か否か」や
「税務上オフバランスと判断されるか否か」
を実例に即して具体的に検証しないと、取引そのもののゴールが達成されない場合もあります。

会計との整合性検証に失敗した具体的事例としては、 不動産流動化にあたっては、会計基準についても慎重に検討すべきところ、検討が不十分で、金商法違反の有価証券報告書虚偽記載とされて、課徴金を取られることもあります。
不動産流動化を実施しても、会計基準が将来どのように変化するか保証はありませんし、想定されているメリットが得られることもなく、トラブルに発展し、粉飾の疑いをかけられる場合もあります。

なお、上記ケースにおいては、会計との整合性検証も失敗した挙げ句、税務的にも想定外の結果となってさらなる失敗となりました。

某家電量販店は、資産流動化スキームに基づき、自らが所有する不動産をSPCに一旦売却した際、会計上、売却取引として認識し、計上した売却益に基づき約26億円の法人税を納付しました。
ところが、証券取引等監視委員会から
「実務指針に沿わない会計処理であり、これは不動産を担保として資金を借り入れた金融取引である」
と指摘されたことに伴い、某家電量販店は、当該売却処理を取り消し、有価証券報告書等を訂正しました。
そして、
「不動産売却益はなかったのだから、納付した法人税26億円は返してくれ」
と、所轄税務署に対し更正請求をしました。
ところが、税務署側は
「金融取引とする理由はない」
との判断を下し、某家電量販店の主張を認めませんでした。
しかも、取締役、監査役、元取締役ら9名に対しては、課徴金相当額および過大に納税した額について支払を求める株主代表訴訟まで提起されました。

なお、 状況は異なりますが、零細企業や地方の中小企業でよくみられるのは、税理士が主導して、
「税務的な整合性『だけ』しか考えておらず、法的にはデタラメな契約処理」
がなされている例が散見されます。
 

4 契約書のチェック

「契約書のチェックの段取りと実務」1~5
「契約書のチェックの段取りと実務」6~11

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01674_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(17)_所属企業の法令環境把握と法令抵触解消手法

1 小前提としての所属企業の実体・現実の調査と把握

00698_所属企業の法令環境把握:小前提としての所属企業の実体・現実の調査と把握

2 大前提としての所属企業の法令環境の調査と把握

00699_所属企業の法令環境把握:大前提としての所属企業の法令環境の調査と把握

3 法令抵触解消手法としてのノーアクションレター

00831_ノーアクションレター制度(法令適用事前確認手続)

00700_ノーアクションレター制度のメリットとデメリット

00620_企業法務ケーススタディ(No.0211):ノーアクションレターを使ってうまいこと攻めろ!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01673_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(16)_文書管理

1 法的手続きにおいては、文書が決定的に重要

(司法・行政の別を問わず)およそ公的手続といわれる場においては、文書こそがモノをいいますし、特に裁判の場においては、文書の有無・内容は、訴訟の勝敗を決定づけるほど重要です。

有事の状況において、企業の正当性を立証し得る証拠が発見できず、長時間のドキュメントマイニング(資料発掘)の結果、ようやく重要な証拠書類が見つかり、手続の終盤に突如提出すると、当然、 裁判官や審判官は不信感をもちます。

「どうして今頃提出してくるのだ? 紛争になってから作ったのではないか? FAKEではないか?」
と。

取引や重要な事実・状況を、適切な文書によって記録した場合、記録を懈怠した場合とでは、決定的な違いが出てきます。

記録を残した場合、
1)有事の際に力を発揮する
ということはもちろんですが、この他にも、ビジネスや事業や企業活動の管理という点では、
2)記録を適正に残すことにより、活動の自己検証機能が働き、不当な企業活動やいい加減な行動が激減
3)所属従業員の働きぶりや成果の確認もしやすくなるため、経営管理にも役立つ
という効果も期待できます。

2 日本人も日本企業も文書管理は非常に苦手

文書管理(ドキュメンテーション・マネジメント)は、一般の日本企業、平均的日本人のもっとも苦手な分野です。

一般の日本企業において、有事の際、自己の立場の正当性を証明するための文書をリクエストすると、出てくるもののほとんどが、
・目的不明、趣旨不明、意味不明、論理不明、構造不明
内容デタラメ、体裁いい加減、主要要素である5W2H欠如、肝心な要素が欠落した、あるいは要素明確性・具体性が乏しい、「日本昔話」型法務文書(「昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいた」というような、何時のことか、何処のことか、氏名は何か、といった重要な要素がすべて欠落した、無価値で証明力のない文書)
・保存期間適当といい加減な廃棄ルール
・文書相互間に一貫性・合理的関連性欠如
・そもそも文書の中身は誰も気にしておらず、曖昧な記憶だけが頼りで事業や取引や組織を管理運用
・文書管理に、きちんとした資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウ)を動員せず、また、文書を専門的に管理にするプロを雇う余裕がないため、我流で適当に処理している

そもそも、文書と、データとは違います。

データは、文字や符号や数値の集合に過ぎません。

データが記述・表現できるのは、単純で中立で無機質で無意味で無味乾燥なな事実ないし状況だけです。

また、文書と、情報とも違います。

情報とは、認知された単純な事実ないし状況(データとして記述・表現されます)に、情報発信者が意味や評価や解釈を与えたものですが、そこに構造や全体や方向性までは看取できません。

文書とは、目的性と方向性を有した思考を、明確化・ミエル化・カタチ化・言語化・論理化・構造化・共有可能化・記録化(痕跡化ないし証拠援用可能化や改ざん不能化)したものであり、データや情報の断片を組み合わせて(つまみ食いや再構築して)作成されるものです。

もちろん、一般的な文書が、思考だけでなく、思想や感情を表す場合もありますが、ビジネスにおける文書とは、思想や感情はむしろ有害なものであり、ビジネス文書で表されるべき内容は、作成者の思考です。

問題が起こる企業や破綻する企業は、作成される文書の水準が致命的に低く、かつ、作成された文書の管理も致命的にできていません。

ちなみに、株式公開前の企業、いってみれば、普通の中堅中小企業ですが、こういうところも、営業優先・管理軽視(後回し)で突き進んでいるところも多く、上場準備において、突貫工事で辻褄をあわせたり管理実体を適正化するため、議事録や文書を慌てて整備することもあり得るでしょう(改竄やバックデートは流石にないでしょうが)。

3 例外的に文書管理において優秀さを発揮する日本の組織とは

ちなみに、文書管理(ドキュメンテーション・マネジメント)において、最高のレベルを誇っているのは、
1位 中央官庁を筆頭とする役所
2位 銀行
3位 時価総額5000億円以上の東証一部上場企業
の順です。

多くの企業では、前記のような惨状が横行しています。

問題が起こる企業や破綻する企業は、文書作成の水準が致命的に低く、管理が壊滅的にできていません。

ちなみに、日本の組織や企業を含め、最高レベルの文書管理技術を誇っているのは、中央官庁役所であり、企業では銀行です。銀行と役所には裁判で勝てない、などと言われますが、中央官庁や銀行が裁判でほぼ無敗の強さを誇っているのは、文書管理の精度・練度とは無縁ではありません。

4 法務文書の体裁・要件

法務部が取り扱う企業が作成する法律的文書を、筆者独自のものですが
「法務文書」
と定義します。

「法務文書」
としては、契約書、議事録のほか、重要なメモや確認書等も含まれます。

法務文書とは、特定の具体的事実を立証する力を有することを根源的本質とします。
特定の
「事実」
であり、評価や解釈ではありません。

法務文書には、約束内容であれ確認事実であれ、報告事実であれ、具体的事実、すなわち、
5W2H
=When, Who(to whom, with whom), Where, What, Why, How, and How much (many)
を明瞭に記述し、
作成日付、作成法人名と住所、担当者と担当者の所属やタイトルや権限といった付加情報
を記した適切な文書を作成しておくべきです。

5 法務の観点からみた文書の種類区分

00693_文書管理の基本その1:原本(オリジナル)と写し(コピー)

00694_文書管理の基本その2:処分証書と報告証書

00695_文書管理の基本その3:処分証書(契約書)とともに、厳重な保管管理が必要な文書

6 文書の保存期間や保存方法

00696_文書管理の基本その4:文書の保存期間や保存方法

7 英文文書管理

00697_文書管理の基本その5:英文文書管理

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所