01405_反社会的勢力対応法務>反社会的勢力対応法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>課題と対応の基本

暴力団等の反社会的勢力から不当な要求を受けたり、何らかの嫌がらせや、生命・身体・名誉・財産等に対する危険を感じた場合の対応の基本は、直ちに所轄の警察署や弁護士に相談することです。

反社会的勢力への対処は、“ビジネスマター”ではなく “リーガルマター”です。

すなわち、反社会的勢力への対応措置は、
「どの商品をどう売るか」
「誰を採用するか」
「銀行から幾ら借りるか」
「どの会社をM&Aするか」
といった話とは全く次元が違い、そもそも会社の取締役会や株主総会等で議論すべき課題ではありませんし、議論したところで結論は出ないものです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01404_反社会的勢力対応法務>反社会的勢力対応法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説

昨今、指定暴力団や、いわゆるフロント企業等の準構成員や関係者(ここでは、これらを併せて「反社会的勢力」として呼称します)は、一見すると正常に見える企業活動を装ったり、公益活動等を標榜する団体であると自称したりするなどの方法で、社会に溶け込み、その素性を巧妙に偽装しています。

また、反社会的勢力は、昭和や平成初期の時代のように、
「みかじめ料」「ショバ代」「口止め料」
といった不明瞭かつ違法な資金獲得を、ある意味
「わかりやすい形で」
暴力的に要求するといった手法だけではなく、証券取引や不動産取引といった正当な経済活動を装って巧妙に企業に接近するための様々な手法を編み出しています。

このような点から、企業に対して攻撃を加える反社会的勢力はその発見が困難であり、有効な対抗策を取るタイミングが遅れ、気がついたときには相当程度企業が蚕食されてしまう、といった被害事例が多発しています。

「反社会的勢力」
というのは法的な用語ではなく、したがって確たる定義があるわけではありませんが、一般的には
「市民社会の秩序や安全に脅威を与え、経済活動にも障害となりうる者、又は団体の総称」
をいいます。

具体的には、暴力団、その構成員、準構成員、暴力団関係企業(いわゆるフロント企業)、総会屋、えせ右翼、えせ同和問題研究会などの組織、団体を指します。

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆる「暴対法」)は、
「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」
を暴力団として定義し、各都道府県の公安委員会から
「暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団」
として指定された暴力団を、特に
「指定暴力団」
と定義しています。

株主総会における議事進行の妨害を念頭に金銭を要求する等の行為を生業とするいわゆる
「総会屋」
の数についてですが、統計が残っている1983年の約1,700人から、商法上の利益要求罪が新設された1997年の約900人に、さらに2012年には約280人にまで減少しています。

しかし、現在でもなお、反社会的勢力が、企業に対して不合理な契約の締結を強要したり、フロント企業を下請企業として参入させることを要求したり、といった事件が発生しています。

また、取締役として就任して企業の内部奥深くまで食い込み、企業を食い荒らすようなタイプの反社会的勢力による被害事例も発生しています。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01403_M&A法務>特殊な課題・新たな課題>マネジメント・バイアウト(MBO)

マネジメント・バイアウト(MBO:Management Buyout)とは、経営陣による自社株式の買い取りによるM&Aを指します。

このようなM&A手法が最近増えてきた背景には、株式公開に様々なコストや負担を忌避して、創業者社長が上場廃止策の一環として実施するといったことが挙げられます。

「多大な時間とエネルギーを費やして上場しておきながら、わざわざ面倒なことをしてまで上場廃上にする」
というのは何とも勿体ない話ですが、逆に言えば、上場企業の社長がそのような決意をせざるをえないくらい、上場を維持するための直接的あるいは間接的な負担(あるいは敵対的買収のリスク)が大きくなっているものと考えられます。

MBOを実施すると言っても、創業社長等の筆頭株主がポケットマネーを出して市場に出回っている株式をTOBで買い戻すことはおよそ不可能です。

したがって、金融機関から借り入れたり、あるいはこの種の案件を取り扱うファンドの支援を受けてTOBにより、市中に出回っている株式を一括で買い上げる形で行うことになります。

この借入の際には、自社(=買収対象会社)の資産等を担保とすることが要求されますので、この意味で、MBOは、
「経営陣をバイサイド(買手)とするLBОの1つである」
ということができます。

わが国における上場企業を対象会社とするMBOのほとんどは、非公開化を行うことで長期的な経営戦略を実現するために行う非公開型MBOであり、著名な案件としては、アパレル大手
「ワールド」
のMBOやファミリーレストランチェーン
「すかいら―く」
のMBOが挙げられます。

2006年7月に実施された
「すかいら―く」社
のMBOは、わが国最大規模であり、買収金額は2,500億円を超えるものでした。

しかしながら、MBOを実施したすかいら―くの創業者は、
「ファンド等の支援を得て非公開型MBOを行うということの本質が、株主が一般株主からファンド等のローン債権者に変わる、単なるオーナーチェンジである」
という点を理解していなかったようです。

結局、MBO終了から時をおかずして、すかいら―く創業者たちは、ファンドの意向により、MBOにより手に入れたはずの
「すかいら―く」社
から放逐される、という憂き目をみるに至っています。

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01402_M&A法務>特殊な課題・新たな課題>全部取得条項付株式の利用によるスクイーズアウト

買収者が全議決権を確保するために、少数派株主を追い出す手法を
「スクイーズアウト」
といいます。

スクイーズアウト実現のための手法がいくつか考えられますが、実務上最も多く使われている手法が
「全部取得条項付株式」
という種類株式を利用した手法です。

「全部取得条項付株式」
という種類株式制度についてですが、法案作成段階においては、その制度趣旨について、
「この種類株は、破綻に瀕した株式会社が、新たなスポンサーによる支援を受けて企業が再生できるようにするため、その支援環境を整えるため、支配交替を前提とした100%減資を円滑に行うようにするために導入する」
等と説明されていたようです。

しかしながら、債務超過要件や利用目的を限定するような要件を規定することが立法技術上困難であったこと等の理由で、財務上困難な状況にない会社であっても、また、
「多数派株主が自らの利益のために少数派株主を合法的に追い出す」
という株主平等原則に違背するような目的による利用が可能となってしまいました。

このような経緯もあって、前記のようなスクイーズアウトのための
「全部取得条項付株式」
の利用が行われるようになり、裁判所も、株主平等原則に違背しかねないスクイーズアウト目的での当該種類株式利用を容認するに至りました(東京地裁平成22年9月6日判決)。

具体的なプロセスですが、

1 定款変更により、普通株式を全部取得条項付株式に転換し、
2 会社が、上記に伴い「全部取得条項付株式」を全株取得します、
3 その取得の際の対価設計として、「多数派株主には1株以上となるが、少数株主に対しては全員の持株を糾合しても1株未満に至らないような端株を割り当てる」という形にします
4 以上のプロセスにより、「今や、議決権を完全に喪失した状況に陥った少数派株主」から、会社が裁判所の許可を得て、些少の額で当該株式を買い上げる

というものです。

スクイーズアウト戦略における注意点としては、最終段階で、会社が端株の対価として交付する金銭の多寡が争われることがある、という点です。

すなわち、会社が提案した買取対価に満足しない株主から株式買取請求等がなされた場合には、裁判所が会社提案の対価の妥当性を審理することになります。

この点、現在まで下記のような紛争が生じていますが、裁判所が判断する価格が会社提案のものを上回るケースが相当あり、この場合、スクイーズアウトスキームの実施コストが上昇することになります。

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01401_M&A法務>特殊な課題・新たな課題>レバレッジド・バイアウト(LBO)

レバレッジド・バイアウト(LBО:Leveraged Buyout)とは、買収対象企業の資産を担保として(あるいは買収完了後担保として提供する前提において)、多額の借入を行い、これをM&Aの原資とする手法です。

レバレッジ(梃子の原理)という名称が表すように、買い受ける企業の価値ではなく、M&Aが実現した後の買収企業の事業価値をも担保価値として把握することで多額の融資を得て、これを梃子のように用いて少額の自己資金で大きな企業ないし事業を買収する点に特徴があります。

上記のとおり、このM&A手法は、買収資金を借入金等によることができるため、少ない資金でより大規模な買収を行えるというメリットがあります。

数理上、バイサイド(買手企業)の企業規模にかかわらず、LBОを用いることで、どんなに大きな企業の買収も可能となります。

この手法は、
「実際にM&Aが実現していないのに、実現した後の企業結合状態を前提に、その資産を担保に金を借りる」
ということが前提になっているため、M&Aの成功率が高い場合、すなわち友好的M&Aの場合に主に用いられます。

日本においては、MBOの形態で実施されるケースがほとんどで、MBOでないLBОはあまり数が多いとはいえません。

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01400_M&A法務>M&A法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>敵対的買収者側が採用すべきホワイトナイトヘの対抗措置

敵対的買収者として、TOBを仕掛けた側からすると、TOBの成否がM&Aの成否を決するといえるでしょう。

そのような有事において買収対象者が頼るのがホワイトナイトの出現です。

ホワイトナイトとは、敵対的TOB等がなされた場合に、友好的な立場の企業に対し第二者割当増資等を行うことで、敵対的TOBの不成立を目指すものです。

具体的には、北越製紙を巡る事件における日本製紙の存在がこれにあたります。

したがって、買収側としては、ホワイトナイトが出現する隙を与えず、一気呵成に手続を進める、ということが予防法務の最善の策であるということができます。

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01399_M&A法務>M&A法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>敵対的TOBへの対抗措置としての防戦買い

敵対的TOBを仕掛けられるような場面においては、経営陣自ら自己株式を購入する他、関係の深い企業に自社の株を購入してもらうことで安定株主となってもらい、TOBの成立を阻止するという対抗措置(防戦買い)が考えられます。

防戦買いを実施する際に注意しなくてはいけないのが、金融商品取引法の規制抵触です。

例えば、TOB規制を回避する趣旨で経営陣やホワイトナイト自らは25%程度しか買い進めることがなかったとしても、関係の深い企業と併せて3分の1を超えるような買い進め方をするときには、TOB規制が働く可能性があります。

すなわち、一定の密接な関係にあると定められている
「特別関係者」
による買付けと合わせ、当該買付けにかかる株式の割合がTOB規制の範疇に入る場合、防戦買いを行う側もTOB(カウンターTOB)を行わなくてはなりません。

この他、株式を買い進める際における、金融商品取引法上の規制課題として、5%ルール適用時における
「共同保有者」概念
があります。

すなわち、大量保有報告書提出義務の前提となる比率の算定上、支配関係にある会社等の協力を仰いで行った場合には、当該協力を行う会社は
「共同保有者」
として比率合算の対象になることに留意が必要です。

ちなみに、
「共同保有者」
概念は、上記
「特別関係者」
概念よりも狭く定められていますが、これは、TOB規制という支配権維持に関わる重大局面においては、違法不当な防戦買いによって特定少数者の間だけで支配プレミアムの移転が行われやすい、という点に鑑み、このような事態を防止すべく、規制対象者を広く捕捉する趣旨に出たものと考えられます。

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01398_M&A法務>M&A法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>商事保全(新株等発行を巡る攻防)

敵対的買収者が現れた場合、有事における防衛策として、対象企業の現経営陣に友好的な第三者(ホワイトナイト)に新株等の発行をすることで、買収者の株式支配比率を相対的に希釈化(ダイリュート)する措置が採られることがあります。

これに対しては、買収者から新株発行差止めの仮処分が申立てられる形で攻防が開始されます。

この際、防衛側(対象企業側)の反論のポイントは、
「当該増資の目的(主要目的)が、経営陣の保身ではなく、事業推進のための資金重要を充足するためである」
という点になります。

例えば、ベルシステム24事件においても、裁判所は、会社側の事業計画を詳細にレビューした上で、現実の資金調達の必要性を認定し、差止請求を認めない、という結論を導いています(なお、同裁判例については、ビジネスに明るいとはいえない司法機関が、事業計画の合理性判断を行っていることに対する批判が強く存在します。その後のニッポン放送事件においては、裁判所は、この批判を慮ってか、事業計画の合理性判断を回避したともみられる裁判を行なっていることから、ベルシステム24事件の先例的価値についてはやや留意が必要です)。

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01397_M&A法務>M&A法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>アクティビスト・ファンドによる攻撃に対する防衛

アクティビスト・ファンドとは、株式投資を行う投資家でありながら、単に株式を保有するだけでなく、企業価値向上のために経営陣に積極的に働きかけを行う者です。

アクティビスト・ファンドの攻撃態様としては、
・株主提案権に基づき、増配や役員の選解任、ときには会社の解体による残余財産分配などを提案したり、
・自らの議案に賛成する他の株主を募ってその議決権行使の委任状を取り付ける行動(委任状争奪戦、Proxy Fight)を起こしたり、
・時には敵対的TOBを仕掛ける
といった様々なものがあります。

1 アクティビスト・ファンドからの株主提案に基づく攻撃への対応

株主総会において、アクティビスト・ファンドからの株主提案に基づく攻撃が行われた場合ですが、株主総会対策の応用場面として対応していくことになります。

すなわち、防衛側(企業側あるいは企業経営陣側)としては、当該提案に対しては、
「会社は、株主だけでなく、債権者、従業員、取引先、地域社会といった様々なステークホルダーズのために“ゴーイングコンサーン(企業が永久に存在するという理論的前提)”の下存在するものであり、長期的利益の追求こそが使命であると考えている。したがって、特定の株主が追求する短期的利益だけを実現して、企業を解体したり、変質させたりすることはできない」
という形で提案を拒否していくことになります。

2  プロキシーファイト・株主名簿閲覧請求への対応

プロキシーファイトの前提として、各株主への接触が必要となりますが、このためには株主名簿の入手が必須となります。

そのため、アクティビスト・ファンドは株主名簿の閲覧請求を行います。

これに対して、企業側は、アクティビスト・ファンドの株主名簿の閲覧請求は、閲覧拒否事由に該当するので認められない等として争うことになります。

3 敵対的TOB

アクティビスト・ファンド側の敵対的TOBに対しては、敵対的TOB対策を実施していくことになります。

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01396_M&A法務>M&A法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>平時における買収防衛策(予防策)

買収防衛策とは、
「敵対的買収(敵対的TOB)に対抗する企業(TOBの対象となった企業)が採用する、TOB実現を阻止するための様々な防衛手段の総称」
です。

買収防衛策には、平時の防衛策(予防策)と、実際に敵対的買収を仕掛けられた時の有事の防衛策(対抗策)の2種類があります。

平時における買収防衛策(予防策)が、敵対的買収防衛策の中心となります。

1 株式非公開化

そもそも敵対的TOBは、株式が公開されていて、
「カネさえ出せば、誰でも買える」
という点が前提となって行われるものです。

その意味では、株式公開自体をやめてしまう、すなわち
「非公開化(going private)」
ほど確実な防衛策はありません。

2 安定株主の形成

また、日本企業が古くから行っている方法として、株の持ち合い(相互保有)や従業員持ち株会や親密な取引先による保有等を平時から実施しておくことによって、安定株主を形成し、敵対的買収に備える、というものもあります。

3 黄金株や議決権制限株式の利用

黄金株とは、会社の重要事項の議決を拒否できる権限がある株式(種類株式のうちの拒否権付株式)をいいます。

(経営陣にとって)友好的な会社に対して事前に黄金株を付与しておけば、敵対的TOB等によって普通株式を大量に買い占められたときでも買収者による合併提案を否決することができますので、黄金株は敵対的買収に対する大きな牽制として働きます(ただし、黄金株を発行しながら上場が許されている会社は、国際石油開発帝石株式会社『INPEX』が唯一です。黄金株式の保有者が経済産業大臣であることからすれば、エネルギー政策上の例外と考えられます)。

また、(経営陣が保有する)特定の普通株式以外の株を全て議決権制限株式とする方法なども理論上考えられますが、公開会社においては会社法上の制限(会社法115条)がありますし、上場規則との関係でも困難といえます。

4 チェンジ・ォブ・コントロール条項(チェンジ・イン・コントロール条項)

M&Aを実施するときには、買収対象企業の魅力ある資産(知的財産や有能な人材等)に着目することが多いと思われます。

しかしながら、
「M&Aを実施した後、魅力ある資産が買収対象企業から流出してしまう」
という事態の発生が想定される場合、M&Aを行う意義自体が大きく低下することになります。

このような仕組みを買収対象企業に具備させることは、敵対的M&Aに対する大きな牽制として働くことになります。

そこで、クリティカルな資産について、
「M&A等により支配交替が生じた場合、取引相手に契約を解消するオプションが与えられる」
というような条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)をビルトインしておき、これを敵対的M&Aに対する防衛策として機能させることも可能です。

5 (敵対的買収防衛策としての)資金需要アピール術

また、古典的ながら有効な敵対的買収防衛策として、
「資金需要アピール術」
というものもあります。

6 ライツプラン

現時点において、一般的に用いられている買収防衛策としては、ライツプランと呼ばれるものがあります。

ライツプラン(Rights Plan)とは、敵対的買収者が、対象企業が定める議決権ベースの一定割合(25%と設定される場合が多いようです)を超えた場合、買収者以外の株主に対して、極端に安価な行使価格で対象企業の株式を購入できる新株予約権を発行しておき、敵対的買収者の潜在的持ち株比率を低下させるとともに、安価な株価で株式を追加発行することにより、敵対的買収者の株式価値を低下させるという方法で、
「毒薬(poison pill)」
等と呼ばれることもあります。

ライツプランの種別として、事前警告型と信託型の2種がありますが、信託型はコストが高いという点から一般的ではなく、事前警告型が広く使われています。

敵対的買収者に対する打撃は非常に大きく、株主平等原則に違背するという点で法的な問題も孕んでいる手法といえます。

このことから、
「グリーンメーラー(経営陣に対するゆさぶりをかけて高値買い戻し等不当な要求を行う買収者)や買収対象会社の資産売却などを企図した短期投機目的による買収者等の“濫用的買収者”に対する限定的な対抗措置」
としてのみ、認められます。

“濫用的買収者”か否かを、自己保身を考える経営陣が恣意的な判断で決め付ける危険性があります。

そこで、取締役会とは別の独立の機関を立ち上げ、当該機関によって
「ライツプラン発動のための一定のルール(買収の目的を照会したり、買収後の事業計画の提出を求めるなど)を事前に策定しておき、そうしたルールを守らない敵対的買収者を“濫用的買収者”とみなす」
というフレームワークが採用されます(事前警告型ライツプラン)。

ブルドックソースを巡る敵対的TOB攻防戦(ブルドックソース経営陣対スティール・パートナーズ)においては、最高裁は、ライツプランが相当性を欠く形で発動された場合を除き、株主平等原則に違背しないとし、
(1)スティール・パートナーズ側において、経営支配権取得後の経営方針を明示せず、投下資本の回収方針についても明らかにしない
(2)議決権ベースで約83.4%の株主が賛同している
(3)支配比率は下げられるものの、スティール・パートナーズに対する金銭的補償が行われること
等の点を挙げ、相当性を欠くものではないと判断し、本件でのライツプラン発動を許容しました。

なお、最高裁は、
「スティール・パートナーズに対して一定の金銭補償を行うこと自体、ブルドックソースの企業価値をき損し、株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではない」
として、上記枠組みが、会社の資金を使って経営陣の保身を行う危険性を指摘しています。

敵対的買収防衛策に関しては、ブルドックソース対スティール・パートナーズ事件で事前警告型ライツプランが裁判所からの一応の“お墨付き”を得た形となりました。

しかし、上記のとおり、同事件では、スティール・パートナーズに対して莫大な額の金銭的補償を支払って追い出した形になっており、裁判所もこのような補償措置を重視して、防衛策を許容したものと考えられます。

今後の敵対的買収防衛策に関しては、ライツプランを前提として、
「買収者側にどの程度の金銭的補償をなせば、防衛策発動が許されるのか」、
いわば“立退料の具体的金額”をめぐって議論が深められていくことになるかと思われます。

ここで、ライツプランの導入状況を見てみると、株式会社レコフの調査によれば、買収防衛策の導入社数は2008年末の569社をピークに漸減傾向で2013年4月時点では514件にとどまり、また、いったん導入したものの中止した会社は累計で123社に上るとのことです。

この意味では、ライツプランの導入企業は減少傾向にあるといえると思われますが、その背景には、金融商品取引法におけるTOB規制が整備されてきたことで、不意打ち的な敵対的TOBが減少していることや、企業の経営権の問題は最終的に株主の判断によるべきとの考えが広がっているのではないかと考えられます(防衛策の廃上がなされた企業においては、安定株主率を高めたりして、「防衛策はもはや不要」との判断に至った可能性もありうるところです)。

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