01284_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>企業内従事者が職務上発明・創作した知的財産>職務発明

青色発光ダイオード事件で有名になった職務発明ですが、職務発明とは、企業の従業員等が職務上行った発明に関し、企業が、従業員から承継することを勤務規定などによってあらかじめ定めておくことにより、発明した従業員から職務発明の成果たる特許権を承継する制度で、特許法35条2項の反対解釈として認められるものです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

職務発明に関しては、まず
「職務発明」
の範囲が問題となります。

すなわち、従業員が現在あるいは過去の職務と全く関係ない分野で、勤務時間外の活動により発明したものは、自由発明として、特許法35条2項は適用されず、同条項の規定どおり、企業は予約承継することはできません(契約、勤務規則等で自由発明を企業がもらい受けることを定めること自体できません)。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

会社が従業員から職務発明を譲り受けた場合、会社は相当の対価を従業者に支払う義務を負います(特許法35条3項)。

なお、会社が従業員に対して
「相当の対価」
を支払って職務発明を譲り受ける方法以外に、職務発明を企業として利用する方法があります。

すなわち、特許法35条1項の規定どおり、企業が職務発明を通常実施するだけ(この場合、従業員が他社とライセンス契約を締結して実施することが可能になる)であれば、相当の対価どころか1円も支払う必要はありません。

職務発明における対価請求訴訟ですが、企業側においても対価の見直しをしたからか、2004年を境にやや減少傾向にあります。

しかし、一旦訴訟が提起されると、企業経営に対する影響は甚大なものとなります。

その意味では、企業としては企業内従業者が職務発明についての対価請求訴訟を提起した場合における有事対応策も考えておかなければなりません。

一般に、職務発明における対価請求訴訟において争いとなるポイントは次のとおりです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

なお、職務発明における対価請求訴訟が提起されるリスクを減らすための方策として、特許法35条4項に従い、企業と従業員との間でよく協議する、策定された基準を開示する、基準に基づき具体的対価額を算定するにあたっては従業員から意見を適正に聴取する、など、
「合理的」
な対価決定システムを企業内に構築することが考えられます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01283_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>個人情報漏洩対応

個人情報漏洩有事が生じた場合の対応のフローとしては、次のものを想定すべきです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

被害者への損害賠償に関しては、ビジネス上の観点を重視して実施すべきです。

すなわち、法的な観点では、そもそも何らかの契約違反なり権利侵害があったとしても、現実的損害が明らかでなく、ましてや被害者から具体的な請求がなされていない以上、漏洩当事者側に賠償すべき義務は一切生じえません(侵害事実はあっても、損害が確認できないためです)。

無論、仮に損害賠償を実施するにしても、漏洩された情報内容や個人に対して与えた経済的損害や精神的苦痛の軽重によっても賠償額は当然違ってくるものといえます。

この意味では、有事の際に
「個人情報漏洩が生じた場合は最低1人○○円」
等という類のアドバイスは、少なくとも法的には全くミスリーディングと言わざるをえません。

ただ、法的な損害賠償義務はないからといって、このような態度を貫くことが必ずしも正しいとは言い切れません。

「請求や立証なければ賠償なし」
という法的に正しい態度を表明することによって重篤な顧客離れが生じて企業の収益が悪化してしまっては全く意味がありません。

個人情報漏洩が生じてしまった場合の賠償問題においては、法的には確定したルールがない以上、賠償や顧客への対応は、ビジネスマターとして決すべきです。

この面からは、例えば、
「1人一律5,000円」
といつた画一的な金銭賠償を行うのではなく、
「危機をチャンスに変える」
発想で、新商品引換券を配ったりするなどの方法で、ビジネスチャンスを創出していく打開策も積極的に検討すべきです。

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01282_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>侵害ケース

知的財産法務における有事状況としては、自社の特許権等が侵害されたケース(被侵害ケース)と、他社より
「自社が製造・販売する製品が特許権等を侵害している」
と訴えられたケース(侵害ケース)とがあります。

自社が製造・販売する製品が、特許権等を侵害しているとして訴訟を提起された場合、事実関係を正確に調査し、相手方の特許発明等の権利範囲(特許請求における技術的範囲)を調査し、自社製品がこれに該当しないことを確かめ、反論していくことがまず必要です。

なお、特許法をよく読めば、特許権自体を潰したり、特許技術の利用を正当化する抗弁を提出したり、といった様々な法的対抗策が存在することがわかるはずです。

これらを整理したのが次の図ですが、このような多くの対抗策の中からふさわしい反撃方法を選択し、効果的に応戦していくことも検討すべきです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01281_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>被侵害ケース

知的財産法務における有事状況としては、自社の特許権等が侵害されたケース(被侵害ケース)と、他社より
「自社が製造・販売する製品が特許権等を侵害している」
と訴えられたケース(侵害ケース)とがあります。

特許権を侵害された事例においては、紛争の相手方が製造・販売する侵害品が自社の特許の技術的範囲に属するか否かを最初に検討しなければなりません。

もちろん、自社製品のデットコピー品や自社特許を何ら改変をせずに利用している場合は、問題なく特許権を侵害したとして各種請求が認められます。

しかしながら、現実の特許侵害事例においては、対象特許に何ら手を加えずに実施しているケースばかりでなく、特許技術に微妙にアレンジを加えている場合もあります。

そのような場合、当然侵害行為をしたと目される相手方は、
「当社の技術は、貴社技術とは似ているが、違うものだ。貴社の特許技術は、特許請求の範囲に記載されたものに限定されており、当社の技術は何ら貴社特許を侵害していない」
と反論することが考えられます。

このようなときに、特許請求の範囲を、単なる文言上記載された範囲から拡張させて、特許侵害者の用いる
「似て非なる」
技術をも特許請求の範囲として捕捉し、侵害請求の対象とする理論が均等論と呼ばれるものです(ボールスプライン軸受事件、最高裁平成10年2月24日判決)。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

侵害警告の際、特許権等を侵害している当事者たる企業にのみ警告文を送付するのは特段問題ありませんが、当該侵害企業のみならず、侵害企業が製品等を販売している取引先や販売店にまで侵害警告を発する場合、侵害警告行為が別途不正競争防止法に違反する違法な行為と問擬されることも生じえます。

すなわち、不正競争防止法2条1項14号においては、
「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」
を不正競争としており、侵害かどうか微妙な事案について侵害と断定した侵害警告文を送付することは、
「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布」
する行為と判断される危険が生じるのです。

したがって、侵害警告を行う上では、侵害したとされる商品が特許請求の範囲に抵触したものといえるかどうかなどを十分調査することが必要ですし、また侵害を直接行った企業の取引先企業に不用意に警告を発出しないようにすべきです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01280_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>個人情報保護法コンプライアンス

個人情報保護法コンプライアンスも情報管理における企業法務の大きなテーマです。

個人情報保護法コンプライアンス体制構築を検討するにあたっては、まず個人情報保護法という法制度を正しく理解しておかなければなりません。

かつて個人情報保護法制定前後において、過剰とも思われるような対応がみられました。

必要性が見当らないにもかかわらず、
「個人情報保護法バブル」
ともいうべき現象に踊らされ、不要に高額なコンサルティングを実施したりして後日後悔した企業が少なからず存在したように見受けられます(内部統制制度施行前後における企業の過剰な対応にも同様の傾向が見受けられます)。

これらはいずれも法の無理解に帰すものですが、法令違反予防体制(コンプライアンス)は、正しい法の理解なくして構築しえません。

個人情報保護法における法令違反予防体制を、
「個人情報保護の理念」
等といった抽象論から構築しようとすると、ゴールが曖味になり、
「賞賛に値するも、現実的に考えて無駄な努力」
を続ける愚を犯すことになりかねません。

ですので、個人情報保護法に基づく体制・対応を構築するにあたっては、高邁な理念はさておき、まずは、
「想定されるペナルティを効果的に回避するための現実的・経済的手段を採用する」
という思考手順で行っていくべきです。

この観点から、個人情報保護法違反に関し、ペナルティ(罰則)が課されるまでのフローをみてみますと、下記のとおり整理されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

一口に個人情報保護法違反といっても、法令違反に関し問答無用で罰則が課されるような義務は存在せず、行政命令が発令され、これに違反した場合に初めて罰則が適用されるという仕組みしか制度上存在しないのです。

加えて、行政命令についても、義務違反に対していきなり緊急命令が出される場合(即時命令型)はむしろ例外的な取扱いであり、原則としては義務違反に対して命令を発令する前に勧告がなされる(勧告前置型)取扱いとなっています。

なお、個人情報保護法に基づく各義務に関し、違反対応として勧告前置型のものと即時命令型のものに分けて整理したものが下の表です。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

以上を前提とし、抽象論や理念に振り回されることなく、重点項目(違反に対して即時命令が課されるタイプの法令上の義務)を意識しつつ、プライオリティ・マネジメントを取り入れながら、効果的・経済的な遵守体制を構築することが肝要です。

運営管理コード:CLBP368TO370

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01279_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>帰属問題とロイヤルティ交渉

企業が、ソフトウェア開発会社等にソフト開発を委託する場合における予防法務上の注意点です。

知的財産制度に詳しくないビジネスパースンなどは、
「特に契約上明記しなくても、開発を委託して出来上がった成果は、当然カネを出して発注した企業のもの」
と考えられるかもしれませんが、法律上は全く逆の取扱いになります。

開発を委託する企業としては、契約できちんと定めておかないと、開発委託料として高額の金銭を払っても、肝心の開発成果に手にできない、という危険性が生じるのです。

開発委託契約書はきっちりと読み込むなり、適正なデバイスを行うようにしないと大きなリスクやロスを生じることになりかねません。

企業が特許権等を有する場合、これを他の企業に利用させてロイヤルティ(実施料、使用料)を徴収したり、逆に、企業がロイヤルティを支払って他の企業の技術を利用したりする場合があります。

この場合、一番問題になるのは、ロイヤルティをいくらにするか、ということです。

ライセンスを受ける企業(ライセンシー)は極力安い方がいいですし、ライセンスを設定して利用を許諾する企業(ライセンサー)はなるべく高いロイヤルティを徴収したい、ということで両者の思惑は180度異なるものといえます。

もちろん、ロイヤルティ額の算定については、経済的には様々な方法で算定することができます。

すなわち、取得原価(コストアプローチ)や収益還元法(インカムアプローチ)、あるいは取引事例比較法(マーケットアプローチ)等により対象特許等の価値を算出し、この価値の合理的償却及び合理的利益の取得という観点から適正なロイヤルティ額というものを弾き出すことも有益かと思われます。

しかしながら、法律上は、ロイヤルティ額をいくらにするかは全く当事者の自由(契約自由の原則、契約内容決定の自由)であり、最終的には力関係や交渉の巧拙で定まるといっても過言ではありません。

そこで、ロイヤルティ額等を巡る交渉の駆け引き場面を想定して、ライセンサー・ライセンシーそれぞれの立場でどのような言い方が可能かを整理してみます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01278_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>共同開発におけるリスク予防

最近では、企業が他社と共同で開発するような状況も増えてきています。

他方、他社との共同開発プロジェクトには様々な法務リスクが伴うことがあり、共同開発推進にあたっては、これらの法務リスクの予防を効果的に行うことが重要です。

まず、中小企業等において大企業から共同開発を持ちかけられた場合、共同開発という名の下に中小企業が独自に開発した成果を吸い上げられてしまう危険性がありますので注意が必要です。

共同開発が独占禁止法と抵触するリスクが挙げられます。

すなわち、大企業同士が共同開発の名の下に強い結束を形成し、市場支配力を形成して公正な競争をゆがめたり、あるいは開発された成果を共同で専有することを通じて他企業を排除したりすることで独占禁止法に違反する可能性が指摘されています。

この観点から、公正取引委員会は、
共同研究開発に関する独占禁止法上の指針
知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針
標準化に伴うパテント・プールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」
等、共同開発や開発成果の利用に関してガイドラインを公表し、市場における公正な競争を阻害する行為に厳しく目を光らせていますので、特に大企業等の共同開発においては注意が必要です。

また、知的財産権の企業間相互利用を促進するパテント・プール(特許権等の知的財産権を有する企業が仲良しグループを作って、各自が保有している知的財産権を企業が合同で出資する特定の会社〔ジョイントベンチャー会社、あるいはコンソーシアムといわれます〕に管理させ、メンバーの企業だけが知的財産権を使えるような仕組みのことをいいます)についても、運用次第では独占禁止法違反の問題を生じえますので、注意が必要です。

無論、知的財産権は権利者に独占的利用権が与えられており、もともと反競争的な権利であることは確かです。

これを受けて、独占禁止法21条はこれら無体財産権による
「権利の行使と認められる行為」
には独占禁止法を適用しないとしています。

ただ、これは、逆の見方をすれば、新参者の嫌がらせの道具として使うような場合は、
「権利の行使」
とは認められず、独占的権利についても独占禁止法のメスが入る、ということになります。

共同開発における予防法務としてケアすべき課題として、贈賄罪リスクというものも存在します。

最近、大学の研究成果を民間企業に利用することが推進されるようになってきました。

ところで、大学の中でも国立大学法人の教授との共同研究を行うにあたっては、国立大学法人の教授は
「みなし公務員」
として刑法上公務員と同等の扱いを受けますので、不当な金品の提供が贈賄罪として問擬される危険があります。

特に、製薬会社などは、新薬開発の際の治験データ取得等を国立大学法人医学部教授に委託する際、病院医師に新薬を売り込むような感覚で接すると、次のケースのように、後日、大きな刑事事件に発展する場合もあるので、注意が必要です。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP363TO363

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01277_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>営業秘密の管理>使用、開示、取得

現在では、営業秘密を
「使用し、又は開示」
する行為のみならず、
「取得」
する行為も処罰されます(不正競争防止法21条1項)。

この点、2009年4月に成立した不正競争防止法の一部を改正する法律(2009年法律第30号)が2010年7月1日から施行され処罰範囲が拡大されています。

これは、従来、産業スパイのような
「不正競争」
を目的とするものなど違法性の程度が高い類型に限られていましたが、情報流出の類型が増えたことに対応して処罰範囲を拡大したものです。

具体的には、恨みを持つ会社に復讐する目的での情報流出も刑事罰の対象になりました。

また、どのような
「取得」
行為を罰するのかという点についても、従来は、CD-ROM等の記録媒体の取得や複製に限って罰せられていましたが、秘密を知る人をだまして情報を聞き出したりという情報媒体を介さない行為も罰せられることとなりました。

加えて、これまでは実際に第三者に情報を漏らしたり開示したりするまでは罰せられませんでしたが、
「消すようにと命じられたにもかかわらず保有し続けた上で偽る」
など、機密情報を不正に持ち出す等の行為も刑罰の対象となり、刑罰の要件が時間的に前倒しされた点にも留意が必要です。

なお、2011年改正により、刑事手続において営業秘密の秘匿について配慮する手続が法定されましたので、当該措置を求めることで、秘密を保ちながら告訴等を行うことが可能となっています。

運営管理コード:CLBP362TO363

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01276_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>営業秘密の管理>情報管理

営業秘密として保護されるための要件は相当程度ハードルが高く、企業内の全ての情報を
「営業秘密」
として管理しようとすると、今度は企業活動が停滞してしまいます。

そこで、営業秘密とまではいえない情報であっても、従業員による自由な持ち出しや他社への漏洩を防いでおくべき必要があります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

すなわち、
「企業における営業秘密とまではいえない情報」
管理政策の一環として、契約法理によって従業員による機密持ち出しを禁止する必要が出てきます。

中小企業等では、
「特段従業員から誓約書等を徴収しなくとも、従業員が機密を持ち出すのは御法度であるのは当然。法律以前の社会常識だから、いちいち契約書など整備しなくていい」
等と考えているところも少なからず存在するようです。

しかしながら、終身雇用制(制度としても従業員の期待としても)がすでに崩壊し、労働市場が流動化しており、従業員が退職してライバル企業に就職する現実的かつ具体的危険は明白に存在します。

企業側においても、昇給を見合わせたり、残業代を不払いとしたり、不況時に平然とリストラをしたりすることもあり、従業員の企業に向けられた忠誠心も低下する一方です。

加えて、法律の世界では
「法律に書いていないことや契約として約束していないことは、全てやっていいこと」
というルールが支配する以上、漫然と従業員の常識を信頼し、適正な企業内情報を管理するための誓約書徴収というわずかな手間を惜しむのは、企業における機密管理対策上、自殺行為に等しいといえます。

機密管理だけでなく、退職後の競業行為等も視野に入れた誓約書サンプルを紹介します。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

この他、営業秘密の管理という観点に着目した形での契約書等の雛型が経済産業省から公表されていますので、就業規則、営業秘密管理規定、秘密保持誓約書(入社時、プロジェクト参加時、退職時)工場見学時の秘密保持契約書、取引基本契約書、業務委託契約書、共同研究開発契約書等を作成する際には参考にすべきことになります。

運営管理コード:CLBP359TO362

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01275_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>知的財産法務(フェーズ3)>予防対策フェーズ>営業秘密の管理>保護要件

「企業内にある他社に知られたくない情報」
の全てが不正競争防止法により保護されるというわけではありません。

不正競争防止法において保護される
「営業秘密」
とは、一定の要件を備えた情報を指します。

すなわち、

1 公然と知られておらず
2 事業活動に有用な情報であって、かつ
3 秘密として管理されている情報

のみが不正競争防止法による保護を受けられるのです。

要件と具体例を示すと、次のとおりです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP358TO359

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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