00985_企業法務ケーススタディ(No.0305):やりすぎ広告、何が悪い!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十七の巻(第77回)「やりすぎ広告、何が悪い!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
消費者庁

やりすぎ広告、何が悪い!?
当社の大ヒット商品の効能説明部分の表示が、景表法の不当表示にあたるとして、消費者庁から措置命令が届きました。
「表示された効能を示す資料を数日のうちに提出せよ。
提出しない場合には、直ちに商品を市場から排除せよ。
排除しない場合は、課徴金として全売上げの3%を支払え」
とあります。
そこで、知り合いの医学部教授に調べてもらい、報告書を消費者庁に提出することにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景表法とは
消費者は、商品を買う際には、その内容と値段を確認してからその商品を買うかどうかを判断します。
商品・サービスの品質や価格の情報について、嘘や大げさな表示が横行すれば、消費者のジャッジを誤らせる危険があるため、景品表示法では、消費者の誤解を招くような不当な表示を禁止しています。
表示規制は、大別すると、
1.優良誤認:商品やサービス内容そのものについて、著しく優良にみせかけるような表示
2.有利誤認:商品の値段を著しく安く有利にみせかけること
の2つに分けることができます(景表法4条1項)。
優良・有利誤認表示規制のポイントは
「著しく」
有利な表示のみを規制している点です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:制裁措置~“ヤリ得”を狙う企業と、これを封じる法システム~
一般消費者からの情報提供などにより、景表法に違反する表示がなされている疑いのある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの
「調査」
を実施し、その結果、違反行為が認められると、事業者には言い訳をする機会(「弁明の機会」)が与えられます。
そして、これを吟味した上で、違反行為の差止めなど必要に応じた
「措置命令」
の是非判断を行います。
措置命令発令後、事業者がこれを放置すると、
「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」
またはこの両方が科せられます。
もっとも、措置命令では、企業が不当表示によって得た利益を剥奪することはできないうえ、措置命令違反の罰金の上限が
「300万円」
で済んでしまうことから、抑止力としては十分に機能していませんでした。
そこで、課徴金制度が導入されました。
企業の違法行為が認められた場合の課徴金の金額は、違反商品やサービスの売上額の3%(過去5年まで遡る)とされ、違反企業が被害者に自主返金した場合は課徴金処分が減免され、また違法行為を自主申告した場合は課徴金を減額されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ミュー・オーシロ事件
裁判例では、裁判所は企業側の主張をことごとく退け、商品に付された表示は、優良誤認表示にあたらないとしました(東京高裁平成22年10月29日)。

助言のポイント
1.宣伝文句は、「一般的なセールストーク」として許容される範囲の多少の誇張は許されるが、明らかな嘘や消費者の正常な取引判断を狂わせる大げさな表示は、景表法に違反する可能性がある。
2.大学教授や科学の専門家の意見だというだけで、裁判所や消費者庁が納得するとは限らない。
3.消費者庁から措置命令発令前の「お呼び出し」がきてから、慌てて「売り文句」の根拠を準備をしていたのでは遅すぎる。自社商品の有用性を誇示するなら、その確実性、合理性を立証できる客観的で正確なデータを用意してから。
4.「天下の奉行所」たる消費者庁や裁判所を舐めて、テキトーに争うのは危険。ときには早々に平伏し、穏便に済ませる方策も検討しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00984_企業法務ケーススタディ(No.0304):訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十六の巻(第76回)「訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
踏倒 隠(とうとう こもる)

訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!
社長は友人に会社名義で無担保で1000万円ほど貸した後、相手とはまったく連絡がつきません。
法務部長によると、契約書がある以上、相手に訴えを起こしさえすれば、自動的に勝てるでしょうし、1000万円も回収してもらえる、とのことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:力づくはご法度
借金を返してもらう方法として一番簡単な方法である、相手方から無理やりカネを奪い取ってしまう
「自力救済」
といいますが、禁止されています。
その代わり、法は、裁判所を通じて自己の権利を主張する
「訴訟制度」
を、設けました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:訴訟とは
訴訟を起こすということは、多大な費用と時間がかかります。
訴えの提起後は訴状を相手方に送達しなければならず、相手方が居留守などをして訴状を受け取らない場合にはなかなか手続きが進みませんし、弁護士を訴訟代理人に選任するために着手金等の費用を支払わなければならず、事案のサイズによっては、事件解決に至るまでにかかる時間と費用は膨大なものとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:判決をもらえば、マルッと解決!?
時間と費用を大量にかけて勝訴判決を得たとしても、それだけでは問題が解決するとは限りません。
説例の場合、当社が勝ち取った判決は、その時点で
「脇甘商事の踏倒隠に対する貸金債権1千万円が確かに存在しますよ」
ということを公に証明するものではあるものの、裁判所が直ちに相手からカネや土地・建物などの不動産を取り上げて、脇甘商事に引き渡してくれるわけではありません。
法は、訴訟制度とは別個に、債権者に代わり、裁判所が債務者の財産を強制的にカネに換えて債権者の下へ引き渡す制度を用意しています。
それが強制執行です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:役に立たない強制執行~無い袖は振れないのがまかり通る世界~
強制執行をしても、いくら判決(債務名義)を持っていたとしても、そもそも債務者に財産がなければ、
「執行不能」
ということで、一銭も回収できないことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:カネのない人への貸付を贈与という
債権をとりっぱぐれないようにするためには、
1.そもそも返済の当てもなくカネを貸したり、売掛をしない
2.仮に他人にお金を貸す際には、必ず担保(不動産に抵当権を設定したり、連帯保証人をつける等)をとる
3.訴訟を起こす際には、執行段階を見越して、仮差押え・仮処分(財産を隠したり・破壊したりするのを防ぐための制度)をしておく
4.訴訟を起こしたとしても、裁判所から納得のいく条件の和解提案が出されたら、それを無下にせずに乗る
5.(それでも腹の虫がおさまらなければ、大損覚悟で)債権者破産をする
という対応をとるのが正しい対処法です。
説例の場合、訴訟で頑張って判決を勝ち取ったとしても、結局、一銭も回収できないことになりましょうが、仕方ありません。
担保もとらずに夜逃げするような無責任な人にカネを貸すこと自体が間違いだったのです。
「返済能力のない人への無担保貸付」
という行為は、ビジネスの世界では、
「贈与」
と同じものとみなされます。
そもそも経済的合理性の点で超アブノーマルな行為をしておきながら、後から
「返せ」
とわめき出すのは、(ビジネスの世界では)120%貸した人間の方が愚劣です。
「無担保債権の債務者がカネを返さない」
のは確かに許せないでしょうが、この種の無責任な債務者にやられたのは、元はと言えば自業自得、因果応報。
「やられたら、やり返さない。
やられたら、華麗にスルー(泣き寝入りする)」
のが
「経済人としては」
正しい選択です。

助言のポイント
1.訴訟で勝ち、判決をもらっただけでは意味がない。
2.強制執行も、成功することはほとんどないのが実情なので、過度な期待はしないこと。
3.カネのない人にカネを貸すのは、プレゼントするも同然。やむを得ず貸す場合でも、担保をとるなど、債権を回収できる手はずを整えてから貸すこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00983_企業法務ケーススタディ(No.0303):仮眠時間が労働時間? んなワケあるかい!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十五の巻(第75回)「仮眠時間が労働時間? んなワケあるかい!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 子会社 脇甘ビルメンテナンス

仮眠時間が労働時間? んなワケあるかい!
メンテナンス業の子会社は、24時間対応が求められることから深夜帯の残業分である人件費が収益を圧迫し、営業利益が出にくい状況が続いています。
そこで、社長は、
「遅番の従業員の仮眠時間は労働時間ではないということで支払わない」
とし、突発的な業務が発生した場合には時間外勤務手当を支給することにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働時間ってそんなに重要なの?
労働時間は、
「会社で働いている時間」
ということになり、労働契約を法律に照らして考える上では重要です。
特に、職場に滞在した時間がすべて労働時間か休憩時間か、という最終的な解釈の違いによって、給料額に響くくらい変わってきますので、労働者にとっても会社にとっても死活問題です。
最高裁(平成12年3月9日三菱重工業長崎造船所事件判決)によれば、
「労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間である」
とされています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:判断が結構ビミョーな「休憩時間」概念
労働基準法は、休憩時間について、一定の時間労働が継続した場合には休憩をさせろ、と規定し(同34条1項)、長時間労働の弊害である作業効率の悪化や、不注意を防止しようとしています。
この労働時間と取り扱う必要のない
「休憩時間」
とは、通達(昭和22年9月13日基発17号)によれば、
「単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意」
とされており、要するに、どこに行こうが、誰と何を話そうが、ゲームをしようが、はたまた昼寝をしようが、会社は一切文句をいえない時間帯を指すということです(しかし、職場の守秘との関係で、社内規則等に違反する自由はありません)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:仮眠時間は休憩時間に含まれる!?
深夜時間帯については、眠ってもよいとされているため、最高裁平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)は、仮に眠っていたとしても、実は、労働からは開放されていない、という状況があり得る、と判示しました。
また、宿直勤務手当の支給をもって遅番の賃金とする、というような合意が真実存在するとしても、労働基準法の要求を下回ってしまうため労働法制の規制は逃れられない、と判示しました。

助言のポイント
1.労働時間を「合意」によって定義なんてできやしない。労働基準法に違反するような「合意」なんてやるだけ意味がない。むしろ、会社側の悪質さを裏づけるにすぎない。
2.休憩時間=労働からの完全なる解放、が原則。ただ、具体的な事案に即しながら丁寧に検討すれば、例外もあり得る。
3.仮眠してようが、「何か起こったときにはすぐに対応するように!」みたいな指示をしていたら、眠らせながら働かせているのと変わらない。従業員に何を期待して休ませているのか、一度立ち返って考えよう。

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00982_企業法務ケーススタディ(No.0302):挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十四の巻(第74回)「挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 盲信(ちよとつ もうしん)

相手方:
行政機関

挑戦の前にお墨付きをもらっておけ!
当社もインターネット通販に参入しました。
消費者は、商品をショッピングカートに集めてから購入決定ボタンを押さずとも、
「欲しい」
と思ったら、即決済できるようなシステムをつくりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:護送船団行政システムの終焉
昭和や平成初期においては、
「なんでも監督官庁(行政機関)に相談する」
ことこそが重要で、監督官庁と緊密な関係さえ保っていれば、
「何とかしてもらえる」
時代でしたが、規制緩和の結果、企業は、法務部や弁護士を活用して自らのリスクとコストで法令を調査し経営判断を迫られるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:行政機関による「お仕置き」(法令の執行)
行政機関は、国会が作った法律を執行し、以下のような権限が法律によって与えられています。
1.企業名の公表 例:新規学校卒業者の採用内定を取り消した企業名の公表(厚労省)
2.業務停止処分 例:製薬会社に対する、医薬品医療機器法に基づく、医薬品の製造販売停止処分(厚労省)、投資用DVD販売業者に対する特定商取引法に基づく業務停止処分(東京都)3.課徴金納付命令 例:不当廉売(ダンピング)を実施した業者に対する課徴金納付命令(公取委)
4.行政代執行 例:違法建築物について建築基準法に基づく除却の代執行(行政機関が、強制的に違法建築物を撤去)

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「お仕置き」を受けると大変(行政行為の「公定力」)
「いったん、お上(行政機関)が下したお仕置きについては、仮にそれが違法であっても、取消権限のある者によって取り消されるまでは、なんぴとたりとも(一般国民だろうが、行政機関自身だろうが、三権分立の一翼を担う裁判所だろうが)、その効果を否定することができない」
ということになっています(行政行為の「公定力」という)。
したがって、いったん
「お仕置き」
が下ると、それをひっくり返すのに多大なコストがかかり、最終的には行政訴訟で争うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:法令適用事前確認手続きの概要
「対行政上のリスク」
について、一切相談できない状態としてしまうと、企業が委縮する状況となりわが国の経済活動が阻害されてしまいますし、相談できるとしても
「なかなか回答がこない」
状況ですと、迅速な事業活動ができなくなってしまいます。
このような事態を回避するため、
「行政機関による法令適用事前確認手続」(ノーアクションレター制度)
「事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうか、あらかじめ当該規定を所管する行政機関に確認する」
制度が、閣議決定によって導入されました。
1. 照会にあたって必要な事項
(1)将来行おうとする行為に係る個別具体的な事実を示すこと
(2)照会する法令の条項を特定すること
(3)照会及び回答内容が公表されることに同意すること(公表のタイミングについては延期を希望することができる)
2.行政による回答  
 照会書が照会窓口に到達してから、行政は原則として30日以内に回答する

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:ノーアクションレター制度活用のポイント
企業としては、利用前に、
「できるだけ関連法令や裁判例について調査をして、照会者にとって不利ではない方向で行政を説得し(「裁判になれば企業側の解釈が採用されそう」という演出を含む)、不利な回答が出されるのを最大限回避する」
ことがポイントとなるでしょう。

助言のポイント
1.行政行為には「公定力」がある。取消権限のある者によって取り消されるまでは、民間に下された「お仕置き」はその効果を持ち続けるということ。
2.いったん行政行為がなされてしまうと、民間側は大変。
3.行政は、いったん出した解釈を簡単には変更できない。
4.事前照会を行う前には、十分に理論武装して、自分にとって不利な回答がくるのを徹底的に避けよう。
5.事前照会は、照会者の名前は原則非公開になったため、使いやすくなっている。
6.とはいえ、質問と回答内容は公表されてしまう。自らの優位性を確保したいときは、公表の機会を遅らせてもらう申請も忘れずに。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00981_企業法務ケーススタディ(No.0301):廃棄物処理コストを大幅削減じゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十三の巻(第73回)「廃棄物処理コストを大幅削減じゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
株式会社江古田(エコダ)マネジメント

廃棄物処理コストを大幅削減じゃ!
グループ会社が現場で出す廃棄物(建設廃材)の処理コストに頭を痛めていた当社は、今までゴミとしてカネをかけて捨てていた廃材を
「リサイクル資材」
扱いへと変えるだけで、コスト削減に加え、 環境に配慮できる企業としてイメージアップもはかる話に乗ることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:産業廃棄物とは
廃棄物とは、
「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(略)をいう」 (廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」)2条1項)
とされています。
産業廃棄物とは、廃棄物処理法2条4項1号、同法施行令2条各号が詳しく規定していますが、要するに、
「企業(事業を行うすべての組織を含みます。後述のとおり、自治体も含む)が出すゴミ」
のことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:悪質なリサイクル業者
産業廃棄物処理業を営むには行政の許可が必要です。
この許可を得るには、産業廃棄物処理施設の設置基準をクリアせねばならず、このような施設を建てるとなると、周辺住民から猛烈な反対運動が沸き起こったり、この対策費用等のため、多額なコストがかかることがほとんどです。
「多額のコストはかけられない、したがって、許可はもらえない、とはいえ、ゴミ処理というおいしい商売には加わりたい」
ということで、適正な許可を得ず産業廃棄物処理業に参入する違法な業者がかなりの数存在するようです。
企業としては、事業活動をすれば産業廃棄物は必ず排出され、しかも途絶えることがないため処理費用はバカになりません。
この処理費用につけ込んで、違法業者が
「リサイクルビジネス」
と騙るケースがあります。
普通であればゴミとなる廃棄物を、リサイクル品であると称して、産業廃棄物処理の許可を受けずに引き取り、これを山中などに不法投棄するのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:違法な産業廃棄物の処理には罰則も
そもそも企業が産業廃棄物を運搬処理してもらう場合、行政から許可を得た業者と書面で委託契約を取り交わした上で、証明書のやり取りをしなければなりません。
これらの規制、手続きに違反すると、当該違法な処理業者のみならず企業も連座して罰則が科される可能性があり、最高5年の懲役まで定められています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「不法投棄をする奴が悪いから、頼んだわしゃ知らん」という言い逃れは通用しない
ゴミの排出企業は、ゴミがきちんと法律通り処理されているかについて、最後まで責任を持つようにと法律に規定されています。
したがって、ゴミを業者に預けたら不法投棄されたという場合、その不法投棄されたゴミも責任を持って回収しなければならなくなるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:ゴミとリサイクルを見極める
違法処理業者に頼まないための判断基準は、最高裁判決平成11年3月10日が示しています。
当事者が
「これはゴミではない! リサイクル品だ!」
と言い張ったところで、引き取った業者に使い道がなければ結局ゴミだということになってしまう、というものです。

助言のポイント
1.廃棄物の処理は、行政から許可を受けた業者に頼まねばならない。違反すると罰則の可能性がある。
2.「処理を頼んじまえば、後は知らん」とはならない。ゴミを排出する企業はゴミ処理の最後まで責任を負うから、頼む業者が信頼できるか見極めること。
3.当事者が「ゴミじゃない!リサイクル品だ!」と言い張っても、ただのいらない物ならゴミ。いくら言い換えても中身は変わらない。
4.リサイクルとか社会的責任とか、イメージに踊らされて適当なゴミ処理をすると、法律に違反して痛い目に遭う。

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00980_企業法務ケーススタディ(No.0300):株主優待で、株主を釣れ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十二の巻(第72回)「株主優待で、株主を釣れ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ハタカゲファンド社

株主優待で、株主を釣れ!
今度の株主総会において、当社の株式をすでに20%近く取得しているファンドが、社長の対抗馬として別の役員を選任する旨の議案を提出します。
その打開策として、株主らにGeldカード1枚(1万円相当)を贈呈(利益供与に該当しないよう、当社に有利な議決権行使をするか否かに関係なく)することにしました。
株主らが、カード欲しさから早合点して議決権行使書面に賛成としてくれる、という寸法です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:利益供与の禁止とは
会社法においては、会社経営の健全性を守り会社財産の浪費を防止するために、 取締役らが株主らに財産を供与してオーナーである株主の意思決定を歪めることを禁止しています。
「何人に対しても株主の権利行使に関して自己またはその子会社の計算で財産上の利益を供与してはならない」(会社法120条1項)
と規定され、
「株主の権利行使に影響を与える趣旨で」
金品の供与だけでなく、貸与、債務免除、信用供与等を禁止しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:利益供与禁止規定違反の効果
会社が、財産上の利益を供与した場合、その利益の供与に関与した取締役(委員会設置会社では執行役を含む)として法務省令で定める者(会社則21条) は、供与した利益に相当する額の金銭を会社に対して支払う責任を負います(法120条4項)。
取締役の職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとしても、この責任を免れることはできません(無過失責任。法120条4項括弧書)。
取締役の会社に対する義務は、株主全員の同意があれば免除されますが(法120条5項)、株主の全員から同意を取り付けることは実際上困難なので、結局は、利益を供与した取締役が責任を免れることは事実上ないといえます。
利益供与禁止規定に違反すると最悪の場合、取締役らは3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処される可能性もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:モリテックス事件判決
裁判例では、Quoカード(1枚につき500円相当)を総額450万円分株主らに贈呈した行為において、裁判所は、原則どおり利益供与に該当すると判断しました。

助言のポイント
1.利益供与禁止規定の適用は、総会屋などに金品を交付する場合だけではない。
2.利益供与禁止規定に違反した場合、民事責任のみならず、刑事責任も負う可能性があるので注意しよう。
3.経営権に争いが生じている状況下で、株主の議決権行使に対し金品等を交付すれば、いくら体裁を取り繕ったとしても、裁判所に現経営陣の真意を見透かされて、責任をとらされる可能性がある。

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00979_企業法務ケーススタディ(No.0299):労働組合? なんぼのもんじゃい!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年2月号(1月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十一の巻(第71回)「労働組合? なんぼのもんじゃい!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 盲信(ちよとつ もうしん)

相手方:
脇甘商事株式会社 元従業員 抜作(ぬけさく)
合同労働組合

労働組合? なんぼのもんじゃい!
不正行為をした従業員を懲戒処分にしたところ、合同労働組合から
「組合加入通知書および団体交渉申入書」
が送付され、一方的に協議のための期日まで指定してきました。
元従業員の行為は刑法的にいえば横領で、当社としては事実確認も行ったうえ懲戒解雇処分をしており、手続に何らの違法もありません。
このような要望に応じる必要はまったくないため、この申入れは放置するつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働組合とは?
労働組合は、憲法に存立の根拠を有する重要な団体であると位置づけられています。
労働者が1対1で使用者と労働条件についてフェアに交渉することを期待することは困難であることから、憲法28条は、
1.労働者が団結する権利(団結権)
2.労働者が使用者と交渉する権利(団体交渉権)
3.労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権)
として具体的に労働組合を通して実現可能な労働者の権利を保障しています。
労働組合を作るには、2人以上の労働者が組合を作ろうと意気投合し、地方労働委員会において規約等が労働組合法に適合していることを確認されさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられることになります。
また、企業内の労働組合が存在しない状況においては、従業員が企業外の独立系労働組合の組合員となることも可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:団体交渉事項
会社としては、企業外の独立系労働組合から団体交渉が申し入れられた場合、義務的団体交渉事項として、交渉に誠実に応じるべき義務を負います。
「義務的団交事項」
の範囲は、現在では、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなどを予防するための職場環境の整備に関しても
「労働条件その他の待遇」
に含まれるなど、広く理解されています。
義務的団交事項について、会社が正当な理由なく交渉を拒絶した場合には、不当労働行為に該当し、労働委員会に救済命令を求められて申立てをされることになるなど、負担が生じることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:対応方針
団体交渉に関する基本的な構造は
「労働組合から義務的団交事項に関する交渉要請」→「誠実交渉義務の発生」
であるため、実体的な理由の存否はさておき、会社としては、
「交渉を誠実に行うことが必要である」
認識を有することが大切です。
いったん、交渉が始まると、組合側からは労働法の理論と判例を頭に詰め込んだ切れ者の交渉担当者が出てくるものと想定され、理詰めで解雇の撤回を求めるのに対して、
「そんなの関係ねぇ!」
などと交渉に協力しない場合も、やはり不当労働行為となり得ます。
しかし、会社側が負担しているのはあくまでも交渉を行う義務であり、会社として何らかの妥協あるいは合意までが義務ではありませんので、合理的根拠を示して妥結を拒否することは当然に許されています。
一部の合同労組は、およそ不当労働行為に当たらない行為に関しても
「不当労働行為だ」
「労働委員会に申し立てる」
などという発言もあるようですので、き然とした対応を行っていく必要があるでしょう。

助言のポイント
1.労働組合からの団体交渉に応じない、その姿勢こそが最大のリスク要因。理由がありそうだろうが、なさそうだろうが関係ない。
2.交渉は誠実に行うべきだが、安易な妥協は義務じゃない。まずは落ち着こう。
3.落ち着いて対応できるかどうか不安? 弁護士などの専門家を立ち会わせることで、プレッシャーに負けないことが最良の対策。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00978_企業法務ケーススタディ(No.0298):子会社の不祥事が原因で、株主代表訴訟!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十の巻(第70回)「子会社の不祥事が原因で、株主代表訴訟!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 個人株主 碇 晋十(いかり しんとう)

子会社の不祥事が原因で、株主代表訴訟!?:
子会社で起こった不祥事の件で、脇甘商事の株主から
「脇甘社長が責任をとれ」
という形で株主代表訴訟の提訴請求を受けました。
社長は、子会社の起こした不祥事は、親会社(役員)として脇甘商事が責任を負うのは当然、と弱り果てましたが、法務部長は、親会社役員が子会社の不祥事に関する責任を負うことはあり得ない、といいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社役員の会社に対する義務及び責任
会社の取締役等の役員は、
「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければなら」
ず(会社法355条)、また、
「株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従う」
ことから(同330条)、役員は会社に対し善管注意義務を負います。
役員が悪意又は重大な過失によりこれらの義務に反し会社に損害を生じさせた場合には、当該会社に対してその責任を負い(同423条)、さらに、株主は、会社に対して役員の責任を追及するよう求めることもできます(同847条1項)。
以上のようなメカニズムを採用することで、会社法は、原則として、経営に関与できない株主を手厚く保護しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:子会社に関する親会社取締役の責任
役員が会社に対して負う忠実・善管注意義務は、あくまでも当該会社との関係で生じるものです。
会社法上、親会社役員が子会社の業務を管理監督せよという義務規定はありません。
実際の裁判例においても、
「親会社の取締役は、特段の事情のない限り、子会社の取締役の業務執行の結果子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害を与えた場合であっても、直ちに親会社に対し任務懈怠の責任を負うものではない」
とされます(東京地判平成13年1月25日)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:福岡魚市場株主代表訴訟事件
裁判例、子会社に対する親会社の不正融資等が問題となり、親会社株主が親会社役員に対して提訴した株主代表訴訟(福岡地判平成23年1月26日)では、親会社の取締役としての忠実・善管注意義務違反を認めています(控訴審判決も同旨)。
事実関係如何によっては親会社役員が子会社の管理監督責任を問われる場合が十分あり得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:改正会社法における多重代表訴訟制度の創設を含めて
親会社役員であっても、子会社の不祥事を認識した時(認識し得た時)には、親会社役員として必要な措置を行わないでいると親会社に対する善管注意義務違反を問われるおそれがあります。
取締役とは、その名のとおり、常に経営上の課題を発見して合理的対処し、会社全般を取り締まることが役割であり、発見され指摘された問題を、偽装したり隠蔽したり、先送りすることは、この役割とは正反対の行動といえます。
有事の際には、子会社の監督のため情報収集を徹底し、必要に応じて、親会社取締役会の対応もしくは子会社取締役に働きかけるなどして、損害発生ないし拡大の防止に努めなければなりません。
平成26年6月20日に成立した改正会社法では、親会社株主を保護するために、その手段として多重代表訴訟制度(親会社株主が直接子会社役員等の責任を追及する訴訟を提起できる制度)が創設されました。
「最終完全親会社の株主」
が、最終完全親会社等が保有する子会社株式の帳簿価額が当該親会社総資産の20%を超えるという意味で「重要な子会社」の役員等に対しては、その責任を追及できることになりました。

助言のポイント
1.「別法人なら、そんなの知らんぷり」というルールも、鉄板ではない。平成26年会社法改正で、状況によっては、子会社の責任を親会社役員として取らされる場合もある。
2.親会社役員が、子会社がヤバイことになった状況を発見しても放置のままだと「親会社の有する財産(子会社株式の価値)を損ねた」という理由で善管注意義務違反を問われる。「ヤバイことになっている」とわかったら即座に、不祥事の原因を調査し相応の措置を講じること。
3.取締役とはその名のとおり、常に経営上の課題を発見して合理的対処し、会社全般を取り締まることがその役割と肝に命じること。発見され指摘された問題の、偽装・隠蔽・先送りは、後日、大きな問題となって、身に火の粉が降りかかることになる。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00977_企業法務ケーススタディ(No.0297):あの取締役が気に入らん!!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十九の巻(第69回)「あの取締役が気に入らん!!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 取締役 家触(かぶれ)

あの取締役が気に入らん!!:
若くて優秀な取締役を任用したものの、社長は、その取締役が気に入りません。
「取締役の職務を減らし、常勤取締役から非常勤取締役にし、はじめに決めた報酬より減額する、あるいは、任期が残っていても辞めさせることは簡単」
と、法務部長は社長にいいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:お役御免で減額OK!?
昭和の半ばごろより、減額の対象となる取締役の同意がない限り取締役会によって一方的に減額することはできない、とされるようになりました。
取締役会と取締役との間で一度決定した報酬額は、会社と取締役の契約の内容となるので、契約期間中は対象となる取締役の同意なく変更することはできませんし、取締役の職務内容に変更が生じた場合であっても、同様に、一方的に報酬額を変更することはできません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:報酬残金払って「はい、さようなら」
会社と取締役の関係は、
「経営のプロ(取締役)とカネに不自由していない出資者(株主、つまり会社の所有者)」
という対等の地位にある当事者同士が想定されており、雇用ではなく委任に準じた関係であるとされています(会社法330条)。
したがって、原則として、取締役には労働基準法等の適用はなく、取締役については
「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」
と規定されています(会社法339条1項)。
つまり、株式の過半数を有していれば、株主総会を開いて、いつでも取締役を解任できるのです。
しかし、解任に
「正当な理由」
がない場合、会社は、解任した取締役に対して
「解任によって生じた損害」
を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。
「正当な理由」
とは、取締役の職務遂行上の法令・定款違反行為、心身の故障、職務への著しい不適任(能力の著しい欠如)等であり、
「解任によって生じた損害」
とは、取締役が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益の額、つまり、
「任期満了までの役員報酬」
となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:お家騒動登記
解任することのデメリットは任期満了までの役員報酬の支払いだけではありません。
取締役が解任された場合、会社登記に
「解任」
という登記原因が記載されます。
通常であれば
「辞任」
「死亡」
等との登記原因となりますので、お家騒動を世間に公表することとなりかねません。
また、解任された取締役にとっても
「解任」
と登記されることによって、他の会社の取締役となろうとする場合や就職する場合においてもイメージが悪くなりますので、好ましい状況とはいえないでしょう。

助言のポイント
1.役員報酬の決定が取締役会に一任されているからといって、一方的な報酬の減額はできない。職務内容を変更しても減額は許されない。
2.「正当な事由」なく解任すると任期満了までの役員報酬を支払う義務がある。
3.取締役を解任すると登記に「解任」と記載され、お家騒動が露呈してしまう。
4.取締役に「解任」する旨告げ、がっかりしている間に退職金の提示をして、辞任届にサインしてもらおう。

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00976_企業法務ケーススタディ(No.0296):海外取引での与信は慎重に!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十八の巻(第68回)「海外取引での与信は慎重に!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
X国 ヤスモノスキー

海外取引での与信は慎重に!:
海外から大きな商談が入ってきました。
相手は、すでに他の部品メーカーや組立業者とコンソーシアム契約を締結済みで、すぐにでも商品を航空便で送ってほしい、すぐに売ってくれるなら当社仕入値の5割増で、受領・検品後1週間以内に、代金を支払うといってきました。
社長は、スピード感をアピールする機会であることと、相手社長は信頼できるからと、契約交渉よりも先に商品を送るよう法務部長に指示しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:海外取引先の法的素性を確認しているのか
コンソーシアムとは、ある目的のために形成された、複数の企業や団体等の集合をいいます。
海外取引では、日本国内での国内取引と同じように、
「契約の締結主体は誰なのか」
「その者の法的素性はどのようなものなのか」
を、調べる必要があります。
団体が法人格を有するのであれば、日本の登記簿謄本に相当するものが相手国にあるはずですし、法人格がない場合でも、当該集合内部での規約等をメールに添付したPDF等で送ってもらい、法的素性を確認するべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「有限責任」は「無責任」
「有限責任」
法人は、
「出資者は出資だけして、あとは知らない。
会社債権者は、会社に残った財産だけから満足を得てくれ、出資者には一切、請求しないでくれ」
というような法的設計がなされており、いいかえれば、会社の経営が傾いて会社に残った財産が僅かとなってしまった場合には、
「無責任」
な制度なのです。
日本の合同会社と類似する
「LLC」“Limited Liability Company”(有限責任会社)
という法人の性質はまさに
「無責任」
会社となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:海外取引先からの回収は大変
国際社会における各国の法秩序に関しては、主権国家が、それぞれ
「法律」
というツールを使って、各国の領土を排他的に支配する状況が続いています。
したがって、例えば、日本の法律に従い、日本の裁判所で海外の取引先を相手に訴訟を提起して勝訴判決をもらっても、その判決を用いて海外の取引先の国で強制執行する、ということは、当然には認められません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:海外取引は現金前払い・引き換えが最も安全
海外の相手方からすれば、
「遠い日本にいて、自国の法律システムに疎く、自国の弁護士との言語上の意思疎通にハンデを抱え、争えば争うほどコストが大きくかかるため、自分に対する攻撃力が最も弱い」
日本企業は、
「裏切る」
対象として、優先順位は高くなる傾向が想定されます。
また、海外取引は、類型的に投資額が高くなる傾向や、
「社運をかけた」
傾向があるため、失敗した場合の損害が大きかったり、リカバリーが困難となりがちです。
したがって、海外取引では、
「現金前払いや、商品と現金を交換」
を大原則とすべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:貿易保険によるリスク転嫁
とはいえ、相手方との力関係によっては、
「現金前払いや、商品と現金を交換」
が難しい場合、貿易保険を利用する方法が考えられます。
なお、独立行政法人日本貿易保険では、2012年から、
「中小企業輸出代金保険」
を、資本金10億円未満の中堅企業にも利用できるようにしました。

助言のポイント
1.海外取引先の法的素性をまずは確認すること。
2.「有限責任」は「無責任」と心得よう。
3.「代表者が私財をなげうって弁済する」は日本だけの美学。
4.遠く離れた海外取引先に、自社がどのような強硬策をとれるのか考えてみよう。
5.海外にモノを売る際は、「現金前払い・現金引換え」が最も安全。
6.貿易保険の活用も検討すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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