00642_“げに恐ろしきは法律かな”その2-4:「法律」は日本語ではない(4)

日本の法律は、日本語を読解できる日本人として理解できる代物でしょうか?

ここで、発行者による上場株券等の公開買付けのルールに関する金融商品取引法第27条の22の2第2項をみてみましょう。

====================>引用開始
第二十七条の二第二項から第六項まで、第二十七条の三(第一項後段及び第二項第二号を除く。)、第二十七条の四、第二十七条の五(各号列記以外の部分に限る。第五項及び次条第五項において同じ。)、第二十七条の六から第二十七条の九まで(第二十七条の八第六項、第十項及び第十二項を除く。)、第二十七条の十一から第二十七条の十五まで(第二十七条の十一第四項並びに第二十七条の十三第三項及び第四項第一号を除く。)、第二十七条の十七、第二十七条の十八、第二十七条の二十一第一項及び前条(第二項を除く。)の規定は、前項の規定により公開買付けによる買付け等を行う場合について準用する。この場合において、これらの規定(第二十七条の三第四項及び第二十七条の十一第一項ただし書を除く。)中「株券等」とあるのは「上場株券等」と、第二十七条の二第六項中「売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。以下この章において同じ。)」とあるのは「売付け等」と、第二十七条の三第二項中「次に」とあるのは「第一号及び第三号に」と、同項第一号中「買付け等の期間(前項後段の規定により公告において明示した内容を含む。)」とあるのは「買付け等の期間」と、同条第三項中「公開買付者、その特別関係者(第二十七条の二第七項に規定する特別関係者をいう。以下この節において同じ。)その他政令で定める関係者」とあるのは「公開買付者その他政令で定める関係者」と、同条第四項前段中「当該公開買付けに係る株券等の発行者(当該公開買付届出書を提出した日において、既に当該発行者の株券等に係る公開買付届出書の提出をしている者がある場合には、当該提出をしている者を含む。)に送付するとともに、当該公開買付けに係る株券等が次の各号に掲げる株券等に該当する場合には、当該各号に掲げる株券等の区分に応じ、当該各号に定める者」とあるのは「次の各号に掲げる当該公開買付けに係る上場株券等の区分に応じ、当該各号に定める者に送付するとともに、当該公開買付届出書を提出した日において、既に当該公開買付者が発行者である株券等に係る公開買付届出書の提出をしている者がある場合には、当該提出をしている者」と、同項各号中「株券等」とあるのは「上場株券等」と、第二十七条の五ただし書中「次に掲げる」とあるのは「政令で定める」と、第二十七条の六第一項第一号中「買付け等の価格の引下げ(公開買付開始公告及び公開買付届出書において公開買付期間中に対象者(第二十七条の十第一項に規定する対象者をいう。)が株式の分割その他の政令で定める行為を行つたときは内閣府令で定める基準に従い買付け等の価格の引下げを行うことがある旨の条件を付した場合に行うものを除く。)」とあるのは「買付け等の価格の引下げ」と、同条第二項中「買付条件等の変更の内容(第二十七条の十第三項の規定により買付け等の期間が延長された場合における当該買付け等の期間の延長を除く。)」とあるのは「買付条件等の変更の内容」と、第二十七条の八第二項中「買付条件等の変更(第二十七条の十第三項の規定による買付け等の期間の延長を除く。)」とあるのは「買付条件等の変更」と、第二十七条の十一第一項ただし書中「公開買付者が公開買付開始公告及び公開買付届出書において公開買付けに係る株券等の発行者若しくはその子会社(会社法第二条第三号に規定する子会社をいう。)の業務若しくは財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情(政令で定めるものに限る。)が生じたときは公開買付けの撤回等をすることがある旨の条件を付した場合又は公開買付者に関し破産手続開始の決定その他の政令で定める重要な事情の変更が生じた」とあるのは「当該公開買付けにより当該上場株券等の買付け等を行うことが他の法に違反することとなる場合又は他の法に違反することとなるおそれがある事情として政令で定める事情が生じた」と、第二十七条の十三第四項中「次に掲げる条件を付した場合(第二号の条件を付す場合にあつては、当該公開買付けの後における公開買付者の所有に係る株券等の株券等所有割合(第二十七条の二第八項に規定する株券等所有割合をいい、当該公開買付者に同条第一項第一号に規定する特別関係者がある場合にあつては、当該特別関係者の所有に係る株券等の同条第八項に規定する株券等所有割合を加算したものをいう。)が政令で定める割合を下回る場合に限る。)」とあるのは「第二号に掲げる条件を付した場合」と、第二十七条の十四第一項中「、意見表明報告書及び対質問回答報告書(これらの」とあるのは「(その」と、同条第三項中「並びに第二十七条の十第九項(同条第十項において準用する場合を含む。)及び第十三項(同条第十四項において準用する場合を含む。)の規定」とあるのは「の規定」と、同条第五項第一号中「第二十七条の八第三項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第二項において準用する第二十七条の八第三項」と、同項第二号中「第二十七条の十第八項若しくは第十二項又は前条第三項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第七項」と、第二十七条の十五第一項中「、公開買付報告書、意見表明報告書又は対質問回答報告書」とあるのは「又は公開買付報告書」と、同条第二項中「公開買付者等及び対象者」とあるのは「公開買付者等」と、前条第一項中「若しくは第二十七条の二第一項本文の規定により公開買付けによつて株券等の買付け等を行うべきであると認められる者若しくはこれらの特別関係者」とあるのは「若しくは第二十七条の二十二の二第一項本文の規定により公開買付けによつて上場株券等の買付け等を行うべきであると認められる者」と、同条第三項中「前二項」とあるのは「第二十七条の二十二の二第二項において準用する第一項」と読み替えるものとする。
<====================引用終了

私は、東京大学教養学部文科一類(いわゆる東大文一)に現役合格する程度の国語読解能力があります。

日本人平均の国語読解能力と比べても、遜色ないレベルかな、と思っています(多少の謙遜は込めています)。

そんなレベルの私が上記の日本語の羅列を最初に目にした時、頭の中に投影された認識風景は、

「象形文字」の画像検索結果

といったものでした。

「なんだ、これ。日本語で書いてあるが、日本語の文章ではないだろ。暗号か呪文か? まだ般若心経の方が、なんとなくだが意味はわかるが、この不気味で奇っ怪な呪文か暗号は何なんだ・・・・」

お恥ずかしながら、初見ではちんぶんかんぶんでした(もっとも、業務で使うようになってからは、この象形文字の塊のような文書<もんじょ>が、何をいいたいのかが理解できるようになりましたが)。

要するに、法律という
「特殊文学」
は、普通の日本人が普通の日本語として普通の読解努力を以て読解に努めても、決して理解できないように作られているのです。

結論としていえば、
「法律は、(日本語を母国語とする日本人が決して理解できない、)日本語で書かれているが、到底日本語の文書とはいえない、全く別のシロモノ」
ということになろうかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00641_“げに恐ろしきは法律かな”その2-3:「法律」は日本語ではない(3)

「霞が関文学」
という文芸ジャンルがあるのを皆さん、ご存知でしょうか?

「霞が関文学」
には、霞が関で働いている立派な官僚の皆さんがお使いになるような
「霞が関言葉」
がふんだんに使われています。

経済学者の竹内靖雄氏も自著の『日本人の行動文法』(東洋経済新報社)の中で、
「霞が関言葉」

「ありふれたことを滑稽なほどまわりくどく、もったいぶって表現する言葉」
と定義しています。

どんな感じかちょっとみてみましょう。

竹内氏も参考にしたカナダ人の日本語研究家、イアン・アーシー氏の論文から引用してみます。

【表 日常用語と霞が関言葉】

日常用語霞ヶ関言葉
ゴミ一般廃棄物
ビジネス街特定商業集積
これから農業をやりたい人新規就農希望者
マザコン過度な母子の密着
外国語ブーム語学学習意欲の高まり
クビになって職探しをしている人非自発的離職求職者
みんな勝手にやればいい各主体の自主的対応を尊重する
簡単な英会話ができるようにする外国人旅行者への対応能力を整備する
普通のサラリーマンは家が買えない平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある
転職しやすくする人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う
エレベーターを入れる円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく
家が狭くて子供が作れなくなっている住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている

(出典:『中央公論』1995年5月号、イアン・アーシー著「『霞が関ことば』入門講座(前篇)」93ページ を元に筆者が作成)

ここまでくると人を笑わせるためにやっているとしか思えませんが、この徹底ぶりはさすがです。

「霞が関言葉」
を巧みに操るスーパースター級の人材が集積するドリームチームともいえる組織が、霞が関の官庁です。

そして、ほとんどの法律は、内閣提出法案、すなわち、霞が関の行政官庁に勤務する
「霞が関言葉」
の達人である官僚たちが作っています(ちなみに、皆の人気者という以外にさしたる取り柄がなくてもなれる、雑多の目立ちがり屋の集団である国会の議員さんが無い知恵絞って作った法律は、議員立法といわれますが、法案作成のプロからするとお世辞にでも出来がいいとはいえない代物が多いようです)。

ちなみに、
「霞が関言葉」
は、一朝一夕に出来上がったものではありません。

長年の歴史的な伝統に基づき形成されてきた
「匠の技」
ともいうべきものです。

例えば、第2次世界大戦における歴史的事実に関しては、
「ボロ負けの末の撤退」を「転戦」
と言い換え、
「敗戦」を「終戦」
と言い換え、
「占領軍」を「進駐軍」
と言い換えるなどして、ぶざまな失敗を取り繕い、隠蔽しようとします。

現在でも、各種“大人の事情”で、
「日米軍事同盟」を「日米安全保障体制」
と言い換え、
「国防軍」を「自衛隊」
と言い換え、さらに最近では、
「某国から発射されたミサイルを迎撃して撃ち落とす作戦命令」を「某国から飛来した“飛翔体”に対する破壊措置命令」
と言い換えたりするなど、涙ぐましいまでの姑息(こそく)な表現マジック上の努力を行い、事態をより分かりにくく、伝わりにくくするための
「匠の技」
が見事に伝承されています。

このように、法律という
「特殊文学」
は、普通の日本人が普通の日本語として読解しようとしても、理解できないような言葉が使われ、理解困難な文章が羅列されているのです。

こういう制作側のスタッフの方向性や制作現場の事情もあってか、法律はおよそ日本語ではない、読もうとする者を拒絶する、奇っ怪な文字の羅列として、不気味に社会を漂うことになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00640_企業法務ケーススタディ(No.0222):訴訟のコスパ やられたらやり返すな!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!をご覧ください。

相談者プロフィール:
アルティメット・リベラル株式会社 代表取締役社長 古市 太刀郎(ふるいち たちろう、62歳)

相談概要:
相談者の会社では、契約があいまいな取引において、条件変更の合意後の状況確認もあいまいなまま、勝手に取引条件を変えられていたこともあり、差額対価の損害が出ています 。
内容証明を送り、一部未払いの代金精算を求めましたが、相手会社は、双方が代金減額を容認したからと応じません。
訴訟をするとなると、過去3年間の事実経緯を整理しなければなりませんが、そのデータは消えてしまっていて、復元には100万円近くかかるうえ、従業員を関わらせると本来の事業の機会損失が大きくなります。
さらに弁護士費用、裁判所に納める費用をはじめ、気の遠くなるようなコストと時間とエネルギーを消耗するのは目に見えています。
以上の詳細は、ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 仕返しのコスパ
支出は増える、時間はかかる、気の遠くなる手間はかかる、でも、カネが増えるわけでもなく、何のメリットもないことを続けていれば、会社はつぶれます。
裁判はその典型といえます。
訴訟をして、かなり高い確率で、数千万円いや数億円の賠償金が手にできるのであれば、ビジネスジャッジメントとして合理的といえなくもありませんが、コスパを考えると、企業活動としては考えるまでもなくやってはいけない、ということが容易に理解されるところです。
以上の詳細は、ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!【仕返しのコスパ】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:原告にとってあまりに不愉快な制度
裁判システムは、ボクシングやプロレスの試合に例えると、原告が、ひとりぼっちで、苦労して試合会場設営を完了させてから、レフリー(裁判官)と対戦相手(被告・相手方)をお招きし、戦いを始めなければならないし、さらにいうと、設営された試合会場ないしリングに少しでも不備があると、対戦相手(被告・相手方)もレフリー(裁判官)もケチや因縁や難癖をつけ、隙きあらば無効試合・ノーゲームにして、とっとと帰ろう、という非協力的な態度をとりつづけるイメージのゲームイベントである、といえます。
以上の詳細は、ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!【原告にとってあまりに不愉快な制度】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:前提としての体験事実の言語化・文書化
弁護士は、
「依頼者の、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、ある程度文書化された事件にまつわる全体験事実」(ファクトレポート)
から、依頼者が求める権利や法的立場を基礎づけるストーリー(メインの事実)ないしエピソード(副次的・背景的事情)を抽出し、こちらの手元にある痕跡(証拠)や相手方が手元に有すると推測される痕跡(証拠)を想定しながら、破綻のない形で、裁判所に提出し、より有利なリングを設営して、試合を有利に運べるお膳立てをすることが主たる役割として担います。
真剣かつ誠実に裁判を遂行しようとすると、依頼者側において、
「弁護士費用や裁判所利用料としての印紙代という外部化客観化されたコスト」
以外に、気の遠くなるような資源を動員して、
「事実経緯を、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、文書化する」
作業を貫徹することが要求され、 それには、とてつもない時間とエネルギーが必要になります。
以上の詳細は、ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!【前提としての体験事実の言語化・文書化】をご覧ください。

モデル助言:
経済的に考えれば、現実的期待値を100万円をはるかに割り込んでいるような経済的成果のために、300万円をはるかに超える資源を動員するということは、明らかに不合理です。
過酷で膨大なコストや手間がかかる
「体験事実の再現・言語化・文書化」
をすっ飛ばして、曖昧な話を適当な作り話で埋め合わせ、駄法螺に毛の生えた程度のストーリーに仕立て、すぐさまツッコまれて瓦解するようないい加減な主張を、高級な言語で粉飾して整えて訴訟を申し立てたところで、早晩行き詰まることは明らかです。
今回の事件を教訓として、類似のリスクの探索と防止を含めて、より強靭な取引管理を推進する契機として活用した方がよほど商売にはプラスと思いますよ。
紛議はビジネスに致命的なダメージを与えますが、この種の予防施策はビジネスには劇的なメリットがあります。
復讐は裁判ではなくて、ビジネスでやるべきですね。
以上の詳細は、ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな!【今回の経営者・古市社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00639_“げに恐ろしきは法律かな”その2-2:「法律」は日本語ではない(2)

大学等で民法を学ぶと、かなり最初の方に勉強する、
94条「虚偽表示」
という条文があります。かつては、通謀虚偽表示といわれた条文でしたが、通謀性が欠如する虚偽表示をも取り込む趣旨から、最近では、
「通謀」
が取れて、単に
「虚偽表示」
と呼ばれるようになった条文です(私個人としては、「相手方と通じてした」という文言が入っている以上、「通謀」が取れるのはしっくりこないですが)。

民法94条(虚偽表示)
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

虚偽表示やら通謀虚偽表示などと聞くと、犯罪の匂いがぷんぷんする、邪悪でダーティーな状況のよう印象を受けますが、ざっくりいえば、
「なんちゃって契約をした」、
すなわち、お互い本気ではなく、形で契約をしたことにした、という話で、よくあるといえば、よくある話です。

この
「なんちゃって契約」
をする理由としては、いろいろあり得ます。

ウソも方便といいますが、いいカッコをしようとした、体裁を繕うため、信用を増強しようとした、話の整合性を作るため暫定的な演出として、というライトなものから、債権者に貧乏なフリをするため、離婚協議中の妻に見つかったる取られたりしないように、差押えを免れるため、税務署に見つからないように、と犯罪的なものまで、様々です。

「なんちゃって契約」
を行った動機が正しいか、許容範囲か、悪質か、犯罪的かは、さておき、民法の世界の話でいうと、この契約の効力、すなわち、法的に拘束力を認めるかどうかという点については、1項に書いてあるとおり、無効です。

だって、
「なんちゃって」
ですから。

ウソですから。

本気じゃないですから。

こんなものを裁判に持ち込んで、契約どおり義務を果たせ、なんてやられても、困っちゃいます。

厄介なのは、2項です。

「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」

ここの
「善意」
って何なんでしょ。

この日本語を言葉通り受け取っていいんでしょうか?

ここで、ケースをみてみましょう。

船越英太郎(ふなこしえいたろう)は、妻との離婚紛争が激化する中、妻に内緒で購入した投資用のマンション1棟(時価約6億円)を、財産分与で取られてくないようにするため、友達の芳賀賢一(はがけんいち)に頼んで、
「離婚が成立するまで暫定的に芳賀名義にしておいて」
ということで、芳賀に売却した形にして、所有権移転登記も済ませた。
もちろんこれは2人の間では形だけの仮装の譲渡であった。
ところが、芳賀は、突然、身に覚えのない犯罪嫌疑を受けて弁護士費用が必要になり、また、その他、信用売買で投資していた株式が相場の急変で追証が必要になり、さらに、株価がどんどん下がり追い込まれたこともあり、急激にお金が必要になり、芳賀の“友人”に相談した。

船越→【通謀して名義を偽装】→芳賀→【芳賀名義で取引】→“友人”

<ケース1:“友人”が心根のやさしい根っからの善人で天使のような人間の場合>
芳賀の“友人”その1である笹井建介(ささいけんすけ)は、
「友達のためなら一肌も二肌も脱ぐ」
「義理人情が何より大切」
がモットーの、大きい体に優しい心をもつ、友達思いの根っからの善人である。
芳賀の窮状を聞いて、
「なんとかしてあげたい」
と思って、芳賀を助けるつもりで、
「返ってこなくてもいい」
と思い、芳賀に5000万円を貸した。
しかし、笹井の妻の晶子(あきこ)から
「ちょっと、あんた、何やってんのよぉ! 担保も取らずそんな大金貸してどうするの!」
と激怒され、最後はグーでパンチされるわ、ヘッドロックかけられるわ、喉輪をされて、
「ちゃんと返してもらうか、担保取ってきなさい! それまで家に入れないから」
といわれ、自宅から締め出されてしまった。
笹井は、芳賀に
「妻がうるさいので、なんでもいいから担保になるようなものを入れておいてくれ。土地でも不動産でも何でもいいから」
と懇請した。
芳賀が、船越から名義を移転されていた別荘のことを持ち出して説明すると、
笹井は、
「とにかくそれなりの担保があればいいし、要するに、後でお金を返してくれて、担保の登記を消せば何も問題ないんだし」
と説得し、芳賀も
「船越から名義移転されているが、後できちんと承諾をするので、この別荘を抵当権を設定しておくよ」
といってマンションに抵当権を設定した。
そうしたところ、芳賀は有罪判決が確定し、また、破産宣告を受けて、返済は絶望的になり、笹井も妻から
「マンション競売かけてとっとと回収しなさい」
とこれまた連日うるさくいわれる状況となった。

<ケース2:“友人”が狡賢くて冷酷で暴力的で阿漕でエゲツなさMAXの毒々しい悪魔のような商売人の場合>
芳賀の“友人”その2である浜田慎助(はまだしんすけ)は、名うての不動産屋。
パンチパーマに色付き眼鏡に関西弁にストライプのスーツ姿がトレードマーク。
そのモットーは
「安く買いたたいて、高く売る。困った奴から財産を合法的に巻き上げる」
というもの。
芳賀は、カネに困って、かつての飲み仲間であった浜田に相談したところ、
「タダで助けてくれとかナメたことぬかすな。お前、なんか不動産とかもってへんのか。不動産もってるんやったら助けたらんことはない」
と、いわれた。
芳賀は、船越から名義を移転されていたマンションを、船越との名義移転が仮装のものであることをいわずに
「自分名義の不動産ってのがあるにはありますが、とりあえずあるのはこれだけです」
と申し出た。
そうしたところ、浜田は、
「ええやないか。ええやないか。麻布のマンション1棟? 最高やないか。こういうマンションは絶対人が入る! 持って家賃収入で儲けるもよし、ころがして利益取るのもよし。わかった。これ買うたろ。そのかわり、3億5000万円や。それ以上出せん。てゆうか、お前カネないんやろ。贅沢ゆうてる場合ちゃうで。早よ決めんかいボケ。まあ、一応、来月までに4億円別に用意できるんやったら、4億円で買い戻す条項付けたってもええわ。まあ、お前なんか無理やと思うけどな」
といって脅すように迫り、芳賀も浜田の迫力にそのまま押し切られるようにして、売買を実行し、マンションの名義を浜田に移転してしまった。
そうしたところ、芳賀は有罪判決が確定し、また、破産宣告を受けて、返済は絶望的になった。

“友人”1の笹井と、“友人”2の浜田、どちらも民法94条2項の第三者として、本来の所有者である船越とのマンションの争奪戦が繰り広げられそうな展開ですが、肝心なのは、
「善意の第三者」
といえるかどうか。
天使の笹井と、悪魔の浜田、彼らは、
「善意の第三者」
として民法で保護されるのでしょうか? !

このケースにおいて、答えをいいますと、
心根のやさしい根っからの善人で天使のような人間である笹井は
「悪意の第三者」
として扱われ民法は一切保護してくれませんが、他方、
狡賢くて冷酷で暴力的で阿漕でエゲツなさMAXの毒々しい悪魔のような商売人の浜田は
「善意の第三者」
として保護されます。

え?

心根やさしく友達思いのカタギの天使が
「悪意の人」
で、
半分ヤクザのような阿漕な悪魔が
「善意の人」
だって?

何か逆のような印象を受けるかも知れませんが、法律用語を日本語として日本の常識で読解したら、こういう間違いを犯します。

なぜなら、
「善意」
とは特定の状況(船越と芳賀の売買が仮装かどうか)を知らないことを指し、
「悪意」
とは当該状況を知っていることを指すからです。

すなわち、連続殺人犯だろうがテロリストであろうが麻薬の常習犯であろうが暴力団の組長であろうが、特定の状況を知らなければ当該状況について
「善意」
の人になり、
ローマ法王だろうが、マザーテレサだろうが、ヘレン・ケラーだろうが、ノーベル平和賞受賞者だろうが、特定の状況を知っていれば
「悪意」
の人になる。

これが、民法という特殊で異常で非常識な世界における日本語なのです。

これを知らずに、法律を日本語として読もうとすると間違いを犯す可能性があります。

法律は、日本語で書かれていますが、特殊な言語によって書かれた特殊な文書(もんじょ)と考えて、翻訳をしながら使うべき必要がある、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00638_企業法務ケーススタディ(No.0221):借金まみれだが、破産はしたくない!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社大島商事 代表取締役社長 大島 一哉(おおしま かずや、44歳)

相談概要:
相談者は、本業については順調で利益が出ているにもかかわらず、銀行の提案にのって為替デリバティブに手を出し、負債が増え、今や銀行には借入金の利息しか返せていない状態です。
そうしたところ、銀行担当者が替わり、元利一括で返してもらう、といってきました。
税理士に相談するも、破産しかない、といわれました。
相談者としては、あちこちに迷惑がかかるし、かっこ悪いし、信用をなくすだろうから、破産も企業再生もしたくありません。
以上の詳細は、ケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:企業が倒産状態に陥る場面とは?
一般に、ビジネスは、
・新たに価値を創造してこれを売ってカネに変えるか、
・価値ある物を安く仕入れて高く売ってカネをもうけるか、
いずれかの方法で、富を蓄積していく営み、と定義できます。
ところが、価値を創造したつもり価値ある物を仕入れたつもりが、陳腐なもので全く売れなかったり、実は価値がなかったことが判明したり、高く仕入れて安く売ってしまったり、というようなことが続くと、カネの流出がとまらず、倒産状態に陥ることとなります。
黒字でも入出金のタイミングが反対になったがために、あるいは、無謀な借金の末に、倒産状態に陥ることもあるでしょう。
借金がかさむ(債務超過)、資金繰りが回らない(支払不能)、あるいはその双方によって、企業は倒産状態に陥ります。
以上の詳細は、ケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!【企業が倒産状態に陥る場面とは?】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:倒産状態に陥った企業に残された手段(清算と再生)
「本業も損ばかりで将来性はなく、借金まみれの状況」
については
「清算(型倒産処理)」
を、
「債務の支払問題を一旦脇に置きさえすれば、なんとかビジネスが継続できそうな状況」
については
「企業再生」
を検討することになります。
「清算」

「再生」
には、裁判所を絡ませてフォーマルに行う方法と、裁判所を絡ませずに当事者間のネゴでインフォーマルに行う方法が存在します。
裁判所を絡ませてフォーマルに行う
「清算(型倒産処理)」
の代表選手が
「破産」、
同じく裁判所を絡ませてフォーマルに行う
「再生」
の代表選手が
「民事再生」、
さらに、規模が大きい企業を裁判所の関与で強権的に再生する手法が
「会社更生手続」、
と呼ばれるものです。
裁判所を絡ませないインフォーマルな方法は
「清算」
「再生」
ともに
「任意整理」
と呼ばれます。
以上の詳細は、ケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!【倒産状態に陥った企業に残された手段(清算と再生)】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判所を利用するも非公開で進める特定調停制度
“フォーマル”な手続を申し立てると、官報に公告されますし、会社の規模によっては報道されることもあります。
他方で、“インフォーマル”となると、銀行から一蹴されるのがオチです。
裁判所を利用しながら、かつ、全債権者を一律公平に扱う必要なく、事態をオープンにしない方法があります。
「特定調停」
と呼ばれるものです。
以上の詳細は、ケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!【裁判所を利用するも非公開で進める特定調停制度】をご覧ください。

モデル助言:
為替デリバティブ取引被害、という立て付けで、まず取引先銀行に、ADRか訴訟提起をして、被害者的立場を獲得しましょう。
そして、特定調停を使って、なるべく表沙汰にならないような形でやってみましょう。
銀行との折り合いがつかないようであれば、支援をしてくれる先輩経営者に適価で会社をM&Aで買い取ってもらい再建していくことでしょうね。
偏頗(へんぱ)的・債権者詐害的な会社分割とかいわれても困るので、特定調停の場で、適切適正な事業価値鑑定を前提に、銀行の譲歩を引き出すような荒業でも使わないと無理でしょうね。
以上の詳細は、ケース28:借金まみれだが、破産はしたくない!【今回の経営者・大島社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00637_“げに恐ろしきは法律かな”その2-1:「法律」は日本語ではない(1)

法律、といってももちろん日本の法律ですが、これは日本語として、普通に理解していいのでしょうか?

ここで、例をとって考えてみます。

滋賀県から東京の大学に進学し、東京で就活をしていたA子さんですが、希望の就職先が全滅で、夢破れて地元の滋賀に帰ってきました。

民間会社で適当なところがなかったので、1年かけて地方公務員試験を受験し、地元の役所を目指します。

とはいえ、1年間勉強だけでは食べていけないので、どこか適当なところに就職しようとして、実家の近くで昔から経営している自動車修理工場「合名会社浅井自動車」に無事公務員になれるまでの腰掛けとして就職することにしました。

このことを、
「地元の大学の法学部に通っている、とはいえ、あまり勉強もしておらず、法律のことをわかっていないが、口だけは一人前の弟」
に話したところ、
「お姉ちゃん、そんなところいったら大変な目に遭うで。合名会社の社員になるんやろ? 
ほら、みてみいば、この会社法の条文、

「お姉ちゃん、そんなところいったら大変な目に遭うで。合名会社の社員になるんやろ? 
ほら、みてみいば、この会社法の条文、

会社法
第576条2項 設立しようとする持分会社合名会社である場合には、前項第五号に掲げる事項として、その社員の全部を無限責任社員とする旨を記載し、又は記録しなければならない

第580条1項 社員は、次に掲げる場合には、連帯して、持分会社債務を弁済する責任を負う
一  当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができない場合
二  当該持分会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合(社員が、当該持分会社に弁済をする資力があり、かつ、強制執行が容易であることを証明した場合を除く。)

東京でちゃんと勉強したん? これ、あかんのちゃう? あの浅井自動車、調子良さそうにみえるけど、先代社長がバブルのときに手出した駅前の学生用マンションの借金がまだ返せんみたいで、経営がだいぶしんどいみたいやで。
ほら、この条文よう見てみいな。
お姉ちゃん、そんな合名会社の社員なんかになったら、無限責任、連帯責任背負い込まされて、破産やで。
へんな契約書とか内定誓約書とかサインしてへんやろな。すぐ断わってきたほうがええで」

A子さん、来週から合名会社の社員になって働きます、という誓約書にサインしたばかりで、顔が真っ青になり、慌てて、撤回しに浅井自動車に向かって走り出して出ていきました。

ところで、この弟くんの話、そのとおりなんでしょうか?

確かに、持ち分会社である合名会社の社員は
「無限連帯責任を負う」
なんてことが、バッチリ会社法に書いてある。

すぐさま、合名会社浅井自動車の内定を取り消してもらい、こんな危ない会社の危ない責任を背負い込まされない、危険きわまりない
「社員」
になろうとした痕跡を、さっさと、きれいさっぱり消してしまうべきでしょうか??

いえいえ、まったくその必要性はありません。

この会社法でいう
「社員」
とは、従業員という意味ではないからです。

この会社法の
「社員」
は、出資持分(オーナーシップ)をもつオーナー(共同オーナー)という意味だから、出資をしていない従業員は、会社が潰れようが、債権者として未払い賃金を要求する立場にあっても、一切会社の債務について責任を負うことはありません。

極めて紛らわしい言葉の使い方ですが、会社法の言葉は、日本語ではありません。

会社法という特異な読み物の世界では、日本語や日本人の常識や普通の言い回しは通用しないのです。

ちなみに、平成17年に改正された会社法ですが、以前は、カタカナ混じりの古色蒼然たる文語体で書かれており、一見して古文書か何かと見紛うばかりであったことを改善しようと、
「現代社会にふさわしいわかりやすい言葉にフルリフォームした」
という触れ込みで登場しましたが、
「社員」

「従業員」
を意味しない、特殊言語を使うことからしても、やはり、
「会社法は日本語ではない」
という状況は変わっていません。

要するに、
「法律を日本語として読もうとするのが間違いなのであって、特殊な言語によって書かれた特殊な文書(もんじょ)と考えて、翻訳をしながら使うべき必要がある」
ということです。

日本語で書かれていて、一見すると、普通に日本語を読解できれば、読んで理解して何とか対処できそうな気がするが、特殊な知識をもって、意味翻訳しながら読まないと、誤解する危険性がある代物。

これが法律のもつ闇です。

まさしく、“げに恐ろしきは法律かな”といえるかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00636_“げに恐ろしきは法律かな”その1:法は非常識である(「法」と「倫理(道徳)」は別物である)

いわれてみれば当たり前のことですが、
「法律」
は、
「道徳」や「常識」や「倫理」
とは別物です。

ちょっとした違いどころか、まったく違う、まったくの別物です。

これは、
「法律」
の意味内容と、
「道徳」や「常識」や「倫理」
がズレることを意味します。

さらにいえば、法律が
「健全な道徳」
に反する帰結をもたらしたり、非常識な結果を容認したり、倫理と真っ向から対立することもあり得ます。

もちろんすべての場面で
「法は反倫理的である」
とまではいいません。

しかし、リスク管理を十全にするため保守的想定を行う観点では、
「迷ったら思考負荷のかかる想定」
すなわち、
「常識にしたがったら法令に違反する場合がある」
「法が非常識な働きをすることもある」
「反倫理的状況に対して法が沈黙してしまい、救済の手を差し伸べてくれないこともある」
ということを、前提として理解しておくことが必要となります。

以下、
「法の世界」

「倫理の世界」
がどのように区別され、どのような違いがあるか、についてみてみます。

1 「法」の世界~客観的ルールが整備され、自由が保障された世界~

法とは、
「あれをしろ、これをしろ、と窮屈に人をしばりつける厄介で面倒なモノ」
と思われていますが、逆説的に考えれば、
「明確に書いてないことは、何をやってもいい」
ということが容認されているとも考えられます。

このような発想に経てば、法は、
「杓子定規に人を縛り付け自由を奪い去るもの」
ではなく、
「禁止の限界を画し、人に自由と安全を保障してくれる便利で役に立つもの」
とも考えられます。

実際、人にシビアなペナルティを与える刑法は、適用・発動の条件が厳格に規定されています(罪刑法定主義)。

当然ながら、
「倫理違反=法令違反」
とは限りません。

お前の行いは非常識だ、
お前の言動は秩序に反する、
お前の言い方は不愉快に過ぎ、社会に脅威を与える、
お前の本は反倫理的で秩序を乱す、
お前の作品は健全な価値観に対して挑戦的だ、
お前の思想は堕落した帝国主義の影響を受けており反体制的であり危険だ、
という理由で、逮捕され、投獄されることがないのは、倫理とか社会道徳とか秩序とか常識とかに違反しても、明確な法令に明確に違反しておらず、しかも、罪刑法定主義というリベラルな考え方が根底にあるからです。

我が国国民が、どこぞの独裁国家の国民と違って、突然の牢屋送りに怯えることなく、自由で楽しく暮らせるのは、(一見、権威的で、堅苦しく、厄介で窮屈な印象を与える)法律というものが、前述のとおり
「明確に書いてないことは、何をやってもいい」
というリベラルな効能を発揮しているからにほかなりません。

これを敷衍すると、
「道義的責任がある」=「(裏を返せば)法的責任までは追及できるかどうか不明」
ということすら、いえます。

また、
「企業倫理に反した行動」=「法に触れない範囲での経済合理性を徹底した行動」
とも考えられます。

「社会人としてあるまじき卑劣な行為」
も、法的に観察すれば、
「健全な欲望を持った人間による、本能に忠実な行為であって、非常識とはいえ、法的には問題にできない行い」
と考えられることもあります。

たとえ、
「社会人としてあるまじき卑劣な行為」や「企業倫理に反した行動」
を仕出かし、その結果、新聞やマスコミから、
「道義的責任がある」
「社会的責任を取るべきだ」
とバッシングの嵐があろうが、
法に触れていない限り、
「法的には」
まったく責任を取る必要などビタ1ミリない。

法は、
「法に書いてなければ何をやってもお咎めなし」
という形で、新聞やマスコミや世間のバッシングから、我々を守ってくれる。

そんな意外な一面をもっています。

実際、民法学の世界では、
「強欲や狡っ辛さは善」
であり、
「謙虚や慎ましさや奥ゆかしさは怠惰の象徴であり、唾棄すべき悪」
とされています。

すなわち、
「強欲で自己中心的な人間」=「自らの権利実現に勤勉な者」
という形で、民法の世界では保護・救済されます。

「自らの権利や財産を守るために、人目をはばからず、他に先駆けて保全や実現にシビアに動いた者」
は、権利が錯綜する過酷な紛争状況での最終勝者判定の場面で、
「自らの権利実現に勤勉な者」
として、保護されます。

他方で、
「おしとやかで、雅で、控えめな人間」
は、
「権利の上に眠れる者」
として、消滅時効の場面等で全く保護されず、その権利を奪いさらてしまいます。

適正手続の保障を定めた憲法31条
「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
についてみてみましょう。

この条文は、カタギの方にはほとんど縁がなく、チエのある厄介者が頻繁に使うものです。

全国の組織的自由業者の方々にとっては、強い味方であり最も使える武器と考えられているかもしれません。

以下のようなケースをみてみましょう。

霞が関で、棒状の凶器により某官庁に勤める公務員が撲殺される通り魔事件が起きた。
警察は、犯人捜索のため、緊急配備を行った。
丸の内線の霞が関駅入り口近くで、人相が悪く、パンチパーマで、サングラスをかけ、雪駄履きで、ガニマタで、バットケースのようなものを背負いながら、携帯電話をしながら関西弁で大声で話ながら歩いている男がいた。
不審に思った警察官がバットケースのようなものの中身を見せろ、と言ったところ、男は、
「何じゃい、こら。ポリスの分際で、邪魔するんかい。わしは忙しいんや。そこ通さんかい。何?このケースを見せろ、てか。おんどりゃ、それ命令しとんか。イヤじゃ、ぼけ。見たかったら、令状もってこんかい」
といった。
警察官は、この、「生意気で、非常識で、見るからに反倫理的で、明らかに不審で犯罪臭のプンプンする、舐め腐った男」を取り押さえて、バットケースを取り上げ、中身を検めた。

ケース1:バットーケースから血糊がべったりついたバットが出てきた。しかし、男は、この状況の説明をせず、一切沈黙と貫いている。このバットを証拠にこの男に罪を問うことに特段の障害はないだろうか?

ケース2:バットーケースから出てきたのは、血糊など一切ついておらず、丁寧に包装された王貞治選手の700号ホームランを打ったときのバットで、数百万円もの価値をもつものであったが、取り押さえる際に無残に折れてしまい、また、この男は取り押さえた際に頭を打ち、死亡した。遺族は、取り押さえた警察官を告訴するとともに、国家賠償請求を検討しているが、これは認められるであろうか?

法は、ときに、
「手続的正義のためであれば、結果として、実体的不正義を容認するのもやむを得ない」
という判断をすることもあります。

例えば、違法収集証拠排除法則という理屈があります。

「刑事事件の捜査の過程で、証拠の収集手続が違法であったとき、起訴され、裁判となって、犯罪事実の認定においてその証拠を使おうとしても、証拠としては使えない(証拠能力が否定される)」
という刑事訴訟法上の法理です。

刑事訴訟法には記載がありません(非供述証拠について明文規定はない)が、憲法31条に基づき、判例によって採用された法理です。

前記事例においては、バットケースをもった男の言っている内容は、まさしくそのとおりであり、警察官の行為は、違法行為です。

令状が必要な状況であるにもかかわらず、令状もなく、いきなり逮捕や捜索することは、たとえ、それが制服を着た警察官がやっていたとしても、単なる、拉致監禁行為であり、住居侵入・窃盗行為であり、れっきとした違法行為であり、犯罪行為です。

事例1は、訴追側において、違法収集証拠排除法則によって証拠能力が否定されるリスクが発生しますし、事例2については、国家賠償請求訴訟や刑事告訴も十分な根拠と理由のあるものと判断処理される可能性が濃厚です。

このように、法は、決して
「窮屈で厄介で人生を不自由にするようなもの」
ではなく、むしろ、
「書いてなければ何をやってもいい」
という逆説的なメッセージを通じて、自由を愛し、道徳や常識に縛られず自由に生きる人間を保護し、その強い味方となります。

反面、法は、不正義・不道徳・反倫理・非常識に対して、比較的寛容であり、
「健全な道徳と倫理観をもつ、秩序を愛する道徳人」
に対して極めて不愉快に作用することも往々にあります。

したがって、法の世界では、
「そんな非常識な」
「そんなバカな」
「そんなことありえない」
という結論が数多く導かれますし、非常識で、不道徳で、反倫理的と思わざるを得ない結果を導きかねない、危険でダークな側面を有している、とも言えるのです。

以上みてきたように、法律は、道徳や常識や倫理や社会秩序に反する結果を容認する、という意味で、
「げに恐ろしきは法律かな」
と言えようかと思います。

2 倫理の世界 ~主観が幅を効かす、不自由で窮屈な世界~

倫理や道徳の世界ですが、法律家からみれば、不自由でデタラメな暗黒社会のように映ることもあります。

倫理の世界においては、
「人は、自由の前に、権利の前に、倫理を持つべきである」
という形で人を拘束し、人の自由が奪われることがあります。

そして、倫理は、あいまいで、実体が不明で、人によって、時代によって、変わります。

現代においては、お金を貸す際に金利をもらっても問題ありませんが、人を奴隷のように扱ったり、人身売買することは反倫理的とされます。

しかし、数百年前のヨーロッパにおいては、全く逆でした。
すなわち、農奴等の奴隷が日常生活に溶け込む形で普通に存在する一方、金を貸す際に金利を受け取ることは、大きな罪とされました。

また、国家や社会が違えば、特定の独裁者を褒め称えないことは反倫理的で反道徳的であり、ときに、刑務所よりも過酷な収容施設に送り込まれるような重大な罪を構成することもあります。

「反革命罪」
「帝国主義的堕落思想」
「ボリシェビキ的腐敗」
「不敬罪」
「帝国軍人としてあるまじき行為」
「反キリスト的行い」
「悪魔崇拝」
「公務員としてあるまじき非行」
いずれも、どんな行為がこれに該当するかさっぱり不明で、気分と印象によって適当に決められた挙げ句、非常に厳しいペナルティが課せられます。

これも、道徳や倫理や常識や秩序といったものの怖さです。

先程、
「げに恐ろしきは法律かな」
と言いましたが、それよりも怖いのは、道徳や倫理や常識や社会秩序といった、得体の知れない、具体性がなく、人によって、時代によって、社会によって融通無碍に形も中身も変えて、人を縛り付け、自由を奪うものなのかもしれません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00635_霞が関文学・霞が関言葉

法律の無知や無理解は、法的リスクの正しい認識・解釈を阻害します。

そもそも、
「法律は、常識とは無関係に、特に、経済人・企業人のバイアスの塊である『経済常識』『経営常識』『業界常識』と、むしろ対立する形で作られ、遵守を強制される」
という前提が存在します。

商売の常識、健全なビジネス常識に基づく合理的行動の前に立ちはだかり、健全な企業活動(すなわち効率的で安全な金儲)を邪魔し、企業の足を引っ張る有害な障害環境、これが法律です。

その意味では、
「自分の常識なり感覚なりを信じる経営」
「迷ったら、横をみて(同業者の常識と平仄をあわせる)、後ろを振り返る(これまでやってきたことを踏襲すれば大丈夫と楽観バイアスに依拠する)経営」
が一番危ない、ということになります。

そして、さらに、
「法律」
という、
「特殊で難解な文学」
が、経営陣の法律の無知・無理解に拍車をかけます。

「霞が関文学」
という文芸ジャンルがあるのをご存知でしょうか。

これは
「霞が関言葉」
を用いた文書成果である、法令用語を指します。

この霞ヶ関言葉とは、お役人たちが使うような、
「ありふれたことを滑稽なほどまわりくどく、もったいぶって表現する言葉」
と定義されています。 

日常用語 霞ヶ関言葉
ゴミ 一般廃棄物
ビジネス街 特定商業集積
これから農業をやりたい人 新規就農希望者
マザコン 過度な母子の密着
外国語ブーム 語学学習意欲の高まり
クビになって職探しをしている人 非自発的離職求職者
みんな勝手にやればいい 各主体の自主的対応を尊重する
簡単な英会話ができるようにする 外国人旅行者への対応能力を整備する
普通のサラリーマンは家が買えない 平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある
転職しやすくする 人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う
エレベーターを入れる 円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく
家が狭くて子供が作れなくなっている 住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている

(出典:『中央公論』1995年5月号、イアン・アーシー著「『霞が関ことば』入門講座(前篇)」93ページ を元に筆者が作成)

例えば、

====================>引用開始
販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。
<====================引用終了

という漢字がやたらと多い言語のカタマリを提示すると(これは、訪問販売における契約の申込みの撤回について定めた特定商取引法9条1項の条文です)、

これをみた企業の役職員の頭の中に投影されるのは、

「象形文字」の画像検索結果

となっている可能性が大きいです。

すなわち、法律という
「特殊文学」
は、普通の日本人が普通の日本語として、決して理解できないように作られているのです。

経営ないし企業運営は、常識ではなく、法律にしたがって行わなければならない。

しかし、当該法律自体、無意味な象形文字の羅列のようにしか表現されておらず、決して理解できるようなシロモノではない。

にもかかわらず、自分は
「ルールは理解している」
「法を犯しているはずなどない」
と盲信している。

そんな状況にある企業や組織がかなりの数存在します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00634_企業法務ケーススタディ(No.0220):オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社スター・フィールド 代表取締役社長 星野 玄一郎(ほしの げんいちろう、36歳)

相談概要:
大型M&A(合併・買収)の最終契約段階で、相手側にバランスシートに載っていない保証債務が見つかりました。
この保証について責任を持つ前提での念書を入れないことには、買収が先に進まない状態ですが、相談者としては、ほかの提携話をすべて断り、 相当な時間とエネルギーをつぎ込んできた買収話なので、ぜひ成功させたいと考えています。
以上の詳細は、ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: M&Aの問題は取引対象の企業の価値がはっきり分からないこと
M&Aとは、企業そのものを取引対象とする、ということです。
普通の取引をする際は、値段というものは想像がつきますが、企業となると、 ましてや上場していない会社の価値となると、まるでわかりません。
企業経営をしている方にとっては、自分が作った会社というのは、自分の息子であり娘であり、分身であり、自分の生き様そのもので、期待する買収価格はとんでもなく高額になりがちです。
他方で、買う側は1円でも安く調達したい、ということもあり、M&Aは、単に
「企業を取引対象物とした取引」
であるにもかかわらず、モメて、モメて、モメ倒すのです。
以上の詳細は、ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【M&Aの問題は取引対象の企業の価値がはっきり分からないこと】その1ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【M&Aの問題は取引対象の企業の価値がはっきり分からないこと】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:M&Aは不安と緊張感をもって悲観的に進めるべし
買い手としては、時間的冗長性・精神的余裕や、Bプラン(バックアッププラン、予備案)を常にもっておくべきです。
「こんなガラクタみたいな会社、買っても買わんでもかまへん。
まあ、しびれるくらい安かったら、買ったってもええけどな。
ほんで、なんぼやねん?  いうてみい」
くらいの気持ちで臨めば、冷静に対処でき、想定外のリスクに見舞われることは少ないと思います。
以上の詳細は、ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【M&Aは不安と緊張感をもって悲観的に進めるべし】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:サンクコストを気にせず、意地商いをするな
問題になるのは、サンクコスト(sunk cost、埋没費用)の呪縛の問題です。
事業やプロジェクトに投下した資金・労力のうち、事業や行為の中止などによっても戻ってこない投下資金や投下した労力をいいますが、大きいほど、
「破談したら無駄になるし、もったいなから、いろいろ問題はあるけど、ここはガマンして乗り越えよう」
というバイアスが働き、正常な判断力が奪われる状況が生じます。
以上の詳細は、ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【サンクコストを気にせず、意地商いをするな】をご覧ください。

モデル助言:
問題は、時間的冗長性や精神的余裕がない、ということです。
すなわち、すでにM&Aがうまくいくことを前提に、ほかの経営資源確保の選択肢を放棄してしまっており、
「ネット通販事業のローンチが遅れかねない」
というリスクが浮上していることです。
「通販事業のローンチ延期」
を前提にしたリリースや各種予備案の再検討をして、ディールブレイクをしても構わない、という前提で、根保証断固拒否していていけば、いかがでしょうか?
そうしたら、相手や銀行サイドも、こちらの強硬な態度に怯んで、保証債務を切り離した状態でのM&Aに方針転換してくれるかもしれませんよ。
以上の詳細は、ケース27:オイシくないM&A話は、ヤメちまえ!【今回の経営者・星野社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00633_企業法務ケーススタディ(No.0219):「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社データ・スペシャル 代表取締役社長 松本 浩己(まつもと ひろみ、34歳)

相談概要:
突然会社を辞めたエンジニアが 、新しいシステム会社を立ち上げ、データベースソフトを売り出しました。
それは、画面イメージこそ違うものの、基本的な部分は、相談者が売っているものとほぼ同じであることがわかりました。
相談者は、相手会社を訴えようとしています。
以上の詳細は、ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 「チザイ」の一派、著作権とは?
「チザイ」(知的財産権)
の特許権や意匠権については、特許庁に権利要件を確認(審査)してもらい、これにパスして、登録してはじめて権利が発生します。
他方で、著作権については、作品(著作物)が完成し、これが著作権法に定める要件を充足してさえいれば、突如として権利が発生します。
以上の詳細は、ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!【「チザイ」の一派、著作権とは?】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「データベース」の著作権はどうなっている?
著作権法において作品が保護されるには、アイデアや発明やコンセプトや技術ではなく、
「創作的表現」
であることが必要となります。
データベースの著作権を考える際には(地図も同様)、本や映画や音楽や絵画やマンガとは違った配慮が必要で、
「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」
のみが保護されるとされています(著作権法12条の2)。
以上の詳細は、ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!【「データベース」の著作権はどうなっている?】その1ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた!【「データベース」の著作権はどうなっている?】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 陳腐でつまんないし創作的でもクールでもないものに著作権法は?
著作権法は、
「創作的な表現」
を保護するものであり、人の
「努力や汗や投入労力や手間や時間」
に着目して、その成果を保護するというものではありません。
データベースを構築する際の
「情報の選択」

「体系的な構成」
にどれだけ独自性があるのか、ということがポイントとなってきます。
以上の詳細は、ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた! 【陳腐でつまんないし創作的でもクールでもないものに著作権法は?】をご覧ください。

モデル助言:
裁判例を参照しながら、データベースの構成が本当に著作権法上保護に値するかについて検討していく必要があるでしょうね。
相手方が、インターフェイスを変えるような形で微妙に似せて被せてきているのは、
「著作権法に基づく主張がされても、いくらでも言い逃れできる」
という考えから競業に及んでいる可能性があり、そうなると、内容証明一発ですぐに解決、というわけにはいきません。
ところで、相手方が、相談者の会社にダメージを与えることを目的として、その会社財産を盗んだ上で不当な営業行為を行っている、という事実があるのであれば話は変わってきます。
これは
「不法行為」
ということになってきます。
知的財産訴訟において、主たる主張を知的財産権に基づくものとしておきながら、それが仮に認められなかった場合であっても不法行為が成立するはず、という二段構えの構成を行うことは、知財を少しでもかじったことのある弁護士では、よくやる手法です。
以上の詳細は、ケース26:「額に汗」して作り上げた巨大データベースをパクられた! 【今回の経営者・松本社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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