00632_企業の規模・法務体制に対応した、法務に関する全体テーマ(認知改善課題及び体制整備課題)

 
企業の規模・法務体制(→)

企業としての法務課題の認知・対処レベル(↓)

法務無視・軽視・敵視: 年商3000万円未満の企業(実質個人事業)
ゼロ法務(顧問弁護士なし): 年商1億円未満 の企業 ゼロ法務(顧問弁護士あり) :年商1億円以上5億円未満の企業 ソロ法務(1人) : 年商5億円以上年商30億円未満 の企業 法務室レベル実装企業(10人未満) 年商30億円以上年商5000億円未満の企業 法務部レベル実装企業(10人以上。部署トップは役員あるいは役員同格の最高法務責任者): 売上5000億円以上の企業(東証売上トップ300企業)
法務などいらないし、そんなものなくても会社経営は安全にできると思っている  
現状→速やかに、認知改善し、克服すべき課題
克服済み 克服済み 克服済み 克服済み 克服済み
法務は怖いし、不安だし、ある程度把握しておく必要は感じるが、難しいし面倒くさいし、勉強するのは後回し。相談するのは、税理士でも、商工会議所でも、弁護士でもあまり変わらない。ちょっと物知りのインテリで、費用が安くて親しみがわけばその人に相談しておけばいい。

将来的に、認知改善し、克服すべき課題  

現状→
認知改善し、克服すべき課題
克服済み 克服済み 克服済み 克服済み
企業を取り巻く障害環境としての法務課題について存在認知
をしており、この不安の解消のため一定のコストをかけて、法務体制を整備すべきと考え、実施しており、これで十分と思い込んでいる。
弁護士に気軽に照会でき、耳学問と経験から帰納的に把握しているので、主観的な安心は得ている。ただ、「弁護士は、いやしくも国家資格としての法律専門家だし、難しい試験通っているから、誰を選んでも企業のこともだいたい対応できるはずだし、安くて親しみやしい弁護士でいい。」という認識において、弁護士の能力検証等の調達最適化までは行っていない。  


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題
現状→
認知改善し、克服すべき課題
克服済み 克服済み 克服済み
企業を取り巻く障害環境としての法務課題について存在認知や概要理解レベルにおいて把握し、法務体制(課題の発見・特定・把握の上、経済合理性に基づく課題対処マネジメントしうる恒常的組織体制)の必要性と有用性を認識し、予算と人員を割いてとりあえず社内法務専門部署を最小限で立ち上げた。ただ、文書管理や簡単な法令調査た契約管理にとどまり、新奇・応用分野やその他戦略法務や政策法務、紛争対応となると内製化は困難。また、外部の顧問弁護士の能力検証等の調達最適化についても不十分。結果、経済合理性と戦理にしたがった課題対処の具体的方法(課題の本質や概要の理解、解決手順や解決の可否・コスト相場観の把握、これに基づく適切な専門家の競争調達による課題克服の実現)の実現については不十分。  



将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題

現状→
認知改善し、克服すべき課題

克服済み

克服済み
企業を取り巻く障害環境としての法務課題をすべて詳細に把握し、課題対処方法についても、新奇・応用分野や病理的・例外的な事象や有事状況(存立危機事態)への対処を除き、内製化・外注処理の基準が確立し、内製処理されるべきものの一般的な手順は完備し、内製対応ができている。
法務組織の改善・向上・洗練化については法務室長や相談する弁護士の経験や能力といった属人性に依存するため、安定性・一貫性が保てない。
新奇・応用分野や病理的・例外的な事象や有事状況(存立危機事態)への対処課題については、しかるべき専門家の合理的選定と競争調達や外注管理については、社内法務組織・顧問弁護士ともに経験等に不安が残る。



将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題

現状→
認知改善し、克服すべき課題

克服済み
企業を取り巻く障害環境としての法務課題をすべて詳細に把握し、課題対処方法についても、新奇・応用分野や病理的・例外的な事象や有事状況(存立危機事態)への対処を含め、内製化・外注処理の基準が確立し、重大過酷異常事案を除き、内製対応や外注処理手順確立によるルーティン対応ができている。
法務組織の改善・向上・洗練化については、属人的要素に依存せず、安定性・一貫性を保って、自律的な発展を期待できる。
新奇・応用分野や病理的・例外的な事象(海外事案、限界事例、正解なき課題、過酷事例)や有事状況(存立危機事態)への対処課題についても、培った知見や経験あるいは外部から調達した知的資源を基礎に、演繹的思考、帰納的思考を活用して、一定の選択課題に還元してトップの態度決定を支援し、決定にしたがい実現するための、内部実行体制や外部専門サービスの調達(広汎な調達コネクションを前提にした合理的選定・競争調達・外注管理)によるプロジェクトマネジメント(予算管理、成果管理、進捗管理)を遂行し、ゲームチェンジも含めあらゆる対応・制御ができ、しかるべき結果を出せる。



将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題


将来的に、 認知改善し、克服すべき課題

将来的に、 認知改善し、克服すべき課題

将来的に、 認知改善し、克服すべき課題

克服済み

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00631_ビジネス弁護士の企業法務スキルレベル測定基準

弁護士は、各種難易度の高い各種試験(司法試験予備試験、司法試験、考試<司法修習修了認定のための、いわゆる二回試験>)や教育(法科大学院)や研修(最高裁司法研修所での司法修習)を経由した上で法律専門家としての国家資格を付与されており、高い法律実務の見識とスキルを有しています。

しかしながら、弁護士資格を得るまでに習得すべきスキルは、 人権問題や殺人・窃盗・放火・強盗という物騒な刑事事件、土地建物・債権に関する民事紛争に対する対処スキルがほとんどで、会社法で学ぶケースも、企業社会では滅多にお目にかからない(もし事件になれば日経1面を飾るような)アブノーマルな病理現象を対象したものです。

他方で、
企業法務において必要とされる法的三段論法は、
大前提(法規)は、ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源の調達・動員(活用)・廃棄 に関しては、労働法(ヒト)・環境規制や表示偽装に関する不競争法等(モノ)・金商法や有価証券上場規程や銀行取引約款(カネ)・知財法等(チエ)であり、営業に関しては独禁法(B2B)や消費者保護規制(B2C)であり、司法試験の必修科目とはされておらず、選択科目として1科目、個別で勉強する機会がある、あるいはロースクールで選択科目として学ぶ、という形でしか触れません。

また、小前提(ケース)は、日常の企業活動となりますが、事業家やサラリーマン経験があれば格別、社会人経験やビジネス経験がないほとんどの弁護士は、企業活動や企業社会の実情は、全く知見をもたないという事態が出来し得ます。

特に、上場企業やIPOに関する企業法務サービスを提供するとなると、
大前提(法規)については、司法試験科目で聞かれる会社法だけでは全く足りず、金商法、企業会計原則、有価証券上場規程及び証券取引所の定めるガイドライン等のソフトロー、さらには、幹事証券会社内部のルールや取扱規則といった様々な規範及びその背景原理(制定趣旨)を学ばなければなりません。

加えて、小前提(ケース)についても、ROI・ROE・ROA・EPS・PERといった各種指標や、資本市場や各投資家(機関投資家、外国人投資家、個人投資家等)に与えるインパクト、各段階利益の意味、開示実務といった、「財務やIR関連部署に所属せず、投資活動に縁のない一般のサラリーマン」ですらあまりわかっていない投資関連の実務・実情に関する知見が必要になります。

こういうこともあり、弁護士が、企業の顧問弁護士やビジネス弁護士として、企業法務に関するサービスを業務として遂行するには、弁護士資格及び資格取得のプロセスで得られた学習成果や知見では全く不足しており、司法試験や考試(二回試験)とは全く別次元の理論・実務についての知見を実装する必要がある、といえると考えられます。

(以上については、企業法務三段論法:弁護士資格だけでは企業法務を取扱うことが困難な理由に詳細を述べています)

このように、弁護士が、企業の顧問弁護士やビジネス弁護士として、企業法務に関するサービスを業務として遂行する上で、法務の各スキルアイテムについては、弁護士それぞれについて有意な偏差(ばらつき)があり、弁護士自身としても、起用・外注選定責任者としても、カウンターパート(サービス窓口)・外注管理責任者(室長、部長、最高法務責任者あるいは経営者)としても、その高低を測定し把握しておくべきと考えられます。

モデル的なもので、完全なものではないのですが、各スキルアイテムについてスキルレベル測定基準を策定してみました。

もちろん、あるスキルアイテムについてはこのレベル、別のスキルアイテムは違うレベル、といった形で、スキルアイテム毎に別異の評価となることがあり得るところです。

企業顧問弁護士・ビジネス弁護士の各スキルアイテムのレベル
【B-・NGレベル 】当該スキルを要求される業務について一切タッチさせてはいけないレベル :
まったく理解できていないか、間違って理解しているが、知ったふり、わかったふりをしている。いわゆる「有害な無知」の状態。

<※注:資格ある弁護士については、法律についてこのレベルであることは、一般的にはおよそ想定しがたいところである。
しかし、法的三段論法の小前提たるビジネス現場の状況等の把握・認知・解釈・評価に関しては、事業家やサラリーマン経験があれば格別、社会人経験やビジネス経験がないほとんどの弁護士として、企業活動や企業社会の実情について致命的に誤解ないし曲解している場合もありえ、また、ROI・ROE・ROA・EPS・PERといった各種指標や、資本市場や各投資家(機関投資家、外国人投資家、個人投資家等)に与えるインパクト、各段階利益の意味、開示実務といった、「財務やIR関連部署に所属せず、投資活動に縁のない一般のサラリーマン」ですらあまりわかっていない投資関連の実務・実情に関する知見が不足し、あるいは致命的な誤解・曲解している可能性・危険性、を完全には排除できない。
また、法的三段論法の大前提たる法規についても、ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源の調達・動員(活用)・廃棄に関しては、労働法(ヒト)・環境規制や表示偽装に関する不競争法等(モノ)・金商法や有価証券上場規程や銀行取引約款(カネ)・知財法等(チエ)であり、営業に関しては独禁法(B2B)や消費者保護規制(B2C)であり、司法試験の必修科目とはされておらず、選択科目として1科目、個別で勉強する機会がある、あるいはロースクールで選択科目として学ぶ、という形でしか触れられない。また、上場法務については、 会社法だけではまったく足りず、金商法、企業会計原則、有価証券上場規程及び証券取引所の定めるガイドライン等のソフトロー、さらには、幹事証券会社内部のルールや取扱規則といった様々な規範及びその背景原理(制定趣旨)を学ばなければならないが、これらは選択科目にすら存在しない。したがって、これらの法的三段論法の大前提(法規)に関する知見が不足し、あるいは致命的な誤解・曲解している可能性・危険性、を完全には排除できない。 >
【B0・デフォルトレベル 】当該スキルを要求される業務についてブリーフィングなしに補佐補助を任せると過誤修正が多くなり却って時間や手間を要するので、判断を一切伴わない単純事務しか任せられないレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語をテレビや新聞でみたことがあるが、実は、まったく理解できないし、何のことかも知らない、わからない。ただ、そのことをわきまえている。いわゆる「無害な無知」の状態。

<※注:同上>
【B1・ジュニアアソシエイトレベル 】体系・全体構造・概要把握レベル・当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について補佐補助を任せられるレベル: 
当該スキルアイテムに関連する概念や用語についてだいたいどういうものかが、頭で理解できる。完全に習得するために必要なロードマップを理解・把握しており、分野の深みや奥行きや、ケース演習(仮想経験)や実践(実地経験)を含めた経験の重要性が理解できる。
【B2・アソシエイトレベル 】当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について責任者として自律的に執務ができるレベル・ルーティンフロー(業務の基本・手順・段取り)やルーティンオペレーション上派生する典型的な問題点を理解・把握しており、自主的に課題発見・特定・処理できるレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語すべてについて机上学習レベルで了している。また、基礎的な実務経験も終えている。パートナーの逐一の指示や監督がなくとも基本的実務を自律遂行できる。また、応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)についても、補佐・補助を任せられ、あるいはパートナーの指導ないし監督の下、実務対応を遂行できる。パートナーの指示や監督にしたがい、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)の実務支援ができる。

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を除き、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、 解決案の起案作成や成果物の校正・確認等ができる。
政策法務・戦略法務については、パートナー(シニアパートナーを含む。以下、同じ)の指揮や監督にしたがい、企画や補助・補佐ができる。
予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を除き、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、解決案の起案作成や成果物の校正・確認等ができる。
紛争法務や存立危機事態対処については、パートナーの指揮や監督にしたがい、企画や補助・補佐ができる。
【B3・パートナーレベル 】当該スキル分野について応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に対応できるレベル・手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)に対応できるレベル:
実地経験や仮想訓練(該当スキルについての資格試験やワークショップ)によって応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に十分な知見と対応能力を獲得している。
該当スキル分野に関するビジネスの現場知見(小前提としてのビジネスのメカニズムや段取りや手順)と専門的見識の双方について、クライアントから一定の評価を得ている。クライアントの法務以外の業務責任者と対等に情報交換(取材・情報収集を含む)や意見交換(議論)ができる。アソシエイト・ジュニアアソシエイト・パラリーガル等の指揮監督や管理統括等ができる(部下のミスをすべて自己の責任として負担しうる監督業務を遂行できる)。
通常事件・通常事案について、責任者として、ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性・合理性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂しうる。
取締役会で、単独で報告業務を遂行できる。
クライアント社内研修講師を務められる。
新しいことや、未経験なこと、正解なき課題について、思考枠組みを用いて自力で一定の提案レベルの企画を策定できる。

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべて
の業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、解決案の作成や解決モデルの確認等ができる。
戦略法務・政策法務については、基本的業務については取締役会での報告レベルまで対応できる。新奇分野や応用分野については、シニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
予防法務・内部統制法務については、 基本的業務の統括(ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂)ができ、新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。
紛争法務については、基本的業務の統括(ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂)ができ、新奇分野や応用分野についてはシニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
存立危機事態対処については、シニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
【B4・シニアパートナーレベル】当該スキル分野に関して、手順や事務構造や組織構造の新規構築や大規模改変、応用実務課題や有事状況(存立危機事態)対処や国際紛争事案を含め、社外専門家の最終責任者としてあらゆる対応・統括ができるレベル:
ビジネスの知見と専門的見識について、クライアントの役員レベルや外部からも一定の評価を得ている。
存立危機レベルの事件や事案について、責任者として、ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。
また、存立危機レベルの事件や事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂し得る。
取締役会で議論に参加できる。外部で講師を務められる。  

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。
戦略法務・政策法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括でき、取締役会での議論参加ができる。
予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括ができる。
紛争法務や存立危機事態対処については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括ができる。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00630_法務担当者のスキルレベル測定基準

法務の各スキルアイテムについては、担当者それぞれについて有意な偏差(ばらつき)があり、担当者自身としても、採用・任用責任者としても、運用・指揮命令責任者(室長、部長、最高法務責任者あるいは経営者)としても、その高低を測定し把握しておくべきと考えられます。

モデル的なもので、完全なものではないのですが、各スキルアイテムについてスキルレベル測定基準を策定してみました。

もちろん、あるスキルアイテムについてはこのレベル、別のスキルアイテムは違うレベル、といった形で、スキルアイテム毎に別異の評価となることがあり得るところです。

法務担当者の各スキルアイテムの評価
【H-・NGレベル 】当該スキルを要求される業務について一切タッチさせてはいけないレベル :
まったく理解できていないか、間違って理解しているが、知ったふり、わかったふりをしている。いわゆる「有害な無知」の状態。
【H0・デフォルトレベル 】当該スキルを要求される業務についてブリーフィングなしに補佐補助を任せると過誤修正が多くなり却って時間や手間を要するので、判断を一切伴わない単純事務しか任せられないレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語をテレビや新聞でみたことがあるが、実は、まったく理解できないし、何のことかも知らない、わからない。ただ、そのことをわきまえている。いわゆる「無害な無知」の状態。
【H1・アシスタントレベル 】体系・全体構造・概要把握レベル・当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について補佐補助を任せられるレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語についてだいたいどういうものかが、頭で理解できる。完全に習得するために必要なロードマップを理解・把握しており、分野の深みや奥行きや、ケース演習(仮想経験)や実践(実地経験)を含めた経験の重要性が理解できる。
【H2・スタッフレベル 】当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について責任者として自律的に執務ができるレベル・ルーティンフロー(業務の基本・手順・段取り)やルーティンオペレーション上派生する典型的な問題点を理解・把握しており、自主的に課題発見・特定・処理できるレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語すべてについて机上学習レベルで了している。また、基礎的なケーススタディも終えている。上司(企業によっては、顧問弁護士等、法務部メンターとしてミッション遂行する企業法務に専門知見ある外部弁護士を含む)の逐一の指示や監督がなくとも基本的実務を自律遂行できる。また、応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)についても、補佐・補助を任せられ、あるいは上司の指導ないし監督の下、対応を任せられる。上司の指示や監督にしたがい、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)の実務支援ができる。

法令管理・文書管理については、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)を統括できる。
政策法務・戦略法務については、業務の要求水準が高度であるため、基本的業務全般の統括は委ねられず、実施・総括は委ねられるが、企画・計画については参加させ、補佐・補助を委ねられる。
予防法務・内部統制法務については、業務の要求水準が高度であるため、基本的業務全般の統括は委ねられず、実施・総括は委ねられるが、企画・計画については参加させ、補佐・補助を委ねられる。
紛争法務や有事状況(存立危機事態)対処については、業務の要求水準が高度でかつ一定の経験が要求されるため、基本的業務全般の統括はもとより、企画・計画についての参加・補佐・補助も認められず(勉強・研修としては意味があるが、資源の有効活用という意味では他の業務を委ねた方が有益)、実施・総括の補佐・補助を委ねるにとどまる。
【H3・マネージャーレベル 】応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に対応できるレベル・手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)に対応できるレベル:
実地経験や仮想訓練(該当スキルについての資格試験やワークショップ)によって応用実務(ボーダーラインケースや新規課題)に十分な知見と対応能力を獲得している。
該当スキル分野に関するビジネスの現場知見(小前提としてのビジネスのメカニズムや段取りや手順)と専門的見識の双方について、社内で一定の評価を得ている。他部署責任者と対等に情報交換や意見交換(議論)ができる。スタッフの指揮監督や管理統括等ができる(部下のミスをすべて自己の責任として負担し得る監督業務を遂行できる)。取締役会で決定された予算・人員・納期にしたがって、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ) に社内責任者として実務対応できる。新しいことや、未経験なこと、正解なき課題について、思考枠組みを用いて自力で一定の提案レベルの企画を策定できる。 取締役会で、単独で報告業務を遂行できる。社内研修講師を務められる。

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。
戦略法務・政策法務については、基本的業務については取締役会での報告レベルまで統括できる。新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。
予防法務・内部統制法務については、基本的業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができ、新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。
紛争法務については、基本的業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができ、新奇分野や応用分野については、企画や補助・補佐ができる。存立危機事態対処については、企画や補助・補佐ができる。
【H4・エグゼクティブレベル】最高法務責任者として当該スキル分野に関してあらゆる対応ができるレベル:
ビジネスの知見と専門的見識について、役員や社外からも一定の評価を得ている。取締役会で対等の立場で議論に参加できる。外部で講師を務められる。存立危機事態対応や正解なき課題について、一定の成果が出るまで自律遂行できる。法務組織の立ち上げ(手順や事務構造や組織構造の創出)や大規模改変に関し、予算・人員・納期を含めた計画を立案し、取締役会において提案・意見取りまとめ等ができ、所定の計画にしたがって社内責任者として実務対応し計画実現できる。  

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。
戦略法務・政策法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括でき、取締役会での議論参加ができる。
予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができる。
紛争法務や存立危機事態対処については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができる。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00629_企業法務ケーススタディ(No.0218):危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社マルチ・リレーション 代表取締役 菅野 孝秀(かんの たかひで、34歳)

相談概要:
相談者は、有名レストランチェーンを経営している友人に会社を立て直すために金を貸してくれと頼まれました。
未上場の会社で、その友人の父親が100%株を持っており、役員は全員親族で固めています。
貸しても返金されないような気がしますが、貸すのであれば、担保は一切ない状態で、恩を売り、経営に参画したい思いが募ります。
以上の詳細は、ケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 「死に体の」会社との付き合い方
カネの無心にくるということは、銀行はおろか、ノンバンクも見放し、本当にカネに困っていて、浮かび上がる可能性が限りなくゼロに近い状態の会社にカネを貸しても、返ってこない可能性はほぼ100%ですし、一番のオススメは、情に負けず、救済を拒否し、関わりを断ち、手ぶらで追い返すことです。
とはいえ、単純に金融の目的ではなく、
「普段だと、お近づきになろうにも上から目線でケンモホロロに追い返される、高嶺の花のような企業」
の窮状につけ込み
「恩を売って、デカイ顔して、経営に参画したい」
という目的を含めるのであれば、うまいことやる方向で考えることもアリです。
以上の詳細は、ケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!【「死に体の」会社との付き合い方】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:引きずり回してヘトヘトにさせる
必要な事業資金の中身や明細を全部明らかにしてもらいましょう。
「カツカツで生き残るために、マジで、リアルで、ガチに絶対必要な、絞りに絞った最小資金」
を算出する段階で、相手の会社が
「そんなに厳しいことを言われるなら結構」
といって立ち去るなら、そのまま立ち去らせればいいだけです。
支払い管理は、債権者においてすべきです。
以上の詳細は、ケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!【引きずり回してヘトヘトにさせる】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:オーナーの持つ全株式を譲渡担保として差し入れてもらえ
「返済ができない」
ことをトリガー(発動条件)として、会社の経営に参画する、ことも目的として想定することが可能です。
役員に連帯保証を差し入れてもらうのは当然として、融資の条件として、オーナーの持つ全株式を譲渡担保として差し入れてもらうことを要求すべきです。
貸したカネが、金額あるいは期限のいずれかの面で違約されることがあれば、有無をいわせず即座に、担保として株式を取り上げてしまいましょう。
以上の詳細は、ケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!【オーナーの持つ全株式を譲渡担保として差し入れてもらえ】をご覧ください。

モデル助言:
怖いのは、会社の経営状態がわからない状態でかかわってしまって、返済も無理、株もクズ株で、突っ込んだカネをキレイに失ってしまうことです。
必要なのは、デューデリジェンスです。
「返済能力の測定や返済計画の検証」
ということを大義名分として、財務面において丸裸とするようなすべての資料を提出してもらい、事実上のデューデリをやってしまえば、この種のジャッジの前提は整います。
このシナリオにおいて、想定外があるとすれば、彼らが、約束どおり、期限までに貸したカネを全額、耳をそろえて払ってくることです。
以上の詳細は、ケース25:危ない会社の窮状につけ込んで、うまいこと乗っ取れ!【今回の経営者・菅野社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00628_法的文書を受領した場合の認知・解釈手順

法的文書(ここでは、契約書に限らず、法的な意味内容を記した文書や法的な意義や価値や効果を含む事実関係を記した文章、要するに、漢字が多く、堅苦しい文体で、一読して何を意味しているか理解しがたいような読解難易度が高い文章が書かれたもの、を総称します)を目の前にした場合、企業ないし企業法務部署において、どう対応していいかわからない、という悩みをもつ状況が生じることがあります。

ここで、ある文字の羅列(ちなみに長文ですが、文章としては、本文と但書の2つの文だけです)をみてみましょう。

有価証券の発行者である会社は、その会社が発行者である有価証券(特定有価証券を除く。次の各号を除き、以下この条において同じ。)が次に掲げる有価証券のいずれかに該当する場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)、外国会社にあつては公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める期間内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、当該有価証券が第三号に掲げる有価証券(株券その他の政令で定める有価証券に限る。)に該当する場合においてその発行者である会社(報告書提出開始年度(当該有価証券の募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けることとなつた日の属する事業年度をいい、当該報告書提出開始年度が複数あるときは、その直近のものをいう。)終了後五年を経過している場合に該当する会社に限る。)の当該事業年度の末日及び当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度すべての末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定めるところにより計算した数に満たない場合であつて有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたとき、当該有価証券が第四号に掲げる有価証券に該当する場合において、その発行者である会社の資本金の額が当該事業年度の末日において五億円未満(当該有価証券が第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等である場合にあつては、当該会社の資産の額として政令で定めるものの額が当該事業年度の末日において政令で定める額未満)であるとき、及び当該事業年度の末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定める数に満たないとき、並びに当該有価証券が第三号又は第四号に掲げる有価証券に該当する場合において有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして政令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。

これは、有価証券報告書の提出義務について書かれた金融商品取引法24条1項本文ですが、この法的文書を目にした企業関係者や法務担当者、あるいはこの種の法律に慣れていない弁護士の方ですら、

「融資地獄~”かぼちゃの馬車事件”に学ぶ 不動産投資ローンの罠と救済策」、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所監修、幻冬舎刊(2019)、 120頁より

といった、意味内容把握はおろか、解釈、読解すら困難な状況に陥るのではないでしょうか?

こういう場合、まずは、因数分解的に、不安の根源を分類し、特定することが有効です。

「見えない敵は討つことができない」
という言葉がありますが、法的文書への対応云々という行動選択課題の前に、まずは、認知課題・読解課題・意味内容把握課題をクリアする必要があります。

すなわち、文書が示す状況に対してどのように働きかけるか以前の問題として、目の前の文章をしっかり理解把握できておらず、そのため空回りして無意味な対応に終始してしまう可能性がありますが、このような愚行を防ぐためには、まずは、文章読解課題をクリアして、状況を明確に認知把握する必要があります。

法的文書の認知課題として、いくつかのレベルに分類されている不安や悩みが生じるものと考えられますが、これには、

1 言葉の壁:(日本語であることはわかるが、難しい漢字や読解難易度の高い文体で書かれているため、全体として、どこか遠くの国の知らない部族が古い時代に書いた象形文字の羅列のように)そもそも、何を言っているのか、何が書いてあるか、怒られているのか、褒められているのか、得なのか、損なのか、自分と無関係あるいは中立的なものなのか、すらわからない
2 意味の壁:(言葉や文字は判読できるが)意味がわからない
3 演繹的推論の壁(解釈の壁・言葉の意味はわかるが、話がよく見えない):(言葉や意味は理解できるが、概念や状況の意味を論理的に推定把握したり、合理的な展開予測をする、といったスキルが欠如しており)言葉の意味する状況や環境を具体的にイメージして理解したり、展開予測をすることができない
4 帰納的把握の壁(実感の壁・話はわかるが、自分の身に置き換えた形で、具体的に体感することができない):(言葉や意味はわかるし、状況や環境も理解できるし、状況や環境が我が身に及ぼす影響も解釈し一定の理解はできているが、経験を前提として理解できる事柄について経験がないため)理解したり、イメージしている事柄が、実務経験上あるいは現実的相場観として、具体的に生じうるのか、確認してほしい

と、段階的に分類されるべき各要求課題が看取されます。

ところが、法務の現場では、これら要求課題についてあまり区別することなく、
・難しいから弁護士に丸投げ
・知ったかぶりで適当に、何となく、フィーリングで対応する
といった無責任な対応が実施される場合が出来します。

もちろん、前者のような対応姿勢ではリスクやコスト的に問題ですし、後者のようないい加減な対応をしていればいつまでたっても法務スキルは向上・改善しません、そのうち大きな事故になります。

こういう対応をしたい、こうやって適用回避したい、こうやればうまくいく、こう校正したい、カウンタープロポーザルとしてこうすべき、
という対応課題を議論するはるか以前の問題として、
・言葉がわからない
・意味がわからない、
・話が見えない、展開予測ができない、
・自分の身に何が起こるか皆目不明、具体的ダメージ推定が不能、
といった、目先の課題を乗り越えるべき必要があります。

例えば、相手方から提案された契約書案の対処課題で途方に暮れてしまう担当者は、たいてい、以上のような認知・読解課題レベルがしっかりとできていないにもかかわらず、いきなり校正や修正提案をしようとして、基本的なところや、構造的な部分において、大きな漏れや抜けを生じさせてしまいがちです。

もちろん、外部の弁護士に認知・読解課題を含めて丸投げしてもいいのですが、1から4まで弁護士に委ねると、すでにその部分の費用がかかります。
これに加えて、さらにビジネスモデルとの整合性の検証まで外部の弁護士に依頼すると、そもそもビジネスモデルの理解・把握の手間も弁護士費用に加算されますし、そうなると、
「法務担当者は何をやっているんだ」
「ただの購買事務担当なら不要」
と経営陣や他の部署から無能呼ばわりされてしまいかねません。

慣れや経験の問題もあるでしょうが、企業法務に関わる法務担当者や弁護士としては、企業活動に関わる法的文書全般について、
少なくとも、
1 言葉の壁
2 意味の壁
くらいは乗り越えられるくらいの読解スキルを実装した上で、
3 演繹的推論の壁
は自学・自習でどんどん乗り越えられるようにし、
4 帰納的把握の壁
は経験を積み、あるいは、経験豊かな専門家との接点を深め、薫陶を得て、乗り越えられる力をつけていくことが推奨されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00627_ビジネス社会における機能的識字能力欠如(機能的文盲)問題

字が読めない人のことを文盲といいます。

文明社会においては、学校教育制度が普及し、この文盲は駆逐され、
「字が読めない知能水準の方々」
の存在は一定の文明をもつ社会においては完全に撲滅できた、と考えられてきました。

ところが、我が国を始めとした先進諸国で、新たなタイプの文盲が静かに増えている、という話があるようです。

機能的非識字(機能的文盲)とは、文字自体を読むことは出来ても、文章の意味や内容が理解できない状態、と定義されます。

「言葉はわかっても、話が通じない、特異な知能水準の方々」
という意味なんでしょうが、私は、そんなに珍しいとは思いません。

経験上の認識として、
「言葉はなんとなく通じているが、話は全く通じない(し、気持ちや感受性は全く共有できない)」方々
は、社会には相当はびこっていると思います。

実際、かなり年を取った方でも、知ったかぶり、知っているつもり、で、まったく誤解したまま改善もせず矯正もされず、死ぬまで治らない、という方は結構います。

ところで、この、 機能的非識字(機能的文盲)の増殖ですが、社会問題とされておるようです。

すなわち、
「結果として、機能的非識字者は契約書の理解や、書籍・新聞記事の読解が完全にできておらず、社会や政治への参加に支障をきたしていたり、酷い場合には日常生活にも問題が生じている。さらに、周りの人間のみならず、当の本人すらも見かけの識字能力に問題がないがために、機能的非識字によって支障が出ているということが把握されない(自覚していない)という問題を抱え、識字率の高い先進国であっても一定以上の機能的非識字者が存在することが指摘されている」
という形で、改善すべき社会課題として語られているようです。

しかし、この改善の動きは、努力してどうにかなるものではなく、改善できず、無残なまでの失敗に終わるでしょう。

新聞の購読率が約4割というデータがありますから、マジョリティの方々は、新聞は手にしません。

新聞を手にとっても詳しくは読むこともありません。

せいぜい見るのは見出しくらい。

ほとんどの若者は、テレビすら
「長すぎる」
と忌避し、3分くらいの動画をyoutubeで見るのが限界です。

ある程度の思想や概念を伝える長い文章は、機能的非識字の方々の平均的知能と平均的忍耐力を大幅に超えているようで、ネットで一定の長さの文章を掲載しても、まず読まれることはなく、大多数の方々にとって、ツイッターに収まる程度の文章しか伝わりません。

文章が届けばまだいい方です。

文字や文章すら忌避するインスタグラムやティックトック利用層には、思想内容を文章で伝えることはできず、写真や動画しか受付ません。

ひょっとしたら、世界の文明レベルは、象形文字の時代に退嬰しはじめているのかもしれません。

新聞を読まず、テレビしか観ない子供や平均的日本人に、
「なぜ、新聞を読まない。新聞を読まずにバカになったことは嘆かわしいことだ。新聞を読まなくなったバカな連中が、再び新聞を読めるようになるよう、再教育をすべきだ」
ということを主張する人間がいたとしたら、当該主張者の方が明らかに間違っています。

「どんな知的水準であれ、それなりに社会生活が営める」
「識字や知能に問題がある方でも抹殺されることなく、普通に生かされる」
ということこそが、社会の進歩であり、文明化ですから。

昔は、社会が貧しかったので、字が読めない人間は、社会で生きていくことはできませんでした。

字が読めない、文書が読めない、文書が書けない人間が、そのまま社会に出たら、パワハラにあって、罵声を浴びせられ、矯正されました。

一昔前の日本は、そんな、余裕のない、遅れた、未開で野蛮な社会だったのです。

ところが、現代は、人手不足ということもありますが、社会が進んだおかげで、機能的非識字であれ、社会で普通に暮らせるようになりました。

会社で、新入社員が、
「文章が読めない」
「文章が書けない」
からといって、その程度のことでガミガミ怒り出す、狭量で人権感覚がない人間は、逆に、パワハラ上司として会社や社会から排除されます。

社会に機能的文盲がはびこったら、機能的文盲を減らすより、機能的文盲に併せて社会システムを変えるべきです。

ポリシーと現実がぶつかったらどうするか?

「ポリシーをもって現実を変える」
のは、知能未熟なバカのやることです。

知的な大人は、
「現実に併せて、ポリシーの方を変える」
ということで課題解決します。

いったん増えたバカは減りません。

マジョリティになった機能的文盲はパワーを持っています。

「1人の馬鹿は、1人の馬鹿である。2人の馬鹿は、2人の馬鹿である。1万人の馬鹿は、“歴史的な 力”である。」

これは、日本一の毒舌女性インテリ、塩野七生が『サイレント・マイノリティ』(新潮社、1993年 、163頁)で引用していた一文ですが、
「馬鹿を馬鹿にする恐ろしさ」

「増殖してしまった馬鹿に対する、安全保障上の対処哲学」
が凝縮されています。

「小賢しい正しさ」
は、
「数の結束とパワーをもち、増殖を続ける機能的文盲」
の大きな声には、決して敵いません。

「社会において増殖し、一定の数にいたり、もはやパワーをもった機能的文盲」
を改善や矯正しようとしたり、駆逐しようとする努力は、無駄に終わるでしょう。

フェイルセーフ、ホニャララカメラ、漫画やアニメ、交通標識、ピクトグラム。

日本では、
「増殖し、マジョリティとなった機能的文盲」
と向き合ったり、矯正したりしようとせず、
「知能水準は期待できないし、我慢もしない」
ことを前提として、そんな方々でも、容易に理解し、簡単に扱える様々なツールやシステムを開発してきました。

現段階では、機能的文盲が増えつつある、という程度の話ですが、
「新聞からテレビへ、テレビからyoutubeへ」
「ネット記事からツイッターへ、ツイッターからインスタグラムやティックトックへ」
という
「文字によるコミュニケーション文化の後退」
のトレンドをみる限り、機能的文盲どころか、そのうち、ホンモノの文盲も増殖しはじめ、文盲がマジョリティとなり、存在感とパワーを持ち始める日が来るかもしれません。

機能的文盲が増えたなら、機能的文盲を改善・駆逐するより、
「機能的文盲のレベルに合わせた、咀嚼に咀嚼を重ね、字が嫌いで、我慢も嫌いなマジョリティでも、一瞬で判るような話の仕方」
をすべきであり、そのような咀嚼が困難な難しい話を機能的文盲の方にすること自体、控えるべきです。

機能的文盲のみならず、さらにホンモノの文盲が増えたなら、字を使わず、写真や動画や象形文字を使って、思想内容を伝えるべきです。

それが、正しい社会のあり方です。

ところで、社会全般がこのように機能的文盲者が増殖し、世界の文明レベルが、象形文字の時代に退嬰しはじめているな状況ですが、ビジネス現場においても、特に法律文書に関しては、
「機能的文盲」
すなわち
「文字自体を読むことは出来ても、文章の意味や内容が理解できない状態」
に陥っているビジネスパースンは相当多くの割合で存在しているものと推定されます。

そんなことが、実際あるのでしょうか?

実は、つい最近、この法律文書の機能的識字障害が原因となって、日本を代表する大企業が倒産の危機に陥った事件が起こりました。

電機メーカー東芝は、7125億円もの損失を原子力事業全体で発生させ、2016年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、同年12月末時点で自己資本が1912億円のマイナスという、債務超過の状況に陥りました。

この事件の背景として、こんなやりとりがあったそうです。

(引用開始)
会長の志賀が
「WHで数千億円の損失が発生するかもしれません」
と報告すると出席者は声を失ったという。ようやく
「もう減損したはずでは」
との問いが出ると
「別件です」。
社長の綱川は
「何のことなのか理解できない」
と繰り返した。
WHが15年末に買収した原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)でただならぬ出来事が起きた。
105億円のマイナスと見ていた企業価値は6253億円のマイナスと60倍に膨らんでいた。「買収直後に結んだ価格契約が原因」
と、ある幹部は打ち明ける。
複雑な契約を要約すると、工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担するというものだ。
原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化した。
追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になった。
問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにある。
米CB&Iは上場企業で、原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませるが、会計不祥事で内部管理の刷新を進めるさなかの失態に社内外から批判の声がわき上がった。
(以上、引用。出典は、日経新聞2017年2月21日付記事 「もう会社が成り立たない」東芝4度目の危機 (迫真)

この事件のグラウンド・ゼロ(爆心地、根源的発生原因)は、上記の

問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにある。
米CB&Iは上場企業で、原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませる

という経緯にあります。

簡潔にいえば、
「当該プロジェクトの責任者であったH氏が、契約書は読んでいたものの、機能的識字レベルに問題があり、その内容を理解していなかった」
ことにある、
さらにいえば、
「言葉や字面はなんとなく理解していような気になっていたが、話の中身は全く理解しておらず、数千億円もの損失を発生させうるメカニズムを内包した取引の契約であったにもかかわらず、そのリスクを認知しない状態で、適当かつ杜撰に取引を進めた」
という、愚劣で痛々しい失敗が原因で、東芝に7000億円超の損失を発生させ、内部留保を吹き飛ばし、債務超過に陥らせた、
という話です。

これは、ビジネスパースンの法律文書に対する機能的識字レベル(機能的文盲状態)をよく表しているエピソードです。

当時の日本を代表する大企業、天下の東芝のトップマネジメントですら、この状態です。

経験上の蓋然性に基づく合理的推測を働かせれば、 他の企業一般の、マネジメントレベルを含む、ビジネスパースン一般の法律文書に対する機能的識字レベルがどの程度かは想像がつきます。

おそらく、一般のビジネスパースンが訴状や内容証明等の通知書や契約書や約款等の法律文書を目にした場合、意味内容の把握という点において、
「どこか遠くの国の、あるいは古い時代の、知らない部族が、象形文字で刻んだ呪いの言葉の羅列」
程度にしか理解できていないものと推定されます。


「融資地獄~”かぼちゃの馬車事件”に学ぶ 不動産投資ローンの罠と救済策」、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所監修、幻冬舎刊(2019)、 120頁より

他方で、重要な経営判断を下すべき立場にある者について、企業の生死を決する重要な取引にまつわる契約文書を、
「『どこか遠くの国の、あるいは古い時代の、知らない部族が、象形文字で刻んだ呪いの文字の羅列』程度にしか理解できていない認知状態」
で、
詳細な契約内容を認識せず、
「提示された資料を信じるしかなかった」
として適当かつ杜撰に調印処理してしまえば、第2、第3の東芝の悲劇が発生します。

このような状況を踏まえて、責任あるビジネスマンの方については、

・「機能的文盲にならないよう、しっかりと知的鍛錬を継続する」
か、
・「自らは、機能的文盲であり、かつ、これを改善するための知的鍛錬を行う時間も余裕もなく、機能的文盲者として生きていく自覚と覚悟をもちつつ、機能的文盲でない十分な知性とスキルを有する側近ないし参謀を近侍させ、この者から読解支援等のサービスを常時受けるようにすべき(そのための時間と費用と手間をきっちりと考えた執務体制を構築すべき)」
のいずれかまたは双方を充足すべきです。

実際、前者、
「機能的文盲にならないよう、しっかりと知的鍛錬を継続する」
については、かなりの時間と費用と労力を犠牲にする覚悟が要りますし、ビジネスマンの多忙さを考えれば、持続可能性を期待できません。

結局、
トップマネジメントやプロジェクトマネージャーの側近ないし参謀として近侍する企業法務担当者や顧問弁護士が、
・一般ビジネスパースンの(法律文書に対する)機能的識字レベルの壊滅的な低劣さを、(善し悪しや改善の必要性は別として)現実として、しっかりと受け止め、理解し、
・その上で、「法律文書については、しっかりとした機能的識字支援(文盲介護)が、重要な価値を有するサービスである」という認識の下、
・(もともと重篤な機能的文盲状態に陥っているビジネスパースンが)確実な理解に至るまで、咀嚼に咀嚼を重ねて、会話の水準を下げるなど、内容を伝える努力を行う
ということが絶対的必要となる、ということが結論づけられます。

前述の、東芝の悲劇も、
・プロジェクトの責任者であったH氏をはじめとしたトップマネジメントの(法律文書に対する)機能的識字レベルの壊滅的な低劣さを、(善し悪しや改善の必要性は別として)現実として、しっかりと受け止め、理解し、
・法律文書については、しっかりとした機能的識字支援(文盲介護)が、重要な価値を有するサービスである、という認識の下、
・ (もともと重篤な機能的文盲状態に陥っているビジネスパースンが)確実な理解に至るまで、咀嚼に咀嚼を重ねて、会話の水準を下げるなど、内容を伝える努力を行っていれば、

問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにある。
米CB&Iは上場企業で、原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませる

といった愚劣で無残で言い訳ができない失敗に至ることはなく、また、東芝が7000億円超もの損失を被り、また、債務超過に至ることもなかったであろう、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00626_企業法務ケーススタディ(No.0217):ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!をご覧ください。

相談者プロフィール:
一般社団法人小三也(こみや)政経塾 理事長 小三也 百子(こみや ももこ、64歳)

相談概要:
政治家養成塾を主催する相談者のもとに、全講義を終えないうち、数名の塾生から、
「消費者契約法に違反するし、特定商取引法に定める概要書面も契約書面ももらっていない。
クーリングオフをするのでカネを返せ」
と、内容証明郵便で通知書が送られてきました。
「消費者契約問題というのは、キャッチセールス・霊感商法・押し売りなどに関係することであって、わが組織には関係ないはず。これは名誉毀損であり、業務妨害。いくら費用がかかってもかまわないから、 ただちに訴え返す! こんなくだらない因縁をつけてきた連中への刑事告訴と損害賠償を!」
と、相談者は息巻いています。
以上の詳細は、ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: か弱きおじちゃん・おばちゃんを助太刀する消費者契約法
消費者契約法は、比較的新しい法律で、できたのが2000年、施行が翌2001年です。
わかりやすくいうと、
「そこらのおじちゃん・おばちゃんと、手広く商売やっている企業とでは、格差ありすぎ。
ほっといたら、企業が自分だけオイシイようにやりたい放題しかねん。
そやさかい、誤解させたり、強引な商売するようなことあったら、キャンセルさせてやったり、企業だけオイシイ強引な契約条項を無効にしたり、もっというと、被害者となったか弱きおじちゃん・おばちゃんとエゲツナイ企業とのもめ事について、消費者団体が前面に立って助太刀できるようにしたぞ」
というものです。
以上の詳細は、ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!【か弱きおじちゃん・おばちゃんを助太刀する消費者契約法】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消費者保護法制に聖域なし
消費者契約法に適用除外条項はなく、ありとあらゆる組織や法人に適用されます。
施行後、この法律が活用され、社会的にも大きな事件となった
「学納金返還」
問題があります。
以上の詳細は、ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!【消費者保護法制に聖域なし】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 消費者問題の恐ろしさ
消費者問題については、法律の各条項の解釈や適否についての議論が裁判所で決着するより前に、マスコミやネットで
「消費者契約法に違反している」
風評が蔓延すると、議論はさておき、
「あそこの会社の、あのビジネスは、エゲツナイしグレーだ」
というラベリングがされ(烙印が押され)、ビジネスの基盤がかなりスピーディーに瓦解してしまう可能性があります。
以上の詳細は、ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!【消費者問題の恐ろしさ】をご覧ください。

モデル助言:
小三也さんの事業・活動は、クリーン・正義・理念と志にあふれるイメージを大前提として行われている、イメージ商売です。
議論で勝っても、イメージでボロ負けしビジネス基盤が破壊されたら、いっかんの終わりですので、さっさと返金してしまいましょう。
返金する際、騒動が連鎖し、雪崩現象となっては元も子もありません。
「先方は主張はすべて撤回し、法的には返金義務が一切ないことを確認する。
ただし、当方は、道義的に宥恕(ゆうじょ)し、契約違反・法令違反・損害発生を前提としない、解決金として、特別に支払う」
「和解内容や返金実施の事実を含め一切を守秘する」
などと謳い、事件として一切波及しない措置を厳格に定めた和解契約書の徴求と引き換えにすべきです。
最大の消費者問題回避戦略は、クレーム自体をなくすことです。
以上の詳細は、ケース24:消費者契約法違反ですって?!ウチは無関係でしょ!【今回の経営者・小三也社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00625_企業法務ケーススタディ(No.0216):独禁法違反? はぁ? 意味わかんねーわ

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわをご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社激安大魔王 代表取締役 氷湖 太郎(ひこ たろう、41歳)

相談概要:
相談者は、原価を気にせずガソリンを廉価で販売しました。
前代未聞の激安ということで、お客さんは大喜びでしたが、競合店からは文句をいわれました。
公正取引委員会から文書が届き、くだんの激安販売について調査をするから協力するようにと、とのことです。
客が喜ぶ安売りをして何が悪いのでしょう? 
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: なぜ、安売りをして公取委に怒られるのか?
安売りは消費者にとってはメリットがあり、市場原理に基づく自由競争によって経済発展を標榜する国是にもかなうはずです。
しかし、特定の市場空間において圧倒的な経済力をもつ企業が、カネにモノをいわせ、競争相手のすべてを絶滅させ、
「競争状態」
がなくなると、生き残った強い企業は、何の遠慮もせず、好き勝手に値段を決め、消費者に粗悪品を押しつけ、その利益を独占することになる、のは、歴史上証明された事実です。
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【なぜ、安売りをして公取委に怒られるのか?】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不当廉売の違法性
「体力勝負の原価割れ販売を続けて生き残った事業者」
は原価割れ販売によって損失を被りますが、ライバル全員を市場から追い出した後は、今度は高い価格で商品販売して、一時的な損失など容易に取り返すことができます。
「行き過ぎた」
安売り行為は、独占禁止法の意図する
「効率性に基づく競争」
ではなく、
「資本力・体力勝負で、競争とはいえないような、殺戮・殲滅」
を助長することにつながりかねません。
このようなことから、独占禁止法上、
「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為」(不当廉売)
は違法とされているのです(一般指定6項)。
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【不当廉売の違法性】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:公正取引委員会による不当廉売摘発例
2012年4月、ガソリンを不当廉売した疑いがあるとして福井県のガソリンスタンド運営大手Mと、親会社で仕入れ先のM商事の本社などを公正取引委員会が立ち入り検査した事件が報道されました。
また、2015年12月24日、 愛知県常滑市で、原価を割り込んでいるとみられる極端な安値でレギュラーガソリンを販売したとして、公正取引委員会は独占禁止法違反(不当廉売)の疑いで、会員制量販店Cと石油販売業Uオイルに警告しました。
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【公正取引委員会による不当廉売摘発例】その1ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【公正取引委員会による不当廉売摘発例】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「不当廉売」に該当しない場合 
原価割れ販売がすべて違法というわけではありません。
市価が相当下がってしまった場合の値引き販売、季節遅れ商品や流行遅れ商品のバーゲンセールなど、商習慣上妥当と認められる場合には、期間や対象商品が一定であり公正な競争への影響が小さいといった付加的事情なども勘案し、例外的に、不当廉売に該当しないと、解釈される場合があります。
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【「不当廉売」に該当しない場合】をご覧ください。

モデル助言:
原価割れ販売を行っていますので、独占禁止法違反と評価される可能性がありますね。
経緯を説明し、再発防止を含めた反省とお詫びを、きちんとした書面で出し、
「初回であれば、公表もせず、インフォーマルな指導で沙汰止み」
を目指して、うまく収まるように対応しましょう。
通知書を放置して喧嘩腰で挑発したら、さすがに、厳しいお仕置きを誘発しかねません。
以上の詳細は、ケース23:独禁法違反?はぁ?意味わかんねーわ【今回の経営者・氷湖社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00624_企業法務ケーススタディ(No.0215):「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社マルチ・シティズン 代表取締役 蓮田 紡(はすだ つむぐ、48歳)

相談概要:
数年前に開発した人工知能エンジンの特許技術を中堅広告代理店に流用、真似された相談者は、相手に内容証明郵便の警告書を出しましたが、逆に、先行技術について指摘され、
「こんなのエセ特許。それ以上騒ぐと、無効審判申し立てしますよ」
と脅されました。
早急に、裁判所に販売差止と損害賠償を申し立てようと意気込んでいます。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: チザイ(知財・知的財産権)って何?
産業技術や文化市場では、アイデアや表現が自由かつ活発に交換されることにより、高度化されていきます。
これは、自由な往来ができる整備された街道によって経済が発展するのと同様です。
知的財産権というのは、いわば、
「私人に関所を設けさせ、これを使って他者を威嚇したり、通行料をせしめたりすること」
を是とする制度です。
技術や表現(知的財産権)を自由に使って、産業社会や文化市場で自由な活動をしようとすると、いきなり、
「そなたは、当方が国からお墨付きを得て設置した関所を勝手に通行しておる」
と、いわれてしまうのです。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【チザイ(知財・知的財産権)って何?】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:知財ダークサイドと知財バブル
2002年12月4日に、
『知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を推進すること』
を目的とする知的財産基本法が作られました。
知的財産権は、
「(アイデアや表現の自由な往来における)公認関所」
のようなもので、産業社会や文化市場の発展を阻害する、というダークサイドの要素を秘めていますが、そのマイナス面を無視し、やたらと知的財産権をもてはやす風潮が蔓延しました。
この風潮を、もてはやしている人間の低劣さを揶揄する意味をこめて、
「知財バブル」
などといったりします。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【知財ダークサイドと知財バブル】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 知財ホルダーに対する冷徹な扱い
特許権があるからと、強気に訴訟を提起したとしても、
「『なんちゃって特許』ともいうべき代物」
にすぎない実体である場合は、逆に、裁判所から
「その程度の発明に特許は与えられない」
という“塩対応”を食らうことが、判例にもあります。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【知財ホルダーに対する冷徹な扱い】その1ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【知財ホルダーに対する冷徹な扱い】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 同じ奉行所(権力機関)でも特許庁と裁判所では大違い
「特許庁、すなわち行政という権力機関」
とは別の、
「裁判所、すなわち司法府という別の権力機関」
によって、徹底的に調べ上げられ、あっけなく裁判で負けたら、販売差止に失敗するだけではありません。
特許を製造委託先や他社に使用許諾(ライセンス)して、特許使用料(ロイヤルティー)でも取っていようものなら、
「特許が無効になった以上、これまで払わされたロイヤルティーを全部返せ!」
といわれる可能性もあります。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【同じ奉行所(権力機関)でも特許庁と裁判所では大違い】をご覧ください。

モデル助言:
訴訟をしてもいいですが、勝つとは限りませんよ。
裁判所が、特許審査過程の意見書などを前提に、包袋禁反言の法理で“領土”を削り取られる判断をしたり、最悪、特許権者であり被害者として訴え出た当方の特許自体の無効を宣言することすらあります。
あくまで市井のケンカとしてやり返してやりましょう。
競合誹謗にならないよう注意しながら、公式に特許違反であることをリリースして世間の判断を仰ぐという争い方は検討する価値があるかもしれませんし、先方のビジネスモデルをこちらの人工知能エンジンで実現して、よりパワフルなソフトにしてリリースする方法(その際、先方よりさらに大きな広告代理店とジョイントベンチャーを組んで、資本力にモノをいわせ、上から叩き潰すとか )もありでしょうかねえ。
以上の詳細は、ケース22:「生命より大事な虎の子の特許権」を踏んづけられた!【今回の経営者・蓮田社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00623_企業法務ケーススタディ(No.0214):貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社ミセス・アツコ 代表取締役 具足 敦子(ぐそく あつこ、61歳)

相談概要:
本業は順調の相談者は、遠い親戚から事業資金を融資を頼まれ、1000万円を融資しました。
2年後、元本が半分以上残っている状態で、担保の代わりにと親戚20名全員で連名の決意表明書をつけて、あらたに8000万円の融資を頼まれました。
以上の詳細は、ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 情実融資には危険がいっぱい
銀行は、借主が合理的で健全で堅実で、その借主が作成する事業計画が合理的で健全で堅実で、確実に儲かって、カネを返してくれるなら、普通にカネを貸してくれます。
逆に、銀行がカネを貸してくれないとすれば、借主に問題があるか、事業計画に問題があるか、のいずれかまたは双方だからだと推測されます。
他人に迷惑を被らせている人間やこれから迷惑を被らせる人間に限って、眉一つ動かさず
「絶対迷惑をかけないから」
というウソを平然といえるようになるのです。
こういう人間の話をまともに取り合うと、カネを失い、対応するための時間とエネルギーが奪われ、最悪、身を滅ぼすことすらあります。
助けを求めてきた知人や友人を見放すのはどうも気が引けるという場合には、見舞金を出して追い返すべきです。
ビジネスでは、
「感情」

「勘定」
は峻別すべきであり、特に、
「かわいそうだから」
という理由で、安易に大金を貸すべきではありません。
以上の詳細は、ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【情実融資には危険がいっぱい】その1ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【情実融資には危険がいっぱい】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:どうしても貸さないわけにはいかない場合は
まずやるべきは、融資額を小さくする交渉です。
事業計画をみてみると、無駄な経費や、圧縮できるコストがいろいろ紛れ込んでいたり、事業所の賃料も土地勘がないばかりに業者の言い値で高値の粗悪物件を掴まされていたりする可能性もあります。
さらには、運転資金に、社長の報酬が冗談のような額で計上されていたり、というケースもあったりします。
あと、売れるかどうかわからないのに、単に
「ロットが大きい方が単価を下げられるから」
という理由で、冒険的というか無謀な初期ロットを注文する前提で資金計画を立てていたり、ということもあり、とにかく、細かくみるとツッコミどころ満載ということも考えられます。
以上の詳細は、ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【どうしても貸さないわけにはいかない場合は】その1ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【どうしても貸さないわけにはいかない場合は】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 一族郎党全員を連帯保証人に
それでも貸さざるをえない状況に至った場合は連帯保証を取ることはできるはずです。
連帯保証人の数や資格に法律上制限があるわけではありません。
以上の詳細は、ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【一族郎党全員を連帯保証人に】をご覧ください。

モデル助言:
まずは、御社のメインバンクを紹介して、そちらから融資を受けるよう助言するのが先決ですね。
銀行がすんなり貸してくれるなら、ビジネスモデルとしてそこそこイケてるってことですから。
他方で、銀行が融資を断るのは、まず、返ってくるアテのない案件であり、
「返ってくるアテのないカネを貸すこと」
を世間では
「ギフト」
といいます。
ですので、ギフト額を小さくする方向で交渉してみるのがいいでしょうね。
それも無理だったら、計画のずさんな部分を見直して、融資額を絞り、さらに、全員から連帯保証をとりましょうかねえ。
連帯保証の話を持ち出して、怒って帰ってくれるなら、それはそれでいいんじゃないですか。
シビアになれないのであれば
「8000万円」
のギフトと考えることです。
以上の詳細は、ケース21:貸せない額じゃないけど、情実融資を拒否したい!【今回の経営者・具足社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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