00494_「SE(システムエンジニア)に裁量労働制を使って、残業代なしで過酷な残業をさせるスキーム」構築のリスク

制度の仕組みが誤解を招きやすいことに加え、裁量労働制の適用対象となる業務についても、列挙された業務に形式的にあてはまればよいというわけではありません。

例えば、システムエンジニア(SE)は適用対象と解されていますが、業務内容が裁量性の高くないプログラマーは対象外と考えられ、このような複数の業務を兼務している場合、適用対象外となり得ます。

また、専門業務型裁量労働制の趣旨としては、
「対象業務の性質上、その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、労使協定で定めた時間数労働したとみなす」
というものですから、肩書上は列挙されている業務に当たるとしても、業務実態として裁量性がないのであれば、適用対象外となる可能性が高いです。

実際に、SEについて裁量労働制を実施する会社で、SEの肩書を与えられていたが、実際はプログラミングや営業も行い、SEの業務内容もあまり裁量性がなかったというケースで、裁量労働制の適用対象外として、当該SEの未払残業代請求が認められました(大阪高裁判決平成24年7月27日)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00493_裁量労働制を使えば、「サービス残業完全させ放題」となるのか

裁量労働制ですが、みなし労働時間数が法定労働時間を超える場合は、その分の割増賃金の支払が必要になる等、単純に
「いくらでもサービス残業OK」
というオイシイ制度ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00492_「法定労働時間内であれば」残業させ放題にできる、裁量労働制とは?

世の中には、決まった時間に出社して、上司の指揮命令下で働く一般の会社員と異なり、成果さえちゃんと出していれば良いとされ、時間の使い方・仕事の進め方等についてその労働者自身の自由度が高く、一般労働者と同様に労働時間を厳格に規制することには馴染まない業務もあります。

そして、そのような業務の性質上、労働基準法施行規則24条の2の2第2項に列挙された業務に関しては、労使協定を結び労基署に届出を行う等により、
「専門業務型裁量労働制」
を導入することができます。

対象業務には、研究者や弁護士等の士業といったいわゆる専門職が多いのは、その名のとおりです。

通常、賃金は実労働時間に応じて計算されるものですが、この制度の導入により、実労働時間に関係なく労使協定で定める時間数労働したものとみなされ、それに応じて賃金が支払われます。

したがって、みなし労働時間数を8時間とすれば、実際にはそれ以上働いていたとしても、残業代が発生しないということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00491_約款方式の取引構築において、約款が法的に無効と解釈されるリスク

消費者のハンディキャップ解消策の1つに消費者契約法10条があり、
「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、・・・消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」
と定められています。

どのような場合が
「消費者の利益を一方的に害するもの」
にあたるかはケースバイケースですが、生命保険契約約款に関しては、保険料の払込がなされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める条項の有効性について判断した最高裁判例(最判第2小法廷平成24年3月16日)があります。

ここでは、
「1 保険料が期限内に払い込まれず、かつその後1か月の猶予期間内にも不払の状況が解消されない場合に初めて保険契約が失効し、
また
2 不払額が解約返戻金額を超えないときは、自動的に保険会社が保険契約者に保険料相当額を貸し付ける形にすることで契約を有効に存続させる条項があり、
3 実務上の運用として、不履行があった場合は契約失効前に督促を行うときに、消費者契約法10条に当たらず無効とならない」
と判断されています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00490_BtoCビジネス(コンシューマーセールス)構築の際、注意すべき法的リスク

民法や商法では、取引を行う当事者は対等で、契約内容は当事者間の交渉で自由に決められることが前提とされています。

この原則は、一般人同士やプロの商人同士の取引なら当てはまるでしょうが、一方がプロの商人である会社、他方が商売に関してはド素人の一般消費者となれば、取引に関する情報量や交渉力に歴然とした差があり、一般消費者が無知に付け込まれて食い物にされるという事態も生じかねません。

このような実情に配慮して、BtoC取引(会社と一般消費者との取引)では、BtoB取引(会社同士の取引)とは異なり、一般消費者は保護対象ととらえられ、消費者契約法や特定商取引に関する法律等の特別法によってハンディキャップ解消策が与えられているのです。

例えば
「約款」
を使った取引構築の場合ですが、BtoCビジネスでは、頻繁に用いられます。

これは、会社が不特定多数の消費者とスムーズに契約を結ぶことができように、決まった型で事前に作った条項で、保険約款のほか、銀行取引約款、鉄道の運送約款等があります。

消費者は提示された条件に応じるか応じないかの二者択一となり、
「契約交渉」
なるものは想定されていませんから、会社に一方的に有利な内容が定められていることもあり、しかも、よくよく読まなければ気付かないようにサラッと書かれていたりするので、トラブルの元となっています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00489_会社分割による事業承継後、「施設名称」を継続使用した場合のリスク

会社分割の場合について、クラブの名称を続用した預託金会員制ゴルフクラブの事業を承継した企業が、預託金を返還する義務を負うか否かが争われた最高裁判例(最二小判平成20年6月10日)があります。

最高裁判所は、預託金会員制のゴルフクラブにおいて、その名称は、ゴルフクラブ自体だけでなく、ゴルフ場の施設やこれを経営する会社をも表示するものとして用いられていることが少なくなく、そのような状況で、
1 ゴルフ場事業が譲渡され、
2 名称が続用され、
3 譲り受けた側が譲受後遅滞なくゴルフクラブ会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否した
などの特段の事情がない場合、
ゴルフクラブ会員において、同一の事業主体による事業が継続しているものと信じたり、事業主体の変更があったけれども
「事業を譲り受けた側」

「事業を譲渡する側」
の債務を引き継いだと信じてしまうのは無理もない、との事業譲渡についての判例を引用し、会社分割にもこれが当てはまると判断しました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00488_事業譲渡後も「商号」を使い続ける場合に行っておくべきリスク回避措置

ある会社の事業を譲渡するのに、事業とともに
「商号」
も譲渡する場合、
「事業を譲り受ける側」
には、原則として
「事業を譲渡する側」
の事業によって生じた債務を負担する義務が生じます(会社法22条)。

これは、会社の合併等の場合と異なり、事業譲渡においては元の債権者の債権を確保する手続がないため、
「債務者側の一方的都合で、ある日突然、事業オーナーが変更されて債権を取りっぱぐれる」
という事態から保護すべき必要があるからです。

例えば、飲食店事業を営むA株式会社から、飲食店事業とともに
「A株式会社」
という商号をも譲り受けた場合、債権者からみれば
「『A株式会社』が飲食店事業に関する債務を負担している」
という外観は何も変わっていないので、この外観を信じて回収行動に出ることなくおとなしくしていた債権者の信頼を保護しよう、ということです。

なお、
「どうしても元の会社の債務について責任を負いたくない」
という場合には、きちんとした方法が用意されています。

事業譲受け後、直ちに、本店所在地で
「『事業を譲渡する側』の債務については責任を負いません」
との「免責の登記」を打って公示することにより、事業譲渡でM&Aしたセラー(売り主)の背負っているワケの分からない債務から解放されるのです(会社法22条2項)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00487_行政処分の前に行われる告知・聴聞の具体的内容

聴聞を実施するにあたり、行政機関は、処分の対象者に、書面で呼び出しをします。

この
「不幸の手紙」
には、予定される処分の内容、処分の原因となる事実等、反論する際の材料が書いてあります。

審理の場では、意見を述べ、証拠書類を提出し、許可を得て行政機関の職員に質問することなどができます。

審理が終わると、審理経過を記載した調書と、聴聞を行った者の見解が記載された報告書が作成されます。

行政機関が不利益処分をするには、調書の内容と報告書の意見を
「十分に参酌」
しなければならないとされていますが、これは、単に参考にするのではなく、報告書等に従った判断をすべきという意味です。

その意味では、一方的にどやしつけられるような恐ろしいものではなく、結構ジェントルに言い分を聞いてくれます(とはいえ、結果は厳しいことを平然とやってきますが)。

逆に、期日に欠席し、証拠を提出しなければ、聴聞は終結し当然に不利益処分が行われてしまいます。

このような反論の機会を経てなされた不利益処分は、
「手続き保障を与えた」
とされ、以後これを覆すのは至難の業です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00486_行政処分(不利益処分)を受けるまでのステップ

「不利益処分」
とは、行政機関が、許認可の取り消しや業務停止命令、金銭の納付命令等、一方的に不利益を与える処分で、刑事罰とは違います。

例えば、交通事故を起こした場合、自動車運転過失致死傷罪で逮捕・起訴されるのとは別に、公安委員会という行政機関が運転免許の停止や取消処分をします。

前者が刑事罰、後者が不利益処分の話です。

また、インサイダー取引等で課される課徴金も、刑事罰としての罰金とは異なり、課徴金納付命令という不利益処分が課されるということです。

日本も一応人権国家なので、言い分も聞かずに行政が免許を取り上げるという野蛮なことはできません。

どんなにヒドい事件や事故を起こしても、不利な処分がされる場合には、
「手続保障」
すなわち反論・防御をして自らの権利利益を守る機会が保障されており、行政手続法で規定されています。

具体的には、処分内容の通知、理由の提示が義務、処分基準の設定・公表が努力義務とされています。

さらに、反論の機会として、聴聞手続と弁明手続があり、原則として、許認可の取り消し等不利益の程度が大きい場合は聴聞手続、それ以外は弁明手続と振り分けられます。

とはいえ、行政機関が、世情の安定のため、事実誤認や無茶な事実認定、見世物的な処分を行うなど不当な処分がされる可能性がないとはいえません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00485_定年後の継続雇用の際、選り好みをして、問題労働者を排除できるか?

公的年金の支給開始年齢が65歳になっていくのに伴い、空白期間が生じないよう継続雇用を実現するために、2006年に高年齢者雇用安定法が改正・施行され、65歳定年制等を段階的に進めることが義務付けられました。

この結果、65歳までの雇用確保措置として、
1 定年引き上げ
2 継続雇用制度の導入
3 定年制度廃止
のいずれかの措置を講じなければならなくなり、設例企業のように2を選択する企業が多いのが現状です。

継続雇用制度を導入する場合、労使協定により、対象者について基準を定めること、すなわち
「希望者全員を対象とはせず、選り好みする制度」
としてしまうことも可能です(法9条2項)。

この基準は、労使の協議により、各企業の実情に応じて定められますが、具体性・客観性が必要とされ、他の労働関連法規や公序良俗に反するものは認められません。

この
「選り好み高年齢者継続雇用システム」
に関連して、2012年11月29日に最高裁判決が出されました。

本件では、定年後1年間の嘱託雇用契約により雇用された労働者が、同契約終了後の継続雇用を求めたものの、基準を満たしていないとして拒否されました。

これについて最高裁は、
「基準を満たすものであったから、被上告人(労働者)において嘱託雇用契約終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある」
「基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく・・・雇用が終了したものとすることは・・・客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」
として、再雇用されたのと同様の雇用契約上の地位を認めました。

本件では、点数制の基準となってはいたものの、実際は会社に都合の良いように算定されていたため、企業側は敗訴しました。

このように、継続雇用の場面でも、具体的・客観的な基準と、
「客観的合理的な理由」
及び
「社会通念上の相当性」
という解雇の場面で適用されるのと同様の法理により、企業が意図的に特定の労働者を排除することは認められません。

ところで、2013年4月に施行された高年齢者雇用安定法は、再雇用の選別基準を廃止し、65歳までは希望者全員を再雇用の対象とする制度になっています。

ただし、13年度から12年間は経過措置があり、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に達した者については、引き続き再雇用の基準を利用できます。

そのため、経過措置に伴い
「選り好み」基準
が使用される場面では、先程の最高裁判例が依然として意味を持ちます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所