00339_企業法務のイシュー・スポッティング・ツール(企業法務の全体像・各論)

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00338_企業法務のイシュー・スポッティング・ツール(企業法務の全体像・総論)

組織論(ハードウエア)とオペレーション論(ソフトウェア)

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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00337_企業法務の定義

企業法務の定義について、諸説あることは理解しております。

1ついえることは、法律で明確な定義があるわけでもなく、いまだ学説が固まっているわけではなく(そもそも、企業法務について、学説や理論自体が存在せず、私を含めて、学者や実務家が、それぞれ勝手気ままな考え方を述べている、極めて未熟な分野です)、その意味では、私の定義も含めて、
「どれも正解であり、どれも不正解でもある」
と言い得る状況です。

その意味では、企業法務をどのように定義するかは、各々の選択課題でもあるのですが、経営者と法務部員間、法務部員と弁護士間、その他、企業法務に携わるステークホルダーズにおいて、定義によって補足されるべき内包と外延において齟齬が生じず、錯誤や誤解が生じていなければ特段の選択基準はなかろう、と考えます。

私としては、私が作った

「企業法務とは、『企業経営・企業活動に関連して生じる法的脅威に対する安全保障活動全般のマネジメント』を指す」

という定義がもっともしっくりくるのではないか、と考えています。

以下、この「企業経営・企業活動に関連して生じる法的脅威に対する安全保障活動全般のマネジメント」という定義を、因数分解的に各要素還元してその内包を吟味していきます。

1 「企業経営・企業活動に関連して生じる」
まずは、どのような活動に関する法的脅威か?という点についてです。

これは、「企業経営・企業活動に関連して」と限定されています。企業経営・企業活動は、商売や金儲けとは少し違うニュアンスを含みます。

商売や金儲けというのは、個人営業として行うものを包摂します。

専業主婦がメルカリで不用品を売って儲けるのも商売・金儲けです。

しかしながら、企業法務ではこの種の法律問題は扱いません。

なぜなら、このような個人営業として行う商売や金儲けは、企業経営・企業活動とは異なるからです。

「企業経営・企業活動」も、別に高尚で公益的なことをやっているわけではなく、その本質は「営利活動」であり、平たくいえば、「商売や金儲け」です。

では、「企業経営・企業活動」と 「個人営業として行う商売や金儲け」とどこが違うか、というと、「個人として行うか」、「組織として、チームとして、有機的一体的に『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』として、行うか」という点で違います。

犯罪でも単独犯と共同正犯では、犯罪成立上の取扱い方も異なります。単独犯においては「自己責任原理」が貫かれますが、共同正犯においては「一部実行全部責任」として「個人としてはやってもいない犯罪まで責任を背負わされる」という乱暴な取扱が正当化されます。これは、共同正犯の方が、単独犯と比べると、遥かに犯罪成功の可能性が高く、反社会性・凶悪性が高いからです。

商売や金儲けも同じです。

「個人営業として行う商売や金儲け」 と違い、「人・モノ・カネ・チエを有機的に集積して一体的人格と化した、巨大組織」たる企業(たいてい株式会社という法人形態によって行われます)により金儲けを行う企業経営は、個人営業とは全く違うレベルにおいて、安全かつ効率的な金儲けを可能とします。株式会社制度が人類社会最大の発明と言われる所以です。

すなわち、企業、すなわち営利法人たる株式会社は、「頭(カシラ)を決め、掟(オキテ)を定め、下の連中に掟を守らせる」という組織としての有機的活動前提を整えた上で、ヒト・モノ・カネ・チエといった資源を調達・運用・廃棄や組み替えを行い、企業内に蓄積した付加価値(商品やサービス提供システム)をカネに替え、企業内に蓄積した富を、ステークホルダーに還元・分配していく、という活動を大規模かつ組織的かつ永続的に展開しますが、これが企業経営・企業活動とも言うべきものの実体となります。

そして、企業経営・企業活動には、個人営業とは異質の、組織活動特有のリスクや脅威が生じます。

2 「法的脅威に対する」
そして、企業法務が対象とするのは、
「法的脅威」
です。

地震や災害といった物理的脅威への予防・被害軽減・対処は、企業法務の所掌外となります。

実際、弁護士はじめとした法律の専門家は、防災の専門家ではありませんし、地震や災害の際に、先頭に立って避難誘導するスキルももっていませんし、災害時の復旧活動に出しゃばると、かえって、自衛隊の邪魔になるだけです。

もちろん、
「経営上の脅威」
も含みません。

モノが売れない、客が来ない、アテがはずれた、カネがない、借金が減らない、景気が悪い、といった問題は、弁護士も法務部も全く解決できません。

というより、そもそもこういった問題が解決できるのであば、弁護士や法務部員をやめて、とっとと起業して、大金持ちになっています。

とはいえ、暴力団の脅威や、税務署や規制当局からお咎めを受ける脅威、また、
「経営が立ち行かなくなったので借金を合法的に減らすなり、一部チャラにして助けてもらいたい」
といった、法律の力を用いて除去・解決・改善・緩和しうる脅威課題は、すべて、
「法的脅威」
として捉えることが可能です。

3 「安全保障活動全般の」
そして、
「安全保障活動全般」
ですが、こちらは想像以上に非常に幅広い活動を含みます。

事件処理、トラブル対応といった有事対応も含まれますが、危機予防や紛争予防も含まれます。

また、法的脅威をきちんと把握した上での、事業上の意思決定を行うこと(戦略的意思決定支援のための経営政策法務)や、仮に、
「脅威」
が存在したとしても
「制御可能な脅威」
であれば、積極的にリスクテイクして、企業活動を展開するようなアグレッシブな事業構築支援(戦略法務)も定義に含まれます。

さらに、法的脅威に対する日常的な認知と警戒を不断に行うことも含まれます。

すなわち、
「法的脅威など一切存在しないし、当社には無関係」
という
「楽観バイアスによる平和ボケ」
を克服し、企業内外に存在する
「法的脅威」
を、

鋭く感受し(不安に感じ)、
クリアに認知し(発見・特定し)、
発見し特定した「法的脅威」を、具体化・見える化・カタチ化・言語化・文書化して共有し、
自社の置かれた状況について、ゲームルール・ゲーム環境・現実的相場観といった点からリアルに把握し、
「法的脅威」への対処方針を具体的なゴールとしてデザインし、
ゴールに至る道筋に存在する課題を抽出し、
課題克服のための選択肢を創出し、
プロコン分析に基づき、トップが判断した選択肢を実施し、脅威を回避し、低減させ、効果的に制御できるよう働きかけを行う、

といった活動をも捕捉します。

国の安全保障活動が、
「空母を派遣し、戦闘機を飛ばし、ミサイルを打ち込み、軍隊を派遣するといった古めかしい暴力的活動」
のみならず、
「外交や、インテリジェンスといった、知的でソフトでスマートでエレガントな活動をも包含する、幅広く、奥行き深い活動」
をも包含するように、現代の企業法務も、
「企業の内外をとりまく法的脅威に対する多種多様な広汎な働きかけの手法」
を、幅広く、奥行深く取り込んで理解すべきと考える次第です。

4 「マネジメント」
最後に、 『企業の法的脅威に対する安全保障活動全般のマネジメント』 という定義の
「マネジメント」
という部分です。

これは、主に、企業経営陣あるいは企業内の法務部において、もっとも意識が欠けており、かつ、もっとも意識しなければならない観点です。

企業法務活動も
「マネジメント」
である以上、目標を設定し、その目標を達成するために組織の経営資源を効率的に活用するものでなければなりません。

ところが、
「企業の法的脅威に対する安全保障活動」
というものについては、病理性と非常識性と不確実性が高いため、なかなか目標を設定しがたく、かつ、経験値が欠如し展開予測能力を喪失した経営陣が恐慌に陥り、冷静な対処知性を欠如している状態で、事態に臨もうとするため、費用対効果の概念を度外視した過剰な対応に陥りがちです。

結果、脅威は克服できたが、振り返ったら、
「1万円札を5万円で買った」
ような、コスパの悪い資源動員をしてしまっていた、という例も少なくありません(私のクライアントが愚痴をこぼしていた例でいうと、労働紛争で、100万円の請求に対する弁護活動で、250万円請求されたことがあり、だったら、最初から請求丸呑みにしてもよかった、という話があります)。

無論、名目上の脅威は僅かな損害賠償請求事件であっても、当該請求を受諾することが蟻の一穴を崩すように、ドミノ倒し的に同種請求の連鎖的波及を生じる場合や、企業としてのアイデンティティが問われるような事件については、実際の事件の経済的価値は、貴重でかつ高額なものである、ということがあるかもしれません。

とはいえ、だからといって、目的も明確にせず、費用対効果検証もなく、ただただ、脊髄反射の如く、感情の赴くまま、資源動員を過剰に行う、という
「マネジメント」の喪失を
正当化することにはなりません。

また、企業法務活動については、そもそも正解なき課題への取組であることから、
「効果」を定量的に測定しにくく、
また、
「品質」や「価格」とのバランス
もブラックボックス化されがちです。

さらに、発注する企業側にリーガルサービスの取引リテラシーがないことから、取引情報の非対称性が顕著になりがちで、結果、
「規模やブランド」
で選択する方向に陥りがちです。

結果、対処方針も、
「提案する人間の“レベル”」
ではなく
「提案する人間の“ラベル”」
で判断してしまい、
「迷ったら高い方を買っておけば安心する」
という、世間知らずの金持ちの愚かな買い物と同様の失敗を犯しがちとなります。

すなわち、観光バスが提携している土産物屋に無目的に立ち寄り、
「一体何を買いたいのか、相場観がどうなのか」
を明確にせず、提案してきた土産物屋の主人のアドバイスにしたがい、
「迷ったら一番高いものを買っておけば安心する」
という愚劣なバイアスにしたがい、結果、
「使う意図も目的もはっきりしないゴミやガラクタの類に大金を投じてしまう」
ような、推奨できないサービス調達をするリスクが生じうる、ということです。

弁護士への依頼も、煎じ詰めれば、単なる外注・購買活動の一種であり、当然ながら、しっかりとした外注管理、調達管理を行うべきです。

すなわち、

調達目的を明確にし、
費用対効果を意識し、
(ラベルやブランドではなく)機能的・経済的な競争調達(価格と品質の両面で、シビアにドケチに、具体的に確認しながら、賢い買い物をする)を実施し、
調達した後も、当初の計画どおりのサービスが行われているか、しっかりとフォロー、管理すべき(サボっていないか監視をし、サボりや手抜きに対して必要な嫌味を述べる)

ということを行うことが必要です。

以上のとおり、企業法務は、

企業の法的脅威に対する安全保障活動全般であり、
この活動を経済合理性に基づき「マネジメント」する、

ということがその定義内容となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00336_日本企業の法務格差(3)法務弱者企業・法務無能力企業に共通する特徴

法務弱者企業や法務無能力企業には、下記のとおり共通する一定の特徴なり傾向(端的にいえば「ダメ」な要素)がみられます。

そして、下記の各特徴は、
「不祥事で多額の損失を被り、あるいは倒産する企業」
の特徴なり傾向とそのまま近似します。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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00335_日本企業の法務格差(2)法務「無能力」企業

地方等においては
「法務無能力」
とも評すべき企業も多数存在します。

2005年に大阪市立大学大学院法学研究科
「企業法務研究プロジェクト」
が実施した調査によると、1,838社の大阪府下の中小企業中、顧問弁護士がいないと回答した企業は1,530社(83%)に上ったそうです(『中小企業法の理論と実務』高橋員=村上幸隆編・民事法研究会、591頁)。

東京に次ぐ大都市である大阪ですらこのような状況ですから、その他の地方都市の企業の法務支援体制は推して知るべしです。

地方では弁護士の数が不足していることもあり、税理士や司法書士、行政書士が事実上顧問弁護士としての役割を担い、企業の契約書をチェックし、法務上の相談に応じ、ときには訴訟指導等もしていることは公然と知られた事実です。

そして、このような形の法務上の処置が原因で後日深刻なトラブルに発展するケースも実に多く存在します。

前述のとおり、現在の産業社会は、法務弱者企業や法務無能力企業が生き残れるほど寛容ではありません。

有効な企業法務上の助言が得られないばかりに、不祥事や契約リスクが現実化し、倒産や廃業等を余儀なくされ、市場から退場させられた企業は数多く存在します。

いずれにせよ、これだけ法令遵守や法務武装の重要性が叫ばれている中、企業の継続的発展のためにも適切な法務体制構築は極めて重要といえます。

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00334_日本企業の法務格差(1)法務格差

世紀の境目の激変の中、それまで、
「上をみて(行政に従う)、横をみて(業界横並びを意識する)、後ろを振り返る(従来からの慣例を墨守する)」
というコンプライアンス戦略しかなかった企業の中にも、自らのコストで適正な企業法務部体制を構築し、法の専門家を雇い入れるなどして、自己責任により法令遵守、法務強化を行うものが出現しました。

海外市場へと展開し、国際的な競争にさらされている企業や社会の変化に敏感な企業、業界再編の嵐の中で競争優位確立による生き残りを意識する企業等は、猛烈な勢いで法務体制を整えていくことになります。

とはいえ、日本企業の大半は、このような産業社会の変化に気づかず、
「従来どおり、重大な法務事故が発生してから弁護士を投入する」
という紛争法務(治療法務)を中核とした事後対応法務体制しか設けず、予防法務に意を払わず、また
「法的知見を戦略的に活用し、経営に生かす」
などということも行わないまま、従来どおりの法務体制で活動を続けています。

このような状況を反映して、日本の産業社会には、急速に法務格差が拡大しました。

ここで、
「法務強者」企業

「法務弱者」企業
を対比して、整理すると次のようにプロファイリングされるものと思われます。

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00333_日本企業法務史(7)新しい資本市場・「売り買いされ、あるいは解体される企業」

冷戦終結に伴い、市場が1つになりました。

ロシア、東欧諸国、中国など
「社会主義体制崩壊に伴い、資本主義社会に大量に移転しきた、“新興国”」
が大量の生産と供給を始めたことにより、
「世界の工場」
と呼ばれていた日本の地位が脅かされるようになりました。

すなわち、
「それまで日本でしか作れなかった一定の価格と品質をもった商品」

「賃金の安い新興国が、一定程度の品質の商品を驚くような低価格で供給するようになったこと」
に伴い、供給過剰と価格面の過当競争を誘発し、これが構造的なものとなっていったのです。

世界レベルでの供給過剰とこれに伴い発生した構造的デフレーション(経済収縮)により、国際的な大競争(メガコンペティション)が到来しました。

同時に、資本市場もグローバル化していきます。

バブル崩壊後、疲弊著しい日本には、参入の好機とみた外資が大量に参入してきました。

新たに日本の資本市場へと参加してきた外資系プレーヤーたちは、企業価値を時価によって正確に計測することを求めるとともに、様々な財務指標を持ち出し、保有資産の有効活用を強硬に求めました。

経済がインフレ(膨張)からデフレ(収縮)へ向かい、企業業績も株価も不動産もどんどん下がり始め、
「さしたる努力をしなくても、含み資産はあるし、モノは売れるし、企業業績が右肩上がり」
という神話が崩壊し、経営陣は安穏としていられなくなりました。

このような状況において、それまで取引主体でしかなかった企業そのものが
「売り買いの対象」
となる事態が生まれるようになりました。

市場が収縮し、また“護送船団”が解体していく中で、業界を再編する動きが活発化し、
「友好的なM&Aを行って企業を丸ごと買い上げる」
さらには、
「敵対的買収によって、企業を解体させたり、あるいは経営陣を交替させたり」
といった動きがいよいよ現実化してきました。

ここに至って、企業は、取引の
「主体」
として永遠の存続を約束された存在ではなくなり、
「単なる売り買いの対象」
としてみられるようになりました。

経営努力をしなかったり、含み資産を持ちながらもこれを積極的に利用しない企業や、財務指標改善やIRに意を払わず株価を割安の状態で放置させているような企業は、経営陣の交代を要求されたり、身売りさせられたり、解体を強制されるようになったのです。

運営管理コード:CLBP6TO7

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00332_日本企業法務史(6)かつての資本市場・「売り買いされることなく、永遠の生命をもつ存在としての企業」

前世紀末から今世紀初頭にかけて、日本の資本市場も驚くべき変化を遂げます。

高度経済成長を成し遂げた昭和時代からバブル経済崩壊以前までの経済は、インフレーション(膨張)基調にあり、日本企業の業績も概ね右肩上がりで推移し、新株や社債の発行による資金の調達もスムーズに行われていました。

「ゴーイングコンサーン(「企業が永遠に継続する」という理論的前提)」
という言葉のとおり、上場企業はどこも永続的に存続するものと考えられ、企業は、多数の
「口数の少ない株主」
に支えられ、行政による手厚い保護を受けることで、誰からも摯肘を受けることなく、平和裡に経営を行ってきました。

親密な企業同士で株式を持ち合うことで経営者自身の保身が絶対的に確保されており、
「株式額面を想定元本とした、銀行金利程度の配当」
をチョロチョロ出している限り、株主や市場から厳しい突き上げを食らうこともありませんでした。

要するに、経営者は自らが思うがままの舵取りをできた時代だったのです。

加えて、
「簿価会計(取得原価主義)」
すなわち実態と完全に乖離した会計ルールが許容されていたため、企業は、株や不動産の価値が上昇するインフレ経済の下、莫大な含み資産を有することとなりました。

このような
「埋蔵金」
を山のように有する企業は、資本市場に背を向けても問題なく財務運営が可能であり、したがって、企業は、資本や資産の効率的活用など歯牙にもかけず、財務指標改善やIR活動についても真面目に行いませんでした。

それでも株式市場は活況で、株価は高水準で上昇を続け(これにより、持ち合いで保有する株式の価値がますます増し、さらに含み資産が増すことになります)、
「特異な意図・目的を有する、特殊な素性の者」
を除き、
「特定の株を買い占めて企業を乗っ取ってやろう」
などと考える事業者等は現れませんでした。

万が一、株価が低迷して、株を買い占めるような輩が現れても、ホワイトナイトヘの第三者割当増資を行うという雑な対抗策を講じればいい話でした。

このような露骨で横暴な買収対抗策は、法理論上大きな矛盾をはらんでいましたが、マスコミは何ら批判することもありませんでしたし、司法の場においても企業経営陣側は徹底して救済されました(なお、このような裁判所による企業経営陣を保護する動向は、現在でも顕著に残っています)。

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00331_日本企業法務史(5)「シェアホールダーズのみならず、ステークホルダーズをも裏切る、重篤な企業不祥事」の急増

2000年に入ると、雪印乳業の賞味期限切牛乳販売による集団食中毒事件、三菱自動車のリコール隠し事件、カネボウの粉飾決算、西武鉄道の株主名義偽装事件等、大型の企業不祥事が続発しました。

それまでの総会屋への利益供与といった不祥事は、いわば、シェアホールダーズ(株主、投資家)という、特定少数の属性の企業関係者を裏切るものでしたが、上記不祥事は、消費者や社会を含む企業に関わる利害関係者(ステークホルダーズ)全てを裏切るような企業不祥事であったため、企業存亡に関わる事態にまで発展する例も増加し、コンプライアンス(法令遵守)が大きな企業課題として認識されるに至りました。

運営管理コード:CLBP5TO5

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00330_日本企業法務史(4)外資系企業やベンチャー企業の台頭による企業法務プラクティスの進化

1998年に一時国有化された日本長期信用銀行(長銀、現:新生銀行)の売却交渉の際、外資系ファンドであるリップルウッドがウォールストリート流の交渉戦略を駆使し、8兆円超もの公的資金が投入された長銀をわずか10億円で買収しました。

その後、リップルウッドは
「譲渡から3年以内に、当初の正常債権の判定に瑕疵が生じ、簿価より2割以上目減りした債権は預金保険機構に買い取らせることができる」
とした瑕疵保証条項を発動し、預金保険機構に1兆円を超える不良債権を買い取らせるなどし、長銀は新生銀行として再生しました。

同行の上場益として2200億円以上の利益を得ることに成功しましたが、リップルウッドによる投資の母体となった組合は海外籍であったため、日本政府は、当該売却益に対し、日本での課税すらできませんでした。

この顛末は、
「日本を代表するトップエリートである大蔵省のキャリア官僚と、ウォール・ストリート・ロイヤー(米国屈指のNYの金融街で活躍するビジネス弁護士)が激突した頭脳戦で、大蔵官僚が惨敗した」
という象徴的出来事として捉えられますが、
「ウォール・ストリート・ロイヤーが駆使するアングロ・サクソン流の法務テクニックや交渉スタイルが、大蔵省を赤子のように翻弄する、圧倒的なパワーをもつこと」
を日本の産業社会がまざまざと思い知らされたエポックメイキングな事件とも考えられます。

このように優秀なビジネス頭脳とこれを実現するための犀利な法務戦略を有する外資系企業の活躍や、ベンチャー企業による敵対的買収の動きが資本市場を席捲します。

それまでの日本の伝統的産業文化とは全く縁がなく、経済合理性と戦理に適った法の活用を得意とする外資系企業等の活躍事例を目の当たりにし、日本の産業界は、世界レベルの高度な戦略法務技術を知り、これを活用するトレンドが形成されるに至りました。

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