00334_日本企業の法務格差(1)法務格差

世紀の境目の激変の中、それまで、
「上をみて(行政に従う)、横をみて(業界横並びを意識する)、後ろを振り返る(従来からの慣例を墨守する)」
というコンプライアンス戦略しかなかった企業の中にも、自らのコストで適正な企業法務部体制を構築し、法の専門家を雇い入れるなどして、自己責任により法令遵守、法務強化を行うものが出現しました。

海外市場へと展開し、国際的な競争にさらされている企業や社会の変化に敏感な企業、業界再編の嵐の中で競争優位確立による生き残りを意識する企業等は、猛烈な勢いで法務体制を整えていくことになります。

とはいえ、日本企業の大半は、このような産業社会の変化に気づかず、
「従来どおり、重大な法務事故が発生してから弁護士を投入する」
という紛争法務(治療法務)を中核とした事後対応法務体制しか設けず、予防法務に意を払わず、また
「法的知見を戦略的に活用し、経営に生かす」
などということも行わないまま、従来どおりの法務体制で活動を続けています。

このような状況を反映して、日本の産業社会には、急速に法務格差が拡大しました。

ここで、
「法務強者」企業

「法務弱者」企業
を対比して、整理すると次のようにプロファイリングされるものと思われます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00333_日本企業法務史(7)新しい資本市場・「売り買いされ、あるいは解体される企業」

冷戦終結に伴い、市場が1つになりました。

ロシア、東欧諸国、中国など
「社会主義体制崩壊に伴い、資本主義社会に大量に移転しきた、“新興国”」
が大量の生産と供給を始めたことにより、
「世界の工場」
と呼ばれていた日本の地位が脅かされるようになりました。

すなわち、
「それまで日本でしか作れなかった一定の価格と品質をもった商品」

「賃金の安い新興国が、一定程度の品質の商品を驚くような低価格で供給するようになったこと」
に伴い、供給過剰と価格面の過当競争を誘発し、これが構造的なものとなっていったのです。

世界レベルでの供給過剰とこれに伴い発生した構造的デフレーション(経済収縮)により、国際的な大競争(メガコンペティション)が到来しました。

同時に、資本市場もグローバル化していきます。

バブル崩壊後、疲弊著しい日本には、参入の好機とみた外資が大量に参入してきました。

新たに日本の資本市場へと参加してきた外資系プレーヤーたちは、企業価値を時価によって正確に計測することを求めるとともに、様々な財務指標を持ち出し、保有資産の有効活用を強硬に求めました。

経済がインフレ(膨張)からデフレ(収縮)へ向かい、企業業績も株価も不動産もどんどん下がり始め、
「さしたる努力をしなくても、含み資産はあるし、モノは売れるし、企業業績が右肩上がり」
という神話が崩壊し、経営陣は安穏としていられなくなりました。

このような状況において、それまで取引主体でしかなかった企業そのものが
「売り買いの対象」
となる事態が生まれるようになりました。

市場が収縮し、また“護送船団”が解体していく中で、業界を再編する動きが活発化し、
「友好的なM&Aを行って企業を丸ごと買い上げる」
さらには、
「敵対的買収によって、企業を解体させたり、あるいは経営陣を交替させたり」
といった動きがいよいよ現実化してきました。

ここに至って、企業は、取引の
「主体」
として永遠の存続を約束された存在ではなくなり、
「単なる売り買いの対象」
としてみられるようになりました。

経営努力をしなかったり、含み資産を持ちながらもこれを積極的に利用しない企業や、財務指標改善やIRに意を払わず株価を割安の状態で放置させているような企業は、経営陣の交代を要求されたり、身売りさせられたり、解体を強制されるようになったのです。

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00332_日本企業法務史(6)かつての資本市場・「売り買いされることなく、永遠の生命をもつ存在としての企業」

前世紀末から今世紀初頭にかけて、日本の資本市場も驚くべき変化を遂げます。

高度経済成長を成し遂げた昭和時代からバブル経済崩壊以前までの経済は、インフレーション(膨張)基調にあり、日本企業の業績も概ね右肩上がりで推移し、新株や社債の発行による資金の調達もスムーズに行われていました。

「ゴーイングコンサーン(「企業が永遠に継続する」という理論的前提)」
という言葉のとおり、上場企業はどこも永続的に存続するものと考えられ、企業は、多数の
「口数の少ない株主」
に支えられ、行政による手厚い保護を受けることで、誰からも摯肘を受けることなく、平和裡に経営を行ってきました。

親密な企業同士で株式を持ち合うことで経営者自身の保身が絶対的に確保されており、
「株式額面を想定元本とした、銀行金利程度の配当」
をチョロチョロ出している限り、株主や市場から厳しい突き上げを食らうこともありませんでした。

要するに、経営者は自らが思うがままの舵取りをできた時代だったのです。

加えて、
「簿価会計(取得原価主義)」
すなわち実態と完全に乖離した会計ルールが許容されていたため、企業は、株や不動産の価値が上昇するインフレ経済の下、莫大な含み資産を有することとなりました。

このような
「埋蔵金」
を山のように有する企業は、資本市場に背を向けても問題なく財務運営が可能であり、したがって、企業は、資本や資産の効率的活用など歯牙にもかけず、財務指標改善やIR活動についても真面目に行いませんでした。

それでも株式市場は活況で、株価は高水準で上昇を続け(これにより、持ち合いで保有する株式の価値がますます増し、さらに含み資産が増すことになります)、
「特異な意図・目的を有する、特殊な素性の者」
を除き、
「特定の株を買い占めて企業を乗っ取ってやろう」
などと考える事業者等は現れませんでした。

万が一、株価が低迷して、株を買い占めるような輩が現れても、ホワイトナイトヘの第三者割当増資を行うという雑な対抗策を講じればいい話でした。

このような露骨で横暴な買収対抗策は、法理論上大きな矛盾をはらんでいましたが、マスコミは何ら批判することもありませんでしたし、司法の場においても企業経営陣側は徹底して救済されました(なお、このような裁判所による企業経営陣を保護する動向は、現在でも顕著に残っています)。

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00331_日本企業法務史(5)「シェアホールダーズのみならず、ステークホルダーズをも裏切る、重篤な企業不祥事」の急増

2000年に入ると、雪印乳業の賞味期限切牛乳販売による集団食中毒事件、三菱自動車のリコール隠し事件、カネボウの粉飾決算、西武鉄道の株主名義偽装事件等、大型の企業不祥事が続発しました。

それまでの総会屋への利益供与といった不祥事は、いわば、シェアホールダーズ(株主、投資家)という、特定少数の属性の企業関係者を裏切るものでしたが、上記不祥事は、消費者や社会を含む企業に関わる利害関係者(ステークホルダーズ)全てを裏切るような企業不祥事であったため、企業存亡に関わる事態にまで発展する例も増加し、コンプライアンス(法令遵守)が大きな企業課題として認識されるに至りました。

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00330_日本企業法務史(4)外資系企業やベンチャー企業の台頭による企業法務プラクティスの進化

1998年に一時国有化された日本長期信用銀行(長銀、現:新生銀行)の売却交渉の際、外資系ファンドであるリップルウッドがウォールストリート流の交渉戦略を駆使し、8兆円超もの公的資金が投入された長銀をわずか10億円で買収しました。

その後、リップルウッドは
「譲渡から3年以内に、当初の正常債権の判定に瑕疵が生じ、簿価より2割以上目減りした債権は預金保険機構に買い取らせることができる」
とした瑕疵保証条項を発動し、預金保険機構に1兆円を超える不良債権を買い取らせるなどし、長銀は新生銀行として再生しました。

同行の上場益として2200億円以上の利益を得ることに成功しましたが、リップルウッドによる投資の母体となった組合は海外籍であったため、日本政府は、当該売却益に対し、日本での課税すらできませんでした。

この顛末は、
「日本を代表するトップエリートである大蔵省のキャリア官僚と、ウォール・ストリート・ロイヤー(米国屈指のNYの金融街で活躍するビジネス弁護士)が激突した頭脳戦で、大蔵官僚が惨敗した」
という象徴的出来事として捉えられますが、
「ウォール・ストリート・ロイヤーが駆使するアングロ・サクソン流の法務テクニックや交渉スタイルが、大蔵省を赤子のように翻弄する、圧倒的なパワーをもつこと」
を日本の産業社会がまざまざと思い知らされたエポックメイキングな事件とも考えられます。

このように優秀なビジネス頭脳とこれを実現するための犀利な法務戦略を有する外資系企業の活躍や、ベンチャー企業による敵対的買収の動きが資本市場を席捲します。

それまでの日本の伝統的産業文化とは全く縁がなく、経済合理性と戦理に適った法の活用を得意とする外資系企業等の活躍事例を目の当たりにし、日本の産業界は、世界レベルの高度な戦略法務技術を知り、これを活用するトレンドが形成されるに至りました。

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00329_日本企業法務史(3)「事前規制の時代」から「事後監視の時代」へ

護送船団行政全盛時代は、バブル経済崩壊後の1990年代後半頃には終焉を迎え、状況が一変し始めます。

1998年に中央省庁等改革基本法が成立し、2001年をもって、それまでの1府22省庁は、1府12省庁に再編されることになりました。

加えて、このあたりから、規制緩和が推進され、
「護送船団行政」
やこれを支えてきた裁量行政は影をひそめ、行政機関の役割は厳格・適正な法の運用と執行に限定されるようになりました。

そして、規制緩和の流れと並行して、
・規制対応は企業の自己責任で行うものとされ、かつ、
・規制違反行為に対しては厳しい事後制裁で臨む
という運用が定着していくことになります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

さらに、これまでは日本の産業界において暗黙の了解事項として是認されてきたカルテルや談合についても、容赦ない摘発と、排除措置・課徴金・刑事罰・指名停止といった厳格な制裁が実施されるようになり、業界内の癒着自体が困難な状況となっていきました。

このような護送船団行政や業界癒着構造の終焉の動きに合わせて、不況による業界間(業界内)競争や業界再編の動きが加わったことで、日本の産業界は業界“協調”時代から、業界“競争”時代にシフトしていくことになります。

護送船団行政による事前規制社会から規制緩和(規制撤廃)による事後監視社会への移行に合わせて、事後監視を担う司法の強化も図られました。

すなわち、1998年に民事訴訟法が改正され、裁判所に大幅な機能強化・権限強化が図られるとともに、審理スピードの迅速化も図られるようになりました。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00328_日本企業法務史(2)護送船団行政全盛時代における「企業の法務課題処理方法」

1980年から1990年代にかけて、企業がトラブルや問題が生じたときに駆け込むのは法務部や顧問弁護士のところではなく、まずは、監督行政機関や業界団体でした。

監督行政機関からの指導に対しては、阿咋の呼吸で伝えられるものも含め、徹底して従うことが企業のリスク管理行動として最も推奨されるものでした。

監督行政機関の見解を糺すべく法令解釈の照会を求めたりすることは自粛されていましたし、行政処分を争って行政訴訟を提起することは狂気の沙汰でした。

現在ではカルテルや入札談合などとして社会的非難を浴びることから忌避されるのが通例となっている業界内部での業者間の親密な関係構築ですが、当時は、このような競争者間の協調関係は、護送船団行政の効果を高めるものとして、明示あるいは黙示に推奨されていました。

取引関係は、
「仲のよい、お互い見知った者同士」
の間でなされることから、契約よりも人間関係で取引が展開し、契約書の記載の不備を指摘する者はおらず、契約書自体が存在しないことすら誰も気にしませんでした。

そしていざ企業間で紛争が生じても、契約書の不備をめぐって裁判所で喧々囂々と争うことも稀で、血気盛んに裁判に臨んだところで、裁判手続自体、一審で2年、3年かかることは当たり前であり、最後はどうでもよくなって、適当なところで折り合いをつけることがほとんどでした。

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00327_日本企業法務史(1)護送船団時代

日本では、1980年代終わりから90年代なかばころまで、官庁の主導により産業界の育成が図られていた時代が存在しました。

この時代、各業界において競争力が最も欠落した企業であっても維持・存続できるような業界育成が行政の最大のミッションと考えられ、行政機関は、許認可権限やこれに基づく行政指導等の権限(行政裁量権)を駆使して、業界全体をコントロールしていました。

この方式は、最も船足の遅い船に速度を合わせて、船団が統制を保って進行する戦術になぞらえ、
「護送船団方式(あるいは護送船団行政)」
と評されていました。

時代の産業界のキーワードは
「秩序ある発展」
であり、当該秩序は、法律や裁判を通じてではなく、行政による裁量や業界内の話し合い等によって確立されるべきものでした。

当時、日本の産業界で、
「法令遵守」
「コンプライアンス」
という概念は、特段、経営課題として意識されておらず、また契約事故や企業間紛争が生じた場合も、裁判等に訴えられることは稀であり、協調関係にある業界同士の話し合いや、監督行政機関もしくは業界団体の斡旋により自主的に解決されていました(ちなみに、東芝によるCOCOM規制違反事件を契機に「輸出規制遵守」あるいは「輸出規制コンプライアンス」という概念が一時話題になりましたが、その後、企業一般の経営課題としては、根づくことはありませんでした)。

当時の企業の最大のコンプライアンス戦略は、
「上をみて(行政に従う)、横をみて(業界横並びを意識する)、後ろを振り返る(従来からの慣例を墨守する)」
ということでした。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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00326_「顧客や従業員の引抜き」が「私的独占」に該当する場合

ある会社が、ライバル企業の3割近くの従業員を引き抜いた上、さらに、当該ライバル企業の顧客に対し、
「自社との取引に切り替えれば、他の顧客にはない特別な条件で取引する」
という不当な差別対価を提示して勧誘したという事件がありました。

この事件について東京地方裁判所は、
「違法な引き抜き行為」
に加え、これと近接した時期に
「違法な差別対価」
を提示するキャンペーンを大々的に行ったことを総合的に考慮し、いわば
「併せ技一本」
のような形で前記企業の行為を悪質な私的独占行為と判断し、20億円にも上る損害賠償額の支払いを命じました。

このように、
「一見、やりたい放題、何でもあり」
のガチンコ自由競争と思われがちな企業社会ですが、1つずつは
「ちょっとした悪さ、ラフプレー」
とも思える、従業員の引き抜きや差別対価による顧客の奪取も、全体を俯瞰してあまりにえげつない反競争行為と捉えられると、単なる不公正取引としての
「差別対価」
にとどまらず、
「差別対価を手段とした私的独占行為」
として判断されるリスクがある、といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00325_顧客の属性に応じて柔軟に価格を差別化する価格政策の独禁法抵触リスク

適正な利益が上げられる範囲で、同業他社より安い価格を設定して商品を販売したりサービスを提供したりすることは、自由競争社会においては当然のことです。

本来、企業は、自社の商品やサービスの価格を自由に決めることができるのが原則ですし、顧客によってはその取引量やコスト(事務費用など)が異なるのですから、例えば、
「子供は割引します」
といったように、顧客の属性で価格を変えたからといって、直ちにそれが違法と評価されるようなことはありません。

しかしながら、例えば、同業他社のシェアが大きい地域だけ、自社の商品やサービスを安くしたり、同業他社の顧客を勧誘する時に限って安い価格を提示したりするといった行為は問題があります。

なぜならこのような行為を放置した場合、大企業がその資金力にものを言わせて、同業他社のシェアが大きい地域や市場に狙い撃ち的に介入し、その地域や市場における同業他社の資金力が尽きるまで安い価格を維持して顧客を奪うことが許されることになり、反競争状態が出現することになるからです。

このため、独占禁止法は、公正取引委員会が指定する
「不当に、地域または相手方により差別的な対価をもって、商品もしくは役務を供給し、またはこれらの供給を受けること」

「差別対価」
として不公正な取引方法としているのです(一般指定3項)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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