00032_企業法務ケーススタディ(No.0006):銀行支店長から持ち込まれる投資案件には要注意

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
有明製パン株式会社 オーナー 有明 聡子(ありあけ さとこ、61歳)

相談内容:
先生、ごきげんよう。
ところでね、先生ね、今日はちょっと先生のご意見をうかがいたいんです。
芝浦に長年使っていないパン工場跡地があるんですけどね、最近、また不動産市況がいいみたいで、都心に新築マンション作ると結構いい値段で売れるそうなんです。
当社は、バブル期に等価交換やらサブリースやら銀行に散々騙されましたんで、今度は、人に頼らず自分でやろうと思いまして、工場跡地マンション作って売りに出そうと思ってるんですの。
雑誌で読んだんですけど、所帯染みたマンションじゃなくて、デザイナーズマンションっていうんですか、ナウなヤングの情報発信基地みたいな、え?
今そんな言葉使わない?
あ、そ。
ま、ようするにハイカラなマンションなんですのよ。
そういうのつくると、バカ売れするそうですのよ。
それで、先日、この計画をメインバンクの“よこしま銀行”の支店長に話したところ、
「是非、この会社を使ってください。
もう、ナウなヤングにバカ受けのマンション作らせたら、ここ、ほんと、バッチグーです」
なんていって、よこしま銀行さんがメインバンクやってらっしゃる建設業者を紹介してきたんです。
中堅ゼネコンで、”ツキナミ建設”っていうんですが、パッとしないし、なんか公共工事減って経営苦しいって噂聞くし、私としては、正直、二の足踏んでるんですけど、よこしまの支店長は、
「ツキナミさん使っていただければ、建設資金の融資についてはどのような相談にでも乗ります」
なんていってるんです。
先生、どう思います?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:銀行紹介の取引案件の危険性
このケースは、バブル期(といってもかれこれ10年以上前の話ですが)に実際あった事件を参考にしたものです。
バブル経済においては、銀行がいろいろな商品を紹介してくれました。
銀行の支店長室に取引先を呼びつけ、
「完成もしていない(その後も完成しなかった)ゴルフ場でプレーする権利」

「株式市場が冷え込むと大損するような危険な保険商品」
やらを、
「今、買わなきゃバカですよ」
なんて言葉とともに紹介し、買うカネがないと、ご丁寧に融資までしてくれました。
当時、銀行法には、銀行業以外やっちゃいけないというルールがあったのですが(当時の銀行法12条)、
「そういうくだらないルールを守っていたら、健全な金融資本主義は発展しませんよ」
なんて言葉が返ってくる。
バブル時代って、そんな時代だったようです。
「泣く子と地頭には勝てない」
などという諺がありますが、裁判においても
「役所と銀行には勝てない」
という不文律があります。
銀行や役所は、もともと頭がいい上、あらゆる局面で言質を取られない慎重さがあり、加えて、
「役人と銀行員とインディアンは決して嘘をつかない」
という認定則があると思われるぐらい、裁判所では行員の証言は100%信用されます。
設例で参考にした事件は、
「銀行が債務超過の建設業者を契約の相手方として取引先に紹介し、一旦はビル建設を断念した取引先を翻意させてまで契約させ、債務超過という事情を知らない原告に融資金を建設業者の口座に振込ませ、銀行は不良債権を優先的に回収しておきながら、建設業者が破産しても知らんぷりした」
なんてひどいケースでしたが、高裁では銀行が勝訴しています。

モデル助言:
「晴れのときに傘貸して、雨のときに傘を返せというのが銀行」
なんていいますが、資本主義社会において、銀行ほどしたたかな企業はありませんが、有明さんもそういうしたたかなところは多いに見習ってくださいね。
ゴルフ会員権であれ、変額保険であれ、銀行が盛んに勧めることに真に受けると、たいてい待っているのは地獄ですから、警戒は怠らない方がいいでしょう。
ツキナミ建設が万が一つぶれると、マンション建設は頓挫しますが、よこしま銀行としては、そういう場合でも、貸し付けた建設資金はどんなことをしてでも回収してきます。
そこで、こういうのはどうでしょうか。
よこしま銀行さんに対して
「そんなにツキナミ建設を勧めるのであれば、ツキナミ建設が履行すべき施工義務について連帯保証人になってくれ。
それが無理なら、ツキナミ建設が破綻してマンション建設が頓挫した場合、貸金の返済義務を免除するとの念書を差し入れろ」
と言って、踏み絵を差し出すのです。
こういう踏み絵に躊躇するということは、
「ツキナミ建設を勧めるが保証はしない。
ツキナミ建設が破綻しても、建設資金として貸した金は返してもらう」
と言っているのと同じですよね。
そうやって、よこしま銀行の本音をまず確認してから、今回の話を進めるかどうか判断すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00031_「危なくなった取引先からの債権回収法」としての相殺活用テクニック

よく債権回収事故を減らすための知恵として
「あぶない取引先とは付き合うな」
といいますが、この言葉は、半分正しく、半分間違いです。

もちろん、あぶなくなった取引先が再建することを期待して、お金を貸したり、商品を掛けで売ったりするようなことは、回収できなくなる債権額を増やすだけであり、絶対禁物です。

他方、あぶなくなった取引先から逆に商品を掛けで買うなどして、当該取引先の債務額を増加させることは、相殺で回収できる額が増えますので、推奨される行動となります。

すなわち、
「あぶない取引先とは付き合うな」
ではなく、
「あぶない取引先からはどんどん掛けで物を買え」
というのが正しい行動です。

さらに高等のテクニックを紹介しますと、あぶなくなった取引先が債権を持っている先と組んでこちらの債権を譲渡したり、担保枠に余裕がある債権者に債権譲渡を行ない、担保枠を使った回収に相乗りさせていただく、という方法などがあります。

債権譲渡は債務者である当該取引先にいちいち承諾を取ることなく、こちらが一方的に通知を発するだけで手続が完了しますので、取引先を飛び越して譲渡先との話をつければ、あとは問答無用で実行できるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00030_企業法務ケーススタディ(No.0005): 取引先が危なくなった場合の債権回収法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
太平洋商事 社長 太平 洋(おおひら ひろし、56歳)

相談内容:
今日は、ちょっと不景気な相談に乗ってください。
実は、当社が2次卸となって、オフィス用事務機器を仕入れさせていただいています、グローバル物産さんという1次問屋さんがあるのですが、
「グローバル物産はどうやらヤバそうだ」
という情報が入ってきたんです。
いえ、私の友人のコンサルタントが、グローバル物産さんとお付き合いのある大手文具メーカーの社長さんとゴルフに行ったそうなんですが、その際、
「グローバルから支払のリスケを要請されて何度か応じているが、我慢の限界だ。
大規模な手形のパクリ被害に遭い、不渡り回避のためにあの手この手を尽くしているらしいが、そろそろ縁を切ろうと思っている」
ということを漏らしていたとのことなんです。
当社は、当初信用がなかったもので、取引開始にあたって、保証金として1千万円ほど差し入れていました。
取引規模の拡大に伴い、保証金額は3千万円ほどになっております。
さらに、先月、実際はおそらく手形事故の処理のためだと思いますが、グローバル物産社長から倉庫設備の増強のための協力という名目で2千万円の借金を求められ、これに応じてすでに支払いました。
よく、
「あぶない取引先とは付き合うな」
なんていうじゃないですか。
とはいえ、このまま手をこまねいてみておくわけにはいきませんし。
どうしたらいいですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:究極の債権回収法としての相殺
破綻した会社から、無担保の債権を回収することはまず不可能と考えた方がいいでしょう。
債権回収の努力に相手が応じてくればいいですが、
「無い袖が振れない」
ような相手が回収に協力してくれることは期待できません。
そうなると、強行手段を取らざるを得ません。
強行策というのは、
「法律に基づく回収」

「法律によらない回収」
の二者択一となりますが、後者は、要するに窃盗や強盗や恐喝や監禁等の犯罪的手段を行使するわけです。
いかに債権回収のためとはいえ、こんなことをしたら反対にこちらが牢屋に放り込まれます。
「法律に基づく回収」
といっても、やることは保全処分や本案訴訟ぐらいですが、それなりの時間とエネルギーとコストを要しますし、また、手続をやっているうちに取引先債務者が破産や民事再生をしてしまえば、徒労に帰します。
ここで、債権回収におけるテクニックとして知っておいていただきたいのは、
「相殺は唯一かつ最高の債権回収方法」
ということです。
そのためには、
「あぶない取引先とは付き合うな」
ではなく、
「あぶない取引先からはどんどん掛けで物を買って、反対債権を作って、相殺のチャンスを増やせ」
というのが正しい行動となります。

モデル助言:
とにかく、グローバル物産さんの商品在庫を掛けで買いまくってください。
決済は2カ月後くらいにしておきましょうか。
破綻したら、商品在庫に回収に遅れた債権者などがうじゃうじゃ群がったり、グローバルが二重譲渡とかしたりして、債権者同士の綱引き問題(対抗問題)になる可能性があります。
ですので、引渡しも早急に完了しておいてください。
法律上、占有改定というあいまいな方法でも対抗力は認められますが、トラブルを回避する意味でも、トラックを手配して現実に引き取ってしまった方がいいでしょう。
グローバル物産さんとの商品取引基本契約や金銭消費貸借契約を拝見しますと、グローバル物産に信用不安が生じた場合、契約解除や弁済期の前倒しを求められます。
法律上、こちらは、債権者として、グローバル物産の決算書謄本を徴収できますから、商品引取後これを徴収して財政状況・財産状態を分析し、さらにその他の情報も裏付けを取ってグローバル物産が信用不安であるという客観的証拠を揃えてください。
商品在庫を5千万円分超になるまで掛で購入した後、商品取引基本契約を解除するともに、こちらの保証金や貸金の弁済期を到来させ、購入代金とこれらの債権を相殺してしまいましょう。
とにかく、スマートにやることです。
金属バットもって交渉に行ったり、社長を監禁して保証書にサインさせるなんてのは絶対ダメですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00029_モデル仲裁条項

本契約に起因ないし関連して当事者間に生ずるすべての紛争、論争または意見の相違は、仲裁法及び一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京都において同協会の非公開仲裁手続により最終的に解決されるものとする。
仲裁が申し立てられた事実、仲裁手続きの内容、仲裁判断あるいは和解の内容、これらに起因、派生ないし関連する内容、あるいはこれらを推知させる一切の内容は、本契約に定める守秘義務が及ぶものとする。
仲裁人が当事者を審尋することなく仲裁判断をなしたとしても、あるいは、理由の付記を省略した判断を行ったとしても、両当事者はこれを予め異議なく承諾する。
当事者は、前記仲裁人の行った仲裁判断に従い、異議を述べないものとする。また、仲裁人によりなされた判断は最終的なものとして、当事者を拘束するものとする。
当事者は、本仲裁合意に基づく当然の法的効果として、相互に訴訟提起をしないことを約する。したがって、仮に当事者の一方により訴訟が提起されたとしても上記仲裁合意が防訴抗弁となり、当該訴訟が当然に却下されるべきことを相互に異議なく確認する。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00028_紛争プライバシーを守る方法(揉め事を公にしない方法)としての、不起訴の合意と仲裁契約

訴訟沙汰なんてあまり聞こえがいいものではありませんし、ましてや衆人監視の下で法的トラブルをあれやこれや議論するなんて事態は誰しも避けたいと思われます。

しかし、憲法では国民に裁判を受ける権利を保障しており、かつ、裁判は原則として公開で行なわれることになっています。

従って、紛争の相手方に
「こちらのプライバシーも考えて、訴訟を起こすな」
ということをいう権利はありませんし、特段の事情がない限り、裁判所に対して
「頼むからこの裁判については密室でやってくれ」
などと注文することはできません。

しかし、このような
「こちらのプライバシーも考えて、訴訟を起こすな」
「頼むからこの裁判については密室でやってくれ」
という紛争プライバシーを実現する方法(揉め事を公にしない方法)があります。

さすがに刑事訴訟を密室で行なうことは困難ですが、民事裁判については、相手と事前に合意して、
「訴訟を起こさない」
という約束(不起訴合意などといいます)により、訴権を放棄させることが可能です。

民事裁判なんて、そこらへんの私人同士のカネや権利のトラブルですから、当事者の意に反してまで公開しておおっぴらにする必要性がないからです。

さらに、仲裁合意という方法もあります。

法的な紛争解決は、常にかつ当然に裁判所で行なわなければならないというものではありません。

当事者が合意の上で、
「裁判官でない、特定の人の判断に委ね、その判断に文句を言わない」
と合意すれば、仲裁法という法律に基づき、私人が裁判官役として、非公開のテーブルで、紛争を法的かつ終局的に解決することができるのです。

仲裁というと国際取引にまつわる紛争解決の際に使われるものですが、国内の一般的な民事紛争も利用できる方法です。

無論、相手が事前に仲裁することに同意してくれないと取りえない方法ですが、
「事件プライバシー」
を保ちつつ、紛争を表沙汰にすることなく、極秘的に解決するには最適な手続きです。

訴訟では3審制が取られ、当初の判決に不服があれば高裁、最高裁へとさらに2回の裁判を起こせますが、仲裁は1回勝負で、不服があっても上訴に持ち込むことができません。

その意味では、訴訟に比して、迅速な解決が期待できます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00027_企業法務ケーススタディ(No.0004):揉め事を公にすることなく、こっそり、スピーディーに解決するための紛争解決手法としての仲裁

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
医療法人社団大藪会 理事長 大藪 毒太(おおやぶ どくた、40歳)

相談内容:
先生、どうもどうも。
この間の理事会ではオブザーバ参加いただき、いろいろご指導賜り、ありがとうございました。
どうもウチの理事の医者連中って、どいつもこいつも世間知らずで商売センスゼロなもんで、先生に喝を入れていただかないとダメなんですよ。
ところで、理事会後に行ったフレンチ、気に入っていただけました。
東麻布にいいイタリアンみつけましたから、次回理事会後は、また、そこ行きましょうね。
あ、そうそう。
今日の相談なんですけどね。
実は、最近、ウチの病院でちょっとした医療過誤がおきましてね。
いやいや、たいしたことないですよ。
水虫の患者にまちがえてプロペチア処方したら足の指に毛が生えてきた、ってそんなバカバカしい話なんですけどね。
でも、
「訴訟を提起して、公開法廷で、病院の医療管理態勢のいい加減さを洗いざらいぶちまけてやる!」
なんていうんですよ。
さすがにこれには参りましてね。
そりゃ、当病院も努力はしてますけど、どうしても漏れはある。
その度に、公開法廷で恥をさらしていたら、こちらも信用商売ですから、商売あがったりですよ。
ウチにもプライバシーってもんがあるわけですから、こういうの、なんとかできませんかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:密室裁判でこっそり事件処理できる不起訴の合意・仲裁契約の利点
訴訟沙汰なんてあまり聞こえがいいものではありませんし、ましてや衆人監視の下で法的トラブルをあれやこれや議論するなんて事態は誰しも避けたいと思われます。
しかし、憲法では国民に裁判を受ける権利を保障しており、かつ、裁判は原則として公開で行なわれることになっています。
従って、紛争の相手方に
「こちらのプライバシーも考えて、訴訟を起こすな」
という権利はありませんし、特段の事情がない限り、裁判所に対して
「頼むからこの裁判については密室でやってくれ」
などと注文することはできません。
この問題を解決するためには、不起訴の合意(民事裁判について、相手と事前に合意して、「訴訟を起こさない」という約束をして、訴権を放棄させる)、さらには仲裁法に基づく紛争解決手法としての仲裁契約( 当事者が合意の上で、「裁判官でない、特定の人の判断に委ね、その判断に文句をいわない」との契約を行うこと)を活用することが考えられます。

モデル助言:
患者の方から医療過誤で訴えられるとすれば、治療契約における不履行という問題ですね。
ということは、治療前に患者の方と治療契約という契約をするわけですよね。
患者の方から、治療を受ける前に提出いただく書面とかがありますよね。
その書面に、
「紛争が起きた場合には、訴訟を提起せず、仲裁で解決します」
という旨誓約いただくような文言を入れておき、併せて看護士やスタッフの方にきちんと説明していただくような仕組みを考えられたらいいでしょう。
厳密にいうと、
「不起訴の合意をする」
とか、
「訴訟提起しても妨訴抗弁として却下されるべきことに異議を唱えない」
とかいう形で緻密に記載したり、加えて、相手方に守秘義務を課したりすることもできますが、一般人から徴収するこの種の合意文書はギチギチ書くと、かえって合意の有効性が疑われます。
ですので、フェアな内容をサラっと書いて、質問があればきちんと説明する、というソフトな運用姿勢が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00026_国際契約交渉における「契約自由の原則」の派生原理:準拠法選択の自由、裁判管轄選択の自由及び契約言語選択の自由

取引や契約を規律する私法の根本原理である
「契約自由の原則」
は、欧米の私法原理としても採用されており、宗教的あるいは国家の特殊な政策が濃厚な非欧米国の企業等との交渉でない限り、万国共通のものと考えて差し支えありません。

そして、
「契約自由の原則」
というルールは、
「契約条件のありとあらゆる内容を、当事者間が合意する限り自由に決めていい」
という内容を意味し、したがって、国際契約においては、
「準拠法選択の自由」
「裁判管轄選択の自由(紛争解決方法として、裁判ではなく、仲裁を選択する場合には、仲裁地選択の自由)」
「契約言語選択の自由」
というものも、派生原理として当然も含まれます。

すなわち、契約書をどのような言語で記載するかも契約当事者同士の力関係で決まるのであり、
「国際契約だから英語でしなければならない」
というルールがあるわけではありません。

極端な言い方をすれば、アメリカの会社とフランスの会社とドイツの会社が、日本法を準拠法とし、リオデジャネイロを仲裁地とし、アラビア語で契約締結をしたってかまわないわけです。

相手が外国の会社であっても、ア・プリオリに
「国際契約なんだから、絶対英語で契約しなければならない」
などと考えず、もし、こちらが特許技術等相手の欲しいものを有していて、破談して困るのはこちらではなく外国会社の側、という状況の場合、
「ライセンスほしけりゃ日本語での契約に応じろ。いやなら、ゴー・ホームだ」
という形で強気に進めたってまったくかまわないわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00025_日本語を正文と、英語を訳文(参考訳文)とする場合の契約条項モデル

本契約は、日本語を正文とする。
本契約につき、参考のために英語による翻訳文が作成された場合でも、日本語の正文のみが契約としての効力を有するものとし、英語訳文にはいかなる効力も有しないものとする。

The solo and only governing language of this Agreement shall be Japanese.
If an English translation hereof is made for reference purpose, only the Japanese version shall be regarded as original and have the effect of a contract and such English translation shall have no legal effect.

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00024_ライセンサー(技術ないし権利保有者)として、強気に契約交渉を展開するためのリテラシーと手法

ライセンス契約を行う上では、契約内容として、独占/非独占の別・ロイヤリティ算定方法・ミニマムギャランティ・契約期間・機密保持・テリトリー・源泉徴収税額の取扱・為替・解除条項・準拠法・仲裁条項等々、詳細な取引内容を取決める必要があります。

これらの取引の条件、内容ともにすべて交渉の際の綱引きで決まりますし、何も定めなかった場合(あるいは雑にしか定めなかった場合)は、ライセンスを受ける側(ライセンシー)は
「書いていないことはやっていいこと」
という解釈を前提に、たとえこちらに不利となったり、迷惑になるようなことであっても好き勝手なことをし始めます。

これが、取引や契約を規律する私法の根本原理である
「契約自由の原則」
の帰結です。

したがって、
「やられたら困ることは、すべて、事細かく、事前に、文書で書いておくべき」
であり、この手間や労力を惜しんで、雑に
「想定なことは信頼関係で」
といった取り決めしかしておかない場合のリスクは、全て、ライセンサーの不利な状況となって襲いかかります。

そして、これは、強い立場をもち、いくらでも細かく契約を取り決めることができるにもかかわらず、面倒くさがり、きっちり定めることを怠ったことによる当然の報いであり、自業自得、自己責任、因果応報の帰結として、法律上、救済の余地は一切認められません。

ライセンスする側(ライセンサー)としてライセンス契約を行う場合においては、
「基本的なことを定めて、後は信頼関係」
などという甘い考えは絶対禁物です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00023_「破談したら相手は困るが、こちらは困らない」という強い立場を有する場合の契約交渉戦術

まず、国内契約であれ、国際契約であれ、契約交渉においては、契約締結までは、お互い自己の主張を何の制限もなく自由にぶつけ合うことができます。

したがって、相手が誰であろうが、不本意な内容であれば、誰に遠慮することもなく、交渉を打ち切ってもペナルティーはありません。

例えば、交渉において、こちらが相手の欲するものを独占していて、
「破談したら相手は困るが、こちらは全く困らない」
という状況の場合、交渉上の立場は明らかにこちらが圧倒的に優位です。

国際交渉においても、こちらが技術を有していて、相手がライセンスを欲するという場合などでは、交渉を進める条件として、すべての交渉を日本語によるものとし、相手側に日本語の話せる交渉担当者を要求してもよいわけです。

契約交渉においては、たとえ相手は外国の会社でも、遠慮は一切禁物です。

遠慮したら、その分、相手は土足で踏み込んで半身を入れてきて、あとはぐいぐい体全体を押し込んできます。

交渉上の立場をよく理解認識するとともに、もし、強いバーゲニングパワーを有している状況の場合、これを最大限駆使して、相手のペースに巻き込まれずに、終始主導権を握り、こちらとしてストレスなく自己の要求を伝えられる環境をまず作りましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所