00067_企業法務を志すには

当たり前のことですが、企業法務は、企業のことを知らないとできません。

そして、法学部でも、司法試験予備試験でも、ロースクールでも、司法試験でも、司法研修所でも、企業の実体については、ほとんど試験で聞かれませんし、教えられません。

というより、上記の試験を作成したり採点したりしている人も、上記の教育機関で教えている人も、企業の実体について知っている人はほとんどいません(企業に就職して、企業法務部にいたようなキャリアを持って入れば、別ですが、こういう人は、超少数派です)。

もちろん
「会社法」
は勉強しますが、会社法を勉強しただけでは、企業の実体、企業活動のダイナミズムはわからないと思います。

いや、言葉で理解できるでしょうが、実感として今ひとつ理解できないと思います。

会社法では、
「取締役は、法令と定款に基づいて、善良なる管理者として、会社を経営する専門家」
などと述べていますが、実体とは大きく異なります。

取締役と呼ばれる方の最も重要なミッションないし対処課題は、会社法の教科書に会社の存在目的として書かれている
「営利の追求」
であり、企業会計などでその目的とされるゴーイング・コンサーンを実現することです。

どれだけ法令や定款を守れる能力があったとしても、金儲けが全くできなければ、会社は存在する意味がなく、組織としての永続性も保てなくなります。

したがって、
「法令定款を守れる能力があっても、金儲けがまったくできない」
タイプの人間は、会社にとってはあまり必要ではありませんし、
「不祥事を起こして再建中の会社のトップを選ぶといった、イレギュラーあるいはアブノーマルな状況」
でも出来しない限り、基本的に、経営トップにふさわしくない、とされます。

上場企業の経営トップが、カトリックのミッションスクールで宗教道徳を教えている教員が選任されたとして、当該企業の株価はどうなるでしょうか。

「法令と企業倫理を遵守する立派な企業である」
という高評価を得て株価が上昇するでしょうか。

それとも、
「この会社は、まともに経営に取り組む気があるのか。なめてんのか」
という評価によって株価が暴落するでしょうか。

こういう思考実験をすれば、
「 法令定款を守れる能力があっても、金儲けがまったくできないタイプの人間は、会社にとってはあまり必要ではない」
という不愉快な事実も、残念ながら認めざるを得ないところであろう、と思われます。

こういう企業の現実の営みを理解せず(あるいは理解できず)、会社法の学習成果だけで、企業法務の実務に携わろうとしてもなかなか困難となるでしょう。

また、上場企業の法務を志すには、株式市場のことを知らないと困難であろうと思います。

株式市場のことを知るには、株取引をしてみるのが最も手っ取り早いです。

無論、のめり込まない程度に、勉強する加減で、ですが。

株取引をしてみると(といっても、「デタラメな、出たとこ勝負のバクチのような取引」ではなく、きちんとゲームのルールやゲームの環境を勉強して、個別動向のほか、市場動向などを含めた情報収集を綿密かつ頻繁に行い、逆指値などのリスク管理を行う、知的営みとしての投資をする、という意味での株取引です)、IPOの仕組みやインサイダー規制、適時開示や、四半期報告といった、金商法や取引所の定める有価証券上場規程といった上場企業が遵守すべきルールの意味や運用実体がリアルにわかると思います。

また、P/L、B/S、各段階利益の意味、下方・上方の各修正の意味とインパクト、PER、PBR、ROEといった各指標の意味も理解でき、上場企業の経営者と同じ視点に立った企業経営や市場動向やマクロ経済環境に対する観察力・洞察力も養えます。

逆に、株取引をしたことがない方にとっては、株式市場のことがわからないでしょうし、株式市場のことをわからないと、上場企業の法務をしても、具体的・現実的なイメージで実務を進めることはほぼ不可能と思います。

というより、上場企業経営者ないし経営陣と、感受性を共有することができません。

経営者と会話して、言葉は何とか理解できても、話は理解できないし、心はもっと理解できないし、そういう状況で、
「経営者にとって真の味方」
としての参謀とはなりえないでしょう。

さらにいえば、そもそも、サービス提供者として、顧客のウォンツ(本質的欲求)がわからないわけですから、ニーズ(充足手段)やデマンド(具体的要求)も定義できませんし、提供するサービスも、どこか上滑りしたというか、ピントがぼけたものになりかねません。

企業の事業活動(商売による金儲け)や、株式市場での投資活動(投資による金儲け)は、やったことのない人間にとっては、想像を超えたダイナミズムをもっています。

「企業の事業活動や株式市場における投資活動にまったく知識も経験もなく、ただ、会社法を教科書で学んだだけ」
というだけでは、
「企業法務」
という特殊な法領域・実務分野において自分なりに価値提供するには、あまりに不十分です。

とはいえ、
「弁護士資格を取った上に、さらに、商売と株をやってからでないと、企業法務を志すことはできない」
などという非現実的なことをいうつもりはありません。

意識の面で、
「会社法を勉強しただけでは、企業法務を取り扱うには、まったく不十分(上場企業の法務を扱うには、会社法だけではまったく不十分で、金商法と有価証券上場規則と企業会計の勉強も必要です)」
「法律を少しかじっただけの自分など、企業活動のダイナミズムの理解度という点において、この種のことに縁がない公務員や教員や主婦の方とあまり変わらない」
という謙虚な気持ちを持ち、絶えず、興味と好奇心をもって、貪欲に、企業のことや、株式市場のことを勉強する姿勢を持ち、勉強と研究を続けることが大事であろうと思います。

弁護士になって20年を超え、企業法務に関する本や記事や論考等をそこそこ執筆しておりますが、著者も、まだまだ
「企業活動のダイナミズムの理解度という点において、この種のことに縁がない公務員や教員や主婦の方とあまり変わらない 」
レベルであり、非才未熟である、という自戒を持っています。

ただ、企業のことや株式市場のことを深く知りたい、勉強したい、という興味と好奇心と知的貪欲さは誰にも負けないよう、日々努力しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00066_意外と知られていない私製手形の活用法

一般的に手形というと、銀行に当座預金口座を作って、統一手形用紙が綴られた手形帳もらわないと発行できないと思われてる方も多いと思います。

しかし、手形法上
「手形は、金融機関の作った統一手形用紙を使って作成すべき」
などと書いてあるわけではなく、藁半紙に書こうが、紙ナプキンに書こうが、手形法に定める要件が記載している限り、手形としての効力が生じます。

すなわち、
「何時何時までに金いくらを払います」
という約束を記した手形を交付したら最後、どういう理由で作成したかを問わず、約束どおり、期限までに耳をそろえて支払いをなすべき義務が生じます。

手形の約束を反故したら、通常の民事訴訟のように和解手続きを含めチンタラ1年かけて裁判するのではなく、1回の期日で強制執行できる状態に持っていけます。

とはいえ、私製手形は手形交換所で取り扱われませんので、金融機関に持ち込んでも相手にされません。

そもそも
「手形の不渡り」
という事態が生じ得ませんので、何回不払いにしても銀行取引が停止になることはありません。

以上のとおり、
「2つ目つぶして、銀取停止に追い込んで、倒産させる(手形を2回不渡りにさせ、銀行取引停止処分、さらには破産に追い込む)」
という効果こそないものの、私製手形は、公正証書に匹敵する債権回収手段になり得ます。

公正証書(金銭の支払いに関するもの)は確定判決と同一の効果を有しますし、その意味で裁判外で作成するものとしては、最強の法的書面ですが、相手が公正証書に任意に応じることが前提となります。

すなわち、いかに公正証書作成の段取りを万全にしても、相手方がすっぽかしたり作成を拒否したりすると、公正証書の作成は不可能です。

不正行為を自認し、責任を負担することを表明している人間に対して、損害賠償義務を認めさせるケースなどでは、この私製手形を活用することが考えられます。

すなわち、不正を追求した段階でしおらしくしていても、公正証書作成を嫌がり、公証役場で
「あっかんべー」
されると、どんなに段取りを充実させても、公正証書は永久に完成しません。

しかし、不正を自白し、賠償義務を異議なく認めた場合に、こちらが用意した手形にすかさず署名させてしまえばいいのです。

仮に難癖つけて支払を拒否するようなら、手形訴訟に持ち込んでしまえば難癖をすべて遮断して判決を得ることが可能となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00065_企業法務ケーススタディ(No.0022):公正証書作成が困難な場合に、確実な債務負担をさせるための手法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社岡村書店 店長 岡村 孝(おかむら たかし、38歳)

相談内容:
ご無沙汰しております。
岡村書店、岡村孝です。
いやー、また谷部にやられました。
当社が展開するグラビアアイドル写真集専門店
「めちゃめちゃ問題!」
の秋葉原5号店がこの間ようやくオープンさせていただいたんですわ。
この店は、びっくりカメラ秋葉原店の7階ワンフロアを使って展開するということで、当社古参の店舗開発部長の谷部に仕切らせたんです。
谷部は10年前に歌舞伎町風林会館前店の店長だった頃に、店の商品をヤクザに横流ししていた前歴のある奴なんですわ。
当時は、
「ヤクザに脅されまして、すんません」
とか泣いて謝ってましたが、後から調べたらパクッた金の一部をホステスに貢いどったり、結構小狡い奴なんですわ。
とはいえ、仕事はようできるし、その後は改心して頑張ってましたから、店舗開発のトップに立たせてやったら、また、これですわ。
調査したところによると、店舗設計とかいう名目で知人の会社に架空発注したり、写真集を横流ししたり、やりたい放題やっとったみたいで、損害は2千万円ほどです。
警察に突き出そうかと思ってますが、その前に損賠の話をきっちり詰めなあきません。
谷部自身はあまりカネを持っていませんが、親父は公務員で、それなりに収入はあるようですので、親父にも謝罪に来させます。
ただ、谷部は妙に知恵があって、10年前のときにも公正証書を作成しようとしたら、公証役場に行くことは頑として嫌がったくらいで、抵抗は予想されます。
とはいえ株式公開も控えているので裁判してまで身内の恥をさらしたくありません。
鐵丸先生、なんかいい方法ありませんか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:
一般的に手形というと、銀行に当座預金口座を作って、統一手形用紙が綴られた手形帳もらわないと発行できないと思われてる方も多いと思います。
しかし、手形法上
「手形は、金融機関の作った統一手形用紙を使って作成すべき」
などと書いてあるわけではなく、藁半紙に書こうが、紙ナプキンに書こうが、手形法に定める要件が記載している限り、手形としての効力が生じます。
すなわち、
「何時何時までに金いくらを払います」
という約束を記した手形を交付したら最後、どういう理由で作成したかを問わず、約束どおり、期限までに耳をそろえて支払いをなすべき義務が生じます。
手形の約束を反故したら、通常の民事訴訟のように和解手続きを含めチンタラ1年かけて裁判するのではなく、1回の期日で強制執行できる状態に持っていけます 。
公正証書(金銭の支払いに関するもの)は確定判決と同一の効果を有しますし、その意味で裁判外で作成するものとしては、最強の法的書面ですが、相手が公正証書に任意に応じることが前提となります。
すなわち、いかに公正証書作成の段取りを万全にしても、相手方がすっぽかしたり作成を拒否したりすると、公正証書の作成は不可能です。
本ケースの谷部のように、不正を追求した段階でしおらしくしていても、公正証書作成を嫌がり、公証役場で
「あっかんべー」
されると、どんなに段取りを充実させても、公正証書は永久に完成しません。
こういう場合に私製手形の活用が可能となります。
すなわち、不正を自白し、賠償義務を異議なく認めた場合に、こちらが用意した手形にすかさず署名させてしまえばいいのです。仮に難癖つけて支払を拒否するようなら、手形訴訟に持ち込んでしまえば難癖をすべて遮断して判決を得ることが可能となります。

モデル助言:
谷部はかなり知恵が回る人間ということですから、どんなに深々と謝罪しても、公正証書の作成には応じないでしょう。
谷部が御社の秘密を深く知る立場にあったということも考えると、裁判でどんな議論を展開しだすか読めません。
応訴に借口して、御社のとんでもない秘密を暴露する危険もあるので、御社が株式公開を控えていることも前提とすると、最初から裁判前提で追い込むことを考えるのも厳しいですね。
今回は、谷部と谷部の父を呼び付け、しおらしく謝罪し賠償を認めた状況において、詫び状と一緒に、私製手形に署名させましょう。
谷部を振出人とし、谷部父に裏書きさせた形にしておけば、手形法上、裏書人である父は自動的に谷部の連帯保証人となります。
谷部親子が支払いを拒むようであれば、谷部本人を無視して谷部父のみターゲットにして手形訴訟を提起しましょう。
谷部父は、御社の機密や内情を知る立場にありませんので、通常訴訟に移行してつまらぬ弁解を始めたところで、御社の内情が議論の対象になることはありませんから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00064_企業法務ケーススタディ(No.0021):財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)の導入

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ヒコマロン 原 義彦(はら よしひこ、41歳)

相談内容:
鐵丸先生、どーもー。
お蔭さまで、我が社洋菓子が好調で、株式公開準備も佳境に入って参りました。
とはいえ、先日、監査法人から
「内部統制しっかりしないと公開できないぞ」
と厳しくいわれたんです。
J-SOXとかいろいろおっしゃっていたのですが、会計士の先生も知ったかぶりしているような感じでした。
よく分からないので適当に聞き流していたら、最後に、
「最近、飲食業に対する取引所の目は厳しいから真剣に取り組んでください」
といわれ、コンサルティング会社やらシステム会社とかをご紹介いただきました。
ご紹介いただいたコンサルティング会社からは
「お前の会社は、経理もいい加減で、文書管理もなっていない。
年間500万円のコンサルティング契約をしろ。
しないと公開できないぞ」
って脅され、システム会社からは
「御社のIT環境は貧弱すぎます。
当社の、J-SOX法対応の一式3000万円のシステムをお買い上げいただいたら、もう安心。
これで、御社も、IT革命や!」
などといわれました。
だいぶ前になりましたが、個人情報保護法施行騒動のときには先生に
「とりあえず、ウィルス対策ソフトとシュレッダー買って、従業員と出入業者から誓約書取っておけば十分。
そのうち、こんなアホな騒動、すぐ鎮静化する」
とアドバイスいただき、無駄な費用を使わずに済みました。
今回の内部統制についてはどのように対応したらいいのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:
2000年代に入り、米国のエンロン事件やワールドコム事件、日本の西武鉄道事件、カネボウ事件やライブドア事件など、公開企業の粉飾や有価証券報告書虚偽記載事件が多発しました。
また、粉飾以外にも、食品産業における賞味期限切れの食材利用等企業の存続に影響を及ぼしかねない不祥事も増えています。
そこで、
「会社内部の統制を強化させればこういう不祥事は減るはずだから、法律を作って強制的に内部の統制しっかりさせよう」
ということになりました。
アメリカでは、SOX法(サーベインズ・オクスレー法)により、公開企業に内部統制構築義務が課されました。
日本でも、新会社法で内部統制構築義務が定められたほか、金融商品取引法により公開企業に対して財務内容の信頼性確保にフォーカスした内部統制構築義務が定められるなど、アメリカに後追いする形で内部統制構築義務化が進められてきました。
会社法対応の内部統制については具体的なペナルティーはありませんが、金融商品取引法の内部統制については下手な対応をすると監査法人が意見を出さなかったりして上場廃止に追い込まれかねません。
そんなわけで、上場企業の間では
「内部統制への対応」
が喫緊の経営課題として取り沙汰されるに至ってます。
企業が内部統制を強化すること自体結構なことですが、J-SOX 法が登場した当時、内部統制が本質や実体とかけ離れて、誤った理解が広がりを見せ、
「内部統制バブル」
ともいうべき現象が発生したことがあります。
設例のとおり、個人情報保護法施行当時も
「個人情報保護法バブル」
ともいうべき状況が生じましたが、騒動に踊らされ、ゴミのような図書を多数買わされたり、無駄なコンサルティングを受けた企業もあったと思います。
内部統制についても、理解できていない監査法人の言うなりに踊らされたり、業者の口車に乗せられたりすると、無駄な費用を費やすことになります。
ちなみに、コンサルティング会社は財務や法務の専門家ではなく、法令対処課題に適切に対応できる公的保証があるわけではありませんし、内部統制構築を支援するための法令上の知見や解釈レベルの能力においてすら同様です。
J-SOX 法施行当初、
「IT ガバナンス」
という言葉が独り歩きして、ずいぶん盛り上がりましたが、同法において求められているのは
「IT 環境に適切に対応すること」
であって、
「高価なIT システムを構築すること」
が求められているわけではありません。
また、システム屋さんが企業会計審議会内部統制部会の最新の議論をフォローしているとは思えず、
「このシステムを買いさえすれば、J-SOX法完全対応」
等とうたうのは、宣伝文句ということを割り引いても、非常に問題があるといえます。

モデル助言:
会社法や金融商品取引法が、御社に対して具体的にどのような内部統制の構築を求めているかを把握しておくべきです。
今度、企業会計審議会内部統制部会が公表している基準等を役員の皆さんに詳しくレクチャーしますよ。
御社の場合、監査法人の担当会計士が不勉強で適当な話をしている可能性がありますね。
御社の問題点を具体的に指摘することなく、
「とりあえず、コンサル契約をしてシステム購入しとけ」
なんて助言はひどすぎます。
監査法人に対しては、
「当社のゴールは、御社から頂戴すべき統制監査報告書において無限定適正意見を頂戴することです。
その上で、現状の当社の内部統制について具体的にどのような問題があるか、企業会計審議会内部統制部会の基準に即してご指摘いただきたい」
という質問を投げかけ、具体的な回答をもらうべきです。
その上で、当該問題に対して、コンサルティングやシステム購入が有効と判断されればそういうものを買えばいいだけです。
いずれにせよ、今度、監査法人の担当会計士とのミーティングもセットしてください。
そこで、きっちりと議論して、必要十分な統制構築の範囲を決めてから実施しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00063_敵対的買収防衛策の有効性

「敵対的買収防衛策」
と呼ばれるものですが、このスキームを売り込む側は、スキームの完全性・有効性を盛んに喧伝する傾向にあるようですが、売り込む側が言うほど完全で有効なものではない場合もあります。

かつて、ライブドアがニッポン放送を乗っ取ろうとしたとき、
「M&Aに詳しい」
はずのニッポン放送側の弁護士が、
「敵対的買収防衛策」
と称してフジテレビに対して露骨なまでに大量の新株予約権を発行したことがありました。

無論、この新株予約権発行ですが、
・導入提案した弁護士が絶対的に自信があったのか、
それとも、
・不完全性・欠陥性は十分承知していたが、他に方法がなく、窮余の策として採用せざるを得ない状況に陥ったが、交渉政策上「法的に問題はあるが、他に方法がないので、相手から突っ込まれないことを期待して、ダメ元でやってみました」とも言えないので、ハッタリ・カマシとして、厚顔無恥の誹りは覚悟で自信満々ぶりを演じた、
ということなのか、はっきりしないところがあります。

いずれにせよ、裁判ではライブドアに惨敗し、当該新株予約権発行は違法と判断されました。

裁判所で違法とされるような代物を
「敵対的買収防衛策」
などと言い切る大胆さも相当なものですが(小心者で度胸がない私には到底できません)、ここでリテラシーとして抑えておくべき重要な企業法務上の知見は、
「M&Aの専門家と称する弁護士等が提案する敵対的買収防衛策なるもののすべてが適法有効なものではなく、後に裁判所で違法とされるような代物がある」
という厳然たる事実です。

証券取引所や経済産業省あたりも買収防衛策の指針と名のつくものを発表していますが、この手の指針も、立法機関の制定した正式な法律ではなく、立法権限のない組織が得手勝手に作ってみた
「つぶやき」
程度の意味しかなく、裁判所になっても絶対完璧に有効性を認めてくれる完全無欠なルールであるとは認められません。

すなわち、日本では、法律の最終解釈権は裁判所が握っており、裁判所の下した判決やそこから合理的に推察されるルールが全てに優先します。

在野の弁護士や、決められたルールを執行する機関に過ぎない役所や組織が、何を言おうが勝手ですし、そういう人たちの言ったことを企業が信じるのも勝手ですが、法律の文理や判例理論に反するような行為はすべて違法と判断されることになります。

事前警告型の買収防衛策というのは、株を大量に買いたい者を、買い占められた側の企業が
「俺たちの質問に誠実に答えろ。答えないと、お前たちを乗っ取り屋と認定する」
と脅しつけ、独自の判断で
「乗っ取り屋」
と認定した後は、
「乗っ取り屋」
と認定した株主とそうでない株主を露骨に差別する、というようなものです。

要するに、特定の外国人を差別するのと同じ発想に基づくものであり、健全な法律家が冷静に判断すれば、株主平等原則に真っ向から反するとしか思えないような代物です。

だからといって、
「無駄で無意味だから、最初からそんなもの導入するのはやめとけ」
などという書生論を言うつもりはありません。

法的有効性はないとしても
「無断駐車は罰金50万円」
「入れ墨をした外国人は銭湯に来るな」
と書いておくと、萎縮効果で事実上無断駐車やタトゥーを入れた外国人の入湯者が少なくなるということもあります。

これと同様の効果を狙い、裁判で無効と判断されることは百も承知の上、この種の下品なお触れを出しておくことにもそれなりの意義があると思います 。

要するに、効果のほどをわきまえて導入し、ガチンコで争われた場合の脆弱性をリスクとして認識し、その場合の対処法も考えておいた上で、導入するならアリ、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00062_企業法務ケーススタディ(No.0020):敵対的買収防衛を導入する場合の考慮事項

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社幸福ラーメン 社長 小島 卓造(こじま たくぞう、59歳)

相談内容:
鐵丸先生、今日はいつも帯同させる専務を連れずに参りました。
ウチの専務はメーンバンクから来たのですが、当社上場後も役員として居着いてしまったんです。
東大出ということもあり、総務・法務や経営企画等の小難しい管理系業務は、事実上彼がすべて仕切っています。
先日の役員会で、専務が、いきなり
「わが社は敵対的買収の危機にさらされている」
と切り出し延々と話し出しました。
どれも新聞に書かれている程度の情報でしたが、最後に、
「我が社は買収防衛策を導入すべきである。
出身元の銀行傘下のコンサルティング会社にコーディネイトをお願いし、著名法律事務所に依頼し、事前警告型の買収防衛策を導入したい。
上限予算1億円で、私に全権をゆだねていただきたい」
という話になったんです。
古参の役員はどいつもこいつも小難しい話はからきしダメで、賛成しそうになりました。
ですが、私はコンサルティング会社なんてこれっぽちも信用していないし、第一、額もべらぼうに高い。
「とりあえず顧問の鐵丸弁護士にも話を聞いてからにしたい」
といって継続審議としました。
専務は、同じ東大出の鐵丸先生に妙な対抗意識があるようです。
さて、今日は、専務抜きで忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:敵対的買収防衛策の本質とメカニズム
今ではすっかり下火になりましたが、村上ファンドや、スティールパートナーズといった敵対的買収を本気でやるだけの資金力(というか調達力)と度胸があるファンドが活躍していた時代、どの上場企業も真剣に検討し、実際、少なくない企業が導入しました。
無論、今では、ただでさえ株価が低迷している、IRもほったらかしの、地味で目立たない
「やる気のない、なんちゃって上場企業」
の株価がさらに無視され、株価がさらに低迷しかねませんので、最近では、この種の敵対的買収防衛策はすっかり下火になりましたが。
ところで、”敵対的買収防衛策バブル”当時、敵対的買収というのは、
「キャッシュをため込んだ脇の甘い上場企業が、カネを山のように預かった、おそろしくアタマの切れる連中により、(どこまで本気かわからない)経営改善のための支配移転を標榜して行われる」
というのが常道でした。
ところで、このような投資目的のファンドによる敵対的買収防衛だけでなく、まともな事業会社がまともな事業シナジー創造を目的として、仁義を切らず、ある日突然買い占めをはじめる例も出てきました。
このような
「まともな事業会社がまともな事業シナジー創造を目的とした敵対的買収」
となると、いかがわしさもなく、目的において経済的正当性をもつことから、排除する論理も見出し難く、世間や裁判所の支持も得やすく、成功確率が格段に上がるため、敵対的買収がリアルな恐怖となって上場企業の不安の種となることもあるかと思われます。
こういう不安を解消するためのツールとして、コンサルタントや
「M&Aの専門家」
と称する一部の弁護士が
「買収防衛策」
と称するものを企業に対して活発に売り込むケースもあるようです。

モデル助言:
事前警告型の買収防衛策というのは、株を大量に買いたい者を、買い占められた側の企業が
「俺たちの質問に誠実に答えろ。答えないと、お前たちを乗っ取り屋と認定する」
と脅しつけ、独自の主観的判断で
「乗っ取り屋」
と認定した後は、
「乗っ取り屋」
と認定した株主とそうでない株主を露骨に差別する、というようなものです。
要するに、特定の外国人を差別するのと同じ発想に基づくものであり、健全な法律家が冷静に判断すれば、株主平等原則に真っ向から反するとしか思えないような代物です。
とはいえ、法的有効性はないとしても
「無断駐車は罰金50万円」
「入れ墨した外国人は銭湯に来るな」
と書いておくと、萎縮効果で事実上無断駐車やタトゥーをした外国人の入湯者が少なくなるということもあります。
これと同様の効果を狙い、裁判で無効と判断されることは百も承知の上、この種の下品なお触れを出しておくことにもそれなりの意義があると思います。
その程度のものに1億円出すかどうかは御社の判断です。
もちろんウチでもそんなアホみたいなコストを頂戴せずできますが、別に仕事に困っていないのでやりたくもありません。
敵対的買収を防ぎたいのであれば、そういう小手先のことに走らず、きっちりとIRをし、余分なキャッシュをため込まず適正な投資をしたり自社株買いをしたりして株価を高め、健全な安定株主を増やすことで乗っ取り屋の意欲を削ぐことですね。
さらにいえば、乗っ取られるのがイヤなら上場なんかやめてしまえばいいんですよ。
「誰でも株を買ってください」
といって上場しておいて、
「特定の方には非売品です」
だなんて、どう考えてもおかしいですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00061_借りた店舗に抵当権が付いているケースで、オーナーが返済事故を起こした場合のリスク

物件を賃貸するときに当該物件の登記簿謄本ってチェックされる方は少ないと思います。

しかし、賃貸物件に多額の設備投資をするのであれば、必ずチェックしておくべきです。

もちろん、宅建業免許を有する仲介業者が仲介する場合は、重要事項として賃貸物件の権利内容等を説明してくれることになっています。

とはいえ、彼らは
「賃貸物件が担保に入っている」
事実を事務的に伝えてくれるだけで、その意味内容やリスクまできちんと教えてくれるわけではありません。

「所有物件を担保に入れたまま、第三者に貸すのは自由」
ということは意外と知られていない事実です。

抵当権その他の担保物権(質権は除く)は、
「不払になったときに売り飛ばすことができる権利」
にすぎないので、不払にならない限りにおいて、所有者が、抵当権がくっついたままの物件を使ったり、貸したりすることには何の制約も存在しません。

ビルオーナーが期限内にローンを返済すれば抵当権が抹消されますし、本ケースのように返済ができずに抵当権が実行されれば、後は、抵当権と賃借権の優劣の問題になります。

そして、抵当権が賃貸借契約より前に設定された場合、抵当権の効力が優先し、テナントは退去を余儀なくされます。

これを称して、抵当権を賃貸借を破る、と言います。

無論、賃料月5万円、敷金1カ月のワンルームマンションを借りるようなケースにおいて、賃貸物件の担保設定状況を調べてごちゃごちゃ交渉するなんて無駄もいいとこです。

ですが、高額の保証金を取られ、設備費や内装も数千万円ないし数億円の費用をかけるというような場合、賃貸物件の担保実行リスクはきっちりと管理しておかないと、いざ、オーナー(賃貸人、家主)が支払事故起こしたら、大変な目に遭うリスクが出てきます。

高額の保証金や内装・設備費負担は、一定期間賃貸物件を安心して利用できることが前提となっていますが、賃貸物件に担保が設定されているとうことは、この前提が簡単に崩れてしまう危険が内在することを意味します。

したがって、担保に入っているような物件を借りるにあたっては、大家に対して、債務の内容、返済の状況(リスケジュールの状況等を含む)を確認し、抵当権により覆滅させられる危険が具体的にあるのであれば、保証金を減らすとか、保証金返還請求権に担保を付けさせるとか、賃料を減額させるとか、内装・設備費の一部を負担させるとか、交渉によって適正なリスク回避策ないし逓減策を求めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00060_企業法務ケーススタディ(No.0019):賃借店舗に抵当権が付いていた場合のリスクと対処法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ねじねじ 社長 長尾 彬(ながお あきら、64歳)

相談内容:
おう、鐵丸先生、元気かい。
これ、ウチが今度売り出した
「ねじりネクタイ」
さ。
もう、バカ売れでさ。
3年前発売した
「ねじりマフラー」
なんて目じゃないね。
ほら、先生にも1本やるよ。
え、縄でクビくくってるみたいで縁起悪いって?
冗談いっちゃいけねえよ。
このねじったネクタイ、1本2万円もするんだぜ。
ま、んなことどうでもいいけどさ、ちょいと、相談に乗ってほしいことがあるんだよ。
先生も知ってのとおりさ、ウチの会社さ、今、銀行からばんばんカネ集めて、販売店舗相じゃんじゃん増やしているわけさ。
そいでさ、昨年さ、六本木に1店出したわけさ。
ま、そこそこ売り上げてるんだけどさ、ウチの店舗は、内装を全部
「ねじり」
のイメージで統一してるからさ、半端じゃなくカネかかるわけでさ、トータルではまだ利益が出てないわけさ。
そしたら、この間、武田銀行が店にやって来やがって、
「銀行はこのビルに抵当権を持っており、オーナーの返済が半年近く滞っているので、競売にかけます。
早めに出てってください」
なんてぬかしやがる。
冗談じゃないよ。
ウチは正当な借家権もってんだから、ぜってぇ出ていかねえからな。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:「抵当権は賃貸借を破る」ドクトリンの意味と具体的リスク
抵当権その他の担保物権(質権は除く)は、
「不払になったときに売り飛ばすことができる権利」
にすぎないので、不払にならない限りにおいて、所有者が、抵当権がくっついたままの物件を使ったり、貸したりすることには何の制約も存在しません。
ビルオーナーが期限内にローンを返済すれば抵当権が抹消されますし、本ケースのように返済ができずに抵当権が実行されれば、後は、抵当権と賃借権の優劣の問題になります。
そして、抵当権が賃貸借契約より前に設定された場合、抵当権の効力が優先し、テナントは退去を余儀なくされます。
高額の保証金を取られ、設備費や内装も数千万円ないし数億円の費用をかけるというような場合、賃貸物件の担保実行リスクはきっちりと管理しておかないと本ケースのように大変な目にあいます。
高額の保証金や内装・設備費負担は、一定期間賃貸物件を安心して利用できることが前提となっていますが、賃貸物件に担保が設定されているとうことは、この前提が簡単に崩れてしまう危険が内在することを意味します。
したがって、担保に入っているような物件を借りるにあたっては、大家に対して、債務の内容、返済の状況(リスケジュールの状況等を含む)を確認し、抵当権により覆滅させられる危険が具体的にあるのであれば、保証金を減らすとか、保証金返還請求権に担保を付けさせるとか、賃料を減額させるとか、内装・設備費の一部を負担させるとか、交渉によって適正なリスク回避策ないし逓減策を求めるべきです。

モデル助言:
「ビルを所有しているからお金持ち」
なんて安易な発想じゃ、いけませんね。
絶対返済できないような額のローンの抵当に入っているような
「時限爆弾」物件
なんて、銀座や六本木にはザラにありますからね。
内装・設備費は、償却に五年かかりますし、さらに残存簿価資産に対しては固定資産税という名のショバ代も徴収されますから、店舗を借りて運営するのは長期の投資と同じですよ。
バブル時代ならいざ知らず、投資実行前に自己責任で投資安全性を調査するのは今や常識です。
今回の場合も
「担保権実行による早期明渡し」
というリスクを認識し、このリスクの回避ないし逓減の方法をきちんと整備しておくべきでしたよね。
とはいえ、このままむざむざ引き下がるのもイヤなので、戦術的に悪あがきして、少しでもロスを減らしましょう。
まず、無責任なオーナーを呼びつけ、示談交渉を行いましょう。
交渉の中で、厳しく責任追及し、
1 賃料の大幅減額
2 保証金の全額返還約束
3 保証金返還債務と賃料債務との相殺
等を内容とした示談を行い、これ以上賃料負担することなく、できる限り長く当該店舗をタダで使用し続けることによりロスを減らしましょう。
あと、実際、こういう破綻処理のケースでは、競売申立されることはまずなく、オーナーからの所有権譲渡と抵当権抹消を同時に行い、ソフトにオーナーチェンジをするという処理(任意売却)が行われます。
「競売するぞ」
なんてどうせブラフですよ。
オーナーとの交渉次第では
「オーナーから二束三文でビル所有権を譲り受け、銀行主導の任意売却を妨害しつつ、サービサーと組み、こちら主導で、銀行に債権を譲渡させ、最終的に抵当権を抹消してしまう」
なんてウルトラCも可能かもしれません。
ま、ちょっと検討してみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00059_ブラックジャーナリストの特性と撃退法

ブラックジャーナリストという言葉を聞かれたことがあるかもしれませんが、これは
「本や記事を書いたことはおろか、マスコミに勤めたこともないが、取材活動と称し、相手方に対して、金銭を要求することを生業とする方々」
のことを指します。

たまに、
「公表されるといろいろ都合の悪いことを嗅ぎ回っている」
という理由で、通常の取材活動をしているフリーのジャーナリストを
「ブラックジャーナリスト」
呼ばわりされる方もいますが、こちらは
「ウザいジャーナリスト」
であっても
「ブラックジャーナリスト」
とは異なります。

すなわち、ブラックジャーナリストは
「取材に名を借りた恐喝を行う犯罪者」
であり、報道を目的とした適正な取材活動とは完全に区別されます。

とはいえ、ブラックジャーナリストは、名刺の肩書に
「ブラックジャーナリスト」
と書いているわけではなく、別に額に
「暗黒記者」
と入れ墨をしているわけでもないので、一見すると普通のジャーナリストそのものであり、彼らによる恐喝行為と適正な取材活動との外形上の区別は困難です。

ただ、ブラックジャーナリストは、一般的に、次のような特性を有していることが私の実務経験により明らかになってきています。

・彼らは、一般に、本名を名乗りたがりませんし、身分証明を求められたりするのを嫌がります(恐喝の前科がバレるから)。
・彼らの名刺に記載されている所属する報道機関も住所を手がかかりに商業登記簿謄本を取り寄せようとしても存在しなかったりする(会社を騙っているだけで設立すらしない)。
・彼らの名刺には携帯電話番号しか書いていないし、Eメールは書いていないか、無料メールアドレス(足がつくのはイヤだから)。
・主要著書や執筆記事、その他ジャーナリストとしての実績を問い質しても、答えたがらない(そもそもまともな記事を書いたことがない)。
・録音したり、録画されたり、とにかく自分の活動が記録されるのを嫌がる(自分の活動が証拠として残ってしまうと、また恐喝で刑務所に行く羽目になる)。

ブラックジャーナリストによるエセ取材を撃退するのは、彼らのこういう特性をうまく利用することがポイントになります。

まず、逃げずに、堂々と取材に応じるべきです。できれば、取材対象者本人ではなく、代理人や専門担当部署による対応で差し支えないでしょう。

取材に応じるとはいいつつ、実際には、
「取材の前提として、そちらの素性を確認させてただきたい」
と言って、まず相手の素性について当方が逆取材をするのです。

まず、本人に録音録画の了解を取り、録音録画を開始。

次に、本人確認という名目で、免許証のコピーを取らせてもらいましょう。

そして、名刺に書いてある所属元が架空の会社でないことの言質を取った上で、その場でインターネット経由で登記簿謄本を取り寄せて確認をはじめます。

さらに、ジャーナリストとしての実績としてどういうものがあるか丁寧にお伺いしましょう。

仮に、執筆した図書や取材についてあれこれ述べだしたら、これらすべてについて、目の前で出版社に電話連絡し、これみよがしに裏付調査を徹底してやりましょう。

少しでもウソが判明したら、その場で厳しく追及し、弁解が破綻した段階で、刑法の偽計業務妨害罪の条文を読み上げるとともに、同罪の成立を声高に宣言し、直ちに110番通報します。

まあ、こういう対応している間に、相手は自主的に退散することが多いです。

ブラックジャーナリストたちも、命をかけて不正を追及したいわけではなく、効率よく恐喝したいわけですから。

頭のいい彼らは、
「こちらが面倒くさい相手であり、これ以上かかわるとリスクになる」
とわかれば、自然に手を引くはずであろうと考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00058_企業法務ケーススタディ(No.0018):ブラックジャーナリストから取材に名を借りた恐喝を受けた場合の対処方法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ナチュラル・イースト 社長 国原 比嘉志(くにはら ひがし、49歳)

相談内容:
鐵丸先生、寒いっすよねぇ。
いや、どうもこうも、参っちゃって。
今日は、いつものようなビジネスや契約の話じゃないんですよ。
こんな恥ずかしい話、先生しか相談できなくて。
いえね、この前、ちょっと魔が差して、17歳の女の子と遊んでたところ、警察に厄介になりまして。
といっても、私自身、彼女がまさか未成年なんて思ってなかったこともあって、先生にお世話にならず、事情聴取だけで釈放されたんですよ。
それで、済んだと思ってたら、昨日、なんか知らないオッサンが、会社の周りうろちょろしてて、いきなり
「国原さんですか」
なんて呼びかけれて名刺渡されたんです。
名刺には、
「独立通信社 ジャーナリスト 馬喰 一徹(ばくろ いってつ)」
なんて肩書が書いてあり、
「この前、逮捕されたそうですが、そのことについてお伺いしたい」
なんて聞いてくる。
とりあえず、
「何のことかわからない」
と言って、あわててオフィスに入り、その日は裏口から帰宅したんですが、今朝、総務部長に外を確認させたら、またオフィスの前にいるらしい。
独立通信社なんて聞いたこともないですが、万が一、こんなことが表沙汰になったら、女性向けの化粧品や健康食品を売っている我が社は、売り上げが激減して、倒産です。
先生、どうしたらいいんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:ブラックジャーナリストとは
今回は、いわゆるブラック・ジャーナリスト、すなわち
「本や記事を書いたことはおろか、マスコミに勤めたこともないが、取材活動と称し、相手方に対して、金銭を要求することを生業とする方々」
による
「取材に名を借りた恐喝 行為」
であり、報道の自由に基づく取材でもなんでもありません。
とはいえ、 名刺の肩書に
「ブラックジャーナリスト」
と書いているわけではなく、一見すると普通のジャーナリストそのものであり、彼らによる恐喝行為と適正な取材活動との外形上の区別は困難であり、ここが、難題です。

モデル助言:
そもそも、一番悪いのは国原さんですよ。
いい年して、子供相手に何やってるんですか。
どういう弁解をしたのか知りませんが、逮捕されなかったのが不思議なくらいですよ。
ま、それはさておくとして、
「独立通信社の馬喰一徹」
ですか。
独立通信社なんて聞いたこともないですし、ネットで検索しても出てこない。
こりゃ、
「 取材活動と称し、相手方に対して、金銭を要求することを生業とする人間」
完全にブラックジャーナリストですね。
ちゃちゃっと撃退しちゃいましょ。
私が御社オフィスに出向き、代理人として、堂々と取材に応じましょう。
取材に応じるとはいいつつ、実際には、
「取材の前提として、そちらの素性を確認させてただきたい」
と言って、まず馬喰の素性について私が逆取材をするのです。
まず、本人に録音録画の了解を取り、録音録画を開始。
次に、本人確認という名目で、免許証のコピーを取らせてもらいましょう。
そして、名刺に書いてある株式会社独立通信社が架空の会社でないことの言質を取った上で、その場でインターネット経由で登記簿謄本を取り寄せて確認をはじめます。
さらに、ジャーナリストとしての実績としてどういうものがあるか丁寧にお伺いしましょう。
仮に、執筆した図書や取材についてあれこれ述べだしたら、これらすべてについて、目の前で出版社に電話連絡し、これみよがしに裏付調査を徹底してやりましょう。
少しでもウソが判明したら、その場で厳しく追及し、弁解が破綻した段階で、刑法の偽計業務妨害罪の条文を読み上げるとともに、同罪の成立を声高に宣言し、直ちに110番通報します。
まあ、こういう対応している間に、相手は自主的に退散しますよ。
彼らも、命をかけて不正を追及したいわけではなく、効率よく恐喝したいわけですから。
頭のいい彼らは、
「こちらが面倒くさい相手であり、これ以上かかわるとリスクになる」
とわかれば、自然に手を引くはずですよ 。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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