01604_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(7)_海外進出に成功する企業の手法その3_「『海外進出』という難事を成し遂げるリーダー」の人材スペックデザイン

(「海外の国や人々や各団体と仲良くなって、国際交流する」などといった活動とは真逆の、)「国内事業展開より数倍、数十倍困難な海外進出を経済的に成功させる」ための各タスクが明確になれば、次に、このような「極めて達成困難な各タスク
を任せることのできるリーダー(責任者)の人材スペックが整理され、明確になってきます。

すなわち、 海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)の人材スペックとしては、
海外進出を経済的に成功させるために必要となる、いずれも極めて達成困難な、各タスク
を、眉一つ動かさず、クールに、スマートに、完璧に成し遂げうる人材、というものになろうかと考えられます。

敷衍しますと、
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージとしては、
1 「海外進出を経済的に成功させるために必要となる、いずれも極めて達成困難な、各タスク」 を、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
2 これら各タスクを、一定の冗長性(リスクや想定外に常に対応しうるための時間的・経済的・精神的冗長性)を確保しつつ、涼しい顔をして、平然かつ冷静にやり抜けるだけの知識・経験・スキルと、
3 「成功時に得られる、鼻血が飛び出るくらい、旨味があるインセンティブ」を設計して、臆面もなく要求するだけの豪胆さと、当該インセンティブに対する健全な欲望と、
4 声一つ発することなく、被支配者が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
5 悪魔の手先のような性根と、
6 遂行しているタスクの毒々しさを全く感じさせることなく、常に、ジェントルかつエレガントに振る舞える典雅さ、
といった各スペックを漏れなく実装した人材、ということになろうかと考えられます。

上記の
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージって、皆さんに、どこかでみたような、そんな既視感が生じませんでしたでしょうか。

すなわち、上記の
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージを受けて、皆さんにおいては、
「これって、まるで、東京でたまにみかける、『日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部』そのものじゃないか!」
といった感じを抱かれたのではないでしょうか。

そして、そういう
「東京でたまにみかける、『日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部』」
によって経営されている外資系企業は、どの企業も、順調に儲かっているのではないでしょうか。

こういう言い方をすれば、帰納的に理解・納得いただけるのではないか、と思います。

初出:『筆鋒鋭利』No.100-3、「ポリスマガジン」誌、2015年12月号(2015年12月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01603_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(6)_海外進出に成功する企業の手法その2_「『海外進出』という難事を成し遂げるリーダー」が遂行すべきタスクデザイン

「海外進出に成功する企業」
は、まず、非常にシビアな功利的メンタリティーにもとづいて
「エゲツナイまでに経済合理性に適った進出目的」
を設定・構築し、次に、
「当該目的(それこそ、平等な国際社会や差別なき世界の実現を目指すようなヒューマニストが聞いたら、その場で卒倒しそうな、エグいまでに経済合理性を徹底した進出目的)をしびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー(責任者)」
を発掘・登用し、加えて、当該リーダー(責任者)に対して
「圧倒的な士気と責任感」
を抱かせるとともに、このような
「圧倒的な士気と責任感」
を支える
「鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を整備して、
徹底的に、情け容赦なく、目的を最短時間で無駄なく効率的に達成する活動を展開します。

このような
「目的優先、綺麗事や能書きは後回し」
ともいえる、リアリティスティックな行動スタイルが、進出成功の鍵となっているものと推察されます。

そのためには、
「非常にシビアな功利的メンタリティーに基づいて設定・構築された、エゲツナイまでに経済合理性に適った進出目的(それこそ、平等な国際社会や差別なき世界の実現を目指すようなヒューマニストが聞いたら、その場で卒倒しそうな、エグいまでに経済合理性を徹底した進出目的)をしびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー(責任者)」
という人材のスペックを明確にして、当該人材を発掘し、登用しなければなりません。

では、このような
「海外進出を任せるに足るリーダー(責任者)」
のスペックとは、どのようなものでしょうか。

まず、
「海外進出を任せるに足るリーダー(責任者)」
のスペックを議論する前提として、当該リーダー(責任者)をタスクデザインを明らかにする必要があります。

(「海外の国や人々や各団体と仲良くなって、国際交流する」などといった活動とは真逆の、)「国内事業展開より数倍、数十倍困難な海外進出を経済的に成功させる」
ためのタスクを、(4半世紀ほどにしかならない私の拙い実務家経験を基礎に)合理的に設計してみますと、

1 現地の人間になめられないような制度やカルチャーを現地法人に浸透させ、確立する
2 強烈な強制の契機をはらんだ圧倒的なオーラを醸し出し、徹底して高圧的な支配を実行する(とはいえ、植民地時代ではないので、支配的な要素はおくびにも出さないように努め、極めてジェントルかつエレガントに、スマートな形で実効的支配を展開する)
3 俗悪・無作法・怠惰を許さない、徹底した管理を敷く
4 客観的基準と合理的観察によるエゲつない能力差別を行ない、論功行賞を明確に実施し、ルール違反者に対する過酷な懲罰を徹底して行う
5 独禁法を愚弄する精神で、競争者の存在を否定し、あるいは新規参入の目を容赦なく摘む形で、市場を迅速かつ圧倒的に支配する(つもりで頑張る。実際は法令には触れないように細心の注意を払う)
6 このような市場支配(を目指した、法に触れない経済活動)を、大量のカネ、物量を背景に、高圧的に、スピーディーに、SMART基準にしたがって、効率性を徹底追求して行う

というものになろうかと考えられます(もちろん、コンプライアンスは無視ないし軽視できませんので、諸外国の法令を含めたあらゆる法令に違反ないし抵触しないよう、細心の注意を払うべきことは大前提となります)

初出:『筆鋒鋭利』No.100-2、「ポリスマガジン」誌、2015年12月号(2015年12月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01602_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(5)_海外進出に成功する企業の手法その1_「海外進出の真の目的」の設定

具体的に、アジア進出に成功する企業は、どのようなビヘイビアで、その目的(具体的な言葉にすると、やや問題を生じかねないので、あえて言葉にしませんが、植民地時代の欧米列強諸国の企業の進出目的ないし動機とほぼ近似するようなもの、と述べるにとどめます)を達成するのでしょうか。

アジアに進出するのは、経済的メリット、それも
「目まいを起こしてぶったおれるくらいおいしいメリット」
があるからです。

別に、
「悠久の大自然をもっている」
から進出するわけでもない(はず)ですし、
「長きにわたる歴史や文明・文化があり、これをリスペクトする」
から進出するわけでもない(はず)ですし、
「先の戦争でご迷惑をおかけしたので、そのすまない気持ちから、罪滅ぼしのため」
に進出するわけでもない(はず)ですし、
「同じアジア人同志仲良くしたいから」
というわけでもない(はず)
です。

上記のような、
「意味不明な」
あるいは
「ヌルい」こと
を考えて進出する企業は、軒並み大失敗して、痛い目に遭ったり、生き地獄をみたり、会社の死期を早めています。

営利追求を至上のミッションとする合理的組織である企業が、時間をかけて、空間的距離を克服して、わざわざ遠くの国まで進出する目的は、シンプルにいいますと、
「ホニャララくんだりまで行くコストや手間」
を遥かに上回るメリットがあるから、というのがその理由であるべきです。

要するに、カネです。

ソロバンです。

商売です。

ビジネスです。

身も蓋もない言い方をすれば、
「海外に進出するのは、国内よりシビレルくらい安く労働力が手に入ったり、競争が死ぬほどラクちんだから」
というのが合理的理由となるべきはずです。

すなわち、
「進出に成功する企業」
のマインド(無論、こんな本心は絶対明かしませんので、推察するほかないのですが)としては、

「 『植民地時代』において、列強諸国の資本家が、
『アジアその他の植民地に進出すると、劣等民族(※当時の彼らの認識であって、私の認識ではありません)を奴隷労働力として廉価に活用できたり(工場等を作って、生産資源として活用する場合)』あるいは、
『文明レベルの劣る民族(※当時の彼らの認識であって、私の認識ではありません)に対して、圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービスを提供することを通じた、市場争奪、支配が可能である』
ことを前提として進出した 」

のと類似あるいは近似しているものと推察されるところです。

このように、非常にシビアな功利的メンタリティーにもとづいて
「エゲツナイまでに経済合理性に適った目的」
を設定・構築し、当該目的(それこそ、平等な国際社会や差別なき世界の実現を目指すようなヒューマニストが聞いたら、その場で卒倒しそうな、しびれるくらいエグく経済合理性を徹底した進出目的)を強固に意識して進出するような企業こそが、海外進出に成功する企業である、
ということができます。

初出:『筆鋒鋭利』No.100-1、「ポリスマガジン」誌、2015年12月号(2015年12月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01601_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(4)_「SMART基準(法則)」において合理的と考えられる「海外進出プロジェクト」とは

企業が挑戦する
「アジア進出」事業
について、その目的の妥当性・合理性を
「SMART基準(法則)」
を活用して評価検証してみます。

まず、そもそも、なぜ、中国やその他アジア各国に進出するのでしょうか?

その経済的意味はどこにあるのでしょうか?

ここで、倫理や道徳や綺麗事を捨象して、シビれるくらい、シビアに、純経済的に、合理的に目的考察をしてみます。

「アジア進出の動機として、生産拠点を日本からアジアにシフトする、ということを考える企業」
においては、アジア進出のメリットは、ずばり、
「低賃金」
です。

すなわち、
「現地の方を安い給料で、コキ使えるから」
というのが進出の理由として推定されます。

だからこそ、
「最近は中国の人件費が高くなったからベトナムがいいぞ」
「いや、ベトナムも高いから、ミャンマーとかカンボジアだぞ」
といった、話が聞こえてくるのです。

要するに、生産拠点をシフトする形で中国に進出する企業は、別に、
中国が好きとか、
民間レベルの日中友好を進めたいとか、
本場の中国料理が好きとか、
中国の方々が大好きとか、
4000年の歴史に敬意を感じたから、
といった動機ないし目的ではなく、その真の目的は、
「(日本人とくらべて相対的に)安くて、コキ使える無尽蔵の労働力がある」
と考えて、進出するのです。

だから、中国より安いところがあると、経済的判断において、
当該「さらに安い人件費」
を求めて、進出先を変更したりするのです。

かつて、植民地支配の時代に、欧米列強が、(当時の彼らからみて)劣等民族であった現地人を、奴隷労働力(植民地時代の欧米列強の一般的認識としてです)として廉価に活用できるから、という理由で、アジアアフリカ諸国や中南米において生産活動を行っていたことがありました。

生産拠点を日本からアジアにシフトすることを目的とする企業の進出動機は、
「倫理や綺麗事を捨象した、純経済な観察における目的」
として考察すれば、要するに、これと同様であり、現地の人的資源を経済的に有利な条件において生産資源として活用したい(からアジアに進出する)、というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。

また、別の企業は、進出するアジアの国を、自社の商品を消費してくれる巨大市場とみて、進出するところがあるかもしれません。

この点についても、かつて、植民地支配の時代に、主に商品を販売することを企図した欧米列強の企業がアジア各国に進出したケースと同様、(当時の彼らからみて)文明レベルの劣る民族に対して、
「現地では作れない、現地の方の消費欲求を掻き立てる圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービス」
を提供することによって、母国では考えられないほど容易に、市場争奪や市場支配が可能だったからです。

現代の日本で、販売拠点をアジアに設けることを目的とする企業の進出動機も、建前や倫理・道徳を一切捨象して純経済的に突き詰めれば、これと同様、母国とくらべて有利な競争環境を求めて効率的に稼ぎたい(からアジアに進出する)、というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。

無論、アジアに進出する企業は、こんな
「時代錯誤も甚だしい下劣な言い方」
で、その動機や目的を語ることはなく、綺麗事や建前として、ジェントルでエレガントに響く進出目的(相互互恵による国際的な協調、対等な真のパートナシップによる相互発展など)を騙り、ディスインフォメーション(情報偽装)します。

「この種の韜晦を、いけしゃあしゃあとカマし、実際の目的ないし動機は、植民地時代の欧米列強の企業のものと同様のものを強固に持ち、これを、SMART基準に落とし込んで、部下に的確な指示を出し、シビアに当該目的を達成する」
という企業は、まず、間違いなく進出に成功します。

他方で、本音と建前がよくわからない状況で頭脳の中でカオスとなっている(さらにいえば、「国際進出をした国際的な企業の国際的な社長さん」とみられたい、などというくだらない意地や見栄のため、進出自体が自己目的化しているような)企業については、アジア進出の目的を見失い、確実に失敗します。

初出:『筆鋒鋭利』No.99-2、「ポリスマガジン」誌、2015年11月号(2015年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01600_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(3)_「海外進出プロジェクト」の合理性を検証するための基準としての「SMART基準(法則)」

ビジネスの目的設定は、
1 カネを増やす
2 出て行くカネを減らす
3 時間を節約する
4 手間・労力を節約する

のいずれかに収斂させ、かつ合理的な目的設計を行うべきであり、そうでないと時間と労力とコストを散々浪費した挙句、無残に失敗し、結果、企業そのものを危険な状況に陥ります。

では、ビジネスの目的自体が、前記のないしのいずれかにあてはまるとして、具体的にどのような形で目的設定することが合理的といえるのでしょうか?

この点、
「ビジネスの目的が客観性と合理性を維持しているかどうかを検証するテストのための検証基準ないし指標」
として、
「SMART基準(法則)」
が指標ないしモノサシとして使われることがあります。

「SMART」とは、
“S”pecific(目的が具体的で客観的で明確であること)
“M”easurable(目的が、定量化・数値化されるなど計測可能となっていること)
“A”greed upon(達成を同意しうること。無理難題ではなく、達成可能であること)
“R”ealistic(現実的で、経済合理的な結果を志向したものであること)
“T”imely(期限が明確になっていること)
の頭文字を取ったものです。

ビジネスを真剣に考えないトップがいいかげんなプロジェクトをぶち上げ、その際に適当に設定される
「事業目的」なるもの
は、SMART基準を充足しない場合が多いです。

愛人に本業と無関係のブティックや飲食店事業を経営させたりするようなケースにおいて、
「トップによって公式上説明される建前上の事業目的」なるもの
を冷静に分析検証しますと、大抵、
「具体的でも客観的でも明確でもなく、定量化・数値化もされず、達成が計測可能となっておらず、達成可能でもなく、現実的で、経済合理的な結果を志向したものとはいえず、達成期限すら明確になっていない」という代物であること
がみてとれます。

要するに、このような
「SMART基準を充足しない経済的に無意味な目的」の事業は、
「動物の剥製、著名人とのスナップ写真、有名絵画、高級酒、さらには、銅像や日本刀や兜」と同様、
「(経済的には意味がなくとも)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、すごいですねと言われてプライドや自尊心を充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する」
というのが当該経営判断の実体であろう、との推定が働くのです。

そもそも事業は、常に失敗のリスクや目的の下方修正や保守的変更の可能性を孕んでいます。

事業目的を1つ達成するのも大変な苦労を伴います。

複数の事業目的に明確な優劣をつけないまま、多義的で抽象的な目的を設定したまま、あるいは己の分際をわきまえず、欲張って目的を複数同時達成すべく追求しても、最終的に目的相互間に重篤な矛盾を来たしてしまい、結果、すべての目的が達成できず、時間とカネとエネルギーだけを費消するだけで終わります。

初出:『筆鋒鋭利』No.99-1、「ポリスマガジン」誌、2015年11月号(2015年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01599_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(2)_「海外進出プロジェクト」において設定される目的の合理性を検証する

日本企業のアジア進出ですが、多国籍展開経験のある一部の巨大企業を除き、ほとんどの中堅中小企業は、すべからく残念な結果に終わっているようです。

今から数年前、
「中国進出ブーム」なるもの
が日本の全産業界を席捲しました。

その当時の経営者向けのメールマガジン等をみてみますと、
「国連『世界人口白書』によると、世界の総人口が70億人を突破する予定です。そのうちの人口のトップは、約13億人で中国。単純に考えて、世界の5人に1人は中国人という計算です。この国が抱える13億人の一大マーケットは非常に魅力的」
なんてリードがあり、
「今、中国進出しないのはバカです! 何もしないと死にます!」
ともとれるような煽り文句が読み取れます。

この種の威勢のいい号令に従う形で、
「日露戦争における203高地への無謀な突撃」の如く、
数多くの中堅中小企業が中国に進出していきました。

そこから数年経った2015年現在、中国ビジネスに関するもっともホットな経営テーマは、「中国進出企業の撤退の実務」
だそうです。

曰く、
外国企業が中国事業から撤退しようとしても、日本での撤退手続のように、必ずしもスムーズにいくわけではない
中国では、外国企業の撤退に関する法制度が未だ完全には整備されていないため、手続が煩雑で、多くの時間とコストがかかる
また、撤退に際して、政府から許認可等を得る必要がありますが、各地方政府の担当官の裁量により、ケース毎に撤退に関する判断や要求が異なる場合が多くある
「『中国における清算の実務上のポイントを説明し、いくつかの実例を挙げながら、よりスムーズに撤退手続を行うための方策なるものを勉強しましょう」、
といったセミナーが、中国からの撤退を考える中堅中小企業の経営幹部に人気だとか。

こういう状況を冷静に観察すると、
「進出するのか、撤退するのか、どっちやねん!? お前ら(中略)ちゃうか?」
というツッコミを入れたくなります。

日本の中堅中小企業の経営者の多くが、なぜ、こんな無意味で愚劣な行為をするのでしょうか?

「東大卒弁護士」風情
では理解ができない、何か、高度で深淵な意味があるのでしょうか?

私はそう思いません。

「経営者が、多大な時間とコストとエネルギーを注ぎ込んで中国に進出した挙句、数年後、さらに多大な時間とコストとエネルギーを費消して撤退する、という壮大な愚挙を敢行する」
のは、何か深淵で高邁な意味があるわけではなく、単に、
「経営者が愚劣だから」
ということに尽きると思います。

もう少し、別の言い方をすれば、中国進出をやらかす中堅中小企業の経営者は、
「目的が未整理で、頭脳が混乱した状態」
で経営判断しているから、ということだと考えられます。

営利を追求することをメインミッションとする組織である企業の目的設定・経営判断の方向性としては、
1 カネを増やす
2 出て行くカネを減らす
3 時間を節約する
4 手間・労力を節約する

のいずれかに収斂するはずです。

とはいえ、現実的には、「企業の目的設定・経営判断」として、
5 (経済的には意味がなくとも)イイカッコをする、世間体や体面を保つ、「すごいですね」「国際企業ですね」とか言われてプライドを充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する
という、
「経済的には説明できない、というか、合理的理解を超えた、愚劣極まりないもの」
も存在します。

オーナー系中小企業をみていると、本社社屋に、娯楽施設とかフィットネスクラブとか茶室とか業務に関係のない施設も併設されていたりする光景や、社長室が無駄に広く、動物の剥製、著名人とのスナップ写真、有名絵画、高級酒、さらには、銅像や日本刀や兜など、高価というだけで特定の趣味・嗜好・センスが感じられない品々が、一貫性もなく、無秩序に羅列されている光景に遭遇することがあります。

また、素材メーカーや部品メーカーの企業が、突然、イタリアンレストランやブティックの経営に乗り出し、
「素性のよくわからない、社長と親交のある、妙齢の女性」
が当該子会社のトップに抜擢されたり、ということもたまにあります。

以上を整備するのにカネや時間や労力が相当投入されていますが、当該設備への投資は、
「カネを増やす」
「出て行くカネを減らす」
「時間を節約する」
「手間を節約する」
いずれにも無関係であり、これらいずれの目的への貢献もほぼ皆無です(社内外には、相応の説明がなされますが、いずれの説明も、「東大卒弁護士」風情の頭脳では理解できない複雑怪奇な説明であり、案の定、この種の「理解を超越した難解な」新規事業は、いずれも、短い時間に赤字を積み上げ、無残に撤退しているようです)。

目的が合理的でなかったり、現実的でなかったり、計測不能であったり、タイムラインもいい加減であったり、といったものは、
「形式上の説明」
如何にかかわらず、要するに
「イイカッコをする、世間体や体面を保つ、プライドを充足する、意地を張る、見栄を張る、ナメられないようにする、劣等感を解消する」
というのが当該経営判断(といえるかどうかすら不明な愚劣で不合理な意思決定)の内実であると推定されます。

そして、
「中国進出ブームに舞い上がって中国進出をやらかしちゃった経営者」
というのは、冷徹で緻密な計算をし尽くすこともせず、要するに、
「我が社は、トレンドに遅れていないぜ! 最先端の国際ビジネスをやっているぜ!」
という意地やプライドや見栄や沽券や主観的満足充足のため、頭脳が混乱した状態で、進出した、という蓋然性が高いと思われます。

だからこそ、
「短期間に赤字を積み上げた揚句、撤退を決定したが、出口戦略をまともに描いていなかったため、撤退すらままならず、のたうち回っている」
という悲惨な現状に直面しているのではないでしょうか。

初出:『筆鋒鋭利』No.98、「ポリスマガジン」誌、2015年10月号(2015年10月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01598_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(1)_国際進出というものを安易に考えすぎる気質がある日本人は、海外進出プロジェクトにおいて毎度毎度バカな失敗を繰り返す

古くは豊臣秀吉の朝鮮出兵、また、時代が近くなると、満州で一旗上げる話や、ハワイやブラジルへの移民話、さらには、バブル期のロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社買収話など、日本人は、国際進出というものを安易に考えすぎる気質があるようで、毎度毎度バカな失敗を繰り返してしまいます。

国際進出は、情報収集も情報分析も国内では考えられないくらい難しく負荷がかかるものです。

これはあくまで感覚ですが、国際進出して成功するには、国内で成功するより20倍難しいといえると思います。

「国内で成功し尽くした会社が、国内での市場開拓より20倍のリスクがあることを想定し、周到で綿密な計画と、十分な予算と人員と、信頼できるアドバイザーを整え、撤退見極めのメルクマール(基準)を明確に設定して、海外進出する」
というのであればまともな事業判断といえます。

しかし、(アウェー戦ではないホーム戦である)国内ですら低迷している会社が、
「新聞で読んだが、中国ではチャンスがある」
という程度のアバウトな考えで、適当に海外進出して成功する可能性はほぼゼロに近いといえます。

本業がうまくいかない、あるいはすでに相当痛んでいるにもかかわらず、起死回生の海外進出策などと称した、現実味のない話が出てきて、浮ついているような会社に未来などあるはずもなく、こういう知的水準に問題のある会社が、中途半端に
「国際進出もどき」
をおっぱじめても、儲かるのは、
「国際進出」
の夢をみる中小企業の近くで跳梁跋扈する
「金鉱山の横でスコップを高値で売る」類の業者
すなわち現地のコーディネーターやコンサルティング会社や旅行関連企業や現地会計事務所等だけで、たいていはお金と時間と労力の無駄に終わってしまいます。

フィージビリティスタディ段階で自らの無能を悟り、進出をあきらめてくれれば、損害は軽微なもので済みます。

しかし、頭の悪い人間ほど自らの無能を知らないもので、実際は、多くの中小企業が、実に
「テキトーなノリ」
でいきなり現地法人を作ってしまい、その結果、自分の首を締め、大きな損失を被るか、(国内営業不振企業で海外に活路を見出すような企業については)死期を早めてしまうようです。

初出:『筆鋒鋭利』No.97-2、「ポリスマガジン」誌、2015年9月号(2015年9月20日発売)

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01597_「中小企業リスクあるある」としての「営業不振企業が無謀な『一発逆転』を狙って大失敗して倒産に至るケース」

2015年現在、
「デフレ脱却のため、異次元ともいえるレベルで金融の量的緩和(通貨供給量の増加)で、経済が再び成長する」
という社会実験(アベノミクス)が行われています。

しかしながら、この政策によって
「高度経済成長時代のような継続する右肩上がりが再来する」
という事態に至ることは、およそ想定困難です。

確かに、アベノミクスにより若干景況感が改善し、株価も上昇しましたが、東証全体のPER(Price Earnings Ratioの略称。株価収益率。バブル期は60倍となっていた)は17倍程度というフツーの水準になったに過ぎず、相変わらず、利用価値が高い一部不動産を除き不動産価格は低迷したままです。

ロールスロイスやランボルギーニが飛ぶように売れたり、ゴルフ会員権やリゾート会員権が高騰したり、といった話もあまり聞かれません。

バブル経済崩壊後、
「モノ余り、 低成長時代」
を迎えて成熟した日本の経済社会においては、 すでに、監督官庁の保護育成も、業界同士の横のつながりも、今までの大量消費(販売)を前提とした大量生産もまったく機能しなくなっています。

金融緩和云々は別にして、産業社会は、
「品質と価格に基づく、シビアな能率競争」
を前提に、縮小しつつあるパイを苛烈に奪い合う競争社会に突入したのです。

このように、環境がシビアなものに変化する中、営業不振に仰ぐ企業が増えてきています。

そうした営業不振にあえぐ企業において出てくる話が、
「起死回生の一発逆転」
という施策です。

しかし、企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほとんどなく、むしろ、無駄なことをせずひたすら競争に耐えていれば、残存者利益を得るか、身近で地味な分野に業態転換して、しぶとく生き残れていた可能性があったにもかかわらず、いたずらに死期を早める結果に終わる例ばかりです。

スポーツもののドラマやヒーローものをみていると、主人公が起死回生の秘策を編み出し、土壇場で一発逆転を行うシーンがみられますが、これはあくまで虚構の世界の話であって、ビジネスの世界ではこのような起死回生の一発逆転劇というのはあり得ません。

破綻間近の企業が無理をして行うその種のプロジェクトは、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になります。

というのは、事業というのは、一朝一夕に立ち上がるものではなく、
「発案→企画→試作品の完成→商品化にこぎつけ→営業の成功→取引成約→代金回収」
という長期間の地味のプロセス(しかも各プロセスにおいてそれぞれ相当な試行錯誤があること)によって成立するものだからです。

このような地味で面倒なプロセスを嫌って、楽に結果を求めようとすると、かえって、足元を掬われ、より損害が広がってしまいます。

事業はゴルフというスポーツに似ており、ボギーやダボ(ダブルボギー)しか出せないプレーヤーが最終ホールでいきなりバーディーやパーを連発することはあり得ません。

逆に、実力のない者がバーディーを無理に狙うと、逆にダブルパーやそれ以上に悲惨なスコアでホールアウトするのと同様です。

すなわち、パっとしない企業がいきなり
「国際進出だ」
「大型提携だ」
と騒ぐのは、
「それまでボギーすらとれていないゴルファーが、たまたまティーショットがそこそこいいところに飛んだといってはしゃぎ、それまでまともに当たったことのないロングアイアンを振り回す」
のとまったく同じ状況で、より悲惨な結果が予測されるのです。

なお、4半世紀近くビジネス弁護士として仕事をしてきた経験を基礎に総括しますと、
「ご臨終になりそうな企業が一発逆転を狙うと称して手を出して大やけどを負ってしまう」
というストーリーにおいて、登場するお約束のプロジェクトが、余剰資金運用話と国際進出とM&Aと考えます。

これらのプロジェクトは、いずれも、 情報収集も情報分析も通常のビジネスプロジェクトとは比べ物にならなくらい、難しく、知的負荷がかかるものであり、本業すらまともに立て直せない企業オーナーが手を出したところで、大やけどを負うだけの結果が予測されるものです。

そして、この種の話、すなわち、余剰資金運用話と国際進出とM&Aというのは、コンサルタントやアドバイザーといった、
「金鉱山の横でスコップを高値で売る」類の業者
が跳梁跋扈する分野です。

かくして、営業不振企業が、身の丈の合わない、難易度の高い、自らの知的限界を超えた 余剰資金運用話や国際進出やM&Aといった話に手を出し、
「金鉱山の横でスコップを高値で売る」類の業者
に最後の虎の子を吸いつくされ、お陀仏になる、という状況に至ったりします。

初出:『筆鋒鋭利』No.96-2、「ポリスマガジン」誌、2015年8月号(2015年8月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.97-1、「ポリスマガジン」誌、2015年9月号(2015年9月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01596_企業法務部員として知っておくべき営業・販売活動(9)_法人向営業活動(BtoB)その4_付加価値を創出することなく、ただ流通経路に居すわってだけだと「中抜き」される

問屋(卸売販売業)もBtoB流通業の代表選手のような業界ですが、この業界においても再編合理化の大きな嵐が今後吹き荒れることが予想される業界です。

「きちんとした役割や付加価値を提供するわけでもなく、意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋業態」
などは、突然淘汰される危険性が高いと思われます。

「そうは問屋が卸さない」
という諺があります。

江戸時代の服飾流通業界においては、呉服問屋がメーカー(呉服職人)から商品を一手に集め、委託販売形式で小売業者に卸しており、卸売価格の決定権を握ることを通じて、流通支配を行っていました。

したがって、新規参入を考える者が問屋に断りなく店舗を構えようとしても、商品を卸してくれません(現在では「ボイコット行為」として独禁法違反に問われますが)。

このことから、
「相手のある話に関しては、相手がどう考えるかによって変わるので、すべてあなたの思うとおりには行かない」
ということを表すものとして、
「そうは問屋が卸さない」
という諺ができあがったのです。

しかしながら、現在では、小売業者へさらに進んで、消費者に価格決定力がシフトしております。

流通業においては、
「消費者に安くて品質の良いものを、合理的経路で、迅速に届ける」
ということが唯一かつ絶対の正義となっております。

具体的には、小売業者をネットワーク化し、これをコントロールするバイヤーと呼ばれる者が、
「消費者に安くて品質の良いものを迅速に届ける」
という正義を旗印に、卸業者(問屋)、さらにはメーカーにまで、流通の合理化を要求するようになってきています。

その結果、
「意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋」
はことごとく排除されるようになってきているのです。

今後は、ネット取引の拡大とともに、流通業がますますシビアに整理合理化されていくことになります。

したがって、
「何の特徴もなく、単に特定のメーカーと取引がある、あるいは特定の小売業者の口座を有しているだけで、商品ないし伝票を右から左に流しているだけ」
という類の流通業はある日突然姿を消す可能性が高いといえます。

むしろ、
・小売店舗向けに高度なコンサルティングを行ったり、コモディティ化していない商品や、付加価値の高い商品を発見して独占的に流通するなどして、自社の価値やコアコンピタンス(絶対的差別化要因)を増強していくのか
あるいは、
・いっそのこと、徹底したコストダウンによって、小売とメーカーの双方の奴隷となって、「早く、安く、効率的にモノを届ける」だけのシンプルな機能に徹するか
といった方向性を顕著に出していくことが、BtoB流通業の生き残りの選択肢となると考えられます。

初出:『筆鋒鋭利』No.96-1、「ポリスマガジン」誌、2015年8月号(2015年8月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01595_企業法務部員として知っておくべき営業・販売活動(8)_法人向営業活動(BtoB)その3_「官庁御用達」ビジネスのリスク

江戸時代以前から、
「○○御用達」
というものが商人のブランドの1つを形成してきたことからも判るように、
「役所から仕事をもらえる」
ということは商売人にとって一種のステータスとなっていました。

公共工事その他の役所とのビジネスというのは、BtoB取引の中でも最も大きな法人組織相手の取引(その意味では、BtoG、Business to Governmentとでもいうべきでしょうか)ですが、取引発注者の予算が無制限であることもあり、どことなく
「役所と取引があるということは企業の安定の証」
という考え方が今でも、ビジネス界の中にあるように思われます。

しかしながら、
 「取引先が特定の企業に依存していることは危険である」
という話は、仕入れ先や取引相手が
「官公署」
という場合も同様にあてはまります。

赤字国債が連発され、財政破綻の危険が具体化する中で、民主党政権下になって、事業仕分けというものが大々的に行われるようになりました。

現在の財政上、もっとも重荷になっているのは間違いなく公務員の人件費です。

その意味では、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題と言えます。

かつて、民主党が政権を担っていた時代がありました。

民主党も、公約として、財政健全化を掲げていたところから、民主党なりに正しいと考えた財政健全化策に着手しました。

前述のとおり、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題であることは、知性を働かせれば、だれでも理解できる事柄でした。

同時に、自治労が支持母体である民主党に、財政健全化策として、地方公務員の数や人件費に手を付けることを期待しても無理であることもまた、誰の目にも明らかでした。

結局、民主党は、
「パフォーマンス」
として、
「事業仕分け」なる財政健全化策
を行うことでお茶を濁すこととし、その矛先は、
「切り捨てても文句を言わないところ」
すなわち、官公署や独立行政法人との取引を行っている業者に向かうことになりました。

すなわち、民主党が行った
「財政再建パフォーマンス」
としての
「事業仕分け」
は、官公署や独立行政法人と民間企業の取引を止めたり合理化したり、という方向に行き着くことになります。

このように、官公署との取引に依存している企業は、取引相手方たる役所の都合によって、突然、取引自体が消失したり、消失しないまでも相当程度、規模を縮小することになったりして、不幸に見舞われることがあり得るのです。

また、コンプライアンスという観点からも、役所は些細な不祥事であれ、少しでも問題があれば、問答無用で取引を停止します。

すなわち、談合その他の法令違反があれば、軽重を問わず、指名停止扱いとなり、以後、役所との取引から徹底して排除されることになります。

役所からの仕事に依存しているような企業がこのような事態に直面した場合、その企業の命脈は直ちに尽きてしまいます。

実際、筆者が仕事として経験した事案ですが、ある会社において、地方の一営業所の営業マンが自治体職員を接待する、ということが明るみになり、これが贈賄事件に発展して、新聞に報道されてしまいました。

それからまもなく、当該自治体のみならず、ほかの自治体の取引も一切できなくなり、役所からの発注に依存していた主要営業部門が機能停止に陥りました。

その会社は、役所依存から脱却しようと、民間からの受注も開拓していた矢先であったのですが、結局、主要営業部門の取引停止をカバーするだけに成長しておらず、たちまち破綻状態に陥りました。

結果、会社は、再生を断念し、破産に至ったのです。

役所と取引するのは大いに結構です。

しかし、役所との取引の依存割合が極度に高いと、役所の予算の都合で突然取引そのものが廃止されたり、些細な事件や事故がきっかけで事業が全て停止に追い込まれる危険があるのです。

したがって、漫然と役所からの受注に全て依存するというスタンスの企業は、企業の行く末に大きな危険をはらんでいるものといえます。

初出:『筆鋒鋭利』No.95、「ポリスマガジン」誌、2015年7月号(2015年7月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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