01502_株式会社には「責任者」などという者は存在しない_1_「有限責任」とは社会的・一般的には「無責任」とほぼ同義

企業不祥事などが発覚すると、マスコミなどはこぞって
「企業はきっちり責任を自覚せよ」
「経営者は責任を免れない」
「株主責任を果たすべき」
などと報道します。

しかしながら、株式会社には、法理論上、責任者などという者は全く存在しません。

といいますか、株式会社制度自体が、そもそも
「誰も責任を取ることなく、好き勝手やりたい放題して、金もうけができ、もうかったら分け前がもらえるオイシイ仕組み」
として誕生したものなのです。

すなわち、株式会社制度の本質上、関係者はやばくなったら逃げ出せるように設計されているのです。

株式会社制度に関する説明を探してみると、
株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とする。当該目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで、会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を割合的単位として細分化した。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにしたのである
といった類の記述が見られます。

これじゃあ、まるで外国語ですね。

一般人でもわかるように
「翻訳」
して解説します。

日本語のセンスに相当難のある人間が書いたと思われる上記文章が、伝えたかったことは、
デカい商売やるのには、少数の慎重な金持ちをナンパして口説くより、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい。とは言え、小口の出資しかしない貧乏人に、会社がつぶれた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さない。だから、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしてやるようにした。これが株式会社だ
ということです。

「株主は有限責任を負う」
なんてご大層に書いてありますが、
法律でいう「有限責任」
とは
社会的には「無責任」
という意味と同義です。

ちなみに、
「有限会社」や「有限責任組合」
とは、我々の常識でわかる言い方をすれば
「無責任会社」「無責任組合」という意味です。

「ホニャララ有限監査法人」
とは、
「監査法人がどんなにありえない不祥事を起こしても、出資した社員の一部は合法的に責任逃れできる法人」
の意味である、と理解されます。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01501_ゴーイング・コンサーン(「企業は永遠の生命を持つ」という前提ないし仮定)は、強引なコンサーン_4

「ゴーイング・コンサーン」
という言葉を聞かれた方がいらっしゃると思います。

これは、企業会計上の用語で
「企業が将来に渡って無期限に事業を継続する」
との理論的前提をいいます。

要するに、
「企業は永遠の生命をもち、決して廃業や解散・清算などをしないんだ」
という理屈です。

また、ゴーイング・コンサーンは
「企業は永遠に継続するのであるから、社会的使命・責任がある」
という意味で使われることもあるようです。

ところが、現実には、企業というのは結構あっさりつぶれちゃいます。

起業1年目で約30%近くが消滅するそうです。

また、よくいわれる指標が、
「5年後の生存率は約40%、10年後では約25%の企業しか生存していない」
というものです。

古いものになりますが、日経新聞が調べた倒産企業の平均寿命という統計データがあります。

1996年から2014年までの期間、毎年倒産した企業について社歴を調べ、これを平均化していったものです。

これによりますと、一番平均寿命が短かった年で15.9歳、一番長かった年でも24.5歳。

単純に平均すると21.5歳となります。

なお、これは
「きちんとした法的整理を行って死んでいった会社」
の寿命の平均です。

「きちんとした法的整理を行って死んでいった」
とは、
「それなりの費用を負担して、葬儀屋(破産申立をする弁護士)と読経する坊主(管財人弁護士)を雇い、葬儀場(破産裁判所)できちんとしたお葬式(破産手続という立派なセレモニー)を行って法人格をきちんと消滅させた」
という意味です。

世の中には、破産手続きをすることもなく借金を踏み倒して事実上休眠してしまうような会社、すなわち
「葬儀費用すらなくなったため、葬式を上げずに野垂れ死する」
といった会社も相当あります。

こういう“暗数”を含めると、日本の会社の平均寿命って、おそらく15歳以下であろうと思われます。

ちなみに、世界でも最も寿命が短い国といわれるシエラレオネですら、平均寿命が46歳を超えているそうです。

これと比較しますと、日本の会社というものの
「短命っぷり」
は相当なもんです。

以上からしますと、
ゴーイング・コンサーン、すなわち
「企業が永遠の生命を有する」
などという理論的前提は、
「相当、ゴーイン(強引)な仮説(コンサーン)である」
といえます。

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01500_ゴーイング・コンサーン(「企業は永遠の生命を持つ」という前提ないし仮定)は、強引なコンサーン_3

倒産する会社には何らかの共通する特徴が存在します。

弁護士や経営コンサルタント、その他
「会社の中枢と直接コンタクトを持ち、倒産に関わった経験を一定量有する専門家」
が見ると、いかに経営陣が糊塗隠蔽しようが、
「この会社はヤバイな」
という兆しのようなものが見えるのです。

著者の経験したケースを申し上げます。

ある会社は、見た目には順調で、全く問題のない会社でした。

創業から10年も経過していないのに売上は数十億円もあり、どんどん業容を拡大していき、従業員を増やしていきました。

社屋は短期間に何度も引っ越しましたが、引っ越す度に、豪華に、また都心に近づき、これに比例して家賃が高くなっていきました。

ただ、不安や問題点もいくつかありました。

儲かっているわりに、相当古いパソコンを使っており、従業員のメールも大手プロバイダのメールを何人か共有で使い、スケジュール管理はグループウェアではなくホワイトボードでした。

営業上の課題は、新規開拓です。

これには苦戦していました。

新規開拓のために営業を強化しようという意思はありました。

営業計画のようなものも作っていました。

しかし、営業計画の中身は、個々の営業マンに課したノルマをエクセルで集約しただけのものでした。

この会社の営業強化の方向性は、マーチャンダイジング、すなわち顧客をひきつけるような新しい商品やサービスを作るようなものではありませんでした。

営業マンの個人の能力に依存し、ノルマを管理し、気合・根性論系の営業指示を行う類のものでした。

そのせいか、営業マンはしょっちゅう辞めていきました。

とはいえ、大手取引先から定期的に大きなロットの商売をもらっていたせいか、企業として は安定していました。

ですので、新規営業の苦戦があっても、それが会社の苦境につながるようなことはありませんでした。

社長は見栄っ張りで、金遣いも荒かったですが、気前のよさもあって彼の周囲には様々な人物が群がっていました。

しかし、群がっている人物を見ても、同業者や営業マンばかりで、社長の人脈にはあまりパ ッとするような人間がいないことは一目見てよくわかりました。

管理部門は存在せず、法務部門は当然のようになく、法律問題が出てくれば、税理士とか行政書士とか、弁護士資格を持たない外部専門家が、社長に盾つかず、質や信頼性はさておき、機敏に相談に応じ、文書その他のアウトプットを適当に作って寄越してくれる、という状況でした。

社長は常々、
「法務とか顧問弁護士とか、そんな面倒なものは一切いらねえんだよ。そんなもんなくたって、 信頼関係があれば大丈夫。ビジネスって信頼だよ。先生みたいな若い(※当時)弁護士さんにいってもしょうがないけどな」
という趣旨のことをいっていました。

社長室は汚く、特に社長室や副社長室の背面キャビネットは重要な書類が乱雑に突っ込んであり、それでも整理できない書類は、社長室の机の回りに平置きされている状況でした。

そうこうしているうちに、変化がおとずれました。

社業がかなりドメスティックな事業であ ったにもかかわらず、また、海外経験がなく英語もまるでできない社長の口から、
「海外進出を準備している」
「あの大手企業との提携が進んでいる」
「今度裏口上場をする」
「いや、海外で上場する」
「M&Aで起死回生だ」
「特殊なルートから競売がらみの不動産が安く手に入る」
といった類の、いかにも地に足のついていない話が突然出てくるようになりました。

また、その次に社長に会うと、さらに、M&AやSPCやらファンドやらオンバラやらオフバラやら、といった話が出てきました。

詳細を聞いても、
「『又聞き』に『知ったかぶり』が加わった程度の理解」
でしかなく、何とはなしに浮足立った様子が垣間見えました。

で、詳細を聞こうとしたり、あるいは
「ビジネスに一発逆転はないのだから本業を地道にされたらどうか」
と助言すると、
「先生はビジネスのことをさっぱりわかっていない。事業というのは そういうもんじゃないんだよ。東大出たか留学したか知らないが、これだから机の上の勉強しかしてこなかった秀才君はダメだな」
と言い返される始末でした。

周囲でいろいろ助言している連中がどう見てもハイエナじみた顔をしていたので、親切心で契約の中身や詳細を尋ねようとしました。

しかし、そんな進言をしても、却って
「先生も一枚噛みたいの? でも、出る幕ないよ」
と返される始末で、流石の私も放っておかざるを得ませんでした。

そして、このあたりからこの会社の命脈は長くないな、と直感で理解できるようになりました。

結局、これらの気宇壮大な話は、すべて失敗に終わりました。

海外進出の話やM&Aの話をもってきた連中にいいようにぼったくりされたようでした。

会うなり、社長は、
「だまされた。詐欺だ」
と激昂していました。

冷静になった社長から
「アドバイザーやコンサルティングの連中を詐欺で訴えたい」
と今更ながらのお話をお伺い、詳細を確認しました。

ですが、中身を知れば知るほど、
「社長が知ったかぶりで舞い上がっていて一人相撲を取っていただけで、騙された社長が悪い」
ということが明らかになってきました。

「すべて社長が一人相撲で空回りしてはしゃいでおり、それに付き合わされた関係者が相応の手数料を徴収しただけ」
というのが実態だったのです。

法的な意味での権利や請求が構築できるような事案でなく、社長の怒りに付き合って詐欺などと訴えれば、逆にこちらが名誉毀損や不当訴訟で訴えられかねないような類の話でした。

私が理由を述べて
「こりゃ無理ですわ」
と受任を断ったところ、立腹した社長は、
「役に立たない。顧問契約を解除する」
と私に対して言い放ち、それ以来音信不通になりました。

その後、しばらくたってこの会社が破産したという話を聞きました。

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01499_ゴーイング・コンサーン(「企業は永遠の生命を持つ」という前提ないし仮定)は、強引なコンサーン_2

倒産を考えている企業や、倒産状態になってしまった企業は、
「倒産しそうだ」
「来月にはヤバイ」
「倒産の準備をしている」
「手形が落ちそうにない」
などと予定を公表することはしません。

こんなことをしたら、ほぼ全ての債権者がハイエナのように押し寄せて、却って大混乱にな ってしまうからです。

したがいまして、企業が倒産する場合、債権者を含めた関係者、もっと言うと社内の従業員や役員の一部にすら、全く知らせないまま、極秘裏に倒産を準備します。

そして、ある日突然、
「(社長とごく一部の役員を除き)関係者全員、寝耳に水」
の状態でいきなり倒産が発表されるのです。

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01498_ゴーイング・コンサーン(「企業は永遠の生命を持つ」という前提ないし仮定)は、強引なコンサーン_1

今から20年とか30年前。

元号が昭和だった時代。

企業というのは、滅多に倒産しないものでした。

昭和時代、
「学校を出て就職した企業が定年退職するまでに倒産してなくなる」
などということは滅多に耳にすることはありませんでした。

決して潰れることのない企業に就職した我々のオトーサンたちは、
「終身雇用」
という、現在で は死語となったシステムの下、考えられないくらい長期間働き続けました。

また、辞めてからも退職金や企業年金をもらう形で、死ぬまで企業と付き合いが続きました。

まさしく、会社は永遠に生き続ける存在だったのです。

ところが、元号が平成に変わったあたりから、変化が訪れました。

突風のようにやってきたバブルはあっという間に崩壊しました。

そして、バブル崩壊と同時に倒産が激増しはじめました。

最初は、体力のないところの倒産から始まります。

零細企業がプチプチつぶれはじめ、これに連鎖して中小企業もドミノ倒しのようにバタバタと倒れました。

倒産の波は中小零細企業にとどまりません。

バブル崩壊以後、老舗の大手商社が倒産し、大手証券会社や銀行までもが倒産するようになりました。

「銀行は絶対つぶれない」
という神話がありましたし、ペイオフ(預金の払い戻し保証額を元本 1000万円とその利子までに限定する預金保護制度)が発動されることはない、ということも言われ続けました。

しかしながら、現実に、2010年9月に日本振興銀行が破綻し、1971年の制度創設後初めて ペイオフが発動され、ペイオフ限度超の預金を保有していた 3560人の預金者の預金約120億円 が、露と消えました。

また、2010年には、
「親方日の丸企業」
として
「絶対つぶれない企業ナンバーワン」
「大学生が あこがれる就職先上位ランクイン企業の常連」
だった世界的航空会社JAL(日本航空)までも会社更生法の適用申請を行い、事実上破綻しました。

「さすがに、きちんと国交省からお免状をもらって指導を受けながら商売している航空会社の破綻はもうこれ以上はないだろ」
と思っていたら、今度は国内航空会社3位のスカイマークが 2015年1月28日、民事再生法の適用を東京地裁に申請し、事実上破綻しました。

東日本大震災後に発生したシビアな原発事故や、事後対応のまずさを見ていますと、天下の電力会社だって、次に発生する大震災で原発事故が発生した場合、会社が存続しているかどうかわかりません。

前述のとおり、昭和の時代においては企業倒産は衝撃の出来事でした。

しかし、平成も四半世紀以上たった現在では、我々の方でも
「どんな大企業であっても、あっさり倒産するもんだ」
ということがフツーに理解認識できるようになり、多少のことでは驚かなくなりました。

「倒産」
という事態にすっかり耐性ができた我々は、著名な大手企業の破綻話を聞いても、
「なんか、『最近流行っていないなぁ』と思っていたが、やっぱり、経営が思わしくなかったんだ」
と感じるくらいで、さほど驚かなくなってきました。

たとえば、明日、大手家電メーカーや大手自動車部品メーカーや大手金融機関がつぶれたとしても、私たちはたいして驚かないのかもしれません。

弁護士は、一般の方々よりも倒産という場面に立ち会うことが多い職業です。

自分の顧問先企業が倒産する場合もあれば、倒産を検討している会社から破産や民事再生の申請を依頼される場合、さらには、顧問先企業から
「取引先が倒産したので債権回収をどうする」
という相談を受ける場合なども含めると、
「弁護士は、ほぼ毎日企業倒産に接している職業である」
ということがいえるほど倒産が身近な職種といえます。

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01497_弁護士を上手に使いこなすためのTIPS(コツ)

弁護士業という生業は
「時間」
という資源を切り売りして成り立っています。

したがって、弁護士は切り売りする唯一無二の商品である
「時間」
を常に意識せざるを得ず、したがって
「超のつく『時間貧乏』」
でもあるということです。

準備も資料なく弁護士を訪問し、ゆっくり時間をかけてこちらの話をしようとしても、経緯を話すだけで相談時間が終わってしまいます。

もちろん、その時間の相談料ないしタイムチャージは取られますが、これは時間を切り売りして生活をする弁護士としては、やむを得ない措置なのです。

そもそも法律相談に限らず、
「事情を知らない第三者に、自分しか知らない固有の事情を前提に相談する場合、事前に説明資料を用意して、現場では短時間で端的に説明する」
というのは、当たり前といえば当たり前です。

ロクな準備をせず、手ぶらで雑談でもするかのような体で、クソ忙しい時間貧乏のプロに相談をもちかけ、貴重な時間をさんざん奪っておきながら、
「なんですぐ私のことをわかってくれない!」
「準備不十分で、説明に時間がかかったからといって、カネを取るのか!」
と逆ギレする方が非常識です。

とはいえ、世の中には、
「事情を知らない第三者に、自分しか知らない固有の事情を前提に相談する場合、事前に説明資料を用意して、現場では短時間で端的に説明する」
という当たり前のことをできていない非常識な人間が圧倒的に多いのも現実です。

もちろん、慣れていないということもありますが、日本人一般に
「事情を知らない第三者へ自分の事情を説明すること」
が圧倒的に下手くそだからです。

よく
「日本人は英語が下手」
といいますが、発音や抑揚ではなく、
「知らない文化圏の人に対して、自分のことを相手の理解力や受容能力や理解の前提となるバックグラウンドに即応して、手際よく伝えること」自体
が苦手だから
「英語が下手」
につながるのです。

「英語でのスピーチは無理!」
と敬遠する日本人は、なにも英語に限らず日本語でのスピーチでも苦手なはずです。

要するに、この現象は、
「言葉の問題」
ではなく、
「コミュニケーション能力」
の問題なのです。

これが法律のトラブルとなると、もっぱら過去の事実を整理して伝えることになります。

「5日前の昼飯は何を食べたのか教えて?」
と問われたら、たいていの人は絶句します。

過去のこととなると、そんな直近の現象すら思い出すことが大変なのですから、
「長期間かけて行き違い、勘違い、思惑違いが醸成されていった経緯全体を整理して要領よく話すことに困難を覚える」
という状況は気持ちとしては理解できます。

ですが、事実や経緯の正確な把握ができないと話は全く前に進みませんので、時間貧乏の弁護士の先生に無駄な負荷をかけず、そして相談費用を合理化するためにも、相談に行く前に過去の事実をきちんと思い出し、主観を交えず簡潔に整理して、関係資料も事前に整理して持参することを是非行っていただくべきと思います。

もちろん、生い立ちや会社の設立経緯などは不要です。

自分が、トラブルになった取引や人間関係が形成された起点あたりから経緯をまとめれば十分です。

弁護士費用は一般的に高いと思われるかもしれませんが、弁護士にとっては
「時間」
が唯一の資源で、これを切り売りする職業だからこの前提は変えようがありません。

この点は、所与として受け入れるほかなく、逆にこういう正当でフェアにやりとりすべきところで妙なケチり方をすると後でとんでもないしっぺ返しを被ることもありますので、そのあたりは十分考慮する必要があります。

それでも弁護士費用を下げたいのなら、
「資料を作り込む」
などの工夫が必要でしょう。

弁護士さんとしては気持ちや心意気で仕事をしている方も相当いらっしゃいます。

きっちりコミュニケーションが取れ、
「なんとかしてあげたい!」
という気持ちがあり、各種手続きを行う際に、自分の事情をまとめることをきちんと依頼者サイドで行って、弁護士の時間や負荷を軽減してくれる
「良き依頼者」
であれば、ディスカウントや分割払いアレンジもしてくれる、そんな良心的な方がいらっしゃいます(例えば、「安かろう悪かろう」の弁護士に荷が重すぎる事件を依頼して失敗する、着手金段階できっちり精算される、安い分だけ手を抜かれるか切所で踏ん張りが効かず適当にギブアップされてしまう等)。

費用が高い、納得できない、安くしてほしい、ということも、理由がある場合はその旨を伝えれば、きちんと回答をもらえるはずです。

そうしたところも含めて柔軟にコミュニケーションを取って、本音ベースできっちりやりとりをしておくべきです。

費用や報酬の話は非常に大切です。

おろそかにせず、フェアで、双方納得感のある、きちんとしたディールを行うことが求められます。

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01496_民事再生や破産やその手前段階における「ルール違反行為」としての、詐欺再生罪や詐欺破産罪や強制執行妨害罪とは

「財産の隠蔽や依怙贔屓(えこひいき)弁済やヤケになって放埒な散財をする等」
といった、債権者(銀行)を怒らせてしまうアンフェアな行為をしておきながら、破産や民事再生の申立をして、借金を一部カットしたり
「チャラ」
にしてもらおう、というのは、不当かつ許しがたい行為とされます。

このようなナメた行為をすると、再生計画認可や破産免責は受けられず、最悪の場合は詐欺再生罪、詐欺破産罪という犯罪で訴えられるリスクも生じます。

詐欺破産罪の例を挙げると、栃木県にあるホテルが破産手続きを開始しましたが、破産手続き中に財産を別の会社へ移転したことで、詐欺破産と競売妨害を理由に関係者が逮捕されたケースなどがあります。

また、破産や民事再生をしなくても、別の犯罪が成立する危険もあります。

そもそも債権者としては債務者所有の資産に対して、強制執行(差押さえして、換金して、弁済に充てる)をすることが可能です。

強制執行を行うにあたり、財産を銀行に預けていたり、自宅の目につくところに金塊や宝飾品を陳列しておれば強制執行は容易です。

ところが財産があっても、誰にも分からないところに埋めて隠したりすると、強制執行をしようにも資産がどこにあるか分からない……という状況になり、強制執行ができなくなります。

そんなことを許していたら誰もお金を貸さなくなるのは当然ですし、強制執行という債権者の回収手段として、国家の整備したシステムが機能不全に陥ります。

こういうことから、資産を隠して強制執行を逃れようとすることについては、強制執行妨害目的財産損壊等罪という犯罪(かつては強制執行妨害罪と称していた)によって処罰されることになっています。

強制執行妨害罪と耳にすると、なんだか凶悪で大それた犯罪に思えますが、誰でも簡単にできてしまう側面があります。

例えば、債権者から強制執行を避けるため、自分の手元に残していた現金を友人に頼んで貸したことにする。

これも立派な強制執行妨害目的財産損壊等罪です。

ところで、この強制執行妨害目的財産損壊等罪ですが、以前に強制執行妨害罪と呼ばれていた時代は、刑法の条文上は存在するものの、処罰例が極めて少なく、たとえ犯罪行為があったとしてもまず処罰されない、空文ないし死文(形骸化された条文)と考えられてきました。

その潮目が変わったのが1996年のことです。

オウム真理教の麻原彰晃の主任国選弁護人だったA弁護士が、強制執行妨害罪で逮捕・起訴され、有罪が確定したのです。

これは任意整理中で休眠会社に資金を不当に送金したという内容が、強制執行妨害目的財産損壊等罪に該当したためです。

A弁護士が麻原彰晃の弁護人として、手練の刑事弁護人として徹底した弁護活動を精力的に活動していたことや、強制執行妨害罪が事実上空文ないし、死文化していた実務慣行もあり、
「国策捜査」「政治目的」「不当逮捕」「不当起訴」「当裁判」
との声が高まり、A弁護士を支援する弁護人が数多く集まりました。

そして大弁護団が結成され、A弁護士無罪獲得に向けて、徹底的な弁護活動が展開されました。

しかしながら、最終的には有罪が確定される結果に終わったのです。

これは
「A事件」
と呼ばれて法曹界では有名ですが、この事件により
「強制執行妨害目的財産損壊等罪は、空文、死文の類ではなく、現実に処罰発動される、実効性のある条文だ」
という事実を、多くの弁護士が再認識させられた意味でも有名な事件となりました。

こうした話を聞くと
「第二会社設立」
というスキームを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、これも状況によっては民事上の詐害行為として、後から債権者から訴えられて取り消される場合もあります。

この
「第二会社設立」
というのは、財政状況が悪化して債務の支払いが不能になった企業から、収益性の高い優良な事業だけを別会社(第二会社)へ分離する事業再生手法です。

要は不採算部門を切り捨てて優良事業だけを残します。

一部の書籍やインターネットの情報では
「第二会社設立」
を勧めていますが、民法上は債権者を害する違法事例として、スキームの適法性が争われる可能性もあるので注意が必要です。

繰り返しになりますが、
「危機時期に陥ったのに無理して資産を持ち続けよう」
とすれば何らかの法的問題が生じ、思わぬペナルティーを課せられるリスクが生じます。

個人の民事再生の場合、隠れてコソコソ資産隠しをしてリスクを背負うより、住宅ローンで住宅資金特別条項等、明確に整備されたシステムを正々堂々と使う場合は、家を残せる可能性があります。

いずれにせよ、弁護士等のしかるべき専門家が、きっちりとした根拠をもってフェアに進めるのが一番です。

バックグラウンドが不明な方が提案する、
「アンフェアな方法を姑息に行い、うまいこと手元に資産を残す」
という身勝手なスキームを安易に進めると、取り返しのつかないことになる危険があるので、十分注意すべきです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01495_破産とは

自己破産を、民事再生との違いをいいますと、破産のメリットは、何といっても一切返済する必要がなくなるチャンスが生まれることです。

法人の破産の場合、そもそも法人格が消滅しますので、返済もヘッタクレもありませんが、個人の場合は、その後の人生の再生には非常に大きな意味と価値があります。

個人に関していいますと、民事再生の場合は
「再生計画」
というのがあり、終わったあともしばらくは払い続けなければなりませんが、自己破産で、免責決定を受けられると、キレイサッパリ債務がなくなり債権者と縁が切れます。

一般的なイメージでいいますと、
「破産宣告」
というセレモニーとは、誰かから怒られたり、非難されたり、罵倒されたり、文句をいわれたり、犯罪者の如く扱われる、というネガティブなイメージが持たれるかもしれません。

しかし、
「破産宣告」
の本来的な意味のは、
「目の前の破産申立人の方が現状の資産、収入、債務、支出を考えると、債務が到底払えない状態にありますね」
ということを、公的な第三者が確認して、この確認した内容を表明する。

それだけです。

単なる
「事実の確認と表明」
であり、何か非難されたり、叱られたり、文句や非難をされたり、という懲罰的要素は皆無です。

そもそも、なぜ、こんな
「ある経済主体の経済状況に関する事実の確認と表明」
という手続きが存在するのかというと、ある経済主体(人間であったり、企業であったり)の
「経済的な状態」
というのは、第三者には全くわからないからです(本人すらよくわかっていないケースもあります)。

すなわち、ある人が借金を負っていたり、ある会社が多額の負債を抱えていても、十分な収入があったり、資産があれば、問題なく、やっていけます。

他方で、一見すると豪邸に住んでいて、いい車に乗っていても、支出と収入のバランスが悪く、また現金資産がないので支払いができずに、来月の支払いがパンクして破綻する、という人もいたりします。

このように、ある人が経済的に健全な状態か、それとも破綻状態なのか、というのは一見して判別できるものではなく、また、本人が
「厳しい、厳しい!」「苦しい、苦しい!」
あるいは、
「好調、好調、絶好調!」
とアピールしても、実は逆の状況であったりする場合もあるのです。

ですから経済状態を確実に把握して明確化するには、公的機関の確認プロセスを経由しないと判断できない、ということがあるのです。

そこで
「『この申立人は、第三者による確認調査をしたところ、たしかに経済的に立ち行かなくなったので債権を弁済できない状態にある』
ということを、公的に確認して宣言するという、非難や懲罰の要素もない単純な事務手続きが、今後の処遇を検討する上で必要になるので、
『破産宣告』
という手続きを国家として整備した」
本当にこれだけの意味として、この一見しておどろおどろしい名称の手続きが存在するだけです。

ですから、破産宣告自体、非常に事務的な手続きとして行われますので、緊張する必要もビビる必要もありません。

破産というと、様々なネガティブで印象がつきまといがちですが、焼きゴテも、足につける鎖も、収容所での強制労働も、一切ありませんので、ご安心して差し支えありません。

このように、破産宣告自体は、事務的でドライな手続きであり、あまり意味がないのですが、個人の民事再生の場合、その後の
「免責」
には非常に大きな意義と価値があります。

破産宣告の後、次に破産申立人の負っている債務をチャラにするか、チャラにしないか、という
「徳政令発布」
の手続きが行われますが、これが
「免責」ないし「免責審尋」
といわれるものです。

債権者平等原則に違反して身内への依怙贔屓弁済をしていないか、
ギャンブルで作った借金はないか、
財産を隠すなどの不正行為していないか、
などのチェックをして、やましいことがなければ
「免責決定」
すなわち徳政令が出され、晴れて債権が全チャラとなって経済的再スタートが切れる、という仕組みです。

破産手続きが開始されると、基本的には残っているすべての財産は、裁判所が指定した第三者の管理下に置かれた上で、これらはすべて破産手続費用に使われ、さらに残りがあれば債権者に平等に配当されることになります。

この破産申立人の財産を管理する
「裁判所が指定した第三者」
を、
「財」産を「管」理する人、
すなわち破産管財人と呼ばれます。

これは、ほぼ例外なく弁護士(破産申立をする弁護士とは「別」の弁護士。 すなわち、管財手続きが発生する事件の場合、弁護士が最低2名関わることになる )が就任します。

もちろん、この破産管財人の弁護士の先生にも活動するためのギャランティが必要です。

このギャラを事前に用意しないと、破産手続きは進められません。

この管財人のギャラ(報酬金)のバンス(前払金)が
「予納金」
と呼ばれるもので、破産手続きの規模感によって定められるお金として、破産申立に際して納付が義務付けられるものです。

言葉はややこしく、
「予納金」
というと、後から返金があるように思われるかもしれませんが、いってみれば破産管財人弁護士先生の活動資金であり、全て、管財人の先生によってお召し上げになります。

そして破産者の財産は、破産管財人によって一旦財産プール(これを破産財団といいます)に入れられ、さらにお金以外の財産は、メルカリによる断捨離をするが如く、片っ端から換金処理されていき、最終的に財産プールにはお金しかない、という状態に持っていかれることになります。

とはいえタンスや服、冷蔵庫やテレビといった生活家財等は、そのまま持っていて差し支えありません。

この種の生活家財は、管財人弁護士からみれば
「ただのゴミ」
であり、換金の手間の方がかかるからです。

10年近く乗り回した車であっても
「ゴミ」
になる可能性があるので、管財人によって財産管理されたからといって、生活にはほとんど影響ありません。

加えて、この財産プールに貯められたお金のほとんどは、債権者に分配されるはるか手前で、弁護士の追加ギャラ(管財人報酬)として召し上げられます。

こういうこともあり、破産管財人の報酬を払っても、そこから先は不足があって、到底債権者に分配できない、というときは、
「もうやっても意味がない。破産管財人の活動費用考えたら無駄。よって破産手続きを廃止します」
という宣言(破産廃止決定)が行われ、そこで強制終了です。

財産が残っていればいろいろと分配の手間暇が発生するのですが、財産が無ければ何も手続きはないので途中強制終了というわけです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01494_民事再生とは

民事再生と破産をまとめて
「法的整理」
といいます。

「『任意』整理」
と対語になる、という意味で、
「『法的』整理」
という言葉が出てきます。

法的整理は、要するに、裁判所という国家権力を使って、
「借りたものは、約束通り、きっちり返す」
という契約法理を捻じ曲げて、有無を言わせず、債権を大幅カットする、という
「鎌倉時代等の徳政令」
に似た、強権手段を意味します。

特定調停も、裁判所を舞台にし、裁判官が出てきますが、あくまで、仲介役というか、お節介役であり、
「契約に基づき発生し、法的に有効に存在している債権を、債権者に意向を無視してぶっ飛ばす」
という過激かつ強権的な手段は使えません。

特定調停が出来るのは 「債権をカットされればどうでしょうか?」
という提案であり、お節介だけです。

その意味で、特定調停は、任意整理のプレミアム版、という位置づけです。

この、法的整理ですが、大きな括りでいうと、民事再生と自己破産があります。

ざっくり申し上げると、
「民事再生は債権の一部カット(一部チャラ)」
「自己破産は全額カット(全額チャラ)」
という、
「徳政令の過激さの度合いによる区分」
といえます。

法人の場合は破産によって法人格は消滅し文字通り成仏ないしお陀仏となってしまいますが、個人の場合、自己破産でも、再生出来ないわけではありません。

すなわち、個人の場合、自己破産、すなわち、経済的なお葬式を挙げたあと、キリストの復活ではありませんが、復活の儀式がきちんと用意されているるのです。

これは、
「免責」
と言われるもので、破産によって確定した破産債権を、全額チャラにして、これから、再スタートを切ってがんばれ、という再生手続きがきちんと用意されています。

ですので、個人の場合でみれば、民事再生も、自己破産も、いずれも、
「支払いができなくなった債務者を、国家権力が介入して、借金を一部または全部チャラにして、借金の無間地獄から救済する」
という点では趣旨を同じくするものです。

個人の民事再生については、いろいろな特殊パターンが存在します。

例えば、個人の民事再生事件で、5000万円以下の担保がない債権がある場合、原則3年間で返済する
「再生計画案」
を作成して許可されたら、借金がなくなります。

「3000万円のうち2000万円をカットするので、年間330万円を3年間返済して、残りはチャラ」
というイメージです。

また個人の民事再生事件で、再生債務者が
「マイホームを残したい」
という意思が特に強い場合、
「マイホームの清算価格分だけ支払い、残りはチャラにして、助けてよ」
という柔軟な交渉も可能です。

例えば、マンションを5000万円で買ったけれども、ある程度ローンを支払い、今はローン残額が1200万円だったとしましょう。
この場合、
「マンションのローン残1200万円についてはきっちり返すので、家だけは手元に残すことにして。その他のローンは、チャラにして、助けて」
という要望が通る可能性がある、というわけです。

したがって、個人の民事再生事件については、
1 マイホームなど、どうしても残したい生活基盤を別枠にして、借金チャラの交渉をしたい場合、
2 言葉の問題として、「民事再生」という響きであれば我慢できるが、「破産」というおどろおどろしいレッテルを貼られるのはどうしても避けたいというセンチメントをお持ちの場合、
破産ではなく、民事再生が検討されるべきことになります。

逆にいうと、個人の民事再生事件について
「家は賃貸でいいし、車も必要ない。今の生活家財だけで十分」
だし、
「破産だろうが民事再生だろうが、言葉は違うが、まあ、同じようなもんだし、同じように裁判所にお世話になるんだったら、綺麗さっぱり全額チャラにしてもらって、すっきり再スタートを切りたい」
ということであれば、民事再生より、むしろ破産を選ぶことになります。

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01493_「裁判所の『威』を借りる狐作戦」で債務問題解決を志向する「特定調停」とは

任意整理は法律には載っていないので、場所はホテルのロビーでも銀行でも弁護士会の会議室でも構いません。

話の折り合いがつけば、電話でも大丈夫です。

ただ、やはり交渉ごとなので、お互い立場を譲らず、話をぶつけうだけでうまくまとまらない場合もありえます。

そんなときは、仲介役がいたり、それなりの舞台装置があったりしたほうがうまく運ぶかもしれません。

そんなときに役に立つのが
「特定調停」
です。

任意整理と特定調停の違いは、簡単にいうと
「仲介役と場所」
です。

特定調停は簡易裁判所で、裁判官と調停委員という
「民間のお節介役(落語に出てくるご隠居さんのような感じの世話焼きの人)」
もまじえて(実際は、裁判官は滅多に調停の場に出てきませんが)行います。

特定調停は、いわば、任意整理のアップグレード版、すなわち、
「裁判所の『威』を借りる狐作戦」
のような形で、裁判所を味方につけて、無理なお願いを通して窮地を脱する方法です。

以前、任意整理から特定調停に発展したケースがありました。

はじめは銀行を相手の任意整理ではじまり、銀行側も強硬な姿勢で、無理な提案ばかりしてきて暗礁に乗り上げました。

強硬な対応に債務者側は困ってしまい、簡易裁判所に
「特定調停」
を持ち込みました。

すると、銀行員の態度は一変しました。

また、特定調停中であっても、債権者は取り立てや差し押さえが可能です。

もしそれを避けたいのなら、特定調停の中で
「執行停止の申し立て」
をしなければなりません(ただこれには担保が必要なので、あまり使われることがありません)。

とはいえ、仮にも裁判所を仲介役として真摯に話し合いをしているところで、差押といった強硬な手段を行うと、裁判所から睨まれかねないので、執行停止の申立をしなくても、差押リスクは事実上とはいえ低減されることが期待されます。

ここで、任意整理リスケの違いについてもおさらいします。

まず、リスケは、あくまで、経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス、すなわちビジネスマターにおけるネゴ、と考えられます。

ここでは、取引自由の原則、すなわち、誰と、どのような条件で、どのような取引をするも、当事者間の自由、と考えられますので、
「あれやっちゃいけない」
「これやっちゃいけない」
といった法の介入を考える必要は少ないといえます。

結果、借入金融機関や債権者が複数以上いるような債務者がリスケを行う場合、金融機関ごとや債権者ごとに返済条件が変わって不平等感が出る可能性があります。

とはいえ、
「経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス」
であり、最終的に、すべて債務が返済できる、という期待が働きますので、不平等感があったとしても、
「約束どおり返済されたのだから文句ないでしょ」
という形で、法的に問題は生じにくいのです。

ところが、債務の減免を伴う任意整理段階に至ると、これは、もはや、
「経済的に健全な債務者による、正常な取引プロセス、すなわちビジネスマターにおけるネゴ」
ではなく、
「約束どおり行動していては経済的に破綻しかねない、破綻者ないし破綻者予備軍の、約束を捻じ曲げての例外処理」
となり、リーガルマターと判断されます。

リーガルマターとなった場合、破綻処理ないし破綻者予備軍のための解決において、絶対的なルールとして、頭をもたげてくる原則があります。

これは、債権者平等の原則、といわれるものであり、債権者の誰かしらに迷惑を欠ける以上、
「依怙贔屓」
や、
「早いもの勝ち」
「強いもの勝ち」
など、同じ立場の債権者の間において不平等の扱いはご法度、というルールです。

ここで、
「同じ立場の債権者」
というのは、
「一定の含みのある言い方」
で、例えば、
「銀行は不動産に抵当権をくっつけているが、最後に貸し込んだ取引先や知人やノンバンクにはそういう抵当権設定はしていない」
という場合、銀行は、債権者平等の原則にかかわらず、他の債権者を押しのけて、悠々と、不動産を競売にかけて、競売代金を独占して自己の債権に充足して弁済できます。

このような債権者平等の原則があるため、債務者が勝手に、依怙贔屓をして、
「取引先や知人の借金は優先して全額返すが、後の債権者は5割カット」
といった悪さをしないよう、窓口を一本化して条件を平等にする必要があり、このため、任意整理については、弁護士が窓口を管理して、全体を制御することが必要となるのです。

この点でいえば、特定調停では、最終的な話し合いの決着について守るべき絶対的ルールが明確に存在するわけではありませんが、特定調停を使ったリスケであれば格別、債権者に減免をお願いするような任意整理の趣旨を含めた処理の場合、債権者平等の原則を守るため、弁護士や法律のプロが介入し、偏頗弁済(ある特定の債権者にだけ返済する行為)にならないよう注意をしながら進める必要があります。

運営管理コード:YSJGK159TO163

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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