00945_企業法務ケーススタディ(No.0265):内「々」定切りなら大丈夫!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十七の巻(第37回)「内『々』定切りなら大丈夫!?」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
就職活動中の学生

内「々」定切りなら大丈夫!?:
当社では、多めに内々定を出しておき、 特に気に入った優秀な学生にだけ内定を出し、気に入らなかった学生については内定を出さずに内々定を取り消せばよい、と考えています。
内定取消しをした会社が学生から訴えられて損害賠償を請求された最高裁判例があるので、内定ではなく、内々定で取り消せば、
「労働契約が成立した」
とはいえない状態だから、問題ないでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「内定」とは
最高裁は、採用内定について、
「労働契約が成立した」
と判断を下しています(最高裁第二小法廷昭和54年7月20日判決「大日本印刷採用内定取消事件」)。
内定通知を学生に出した後は、労働契約締結のために、特に改めて会社から学生に対して意思表示をすることが予定されていないのが通常ですので、上記判例以後は、
「採用内定通知は、労働契約を成立させる」
と考えられるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:内「々」定とは
近年では採用内定日を10月1日としつつ、それよりも以前に、会社の採用担当者が学生に対して、採用が決まったことを口頭で通知し、採用内定日に、正式な書面にて
「内定」
の意思表示をする慣行があり、正式な
「内定」
に先行する通知は、
「内々定」と呼ばれています。
高裁判決(福岡高裁平成23年2月16日判決(労働契約が成立したか否かについての判断)では、会社と学生が労働契約は成立していないとしつつも、
「内々定」
の取消しについて、信義則違反による不法行為に基づく慰謝料請求(22万円)を認めました。

助言のポイント
1.「ヒト」という経営資源は、「モノ」「カネ」などと異なって、人権保障の見地から、法律や判例が強い規制を働かせている。「ヒト」を「モノ」や「カネ」と同じように扱うと、必ずトラブルが発生する。
2.契約締結に至っていなくても、契約が締結されると期待していた相手方から、「契約締結上の過失」理論によって損害賠償を請求されることがある。契約締結が難しくなる事情が発生した場合は、相手方にそれを説明しておかないと、裁判所で「オマエは不誠実だ」といわれて損害賠償を命じられることになる。
3.どうしても内々定を取り消さざるを得ない場合には、取消した理由をキチンと説明できるようにしておこう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00944_企業法務ケーススタディ(No.0264):特許の効力範囲~均等編~

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十六の巻(第36回)「特許の効力範囲~均等編~」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
なし

特許の効力範囲~均等編~ :
当社は、「痛くない注射器」の技術の特許権を侵害せずに、機能は確保しつつ、安値で販売しようと考えます。
特許で公表している針の素材と異なる素材をつかうことで、特許権侵害にならないはずです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許権の範囲2540
特許権者には、自分の技術内容を日本語で端的に説明させるとともに、第三者に対し明確に知らせるという制度が構築されています。
特許の効力の及ぶ法的限界を
「特許請求の範囲」(以下「クレーム」)
と呼びます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特許侵害とは
特許侵害とは、
「クレームに記載されている技術内容のすべてを勝手に利用する」
ことです。
少々似たようなモノを創り上げたとしても、特許のクレームに記載されている要素を少しでも欠ける形で実現しているのであれば、特許権への侵害とはなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:均等侵害
「特許請求の範囲(クレーム)の記載とはほんの少しズレるみたいだけれど、あなたの行為は、特許権への侵害とほとんど同じ(均等)としか評価できませんので、『特許権侵害』ということにします」
という拡大解釈がなされることがあります(「均等侵害論」)。
「置き換えたといっても些細な部分にすぎないし(1.非本質的部分性)、その置き換えがされていても元の特許発明と同様の効果が出ているし(2.置換可能性)、大体その置き換え自体今の技術からすると容易に思いつくし(3.置換容易性)、しかも何年も前の出願時にその置き換えを権利者がフォローしておくべきことが酷といえるときには(4.特許出願時にその置き換えを容易に推考できたものではないとき)、出願中にあえて文言を付加したとかでなければ(5.侵害品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき)、均等侵害となる」
と、規範されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:クレームを実施していなくても侵害になる可能性は十分にあり
現代の技術からすると、クレームに記載された素材について、権利者に
「特許出願時に新素材の出現をあらかじめ予想してクレームを作成するように」
と期待することも酷なように思われることから、均等侵害と判断され得ると考えられます。
説例の場合、当社がほかに優れた特許を有しているのであれば、クロスライセンス契約(特許を持つ2つの会社間で「お互いの特許を使い合いましょう」という契約を結ぶこと)を試みることも可能ですし、生産能力や販売網等の営業力に自信があるのならば、正面からライセンス交渉をして実施権の許諾を受けることも不可能ではありません。

助言のポイント
1.まずは特許請求の範囲(クレーム)の確認。
2.ほんの少しクレームと異なるといっても、均等論の存在を忘れてはならない。
3.特許侵害訴訟には、このほかにも「特許無効の抗弁」などアクロバティックかつ専門性の高い武器があったりするため、信頼できる専門家に相談しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00943_企業法務ケーススタディ(No.0263):会社分割の濫用

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十五の巻(第35回)「会社分割の濫用」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
子会社 脇甘リアルエステート
子会社 脇甘住宅管理
コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
なし

会社分割の濫用:
経営不振に陥った子会社を、会社分割を用いて事業再建を図ることにしました。
子会社の優良部門だけを取り出して、新会社に引き継がせます。
その際、新会社との取引に協力することを約束してくれた債権者については、新会社に債務を引き継がせますが、その他の債務については、引続き、もともとあった子会社に留めておきます。
新会社は元の子会社とは別法人ですから、非協力な債権者たちは、新会社からは取り立てることができない、というわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:新設分割における債権者保護手続
会社分割においては、分割会社(もともとあった、分割をされる会社)の債務が、新たに設立された会社に移転したり、逆に移転せず、そのまま分割会社に残ったりすることになります。
このような場合、債権者とすれば、回収不能のリスクが増大することになるため、債権者を保護する手続きが必要となります。
しかし、会社法においては、会社分割について異議が出せる債権者には制限がかかり、
「分割会社に対して債務の履行を求めることができる債権者は、新設分割について異議を出せない」(会社法810条1項2号)
と規定され、債権者保護手続はありません。
「脱け殻の会社」
が自分の債務者となった債権者は、大きな不満を抱くことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:詐害行為取消権(民法424条)
民法424条は、
「債権者は、債務者が債権者を害することを知った法律行為の取消しを裁判所に請求することができる(後略)」
と、債権者に対して、一定の場合に、債務者が行った行為を取り消すという強い権利を与えています。
しかしながら、債権者が、債務者である会社が行った
「会社分割」
については、同条2項
「前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない」
を根拠として、
「取り消せない」
とするコンサルテーションも存在したようです。
さて、裁判例では、
「会社分割も財産権を目的とした行為である」
として、詐害行為取消しを認めました(リース料請求控訴事件、東京高裁平成22年10月27日判決)。
この判決では、分割会社のみならず、新設会社に対しても、約1911万円におよぶ支払いが命じられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:法人格否認の法理
さらに、福岡地裁平成22年1月14日判決(譲受債権等支払請求事件)は、債権者の事前の了解を得ないまま、債権者に不利となる新設分割を行ったケースについて、
「信義則違反」
を理由とする法人格否認の法理の適用を認め、新設会社に対して、分割会社の債務を弁済することを命じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:会社更生法
債権者は、会社更生法を用いて反撃することも可能です。
裁判例では、取引金融機関に対して事前の相談、説明なしに会社分割を実施し、取引金融機関からの債務とその担保以外の、ほぼすべての資産・負債・事業を新会社に承継させたホテルと新設会社について、債権者である銀行が会社更生手続開始の申立てを実施し(2010年11月)、その暮れに、東京地方裁判所から、両社について、会社更生手続開始決定が下されました。
会社更生手続が開始されると、債権者の同意がない限り旧経営陣は退陣させられることになります。

助言のポイント
1.組織再編は会社の基礎を大きく変更するから、失敗した場合の影響が大きい。必ず事前に外部の専門家から慎重な意見も採取しておこう。
2.会社法は民法の特別法であることを忘れない。会社法に規定がないから大丈夫というのは早計。会社法のウラをかいたと思っても、その一般法である民法を使って思わぬ反撃をされることがあるから注意が必要。
3.事業再生がらみでヤンチャをして債権者を怒らせると、“債権者からの会社更生の申立て”を誘発し、経営陣が“総とっかえ”にされることがある 。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00942_企業法務ケーススタディ(No.0262):過労運転下命の恐怖!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十四の巻(第34回)「過労運転下命の恐怖!」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員

過労運転下命の恐怖!:
当社の従業員が当社製品を運搬している途中で事故を起こし即死し、歩道上の老人に重症を負わせてしまいました。
老人に対しては、保険でカバーができそうです。
従業員との関係については、労災になります。
交通事故なので仮に従業員が生きていれば自動車運転過失傷害罪の存否が問題になるとのことで、当社の法務責任者として法務部長が警察に赴きました。
そして、再度、事情聴取されることとなりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員に対する会社の義務
雇用主は
「賃金を支払う義務」
だけではなく
「契約上の信義則から派生する付随義務として、労働者の生命及び健康等を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)」
をも尽くさなければなりませんし、
「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
法律上の義務として、明示されるに至りました(平成19年施行、労働契約法第5条 )。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:過労運転下命(道路交通法違反)の罪
道路交通法は
「直接運転をしていたわけでもない使用者」
を対象に
「過労運転下命」
という刑事責任を問う条文を有しており(道路交通法75条1項4号、同法66条)、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を定めています(平成19年に、懲役1年から3年へと罰則が引き上げられました)。
過労等の状態(過労や病気などの理由で正常な運転ができないおそれがある状態)での運転は、すべての人が禁じられているところ(同法66条)、そのような状態にある者に対して、使用者等が、業務に関し運転することを命じること、を禁じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「過労運転」とは?
「過労運転」
かどうかについては、厚生労働省による
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)について」
「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
という告示に沿っているといえます。
1.運転手の拘束時間(運転時間や休憩時間を含む)は、1か月293時間を超えてはならない(労使協定があれば、320時間まで延長可能)。
1日単位で、13時間を超えてはならない(拘束時間を延長する場合でも、最大16時間)。
2.勤務終了後、継続して8時間以上の休息期間を与えなければならない。
3.1日の運転時間は、2日(始業時刻から48時間)平均で9時間。
4.連続運転時間は、4時間まで。
注意点として、休憩所において車内で寝ている状態などは、休息期間ではなく、拘束期間に含まれます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:警察からの聴取は使用者側の証拠固めの場合も
本ケースでは、使用者側の刑事責任を問うことを考えて、証拠固めのために、任意で聴取を行っている可能性も十分にあります。
仮に刑事手続が使用者側に対して開始されることになれば、死亡した従業員遺族から多額の損害賠償請求を受ける可能性も十分にあります。

助言のポイント
1.従業員の起こした交通事故とはいっても、使用者である企業側の人間に刑事責任が発生する可能性がある。
2.「過労運転」!? 意味がよくわからなかったら、厚生労働省の告示を見るか、それも難しいようだったら電話で聞こう。
3.何はともあれ適正な労務管理が重要だ。ここで無理をしてコストを削減したとしても、後で極めて面倒なことになる。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00941_企業法務ケーススタディ(No.0261):美しい誤解は解かないままに・・・?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十三の巻(第33回)「美しい誤解は解かないままに・・・?」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社 脇甘リアルエステート

相手方:
一般消費者

美しい誤解は解かないままに・・・?:
当社は、オフィス街に近い臨海地域の土地を格安で手に入れ、マンションを建設しています。
遠方には海、その手前には壮大な臨海公園の緑の景色が楽しめるマンションとなりますが、 2年後には隣に新しく高層マンションが建つことが予定されています。 
「隣にマンションができる」
ことはいわずに、マンションを売り、後になって文句をいわれないように、売買契約の締結のときには、
「周辺は他人の土地だから、他人がどんなふうに開発するかは責任を持てない」
というような内容の書面を渡して説明し、サインをもらうつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民法の原則
民法では、契約当事者の
「申込」

「承諾」
という意思表示が合致した場合に、契約が成立します。
しかし、意思表示の過程に他人の不当な干渉が加わったという欠陥がある場合(「瑕疵ある意思表示」)には、意思表示をした本人が希望するのであれば、意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
「詐欺」

「強迫」
の場合、
「瑕疵ある意思表示」
があるとされ、契約を取り消すことができますが、契約当事者の一方である一般消費者が立証するのは、かなり難しいのが実情です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消費者契約法の成立
昨今、取引に関する情報が高度かつ専門的となっており、消費者と事業者との間の情報格差・交渉力格差が大きくなり、消費者が不本意な契約を締結してしまう事例が多発したことから、民法の特別法として、
「情報力や交渉力において劣る消費者を守る」
目的で、消費者契約法が2000年に制定されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)
消費者契約法4条2項
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」
を翻訳するれば、
「商売人が、客に対して、モノを買うかどうかのポイントになる部分(景観が素晴らしい、など)について客の利益になることをアピールしたが、そのアピール内容を打ち消すような事実(隣地に高層マンションができる予定)をわざと教えなかったことで、客側がそのアピールを打ち消すような事実(隣地に高層マンションができる予定がある)がないものと誤解して、その結果、モノを買ってしまった場合には、客は、契約を取り消せる」
ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:消費者契約法違反で契約が取り消された実例
某有名不動産会社がマンションの売買契約を取り消されたケースでは、
「隣地は他人の土地だから、今後どんな建物が立つかわからないし、今後景観がどうなるかわからない」
という説明を契約時に消費者に対して実施した事実が認定されましたが、裁判所は、
「隣にマンションが建つことを知っていたのだから、そのような抽象的な説明をしただけでは、不利益事実を告知したことにはならない」
と判断しています(東京地裁平成18年8月30日判決)。
この判決では、マンション代金である約2900万円の返還が当該不動産会社に命じられたばかりか、売買契約が取り消された平成16年から起算して、代金の返還まで年5%の割合による利息の支払いまで命じられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:消費者は保護対象 企業・法人同士の取引とは違う
BtoC取引においては、
「企業と比較すれば知力や情報に劣る消費者を保護してあげる」
というルール環境が支配しています。

助言のポイント
1.BtoC取引では「法律は消費者の味方」。「商人同士の駆け引き」と同じことをやると、足元をすくわれる。
2.消費者契約法は、実施している側にも負い目や自覚があるような「典型的な悪徳商法」以外の、ごくフツーの一般企業にも適用されるから要注意。
3.消費者契約法は民法の原則を根底からひっくり返している。

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00940_企業法務ケーススタディ(No.0260):残業問題その2 割増賃金と代替休暇

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十二の巻(第32回)「残業問題その2~割増賃金と代替休暇~」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員

残業問題その2 割増賃金と代替休暇:
当社は、このままだと、従業員への残業代が支払えません。
顧問弁護士によると、平成20年に労働基準法(以下、労基法)が改正され、残業代を休暇で振り返られるようになった、とのことなので、従業員に休暇を取らせることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:割増賃金
従業員の労働時間を延長することは、
「災害等による臨時の必要がある場合」
と、労働組合または職場の代表者との間でいわゆる
「三六協定」
を締結することにより可能となりますが、法定の労働時間を超えて労働をさせた場合、使用者は従業員に対し、通常の賃金とは別に、相応の追加賃金を支払わなければなりません。
これを割増賃金といいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:平成20年労働基準法改正のポイントその1:割増賃金の割増率の改善
平成20年12月に労基法が改正され、残業代の割増率に関し、1カ月の時間外労働の時間が60時間を超えた場合の割増賃金率を50%以上とすることが定められました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「上乗せ部分の割増賃金制度」とは
従前、法定労働時間を超えた時間外労働については
「基本賃金の25%以上の割増賃金を支払うもの」
とだけ定められていました(通常の割増賃金)。
ところが、労基法の改正により、
「使用者は労働者に対し、1カ月の時間外労働について、40時間を超えて60時間を超えない分は25%以上の割増賃金を、60時間を超える部分については、上乗せ部分として、さらに25%以上の割増賃金(合計50%以上)を支払うこと」
が義務付けられました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:平成20年労働基準法改正のポイントその2:代替休暇制度
また、目玉として、
「上乗せ部分の割増賃金」
部分を休暇に振り替える
「代替休暇制度」
が創設されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:代替休暇は企業が強制的に振り替えるものではない
重要なポイントとして、代替休暇を取得するかどうかは、あくまで労働者の判断によらなければならず、企業が一方的に振り替えられるものではない、ということです。
会社が強制的に休ませると法令違反となります。
また、代替休暇の対象となる割増賃金は、
「上乗せ部分の割増賃金」
だけで、
「通常の割増賃金」
についてはあくまで残業代として支払わなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:残業代にまつわるコンプライアンスの重要性
残業代不払いを続けていると、給与不払いと同様に、基準監督署から厳しいお叱りを受けることになります。
実際、Dハウス工業株式会社は、2年分の残業代32億円を支払わず、天満労働基準監督署から是正勧告を受けています。
このような是正勧告(行政指導)を無視していると、経営者が労基法37条違反で手錠をはめられる場合もあります(特別養護老人ホーム神明園を経営する社会福祉法人亀鶴会の経営者が同法違反の容疑で平成15年2月3日逮捕されています)。

助言のポイント
1.残業代は、延長分の「通常の賃金」に加えて「割増分の賃金」があることを忘れない。
2.自社に「上乗せ部分の割増賃金」制度が適用されるのか否かをしっかり見極めよう。
3.代替休暇に振り替えられるのは「上乗せ部分の割増賃金」のみ。「通常の割増賃金」については、必ず現金で支払わなければならない。
4.代替休暇を取得するかどうかは、あくまで従業員の判断に委ねられる。会社の都合で強制的に休暇にすることはできないことを忘れない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00939_企業法務ケーススタディ(No.0259):残業問題その1 金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十一の巻(第31回)「残業問題その1~金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ~」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 社員 悪討 正義(あくつ まさよし)

残業問題その1 金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ:
当社の記念事業プロジェクトが大詰めを迎えますが、従業員は、その準備作業については、就業時間後、残業して、取り組むしかありません。
社長は、
「残業代はいくらでも支払う」
というので、誰も文句をいいません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働時間における法規制
労働基準法(以下、労基法)上、人を雇って労働させる者(使用者)は、当該使用者が人であろうと法人であろうと、原則として、休憩時間を除き1週間に40時間を超えて(1日あたり8時間を超えて)労働をさせてはいけない、との定めがあります(「法定労働時間」、労基法32条、一部の特例あり)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:労働時間の例外
法定労働時間を超えて働かせることができる場合(残業)として、大きく分けて2つの場合を認められています。
1.災害等による臨時の必要がある場合(33条)
人命や公益を保護するために必要な業務や、事業の継続的運営が不可能となりかねない突発的な機械の故障の修理業務などのため残業する場合。
事前に(場合によっては事後に遅滞なく)労働基準監督署に届出が必要。
2.使用者と労働者との間の協議によって、法定労働時間を超えて労働できる時間を定めて労使協定(「三六協定」)を締結し、これを労働基準監督署に届ける場合(労働基準法36条)。
「三六協定」
さえあれば、何時間でも労働時間を延長してよい、というわけではない。
決算業務の時期やボーナス商戦などに伴う繁忙期などが想定される場合は、あらかじめ、
「特別の事情がある場合に、厚生労働大臣が定める限度を超えて労働させることができる旨の『特別条項付き協定』」
を締結すれば、一次的または突発的な労働時間の延長に対応することも可能。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例における帰結
設例においては、
「三六協定」
の有無は定かではありませんが、そもそも
「カネさえ払えばいくらでも働かせることができる」
という発想自体が、労基法の趣旨とはまったく相容れないものであり、法令に違反・抵触する可能性が極めて高い状況であるでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:労働基準法36条違反の効果
「三六協定」
を締結しないまま、法定時間を超えた労働をさせるべく業務命令を行った場合や、
「三六協定」
は締結しているが、取り決め以上の労働をさせる業務命令を行った場合、それらの命令等は違法無効なものとなります。
無論、労働者は違法な残業を前提とする業務命令に従う義務はありませんし、命令を拒否しても解雇理由を構成しません。
以上のとおり、違法な残業に関しては労使間において民事上無効と扱われますが、さらに刑事罰の対象にもなり得ます。

助言のポイント
1.まずは、労働時間の原則と例外をしっかり理解しよう。
2.時間外労働を行う場合には、労働者との協議と協定が不可欠。必ず「三六協定」を締結しよう。
3.「みなし残業代」を採用していても良いが、「みなし残業代」として想定されている以上の時間外労働を行った場合、その超過分の時間外労働に対応する割増賃金の支払を忘れない。
4.労働基準法違反には刑事罰もある。甘くみないこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00938_企業法務ケーススタディ(No.0258):外国への製品輸出時の注意点

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年月5号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十の巻(第30回)「外国への製品輸出時の注意点」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
中国 軍民別足利(グンミンベッタリ)公司 社長 毛 沢山(モウ タクサン)

外国への製品輸出時の注意点:
当社は、中国の会社にゴルフクラブを卸す契約が締結する運びとなりました。
相手会社については、しっかり身元調査をしましたし、軍隊との取引があるくらいですから、問題はないようです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:安全保障貿易管理
安全保障貿易管理とは、国際的な平和と安全保障の維持の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を防止するために、厳格な輸出管理を行うことを目的とするもので、日本では、
「外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)」
に基づき、次のように規制されています。
1.リスト規制
武器、原子力、生物・化学兵器、ミサイル、先端素材、通信機器など
(1)鉄砲、ロケット、弾薬など、「武器・兵器」そのもの
(2)暗号装置、集積回路、水中用カメラなど、「兵器、またはその一部になりそうな高い性能を持つ汎用品」
(3)電話吸収材、凍結乾燥器、粉末状の金属燃料など、「兵器の開発などにも利用できる高い性能を持つ汎用品」
2.キャッチオール規制
リスト規制に該当するもの以外で、用途やそれを使用する者によっては、大量破壊兵器などの製造・開発に用いられる可能性がある貨物

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「キャッチオール規制」の該当性
キャッチオール規制に該当するかどうかは、
「客観要件」
を判断する必要があります。
1.用途性の要件
(1)核兵器、ロケットなどの開発用か
(2)原子炉、核燃料、化学物質、微生物関連の開発用か
(3)国際連合が定めた後記「国連武器禁輸国・地域」への輸出を希望する場合であって、且つ輸出先が通常兵器などの開発などに使用するためか
2.需要者の要件
輸出された貨物などを受け取る人、企業、団体や、最終的に当該貨物などを使用する者が、過去に大量破壊兵器の開発などを行っている、又は行ったことがあるか、輸出先の属性

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「キャッチオール規制」判断のポイント
輸出しようとする貨物などが
「キャッチオール規制」
に該当するかどうかにの判断に困った場合、最も良い方法は、輸出前に、経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課(http://www.meti.go.jp/policy/anpo/)に問い合わせ、事前に個別の相談を行うことです。
また、会社内でも、以下のポイントを中心に事前のチェックをすることで、ある程度の目安を得ることができます。
1.HSコードの確認
輸出しようとする貨物のHSコードの上2桁が、輸出貿易管理令別表1の16項列挙の貨物に該当するかどうかを確認します。
(1)該当する場合は、下記2に該当するかどうかをチェック
(2)該当しない場合は、許可申請は不要
2.輸出先国が「ホワイト国」に該当するか
輸出先国が輸出貿易管理令別表第3に列挙された国々(オーストラリア、韓国、カナダ、スイス、英国、アメリカ合衆国等)に該当するかを確認します。
(1)該当する場合は、許可申請は不要
(2)該当しない場合は、下記3に該当するかどうかをチェック
3.「用途性の要件」の確認
取引に際し、事前に輸出先から入手した文書の記載内容や口頭での連絡内容などから用途を確認します。
(1)該当する場合は、許可申請が必要
(2)該当しない場合は、下記4に該当するかどうかをチェック
4.「需要者の要件」の確認
取引に際し、事前に輸出先から入手した文書や、経済産業省が作成する「外国ユーザーリスト」から輸出先の属性を確認します。
(1)該当する場合は、一部の例外を除き許可申請が必要
(2)該当しない場合は、許可申請は不要
なお、事前の個別相談を行うことが絶対に必要になります。
設例の場合、輸出貿易管理令別表1の16項(一)3
「有機繊維、炭素繊維又は無機繊維」
に該当します。

助言のポイント
1.輸出品の中には、安全保障貿易管理上の「事前許可」が必要となる貨物がある。
2.安全保障貿易管理規制の根拠法令は「外為法」で所轄官庁は経済産業省となっており、複雑怪奇な構造になっているから、きちんと認識整理をしておこう。
3.「リスト規制」に該当しなくても、輸出先から入手した文書、会話の中などから、必ず、輸出品の「用途」を確認が必要。
4.常に、「外国ユーザーリスト」を確認するなどして、輸出先の属性を確認しよう。
5.判断に迷ったら、勝手に結論を出さずに、この辺りの規制に明るい専門家か所轄官庁に事前の相談しよう。くれぐれも「常識の判断」は禁物。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00937_企業法務ケーススタディ(No.0257):種類株式等の効用

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十九の巻(第29回)「種類株式等の効用」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
大神(オオカミ)キャピタル
パックマン・ファンド
テイク・アンド・オーバー投資銀行
マウンティング証券

種類株式等の効用:
当社が新たに設立する子会社に対する出資の打診が複数のファンドからきました。
出資をすべて受け入れると、ファンドに株式の過半数を握られ当社は少数派に転落、子会社を乗っ取られるということになるでしょう。
株式を設計するなどして、カネを引き出しつつ経営は維持する何かよい方法はないでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主平等原則
株式会社という制度は、経営については経営のプロに任せることで、出資者としての株主は何の能力を問われることもないという仕組みを前提に、多くの人からの出資を募ると同時に、経営陣がそれらを元手に会社の利益の最大化を図ることができ、結果として、株主に利益を還元することができることを指向しています(所有と経営の分離)。
株式会社の所有者は株主であり、 経営者は、所有者としての株主から信認を受けて経営を行っているにすぎません。
株主は、その保有する株式の内容と数に応じて取り扱(「株主平等原則」(会社法109条1項))われることとなりますので、会社経営については、基本的には多数の株式を所有する大株主の意向次第であるということができます(資本多数決の原則) 。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:種類株式
会社は、次の9つについては、普通株式とは、内容を異にすることができる種類株式を発行できます(会社法108条1項)。
1.剰余金の配当
2.残余財産の分配
3.株主総会で議決権を行使できる事項
4.譲渡制限
5.株主による株式の取得請求権
6.会社による一定事由の発生を条件とする取得条項
7.会社が株主総会決議でその種類の株式の全部を取得できること
8.株式会社の決議事項のうち、その決議の他、当該種類株主の種類株主総会の決議を必要とするもの
9.種類株主総会の決議で、取締役会・監査役の選任をすること

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株式の属人的定め
さらに、全株式の譲渡が制限されている非公開会社に限って、株式の内容や数を無視して、株主としての権利を定款で定めることができます(会社法109条2項)。
利用することができるのは、
1.剰余金の配当
2.残余財産分配
3.議決権
に限られますが、例えば
「親会社は、他の株主の○倍の議決権を有する」
などとして、 子会社をより強固に支配することができます。

助言のポイント
1.株主の心理などすぐ変わる。信頼しすぎることなく、万が一に備えて、磐石な支配権維持を心がけよう。
2.平成17年改正会社法は、株主を不公平・不平等に取り扱う会社経営を容認している。ワンマン体制確立のための種類株を活用しよう。
3.種類株は多種多様。相手方がどのようなことを望んでいるのかを正確に把握した上で、緻密に資本設計を行う必要がある。
4.相手がカネにしか興味がなく経営に関心が無い場合には、株式の属人的定めも十分考慮しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00936_企業法務ケーススタディ(No.0256):従業員持株会制度を導入せよ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十八の巻(第28回)「従業員持株会制度を導入せよ!」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 尾振 犬男(おふり いぬお)

相手方:
金融庁

従業員持株会制度を導入せよ!
当社は、従業員持株会制度を導入することにしました。
従業員の帰属意識を強められるし、従業員との対立を緩めらるし、事業承継の際には税負担を軽減できるし、安定的に自社株買取資金をプールできるため、買収防衛の際には有力なホワイトナイトにもなってくれるでしょう。
そのうえ、社長に対して不滅の忠誠を誓った社員を従業員持株会の理事長に任命すれば、会社の都合のいいときにいいように自社株を買わせることができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員持株会制度
従業員持株会制度は、自社の株式を従業員に取得させる制度で、
1.従業員が直接株式を取得して株主となる
2.従業員が組織をつくり、その組織が株式を取得して、従業員は持分を取得する
方法があり、一般的には2が採用されています。
具体的には、従業員持株会という民法上の組合をつくり、その会員である従業員が一定期間ごとに拠出金を積み立てて資金をプールし、従業員持株会がその資金で株式を購入し、各従業員の拠出金額に応じて分配します。
一定期間ごとに確実に資金がプールされていくため、会社は、第三者割当増資をする際に従業員持株会を割当先とすることが期待できます。
また、従業員個人が会社を退職するとき、会社に利益分配可能額がない場合、従業員持株会が退職従業員から株式の持分を買い戻すことが可能ですし、株式が会社の希望しない第三者に譲渡されてしまうことを阻止できます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:金商法による包括的規制
金融商品取引法(以下「金商法」)は、
「組合契約や匿名組合契約に基づく権利や社団法人の社員権などのうち、その権利を有する者が出資した金銭を充てて行う事業から、収益の配当を受ける権利」
については、法令が特に除外したものでない限り、有価証券とみなします 。
組合方式の従業員持株会制度は、金商法の規制対象となり、有価証券報告書等で適正な情報開示を実施しなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:従業員持株会制度の金商法適用除外要件
他方で、金商法は除外規定を設けています(金商法2条2項5号、金商法施行令1条の3の3第5号、金商法第2条に規定する定義に関する内閣府令6条2項)。
次の要件を満たす従業員持株会であれば、金商法の規制の対象となりません。
1.株券の買付けを一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかずに継続的に行うこと
2.1人あたり、1回あたりの拠出金額が100万円に満たないこと

助言のポイント
1.従業員持株会も、規模が大きくなれば、「集団投資スキーム」に該当して、金商法の規制を検討する必要が出てくる。
2.金商法は「集団投資スキーム」を包括的に規制対象としている。組合型の従業員持株会制度も、同法の適用除外要件を満たさない限り規制対象となる。適用除外要件の適否を慎重に検討せよ。
3.金商法は、法令に加えて、規制当局たる金融庁から各種ガイドラインが出されているが、これらも法令以上に重要。
4.金商法の日本語と思えない規定ぶりに加え、同法施行令、定義に関する内閣府令、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令など、関連法規も複雑怪奇。規制の適否解釈にあたっては、この種の面倒な作業を厭わない緻密な専門家を活用しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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