00932_企業法務ケーススタディ(No.0252):株主代表訴訟のお作法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十四の巻(第24回)「株主代表訴訟のお作法」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
空有(スキアリ)物産

相手方:
矢見内 政梅(やみうち せいばい)

株主代表訴訟のお作法:
当社に、株主から
「取締役に対する責任追及訴訟提起請求書」
が送りつけられてきました。
株主代表訴訟をおこされては大変です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
「株主代表訴訟」(正確には「責任追及等の訴え」(会社法第847条 ) )
とは、株式会社において株主が会社を代表し、取締役や監査役などの役員(以下、「取締役」)に対し、その法的責任を追及するために提起する訴訟のことです。
本来であれば、取締役の会社に対する責任追及は、その被害者である会社自身が追及すべきものですが、実際は、会社が身内の役員に対して厳しく責任追及することなど期待するべくもありませんし、責任追及を放置していたら会社の利益、ひいては株主の共通の利益も害されてしまう恐れがあります。
そこで、会社法は、株主自身が、会社の
「取締役の責任を追及する権利」
を会社に代わって行使する方法を認め、これにより会社と株主の利益の回復・確保を図ろうとしたのです。
取締役の責任追及は、まず、株主が、会社(監査役)に対し、株主代表訴訟を提起するよう求めるところからはじまります(取締役の責任追及請求)。
そして、会社法が定める一定の期間(60日)以内に会社が株主代表訴訟を提起しない場合、初めて、当該
「取締役の責任追及請求」
を行った株主が、会社のために株主代表訴訟を提起することが可能となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:任務懈怠が推定される利益相反取引における手続ミス
設例の場合、社長は当社代表取締役を務めながら、同時に空有物産の取締役を務めています。
この状況において両者間で取引を行う場合、会社法356条の規定上、社長は当社取締役会において当該取引の重要事実を開示し、かつ、社長以外の取締役の決議をもって、当該取引の承認を得なければなりません。
当該取引の実施に基づき会社に損害が生じた場合、当該取引を実行した取締役は
「任務を怠った」
と推定され(会社法423条3項)ることになるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不当な目的による株主代表訴訟を排除する方法
株主代表訴訟においては、印紙代が安いということもあり、中には、経営攪乱や個人的な報復のため、はたまた、不当に会社から利益を得るために、安易に訴訟を提起する者も出てきます。
そこで、会社法は
「責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない(=訴訟を提起することができない)(会社法847条1項ただし書)」
旨、規定し、株主代表訴訟が、不当な目的を持った株主による提起であることが判明した場合、裁判所は却下判決を行うことができる、としたのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:担保提供命令の申立
会社法は、さらに
「立担保」
制度を設けました。
たとえ、株主が主張していることが真実であり、本来であれば、取締役の責任追及が認められてしかるべき訴訟であったとしても、当該株主代表訴訟が
「嫌がらせのため」
に提起されたものであることを明らかにできれば、株主に対し多額の担保金の提供を命じさせることが可能となります。
「担保提供命令」
が発令されたにも関わらず、一定の期間内に株主が担保金を提供しない場合、自動的に株主代表訴訟は終了することとなります。

助言のポイント
1.株主代表訴訟を恐れない。
2.まずは、真に、会社や株主の共通の利益を図ることを目的としたものか、それとも、単なる嫌がらせ目的といった不当な目的を持ったものか見極めよう。
3.何でもバカ正直に、正面突破作戦で「取締役の責任追及の是非」というややこしい議論を展開し、長期戦に突入してしまうのは愚の骨頂。「訴えの却下を求める本案前答弁」や「担保提供命令の申立」によってスマートにかつ方法も検討しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00931_企業法務ケーススタディ(No.0251):海外で訴えられた! その2 懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十三の巻(第23回)「海外で訴えられた! ~その2懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
アメリカ合衆国 某

海外で訴えられた! その2 懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ:
当社は、訴訟に負け、懲罰的損害賠償を請求されました。
賠償額は驚くほど多額なうえに、懲罰的損害賠償というものは、日本の法律には存在しません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:外国での判決の有効性
法律というものは、その国で問題になった事柄を解決するために存在するものであり、主権の及ばない他国での適用は想定されていません。
したがって、どれほど権威ある外国で出された判決であったとしても、それを別の国が、自国の判決として
「承認」
するかどうかは別問題です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決と日本の公序良俗
外国で判決が出されたとしても、その判決が日本で常に有効的であると扱うことは、日本の常識や価値観を否定することにほかなりません。
このような状態を調節するために、承認要件(4)
「日本の公序良俗に反する判決でないこと」
があげられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:萬世工業事件
萬世工業事件(最高裁平成9年7月11日判決)では、最高裁は、損害を填補する意味合いの賠償額は認めたものの、懲罰的損害賠償の部分は
「我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しない」
と判断しました。
日本での損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、制裁を与える趣旨等は基本的に含まれていません。

助言のポイント
1.懲罰的損害賠償? 日本にそんな制度はない。すなわち、日本でそのような制度に基づく巨額な損害賠償が強制執行されるおそれは、まずない 。
2.どこかの国で出た日本の法感覚からズレる判決なんて恐れるに足りない。自分の常識や価値観を信じよう。焦って弱みにつけこまれないようにしよう 。
3.知らない法律の話と直面したときには、自らの判断で不利益をこうむらないように、これに精通した専門家に相談すること。それこそが、無用なリスクを回避する最善策 。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00930_企業法務ケーススタディ(No.0250):海外で訴えられた! その1  外国から訴状送達された場合の対応法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十二の巻(第22回)「海外で訴えられた! ~その1外国から訴状送達された場合の対応法」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
アメリカ合衆国 某

海外で訴えられた! その1 外国から訴状送達された場合の対応法:
法律事務所の代理人と称する外国人が、当社にいきなり訴状を置いていきました。
読むと、当社がアメリカで訴訟を起こされ3日後が裁判期日であることがわかりました。
社長は、法務部長に、すぐさまアメリカに出向き平謝りしてくるよう、指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:国際化とは無縁の司法運営
経済社会がグローバルになったとはいえ、権利や義務に関しての司法運営は、主権国家がそれぞれの縄張りをもつ、という形が取られています。
とはいえ、海外で
「契約違反」

「不法行為」
その他御法度とされる行為をしても日本国に逃げ帰れば一切不問に付される、という話ではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決の承認・執行制度
「国際的な紛争が生じた場合、相手方が居住している国まで出向き裁判を起こさなくてはならない」
となると訴訟を提起する者にとってあまりに負担が大きく、また国境を股にかける不届き者を不当に利する結果になりかねません。
そこで、外国の判決を自国の判決と同等であると
「承認」

「執行」
する手続が多くの国で整備されており、日本でもこの手続が存在します。
日本では、民事訴訟法第118条の要件
1.外国裁判所の確定判決であること
2.外国裁判所が管轄権を有すること
3.敗訴被告に手続き上の保護がされていること
4.日本の公序良俗に反する判決でないこと
を充足する外国の判決であれば、特別の手続を必要とせずに
「承認」
されます(自動承認)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:敗訴被告に対する手続き上の保護の有無
よく問題になるのが要件3です。
「訴状送達を外国の作法で行っても有効な手続き上の保護があったとは理解されず、日本国が認めた『送達』方法によるべし」
とされるのです(民事訴訟法第118条2号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:不適切な訴状送達は無視意味なくアウェーで試合しない
日本国内にいながら外国の訴状等を受け取る場面を想定すると、
1.外国の原告やその代理人から直接訴状が郵送もしくは持参されて届く
2.日本の地方裁判所を通じて訴状が届く
に大別されます。
有効な送達とされるのは2の場合のみです。
ただし1の場合であっても、わざわざ外国で開かれている裁判に出席しに行ったり、答弁書を提出したりした場合は、
「応訴しているぐらいだから手続き上の保護に欠けることがない」
とされ、要件3が満たされると判断される余地がありますので、十分な注意が必要です。

助言のポイント
1.日本の裁判所を経由しない類の外国からの訴状をむやみに恐れて、パニックを起こさない。
2.訴状の正式な送達さえなされていない状況で、準備不足のまま無謀に裁判に臨むのは、愚の骨頂。
3.たとえ相手方弁護士からの英語の訴状に、日本語訳がご丁寧に付いてきたとしても、裁判所を経由しない訴状送達の効力は疑わしい。
4.さっぱり意味がわからない法律問題に遭遇したときには、パニックに陥って「善意に満ちあふれた日本人」の常識で判断せず、きちんとした専門家に相談しよう。

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00929_企業法務ケーススタディ(No.0249):不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年8月号(7月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十一の巻(第21回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その2 税務篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ 家電量販店ドッキリカメラ
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編:
当社は、不動産流動化スキームを行ったところ、証券取引等監視委員会に目をつけられ、2億円の課徴金を支払う結果となりました。
証券取引等監視委員会が
「あの取引は不動産の売買ではなく、不動産を担保とした借入だ」
と判断したのであれば、売買を前提として支払った税金は支払う必要がなかった、となるのですが。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:更正の請求
納税義務者は、税額を過大に申告してしまった場合には、税務署長に対して、税額等について更正をすべき旨を請求することができます(国税通則法23条1項1号)。
更正の請求の前提となる
「税額の計算等が法律の規定に従っていなかったか否か」
については、最終的には法令の解釈権を有する裁判所が決定します。
しかしそれは、敗訴率95%(平成21年度)の絶望的な訴訟といわれています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式公開企業を取り巻く「三重会計」
1つの企業(会計主体)には、複数の会計が存在します。
株式公開企業では、
1 企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための企業会計
2 株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社法会計
3 適正かつ公平な課税を目的として、税務当局を保護する税務会計
と、3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「二重帳簿」はNG、「三重会計」は問題なし!
いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が、企業会計、会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。
逆に、税務会計には
「適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:国税当局と証券取引等監視委員会の見解が矛盾した実例
裁判例では、某家電量販店は、資産流動化スキームに基づき、自らが所有する不動産をSPCに一旦売却した際、会計上、売却取引として認識し、計上した売却益に基づき約26億円の法人税を納付しました。
ところが、証券取引等監視委員会から
「実務指針に沿わない会計処理であり、これは不動産を担保として資金を借り入れた金融取引である」
と指摘されたことに伴い、某家電量販店は、当該売却処理を取り消し、有価証券報告書等を訂正しました。
そして、
「不動産売却益はなかったのだから、納付した法人税26億円は返してくれ」
と、所轄税務署に対し更正請求をしました。
ところが、税務署側は
「金融取引とする理由はない」
との判断を下し、某家電量販店の主張を認めませんでした。
しかも、取締役、監査役、元取締役ら9名に対しては、課徴金相当額および過大に納税した額について支払を求める株主代表訴訟まで提起されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:目新しいスキームには要注意
同一の取引について、証券取引等監視委員会と税務署が矛盾した判断が平然となされることが実際に起こっているのです。
会計の目的が
「投資家に対して、適時に適切な情報を提供する」
ことである一方、税務の目的は
「税金を多く徴集すること」
であり、両者が目的を異にしている以上、判断結果が異なったとしても合理性がまったくないとは言い切れません。

助言のポイント
1.税務の目的は税金を多く取ることで、会計の目的は投資家に適切な情報を提供すること。両者の目的はそもそも異なるから、税務当局と証券取引等監視委員会が矛盾する取扱をすることもある。
2.税務署に一度納めた税金を取り戻すのは至難の業だし、裁判所に助けを求めてもアテにならない。
3.不適切な会計処理をすると、(1)証券取引等監視委員会からは課徴金を取られ、(2)株価下落の憂き目にあい、(3)税務署に過大な支払った税金は返ってこず、(4)株主から代表訴訟を食らって沈没、という最悪のシナリオになる可能性があるから注意が必要。
4.未確立の会計スキームを活用する際は、法務、会計、税務の全てについて、専門家と連絡を密にして、アタマを冷やして慎重に対応しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00928_企業法務ケーススタディ(No.0248):不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十の巻(第20回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その1会計篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編:
不動産コンサルタントが、
「SPC(特別目的会社)を設立し、土地をSPCに売る。SPCは社債等を発行して投資家から資金を募る。投資家は土地に収益力があると見込めば投資をするから、銀行から借り入れするよりも有利な条件でカネ集めができる。地価が下がったタイミングで土地を買い戻せば、安い金利で資金調達したうえに土地を安く買い戻せる」
という、夢のような不動産流動化スキームを提案してきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:オフバランス目的の不動産流動化スキーム流行の背景
企業経営の評価においては、貸借対照表(バランスシート)から
「総資産を幾ら保有していて、これを利用してどのくらいの利益を計上しているか」
という点(総資産回転率。売上高÷総資産で算出され、総資産をどのくらい効率的に活用しているかを示す指標とされる)が重要視されます。
分母の総資産の中に、活用されていない土地が多く含まれる場合、総資産回転率は向上しませんので、企業の成長のためには、活用されていない土地をお金に換え、投資を指向することになります。
しかし不動産は通常高額であり、単純に売却しようとしても、条件に見合った購入者を探すことは困難ですし、その不動産を担保として借入れを行おうとしても銀行等は、業績をまず念頭に入れますから、
「貸出利率は高めに設定しないと貸せない」
ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不動産流動化の基本構造
これを解決するために開発されたのが、
「不動産流動化スキーム」
で、基本構造は次のようになります。
1 不動産所有者(以下「オリジネーター」)は、所有している不動産を、自分とは法人格が異なる別法人であるSPC(特別目的会社)に売却する。
2 SPCは、不動産の購入資金とするために特定社債(「資産の流動化に関する法律」に規定される社債をいう)等を発行して、投資家から投資を募る。
これによって、不動産が証券化され、投資家の間で売買される(=流動化する)。
高額な不動産についても、小口の有価証券とすることで細分化すれば多額の投資を集めることが可能となる。
3 オリジネーターは、SPCと賃貸借契約を締結したり、SPCが資金集めに作った匿名組合に出資するなどして、引き続き売り払った不動産を利用する関係を維持することがある。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不動産流動化のメリット
不動産流動化スキームを採用する企業には次のようなメリットが生じるとされます。
1 格付けの低い企業であっても、低コストの資金調達が期待できる
2 小口化することで、広く浅く資金を集めることができる
3 財務指標が改善できる
このうち3に関しては、売却利益が実現でき、休眠していた不動産の活用という評価につながり、バランスシートの資産項目から不動産が消える(=オフ)こと(資産のオフバランス)によって、総資産利益率の改善を見込めます。
最終的には、以上の評価は実施企業の株価上昇となって現れるので、うまく導入できた企業はオイシイことずくめ、という目論見が想定されるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「5%ルール」
会計上のメリットを享受するためには、不動産の譲渡取引が
「見知らぬ第三者との間の取引」
が前提となり、認められる要件が定められています。
1 不動産が譲受人であるSPCに対して適正価格で譲渡されていること
2 当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人であるSPCを通じて他の者に移転していること
具体的には、当該不動産についてのリスク負担の金額を当該不動産の譲渡時の適正な価額で割った値(リスク負担割合)がおおむね5%の範囲内であること。
3 実質的な判断からも、不動産のリスクと経済価値のほとんどが譲受人であるSPCに移転していると判断されること
会計実体に沿わない有価証券報告書を作成した場合、金融商品取引法違反に基づく課徴金を支払うことになりかねず、株価は急落、経営陣は経営責任や法的責任(株主代表訴訟)を負わされることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:課徴金納付の実例
某家電量販店がオリジネーターとなった不動産流動化スキームに関連し、2008年12月、証券取引等監視委員会は、
「SPCに投資した法人が、実はオリジネーター(家電量販店)の子会社にあたり、要件を満たさない」
との指摘を行い、オリジネーターは、売却会計処理を数年間遡って取消しました。

助言のポイント
1.不動産流動化にあたっては、会計基準についても慎重に検討しよう。金商法違反の有価証券報告書虚偽記載とされて、課徴金を取られることもある。
2.最近は、会計基準の変化で不動産流動化の会計上のメリットも減少している。
3.不動産流動化を実施しても、会計基準が将来どのように変化するか保証はない。想定されているメリットが得られるかよく考えよう。
4.「最先端の経営手法」に惑わされない。オイシイ話には必ず落とし穴があるから注意しよう。
5.目新しいスキームを採用する場合、トラブル例をよく見て、社外の専門家から客観的・保守的な意見もきちんと採取し、慎重に実施しよう。

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00927_企業法務ケーススタディ(No.0247):土壌汚染物質をめぐる諸問題

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十九の巻(第19回)「土壌汚染物質をめぐる諸問題」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ダートマス・アンド・ティファニー・ケミカル・ジャパン株式会社(「ダーティケミカル社」)

土壌汚染物質をめぐる諸問題:
当社は、ダーティケミカル社から格安で手に入れた臨海地区の化学薬品工場跡地に、子供向けの遊戯施設やフードコートなどを中心とするアミューズメントパークを建設し、さらには、幼稚園や病院の誘致も計画しています。
土地の売買契約、不動産登記関係もしっかり確認し、金融機関の融資も取り付けました。
化学薬品工場跡地ということですが、お神酒や塩で清めておけば、まあ問題はないでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:土壌汚染対策法
平成15年に、土壌汚染の状況の把握に関する措置およびその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定める
「土壌汚染対策法」
が制定されました。
この法律は、特定の有害物質を使用したり生産したりしていた工場などの跡地や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地について、
1.土壌汚染状況の調査、
2.土壌汚染が発見された場合には都道府県知事の命令により当該汚染を除去するなどの措置
を執らせること
を義務付けるものです。
実際に土壌を汚染してしまった者ではなく、当該土地の所有者が第一次的な義務の主体となるところに特徴があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:汚染調査義務
土壌汚染対策法は、特定の有害物質を使用したり、生産したりしていた工場が廃止された場合や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地(土壌汚染対策法が施行される前に廃止された工場の跡地など)の所有者や管理者、占有者に対し、特定の有害物質が残留していないかなどの調査を義務つけています(土壌汚染対策法3条、4条)。
汚染調査義務が課せられる場合、現在の所有者に限られます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:汚染除去義務
調査の結果、土壌汚染が発見された場合、所有者や管理者、占有者のほか、実際に土壌汚染を招いた者に対し、当該土壌汚染を除去する措置を構ずるべき義務を課しています(同法7条)。
ただし、実際に土壌汚染を招いた者であったとしても、所有者でなければ該当する土壌汚染地域に立ち入ることさえできず、迅速に対応することができないという理由から
「土壌汚染を招いた行為から土壌汚染が生じたことが明白であり」、
「土壌汚染を招いた者に汚染除去義務を課すことが相当であり」、
かつ
「土壌汚染を招いた者が汚染を除去することについて、所有者等に異議がない場合」
に限られます。
土壌汚染を隠して譲渡を行うなどした場合、不動産業者であれば、宅地建物取引業法違反などの罪に問われる場合もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:費用の求償先
汚染調査の結果、実際に土壌汚染が発見され、かつ、汚染除去義務を履行した所有者は、土壌汚染対策法上、土壌汚染を招いた者の故意・過失を問うことなく、当然に
「汚染除去に要した費用」
を求償することができます(法8条)。
しかしながら
「汚染調査に要した費用」
については、土壌汚染対策法上、規定がなく、汚染が発見された場合であっても、当然には求償することができません。
そこで
「汚染調査に要した費用」
については、民法など、私法上の規定に基づき、瑕疵担保責任や不法行為による損害賠償責任を追及したり、不動産の売買契約などの規定に基づく請求をしたりすることになります。
汚染調査の結果、何ら土壌汚染が発見されなかった場合は、
「瑕疵が存在しない」
が明らかとなっただけで、瑕疵担保責任や不法行為責任は発生し得ません。

助言のポイント
1.土壌汚染が想定される土地の取引はとにかく注意してかかろう。
2.どうしても、土壌汚染が想定される土地を購入する際は、必ず、前所有者が土壌汚染調査を実施したかどうかを確かめよう。
3.土壌汚染調査がされていない場合、買主が汚染調査義務を負担しなければならないことを肝に銘じよう。
4.土壌汚染調査がされていない場合、汚染調査に要した費用の求償関係について売買契約書に明記すること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00926_企業法務ケーススタディ(No.0246):資本金5億円の片道切符

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十八の巻(第18回)「資本金五億円の片道切符」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
間夫太刀(マブダチ)興業
風雲色(フウウンショク)監査法人

相手方:
なし

資本金5億円の片道切符:
いよいよ資本金5億円の大会社になる、と大喜びの当社社長。
募集株式を引き受けてくれた知人が、会計監査人を紹介しようとしますが、当社には顧問税理士がいるから、と断るつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:資本金5億円以上は「大会社」
「資本金の額が大きい」=「利害関係者が多い」=「社会・経済に与える影響力が大きい」
という関係が成立し得るため、会社法は、資本金が5億円以上(あるいは負債が200億円以上)の会社を
「大会社」
と定義し、他の会社よりも厳しく
「ガバナンスや情報開示の強化義務」
1.会計監査人の設置義務
2.内部統制システムの決定義務
3.貸借対照表に加えて、損益計算書も公告する義務
4.清算中の監査役設置義務
5.監査役会または委員会の設置義務(※公開会社のみ)
6.連結計算書類の作成義務(※有価証券報告書提出会社のみ)
を負わせています。
会計監査人とは、公認会計士あるいは監査法人でなければなりません(会社法337条1項)。
実際には、大企業の複雑な経済活動の結果である決算書類を厳密に精査するのは大変な作業であり、その分、公認会計士や監査法人に支払うべき報酬額も非常に高額となります。
その上、会計監査人によって必要以上に厳格な解釈に基づいた会計処理上の
「あら探し」
が行われ、その対応等のため、さらに多大な時間やエネルギー、コストを要することもあります。
実際、会計処理や監査報酬を巡って監査法人とモメてしまい、監査契約解除の騒動に発展する例もあるほどです。
会計監査人を空席のまま放置しておくと
「会計監査人の設置義務」
違反として過料の制裁が課されますし、この種の違反の存在が将来、株式公開をする際に大きな足枷(あしかせ)となることもあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:後戻りは困難!? 戦場への片道切符
「減資」
には、
「会社財産を支払いのあてにしている会社債権者が関与できる手続(債権者保護手続)」
が必要とされます。
具体的には、原則として、官報公告や各債権者への個別催告が必要であり、所定の期間内に債権者から異議が出た場合には(減資をしても当該債権者への支払いに影響が生じるおそれがない場合を除く)、弁済や相当の担保の提供等の対応が義務づけられます。
債権者保護手続に重大な法律違反等があると、資本金の額の変更登記を受け付けてもらえなかったり、場合によっては、債権者から
「減資無効の訴え」
という訴訟を提起される可能性もあります。
実際問題としては、大口債権者である銀行の担当者は、そう簡単に減資に応じてくれません。
減資などしようものなら、ここぞとばかりに異議を出して全額弁済や担保提供等を求めてくるのは当然の道理でしょう。

助言のポイント
1.資本金5億円以上の企業は、会社法上の「大会社」に該当し、会計監査人の設置義務のほか、さまざまな負担を課されることになる。
2.「会計監査人の設置」とは、要するに「高額な監査報酬を支払って、わざわざ口やかましい専門家による決算書類のチェックを受ける」ということ。会社の経営に重い負担として、のしかかってくる。
3.「大会社としての負担に耐えられなくなったら減資すればよい」という安易な考えは禁物。減資には、原則として、債権者保護手続という高いハードルが待っている。簡単には戻れない「片道切符」だと心得よう。
4.資本金の額は、経営の根幹に影響する局面が少なくない。増資する際には、各方面の専門家や取引銀行等と十分に相談・検討し、戦略的に実行しよう。

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00925_企業法務ケーススタディ(No.0245):優越的地位の濫用

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十七の巻(第17回)「優越的地位の濫用」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 総合衣料品ショップ事業 バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店

相手方:
バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店の納入業者

優越的地位の濫用:
当社は、バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店の改装に納入業者を協力させようと考えています。
具体的には、納入業者に大量の不要な商品を引き取らせ、新商品搬入を手伝わせるのです。
断る業者がいるとは考えられませんし、協力しない業者は切ろうとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:独占禁止法
独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。以下「独禁法」)は、公正で自由な競争を促進することにより、市場経済が円滑に発展することを目指すものです。
チカラとカネにモノをいわせた競争の結果、有力な企業が特定の市場を寡占してしまう事態が生じることは、自由な競争を是とする以上、仕方がないでしょう。
しかし、その結果、価格と品質を競い合う能率競争が停滞するようなことは、経済の発展・国民の実質所得の向上という観点から好ましいとはいえません。
そこで、独禁法は
「どのようにして、公正で自由な能率競争を促進させるか」
という観点から、 私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を規制し、かつ規制の実効性を確保するため、排除措置命令や課徴金といった厳しい手段を用意しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不公正な取引方法
不公正な取引方法をオリンピックの100メートル競走で例えると、某国が、何がなんでも確実に金メダルを取りたい場合、次のようなことが考えられます。
1.出走ランナー全員を当該某国の国民にする
2.出走ランナー同士の話し合いで当該某国のランナーがトップでゴールできるよう競争を止める
3.当該某国のランナーに武器を持たせ、自分の前を走る選手を攻撃して追い抜く
独禁法も、市場での公正な競争を促すため、
1.私的独占
2.カルテル
3.不公正取引
を、それぞれ禁止しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不公正な取引方法とは
独禁法19条により禁止される不公正な取引方法は、同法2条9項に定義されています。
平成21年改正により、それまで公正取引委員会が告示という形で類型化していた部分(一般指定)の一部を、法文(同法2条9項1号~5号)に格上げしました。
具体的類型を法文上明らかにすることで、罪刑法定主義の要請に答え、課徴金の対象となる範囲を拡大したのです。
一方で、同項6号には、公正取引委員会の
「指定」
に基づいて明らかにされる行為類型も依然として存在し、多少複雑な構造となっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:大規模小売特殊指定
大規模小売業者に対する
「特殊指定」
は、売上高が100億円以上か、店舗面積が3000平方メートルを超える店舗(政令指定都市以外は1500平方メートル)を有している場合に適用されます。
百貨店、スーパー、ホームセンター、量販店、コンビニエンスストア本部等の大規模小売業者による納入業者に対する優越的地位の濫用行為(不当な返品や押しつけ販売等)を効果的に規制する観点から告示されたものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:優越的地位の濫用
独占禁止法が想定する
「優越的地位」
といった力関係がある場合には、
1.不要な製品を引き取らせる行為は、大規模指定1項の
「不当な返品」
に該当しますし、
2.自社店舗の新規オープンに際し、納入業者に一方的に手伝いを要請したり、他社製品の陳列まで要請したりする行為は、同指定7項により禁止されています。
このような行為が公正取引委員会の目につき、排除措置命令が出された場合には、当該禁止行為を取りやめることはもちろん、二度とこのような行為に及ばないように独禁法を尊守するための行動指針の作成や定期的な法務研修、公正取引委員会への定期的な報告といったさまざまな義務が課されることとなります。

助言のポイント
1.企業間取引だからといって「何でもアリ」というわけではない。独占禁止法の存在を忘れない。
2.価格と品質の競争(能率競争)以外の方法でビジネス戦争に勝とうとすると、独禁法違反のカドで公正取引委員会からヤキを入れられる。
3.公正取引委員会のガイドラインは具体例が豊富で分かりやすい。検討している取引に問題があるか不安なときには、まずは、相談事例をネットで調べよう。
4.平成21年改正(22年1月から施行)では、継続する特定の優越的地位の濫用行為に対して課徴金が課されることが定められた。「辞めたら済む」という話ではなくなっていることに注意しよう。

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00924_企業法務ケーススタディ(No.0244):職務発明

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十六の巻(第16回)「職務発明」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘グループ 小丸(コマル)科学株式会社 技術開発部長

職務発明:
コマル科学の一員が、取得した特許を携えて転職しようとしています。
そこで、相場以上の金額を提示して、その従業員から特許権を買い取ろうとしました。
ところが、相手は、
「職務発明に関わる特許権を会社に移転する規定はない。
いくらカネを積んでも特許は会社のものにならない」
と、いいます。
裁判を起こせば、特許は当社のものになるのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許法における企業従業員による発明に対する考え方
特許法は、特許を受ける権利を
「発明者」
に付与するとしています(特許法29条)。
法人が発明者となることはありません。
一方で、一定の要件を満たすような発明については、
「職務発明」
に該当するとし、企業等に相応のメリットが与えられることとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「職務発明」の概念と権利承継の定め
「職務発明」
という概念にあたるかどうかは、実質的に
「企業等の仕事として発明がなされた」
といえることが必要となります。
具体的な要件として、
1.企業等に雇用される従業員が
2.その業務の範囲内において行った発明で
3.現在または過去の職務に属する発明である必要があります(特許法35条1項)。
かつ、前もって職務発明規程等によって
「特許を受ける権利」

「特許権」
を承継させる旨が規定されていた場合、その企業等は当該発明を自分のモノにすることができるのです(特許法35条3項)。
あらかじめ権利承継の定めておかないと、通常の譲渡契約と同様に、発明者に権利移転をお願いすることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「発明者」は一体誰?
単に抽象的なアイディアを提供したにすぎなかったり、助言にとどまる場合であれば
「発明者」
とは認定されません。
すでに特許出願公開がなされていたときには、同様の発明は新規性がない等として拒絶されますから、特許権の移転登録請求等を検討することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:権利が取れない場合は戦略で勝つ
特許の基幹技術だけでは事業として成立させることは困難です。
製品化し、商品として成熟したものにするまでには多くの技術課題を解決しなければなりません。
つまり、アイディアレベルの試作品と市場に出回る製品との間の大きなギャップを埋めるのもまた技術であり、そこには特許が生じる余地がたくさんあるわけです。
それら周辺技術について特許を取り尽くした場合には、基幹技術を独占する意味は喪失し、
「基幹技術の通常実施権」

「製品化・商品化のマイルストーン上にある応用技術や周辺技術についての独占権」
だけで、事実上当該分野における市場独占をすることが十分可能です。
企業側が、特許を自分のモノにできない場合は、このように外堀を埋めていく戦略を考えるべきです。

助言のポイント
1.まずは職務発明規程を見返そう。
2.従業員には何を研究しているのか日頃からノートにでもつけさせて、発明者が誰なのか、会社は常に把握し続けよう。
3.基幹技術の特許をおさえられても、まだ手段はある。製品化に至る周辺技術に何があるのか、想像力を働かせよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00923_企業法務ケーススタディ(No.0243):発明への資金協力

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十五の巻(第15回)「発明への資金協力」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
某大学教授

発明への資金協力:
当社が企画提供と資金提供をし、大学教授が開発した発明が、成功しました。
これからその発明をつかってビジネスをしようとしていたところ、大学教授は
「発明したのは自分だ」
と主張し、弁理士も
「『特許を受ける権利』を譲り受ける契約を締結しないと、特許権の利益にあずかれない」
と、いいます。
企業が研究者に委託した技術発明の成果は、誰のものになるのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許権を取得できるのは誰か
特許法29条は、特許権を取得できる者を
「発明者」
に限っています。
単なる補助者、助言者、資金の提供者などは発明者にあたらない、としています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「発明者」に関する裁判例
東京地裁平成14年8月27日判決では、実際に研究開発を行った者へ指示を与えていた者について、
「それ自体が発明と呼べる程度に具体化したものではなく、課題解決の方向性を大筋で示すものにすぎない。
したがって、原告が上記着想を得たからといって、本件発明の成立に創作的な後見をしたということはできず、原告を共同発明者と認めることはできない」
という判断を下しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「発明者」でない者による出願
「研究テーマの設定」
「資金の提供」
をしただけでは、
「発明者」
には当たりません。
そして、発明者ではない者を特許出願願書に記載すると、冒認として出願は拒絶されることになります(特許法49条7号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「特許を受ける権利」
特許法33条は、発明者が有する権利のうち
「特許を受ける権利」
については、第三者に譲渡できることを定めています。
「特許を受ける権利」
を有する者が特許の出願を行い、特許庁がその発明にお墨付きを与えてくれれば、特許権を受けることができます。
研究者に資金協力を行う場合には、事前に発明者となる者と契約を締結しておくか、発明後に発明者にお願いをして、
「特許を受ける権利」
の全部または一部を譲渡してもらうことが必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:「共同出願」
落としどころとしては、
「特許を受ける権利」
の一部を譲渡してもらい、発明者と一緒に共同出願することが考えられます。
注意しなければならないのは、特許法38条は
「特許を受ける権利の共有者全員による出願」
でなければ特許出願できないことを定めており、共有者全員でなされなかった出願は、拒絶されてしまいます(49条2号)し、万が一、特許登録できたしても無効事由となります(123条1項2号)。
したがって、共同出願についても、発明者となる者と事前に契約を締結しておくことが必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:「不実施補償」
特許を受ける権利を共有した場合には特許権を共有することになるのですが、共有者が有するのは自分で特許を実施する権利だけです。
説例の場合だと、当社は特許権実施により大きな収益を上げられますが、経営資源をもたない教授は、特許権を共有したところでまったく意味がありません。
打開策として、
「共有者の一部(教授)が特許権の不実施を約束する代わりに、他の共有者(脇甘商事)が、一定額の補償をする」(不実施補償)
措置を申し出る方法もあり得ます。
不実施補償には
「適正に権利化され、かつ事業化されたことを条件とする」
など条件を付しておくことが必要です。

助言のポイント
1.研究委託を行う際には、必ず書面で契約をしよう。
2.「資金を提供しただけ」「研究テーマを指定しただけ」では「発明者」になれず、特許も出願できない。事前に、実際に研究開発を行う者から「特許を受ける権利」を全部譲渡してもらう契約を締結しておくこと。
3.「特許を受ける権利」を共有している場合は、共有者全員による出願が必要。特別な事情がないかぎり「特許を受ける権利」は丸ごと自分のものにしておこう。
4.研究者側が要求する「不実施補償」には「特許権が成立し、かつ、当該特許権が適正に事業化できた場合に限り補償する」との条件をつけよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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