00935_企業法務ケーススタディ(No.0255):公益通報と守秘義務

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十七の巻(第27回)「公益通報と守秘義務」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 法務部 悪討 正義(あくつ まさよし)

公益通報と守秘義務:
当社は、従業員から入社時に守秘義務誓約書を提出させています。
それなのに、マスコミに違反食品使用をリークされてしまいました。
リークした従業員は、自宅待機にさせていますが、給料を没収してクビにし損害賠償を請求するつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:宮崎信用金庫懲戒解雇事件
平成9~10年にかけて、宮崎信用金庫(宮崎市)の元労組副委員長2人が、信用金庫幹部らによる不正融資疑惑を追及するため、コンピューターから顧客情報を出力するなど情報収集したり、宮崎県警や国会議員秘書に資料を提出しました。
これにより宮崎信金の不正が明るみになり、当該不正事件解決の大きなきっかけとなりました。
その後、宮崎信金は、内部資料を外部に漏洩したとして2人を懲戒解雇しました。
従業員側は、
「正当な内部告発であり、懲戒解雇は無効だ」
と争い、訴訟事件に発展しました。
一審判決は企業側勝訴(懲戒解雇有効)、二審(福岡高裁)は企業側が逆転敗訴(懲戒解雇無効)しました。
そして、最高裁では、信金側の上告を棄却する決定をし、企業側敗訴(懲戒解雇無効)を確定させました(平成17年7月1日)。
このように、企業内の不正を公表した結果、不当に解雇されるケースなどが相次いだことを受け、 政府は諸外国の例を参考に公益通報者の保護を目的とする制度を策定し、平成18年4月1日には公益通報者保護法を施行するに至りました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:公益通報者保護法
公益通報者保護法は、公益目的での企業内部の非違行為を外部公表した従業員(公益通報者)に対する企業による解雇を無効としています。
公益通報者を企業による報復的な解雇から保護することにより、従業員等が解雇などの不利益を恐れずに企業の内部の不正等を通報することが可能な環境を整備するとともに、全体として、企業の違法・不当な活動を抑止させようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:解雇の無効・不利益扱いの禁止
企業によっては、従業員に対し
「就業規則や誓約書その他に基づき企業内部の情報に関する守秘義務を課し、守秘義務に違反した場合には、減給や解雇といった懲戒処分を与える」
という仕組を有しているところが多く存在します。
公益通報者保護法は、
「企業による報復」
を予め防止すべく、企業内部の通報窓口に通報を行ったことを理由として不利益な扱いや解雇を行ってはならない(これに反し行った解雇は当然に無効となる)と定めました。
また、不正や被害の発生といった通報対象の事実が実際に発生している場合や、まさに発生しつつある場合で、
1.内部通報(監督官庁への通報を含む)をすると、不利益扱いを受けると信じるに相当の理由がある
2.内部通報(企業のみ)をすると、当該企業によって証拠隠滅などがなされると信じるに相当の理由がある
3.個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
などの場合には、マスコミや政治家や圧力団体等に駆け込んで事実関係を洗いざらい話したとしても、前記同様、不利益な扱いや解雇を行ってはならないこととしました。

助言のポイント
1.まずは、社内に公益通報窓口を設置しよう。「おざなりの窓口」ではなく、公益通報者保護法に準拠した適正な窓口に。
2.専任の部員を配置して、通報があった場合には、迅速かつ誠実に対応するなど、通報受理後の対応も充実を。
3.下手な解雇をすると、裁判で解雇が無効とされ解雇したはずの従業員が英雄になって職場復帰したり、労働争議に発展したり、大事になる可能性もある。
4.外部に通報された場合であっても、守秘義務違反や就業規則違反を追及する前に、通報を放置していたり、証拠隠滅を図ったりしていいなかったかなど、企業側の落ち度についての事実確認もきちんと行うこと。
5.不祥事は不祥事。誤魔化したりもみ消しを図るのはもってのほか。原因の探求と再発防止策をきちんと講じよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00934_企業法務ケーススタディ(No.0254):懲戒事実の公表

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十六の巻(第26回)「懲戒事実の公表」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 部長 悪辣(あくらつ)

懲戒事実の公表:
当社の従業員が、取引先に商品納入する際に、過大な金額を請求し横領を行っていた事実が発覚したため、就業規則に基づいて当該従業員を懲戒解雇しました。
取引先には謝罪にいくつもりです。
他の取引先との間でも同様の事件を起こしている可能性があるので、このことを公表して取引先に釈明すると同時に、従業員に一斉に知らせることで社内の法令遵守意識を高めていこうと考えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員による犯罪行為
従業員の非違行為は、遅刻等の服務規律違反や企業取引に関連した犯罪等といった職務行為と関連の深いものから、痴漢等といった職務行為とはまったく関連しない犯罪行為、と大きく二分することができます。
後者については、企業が道義的責任を感じることはあっても、直接には無関係な事象ですから、企業価値の棄損に直結するものではありません。
しかしながら、前者については、企業活動と関連がある以上、当該非違行為によって損害等を被った利害関係人に対する十分な釈明、 信頼関係の再構築、そして株主からの責任追及に備える必要も出てきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:懲戒処分とは
従業員による非違行為がなされた場合には、使用者である会社は懲戒処分をすることができます。
その手段や手続について事前に定められ告知される必要があり、前もって就業規則等に詳細な規定の用意が必要です。
「懲戒解雇」
は懲戒処分のうちで最も重いものであることから、発動するための要件も懲戒処分のうちで最も厳格です。
「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」(労働基準法20条1項ただし書き)
に該当することはもちろん、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)も乗り越える必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:懲戒処分の社内外への公表
犯罪行為の存在が明らかな場合は公表すべきとも思われますが、公表の態様によっては、公表を行った企業が、懲戒解雇となった元従業員に対して損害賠償責任を負う裁判例もあります。
公表が一律に禁止されるわけではありませんが、従業員が行った非違行為に対処する観点から、必要最小限の範囲での事実の公表が求められます。

助言のポイント
1.懲戒処分? まずは証拠集め。自白していても後に前言を翻す従業員なんて山ほどいる。具体的な事実経緯について書面で確認しよう。
2.どれだけ悪いことをした従業員がいたとしても、無限定に公表するなんてことは残念ながら許されていない。
3.公表の必要があるときには、その必要に応じた公表にとどめること。
4.それでも不安なら、従業員から「公表しても損害賠償とか請求しない」と一筆もらっておくこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00933_企業法務ケーススタディ(No.0253):株式譲渡制限の落とし穴

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十五の巻(第25回)「株式譲渡制限の落とし穴」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
矢見内 政梅(やみうち せいばい)
獄堂(ゴクドウ)興行

株式譲渡制限の落とし穴:
ある日突然、株主である相手から、
「株式譲渡の承認請求」
「承認しなかった場合には、会社または指定買取人による買取の請求」
がきました。
顧問弁護士に相談すると、
「会社の定款には 『株式の譲渡制限』の条文を書き込んである。
当社は利益分配金がないから自社の株を買い取ることはできないし、指定買取人に買い取らせる義理などないから、理不尽な要求は無視するに限る」
と、いいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株式譲渡自由の原則
わが国においては、私的自治原則の下、自分が所有する財産権を自分の選んだ第三者に移転することは原則自由であり、法令や契約の根拠がなければ、この自由を制限されることはありません。
株式は財産権の一種ですから、株式を誰に譲渡しようと、原則自由ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式の譲渡制限の必要性
株式譲渡の自由のみを認めた場合、これから株式会社を作ろうと考えている者は
「仲間と始めた会社に、将来、ワケのわからない第三者が入ってくるリスク」
を負担せざるを得なくなり、株式会社の設立を躊躇してしまいます。
そこで会社法は、株式の譲渡制限規定を設けることにより、株式会社が設立を促進し、経済の発展を目指しています。
その概要は、次のようになります。
1.譲渡制限株式を譲渡しても、会社の承認を受けなければ、株主名簿の書換えを請求できない(同法134条、133条)
2.譲渡制限株式の株主は、会社に対して、譲渡について承認するかどうかの決定をすることを請求できる(同法136条)。株式の譲渡を受けた者も、同様の請求をすることができる(同法137条)
3.会社は、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議により、承認するかどうかの決定を行い(同法139条1項)、その結果を承認請求者に通知する(同条2項)
4.2の請求があってから、2週間以内に3の決定の結果について承認請求者に通知しなかった場合には、会社は、譲渡について承認したものとみなされる(同法145条)

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:譲渡承認請求を無視した場合
通常、定款には
「株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない」
とだけ記載されていますので、取締役会において、
「承認しない」
決議を行うだけでいいと誤解しがちですが、その旨を相手方に通知しなければ、
「譲渡承認請求の日から2週間後」
には、
「承認したものとみなされる」(裁判になっても、この点については争うことができないことを意味する)
ことになってしまいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:会社又は指定買取人による買取り
会社法では、会社が譲渡の承認をしない場合には会社または会社が指定する者(「指定買取人」)が株式を買い取るように会社へ請求することができる旨が、定められています(同法138条1号ハ、2号ハ )。
会社が自己株式を購入するにあたっては、利益分配可能額を超えることができません(同法461条1項1号)。
したがって、利益分配可能額がない場合は、会社は、自らが買い取る旨を株主に通知することができず、その代わりに、指定買取人に、買取りの通知を承認請求者に対して行ってもらう必要があります。
会社が株主に対して譲渡を承認しない旨の通知をした日から10日以内に、指定買取人が
「買い取る」
旨の通知(以下「買取通知」)を株主に対して行わなかった場合には、株式譲渡の承認請求を無視した場合と同様に、譲渡を承認したものとみなされます(同法145条2号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:指定買取人は通知前に供託が必要
指定買取人が買い取る場合には、さらなる条件として、買取通知をする前に、1株あたり資産額に買い取る株式の数を乗じた額を供託するとともに、供託を証明する書面を承認請求者に交付することが必要です(同法142条2項)。

助言のポイント
1.会社法では、株式譲渡自由が大原則。
2.会社法が要求する条件を積極的に満たしていかないと、株式譲渡自由原則に従って自動的に処理されてしまう。
3.会社に利益分配可能額がない場合は、指定買取人に買い取ってもらえないと、第三者への譲渡が承認されたとみなされる。利益分配可能額がない状況では、指定買取人の目処をつけておこう。
4.指定買取人は、事前に法律の要件を充たした供託をしていないと、そもそも買取通知を譲渡承認請求をした者に対して行えないから注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00932_企業法務ケーススタディ(No.0252):株主代表訴訟のお作法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十四の巻(第24回)「株主代表訴訟のお作法」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
空有(スキアリ)物産

相手方:
矢見内 政梅(やみうち せいばい)

株主代表訴訟のお作法:
当社に、株主から
「取締役に対する責任追及訴訟提起請求書」
が送りつけられてきました。
株主代表訴訟をおこされては大変です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
「株主代表訴訟」(正確には「責任追及等の訴え」(会社法第847条 ) )
とは、株式会社において株主が会社を代表し、取締役や監査役などの役員(以下、「取締役」)に対し、その法的責任を追及するために提起する訴訟のことです。
本来であれば、取締役の会社に対する責任追及は、その被害者である会社自身が追及すべきものですが、実際は、会社が身内の役員に対して厳しく責任追及することなど期待するべくもありませんし、責任追及を放置していたら会社の利益、ひいては株主の共通の利益も害されてしまう恐れがあります。
そこで、会社法は、株主自身が、会社の
「取締役の責任を追及する権利」
を会社に代わって行使する方法を認め、これにより会社と株主の利益の回復・確保を図ろうとしたのです。
取締役の責任追及は、まず、株主が、会社(監査役)に対し、株主代表訴訟を提起するよう求めるところからはじまります(取締役の責任追及請求)。
そして、会社法が定める一定の期間(60日)以内に会社が株主代表訴訟を提起しない場合、初めて、当該
「取締役の責任追及請求」
を行った株主が、会社のために株主代表訴訟を提起することが可能となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:任務懈怠が推定される利益相反取引における手続ミス
設例の場合、社長は当社代表取締役を務めながら、同時に空有物産の取締役を務めています。
この状況において両者間で取引を行う場合、会社法356条の規定上、社長は当社取締役会において当該取引の重要事実を開示し、かつ、社長以外の取締役の決議をもって、当該取引の承認を得なければなりません。
当該取引の実施に基づき会社に損害が生じた場合、当該取引を実行した取締役は
「任務を怠った」
と推定され(会社法423条3項)ることになるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不当な目的による株主代表訴訟を排除する方法
株主代表訴訟においては、印紙代が安いということもあり、中には、経営攪乱や個人的な報復のため、はたまた、不当に会社から利益を得るために、安易に訴訟を提起する者も出てきます。
そこで、会社法は
「責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない(=訴訟を提起することができない)(会社法847条1項ただし書)」
旨、規定し、株主代表訴訟が、不当な目的を持った株主による提起であることが判明した場合、裁判所は却下判決を行うことができる、としたのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:担保提供命令の申立
会社法は、さらに
「立担保」
制度を設けました。
たとえ、株主が主張していることが真実であり、本来であれば、取締役の責任追及が認められてしかるべき訴訟であったとしても、当該株主代表訴訟が
「嫌がらせのため」
に提起されたものであることを明らかにできれば、株主に対し多額の担保金の提供を命じさせることが可能となります。
「担保提供命令」
が発令されたにも関わらず、一定の期間内に株主が担保金を提供しない場合、自動的に株主代表訴訟は終了することとなります。

助言のポイント
1.株主代表訴訟を恐れない。
2.まずは、真に、会社や株主の共通の利益を図ることを目的としたものか、それとも、単なる嫌がらせ目的といった不当な目的を持ったものか見極めよう。
3.何でもバカ正直に、正面突破作戦で「取締役の責任追及の是非」というややこしい議論を展開し、長期戦に突入してしまうのは愚の骨頂。「訴えの却下を求める本案前答弁」や「担保提供命令の申立」によってスマートにかつ方法も検討しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00931_企業法務ケーススタディ(No.0251):海外で訴えられた! その2 懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十三の巻(第23回)「海外で訴えられた! ~その2懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
アメリカ合衆国 某

海外で訴えられた! その2 懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ:
当社は、訴訟に負け、懲罰的損害賠償を請求されました。
賠償額は驚くほど多額なうえに、懲罰的損害賠償というものは、日本の法律には存在しません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:外国での判決の有効性
法律というものは、その国で問題になった事柄を解決するために存在するものであり、主権の及ばない他国での適用は想定されていません。
したがって、どれほど権威ある外国で出された判決であったとしても、それを別の国が、自国の判決として
「承認」
するかどうかは別問題です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決と日本の公序良俗
外国で判決が出されたとしても、その判決が日本で常に有効的であると扱うことは、日本の常識や価値観を否定することにほかなりません。
このような状態を調節するために、承認要件(4)
「日本の公序良俗に反する判決でないこと」
があげられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:萬世工業事件
萬世工業事件(最高裁平成9年7月11日判決)では、最高裁は、損害を填補する意味合いの賠償額は認めたものの、懲罰的損害賠償の部分は
「我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しない」
と判断しました。
日本での損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、制裁を与える趣旨等は基本的に含まれていません。

助言のポイント
1.懲罰的損害賠償? 日本にそんな制度はない。すなわち、日本でそのような制度に基づく巨額な損害賠償が強制執行されるおそれは、まずない 。
2.どこかの国で出た日本の法感覚からズレる判決なんて恐れるに足りない。自分の常識や価値観を信じよう。焦って弱みにつけこまれないようにしよう 。
3.知らない法律の話と直面したときには、自らの判断で不利益をこうむらないように、これに精通した専門家に相談すること。それこそが、無用なリスクを回避する最善策 。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00930_企業法務ケーススタディ(No.0250):海外で訴えられた! その1  外国から訴状送達された場合の対応法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十二の巻(第22回)「海外で訴えられた! ~その1外国から訴状送達された場合の対応法」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
アメリカ合衆国 某

海外で訴えられた! その1 外国から訴状送達された場合の対応法:
法律事務所の代理人と称する外国人が、当社にいきなり訴状を置いていきました。
読むと、当社がアメリカで訴訟を起こされ3日後が裁判期日であることがわかりました。
社長は、法務部長に、すぐさまアメリカに出向き平謝りしてくるよう、指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:国際化とは無縁の司法運営
経済社会がグローバルになったとはいえ、権利や義務に関しての司法運営は、主権国家がそれぞれの縄張りをもつ、という形が取られています。
とはいえ、海外で
「契約違反」

「不法行為」
その他御法度とされる行為をしても日本国に逃げ帰れば一切不問に付される、という話ではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決の承認・執行制度
「国際的な紛争が生じた場合、相手方が居住している国まで出向き裁判を起こさなくてはならない」
となると訴訟を提起する者にとってあまりに負担が大きく、また国境を股にかける不届き者を不当に利する結果になりかねません。
そこで、外国の判決を自国の判決と同等であると
「承認」

「執行」
する手続が多くの国で整備されており、日本でもこの手続が存在します。
日本では、民事訴訟法第118条の要件
1.外国裁判所の確定判決であること
2.外国裁判所が管轄権を有すること
3.敗訴被告に手続き上の保護がされていること
4.日本の公序良俗に反する判決でないこと
を充足する外国の判決であれば、特別の手続を必要とせずに
「承認」
されます(自動承認)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:敗訴被告に対する手続き上の保護の有無
よく問題になるのが要件3です。
「訴状送達を外国の作法で行っても有効な手続き上の保護があったとは理解されず、日本国が認めた『送達』方法によるべし」
とされるのです(民事訴訟法第118条2号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:不適切な訴状送達は無視意味なくアウェーで試合しない
日本国内にいながら外国の訴状等を受け取る場面を想定すると、
1.外国の原告やその代理人から直接訴状が郵送もしくは持参されて届く
2.日本の地方裁判所を通じて訴状が届く
に大別されます。
有効な送達とされるのは2の場合のみです。
ただし1の場合であっても、わざわざ外国で開かれている裁判に出席しに行ったり、答弁書を提出したりした場合は、
「応訴しているぐらいだから手続き上の保護に欠けることがない」
とされ、要件3が満たされると判断される余地がありますので、十分な注意が必要です。

助言のポイント
1.日本の裁判所を経由しない類の外国からの訴状をむやみに恐れて、パニックを起こさない。
2.訴状の正式な送達さえなされていない状況で、準備不足のまま無謀に裁判に臨むのは、愚の骨頂。
3.たとえ相手方弁護士からの英語の訴状に、日本語訳がご丁寧に付いてきたとしても、裁判所を経由しない訴状送達の効力は疑わしい。
4.さっぱり意味がわからない法律問題に遭遇したときには、パニックに陥って「善意に満ちあふれた日本人」の常識で判断せず、きちんとした専門家に相談しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00929_企業法務ケーススタディ(No.0249):不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年8月号(7月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十一の巻(第21回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その2 税務篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ 家電量販店ドッキリカメラ
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編:
当社は、不動産流動化スキームを行ったところ、証券取引等監視委員会に目をつけられ、2億円の課徴金を支払う結果となりました。
証券取引等監視委員会が
「あの取引は不動産の売買ではなく、不動産を担保とした借入だ」
と判断したのであれば、売買を前提として支払った税金は支払う必要がなかった、となるのですが。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:更正の請求
納税義務者は、税額を過大に申告してしまった場合には、税務署長に対して、税額等について更正をすべき旨を請求することができます(国税通則法23条1項1号)。
更正の請求の前提となる
「税額の計算等が法律の規定に従っていなかったか否か」
については、最終的には法令の解釈権を有する裁判所が決定します。
しかしそれは、敗訴率95%(平成21年度)の絶望的な訴訟といわれています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式公開企業を取り巻く「三重会計」
1つの企業(会計主体)には、複数の会計が存在します。
株式公開企業では、
1 企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための企業会計
2 株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社法会計
3 適正かつ公平な課税を目的として、税務当局を保護する税務会計
と、3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「二重帳簿」はNG、「三重会計」は問題なし!
いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が、企業会計、会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。
逆に、税務会計には
「適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:国税当局と証券取引等監視委員会の見解が矛盾した実例
裁判例では、某家電量販店は、資産流動化スキームに基づき、自らが所有する不動産をSPCに一旦売却した際、会計上、売却取引として認識し、計上した売却益に基づき約26億円の法人税を納付しました。
ところが、証券取引等監視委員会から
「実務指針に沿わない会計処理であり、これは不動産を担保として資金を借り入れた金融取引である」
と指摘されたことに伴い、某家電量販店は、当該売却処理を取り消し、有価証券報告書等を訂正しました。
そして、
「不動産売却益はなかったのだから、納付した法人税26億円は返してくれ」
と、所轄税務署に対し更正請求をしました。
ところが、税務署側は
「金融取引とする理由はない」
との判断を下し、某家電量販店の主張を認めませんでした。
しかも、取締役、監査役、元取締役ら9名に対しては、課徴金相当額および過大に納税した額について支払を求める株主代表訴訟まで提起されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:目新しいスキームには要注意
同一の取引について、証券取引等監視委員会と税務署が矛盾した判断が平然となされることが実際に起こっているのです。
会計の目的が
「投資家に対して、適時に適切な情報を提供する」
ことである一方、税務の目的は
「税金を多く徴集すること」
であり、両者が目的を異にしている以上、判断結果が異なったとしても合理性がまったくないとは言い切れません。

助言のポイント
1.税務の目的は税金を多く取ることで、会計の目的は投資家に適切な情報を提供すること。両者の目的はそもそも異なるから、税務当局と証券取引等監視委員会が矛盾する取扱をすることもある。
2.税務署に一度納めた税金を取り戻すのは至難の業だし、裁判所に助けを求めてもアテにならない。
3.不適切な会計処理をすると、(1)証券取引等監視委員会からは課徴金を取られ、(2)株価下落の憂き目にあい、(3)税務署に過大な支払った税金は返ってこず、(4)株主から代表訴訟を食らって沈没、という最悪のシナリオになる可能性があるから注意が必要。
4.未確立の会計スキームを活用する際は、法務、会計、税務の全てについて、専門家と連絡を密にして、アタマを冷やして慎重に対応しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00928_企業法務ケーススタディ(No.0248):不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十の巻(第20回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その1会計篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編:
不動産コンサルタントが、
「SPC(特別目的会社)を設立し、土地をSPCに売る。SPCは社債等を発行して投資家から資金を募る。投資家は土地に収益力があると見込めば投資をするから、銀行から借り入れするよりも有利な条件でカネ集めができる。地価が下がったタイミングで土地を買い戻せば、安い金利で資金調達したうえに土地を安く買い戻せる」
という、夢のような不動産流動化スキームを提案してきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:オフバランス目的の不動産流動化スキーム流行の背景
企業経営の評価においては、貸借対照表(バランスシート)から
「総資産を幾ら保有していて、これを利用してどのくらいの利益を計上しているか」
という点(総資産回転率。売上高÷総資産で算出され、総資産をどのくらい効率的に活用しているかを示す指標とされる)が重要視されます。
分母の総資産の中に、活用されていない土地が多く含まれる場合、総資産回転率は向上しませんので、企業の成長のためには、活用されていない土地をお金に換え、投資を指向することになります。
しかし不動産は通常高額であり、単純に売却しようとしても、条件に見合った購入者を探すことは困難ですし、その不動産を担保として借入れを行おうとしても銀行等は、業績をまず念頭に入れますから、
「貸出利率は高めに設定しないと貸せない」
ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不動産流動化の基本構造
これを解決するために開発されたのが、
「不動産流動化スキーム」
で、基本構造は次のようになります。
1 不動産所有者(以下「オリジネーター」)は、所有している不動産を、自分とは法人格が異なる別法人であるSPC(特別目的会社)に売却する。
2 SPCは、不動産の購入資金とするために特定社債(「資産の流動化に関する法律」に規定される社債をいう)等を発行して、投資家から投資を募る。
これによって、不動産が証券化され、投資家の間で売買される(=流動化する)。
高額な不動産についても、小口の有価証券とすることで細分化すれば多額の投資を集めることが可能となる。
3 オリジネーターは、SPCと賃貸借契約を締結したり、SPCが資金集めに作った匿名組合に出資するなどして、引き続き売り払った不動産を利用する関係を維持することがある。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不動産流動化のメリット
不動産流動化スキームを採用する企業には次のようなメリットが生じるとされます。
1 格付けの低い企業であっても、低コストの資金調達が期待できる
2 小口化することで、広く浅く資金を集めることができる
3 財務指標が改善できる
このうち3に関しては、売却利益が実現でき、休眠していた不動産の活用という評価につながり、バランスシートの資産項目から不動産が消える(=オフ)こと(資産のオフバランス)によって、総資産利益率の改善を見込めます。
最終的には、以上の評価は実施企業の株価上昇となって現れるので、うまく導入できた企業はオイシイことずくめ、という目論見が想定されるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「5%ルール」
会計上のメリットを享受するためには、不動産の譲渡取引が
「見知らぬ第三者との間の取引」
が前提となり、認められる要件が定められています。
1 不動産が譲受人であるSPCに対して適正価格で譲渡されていること
2 当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人であるSPCを通じて他の者に移転していること
具体的には、当該不動産についてのリスク負担の金額を当該不動産の譲渡時の適正な価額で割った値(リスク負担割合)がおおむね5%の範囲内であること。
3 実質的な判断からも、不動産のリスクと経済価値のほとんどが譲受人であるSPCに移転していると判断されること
会計実体に沿わない有価証券報告書を作成した場合、金融商品取引法違反に基づく課徴金を支払うことになりかねず、株価は急落、経営陣は経営責任や法的責任(株主代表訴訟)を負わされることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:課徴金納付の実例
某家電量販店がオリジネーターとなった不動産流動化スキームに関連し、2008年12月、証券取引等監視委員会は、
「SPCに投資した法人が、実はオリジネーター(家電量販店)の子会社にあたり、要件を満たさない」
との指摘を行い、オリジネーターは、売却会計処理を数年間遡って取消しました。

助言のポイント
1.不動産流動化にあたっては、会計基準についても慎重に検討しよう。金商法違反の有価証券報告書虚偽記載とされて、課徴金を取られることもある。
2.最近は、会計基準の変化で不動産流動化の会計上のメリットも減少している。
3.不動産流動化を実施しても、会計基準が将来どのように変化するか保証はない。想定されているメリットが得られるかよく考えよう。
4.「最先端の経営手法」に惑わされない。オイシイ話には必ず落とし穴があるから注意しよう。
5.目新しいスキームを採用する場合、トラブル例をよく見て、社外の専門家から客観的・保守的な意見もきちんと採取し、慎重に実施しよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00927_企業法務ケーススタディ(No.0247):土壌汚染物質をめぐる諸問題

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十九の巻(第19回)「土壌汚染物質をめぐる諸問題」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ダートマス・アンド・ティファニー・ケミカル・ジャパン株式会社(「ダーティケミカル社」)

土壌汚染物質をめぐる諸問題:
当社は、ダーティケミカル社から格安で手に入れた臨海地区の化学薬品工場跡地に、子供向けの遊戯施設やフードコートなどを中心とするアミューズメントパークを建設し、さらには、幼稚園や病院の誘致も計画しています。
土地の売買契約、不動産登記関係もしっかり確認し、金融機関の融資も取り付けました。
化学薬品工場跡地ということですが、お神酒や塩で清めておけば、まあ問題はないでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:土壌汚染対策法
平成15年に、土壌汚染の状況の把握に関する措置およびその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定める
「土壌汚染対策法」
が制定されました。
この法律は、特定の有害物質を使用したり生産したりしていた工場などの跡地や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地について、
1.土壌汚染状況の調査、
2.土壌汚染が発見された場合には都道府県知事の命令により当該汚染を除去するなどの措置
を執らせること
を義務付けるものです。
実際に土壌を汚染してしまった者ではなく、当該土地の所有者が第一次的な義務の主体となるところに特徴があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:汚染調査義務
土壌汚染対策法は、特定の有害物質を使用したり、生産したりしていた工場が廃止された場合や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地(土壌汚染対策法が施行される前に廃止された工場の跡地など)の所有者や管理者、占有者に対し、特定の有害物質が残留していないかなどの調査を義務つけています(土壌汚染対策法3条、4条)。
汚染調査義務が課せられる場合、現在の所有者に限られます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:汚染除去義務
調査の結果、土壌汚染が発見された場合、所有者や管理者、占有者のほか、実際に土壌汚染を招いた者に対し、当該土壌汚染を除去する措置を構ずるべき義務を課しています(同法7条)。
ただし、実際に土壌汚染を招いた者であったとしても、所有者でなければ該当する土壌汚染地域に立ち入ることさえできず、迅速に対応することができないという理由から
「土壌汚染を招いた行為から土壌汚染が生じたことが明白であり」、
「土壌汚染を招いた者に汚染除去義務を課すことが相当であり」、
かつ
「土壌汚染を招いた者が汚染を除去することについて、所有者等に異議がない場合」
に限られます。
土壌汚染を隠して譲渡を行うなどした場合、不動産業者であれば、宅地建物取引業法違反などの罪に問われる場合もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:費用の求償先
汚染調査の結果、実際に土壌汚染が発見され、かつ、汚染除去義務を履行した所有者は、土壌汚染対策法上、土壌汚染を招いた者の故意・過失を問うことなく、当然に
「汚染除去に要した費用」
を求償することができます(法8条)。
しかしながら
「汚染調査に要した費用」
については、土壌汚染対策法上、規定がなく、汚染が発見された場合であっても、当然には求償することができません。
そこで
「汚染調査に要した費用」
については、民法など、私法上の規定に基づき、瑕疵担保責任や不法行為による損害賠償責任を追及したり、不動産の売買契約などの規定に基づく請求をしたりすることになります。
汚染調査の結果、何ら土壌汚染が発見されなかった場合は、
「瑕疵が存在しない」
が明らかとなっただけで、瑕疵担保責任や不法行為責任は発生し得ません。

助言のポイント
1.土壌汚染が想定される土地の取引はとにかく注意してかかろう。
2.どうしても、土壌汚染が想定される土地を購入する際は、必ず、前所有者が土壌汚染調査を実施したかどうかを確かめよう。
3.土壌汚染調査がされていない場合、買主が汚染調査義務を負担しなければならないことを肝に銘じよう。
4.土壌汚染調査がされていない場合、汚染調査に要した費用の求償関係について売買契約書に明記すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00926_企業法務ケーススタディ(No.0246):資本金5億円の片道切符

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十八の巻(第18回)「資本金五億円の片道切符」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
間夫太刀(マブダチ)興業
風雲色(フウウンショク)監査法人

相手方:
なし

資本金5億円の片道切符:
いよいよ資本金5億円の大会社になる、と大喜びの当社社長。
募集株式を引き受けてくれた知人が、会計監査人を紹介しようとしますが、当社には顧問税理士がいるから、と断るつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:資本金5億円以上は「大会社」
「資本金の額が大きい」=「利害関係者が多い」=「社会・経済に与える影響力が大きい」
という関係が成立し得るため、会社法は、資本金が5億円以上(あるいは負債が200億円以上)の会社を
「大会社」
と定義し、他の会社よりも厳しく
「ガバナンスや情報開示の強化義務」
1.会計監査人の設置義務
2.内部統制システムの決定義務
3.貸借対照表に加えて、損益計算書も公告する義務
4.清算中の監査役設置義務
5.監査役会または委員会の設置義務(※公開会社のみ)
6.連結計算書類の作成義務(※有価証券報告書提出会社のみ)
を負わせています。
会計監査人とは、公認会計士あるいは監査法人でなければなりません(会社法337条1項)。
実際には、大企業の複雑な経済活動の結果である決算書類を厳密に精査するのは大変な作業であり、その分、公認会計士や監査法人に支払うべき報酬額も非常に高額となります。
その上、会計監査人によって必要以上に厳格な解釈に基づいた会計処理上の
「あら探し」
が行われ、その対応等のため、さらに多大な時間やエネルギー、コストを要することもあります。
実際、会計処理や監査報酬を巡って監査法人とモメてしまい、監査契約解除の騒動に発展する例もあるほどです。
会計監査人を空席のまま放置しておくと
「会計監査人の設置義務」
違反として過料の制裁が課されますし、この種の違反の存在が将来、株式公開をする際に大きな足枷(あしかせ)となることもあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:後戻りは困難!? 戦場への片道切符
「減資」
には、
「会社財産を支払いのあてにしている会社債権者が関与できる手続(債権者保護手続)」
が必要とされます。
具体的には、原則として、官報公告や各債権者への個別催告が必要であり、所定の期間内に債権者から異議が出た場合には(減資をしても当該債権者への支払いに影響が生じるおそれがない場合を除く)、弁済や相当の担保の提供等の対応が義務づけられます。
債権者保護手続に重大な法律違反等があると、資本金の額の変更登記を受け付けてもらえなかったり、場合によっては、債権者から
「減資無効の訴え」
という訴訟を提起される可能性もあります。
実際問題としては、大口債権者である銀行の担当者は、そう簡単に減資に応じてくれません。
減資などしようものなら、ここぞとばかりに異議を出して全額弁済や担保提供等を求めてくるのは当然の道理でしょう。

助言のポイント
1.資本金5億円以上の企業は、会社法上の「大会社」に該当し、会計監査人の設置義務のほか、さまざまな負担を課されることになる。
2.「会計監査人の設置」とは、要するに「高額な監査報酬を支払って、わざわざ口やかましい専門家による決算書類のチェックを受ける」ということ。会社の経営に重い負担として、のしかかってくる。
3.「大会社としての負担に耐えられなくなったら減資すればよい」という安易な考えは禁物。減資には、原則として、債権者保護手続という高いハードルが待っている。簡単には戻れない「片道切符」だと心得よう。
4.資本金の額は、経営の根幹に影響する局面が少なくない。増資する際には、各方面の専門家や取引銀行等と十分に相談・検討し、戦略的に実行しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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