00792_有事(存立危機事態)対処プロジェクトを遂行する上でのマインド・セット(心構え)とフィロソフィー(対処哲学)1:正解がない、正解があるのかないのかすら不明の事態

有事(存立危機事態)対処というプロジェクトは、 社内の誰も経験したことのない、アブノーマルな事態に対処するものであり、滅多に起こらないし、故に誰も正解がわからない、というか、そもそも正解があるかすらわからないプロジェクトです。

もちろん、常識や良識や陳腐な考え方では太刀打ちできません。

といいますか、
「常識」自体
「物心つくまでに身に着けた偏見のコレクション」
ですから、そんなものが通用する範囲は限られています。

さらに、正常性バイアス、楽観バイアスといった、われわれの頭脳に巣食う思考における偏向的習性は、非常時、有事、リスク局面においては、すべてバイアスによる想定が裏切られ、このバイアスに依拠した考え方を捨てない限り、どんどん状況は悪化します。

しかも、この種の
「危険な状況に対応するチエやロジックや相場観」
は、カタギとしてフツーに暮らしてこられた一般のサラリーマンの方も、そのご両親も、学校の先生も、学校の先輩も、会社の先輩も、まったくご存知ありません。

「有事(存立危機事態)」
すなわち
「社内の誰も経験したことのない、アブノーマルな事態」
に対処しようとしても、自身も含め、社内外の関係者の誰も知らないし、対応する能力も知見もスキルも経験もない、ということを謙虚に認めましょう。

そして、常識で通用しないことに不安を感じましょう。

危険を感じましょう。

不安を感じることは、
「正常性バイアス、楽観バイアスといった、われわれの頭脳に巣食う、有事においては危険で有害この上ない、思考上の偏向的習性」
から脱却するために、もっとも大事なプロセスです。

正解がわからない、正解がないかもしれない。

ただし、最善解はあるはずです。

「合理的な目標を設定し、効率的な試行錯誤を行ない、正解ではないにせよ、最善解を求める」
という姿勢構築・態度決定がまずは大切な第一歩です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00791_有事(存立危機事態)対処の際のタスクアイテム

1 有事対応哲学の再確認

2 有事対応チームの組成(予算と専門家と意思決定及び実施体制の手配)

3 有事対応の戦略と段取りのデザイン(ゲームチェンジや敗戦を見越したダメージ・コントロールを含む)

4 裁判回避戦略・和解戦略

5 メディア対策・ネット対策・取引所対策その他有事外交戦略

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00790_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する21:裁判所は「気まぐれな神様」

官舎にひっそりと住み、飲みに行くときも周囲に気を使い、ストレス解消で気ままにハジケルことすら自粛する。

そんなおカタい公務員かと思えば、憲法上
「自分の良心にさえしたがっていれば、仕事の上で何をやらかしてもよろしい」
と絶対的覇権的権力を完全な自由裁量で行使する自由が保障された独裁者で、たまに社会常識に反する無茶苦茶なことを平気でやる。

選挙が行われるわけでもなく、採用基準も不明瞭で、業務の方針はおろか、出世の基準すら曖昧。

実体も運営もまったくよくワカンナイ集団ながら、日本という国家の中で、行政決定はいうに及ばず、選良のなした立法判断すらぶっ飛ばしてしまう最強権力を掌握する寡頭集団。

そんな裁判所との付き合いもかれこれ二十数年になりますが、
「一出入り業者風情」
である弁護士の私からみても、この
「閉ざされた秘境」
ともいうべき国家機関は、目指す方向性が不明で、不可解で謎に満ちた集団にしか映りません。

裁判所は、おそらく今後も、
「市民の健全な常識」
とはまったく隔絶した状態で、取引社会や市民社会の
「ジョーカー」
として、独自の価値観と強大な権力をもって、揉め事を適当に裁いていくことでしょう。

「裁判所」
を知らない一般の方々にとっての
「裁判官像」
というと、
「超人的な明晰さを以て常に真実を見通し、姿勢としても一切ブレない、神様」
の如き存在なのかもしれません。

しかしながら、
「神様」
にもいろいろあります。

つまるところ、裁判所は、
「謹厳実直で、常に正しく、適当なことは絶対言わない、一神教における神様」
のような存在ではなく、多神教社会であったギリシャやローマの神話に出てくるような
「適当で、気まぐれで、割と間違いが多く、一貫性がなく、ある意味人間的と言えば人間的な神様」
と思っていた方が実体に近いのだと思います。

こんな裁判所ないし裁判官との付き合い方としては、礼を尽くし、気を使い、顔色を伺いながら、卑屈に、神妙に行動し、
「神様の気まぐれ」
が少しでも自分の有利に働くよう、誠意を尽くして、
「捧げ物」
ならぬ
「書面」

「証拠」
を準備し、提供することが肝要なのです。

そして、こういう地道な努力を厭わない
「知的な男芸者」(女性弁護士の場合は、「知的な芸者」)
が、われわれ法廷弁護士の実体なのです。

こんな面倒な法廷活動、すなわち
「気まぐれな権力者の前で、自己に有利な決定欲しさに、卑屈に振る舞う」
というのが嫌であれば、裁判所などというところに近づかないのが一番です。  

そんなこともあって、最近では、
「契約や取決めを事前にしっかりしておき、裁判所に近づかなくても、世の中を渡っていけるようにするための法的技術」、
すなわち、
「(裁判法務・治療法務ではない)予防法務」
というのが企業等で積極的に採用されるようになっています。

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00789_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する20:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(7)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅳ)相手のリアクションを見越した言い方で主張する

最後に、事実を述べる際には、
「具体的な事実を、客観性がある形で、あるいは相手が争いようのない形で呈示」
していくと、裁判官としては非常に事案を認識しやすい、ということになります。

明らかに相手が否定するであろうような事実を、ことさらに挑発するような形で主張することは、紛糾の原因になるだけで、時間とエネルギーの無駄ですし、裁判官もあまり良い印象をもってくれなくなります。

訴訟上の重要な争点は別として、言い分を述べていくときには、客観的証拠(公的な文書や相手の自認文書)が残っている事実や相手が認めざるをえない事実を丁寧に拾いながら、客観性を保ちつつ文書として構築していくと、無用な紛糾が避けられますし、裁判官も審理を進めやすくなり、歓迎されます。

この点で一番効果的なのは、相手方作成の文書の相手方が自認している事実を巧みに引用しながら、全体として相手方が認めない結論を導き出すというもので、日常生活では
「揚げ足取り」
等と呼ばれる方法です。

セールス専門用語でいうと、反論処理をしながら(相手が言いそうな文句や異議を想定して、すべてつぶす準備をして)、自らの主張を構築していくような高度な手法です。

空手において拳を相手に向けて押し出すような形で、自己の主張を威嚇しながら声高に叫んでみたところで、相手は反発するだけで
「そんなの所詮あなたが勝手に言っている事実であって、私の認識とは違う」
といわれるだけです。

ところが、合気道において相手の攻撃してきた手をつかんで相手の勢いをそのまま利用しながら攻撃を加えるが如く、
「相手が認めている事実や相手も争いようのない客観的な事実を拾い出し、合理的なロジックを使いながら、自分の誘導したい結論を導く方法」
は、相手としても応戦しにくくなる上、
「ロジックの合理性だけを検証すれば足りるので、審理が全体的に効率化される」
という点において、裁判所にとっても歓迎されます。

とはいえ、詭弁ともいえるような無茶なロジックを多用しすぎると、却って紛糾が拡大し、裁判所から嫌われますので、揚げ足取りを行う際は、
「裁判所も納得するような穏当にみえるロジック」
を用いて主張構築することが必要です。

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00788_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する19:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(6)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅲ)裁判所の業界内部ルールである「要件事実」を意識する

裁判官の頭の中では、すべての事実を同じ意味において認識することはしません。

裁判官は、常に、
「紛争解決を導く上で必須あるいは本質的な事実」

「そうでない事実(=決定的とはいえない事実)」
についても
「重要なもの(事件を解決する上で考慮すべき事実)」

「不要なもの(全くどうでもいい事実)」
という形で事実を階層化して認識していきます。

「紛争解決を導く上で必須あるいは本質的な事実」
を要件事実といったりしますが、提出文書においては、このツボを押さえることが必要なのです。

その他の事実(業界用語で「間接事実」ないし「事情」と呼ばれる事実です)についても、無論、重要なものを中心に述べていくわけですが、ここで押さえておくべきことは、
「重要かどうか」

「社会常識や当事者の経験や認識から重要と感じられるかどうか」
と必ずしもイコールではない、ということです。

すなわち、事件解決に重要かどうかは、あくまで
「『学歴社会の頂点に立ち、俗世の芥から隔絶した静謐な生活を送っておられる裁判官の経験則』からみて重要かどうか」
ということです。

弁護士さんの中には
「依頼者の主観に基づく重要性認識」
に振り回され、まったくどうでもいいことを延々議論し、裁判官をウンザリさせることを平然となさる方がいらっしゃいます。

むろん、当事者の方は
「自分の言いたい事はすべて言ってもらってスッキリした」
と感じ、弁護士さんも
「どうだ! 見たか!」
としたり顔ですが、フタを空けてみると、無残な敗訴判決、ってことになっている場合が少なからずあります。

ですので、常に、事件の経緯や背景を語るときは、
「裁判官目線で、裁判官の嗜好に併せて、適度に行うこと」
が必要です。

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00787_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する18:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(5)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅱ)修飾語やレトリックは「法曹禁止用語」

素人の方からは意外に思われるのですが、弁護士は事実を語るのであって、華麗な言葉で相手を非難するのが活動の本質というわけではありません。

裁判所としても、事実に基づいてどちらかの当事者を勝たせるのであって、派手な言葉や、声の大きさ、見た目や雰囲気や印象によって勝ち負けを決めているわけではありません。

その意味では、書面に
「不当」
「非常に公平を欠く」
「誠実とはいえない」
「明白に虚偽といえる」
「明らかに矛盾する」
等形容詞や副詞(これらを総称して「修飾語」と言われます)をずらずら書きつらねられても、裁判所としては困るわけです。

裁判所としては、
「何時、誰が、どこで、どのようなことを、何回した」
から
「不当」
と評価できるのか、その評価の根拠となるべき事実を、具体的かつ客観的な事実を知りたいのです。

裁判官の中には、当事者の書面から修飾語を意識の上で墨塗りして読む人もいると聞きます。

「レーズンが嫌いな人にとってのレーズンパンの中のレーズン」
のように、あるいは
「ニンジンが嫌いな人にとっての、ミックスベジタブルの中に入ったニンジン」
のように、事実こそを重んじる裁判官にとって修飾語ほど迷惑なものはありません。

死ぬほど忙しい裁判官にいちいち墨塗りいただく手間をかけさせるのもよろしくないので、
「評価の根拠となる事実を書かず、華麗な修飾語やレトリックで相手を非難し、書き手の弁護士と当事者だけが悦に入っているような文書は、原則NG」
と考えておくべきです。

実際
「訴訟によく勝つ弁護士さんの文書」
というのをみますと、主観的な印象や評価がまったく書かれておらず、客観的な事実だけを拾っただけのシンプルな文書で、全体として拍子抜けするほど素っ気ない書きぶりです。

ですが、そういう文書ほど、裁判官にとっては、スッと事実関係が頭に入ってきて、知らない間に頭の中が
「書き手のシナリオ」
で染め上げられてしまうものなのです。

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00786_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する17:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(4)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただくための具体的工夫(ⅰ)10頁の原則

長らく訴訟弁護士の間で語り継がれている書面作成原則として著名なものに、
「10頁の原則」
というものが存在します。

裁判所への提出書面というと難解な長文というイメージがあるかもしれませんが、実際には
「裁判官をウンザリさせず、言い分を適切に理解してもらうための、適度な分量」
というのが存在します。

この
「適度な文書ボリューム」
とは、おおむね裁判所提出用の推奨書式に基づき作成された書面で10頁と言われています。

ちなみにこの
「裁判所提出用の推奨書式」
にいう
「1頁」
とは、
A4横書き・12ポイントの文字で37文字×26行=962文字
を指します。

事件の当事者からすると言いたい事は山ほどあるのでしょうが、通常の訴訟であればだいたい10頁(だいたい1万文字)もあれば相当な情報量になるはずです。

逆に10頁以上の書面書くと裁判官が読んでくれない(読んだとしても、ポイントを絞りきれず、認識が希薄になる)可能性が出てきます。

実際、筆者が体験したある事件で、事件の引き延ばしを図る相手方が300頁にわたる書面を提出し
「これに反論してみろ」
と威嚇的に要求してきたことがありましたが、この事件の裁判長は
「ま、過ぎたるは及ばざるが如し、等といいますから、あまり量が多いと、私たちが理解できないことがありますよ」
と笑いながら相手方代理人を窘(たしな)めていました(なかなかユーモアセンスのある裁判官です)。

むろん、高度な専門性をもつ医療訴訟や知的財産権訴訟、複雑な会計上の議論等を含む商事紛争は、10頁に収めるのは不可能ですし、当然例外もあります。

とはいえ、裁判所に提出する文書は、簡にして要を得た体裁とし、どんなに複雑な事象説明でも、提出書面1通につき、10頁以内に収めることが推奨されます。

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00785_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する16:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(3)「裁判官にとっては、どうでもいい、ツマンナイ事件の情報」をなるべく負担なく読んでいただく工夫をすることの意義・重要性

訴訟が始まりますと、訴状、答弁書、準備書面という形で訴訟の進行に応じて様々な書類を裁判所に提出していくことになります。

法律家は、小難しいことを書いた大量の文書に常に接しているため、速読に長けた人が多いですし、裁判官も例外ではありません。

とはいえ、速読に長けたスーパーマンといえども、仕事として義務感でやるからできるわけで、小難しい文書を長時間読まされることが苦痛なことには変わりありません。

そもそも、訴訟事件というのは、過ぎ去ったことを、あいまいな資料をもとに、事実が
「あーだった、こーだった」
と言い争うわけです。

当事者にとっては切実な話であっても、第三者からすると
「死ぬほどツマンナイこと」
が一杯書いてあるわけです。

事件と関係のない第三者である裁判官にとっては、
「自分にとって関心も興味もない、ツマンナイこと、が延々書いてある長文を読まなければならない」
というのは、前述のとおり大変な苦行なわけですが、
「誰からも干渉を受けることなく、事件に関し当事者の生殺与奪を自由にできる絶大な権力を保持し、エラく、尊く、おわします裁判官」
に対して、当事者風情が求めようとしているのは、要するにそういう
「負荷のかかるシンドイこと」
なのです。

「裁判官はお客様、お客様は神様」
とも言うべき存在ですが、そんなにエラい裁判官様に身勝手な願いを聞いてもらい、自分だけ有利な判断をもらおうと目論むのであれば、
「『訴訟において言い分を書いた書面を提出するということ』は、『尊い神様に苦行を強いている』のと同じである」
という自覚が必要であるとともに、少しでも神様を苦行から解放させてあげる努力が必要なことはご理解いただけると思います。

要するに、
「言いたいことを、言いたいだけ、言いたいように書きつらねる」
というスタンスは神様である裁判官の印象を非常に悪くするわけで、
「祟り(たたり)」
ならぬ
「敗訴判決」
が下されることになります。

逆に、少しでも楽に読んでもらうため、提出文書に工夫や配慮をしておくと、
「あとできっといいことがある」
ということになります。  

訴訟弁護士は、裁判に勝つため、あるいは和解交渉を有利に進める環境を作るため、それぞれ独自の方法で、提出書面に
「読ませる工夫」
をされているようですが、こういった努力や工夫が非常に意義と価値があり、重要性をもつことは言うまでもありません。

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00784_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する15:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(2)裁判官に早めに事件の全体像を見せるように努め、仕事が効率的に処理できるよう協力する

裁判官には早めに事件の全体像をみせてあげることが重要です。

裁判官には時間がありません。

弁護士が忙しいといっても、長時間かけて晩飯を食ったり、クラブで遊んだり、ゴルフに行ったりする程度には時間的余裕があるものですが、裁判官の忙しさは殺人的です。

実際よく自殺者が出ます。

ちなみに、
「自殺」
という毒々しい死亡原因で逝去される裁判官が後を絶たないとなると裁判官のなり手がいなくなることが懸念されるためか、公式発表においては
「自殺」
という表現はタブーとされ、判をついたように
「急性心不全」
という死亡原因が用いられます。

しかしながら、業界の人間は、司法研修所のクラスメートだった30代、40代の裁判官が
「急性心不全」
という死亡原因で殉職した場合、
「仕事に煮詰まってクビでもくくったんだろう」
という高度の推測を働かせます。

このように、実際少なくない数の殉職者が出るというくらい、文字どおり
「死ぬほど忙しい」裁判官
に、
「ある種、どうでもいい、ロクでもないトラブルの話」
を聞いてもらうのですから、相当要領よく話をしないと、話の全体をわかってもらう前にうんざりされてしまいます。

時間に追われる裁判官は、少しでも早く事件の全体像を把握したがっています。

そして、一度把握した事件の全体像は、よほどのことがない限り、修正したりしません(事件の全体像をコロコロ変えると時間の無駄につながりますから)。

ですので、事件は後半ではなく、初動段階が勝負です。

この段階で、いかに裁判官に効率的に事件の全体像を示すかが、勝負のポイントになります。

弁護士さんによっては、事件の初動段階では素っ気ない主張しかせず、最終段階であーだこーだ議論を展開する、
「差し馬」
みたいな方がいますが、後半でがんばっても裁判官はすでに心証が形成されてしまっているので、訴訟後半で出された
「大どんでん返し」
を狙った書面や証拠はほとんど読んでいない(あるいは逆に粗探しの材料を提供するだけ)という状況になっている場合が多いのが実情です。

このように、後半巻き返すという戦略は、定石からかなり外れます。

要するに裁判官は、食の細い食通みたいなもので、前菜で料理の腕が判断されるので、前菜で手を抜くと、メインやデザートでいかに美味しい料理を作っても星がもらえない、ということになります。

いずれにせよ訴訟は
「先行逃げきり」
の戦略が重要で、裁判官が早めに事件の全体像がつかめるように初動段階で充実した主張を展開することが遂行上必須です。

とはいえ、きちんと調べた上で主張しないと、依頼者のいい加減な話を鵜呑みにして客観証拠を精査せずに風呂敷を広げるのも危険です。

依頼者の話がころころ変わったり、相手が提出した客観証拠との矛盾を露呈したり、釈明に窮したりすると、挽回が不可能な状況に陥ります。

また、高度な戦略になりますが、相手方に好きなように言いたいだけ言わせて、後半山のように相手の主張と矛盾する客観証拠を提出して、そこで心証を逆転させた方が効果的な場合もあります。

このように例外もありますが、裁判官によっては、こういう弁護士にとって小気味のいい逆転劇も、時間の浪費でありうんざりであると感じる人もいると思われます。

ですので、あらゆる訴訟上の戦略は、お客様である裁判官の事実把握の負荷を少しでも軽減してあげる、という顧客第一の発想が重要です。

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00783_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する14:裁判官のココロを鷲掴みにするための推奨行動(1)ルーズなことをしない。納期は絶対厳守する。

訴訟弁護士といっても、世間で言われるほどエライ人間ではなく、実体は、裁判所というお役所の出入りの業者みたいなもんです。

そして、出入りの業者風情が納期を遅らせたら出入禁止になるのと同じで、納期厳守は絶対です。

一般社会における仕事と同様、訴訟を遂行する上でも、さまざまな課題の提出が要求され、そのすべてについて納期が設定されます。

曰く、
「何時何時までに、この点を調べてこい」
「この点について主張内容を整理しろ」
「こういう証拠があればとっとと出せ」
と。

さらにいいますと、法廷や弁論準備室でのやりとりは時間が限られていますので、時間を効率的に使うためには、議論の素材となるべき主張や証拠は事前に出しておくべき必要があります。

ですので、たいていは、課題提出期限は、期日の1週間前とかに前倒しして設定されますが、無論これも納期厳守です。

仮に納期が維持できないようであれば、いわゆるホーレンソー(報連相=報告・連絡・相談のこと)により事前に対応を協議しておくべき必要があります。

弁護士さんの中には、ルーズな人もいますが(というか、世間一般のイメージに反してほとんどが雑でルーズで、マメな人の方が稀)、基本的にこういう人は裁判官に嫌われます。

そもそも裁判官というのは、
「小さいころから宿題とか課題とかいったものはすべて期限内に相当中味のしっかりしたものを提出して先生やママに褒められてきた」
というようなタイプの人ばかりです。

「夏休みの宿題を忘れて廊下に立たされる」
というようなタイプの人間は、司法試験や司法研修の段階のはるか以前で淘汰されるので、そんないい加減な人間は裁判官には皆無です。

そういう
「謹厳実直を絵に描いたような人」

「お客様」
であり
「神様」
ですので、納期感覚がいい加減な出入り業者は裁判所では非常に不快な印象をもたれますし、また客であり神である人の不興を被って稼業が成り立つほど甘くありません。

ですので、訴訟遂行上、納期厳守はもちろんこと、遅れそうな場合のフォローは、単純なことですが、少しでも裁判官の心証をこちらに有利に運ぶためにはきわめて重要なポイントになります。

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