00612_企業法務ケーススタディ(No.0203):“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社 やもめ食堂 代表取締役社長 高霧 ハイジ(たかきり はいじ、52歳)

相談概要:
相談者は、深夜営業に特化した居酒屋チェーン店拡大にともない、
「残業代」

「深夜手当」
をあらかじめ含ませた形で、
「固定給」
制をとりいれました。
ところが、退職した従業員が
「時間外労働のと深夜労働の割増賃金を支払え!」
と、いってきました。
以上の詳細は、ケース10:”固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【事例紹介編】その1ケース10:”固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【事例紹介編】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 残業の抑止力としての割増賃金制度
日本の労働法制は、1週間に40時間、1日8時間労働を原則とし、これを超えた労働時間は「時間外労働」にあたるものと定めています。
「時間外労働」
をさせるには、労働基準法36条に基づく
「36協定(サブロクきょうてい)」
という労使間の合意手続きを必要とし、さらに加えて、
「時間外労働」
をさせたなら、通常より上乗せした
「割増賃金」
の支払いが企業に課せられています。
企業に対して時間外労働を抑制させるインセンティブを与え、過剰な時間外労働をさせないようにし、労働者を保護しているのです。
以上の詳細は、ケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【残業の抑止力としての割増賃金制度】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 正直者の企業がばかを見る
企業が労働法を順守するということは、
「長く職場にいてだらだら仕事」
する労働者を増やし、企業経営のコストが膨張することを意味します。
以上の詳細は、ケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【正直者の企業がばかを見る】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 「固定残業代」なるアイデアの出現
残業代を固定する仕組みは、経営上、大きなメリットがあります。
固定給が大きく見せられることにより、人手不足の昨今においては、求人において有利となります。
加えて、仕事の早い人に、さらに効率的に仕事をしてもらうというインセンティブを与えることもあります。
この他に、労務運営においては、
「残業代の計算が楽になる」
ということも挙げられます。
以上の詳細は、ケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【「固定残業代」なるアイデアの出現】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 固定残業代制度の導入方法
企業にとっても、やる気のある労働者にとっても、メリットがある固定残業代制度は、
「実務上、一応、違法ではない」
という扱いが定着しつつあるとはいえ、実際、訴訟等も多数提起されています。
特に、
「固定された残業代」
とされるものが、
「通常の時間外労働」
に充てられるのか、
「深夜手当」
に充てられるのか、
「休日出勤手当」
に充てられるのか、
が不明確であるということが、紛争の発火点になるようです。
以上の詳細は、ケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【固定残業代制度の導入方法 】をご覧ください。

モデル助言:
固定残業代が認められないとすると、想定外の多額の賃金を払わされる可能性すらあります。
導入に際しては、きちんと専門家に相談して、裁判例等が要求する水準を満たすような制度基盤を整えておくべきですね。
以上の詳細は、 ケース10:“固定残業代制度”で、残業規制も難なくクリア!?【今回の経営者・高霧(たかきり)社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00611_法務組織の職制設計と所掌分担設計

法務組織の職制(経営管理における指揮命令を実施する観点から、位階的に整理された組織秩序)設計と、各職制が所掌するタスクの内容設計ですが、1つの試案として、以下のようなモデルが考えられます。

1 最高法務責任者、法務担当役員

(内製・外注、有事対応コストや解決金を含めた)法務全体予算策定
法務全体予算管理
(訴訟提起の是非、和解の受諾等)有事対応方針最終意思決定
ゴール設定・戦略選択・成否見極め・ゲームチェンジ
対ボード及び対株主(総会)説明責任の負担
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所)選定・起用の権限と責任
ボードメンバーへの法務分野に関する啓蒙責任

2 法務部長

法務サービスの調達設計
(内製化された)社内法務予算の策定と管理
戦略の具体化・遂行管理
戦術レベルのタスクデザインや管理、
法務部の資源全般の管理と最適化、
法務予算執行
支出決裁・承認
社内法務研修・内部通報窓口・内部監査等内部統制課題の統括責任者
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所) 外注管理(予算管理・品質管理・納期管理・使い勝手管理)
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所)との契約窓口

3 法務課長

ルーティン・オペレーションの統括・管理
戦術レベルの実施責任者
所掌下の状況の把握と報告連絡相談
法務文書(議事録、契約書、申請書等)起案決裁
社内リソースでは対応できない法務文書(議事録、契約書、申請書等)の外注手配
法務文書(議事録、契約書、申請書等) 管理統括
予算申請起案
見積もり採取
社内法務研修・内部通報窓口・内部監査等内部統制課題の実施責任者
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所)との折衝
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所)との協働・実務窓口

4 法務スタッフ

ルーティン・オペレーション
各雑務・庶務
プロセスの把握
プロセスのミエル化・言語化・カタチ化・文書化・フォーマル化(外部化)
社内リソースで対応可能な法務文書(議事録、契約書、申請書等) 起案
法務文書(議事録、契約書、申請書等) 管理実務
法務外注先(顧問弁護士等の外部法律事務所)からの支援や手配要求への対応窓口

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00610_企業安全保障サービスとしての法務活動の内容設計と調達方法

企業安全保障サービスとしての
「法務活動」
について、どのような範囲・内実とし、どのような提供組織に担わせるか(内製化するか外注化するか)は、一つの政策判断であり、絶対的な正解があるものではありません。

前提として、そもそも、企業が主体的に制御する
「法務活動=安全保障活動」全体
をどう捉えるか(あるいは、何をギブアップするか)も、1つの政策判断です。

まず、企業が必要とする
「法務活動=安全保障活動」全体のサービス設計
を行う必要があります。

有事対応については、一切想定も意識も準備もせず、
「起きたら起きたで、行き当りばったりの出たとこ勝負」
という判断もあり得るでしょう。

さらには、平時の安全保障についても、予算をはじめとした資源投入すら忌避し、これすらも、
「もったいないので、ほったらかし」
という場合もあり得ます(年商数億円程度の中小零細企業ではよくみられますし、経営者の楽観バイアス・正常性バイアスが強く、そもそも法務という活動の価値や意味すら理解していない、いわゆる安全保障無頓着、平和ボケの一部オーナー系企業においても、この傾向はみられます)。

ただ、ゴーイング・コンサーンを真摯に考える、相応の組織体制を整備した企業においては、平時安全保障から、有事を意識した準備体制をある程度具体的に整備しています。

有事対応は、意思決定(各戦略オプションについての対応上の態度決定を行う意思決定)及び意思決定支援については、企業内部の固有の活動として社内の権限及び責任範囲として留保されます。

有事対応を具体的に実施する際、状況整理や情報整理といった後方支援活動は企業内の法務部が担うことが多いですが、前線における戦略実現のための活動一切は、外注にかかる外部専門家に委ねることが一般的です。

他方、平時の法務活動は、内製も外注もあり得るところです。

これらの体制整備課題の選択決定は、予算制約と人材スペック(法務部員のスキル)の限界・制約によって、内製・外注の調達区分の問題として課題処理されます。

以上のように、企業安全保障サービスについては、

・所掌する活動範囲をどう定義するか(あるいは、安全保障活動のどの範囲を、ギブアップしたり、無視・軽視・放置するか)、
・所掌する法務活動のうち、予算制約・要員の能力限界をふまえ、どの範囲を内製化するか、

という観点から、各企業毎に、法務スタッフのスキル・経験(社内人材のデキ具合)と予算制約(懐具合)を勘案して、最適な調達(あるいはそもそも調達自体をギブアップすること)を決定していくことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00609_法務予算の分類

法務予算(安全保障対策予算)の分類としては、マネジメントの観点から、まず、
定常的(経常的、平時)支出費用か、
非定常的(特別、有事)支出費用か、
という分け方が意識されるべきです。

会計上も、
前者は、
いわゆる販管費(販売費及び一般管理費)の中の一般管理費として認識・計上される
と思われますが、他方、
後者は、
訴訟損失引当金として認識・計上される
ことになろうと思われます。

1 定常的(経常的、平時)法務予算

定常的(経常的、平時)法務予算は、

配賦先1:社内サービス提供部門としての法務部
配賦先2:外部調達先としての法律顧問(顧問弁護士)の予防法務サービス予算

に配賦されることになります。

これは、企業の安全保障活動のうち、
「 企業内活動の言語化・記録化・文書化(株主総会や取締役会の議事録作成)や取引活動の文書化(契約書作成)や治安維持活動(コンプライアンス教育)や危機管理意識の向上改善のための啓発活動(法務教育)」
という、平時に展開・運営される後方支援活動を、内製(インソース)、外注(アウトソース)のいずれの調達が、
価格・品質・(供給の)安定性及び継続性という観点から合理的かどうか
によって配賦決定されるべきものと考えます。

2 非定常的(特別、有事)法務予算

こちらについては、
・企業の安全保障を担う部署であり、
・有事において直接カウンターパートと対向して働きかける外部の顧問弁護士とは異なり、
・平時において、有事を想定しながら、「大事が小事に、小事が無事に」なるよう、文書作成や記録管理を中核としたルーティンを担当する組織、
という本源的性格を有する、安全保障活動の後方支援部隊としての法務部に配賦されることは原則として生じ得ないと考えます(有事状況において、法務部員の残業が発生したり、文書整理等の作業補助のため派遣社員を増強したりする場合の費用は、経営管理上、有事法務予算として認識することもあろうかと思いますが、会計上は、営業費用の中の間接労務費としての認識・計上となるものと思わわれます)。

非定常的(特別、有事)法務予算は、企業の安全保障活動のうち、
企業外の敵対勢力(取引トラブルや法令違反に対する当局による不利益措置など)企業内の敵対分子(労働問題や内部統制問題など)が生じた場合に直接これらカウンターパートと対向して解決を働きかける
という有事対応活動を展開する際、
起用する外部専門家組織(実働傭兵集団)に対する費用や、
紛争解決費用(敗訴の場合の賠償金や和解の場合の解決金や示談金、課徴金、罰金)
に配賦されます。

なお、海外で訴訟を提起された場合の対応や、規制当局から調査や処分を通告された場合の対応といった事件・事案については、想像以上に計上予算(や会計的に認識・計上すべき引当金)が巨額になる可能性がありますので、マネジメント上も、会計上も、注意が必要です(特に、海外の事件・事案に経験値のない企業の場合、計上予算ないし引当金が想像を超えた額になることを実感できず、恐慌を来す場合があります)。

特に、訴訟等においては、日本では
「民事法秩序としては容認できない」
とされ排除されている懲罰的損害賠償が制度として認められています。

その結果、想定賠償額が巨額なものとなりますし、これに比例してディフェンスコスト(弁護士費用)も巨額なものとなりがちです。

また、例えば独禁法違反事件等に対する罰金や和解金についても、欧米当局から百億円単位の支払を求められる場合がありますし、当然、これに比例してディフェンスコスト(弁護士費用)も巨額なものとなる傾向があります。

さらに、数億円、あるいは数十億円単位にのぼる巨額な支払を実施する外国法律事務所を漫然と信頼して、丸投げして、ブラックボックス化を放置すると、
「タイムチャージ(時間制報酬)という費用が無秩序に増大化するモラルハザードの危険を内包した費用体系」
が採用されることが一般的であることも重なり、費用対効果を喪失し、
「莫大な費用をかけた挙げ句、ゲームを管理・制御できないまま、壊滅的な結果を招き、しかも、説明も総括もできない」
という悲惨な状況に陥る場合が生じ得ます。

このようなリスクを防ぐためには、
・委託先の外国法律事務所を競争調達する
・委託先の外国法律事務所との間でしかるべき緊張関係を保ちながら、予算管理、品質管理を行う
・事件や事案をブラックボックス化しないようにするため、リアルタイムの状況の可視化・状況解釈を行う
とともに、
前線部隊(外国法律事務所)へのしかるべき指揮・命令・統括、状況に合わせた戦略の変更(ゲーム・チェンジ)の適時の実施、といった司令部機能を保持するため、別途、企業内に設置された特別有事対応組織(危機管理コミッティー等)が直接統括する専門集団(具体的には、国際経験のある日本の弁護士や法律事務所)を、前線部隊管理や督戦や連絡将校(リエゾン・オフィサー)として、起用する
場合もあります。

このような、前線部隊である外国法律事務所の活動について、予算や品質の面で管理し、あるいは戦略の実施状況の確認やしかるべき指揮統括(連絡や督戦)を行うために起用される日本の国際弁護士や国際法律事務所の活動費用(こちらもタイムチャージに基づき巨額化する可能性があるので、競争調達や予算管理・品質管理が必要となる)も、非定常的(特別、有事)法務予算として、認識・計上されることになろうかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00608_法務予算設計の考え方

法務予算ですが、これは、一義的に決まるわけではなく、企業の
「安全保障ニーズの感受性」

「懐具合」
で、企業毎に適当に決めればいい、としか言いようがありません。

とはいえ、考え方やロジックやヒントのようなものも必要がありますので、いくつかご紹介申し上げます。

1 リスク値

リスク値という考え方があるようです。

これは、主に、情報セキュリティ投資をする際、合理的投資額を決定する際の参考として、リスクを定量化しようとする試みの中で確立した考え方の1つです。

リスク値=(資産価値)×(脅威の大きさ)×(脆弱性の度合い)

といった、わかったようなわからないようななんとも評価し難い数式をみかけたりします。

その他、いろいろ難解な数式でリスク定量化の試みがあるようですが、数式に突っ込むパラメーターが解釈や評価による可変性が大きく、難解で使いにくい割に、信頼性や客観性に乏しい、というのが私の感想です。

いってみれば、
「IT屋」
が、企業から巨額の予算を引っ張る際に、
「セキュリティ対策予算は、リスク値からみて、合理的で、むしろ、安いくらいです」
という説明をする際に使う道具概念だと思われます。

ただ、このような
「道具」
は、ICTのセキュリティ対策だけでなく、保険でも、災害予防対策でも、事故予防対策でも、法務対策でも使える考え方です。

要するに、
「予算ありきで、ロジックは後からでっち上げ」
をする際、数字やロジックで化粧して、説得力をもたせる(決裁者に目くらましを食らわせる)ために、知っておくべきツールの一種です。

逆に、予算決裁をする側からすれば、ロジックの壮麗さに目を奪われることなく、ロジックの裏側にどんな利害やストーリーが潜んでいて、本音はどういったもので、その本音部分に納得できるかどうかを見抜く必要があります。

2 各国軍事予算の対GDP比

各国軍事予算の対GDP費をみてみると、例えば、こんな感じになります。

アメリカ3.1%
日本0.9%
サウジアラビア8.99%

国家全体の上がり(売上)の概ね1~10%を安全保障コストにかけており、ただ、安全保障環境における緊張状態(緩和状態)により、それぞれ比率が異なる、ということのようです。

なお、これはもちろん平時予算です。

国家の存亡がかかった存立危機事態や戦争状態になると、こんなものではすまず、戦争遂行予算はGDPの数倍になります(無理なく全面戦争を遂行できる国家予算の限界値は、GDPの4倍程度までといわれているそうです)。

「組織防衛のための安全保障予算の考え方」
としてご紹介しましたが、国家と企業では
「安全保障ニーズの切迫性・重大性」
という点では自ずと異なりますので、
「最大限を画する(=逆の言い方をすれば、売上10%超の法務予算は過大に失する)」
という程度には参考になると思われます。

実際は、この10分の1~100分の1、すなわち、売上の0.01~0.0001%くらいといったところではないでしょうか。

もちろん、最低限の法務予算というものは観念できます。

ミニマムサイズの法務体制となると、月額5万円程度の法律顧問契約を締結して外部専門家として顧問弁護士を装備し、経理や財務や総務や人事・労務といった間接部門の実務トップを法務部長兼務として、顧問弁護士の協力を仰いで、平時安全保障全般の社内サービスを担っていく、という体制です。

これですと、最低で、年間100万円程度で法務体制が一応整います。

さらにいいますと、顧問弁護士の体制整備すら放棄し、いわば
「無保険状態」
で、安全保障体制を欠如して、事故ないし事件が起こったら、スポットで有事安全保障活動を弁護士に依頼する、というあり方です。

平時の安全保障体制を放棄しておいて、有事になってから泥縄式に体制整備をしようとしても、たいていは壊滅的な結果しか想定できず、
「シビアインシデントの発生=会社の消滅」
となる可能性が高まりますが、法務体制を整備するのはコストがかかることは厳然たる事実であり、これを忌避してこの種のコストを忌避してリスクの増大を容認するのも、1つの見識であり、経営判断としてはあり得るところです。

なお、同じ企業であっても、多国籍展開している企業の場合、国内事業の安全保障環境は緩和的だが、海外事業は緊張状態にあるので、海外事業については、売上対法務予算比が大きくなるのは、一定の合理性があるように思われます。

3 横並び戦略

パナソニックは、300人の法務体制を整備しているそうです( 300人体制を築くメガ法務の役目 – パナソニック )。

ざっくり計算にしますと、人件費や付随コストを含め、法務スタッフ1人平均約1200万円ほどかかるとすると、300人体制の法務部を運営するのに、年間約36億円の予算が必要となります。

プラス法務外注予算(弁護士費用)を含めると、50億円前後といったところでしょうか。

一見すると、かなり巨額予算のように思えますが、パナソニックの時価総額は2兆円超、売上高は約8兆円です。

このような資産や売上の安全保障対策費と考えれば、合理的か、あるいは低廉に失するということができるのかもしれません。

「正解がない課題である、安全保障予算設計」
の考え方は、無理に答えを探したりしても所詮
「正解がない」
のですから無駄であり、無意味です。

こういう場合、
「皆がどうやっているか」
を睨んで
「横並びになるよう多数が採用する水準に併せていく」
という
「個性も独自性も理論も哲学もないあり方」
が、
「致命的な間違いを犯さない」
という点において、最善解の有力候補となることがあります。

私の調べる限り、企業毎の法務予算についての詳細な調査研究は見当たりませんが(経済産業省か東証か経団連あたりでやっていただきたいですが)、今後、各業態・企業規模毎の法務予算規模が明らかになると、相対値・有力動向としての予算イメージが具体化され、態度決定の参考になるかと思います。

4 結論

結論としては、最初に述べた、

法務予算は、企業の「安全保障ニーズの感受性」と「懐具合」で、企業毎に適当に決めればいい

ということに尽きます。

保険と同じで、将来に不安があれば可処分所得を目一杯保険に突っ込むのもありですし、強制保険以外の保険なしで、今を気ままに生きてもいい

そんなところです。

ただ、企業によっては、安全保障ポリシーやその実現方法について、万が一の事態が起きた場合に
「きちんと危機に備えた」
「他の企業が行う程度には安全保障体制に取り組んだ」
「だからこの事態に対して役員は免責される」
というカタチで、ステークホルダー(銀行、株主等)に説明する必要が出来しますので、そういう企業については、適当に決めた予算に合理性のお化粧を施す際、上記のようなツールを参考にすればよろしい、ということになろうかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00607_企業法務ケーススタディ(No.0202):契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社ネプチューンレジャーグループ 代表取締役社長 名黒 純(なぐろ じゅん、55歳)

相談概要:
相談者は、これまでつきあいのあったシステム開発会社にネット予約システム構築を委託しました。
仕様やシステム上の機能などについての打ち合わせはしたものの誓約・発注・契約書などの類に印鑑は一切ついていないなか、システム開発会社は受注に対応すべく規模を拡大し始めました。
ところが、状況は一変し、システム開発中止を伝えたところ、
「訴訟も辞さない!」
と相手は怒り出しました。
相談者は、そもそも契約書を交わしていないのだから、と無視しようとしています。
以上の詳細は、ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【事例紹介編】その1ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【事例紹介編】その2ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【事例紹介編】その3をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 裁判では「100万言を尽くした弁明」より「1枚の契約書」
法律の世界では、契約「書」はなくても契約は成立しますが、
「100万言を尽くした弁明」
より
「1枚の契約書」
こそが
「モノをいう」
世界ですので、
「契約トラブルは、筆談戦」
「法的紛争時には、NATO軍(No Action Talking Only『口ばっかりでペーパーなしでビジネスを進める組織』の意)は必ず敗れる」
といわれています。
以上の詳細は、ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【裁判では「100万言を尽くした弁明」より「1枚の契約書」】 をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 契約書にハンコさえつかなければ、アコギなドタキャンもOK?
現在の裁判実務では、契約書は絶大な効力がありますし、契約書がなければ
「寝言」
「妄想」(端的にいえば「ウソ」)
として片付けられる可能性が確かにあります。
ところが、たとえ契約書締結に至っていなくとも、合理的な範囲で損害を賠償すべき、という法理論が存在します。
以上の詳細は、ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【契約書にハンコさえつかなければ、アコギなドタキャンもOK?】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 商取引においても、「婚約不当破棄」もどきは責任を取らされる!
「契約準備段階の過失の法理」
は、正式な契約に至るまでの状況で一方的に破棄する場合は一方当事者が被った損害を填補(てんぽ)することを認める、とするものです。
加えて、商法512条は
「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」と規定しています。
以上の詳細は、ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【商取引においても、「婚約不当破棄」もどきは責任を取らされる!】をご覧ください。

モデル助言:
システム開発について契約してもらえるという期待の痕跡が残っており、それが責任といわれかねない状況にありますから、損害賠償をせよとの判決に至る可能性も十分にあるうえに、事件が長期化して、弁護士費用もばかになりません。
したがって、完全に非を認める訳にはいかないものの、期待をもたせすぎたことについて
「手切れ金」(解決金)
を支払うという形で、早期の決着を図るというのも賢明な方法の1つといえるでしょう。
以上の詳細は、ケース9:契約書にハンコ押さなきゃ、どんなにデカい取引もドタキャンし放題!?【今回の経営者・名黒(なぐろ)社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00606_中小零細企業の「法務」体制設計

法務部といっても、会社法で設置を強制されているわけでもなく、なけりゃ法令違反という類いのものでもありません。

それぞれの企業が、企業毎の事情と懐具合で決めて差し支えないものです。

安全保障体制として、バチカンあるいはモナコのような、
「傭兵を活用したお手軽で低コスト」
な安全保障体制を選択するあり方もあり得ます。

 すなわち、
・有事発生の蓋然性がそれほど大きなものではなく、売上利益率が良好な商売でもなく、懐具合にさほど余裕があるわけではない
・また、有事が発生した際の想定についても、「それほど旨味のある商売でもないし、商売続けられないようなトラブルに見舞われたら、任意整理か民事再生で再建してみて、それでも再建できないようなら、とっととたためばいいし、それで世間にも社会にも迷惑かけることにならない」と達観するなど、究極的なダメージ想定までできている(腹がくくれている)
といった、典型的な中小零細企業においては、ミニマムな法務体制で必要かつ十分です。

・顧問弁護士(法律顧問契約を締結している法律事務所)に、いざ有事が発生した場合の傭兵機能を担わせつつ、
・同弁護士が、社長(あるいは、社長と金銭感覚や安全保障ニーズを共有し、法務の支出やジャッジについて決裁を委ねることのできる腹心)と連携して、デイリーの治安維持や警備や記録・文書管理などといった予防法務等のルーティンを機能分担して遂行する
という体制選択も十分な現実性と合理性があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00605_「法務部」設計に際して考慮すべき、「有事」蓋然性、想定ダメージ及びコスト・パフォーマンス

軍事における有事対応が
「武器・兵器」
の効率的整備運用によって敵を殲滅(せんめつ)することによって安全保障の実を上げることが想定されます。

他方、企業における有事対応は、司法手続であれ、行政手続であれ、私的な交渉であれ、自己の主張や立場の正当性の雄弁に物語る客観的痕跡としての
「文書」「記録」
を効率的に整備運用することによって、権利を確保・実現し、負担すべきでない義務や責任から免れ、あるいは自らの立場を芳しくすることが想定されます。

その意味では、
・有事を想定するイマジネーションを強化し、有事において最前線で活動する実働傭兵部隊である外部専門家(顧問弁護士)と良好な関係を構築して後方支援の実を上げること
と、
・有事の際にモノを言う「文書」「記録」を丹念に整備すること
こそが、法務部の活動として求められる本質的要素といえます。

ところで、米国の軍事組織ないし治安維持組織が、陸海空さらに海兵隊を含めた軍隊に加え、CIA、FBIといった巨大な犯罪対応や治安維持組織がある一方、バチカンやモナコやブータンにおいては、(米国との比較において)小規模な組織しかない国もあります。

スイスは、それほど大国とはいえませんが、4万人の職業軍人と20万人超の予備役から成る軍隊を有し、有事の際は焦土作戦も含めた徹底抗戦によって国家独立を維持するという国家意思を表明しています。

他方で、モナコ公国にように、領土防衛はフランスに責任をもってもらい、
「銃騎兵中隊」なる軍隊
はあるにはあるが、事実上警備・儀仗部隊しかない、という国家もあります。

もっと安全保障が貧弱な国もあります。

バチカン市国は、そもそも軍事力は一切もちません。

警察力も、永世中立国であるスイスからの傭兵にお願いしています。

従前は、教皇騎馬衛兵や宮殿衛兵といわれる衛兵隊がいたようですが、ただのお飾りであり、これすら無駄・無意味ということなのか1970年に廃止されています。

要するに、人生イロイロ、国家もイロイロ、安全保障もイロイロということなのです。

安全保障体制設計がイロイロ・ソレゾレということですから、正解や模範やお手本や
「これだけは必要といった妙な制約条件」
があるわけではありません。

国家ですらこういうことですから、いわんや、在野の企業組織については、より一層自由に、適当に決めていい、といえましょう。

したがって企業は、それぞれの有事発生の蓋然性と有事の際に生じ得るダメージの大きさと懐具合とを相談しながら、適宜自由に決めていけばいいということになります。

企業における
「富の蓄積」
という活動については、売上を上限として、投入コストが導けます(売上を上回るコストを費やしたら、企業組織は持続不能に陥ります)が、安全保障コストはこの種の
「経済的合理性による制約」
が働きにくく、過大にならないように注意が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00604_「富の蓄積(富国)と安全保障(強兵)」という組織の根源的本質から観察した、企業内組織分類論と法務部の本質・位置づけ

企業であれ、国家であれ、宗教組織であれ、暴力団であれ組織である以上、組織自体が持続可能性を維持しつづけるための原理を内部にもつものです。

では、組織が持続可能性を保つためには、何が必要でしょうか。

ここで、もっともわかりやすいスローガンが、明治期の我が国の国是となった
「富国強兵」
です。

これは、欧米列強が隣国を蚕食するような厳しい状況にあって、我が国が国家としての独立性を持続可能するために、社会全体で掲げた端的な組織運営目標です。

この
「富国強兵」
を、私なりに少し敷衍(ふえん)して解釈しますと
1 富の蓄積
2 安全保障
を組織の持続可能性の要件として喝破し、端的に表現したものと理解できます。

この組織の持続可能性確保のための構成要素は、企業にもあてはめることができます。

すなわち、企業が永遠に継続するため(ゴーイング・コンサーン)には
1 経営資源を効果的に運用して事業を合理的に展開し、効率的に富を蓄積すること
2 企業内外の敵対勢力(仮想敵を含む)や有害分子から企業を防衛し、安全を確保すること
が必要になります。

ところで、軍事行動を展開する組織が、
A 「目標達成のために最前線に出て、直接的な行動や働きかけを行う実働部隊」
B 「実働部隊がストレスなく効果的に活動できるための前提や環境を整えるための後方支援部隊」
の2つによって構成されることはよく知られた事実です。

そして、この理は、先程、要素分解した
1 富の蓄積
2 安全保障
の2つの企業活動についても当てはまります。

ここで、
「1 富の蓄積」
に関する企業内組織としては、
(1A)富の蓄積に直接関係・貢献する活動を展開する「営業部隊(実働部隊)」
(1B)「会計という基準原理に基づく記録管理」を通じた企業内資源のストック(BS)とフロー(PL)の可視化を通じて効率的な資源動員を行う前提や環境を整える「経理・財務部隊(後方支援部隊)」
とに分類整理されます。

また、
「2 安全保障」
に関しても同様で、
(2A)企業外の敵対勢力(取引トラブルや法令違反に対する当局による不利益措置など)企業内の敵対分子(労働問題や内部統制問題など)が生じた場合に直接これらカウンターパートと対向して解決を働きかける「外部専門家組織(実働傭兵集団)」
(2B)企業内活動の言語化・記録化・文書化(株主総会や取締役会の議事録作成)や取引活動の文書化(契約書作成)や治安維持活動(コンプライアンス教育)や危機管理意識の向上改善のための啓発活動(法務教育)を行う「企業内法務部(後方支援部隊)」
とに分類整理されます。

以上のような整理をしてみれば、法務部の本質がみえてきます。

要するに、法務部というのは、
・企業の安全保障を担う部署であり、
・有事において直接カウンターパートと対向して働きかける外部の顧問弁護士とは異なり、
・平時において、有事を想定しながら、「大事が小事に、小事が無事に」なるよう、文書作成や記録管理を中核としたルーティンを担当する組織、
ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00603_法務部は、「あってもなくてもいい組織」なのか?

法務部という組織ですが、別に法令上設置を強制されているものではありません。

シンプルにいえば、
「あってもなくてもいい、作りたければ作ってもいいが、作らなくても別にそれも自由」。

そんな組織です。

無論、株式公開して株券を証券取引所に上場する過程では、金融商品取引法上の内部統制体制構築義務の履行として、また株券上場にふさわしいかどうかの審査項目充足のため、法務部という組織を整備運用することが求められますが、この場合の
「法務部」
すら別に量的・質的な定義が定められているわけではありません。

実際、株価が低迷し、赤字が続きそうで、ほぼ上場廃止寸前の崖っぷちで上場ステイタスを維持している
「ゾンビ上場企業」
の法務体制は絶望的に貧弱です(あるいは不透明なM&Aやオーナーチェンジを画策するため、金商法や上場基準のグレーゾーンに詳しい特殊な法専門家がうじゃうじゃいて、普通の上場企業より奇形的に法務体制が充実している場合もありますが)。

実際のデータとしては、2005年に
大阪市立大学大学院法学研究科「企業法務研究プロジェクト」
が実施した調査があります。

この調査によると、1,838社の大阪府下の中小企業中、顧問弁護士がいないと回答した企業は1,530社(83%)に上ったそうです(『中小企業法の理論と実務』〔高橋員=村上幸隆編・民事法研究会〕591頁)。

まあ、要するに
「法務? 何や、それ? そんなもんにカネかけて、どないすんねん。法律で困った時は弁護士に聞いたらええねん。会社の法務部のモンが裁判できるわけちゃうやろ。そんなええ加減なことしとったら会社つぶれまっせ。カネの無駄でっしゃろ」
という感じなんでしょうか。

大都市である大阪でこのような状況ですから、その他の地方都市の企業の法務部整備・運用率は推して知るべしです。

以上のとおり、法務部があってもなくてもいい、とすれば、意義や役割や目的を整理しないと、そもそも導入の必要性が乏しく、むしろ、コストセンターということを考えれば、ますます、不要論に傾きそうです。

ここで、法務部の意義や役割や目的を整理してみたいと思います。

まず法務部があるからといって、外部プロフェッショナルの顧問弁護士がなくなる(リストラできる)わけではありません。

社内では法律に詳しい法務部とはいうものの、
「多数の臨床例を基礎に日々豊富な経験値とスキルを蓄積する独立の外部専門家集団である法律事務所」
との比較においては、中途半端な素人集団にすぎず、絶対的危機を切り抜ける知恵やスキルがあるわけでもなく、イザというときに弁護士以上に役に立つ、というものでもありません。

要するに、あってもなくてもいいし、あっても無茶苦茶トクするわけでも危ないときに命拾いできるわけでもないが、大きな企業では皆作っているし、あるということはそれなりに意味があるもの。

それが法務部です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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