00401_期間雇用における雇止めとは

新卒などが企業に就職する場合、通常、雇用契約に期限は定められません。

労働契約の終了については、従業員の退職の意思が明確なものの他は、極めて例外的に認められているに過ぎず、
「解雇」
といった手段を企業がとることが困難なことはよく知られています。

これに対して、雇用契約締結時に契約期間を定めておくものを、
「期間の定めがある労働契約(有期労働契約)」
といいますが、民法上は当該契約期間の満了により終了するのが原則です。

企業としては、従業員が必要である限りは契約を更新しておき、必要がなくなれば更新しなければいいというように、人事管理がタイムリーにできるとも思われます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00400_株式会社であっても特定商取引法によって保護されるケースがある

私的自治原則のもとでは、当事者間でどのような契約を締結しても自由なのが原則ですし、当事者は、自分たちの自由意思で締結した以上、その契約に拘束されます。

したがって、一旦契約をした以上、当事者の一方が
「やっぱり、あの契約はナシにするね」
などと、一方的に契約を破棄することは許されないのが大原則です(契約の拘束力)。

しかし、この大原則に例外がないと、情報量や交渉力に勝る者が、劣る者を食い物とする構図が是正されることなく放置されることになるため、消費者を保護するさまざまな法律が制定されています。

これらの法律は、
「情報量や交渉力に劣る者を保護する」
ことを目的としているため、保護される客体としては、
「個人」
が予定されているのが通例であり、
「個人」
であっても、
「営業」
のために契約をしているのであれば、情報量や交渉力も人並み以上にあるだろうとのことで、保護の対象からは外れているのが通例です。

ところで、特定商取引に関する法律(特商法)は、訪問販売を規制しており、クーリングオフができる旨記載した書面を受領した日から起算して8日以内であれば、一方的に契約を解除(クーリングオフ)できると定めています。

とはいえ、特商法26条1項1号は、
「営業のために若しくは営業として」
締結した契約については、そもそも訪問販売の規制が及ばず、クーリングオフはできないと定めています。

個人ではなく法律上
「商人」
とみなされる株式会社が当事者の場合、商人の行為は商行為とされることから、株式会社が買主として訪問販売を受けた場合、当該売買契約は
「営業のために若しくは営業として」
締結されたものとも言えそうで、クーリングオフは無理となりそうです。

ところが、大阪高裁平成15年7月30日判決は、本件と同様の事案につき、
「(特商法26条1項1号は、)商行為に該当する販売または役務の提供であっても、申し込みをした者、購入者若しくは役務の提供を受ける者にとって、営業のために若しくは営業として締結するものでない販売又は役務の提供は、除外事由としない趣旨である」
「各種自動車の販売、修理及びそれに付随するサービス等を業とする会社であって、消火器を営業の対象とする会社ではないから、消火器薬剤充填整備等の実施契約が営業のため若しくは営業として締結されたということはできない」
と述べて、消火器薬剤の交換を訪問販売で契約してしまった会社がクーリングオフをすることを認めました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00399_長期間所在不明が続く株主の関係処理・清算テクニック

長い年月が経過する間に、株主が所在不明になってしまったりして、株主名簿上の住所に通知が到達しない(通知を発しても「宛て所に尋ねあたらず」で返送されてしまう)場合が出てきます。

このような場合であっても、会社がいつまでも通知を出し続けなければならないとなると事務的にも煩雑ですし、何より、所在不明の株主がいるということ自体、会社運営上健全とはいえません。

そこで、会社法は、
「通知が継続して5年間到達せず、かつ、会社からの剰余金の配当を継続して5年間受領していない株主の株式」
について競売したり(ただし市場価格のない株式については取締役全員の同意と裁判所の許可を得て)、会社で強制的に買取ったりすることができる旨を定めました(会社法197条)。

これにより、会社は、当該所在不明の株主に株式の売却代金を支払うかわりに、以後、株主としての地位を失わしめることができるようになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00398_所在不明株主には、各種通知をどのように行うべきか

株主は、株式会社における出資者として、株主総会に出席して議決を行う権利など、会社の経営にとって重要な事項を決定する権利(共益権)や、配当請求権など、会社が儲けた経済的利益の分配に与る権利(自益権)を有しています。

とはいえ、株主がこれらの権利を適切に行使するためには、会社から適切な情報と権利行使の機会を与えてもらう必要があります。

そのため、会社法は、株主総会の招集のほか、新たに株式を発行する際(募集株式など)など、一定の重要な事項を実施する場合には、会社に対し、株主に各種通知を行うよう義務付けています。

もっとも、株主に相続が発生した場合や、株主が引越しをしたまま会社に住所の変更を知らせていない場合など、会社にとって、どこに通知をすれば良いのか分からなくなる場合もあります。

そこで、会社法は、各種の通知を発する場合には、株主名簿に記載された株主の住所に宛てて発すれば、通常到達すべきであった時に到達したとみなすこととし、その限度において、会社の義務の範囲を限定することとしました(会社法126条)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00397_就業規則を変更する場合に取るべき手続き

企業は、就業規則を改定することで、従業員に対して一挙に労働条件を変更してしまうことができます。

そして、変更後の労働条件が従前の労働条件よりも労働者にとって不利益なものとなることを、
「不利益変更」
といいますが、このような不利益変更を、就業規則の変更によって行うことも、一般的に可能とされています。

それでは、労働者にいかに不利な条件に変更する就業規則であっても、常に有効なのでしょうか。

この点に関し、最高裁は秋北バス事件において、
「新たな就業規則の変更によって、既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは原則許されない」
が、
「合理的な内容である限り」
許容されるものと判断しました。

すなわち、就業規則の変更による不利益変更に関しては、最高裁のいう
「合理的な労働条件」
を満たすことを条件として、個別の労働者から同意を得ることなく、賃金の減額等をすることができるというわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00396_就業規則とは

企業における労働契約は、使用者である会社と従業員間の個別の雇用契約が集合しているものです。

労働契約も契約ですから、本来は、当事者の意思の合致に基づいて、従業員ごとに労働条件等が異なる労働契約が存在することになります。

しかし、使用者たる企業には、数多くの従業員が存在するために、契約内容である労働条件について、画一的に統一して定めたいという要求があります。

このような要請に応えるのが就業規則です。

労働契約法7条は
「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」
と定め、労働者の個別の同意を得なくとも、就業規則を定めることで、多数の従業員に対して、一挙に画一的な労働条件の内容を設定してしまえることになっています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00395_大規模な小売業者ではなくとも、「優越的地位の濫用」認定リスクがありうる

わが国では、取引社会では、誰とどのような契約をしようが一切自由である、とされています(契約自由の原則)。

これは、市場におけるそれぞれのプレーヤーが己の知力や財力を最大限に活用して、自由に契約交渉を行い、互いに競争させる基盤を確保することが、市場経済の発展には必須と考えられているからです。

しかし、弱肉強食の自由主義原則も度が過ぎると、本来予定していた
「自由な競争によって、経済の発展を図る」
ことができなくなり、ともすれば、
「強いプレーヤーが市場を意のままに操り、かえって自由競争の基盤が破壊される」
状態となってしまいます。

そこで、独占禁止法は、取引上優越的地位にある者が、正常な商慣習に照らして不当な取引をすること等を
「不公正な取引方法」
として禁止しています。

公正取引委員会は、独禁法2条9項6号の規定に基づいて、大規模小売業者が納入業者に対して要求する行為のうち、
「不公正な取引方法」
に該当する行為を告示で定めています。

これによれば、年商100億円以上または1500平方㍍以上(政令指定都市等では3千平方㍍以上)の売場面積の店舗を有する小売業者は
「大規模小売業者」
であり、
「大規模小売業者」
が納入業者に対して、その従業員の派遣をさせることは、原則として
「不公正な取引方法」
にあたるとされています。

これは、
「大規模小売業者」
による優越的地位の乱用を効果的に規制するために、いわばひとつの典型例として示したものであり、
「この告示に該当さえしなければ、小売業者による優越的地位の乱用を自由にやってよい」
ということを明言した趣旨ではありません。

独禁法2条9項5号は、
「大規模小売業者」
であるか否かにかかわらず、優越的地位の乱用を禁止しており、公取委は、これにつき
「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
を定めています。

この指針では、
「優越的地位」
に当たるか否かは、
「納入業者にとって当該小売業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすか否か」
について、
「当該小売業者に対する取引依存度、当該小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等」
を、総合的に考慮するものとされています。

「優越的地位」
にあると判断され、かつ、その地位を乱用して、従業員の派遣をさせたと判断されれば、それは立派な
「優越的地位の乱用」
として、独禁法上違法となることがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00394_会社の定款を紛失してしまった場合の対処法

株式公開企業や資本金5億円以上の大企業ならまだしも、これまで、多くの中小企業にとってみれば、会社の定款の管理をしたり、内容の確認をしたりするといった必要性はなかったかもしれません。

しかしながら、2017年に会社法が施行され、所定の手続を経て定款に定めることで利用できる新しい制度等が増えたこともあって、昨今、その重要性が再認識されています(定款自治の拡大)。

例えば、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て
「取締役会を設置しない」
旨を定款に記載することで、それまで義務付けられていた取締役会を設置しなくてもよくなりましたし、また、株主総会の特別決議を経て
「役員の会社に対する損害賠償責任の範囲を、報酬の4倍以内とする」
といった内容の責任制限規定を定款に記載することで、株主代表訴訟が提起された場合の役員の責任の範囲を限定することもできるようになりました。

もっとも、このような会社法上の便利な制度等を利用するためには、そもそも定款がなければ始まりません。

しかしながら、中小企業の場合、さまざまな理由で定款自体を紛失してしまっているケースが少なからず見受けられます。

定款を紛失した場合、まず、会社設立後、5年以内であれば、法務局に会社の設立登記申請書類一式と定款の写しが保存されています(商業登記規則34条)ので、法務局で閲覧することができます。

次に、会社設立後、20年以内であれば、会社設立時に定款認証手続きを行った公証役場に定款が保存されています(公証人法施行規則27条)ので、当該公証役場で定款謄本の交付を受けることができます。

もっとも、会社の文書管理は内部統制の前提ともいうべき基本課題であり、定款のような重要な文書すら紛失してしまう会社については文書管理体制を徹底的に直しておく必要があります。

経営トップが
「文書管理の重要性」
すなわち
「文書の保管・運用コストを掛けても解決すべき課題である」
ということを認識した上で、文書を種類ごとに選別し、重要度合いごとに適切な保管方法を選択するなどして立体的な管理方法を確立する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00393_整理解雇の進め方

整理解雇を行う際には、整理解雇の各要件を詳しく検討する必要があります。

まず、
1 人員削減の必要性について
は、人件費削減の必要性や業績悪化などという抽象的な理由では足りません。

もっとも、裁判所が、人員削減の必要性の有無について検討する際、使用者の経営判断(裁量)が尊重される傾向にあるため、人員削減の必要性がないことが明白な場合を除き、当該要件自体は認められることが通常です。

次に、
2 解雇回避努力義務
については、新規募集の停止、ボーナスのカット、希望退職者の募集などの手段を尽くす必要があります。

このような努力義務を尽くすことなくいきなり整理解雇という強硬な手段に出た場合には、解雇権の乱用と判断されてしまいますから十分な留意が必要です。

さらに、
3  人選の合理性
における人選基準については、人員削減基準が客観的かつ合理的である必要があります。

整理解雇は、決して恣意的な解雇を認めているわけではありませんから、後日の訴訟をも見越して、客観的な基準を整備しておくべきでしょう。

最後に
4  解雇するに際して説明・協議等をしたか
として、十分な手続・手順を踏むことも求められます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00392_「解雇絶対的不自由原則」の例外:整理解雇

会社が人を雇うという行為は結婚に、解雇は離婚に例えることができます。

すなわち、
「結婚は自由だが離婚は不自由」
といわれるように、採用は非常にイージーにできますが、離婚(解雇)は大問題になります。

例えば、裁判離婚(強制離婚とも呼ばれます)では、裁判所が相当と認めない限り離婚が認められることはありませんし、解雇についても、従業員側に相当な非違事由がない限り、裁判所は、解雇をほとんど認めてくれないのが現状です。

もっとも会社が存続しなくては雇用関係も意味がなくなってしまいます。

そこで、会社がつぶれそうな場合には、従業員側に非違行為がなくても、次の要件を満たすことで特別の解雇(整理解雇)が認められています。

すなわち、
1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力義務の履行
3 人選の合理性
という整理解雇理由の要件と
4 解雇するに際して説明・協議等をしたか
という手続要件の計4要件です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所