00414_欠陥商品を販売して重大な損害が発生した場合の店舗の責任

わが国においては私的自治の原則が支配しており、私人間の法律関係は、それぞれの個人が自由意思に基づいて形成できるとされています。

この原則を支えるものとして、過失責任の原則というものがあり、自分の意思に基づく行為(故意)や、あるいはミスによって(過失で)行ってしまった行為以外については、なんら責任を問われないという原則が採用されています。

過失責任の原則が存在することで、人々は、自由に行動することが保証されるわけです。

そこで、不法行為に基づく損害賠償責任を定める民法709条は、
「故意又は過失」
の存在を要求しています。

それでは、
「過失」
とは具体的にどのようなものを意味するのでしょうか。

この点については、数多くの裁判例の積み重ねによって、
「損害の発生について予見できるとともに、予見する義務があった」
といえる場合であって、
「損害の発生を回避する義務があった」
のに、これを怠った場合には、過失がある、とされているところです。

交通事故に例えていえば、
「四つ角で、出会い頭に衝突する可能性を予測すべきであったし、予測することもできただろう、それなら、衝突を避けるために、ブレーキを踏んで、衝突を回避する義務があった。
それにもかかわらず、ブレーキを踏む義務を怠ったから、過失がある」
ということになります。

それでは、小売業者が販売した製品で事故が発生したケースでは、どのような場合に、小売店に過失があるとされるのでしょうか。

この点については、裁判例(東京高裁2006年8月31日判決)は、多種多様な製品を大量に仕入れて販売する小売業者の業態に配慮しつつ、
「その商品の性質、販売の形態、その他当該商品の販売に関する諸事情を総合して、個別、具体的に判断すべき」
としました。

例えば、問題となったストーブを5千台以上販売していた点や、ストーブの臭いについての苦情が20件以上あった点などを重視し同型のストーブが化学物質を発生させることが予見可能であるとともに予見義務があり、かつ、化学物質による健康被害の発生を防ぐ義務があったとして、スーパーマーケット側に過失があったと判断しています。

ストーブから発生した化学物質によって化学物質過敏症となった被害者への約555万円の損害賠償の支払を命じました(イトーヨーカドー事件)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00413_コンピュータ・プログラムを「買った」と思い込んでいる企業のリスク

著作権法は、特許のようにアイデアを直接に保護するものではなく、人の心を揺さぶる創作的な表現を保護することを目的としています。

したがって、著作権法が保護する著作物というと、絵画や小説といったものが思い浮かびますが、
「0」と「1」
の無個性の記号の羅列であるコンピュータプログラムにも著作物性が認められることがあります。

すなわち、ハードウェアに依存・規制されるものや、コンピュータの機能上誰でもそこに想到するような類のものではなく、プログラム上の表現に作成者の個性が発揮され創作性が看取できるものであれば、プログラムであっても
「著作物」
として保護されることになります。

例えば、ある企業が、コンピュータ・プログラム開発会社にお金を払ってデザインソフトウェアを
「買った」
と認識していることがありますが、厳密にいえば、
「ソフトウェアを開発・販売している会社(ベンダー)とソフトウェア使用許諾契約を締結し、当該契約に基づいて使用を許されている立場」
を取得しただけ、と考えられます。

もちろん、プログラムを利用する際には、利用者においてカスタマイズをする必要もあるため、ライセンス契約で多少の改変を行うことを許容している場合もあります。

しかし、その場合でも、当該ソフトウェアを
「煮て食おうが、焼いて食おうが自由」
等ということにはなりません。

ローソクという
「物」
を購入したのであれば、動産の所有権者として、
「購入したローソクを停電対策に使おうがイケナイことに使おうが自由である」
ということになりますが、これとは事情が異なります。

ソフトウェアのベンダー側としては、プログラムをライセンスするときには、値段によりユーザー数や機能の制限等を行うのが通常であり、ライセンス契約において、改変行為等を禁じています。

また、ユーザーが、プログラムの改変行為を行うことは、契約違反云々の問題とは別に、ベンダー側の著作権に対する侵害行為にもなります。

以上のとおり、ユーザーが、使用許諾を受けているソフトウェアを勝手にいじくることは、契約違反に加え、ベンダーが専有する著作権侵害行為に該当する危険があるのです。

この点、類似の裁判例では、ライセンスの管理プログラムを改変し、全モジュールを無断で利用できるようにした事例について、約16億円もの損害賠償の支払が命じています(東京地判2007<平成15>年3月16日)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00412_ボリュームディスカウント(たくさん買うから安くしろ、という値下要求)の下請法抵触基準

下請業者に対する発注数量が、当初の予定よりも増えた場合には、その分価格を下げてもらう(ボリュームディスカウント)ことにも合理性が存在するところです。

そこで、公取委は、
「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
において、例外的に、ボリュームディスカウントについて以下のような要件を定め、これらを充足する場合には、割戻金を下請業者に払わせても、代金減額禁止に当らないとしています。

「1 ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金であって、
2 あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がなされ、その内容が書面化されており、
3 当該書面における記載と発注書面に記載されている下請代金の額とを合わせて実際の下請代金の額とすることが合意されており、かつ、
4 発注書面と割戻金の内容が記載されている書面との関連付けがなされている場合には、
当該割戻金は下請代金の減額には当たらない。」

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00411_下請法(下請代金支払遅延等防止法)の内容と射程範囲

市場において価格と品質を自由に競わせる原理(自由競争原理)は、資本主義経済体制を採用するわが国において、国是ともいうべき重要なドクトリンです。

とはいえ、自由競争も、度が過ぎれば
「一部の強大なプレーヤーが市場を勝手に操り、自由競争の基盤を破壊して、かえって経済の発展を困難にする」
という弊害を招きます。

そこで、法は、
「市場における一部の強大なプレーヤー」
が自由競争の基盤を破壊するような横暴な行為を、取引社会の健全な発展のため、例外的に禁止しています。

このような規制は、独禁法
「不公正取引の禁止」
が有名ですが、独禁法違反で処理をするには時間を要します。

そこで、
「強大な発注者側企業が、下請業者に対して、無理難題・暴虐の限りを尽くし、能率競争に基づく経済の健全な発展を害するような事態が生じる」
と一般的に想定される事例を類型化し、簡易迅速な手続でこのような事態を適正化することを盛り込んだ
「下請代金支払遅延等防止法」(いわゆる「下請法」)
が制定されています。

下請法では、下請業者に対して従前要求されがちであった11種類の不公正取引行為を禁止しており、これに違反すると、公取委から是正勧告がなされ、違反内容等とともに会社名が公表されます。

同法4条1項3号は
「下請代金の減額」
を禁止しており、下請業者にキックバックを支払わせる等の行為も、この
「下請代金の減額」
となるとされていますので、下請法違反となるのが大原則です。

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00410_「直接雇用した労働者」以外の者が怪我した場合でも企業が責任を負う場合

安全配慮義務は、長らく労働者と直接の雇用主の間にのみ発生する義務であると考えられてきました。

ところが、近年、
「注文者が、単に請負人から仕事の成果を受領する」
だけでなく、
「実質的にみて、注文者が、請負人所属の労働者から、直接労働の提供を受けているのと同視できる」
形式の契約も登場するようになりました。

このような産業社会の動きに対して、裁判例は、労働者保護の観点から、安全配慮義務を負担すべき主体を拡大して解釈しつつあるようです。

実際、東京地裁2008(平成20)年2月23日判決は
「1 注文者が有する設備などを用いて、
2 注文者の指示のもとに労務の提供を行う等、
『注文者』と『請負人の雇用する労働者』との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、信義則上、当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うべきである」
旨判示し、安全配慮義務を負う責任の主体を拡大しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00409_工場や職場でけが人が出た場合に企業が負うべきリスク・責任

雇用契約では、雇用主は、
「賃金さえしっかり支払ってさえいれば、それ以外の義務は特段負う必要はない」
と考えるのが自然かつ素直な理屈といえます。

しかし、世の中には、労働者の生命や身体に危険を及ぼす可能性のある危険が伴う労働があることから、雇用主はこのような危険から労働者の生命や身体を保護すべきである、との考え方が広まっていました。

このような中、自動車整備作業中に車両に轢かれて死亡した自衛隊員の遺族が国に対し損害賠償などを請求した事件において、1975年2月25日、最高裁判所は、
「国は、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解すべきであり、このような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである」
旨判示し、国に対し損害の賠償を命じました。前記最高裁判例以降、雇用主は、
「賃金を支払う義務」
だけではなく、
「契約信義則から派生する付随義務として、労働者の生命及び健康等を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)」
をも尽くさなければならない、という考えが定着しました。

その後、2007年に施行された労働契約法は第5条において
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
と規定し、雇用主の法律上の義務として明示するに至りました。

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00408_ネガティブ・オプション(送りつけ商法)で消費者が商品を使ってしまった場合の契約法上の取扱

消費者が気ままに商品を使ってしまった場合も、契約が成立することはなく、会社は常に代金を求めることができないことになるのかといえば、そうでもありません。

この点、消費者の中には、気に入った製品がたまたま送られてきたと思い、満足して利用する者もいるでしょうし、そこまでいかなくとも、少し怪しいけれど使ってみたらなかなか良くて買ってもいいと考える者もいることでしょう。

そこで、このような事態を想定し、民法526条2項は
「契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する」
と定めています。

ここにいう
「承諾の意思表示と認めるべき事実」
とは、消費者に
「送られてきた商品を認識しながらあえて使用した」
などを指し、要するに、
「普通、そのような事実があるのであれば、商品を購入するつもりがあったのだろう」
と考えられ、契約成立の余地があるということになります。

以上からすると、消費者は、
「勝手に送りつけられたものだから、契約が成立しているわけでもなく支払義務はないが、かといって商品を使用することもできず預かっておく」
という中途半端状態に陥ります。

そこで、特定商取引法59条は、
「14日間預かっておけばその後は処分しても大丈夫」
と、中途半端な状態に期限をもうけ、それ以降は、返品すべき義務がないのはもちろん、使おうが売ろうが自由と定め、消費者を手厚く保護しています。

すなわち、その反面、事業者としては、売買契約が締結できないどころか、商品を失うだけという事態が多く生じることが想定されるわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00407_ネガティブ・オプション(送りつけ商法)の問題点

一方的に商品を送りつけて消費者に購入をさせることを、
「送りつけ商法」
とか
「ネガティブオプション」
とかいいますが、少し前にはやりました。

ここでは、売買契約が成立しているのかどうかがまずは問題になります。

この点、民法上の契約は
「申し込み&承諾」
という当事者の意思の合致によって成立するのが大原則のため、商品を送りつけた段階で、契約が成立することはありません。

こうはいっても、
「承諾したとみなす」
なんて書いてあるし、
「返品しなかった」
という事実によって
「承諾」
したのと同じといえ、売買契約はやはり成立しているのではないのか? などと考える方がいるかもしれません。

しかしながら、法律上、一方当事者の意思を
「みなす」
なんてことはよほどのこと(通常は法律に具体的に明定されています)がなければあり得ませんから、送りつけられた商品の注意事項を破ったからといって
「承諾」
の意思表示がみなされることはありません。

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00406_うっかりインサイダーを予防する究極テクニック

うっかりインサイダーのようなチョンボを防ぐには、会社内部の重要事実をとっとと公表しておけばいい、ということがいえます。

すなわちインサイダー取引とは未公表の重要事実を知って取引することですから、重要事実を内部にため込まず、タイムリーに開示しておけば
「ズル」
だの
「抜け駆け」
だのといわれることがなくなる、というわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00405_うっかりインサイダーとは

インサイダー取引というと、
「金儲けに異常に執着する犯罪的人格の所有者が暗い情熱と周到な計画の下に犯罪を実現する」
というイメージがあるかもしれません。

しかしながら、会社において
「重要事実が発生した」
との自覚がないため、連携不足のまま、財務部門がせっせと自社株の購入を行ってしまい、結果、インサイダー取引規制に違反してお叱りを受けるような事例も存在します(うっかりインサイダー取引)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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