00094_企業法務ケーススタディ(No.0048):大口注文が突然キャンセルされた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社欧米商事 社長 鈴本 鷹(すずもと たか、32歳)

相談内容: 
当社は、キャラクターの衣料を企画・販売していますが、昨年春に、飲み友達の若手芸人のためにオリジナルのトラのTシャツを製作したところ、その芸人の人気が出て、当社にもいろいろと引き合いが来るようになりました。
そうした中、大手子供服メーカーが、人気の出たトラの図柄の乳児用エプロンを作ってほしいと言ってきました。
担当者は、三浦という若いヤツでしたが、相手が大手ということもあり、社内プレゼン用にサンプルをいくつか作らされました。
三浦は、数ヶ月前に
「大々的に売り出す準備ができたので、量産に入ってくれ」
「欠品出すとメーカーの信用にかかわるのでそれなりの量が必要」
とか言い、大量の初期在庫を作るよう指示してきました。
いよいよ納品という段階で、三浦がそのメーカーを辞めたという噂が入りました。
何だか胸騒ぎがしたので三浦の上司と面談したところ、
「当社は高級ベビー用品を取り扱っており、お笑い芸人のTシャツと同じ柄などブランド戦略に反する。
彼は社内プレゼンはしていたようだが、商品化しないことは既に決定済みだった。
三浦だが、先月、本人から辞職の申し出があった。
とにかく、お宅にエプロンを発注した覚えはないので、持ち込んでもらっても困る」
と冷たく言われ、追い返されました。
エプロンにはメーカー名を入れてあり、他に転用できませんし、頭を抱えています。
相手が大手企業ということで信用しており、契約書や発注書は一切要求していません。
この損害、ウチが丸抱えしなきゃならないのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:口頭契約の危険性
ベンチャー企業の中には、大手企業からの指示で、大きな売り上げの見込みをエサにさんざんパイロット商品を作らされた揚げ句、担当者の
「やっぱ、やめた」
の一言で、突然、契約の締結を拒否され、その結果、莫大な損害を被るところが少なくありません。
こういう場合、大抵の大手企業側は、一切ペーパーを出さず、言質を取られず、責任者と言ってもペーペーの担当者がうろちょろするだけで、社長や役員は出てきません。
ベンチャー企業サイドは、売上が欲しいばかりに、米つきバッタのように、頭を下げ、大手企業からの発注を期待し、ありとあらゆる無理難題をのみ、発注書や依頼書等の書類の裏付けが一切ない状態で、お金や人的資源をつぎ込み、テストを実施し、サンプルを作り、さらには、設例のように、初期在庫まで作らされます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:口頭契約をドタキャンされた場合の対処法
とはいえ、設例のケースで
「ドタキャンされたまま泣き寝入りをしろ」
というのも酷といえば酷です。
そこで、ドタキャンされた後の話として、大手企業に何らかの責任を負担してもらう方法を検討してみます。
まず、
「契約準備段階の過失」
という法理です。
これは、契約締結に至らない交渉段階であっても、契約締結の見通しがなくなった段階で相手方に告知するなどの義務があり、これに違反したら、相手方の損害を賠償すべし、という判例上の理屈です。
また、設例の三浦の行動に、契約締結が困難となった状況を故意に知らせなかった等、違法とされるべき行動があった場合には、三浦氏の使用者たる所属企業に使用者責任(民法715条)を追及するということも考えられます。
さらに、欧米商事も相手企業も法律上
「商人」
とされますから、
「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」(商法512条)
の活用も考えられます。
最後に、この件は
「下請けイジメ事例」
とも考えられますので、下請代金支払遅延等防止法の活用も検討してみる価値があります。

モデル助言: 
大手企業がペーパーを出さず、言質を取られないようにするのは、最後までドタキャンする権利を確保しておきたいからです。
逆に、お付き合いをする側としては、こういうリスクを常に念頭に入れておかなければならないんですよ。
と言いますか、こういう大手企業のやり口を理解しておき、貴重なリソースをつぎ込む前に発注書を要求する対応をすべきだったんでしょうが、鷹社長はあまりに世間知らずでしたよね。
この種のトラブルは起こってからでは遅く、予防できるか否かで勝負が決まってしまいます。
とはいえ、泣き寝入りするのも癪に触るでしょうし、和解狙いで訴訟を提起しましょうか。
先程申し上げた法的手段ですが、いずれも確度の高い方法ではありません。
と言いますのも、裁判所からすると
「契約締結や発注書の徴収などの当たり前の法的予防措置を取らないで、代金支払いを拒否されるなんて、自業自得もいいところ。
賢く行動した相手先企業に文句垂れるのは筋違い」
という見方をされてしまいます。
ですので、法理を大上段に振りかざすのではなく、大手企業のひどいやり口を丁寧に説明し、裁判所に積極的にアピールすることが必要です。
あと、怒りを抑えて、当該担当者の三浦氏と接触し、彼をこちら側に取り込んで、相手先企業のやり方の不当性を証言してもらう証人として活用する方法もアリですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00093_企業法務ケーススタディ(No.0047):海外取引先相手の素姓を確認せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社トラブルバスター 社長 虎部 龍(とらべ りゅう、49歳)

相談内容: 
先生、ヨーロッパの有名な大学教授が開発した画期的なアンチウイルスソフトのライセンスが受けられそうです。
いえね、副社長である家内の美加が、ヨーロッパの視察旅行、といっても実際はファッションショーと買い物に行ったんですが、その際、知り合った現地のご婦人がアンチウイルスソフトの開発で有名なハックバスター教授の奥様だったんです。
家内が自分はソフト会社の副社長だと言うと意気投合したそうです。
そんなこんなで、ハックバスター教授を東京にお招きし、社を挙げて歓待させていただき、つい昨日帰国されたんです。
滞在中色々接待したのが効いたのか、ハックバスター教授も上機嫌になり、研究室に寄付をすること等を条件に、教授主導で運営しているコンソーシアム(企業連合体)が開発した、これまでにない画期的なウイルス対策ソフト
「ウィルス・ターミネーター」
の日本における独占販売権を当社に設定してくれる、というところまで話が進んだのです。
もっとも、求められた寄付額は日本円で8千万円ほどで、それ以外にも様々な条件があり大変なのですが、
「ウィルス・ターミネーター」
の独占販売権を手中にできれば、わが社も大きな飛躍が見込めます。
早速、明日にでも寄付金振込の手続をしようと思うのですが、全く、問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:海外取引先企業の素姓確認の重要性
海外企業との取引についてですが、一般に、株式市場で上場しているような著名な企業を取引の相手とするような場合、逐一素性を確認するような野暮なマネをする必要は乏しいといえます。
他方、あまり著名でない未公開の法人と取引する場合、著名法人自体ではなくその子会社や関連会社と取引するような場合、さらにはコンソーシアムとして運営されている企業連合体と取引するような場合、取引相手の法的素姓を正確に確認することは非常に重要です。
こんなことを言うと、
「はあ?
会社の素姓なんて確認する必要ねえよ。
実際、現地に行って担当者とか社長と会っているわけだし」
なんて声が聞こえてきそうです。
しかし、著名企業と提携したりする場合でも、実際契約相手として指定されたのは親会社の関係法人とはいえ「ホニャララLLC」という名の別法人だった、なんてケースがあったりします。
「LLC」とは、Limited Liability Corporation(有限責任会社)という意味ですが、法律概念における「有限責任法人」とは社会通念上「無責任法人」という意味にほかなりません。
それなりの資産や経済実体をもっている親会社と取引するならともかく、「無責任法人」とも言うべき関連法人と組まされて莫大な投資をさせられた挙げ句大失敗し、当の親会社を問い詰めても、
「ホニャララLLCは、当社とは別法人なので、関係ありません」
などスットボケられることがあったりします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:コンソーシアムの素姓確認
本件で取引相手と目されるコンソーシアム(ある目的のために形成された複数の企業や団体の集まりのことを指します)ですが、法人格があるのかないのか、一体誰がどのような責任を持って運営しているのか、法的には素姓は明らかではありません。
そして、コンソーシアムの法的正体がハッキリしない場合、そこで開発された成果物の権利の帰属もハッキリしないこととなります。
すなわち、この種の法的な素姓が定かではない団体を相手に取引を進めるということは、法人格があるのかないのか、そこで生じた権利の帰属や譲渡・ライセンスはどうなっているのか、誰が代表でどのような機関決定に執行が拘束されるのか、という基本的取引条件が不明のまま、時間、カネ、リソースをつぎ込むことにほかならず、何も得られず徒労に終わるリスクを負う可能性があります。

モデル助言: 
8千万円を寄付するのは結構ですが、この投資をドブに棄てないようにするためには、事前に確認するべきことがあります。
まず、教授主宰のコンソーシアムなる団体の素姓確認です。
団体が法人格を有する場合、Certificate of Incorporation、Corporate Charter等日本の登記簿謄本に相当するものが存在するはずですし、法人格のない組合等の場合も規約等があるはずですから、まず、ハックバスター教授にお願いしてこれらのコピーを送ってもらい、コンソーシアムなる団体の運営の法的仕組をきちんと確認してください。
万が一、ハックバスター教授が当該コンソーシアムの代表権限を有していない場合や、教授が代表者であっても排他的ライセンス設定に必要な機関決定が得られる見込みがない場合、教授にいくらカネをつぎ込んでもソフトの権利を取得する見込みはゼロです。
やる気になっておられるところ、水を差すようで恐縮ですが、こういう基本を確認することもなく、舞い上がった状態で8千万円の寄付を実行しても、何も得られず惨めな思いをするだけですから、もうちょっと冷静になられて、事前にやるべきことをやってから取引に着手されたらいかがでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00092_企業法務ケーススタディ(No.0046):従業員のネットワーク利用状況は監視できるか?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社クィーン通販 社長 西岡 須磨子(にしおか すまこ、33歳)

相談内容: 
この間、ウチのお取引先のお客さんから、
「そちらの従業員の方で、ネットの掲示板で社長の悪口書いている人いるみたいよ」
と言われので、書き込みを指摘されたネットの掲示板を見てみたんです。
そしたら、まあ、あること、ないこと書いてあって、腹が立って、腹が立って。
社内のことを事細かに書いてあって、犯人が社内の人間であることは明らかです。
犯人を探そうとしたんですが、犯人につながる特定情報は巧妙にぼかしてあって、誰がやったか分からない。
さらに腹立つのは、書き込みされた時間帯が午前11時とか、午後2時とかの勤務時間中ということなんです。
当社は、従業員1人に付きPC1台を持たせており、常時インターネットに接続できますが、勤務時間中個々の従業員がPCをどう使っているかまでは管理していません。
従業員のPCのアクセス状況やどんなメールをしているか調べようと思い、中途採用したネットワーク管理の責任者に調べさせようとしたら、
「プライバシー侵害になりませんか?」
と言われ、そういう覗き見のようなことをしていいかどうか迷い始めました。
大体、PCもネットワークも言ってみたら、会社の資産であって私物じゃないでしょ。
会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然だと思うんですが、他方、プライバシー侵害と言われると、そんな気もしますし。
あ”―――――、もう先生、どうしたらいいんですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員によるネットワーク利用状況のモニタリング
従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングについては、
「会社の資産であって私物じゃないから、会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然」
という論理も成り立ち得ます。
しかし、モニタリングの可否については裁判例で結構争われており、
「会社による利用状況のモニタリングが無条件、無限定に可能」
というわけではない、というのが一般的見解です。
裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所平成13年12月3日判決)では、
「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
とされており、判例上従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングがプライバシー権侵害となり得ることのルールが採用されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:従業員から徴収すべきモニタリング受諾書 
とはいえ、前記裁判例では、
「従業員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく、従業員の電子メールの私的使用に対する会社の調査に関する基準や指針等、会社による私的電子メールの閲覧の可能性等が従業員に告知されたこともない・・(中略)・・ような事実関係の下では」
ということも述べられています。
つまり、何の前触れも告知もなく、いきなり、興味本位で覗き見するようなタイプのモニタリングはプライバシー権侵害の問題となり得る、ということです。
以上からしますと、従業員からあらかじめ
「必要かつ相当な範囲においてネットワーク利用状況をモニタリングを了解する」
旨の文書を徴収しておくと、不祥事調査にまつわるプライバシー権侵害云々のクレームを逓減させることが可能となります。
受諾書の文例としては、
「私は、貴社が機密情報の保護・雇用管理その他貴社の経営の都合上、私に断りなく、私の発信しあるいは受信する電子メールや私が保有するパーソナルコンピュータその他の端末から社内外のサーバにアクセスしあるいは操作した状況等をモニタリングすることをあらかじ予め異議なく承諾し、同意します  X月Y日 従業員氏名」
のようなものが考えられます。

モデル助言: 
先程申し上げたような受諾書を準備し、従業員から一斉に徴収を求められたらどうでしょうか。
とはいえ、受諾強要するのは御法度。
あくまで、誓約内容と会社経営における重要性を十分理解認識してもらった上、自主的に提出してもらう、というスタンスでいてください。
万が一、誓約書の徴収を拒むような方々がいたからといって、それで一切モニタリングができないか、というとそうではありません。
前掲判例のとおり、受諾書は
「あれば、モニタリング実施のハードルが低くなる」
という程度のもので、
「受諾書がなければ、絶対モニタリングできない」
という関係には立ちません。
ネットでの誹謗中傷の具体的内容を見せてもらった上でないと判断できませんが、当該書き込み内容が企業価値を損ねるような誹謗中傷であって、公益目的も推認できず、また、手段方法面においても、私用のデータを含む地引き網的な探索ではなく、犯人特定の範囲で必要かつ合理的な範囲のモニタリングや調査であれば、
「受諾書や事前の告知がなくともプライバシー権侵害なし」
とされる可能性は高いと言えます。
本来は、パソコンやネットワーク環境を導入する際に、ルールを作っておくべきだったんでしょうけど、ま、大きな問題が起こる前で良かったですね。
早急に受諾書作成、徴収の準備に入りましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00091_企業法務ケーススタディ(No.0045):特許侵害者の顧客への攻撃は慎重に!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社武山電機工業 副社長 武山 武範(たけやま たけのり、37歳)

相談内容: 
あー、もう腹立つ!
パクられましたよ、先生。
ウチが発売している新型液晶テレビをマネされたんですよ。
いえね、ウチが昨年末から販売して大ヒットになっている超薄型液晶テレビなんですが、特許を取得した特殊な技術を使っていて、ありえない薄さと省電力がウリなんです。
春に向けてさらに大々的に売り出そうとした矢先、ライバルメーカーのヨシオ電機が特許権侵害承知で、パクリ製品を発表しやがったんです。
この動きは事前に察知していて、先月内容証明で
「そちらの製品は特許権侵害に当たるので発売を停止せよ」
と求めていたのですが、ヨシオ電機は
「そんなの関係ねえ」
「文句があれば裁判でもやれば?」
の一点張りで、全く話が通じません。
もちろん仮処分を申し立てるつもりですが、私としては、ヨシオ電機の卸先の販売店や問屋に対して
「ヨシオ電機のテレビは特許侵害商品だから取り扱うと大変なことになる」
という警告書を出し、間接的に圧力をかけて、ヨシオ電機のテレビを事実上販売停止に追い込もうと考えています。
このことを社長の親父に相談したら、
「お前はすぐキレて、見境がなくなって失敗するから、鐵丸先生の意見も聞いてこい」
と言われました。
ウチはきちんとした特許権は持ってますし、販売店が譲渡したりすることは、特許権を侵害するわけですから、文句言ってもいいはずです。
先生、問題ないですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:不正競争防止法
不正競争防止法という法律を聞いたことがある方も多いと思いますが、
「どんな法律か」
と聞かれても、その特徴を一言で答えるのはなかなか難しい法律です。
それもそのはずで、不正競争防止法は、その名のとおり、経済社会における不正な手段を弄した競争を防ぐ目的の制定された法律で、経済取引における一般法理ともいうべき法律であり、いろいろな行為を広汎に規制しています。
デッドコピーを禁止しているかと思えば、企業の営業秘密を保護したり、ブランドの保護をしてみたり、はては外国公務員への贈賄を禁止したり、ある意味
「ごった煮」
のような法律です。
逆に言えば、ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない法律で、設例のケースも、不正競争防止法の競争者営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)の禁止に該当しないかどうか慎重に検討しておかないと思わぬところで足をすくわれかねません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:競争者営業誹謗行為
設例のケースですが、武山電機が特定の技術に関し特許権を有していて、ヨシオ電機の製造販売した商品が武山電機の商品と似ているからといって、直ちに特許権を侵害したことになるかは定かではありません。
すなわち、特許権があるといっても特定の技術範囲にしか及ばず、しかもこの範囲は、新規性・進歩性という要件をクリアする点から、出願後登録を得るまでの間に著しく狭められてしまうことが多々あります。
また、特許庁がお墨付を与えた特許権が裁判所でいきなり無効と判断されてしまうこともあります。
加えて、一般人の感覚で
「特許権が侵害された」
と思っていても、特許の範囲をよく観察すると、
「対象商品はギリギリ特許を侵害していなかった」
なんていうこともザラにあります。 対象商品が
「特許を侵害している」
との主張を裁判所に訴え出るならともかく、いまだ公的に確定していない
「特許侵害」
という事実を、あたかも特許侵害が既定の事実であるかのように装い、ライバルメーカーへの間接的な圧力を加える目的で取引先に触れ回るというのは不正競争防止法で禁止されている
「虚偽の事実を告知して競争者の営業を誹謗する行為」
と判断される危険があります。

モデル助言: 
特許権を侵害されたと考えた企業がライバル企業の取引先に
「特許権侵害の恐れあり」
との警告状を送付した事件で、競争者営業誹謗行為に該当するとして、通知の差し止め、損害賠償に加え、謝罪広告まで認められた裁判例もあるくらいです。
勇み足で過激なことをすると、逆にこちらが詫びを入れさせられる、というのが不正競争防止法の世界です。
ヨシオ電機の取引先に対して、仮処分なり訴訟なり申し立てるということ自体慎重にする必要があります。
別の高裁判決では、
「仮処分申立自体に告知性はなく営業誹謗行為には該当しない」
としつつ、
「申立行為や記者発表は民法上の不法行為になる」
と判断しています。
前述のとおり特許庁の判断を裁判所がひっくり返すことが特許法上認められており、
「特許権侵害を訴え出たら、逆撃をくらって、裁判で大事な特許がつぶされた」
なんて悲劇もよく聞きます。
取りあえず、特許の有効性と侵害性の有無を今一度冷静かつ保守的に判断し、まずはヨシオ電機だけを相手に仮処分申立をした方が無難でしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00090_企業法務ケーススタディ(No.0044):不都合な真実は訴訟認諾で隠蔽せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ウエシマ・フードサービス 社長 上島 竜太(うえしま りゅうた、47歳)

相談内容: 
大変なんです。
訴訟を起こされました。
ウチは、飲食チェーンの中でも生き残りが微妙な中堅ですから、お客様サービスを充実させなければならないんですが、サービスったら、そりゃ、美人で、気立てがいいウェートレスさんを揃えることじゃないですか。
とはいえ、ウチのは、中途採用が多いせいか、年取って、キツくて、使いづらいのが多い。
でね、ウチの社内最大の協調労組、まあ、早い話、御用組合ですよ、この組合幹部に組合員の個人情報をいろいろ集めてくれないかと持ち掛けたんですよ。
組合も結構協力してくれて、従業員の家族、病歴、容姿、家庭環境、気質、性格、男性関係等々、100項目ほどの情報を集めてもらって、こっそり会社に報告してもらっていたんですよ。
そしたら、組合幹部同士が大ゲンカ始めて、組合員が慰藉料を求める裁判を起こしてやがった。
まあ、賠償額は300万円ほどですが、ぶっちゃけ、金はどうでもいいんですよ。
でもね、当社は、最近、女性向けの健康志向のレストランを展開していて、こういう会社の姿勢がバレたらお客様にそっぽを向かれて、大変なことになるんですよ。
かといって、相手もいい気になって相当誇張して主張してきている部分もあり、言い分をすんなり認めたくはない。
先生、どうすりゃいいんでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:判決によらない裁判の終了
普通、裁判の解決というと、
「勝訴、敗訴いずれかの判決が出されて一件落着」
ということをイメージされる方が多いと思いますが、判決以外にも訴訟が終了する場合というのがあります。
と言いますか、実際の裁判では、提起された訴訟のおおよそ半数が判決以外で終了するといわれています。
判決以外の訴訟終了の場合としては、放棄、認諾、和解の3つがありますが、代表的なものは和解による訴訟終了です。
和解と言っても、裁判所での和解はただの話し合いとは違って、その内容は弁論調書という公文書に記載され、和解で定められた権利は判決で言い渡されたのと同様の強制力が生じます。
さらに、和解の後に気が変わっても、和解を不服として高裁に持ち込んだり、再度訴訟を提起することができなくなりますので、和解には判決に匹敵する事件解決機能があるといえます。
ちなみに、裁判所も、
「解決した事件数で出世が決まる」
といわれるほどノルマが厳しいようですが、判決も和解も
「いっちょ解決」
としてノルマ達成上のカウントがされるそうです。
和解の場合、判決書を書かなくてもいいし、控訴で争われて高裁とかからダメ出しされることもないので、裁判所からは大変歓迎される訴訟終結方法のようです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:請求の放棄と認諾
和解は相手がウンと言わないとできませんが、相手の意向に関係なく訴訟を終わらせる方法として、放棄と認諾というのがあります。
請求の放棄というのは、原告が訴訟をヤメてしまうことですが、これにより訴訟が強制的に終了します。
「せっかく印紙を貼って訴訟まで提起したのに何で放棄とかする必要あんの?」
と不思議に思われるかもしれませんが、
「ちょいとビビらせて和解金せしめようと訴訟提起したものの、相手から予想外の猛反撃に遭ってしまい、これ以上事実を調べると、こちらが隠しておきたいことまで洗いざらい暴露されてしまうので、その前に強制終了」
みたいなケースで使われることがあるようです。
認諾は、放棄と逆で、被告が原告の請求をすべて認めてしまうことです。
いずれも、一方当事者が
「相手の要求を全部呑みます」
という以上、裁判所がお節介焼いてあれこれ事実を調べるのは無駄ですから、放棄ないし認諾後は、裁判は直ちに終了してしまいます。

モデル助言: 
大体、労働組合にヤバイことを依頼するなんて危機管理なさ過ぎですよ。
取りあえず、提起された訴訟は
「訴状記載内容は、全くの事実無根で争うが、大所高所の見地から、請求は認諾して、本件トラブルを早期に終わらせる」
といった対応されたらいかがですか。
こちらが請求を認諾してしまったら、裁判という公開の場でネチネチ事実調べをされる必要もありませんし、原告たちは、この事件については二度と訴訟が起こせなくなります。
カネに糸目を付けないなら、この方法が一番です。
て言うか、従業員の個人情報なんか集めてどうしようっていうんですか。
そんな情報あっても、解雇の理由にはならないですし、全く意味ないですよ。
それに、
「性格」
とか
「気立て」
とか、社長個人の主観で人事が左右されるよう会社は、今の時代三流企業扱いされますよ。
きちんとした評価基準を確立し、論功行賞を適正に運用し、いい組織を作れば、会社も自然に伸びますよ。
いずれにせよ、そんな覗き見みたいにして得た情報は、持ってるだけで企業のアキレス腱になりかねませんし、早々に廃棄したほうがいいでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00089_企業法務ケーススタディ(No.0043):不良債権償却による節税の極意!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ドンダ化粧品 社長 鈍田 恵(どんだ けい、46歳)

相談内容: 
先生、んもうっ、どんだけぇー、って感じ。
実はね、友人で
「マスコ・ゴージャス」
ってふざけた名前の美容院を経営している益子ってヤツがいるんだけど、昨年5月に改装費用で3千万円貸したわけ。
当初の益子の話だと、既に銀行融資のめどが付いているらしく、
「つなぎでカネ貸してよ、オネエ様。
銀行ローンの手続きが終わってお金が入ったら、すぐ返すから。
改装工事の業者の人がさすがに待てない、ってせっつくのよ」
なんてことだったわけ。
ところが、夏が来ても、秋が来ても、うんともすんとも言ってこない。
さすがに年越えちゃいそうになったので、店に行ってみたら全然別の人間が別の名前の美容院やっている。
で、いろいろ調べたら、店の改装はして当初は順調だったらしいんだけど、新宿2丁目に出入りしている悪いのに入れ揚げちゃって、店のお金全部もっていかれたらしい。
後は、高利貸しに手を出して、転落人生。
益子を絞り上げても一銭も取れっこないし、警察に相談しても詐欺とかにはならないらしいし。
当社は今期絶好調で相当税金払わなければならないから、せめて、不良債権ってゆうことで償却したいわけ。
ウチの税理士さんは
「そんなの督促状出して、届かなかったら貸し倒れってことでいいよ」
なんて調子のいいこと言ってるけど、税務調査ではしょっちゅうヘマやっているし、なんか心配なっちゃって。
先生、大丈夫かな?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債権の貸倒れについて
公開企業や公開に興味のない企業(要するに、税金の支払いを極力抑えたいと考えている非公開企業)においては、決算期末が近づき、当期に多くの利益の計上が見込まれると、何とかかんとか税務上認められた方法で損金を大きくして、無駄な税金を払わない方索を思案します。
損金計上による節税手法の中で、債権貸し倒れによる損金経理というものがあります。
債権の貸し倒れとは、借金や債権が踏み倒されたことを言いますが、法人税法基本通達では、法的な整理の開始に伴う債権の消滅や長期債務超過の状態に伴う債権放棄により債権が消滅したと認められる場合(通達9ー6ー1)や、債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった場合(通達9ー6ー2)に損金経理を認めてくれます。
今回のケースでも、益子さんがお金を返さないのは、返したくてもスッテンテンになってしまってお金が返せないわけですから、無駄な回収努力を続けるよりも、貸し倒れに基づく損金経理をして、その分法人税の支払いを減らしたほうが容易かつ賢明な選択と言えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:節税の規模に応じた税務対策
それでは、一体どこまでのことをすれば、税務当局として
「債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった」
と認めてくれるのでしょうか。
もし、簡単に巨額の貸し倒れが認められるとすると、役員・家族・友人・知人にどんどんお金を貸し、片っ端から貸し倒れということにしてしまえば、寄付や賞与認定を免れる不当な脱税が横行することとなります。
とはいえ、夜逃げした零細業者に対する数十万円の債権にまで、逐一面倒くさい手続きを要求されたらたまったもんじゃありません。
つまるところ、税務当局をしかるべき形で納得させる状況を作っておくべきというほかなく、現実には
「損金処理を考えている債権額の規模に比例して、適正と考えられる、回収行動や債務者の資産状況検証を行う」
ということが推奨されます。
設例のケースですと、3千万円という規模の大きい債権で、しかも貸し付け年度内に貸し倒れたことにするわけですから、単に、
「夜逃げしたようです。
督促状が届きません」
というだけでは、税務当局が損金経理を認めてくれない可能性もあります。

モデル助言:
ま、一番いいのは、益子さんに、破産とか民事再生とか、きちんとした法的整理の手続きを取ってもらうことでしょうね。
とはいえ、事実上夜逃げしちゃっている状況であれば、そもそも連絡が取れないでしょうし、弁護士を雇うカネすらないかもしれません。
また、破産者扱いを嫌がる場合も考えられます。
益子さんの協力なく、こちらの都合だけで進められる方法としては、とにかく、訴訟提起をして、欠席判決でも何でもいいから、まず判決を取ることです。判決をもらったら、相手方会社本店近くの金融機関の口座を片っ端から差し押さえ、また、会社本店に動産執行をやりましょう。
どうせ、金融機関の口座は空っぽで、会社本店も既に第三者の名義になっていて、執行なんかできっこありませんが、これはこれでいいんです。
お金を回収することが目的ではなく、合理的回収行動をしたことと、益子さんの会社に財産がないことを、裁判所という国の別の機関からお墨付きをもらうことが目的なわけですから。
ここまでやっておけば、これだけの額の債権とはいえ、税務当局としても期中貸し倒れによる損金経理を認めてくれるでしょう。
いずれにせよ、期末が近づいていますから、早急に着手しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00088_企業法務ケーススタディ(No.0042):事業承継の極意!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社菊王ラーメン 社長 林 菊雄(はやし きくお、69歳)

相談内容: 
先生、正直、もう疲れましたよ。
創業以来、40年、この菊王ラーメンの看板を背負って最前線でやってきましたが、もう限界です。
いえね、この間、高校の先輩で、大手寿司チェーン店
「ウタマロ寿司」
の創業者として有名な勝浦歌麿さんと飲みに行ったんですよ。
そしたら、歌麿先輩、
「オレ、去年引退しちゃったよ」
って言うんです。
なんでも、事業承継っていう方法があるらしく、歌麿先輩も、銀行のセミナー聴いて、
「いっちょやってみようか」
って気になったそうです。
歌麿先輩んとこのご長男さんは大手商社に入社して飲食事業を勉強された優秀な方で、争いもなく、すんなり承継ができたそうなんです。
ただ、先輩からは、
「オレんとこみたいに、ほとんどの株をオレが持ってて、後継者も長男に決まってて問題なさそうなところでも、税の問題やら特殊の株の発行やらで、結構時間がかかったよ。
菊ちゃんのところみたいに、後継者の長男さんが頼りなかったり、株を渡したまま喧嘩別れしちゃった弟さんなんかがいると、結構厄介だぜ」
なんて脅かされています。
先輩のおっしゃるとおり、バブル期には銀行出身の弟を専務にして株式公開を目指して頑張っていたのですが、その後株式公開の話が立ち消えになると、途端に弟と仲が悪くなり、彼が株をもったまま会社を辞めて以来険悪な仲です。
後を継がせようと考えている長男ですが、人望がなく、親子関係すら円満ではなく、後を譲った途端、私の面倒を見ずに好き勝手やりそうで、心配です。
どうやったら、うまく事業承継して、楽隠居できるんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:事業承継問題の本質
最近、事業承継がクローズアップされてきたのは、戦後創業された数多くの中小企業の後継問題が原因といわれています。
戦後、団塊の世代が多くの中小企業を創業しましたが、間もなくこの世代の経営者が大量かつ同時にリタイヤ期を迎えます。
大抵の中小企業の経営者は、後継のことを考えずに最後まで現場に踏みとどまって、がむしゃらに猛進されますが、いざ脳梗塞や心筋梗塞でブッ倒れたときや死んだときには、相続人や株主の利害対立が先鋭化し、求心力を失った会社組織が、無残に崩壊することになります。
また、事業承継をした途端、後継者が無謀な経営方針を取り始め、元オーナーの制止を聞かず暴走するケースもあります。
事業承継は、このようなドロドロとした人間ドラマに加え、税の問題、会社法の問題、相続の問題が複雑に絡むのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:事業承継の極意
事業承継のポイントの1つめは、誰に承継させるかという問題です。
かつては、事業承継と言えば、身内に承継させるのが相場でしたが、最近では、番頭さん格の役員への承継(MBO)や、事業をそのまま第三者に譲り渡す(M&A)ことも検討されるようになってきました。
ポイントの2つめは、会社法の活用です。
近時大改正された会社法は、非常に使い勝手のいい事業承継のツールと言えます。
例えば、議決権制限株式、無議決権株式、黄金株を活用することにより、個々の承継ニーズに応じた企業オーナーシップをカスタムメイドで設計・運用できます。
ポイントの3つめは、税務課題と相続問題への配慮です。
事業承継で厄介なのは、当面の承継が効果的に抑止できたとしても、株式譲渡や特殊な株式発行に絡んで非常な税負担が発生したり、オーナーの死後に親族と後継者の間で
「血で血を洗う相続紛争」
が生じたりするので、注意が必要です。

モデル助言: 
まず、承継先を決める必要がありますね。
ご長男さんが経営者としての器量に欠けるとのことですが、そういうご長男に事業を承継させたところで、京都の某カバン屋さんのように、役職員が離反して大量に退職し、近隣で競業されたりして事業自体が一挙に崩壊することもあります。
お話ししましたように、有能なナンバー2の役員がいらっしゃれば、その方にMBOをする方法や、業界再編を睨んでいる同業者に事業ごと売却する方法も検討されてはいかがでしょうか。
それと、仮にご長男に継いでもらうにしろ、いきなりすべての株式を譲渡するとなると、譲渡益課税が発生しますし、ご長男に買い受けるに足る資金力も必要になります。
加えて、承継した途端、無謀な経営に走ることもあるとのことですので、遺贈の活用も踏まえた段階的な譲渡にするとか、黄金株(拒否権付株式)を手元に残しておく等の措置が必要でしょうね。
あと、会社法を活用して株式の種類をいじろうとしても、弟さんが反対するかもしれませんね。
仲直りが無理であれば、買い戻すか、増資をして弟さんの持ち株比率を下げるような小細工も必要になりますね。
時間がかかりますが、私が提携している会計事務所も交えて、じっくり進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00087_企業法務ケーススタディ(No.0041):並行輸入品の修理を拒否したい!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社マッサル・バイク 社長 浜田 勝(はまだ まさる、35歳)

相談内容: 
当社が長期間かけてイタリア製レース自転車
「ハマ・グッチ」
の日本総販売代理店の権利を獲得し、5年前からディーラー網を整備してきたことは先生もご存じのことと思います。
ところが、昨年から、
「ハマ・グッチ」
の並行輸入品が出回るようになりました。
現在のところ、先生のご指導を受けて、当社が許諾を受けている
「ハマ・グッチ」
のロゴをネット上で勝手に使用している並行輸入業者に対して片っ端から内容証明郵便による通知書を送り付け圧力をかけています。
ま、こちらはこちらで効果が出ているようで、ネット上での大々的な並行輸入品販売は少なくなりました。
ところで、今、頭を悩ましているのは、並行輸入品の修理依頼なんです。
「ハマ・グッチ」自転車は、特殊な部品を使っていて、修理の際には、これら特注の部品を使用する必要があるのです。
無論、当社は、正規ディーラーとして、正規品を購入したお客様からの修理に対応すべく、全部品について常に一定量の在庫を持っています。
しかし、ウチとしては、
「並行輸入品を買った客の面倒まで見る必要なし」
という態度を貫いており、ユーザー登録していただいている正規販売品ユーザー以外の方からの持ち込み修理依頼は一切お断りしています。
そうしたところ、恐らく並行輸入業者が、裏で動いている嫌がらせだと思うのですが、昨年修理をお断りした並行輸入品ユーザーの方から、
「並行輸入品の修理拒否は、独占禁止法違反だ」
という内容証明郵便による通知を出してきたんです。
一体、何なんですか、これは。
こんな理屈がまかり通るんですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公正取引委員会は並行輸入をどうとらえているか
海外商品を輸入・販売する場合、一般的には、メーカーの現地法人や、メーカーと正規の販売契約を結んだ代理店によって、輸入・販売されます。
しかし、商品の内外価格差が大きい場合、本ケースのように他の業者や個人輸入代行等が海外から商品を直接輸入し販売するという方法が取られることがあります。
これは、複数の輸入ルートが並行することから、並行輸入といわれます。
並行輸入品は、その安い価格の代償として、返品や購入後のメンテナンスなど、アフターケアが不十分な場合があることはよく知られていますし、並行輸入品を買っておいて、正規代理店に持ち込んで修理を依頼しようなんて、随分図太い話です。
しかしながら、公正取引委員会としては、
「並行輸入品は価格競争を促進させる効果を有する」
との思想を有しており、その意味では並行輸入を保護するスタンスを取っております。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:並行輸入品のメンテナンス拒否
公正取引委員会としては、並行輸入を保護する観点から、
「並行輸入品を排除しようとする正規代理店」
サイドを厳しく取締まろうとしております。
そして、そのひとつの表れとして、公正取引委員会は
「正規代理店が並行輸入品をメンテナンス拒否など差別的に取り扱う場合、独占禁止法上違法となり得る」
などとしています。
すなわち、公正取引委員会が作成する流通取引慣行ガイドラインには、
「総代理店以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難である場合において、正規品でないことのみを理由として修理拒否することは、正規品の価格維持のために行われている不公正な取引であり、一般指定15条に定める競争者に対する取引妨害として、違法」
であるという趣旨のことが書かれています(第3部第3―2(6))。
浜田さんのような正規ディーラーにとっては噴飯ものの話ですが、内容証明を出してきた並行輸入品ユーザーの言い分は、公正取引委員会の示す独禁法運用に則ったものであり、十分な法的根拠があるということになります。

モデル助言: 
公正取引委員会は、並行輸入業者や少しでも安く買いたい消費者の味方ですので、慎重に対応する必要があります。
とはいえ、原則には常に例外があるように、先程の公正取引委員会のルールにも例外があります。
公正取引委員会としても
「合理的理由があれば、正規代理店が並行輸入品の修理を拒否し得る」
としています。
具体的には、
「代理店の社内資源の制約上、自社販売品の修理対応だけで手いっぱいで、並行輸入品の修理の対応は現実問題としては困難である」
あるいは
「メーカーは、修理部品や修理マニュアルを海外ユーザー向けにも提供しており、並行輸入業者や個人ユーザーがこれらを入手して修理することは、面倒くさいが、困難というほどではない」
から
「修理を拒否するのは合理的理由に基づくもので独禁法違反ではない」
というロジックが成り立つような状況を整備しておくことでしょうね。
と言いますか、思い切って価格を下げるとか、正規品ユーザーならではの付属サービス特典を強化する(オーナークラブのサービス内容の充実)とか、商売面でガチンコ勝負し、価格競争・品質競争に勝って並行輸入業者をビジネス面で駆逐することを考えたほうがいいですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00086_企業法務ケーススタディ(No.0040):敵対的買収防衛策としての資金需要アピール術!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社フレンドパーク不動産 社長 関山 浩(せきやま ひろし、45歳)

相談内容: 
新年早々の相談なんですが、実は、昨年秋から当社株買い占めと思われる動きが出てきているのです。
当社は5年ほど前の底値の時に駅前の不動産を買い集めていましたが、これら保有不動産の価値が上がっていることから、特定の投資家にとって当社保有資産は相当魅力的なはずです。
他方、当社は、IRもおざなりにしてきましたし、自社株買い等もせず、株価対策についてはほったらかしと言っていい状況でした。
当社株価のトレンドですが、特に材料がないにもかかわらず、昨年春頃から妙な上昇基調にあり、主幹事証券会社や財務部長からは警告が出されていました。
本腰を入れて対策を取ろうとした矢先の昨年11月に大量保有報告書が出され、外資系のファンドが大量に買い付けていることが判明したのです。
あと、当社は、過去に大量の転換社債を発行していたのですが、その後の株価改善を受けて社債の償還がないだろうと考え、確保していた償還原資は事業資金に使ってしまっていました。
そうしたところ、この転換社債も別の外資系ファンドが既に買い集めを始めているという噂も入ってきており、実に気味が悪い状況です。
一応、ブルドッグソースさんのものを参考に事前警告型の防衛策は導入しました。
しかしながら、当社は開発案件や新規事業をいくつも計画しており、事業資金が常に入り用の状態ですので、いざ有事になった場合、ブルドッグさんのように、敵対者を追い払うためのカネは持ち合わせていません。
初夢で
「当社において日本初の敵対的TOB成立」
という悪夢を見てしまったこともあり、私も不安が募っております。
何か妙案がありましたら、ご教示いただけませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:買収防衛策としての第三者割当増資
買収防衛策としては、今や新株予約権や種類株を使った非常に複雑なものがトレンドとなっていますが、つい5年ほど前までは、買収防衛策といえば第三者割当増資が最もメジャーな手段でした。
すなわち、決して裏切らないお友達に株式を大量に発行し、敵対的買収者の持ち株比率を下げるという手法です。
実際、敵対的買収のターゲットとなった企業が、ドンパチの最中に、敵対的買収者の株式保有割合を薄めるため、露骨な増資を行い、裁判沙汰になったケースがいくつもありましたが、こういう裁判例の蓄積により
「主要目的ルール」
というものが確立しました。
曰く、現経営陣が敵対的買収者の持株比率の低下と支配権維持を主要な目的とした増資はアウト、資金調達が主要な目的である場合はセーフ、というルールです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:具体的資金需要のアピール
主要目的ルールを前提とすれば、
「会社に具体的資金需要があり、その調達方法として増資を実施し、その反射的な効果として、乗っ取り屋さんの思惑が外れるような支配比率の変化が生じた」
というシナリオであれば、乗っ取り屋さんを追い払うことは可能ということになります。
他方、具体的資金需要がなかったにもかかわらず、有事の真っ最中に、降って湧いたように新しい事業計画や具体的資金需要をアピールしても、世間からも裁判所からも
「でっち上げ」
と思われてしまい、増資は差し止められます。
で、優秀な企業法務弁護士と契約している一部の賢い企業は、こういう点を踏まえ、各種ディスクローズの際に、検討している事業計画や当該計画に資金が必要なことや、さらには資金調達方法としてエクイティ・ファイナンスも視野に入れていることを、
「ほら吹き」
と言われない程度にアピールすることを実施しています。
つまり、こういうことを常日頃からアピールしておけば、いざ乗っ取り屋がやって来たときも
「前から言っていたとおり、ビジネスにカネが必要になったので、増資をしただけですが、何か問題でも?」
という形で、実質は買収防衛目的の大量の増資を実施することが可能となる、というわけです。

モデル助言: 
御社もいろいろと開発案件や新事業立ち上げを考えているのであれば、馬鹿のひとつ覚えみたいに銀行融資だけでなく、エクイティ・ファイナンスも検討すべきですね。
もちろん、先程申し上げたとおり、お考えになっている開発の規模や新事業の概要を可能な限り具体化しておき、資金需要の規模や時期もある程度具体的にアピールしておいた方がいいですね。
もちろん、金融商品取引法の規制もあるので、ウソや誇張はだめですが。
それと、第三者割当増資で敵対的買収に対抗する場合、引き受けてくれるホワイトナイトが絶対必要です。
いざとなったときに頼れるお友達を、できるだけ増やしておいてください。
あと、増資に加え、新株予約権の発行も買収防衛効果があります。
役職員向けのいわゆるインセンティブ・ストックオプションの導入も可能ですし、
「新株予約権発行は増資と違って資金調達目的は必要ではない」
とされますので、事業提携を行う際に、提携アイテムのひとつとして新株予約権を発行しておくのもアリですね。
さっそく、各検討に取り掛かかりましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00085_企業法務ケーススタディ(No.0039):デット・エクイティ・スワップを活用せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社グレート・ムトウ 社長 武藤 敬一(むとう けいいち、45歳)

相談内容: 
先生、銀行が訳わかんないこと言ってて、チンプンカンプンです。
どうか、お知恵を貸してください。
いえね、今度展開する当社新事業のために資金が必要なので、長年付き合いのある全日本銀行に事業資金の借入れを打診したんですが、当社の決算書をみた新しい銀行の担当者から
「負債が多くてバランスが悪いですね」
なんて言われまして難色を示されています。
負債つっても、私や妻の役員報酬の未払がたまっているだけで、こんなの身内の借金ですし、当社の事業基盤はしっかりしていますよ。
そんな中、銀行の担当者がいきなり何を言い出すかと思ったら
「スワッピングしてくれたら、貸すことができるかもしれない」
なんて言い始める。
一体なんのことやらさっぱりですよ。
私は、そんな変な趣味ないですよ。
銀行の連中ってのはストレス溜まって病んでるんでしょうが、こんなことまで要求しますかね。もう泣きそうですよ。
とりあえず、
「わかりました。
前向きに検討します」
なんつって帰ってきたんですが、俺、やですよ。
親父の代から付き合いある古くからの税理士さんも銀行との相談に同席したんですが、チンプンカンプンなようですが、わかったようなフリをしてました。
帰り道、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
なんていいやがる。
先生、どうしたらいいんですか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債務株式化
会社のバランスシートをみると、右側(貸方)には、上段に負債、下段に資本の項目が並んでいます。
法律的にみると、負債は返さなければならない借金で、資本は返さなくてもいい出資金ということで、顕著な違いがあります。
しかしながら、
「会社の運転資金の調達先はどこか」
という観察においては、負債であれ、資本であれ、調達先が債権者か株主かというだけであり、どちらも似たようなもの、ということになります。
今から10年前ほどから、負債でクビが回らなくなりはじめた企業や、負債が大きくなり過ぎて資本とのバランスが悪くなった企業において、負債を資本に振り替えることにより、企業再建に活用したり、企業が健全にみえるようなお化粧直しの方法として、債務株式化という手法が検討されはじめました。
債務(デット)を株式(エクィティ)に交換する(スワップ)という意味で、デット・エクィティ・スワップとかDES(デス)なんて言い方をされますが、武藤さんが想像するような口に出して言えないような恥ずかしい類のものではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:債務株式化の具体的手法
債務株式化は、
「大手企業の再建の際に金融機関の支援策として使われるような大規模で難しい手法」
として考えられてきましたが、新しい会社法施行に伴い、簡単に実施できるようになりました。
最近では、中小企業においても、金融機関や取引先に対してバランスシートの見栄えをよくするための財務改善の手法としてよく用いられます。
債務株式化の手法、債権者が債権を元手として出資して増資する手続になります。
武藤さんに対する未払役員報酬が1000万円になっていたとします。
会社がこの1000万円を社長に返済し、他方、武藤さんは返してもらった1000万円で会社の株式を買います。
現金がいってかえっての話になるので、実際には、お金を一切動かさずに処理をする。
この結果、会社としては借金が減り、資本が増え、自己資本比率が改善する。
簡単に言うと、こういう話になります。

モデル助言: 
お年を召した税理士さんとかでデット・エクィティ・スワップを知らない人もいるでしょうけど、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
はないですよね(笑)。
銀行の指導としては、至極真っ当ですね。
というか、そういう点も含めてアドバイスしてくれるなんていいバンカーじゃないですか。
御社の場合、確かに過去の未払役員報酬や創業初期のころの自宅兼事務所の未払家賃とかが溜まっているようですね。
他方、売上規模が大きくなったわりに、資本金は設立時の1000万円のままでその後増資をしていない。
ですので、債務株式化で財務改善できる典型的なケースといえますね。
ちょっと前までは、額面での現物出資にいろいろ議論があったのですが、幸い新会社法になって額面そのままの出資ができるようになりましたので、かなり早く実施できますよ。
一度、銀行の担当者の方も交えて、具体的なスケジュールを組んで進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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