01751_ネット上やSNS上に、自社商品やサービスに悪い評価を掲載されましたが、何か対抗策はありますか?

日本には表現の自由が保障されております(憲法21条)ので、見解や意見を表明することは自由です。

ネット上の悪評価も表明された見解ないし意見の1つであり、これも表現の自由として法的に保護されています。

他者を褒めるような表現であれば、何も、憲法でわざわざ人権で保障する意味は乏しいです。

むしろ、憲法で保障される意味があるのは、他者を貶す表現であり、自由に、悪口をいい、批判し、非難し、disるような社会体制を保障するところに、自由主義国家たる我が国の憲法の使命がある、という言い方もできます。

独裁者が専制的に支配する全体主義国家であれば、トップや政治体制を非難したり、悪口をいったり、貶したり、揶揄したりすることは許されません(トップや政治体制を褒めたり、持ち上げたりする自由はあるでしょうが)。

他方で、わが国では、首相は無能だ、あの大臣はバカだ、あの政党の党首は世間知らずだ、この内閣はいい加減総辞職した方が、あの不倫したゲス政治家は議員辞職するべきだ、ということを自由に表現できます。

そして、そのような、公然とトップや政治体制を非難し、批判し、貶し、disり、罵詈雑言を言い放つことが出来る、という表現環境そのものが、わが国の自由な政治体制を支えています。

以上からして、我が国の法的環境として、他者の悪口を言ったりするものであっても、表現行為として、原則として強く保障され、例外的に、他者の人権を明確かつ具体的に損害を与える場合に限定されて、当該表現行為が極稀に法的責任を生じる、というものとして整理されます。

したがって、
「悪い評価」
の内容や根拠やマナー、トーンにもよりますが、単に悪口を言われたからといって、すぐに法的問題として対処可能とは考えられず、むしろ、多くの場合、法的には許容範囲となります。

他方で、企業側も表現の自由を有しており、当該自由ないし権利に基づき対抗言論によって、事態を打開することは可能です。

すなわち、企業ホームページ等で適切な事実を公表し、反論を加える対抗言論という方法が費用、広報戦略の観点から適切です。

なお、対抗言論を行う場合には、泥試合にしないよう、格段の注意を払って、カウンターリリースプロジェクトを企画・構築・実践しなければなりません。

すなわち、
「素手で殴られたらナイフで応戦、ナイフで斬りかかれたら銃で応戦、銃には戦車で応戦、地上戦を挑まれたら空中戦で、空中戦を挑まれたら宇宙戦で」
というものであり、
「同じ土俵に立たず、高位の次元から、圧倒的なパワーで封殺する」
ということが肝要です。

ただ、明らかに虚偽の事実や、受忍限度を超えた誹謗中傷等があり、違法性が顕著な場合、プロバイダ責任法3条2項2号では一定の要件のもと、プロバイダ等に情報の送信を防止するための措置を認めています。

また、プロバイダ等は独自の規約を設けていて、通常規約に違反するコンテンツを削除する権利を明記しているので、当該規約を根拠とした削除要求が考えられます。

なお、プロバイダ等が削除要求に応じない場合には裁判によるほかありませんが、ネット上の権利侵害はログ(ネット上の書き込みの記録)の保存期間が3か月から6か月程度といわれており、ログの保全や開示の仮処分命令の申立てもあわせて行うことになります

裁判で書き込みの削除を請求することもでき、名誉を棄損するホームページやその記載の内容を削除する条理上の義務を認めた裁判例もあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01750_当社製品への不買運動が発生しましたが、広報担当としてどうすればいいですか?

不買運動は、まったくの事実無根の場合、事実に基づく場合、さらには、
「事実に基づくものの、偏見や誇張をふまえて全体として事実とは異なるようなものとなって独り歩きしているような場合」
まで多様なものがあります。

まったくの事実無根の誹謗中傷があるならば、名誉棄損による損害賠償等、法的措置で対抗することが考えられます。

また、完全な事実無根とは言い難いが、偏見や誇張をふまえて全体として事実とは異なるような理由を根拠として、ネットやSNSで不買が呼びかけられている場合も、同様です。

しかし、事実に基づく不買運動の場合、消費者が持つ企業あるいは商品に対するイメージや考えを外部に表現する行為ですから、それが、名誉毀損や威力業務妨害など刑事罰に触れるような行為を伴わない限りは、憲法21条の保証する表現の自由のひとつとして保護されています。

企業としては、憲法21条の表現の自由を行使し、対抗言論によって対抗措置を取ることが可能です。

企業イメージをあげるキャンペーン、ホームページによる情報発信などで不買運動に対抗することが想定されます。

あるいは、ファクトチェック型、バイアスチェック型、ファクト&バイアスチェック型の第三者委員会を設置して、公正中立な第三者により検証された、虚偽も偏見もない、正しい情報を確立して、これを発信するような手法を取ることも可能です。

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01749_どのような場合に謝罪広告を掲載しなければなりませんか、また自社サイト上への謝罪文はいつまで掲載すべきですか?

誹謗、中傷的表現を受けたとして被害者から裁判を提起され、人格権侵害行為(不法行為)に基づく民事責任の追及の一環として、謝罪広告の掲載を求められ、裁判所がこれを認容する場合、民法723条の
「適当な処分」
として、訂正・謝罪を命じる場合があります。

裁判所の命令に従うような状況ではなく、任意にかつ自主的に謝罪広告を出す場合(企業の自主的判断で謝罪広告をホームページ上に載せる場合)においては、謝罪広告を出すか出さないか、出すとしてどのような内容の謝罪広告を、どのような形で、何時出すかは、すべて企業側の自由(表現の自由)です。

謝罪を行うにしても、謝罪があったことを裁判外の自白があったとして、これを有力な根拠として援用して損害賠償請求をされるリスクがあるので、誰に向けた謝罪か、何に対しての謝罪か、法的責任を前提とする謝罪か、法的責任を前提とせず、世間を騒がせたことに対する謝罪かなど、謝罪広告を企業側に不利に援用されるような展開予測を十分に検討し、損害賠償請求リスクに耐えうる謝罪文を構成する必要があります。

この点において、

経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 ケース17:不祥事記者会見をなんとか乗り切るための極意

を参照にしてみてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01748_社長の談話やインタビュー等に応じる際、社長室から「著名人の言葉を引用したい」という話が浮上しておりますが、法的なリスクを回避する上で何か注意点はありますか?

まず、他者の発言一般が著作物となることはなく、表現が際立ってユニークで、それ自体著作物となるような、かなり特殊なものだけが問題になります。

ありふれたものや、短いフレーズ、当該発言を著作物として著作権を成立させることで、あまりに弊害が大きいような場合(表現行為に対する制約の度合いが激しく、思想表現等の営みにまつわる社会生活や経済活動を不当に萎縮させてしまう)も考え、裁判官によっては、著作物として認めないこともあるでしょう。

とはいえ、漫画家の松本零士氏が自らが創作した漫画
「銀河鉄道999」
における台詞
「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない」
が、槇原敬之氏作詞作曲の
「約束の場所」

「夢は時間を裏切らない。時間も夢を決して裏切らない」
という一節によって著作権がされた、という紛争が裁判にまでもつれ込み、裁判所の前提判断として、このような短いフレーズでも著作物性がある、とされました。

なお、この事件、松本零士氏が著作権侵害だ、とあちこちで主張し、槇原敬之氏が
「著作権侵害などしていない、ディスられたことが名誉毀損だ」
などと主張してカウンターアタック訴訟提起しました。

地裁の結論は、被害者として被害を主張した松本零士氏に220万円の損害賠償を命じる(槇原氏のカウンターパンチがきれいに決まり、松本氏が地裁で負ける)など、かなり興味深い経過をたどり、最後は、高裁で痛み分け和解をした、というオチとなったようです。

この事件の教訓としては、
・短いフレーズであっても著作物となる可能性もある
・ただ、まんまパクリではなかったので、ここで地裁は救済した
・短いフレーズを真似されるかのような事例で騒ぎ過ぎると却って返り討ちに遭う
という話になるかと思います。

いずれにせよ、
「著作物」
となるかどうかは論点になり得ます。

そして、そもそも著作物とはならないようなものであれば、引用行為が問題になることはありません。

仮に、
「著作物としての発言」
があったとして、引用する場合であっても、引用が
「公正な慣行」
に合致するもので、批評等の引用の
「目的に従った正当な範囲内」
で行われれば適法とされます。

「公正な慣行」とは、
・引用側と引用される側が明瞭に区別されており
・引用側が主で引用される側が従という主従関係が看取され
・「出所が明示」され
・引用目的に添った必要最小限の引用
を指します。

著作性のある発言を紹介する際、出所を明示しない場合や、発言を適当に変えて発言の意図するところを変えてしまうような場合、著作権侵害(著作者人格権侵害)の可能性が出てきます。

とはいえ、実際には、有名人の発言を引用することが問題になることはまず考えられませんので、ナーバスになる必要はないのではないか、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01747_他社製品と自社製品の比較をする宣伝広告(比較広告)が法的に禁止されていると聞いたことがありますが、本当でしょうか?もし、比較広告が出来るとした場合、どういう点に注意をしておけばよいでしょうか?

景品表示法第5条は、
1 自己の供給する商品・サービスの内容や取引条件について、
2 競争事業者のものよりも、著しく優良又は有利であると、
3 一般消費者に誤認される
表示などを禁止しています(不当表示)。

これを反語的に解釈すれば、競争事業者の商品・サービスとの比較そのものについて広く一般的に禁止し、制限するものではありません。あくまで、特定の表示を規制しているものです。

要するに、
「不当表示」
でなければいいのであり、どのような状況・要件があれば、
「不当表示でない比較広告」
となるのか、を把握しておくべきです。

1 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
2 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
3 比較の方法が公正であること
をすべて満たすような比較広告であれば、問題ありません。

詳細については、
比較広告に関する景品表示法上の考え方

比較広告ガイドラインのポイント
が参考になります。

NGとされる例としては、
1 パソコンの広告で、「この技術は日本で当社だけ」と表示したが、実際は他社でも同じ技術を採用したマシンを販売していた。
2 予備校の宣伝広告で大学合格実績No.1と表示したが、他校と異なる方法で数値化したもので、適正な比較ではなかった。
3 携帯電話通信業者の宣伝広告で、店頭チラシの料金比較で、自社が最も安いように表示したが、実は自社に不利となる割引サービスを除外して比較していた。
4 お酒のディスカウントストアの新聞折り込みチラシで、「この辺で一番安い店」と表示していたが、実際は周辺の酒店の価格調査をしておらず、根拠のないものであった。
という場合が、不当な比較広告とされています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01746_宣伝広告上、競合他社の信用を害する表現を行った場合、どんな法的リスクを発生させるでしょうか?

法的リスクとしては、民事上の責任と、刑事上の責任があります。

1 刑事上の責任

刑事上の責任としては、名誉毀損罪や信用毀損罪が検討されますが、よほどひどい表現でもなければ、実際犯罪が成立するまでもないと判断されたり(可罰的違法性がない)する可能性も高いですし、また、そもそも広告出稿上の障害により、不特定多数に広告表現が届かないこともあります。

信用毀損罪にいう
「人の信用」
とは経済的側面における人の信用を意味し、判例によれば、
「人の支払いの能力又は支払い意思に対する社会的な信頼」
だけでなく
「販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含む」
こととなります。

「あの企業(法人)は資金繰りが悪く、倒産寸前だ」
というような事実無根な情報を流すことや、
「あの企業(法人)の部品はすぐ壊れる」
などの表現がこれに該当します。

2 民事上の責任

もちろん、名誉毀損は不法行為(民法710条、709条)に該当するなどとして、民事上の責任が発生する可能性も考えられます。

経済的信用を害さない場合でも、
「あの企業は、不誠実な企業(法人)である」
など社会的評価を低下させる表現は民法上の責任を追及されることもあります。

3 注意・警戒すべき従業員の不法行為責任に連座させられるシナリオ

気をつけるべきは、企業が組織として公式に競合企業の名誉や信用を毀損しない場合でも、使用者責任という法理(民法715条)を通じて、従業員の個人としての不法行為に連座して責任を負わされる場合がありうる、という点です。

最近では従業員、アルバイトあるいは採用内定者(学生)のSNSによる情報発信、発言が他社の信用を害する可能性があります。

この点について従業員教育等をしておかないと、企業が使用者責任あるいは、自らの過失行為による責任を負う可能性があることに留意する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01745_イベントの様子を撮影した写真を宣伝広告(対外向け企業パンフレット)や広報(社内広報誌)で使用したいのですが、写真に写り込んでいる、当日ご来場のゲスト(芸能人や政治家)について、使用の承諾が必要ですか?また当初想定されていた使用用途以外で用いる場合、再度承諾をもらう必要はありますか?

有名人やタレントの場合は、その肖像には経済的価値があるため、この経済的価値を保護するパブリシティ権との関係が問題となります。

写真を使用する場合には承諾が必要となるでしょう。

イベントの盛り上げ役として、参加だけ、という約束の下、出席のギャラだけ払っていて、後から写真も使う、となると、パブリシティ権の利用の了解がないわけなので、やはり、再度の承諾が必要です。

政治家など、公人として社会の関心を集めている人物については、元々自己の氏名や肖像が大衆の前に公開されることを包括的に許諾したものであって、人格的利益の保護は、大幅に制限されると解し得る余地があるため、一般的にはパブリシティー権の問題は生じにくいですが、例えば、イベントの内容や写真の使われ方によっては人格的利益を損ねる場合もあるでしょう。

公人であっても、念の為、承諾を得ておいたほうが良いかもしれません。

なお、この承諾や了解も、工夫によって、うまいこと徴求することは可能です。

芸能人の場合、ギャラの交渉の際に、写真として使って、広報・宣伝広告に使うことを許諾する、と一文入れておけば問題が解消します。

政治家等の公人を呼ぶ場合も、一般人同様、主催者から予め
「撮影をする場合があり、撮影した写真は弊社の広報や宣伝広告に使う場合がありますので、写り込みたくない方は、参加を見合わせて下さい」
「イベント中に、撮影を行う際は、お声がけさせていただきますので、写り込みたくない方は、フレームアウトの指示にしたがっていただくようお願い申し上げます 」
との告知を出しておけば、クリア可能かと考えられます。

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01744_イベントの様子を撮影した写真を宣伝広告(対外向け企業パンフレット)や広報(社内広報誌)で使用したいのですが、写り込んだご来場者様等本人(一般の方々です)の承諾が必要ですか?

一般的・原則的な議論としては、風景写真などで偶然に写りこんだものの、特段プライバシーに配慮が必要と思えないような場合、当該人物から逐一の承諾を採る必要はない、と考えられます。

ただ、写り込んだ状況や、社会的文脈に対応して、肖像権(プライバシー権としての肖像権)が作用し、この権利の処理のため、同意ないし承諾を得る必要が出てくる場合があります。

肖像権(プライバシー権としての肖像権) とは、むやみに他人に写真を撮影されたり、それを公表されたりしないように主張できる権利です。

プライバシーの期待が働く状況で、かつ、群衆の写真であっても1人ひとりが鮮明に特定できるような場合は、その各人に肖像権が成立する余地がありますので、原則として、その各人の承諾を得る必要が出てきます。

判例も、
「みだりに自己の容貌や姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益を有しており、これは肖像権として法的に保護される」
ことを明らかにしています。

例えば、政治デモやLGBT等のマイノリティグループの集会等の場合、参加者によっては参加したこと自体を内密にしておきたいと考えていることもありますから、同様の配慮が必要になる、というのは理解いただけると思います。

企業が主宰するイベントの場合、イベントの性質として、参加者が
「プライバシーを求める」合理的期待
が働くかどうかがポイントになります。

一般的な日用品に新作発表であればいいのですが、ダイエットのサプリや、抜け毛予防薬の新作発表といった、
「そこの場所にいることをあまり知られたくない」
という期待が働くような場合、事前の同意が求められると考えた方がよいかもしれません(ハイパーセンシティブな方もいるので、面倒であれば、全て同意を取っておいたほうがいい、という判断もあり得ます)。

同意を取る、というと、署名と印鑑をもらって一筆取る、ということをイメージされるかもしれませんが、別にそんな仰々しいことをする必要までもなく、実際はそれほど難しくありません。

「同意を、仕組み上、フィクションとして徴求する(後から文句をいえないような仕組みを通じて、同意を徴求しておく)ような設定」
を取っておけばクリアできるからです。

企業のイベント等の場合、主催者から予め
「撮影をする場合があり、撮影した写真は弊社の広報や宣伝広告に使う場合がありますので、写り込みたくない方は、参加を見合わせて下さい」
「イベント中に、撮影を行う際は、お声がけさせていただきますので、写り込みたくない方は、フレームアウトの指示にしたがっていただくようお願い申し上げます 」
との告知を出しておけば、クリア可能かと考えられます。

もちろん、ぼかしを入れて、
「鮮明に特定」の要件
を外すようなことも想定されますが、写真の出来栄えとも勘案しながら、修正することもアリです。

ただ、絶対
「ヤメといたほうがいい修正法」
というのもあります。

目線を入れることです。

これはプライバシー権の問題というより、おどろおどろしさが半端なく、別の趣旨の集会の写真になってしまうからです。

ま、このあたりは、常識でわかると思いますが。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01743_著作権者に連絡が取れない場合や著作権者がわからない写真を使用する際、どのようなリスクがありますか?また、リスクを避けるるため、あるいは対処するために、どのような対処上の選択肢がありますか?

まず、写真の著作権について、整理しておきます。

あったり前の話から。

「著作物たる写真」
の著作権が生じる場合、著作権者は、被写体(写真に写っている中の人)ではなく、写真を撮影した人です。

ジャニーズのアイドルを撮影した写真は、あくまで撮影者に著作権が生じ、中のアイドルには著作権が生じません。

ただ、中のアイドルのパブリシティ権は問題になります。

著作権法67条から70条には、強制許諾制度が定めれています。

強制許諾制度とは、著作権者の許諾が得られなくても、公益上の見地から政府機関(文化庁長官)が著作権者に代わって許諾を与えて著作物の利用を認める制度です。

「公表された著作物」
を対象として
「相当な努力を払っても著作者に連絡が取れない場合」
は、著作権法67条1項の
「著作権者と連絡することができないとき」
に当たりますので、文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することにより、著作物を使用することが可能です。

「相当な努力を払ってもその著作権者と連絡が取れない場合」
については、著作権法施行令第7条の7に規定されています。

なお、写真に著作権が生じるかどうか、については、今一度確認をした方がよいかもしれません。

前記で
「著作物たる写真」
とカギカッコ付で書いたのは意味があります。

「著作物ではない写真」
という代物もあるからです。

「著作物」
とは、思想又は感情が創作的に表現されているものです。

駅の近くに設置してある自動証明写真や、何の思想も感情もいれずに、ひねりのかけらもない写真については、
「著作物ではない写真」
ということになります。

著作物とされるかどうかは、争われたときに、担当する裁判官の感受性が
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)
と認めるどうか次第です。

なお、裁判官といっても2800名近くいて(簡裁判事を除く)、それぞれ、天下御免・やりたい放題・スーパーフリー・得手勝手に、感受性を自由に駆使して、独自に判断してよろしいという、事になっていますので(憲法76条3項、裁判官職権行使独立の原則)、著作物性が微妙なものですと、裁判官の感受性次第ですし、弁護士の腕がよければ、うまいこと丸め込める可能性なしとはしません。

加えて、古くて、カビが生えてそうな写真ですと、著作権は、著作者の死後50年、または、著作者が不明の場合、公表後50年で消滅している可能性がある、いわゆる
「パブリック・ドメイン(天下の公物として、皆、勝手次第で使える)」
という状態になっていることも考えられます。

とりあえず、写真を使ってみる、というのも実務上ありかな、とも思います。

もちろん、平然と他人の著作権を踏んづける、というのもアレですので、何らかの正当化ロジックが前提になりますが(このあたりは、それこそ“実務的”な知恵となりますので、割愛せざるを得ません)。

その上で、著作権者が名乗り出てきたら、とりあえず、
・この写真、著作物ちゃうんちゃうか? 思想も感情も感じまへんし、ひねりも何もあらしまへんで。
・あんたはん、ほんまに、この写真撮影した著作権者ですか? 証拠ありまっか?
・あんたはんに、どんな損害が生じた、いうんですか? その訳、その理由、その内容、その程度を、きちっと証拠示して、説明してもらいまひょか。
と争う姿勢をみせて、相手がオレてきたら、カネを払って済ませるなり、著作権毎買い取ってもいいかもしれません。

著名写真家でもなければ、損害賠償(民法709条、同法719条、著作権法114条など)が数億とか数千万円になることもないでしょうし、ヘタしたら弁護士費用よりも安い賠償額かもしれません。

要するに、揉めるなら、こちらもこちらとして主張をぶつけて、裁判所の判定を仰いで、判決書を請求書として、考えて、支払い処理をしてもよいのでは、という実務的・戦略的な考え方になりますが、この是非については、コメントはあえてしません。

とはいえ、著作権侵害に対しては、損害賠償以外にも、差止め請求(広告コンテンツを掲載したサイトの削除や、パンフレットの回収および廃棄等・著作権法112条)、場合によっては謝罪公告掲載など名誉回復等の措置の請求(著作権法115条)を受ける可能性があり、舐め腐った態度をとって事態を甘く考えていると、思わぬトラブルになって、足をすくわれることもありえます。

また、故意の侵害で、情状悪質(あまりに舐め腐った態度で、これを見過ごすと、社会としての治安が脅かされる、と判断されるような場合でしょうか)とされた場合、最高10年以下の懲役または(および)1000万円以下の罰金が科されるという可能性(著作権法119条など)もあり、企業だけではなく、その担当者や責任者にも及ぶ可能性があります。

上記シナリオについては、違法性がないことや、仮に違法性があったとしても、故意も過失もなかったことを、きちんと立証できる材料を調えておくなど、十全の備えが前提となりますし、素人が生兵法で、安易に考え実行すると、えらい目に遭うこともあります。

あくまで、頭の体操として、
「良い子はマネしてはいけない、実務家の知恵・奥の手」
としての仮想事例としての紹介ですので、参考にする際にはご留意を。

設例の前提としては、
「著作権者に連絡が取れない場合」

「著作権者がわからない写真」
であって、著作権者が判ってて、しかも連絡が取れるのに、故意、過失で、無断使用となると、上記のシナリオとは使えません。

ちなみに、上記のような無断使用で、裁判になった例としては、
file:///C:/Users/hatanaka/Downloads/20150820_releases.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/082/085082_hanrei.pdf
といったものがあります。

もちろん、原告勝訴の判決ですが、ただ、気になるのは、賠償額が19万とか4万とか2万とか1万とか、しょんぼりするような金額であること。

この判決取るためにどのくらいの資源動員が必要だったのか。

もし、弁護士費用と企業内部資源動員コストを含めて総コストが300万円くらいかかっているとすると(裁判外交渉段階も含めると2年近くかかっているでしょうから、300万円でも足りないかも)、1万円札を10万円で買っているような話で、純粋なコスパだけ考えると、被害者が経済的には惨敗しているわけで、いろいろ考えさせられる事件です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01742_すでに存在している著作物にインスピレーションを得て別の作品を創作する際、どういう場合に著作権侵害になりますか?

思想・感情そのものは保護の対象ではないので、単に着想を得たり、ヒントを得るような程度のものであれば権利侵害とはなりません。

また、既存著作物の題材となっている歴史的又は社会的事実や自然現象について著作したとしてもそのこと自体が著作権侵害となることはありません。

ところで、著作権法27条、28条は、既存の著作物(原作)に、新たな創作性を付与して創作された二次的著作物に関して、二次的著作物についての著作権とは別に、原作の著作権者の権利も別途保護しています。

条文をみてみますと、

著作権法第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
同法第28条 二次的著作物の原著作者の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

とナンノコッチャ、というくらいわかりにくいルールになっています。

畑中鐵丸という作家が
「アンドロメダ銀河からやってきた、愛と平和の弁護士」
というSFロマン小説を書いたとします(かなりつまらなそう)。

この
「アンドロメダ銀河からやってきた、愛と平和の弁護士」
を原作として、ディズニーが映画化しようとする場合(まあ、ないでしょうね)、著作権者である畑中鐵丸は、
「翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有」
していますので、ディズニーのオファーが来ても、
「ヤダよ~。あっかんべー」
と言って、
「どうしても欲しかったら、4000万ドルもって来いや~!」
と言っちゃえる、ということです。

そして、(ディズニーと特段の契約をかわさなかったら、ですが)4000万ドルもらった挙げ句、著作権法28条で、映画版
「アンドロメダ銀河からやってきた、愛と平和の弁護士」(当該二次的著作物)
について同一の種類の権利をもつことになるので、ディズニーの配給と対抗して、パラマウントやユニバーサルやワーナーやフォックスやソニーエンターテイメント等と組んで独自配給できちゃえる、ということになります。

他方で、ディズニーが、話の筋はほぼ同じながら、キャラクターや設定が全く違う、
「大マゼラン星雲からやってきた、自由と正義の税理士」
という映画を作ってきた場合、 これが著作権法27条との関係で、
「翻案」
に該当するか否か問題になります。

この点について裁判例では、
「これ(二次的著作物)に接する者が 既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること」
ができるか否かを中心に判断しています。

改変の程度が甚だしく、既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できない程度まで至っている場合にはもはや翻案ではなく、二次的著作物にも当たらないことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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