01572_株式会社には責任者などおりません(6)_「無責任なバーチャル人間」である株式会社との付き合い方

株式会社と言えば、世間では、
「公器」
などといわれ、信用があるように思われているようですが、見てきた通り、会社とは法律上のテクニックとして作られた幽霊のようなバーチャル人間にすぎず、しかも、会社にかかわる関係者全員、責任を巧妙に回避できるようになっています。

とはいえ、株式会社は資本主義社会における重要なプレーヤーとして、そこらじゅうにあふれていますし、株式会社と付き合わずに経済社会を生きていくことは不可能です。

では、私たちは、
「無責任な幽霊」
のような株式会社とどのように付き合っていくべきなのでしょうか。

1 規模の大きさや知名度やイメージに惑わされない

株式会社と賢く付き合っていくには、その会社の規模の大きさや知名度やイメージに惑わされず、
「株式会社=無責任」という本質を常に意識しておくことです。

一昔前ほどに、世間を賑わした事件で、AIJ事件(年金資産消失事件)というものがあります。

これは、AIJ投資顧問という会社が、高率の運用利回りを謳って年金基金等から多額の資金を集めたものの、調べてみると、運用資産の大部分が消失していた、という事件ですが、投資先は海外のLLCでした。

LLCとは有限責任会社(Limited Liability Company)のことであり、
「有限責任≒無責任」
を当てはめると、すなわち
「(事実上の)無責任会社」
ということを意味します。

海外の、聞いたこともない国にある実体のない
「無責任会社」
に多額のお金を預けて、年金はどこに行ったかわからない、しかも責任の所在が有耶無耶、という話のようです。

年金基金の運用担当者が、
「有限責任≒無責任」
という単純な理屈が理解できていれば、適切な回避行動が取れたとも思われますし、騙した方も悪いですが、騙された担当者も相当問題があります。

2 連帯保証を徴求する

もうひとつ重要なポイントは、このような
「無責任な幽霊」
と取引する際には、
「責任の取れる生身の人間」
から連帯保証を徴求しておく、ということです。

取引先の会社の債権を回収できなくなるのは、その債権が無担保であることが原因といえます。

逆に、会社からの回収ができなくなる恐れを見越して、融資や信用供与等の取引にあらかじめ連帯保証を付けることで回収不能のリスクは緩和されます。

つまり、連帯保証とは、
「無責任な幽霊」

「責任者」
を創設するシステムなのです。

実際、銀行は、連帯保証がついてなければ、カネを貸しませんし、事業会社が金融支援する際は、こういう銀行の行動をもっとマネすべきです。

なお、世間で意外と知られていないのは、
「保証人の数や資格には法律上一切制限がない」
ということです。

「中小企業への融資で連帯保証人を付ける際、社長一人から連帯保証を取っておけば十分」
と考えられているようですが、会社が潰れる際は、社長個人はあちこちの債権者に保証提供しておりますので、イザ、というときには保証はほとんど機能しません。

「保証人の数や資格には法律上一切制限がない」
わけですから、社長だけでなく、その妻や息子、両親、祖父母、妻の祖父母等も連帯保証人として要求したっていいわけです。

連帯保証人は多ければ多いほど取りっぱぐれるリスクも少なくなりますし、社長が
「子供や親に迷惑かけられない」
などと抵抗するようであれば、カネを貸さなければいいだけの話です。

さらに、資力のある人を連帯保証人にするとなおリスクが軽減します。

3 結論

「法律の理屈は、世間の非常識」
であり、世の中、法律の理屈をきちんと理解せず、雰囲気や常識だけで割り切ろうとすると失敗することが多いです。

「知名度のある会社相手の取引だから大丈夫だろう」
「この会社は社歴もしっかりしているから、カネを貸しても安心だ」
「LLCとか格好いい英語が出てくるのは高度なスキームを組んでいる証拠。絶対儲かるぞ」
などという安易な感覚で物事を進めると、思わぬ失敗をする羽目になるのです。

ビジネス社会においては、
「株式会社」
が顔を出さない場面はありませんし、生きていく上では、
「株式会社」
とのお付き合いは不可避です。

男女関係においても、
「付き合う相手をロクに調べず、結婚や深い交際をすると、悲惨な目に会うことがある」
というのと同様、株式会社とのお付き合いの際も、
「株式会社=無責任な幽霊」
ということをきちんと理解し、適切にリスクを回避していきたいものです。

(つづく)

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01571_株式会社には責任者などおりません(5)_会社が倒産しても社長は逃げおおせることが出来る

1 ツッコミその1:「会社が倒産すると社長も仲良く破産することがあるぞ」

前稿で述べたように
「株式会社においては、オーナーも、社長も、経営幹部も無責任」
という趣旨の話をすると、まず、
「でも、中小企業が倒産すると、社長も一緒に破産することがあるでしょ」
という1つ目のツッコミが入ります。

まず、このツッコミについて検証したいと思います。

中小企業において社長が会社と同じタイミングで破産するのは、
「船長が沈みゆく船と命運を共にする」
かの如く、社長が、経営責任を自覚して潔く自害、もとい、破産する、というわけではありません。

破産するのは、社長個人が連帯保証したことにより、その債務を払えなくなるからです。

要するに、社長は“個人”として保証した借金が処理できないため、個人の選択と責任の結果として、破産するのです。

銀行はバカではありません。

銀行員は、
「株式会社=有限責任=無責任」
という仕組みをきちんと理解しております。

資本主義社会で最も優秀で、狡猾で、猜疑心が強いプレーヤーである銀行は、無責任な連中にカネを貸すことはしません。

そこで銀行は、株式会社がつぶれて責任者不在の状況になったときを想定し、社長とかオーナーから連帯保証を取り付けてから、カネを貸すのです。

中小企業において会社がつぶれそうになったら、事前に取り交わされた約束に基づき、社長が連帯保証責任を負わされます。

そして、社長は、この
「個人として負担した責任」
が履行できず、破産させられるというわけです。

銀行は、
「中小企業」

「何とか上場を維持しているようなダメ企業」
に対しては、上から目線で偉そうに
「カネを貸してやる」
という立場を取ります。

しかしながら、トヨタや日本製鐵のような
「財務内容が超優良な大企業」
に対しては、銀行は、米つきバッタのように頭を下げ、
「できれば当行も是非お付き合いをしてください」
と慇懃で卑屈な態度を取ります。

当たり前のことですが、銀行が
「財務内容が超優良な大企業」
にお金を借りていただく際に、
「社長の個人保証をつけてくれ」
などと無礼で非常識なお願いをすることはありません。

したがって、
「財務内容が超優良な大企業」
については、中小企業と違い、
「会社がつぶれても、連帯保証を強要されない社長は、一切責任を負わない」
という状況が生まれるのです。

東日本大震災で原発事故を起こした東京電力も、少なくとも事故以前は
「財務内容が超優良な大企業」
とされてきましたから、東京電力の社長や会長は、銀行から借金するにあたって個人保証を要求されていないでしょう。

したがって、仮に東京電力が破産ないし破綻して、銀行の債権が焦げつこうが、社長や会長の私財が差し押さえられたりすることはなく、また、個人として破産させられることもありません。

2 ツッコミその2:「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」

前述の
「会社が破産しても、オーナーや社長も破産するとは限りません」
に関連して、
「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」
という2つ目のツッコミが入りそうですので、こちらも検証してみましょう。

会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、
「会社が倒産したという結果に基づいて連座して責任を取らされる」
というのではありません。

会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、会社経営において取締役“個人”として明らかな法令違反をやらかしたことによるものです。

すなわち、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、“個人”の違法行為を“個人”として訴えられているだけであり、
「会社が倒産したことに伴って連座させられる」
のとは違います。

以上のとおり、株式会社のオーナーあるいは役員は、会社債務に連帯保証をしたり、個人の行為として法令違反行為でもしない限り、
「無責任」
という状況をエンジョイできる、というわけです。

(つづく)

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01570_株式会社には責任者などおりません(4)_法人とは「バーチャル人間」

株式会社は
「法人」
の代表選手ですが、法人というのは、法務局備え置きの登記簿上でしか確認できない幽霊のような存在に過ぎず、お情けで法律上の人格を特別に認めてあげているものです。

そもそも
「法人」
とは、フツーの人間と違い、法律上のフィクションで人として扱うバーチャル人間のことをいいます。

とはいえ、ご承知のとおり、現代経済社会においては、株式会社は普通の人間様をはるかに凌駕する体格(資産規模)も腕力(収益規模)を有する巨大な存在になってしまっています。

となると、
「こういう巨大な存在のオーナーや運営責任者は、何か問題が起こったら法人に連帯して相当シビアな責任を負うべき」
とも考えられます。

ところが、オーナーもマネージャーも含め、誰も責任者がいない、というのが現実です。

要するに、株式会社とは、
「存在は中途半端だわ、体格もデカく、腕力も馬鹿みたいに強いわ、その上、大暴れして迷惑かけても誰一人責任取らないわ」
と無茶苦茶な存在なのです。

会社が破産しても、社長も連座して破産するとは限りません。

以上のとおり、会社が破産しても、
「“有限責任”しか負わないオーナー」

「ビジネスジャッジメントルールにより免責される社長」
が連座させられて破産の浮き目をみることは、原則としてありません。

(つづく)

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01569_株式会社には責任者などおりません(3)_社長や経営幹部も無責任

「株式会社の株主は無責任」
なんて言い方をすると、
「そりゃ企業のオーナーである株主はそうかもしれないが、社長や経営幹部はそれなりの責任があるでしょ」
なんていわれそうです。

しかしながら、ごく一部の例外的な場合を除き、社長や経営幹部、すなわち会社の取締役といわれる方についても、原則として、経営の失敗に関しては法的には無答責であり会社がつぶれたからといって、
“社長がケツの毛まで抜かれる”
なんてことはありません。

ここで、会社法における
「経営判断の原則」
という法理が登場します。

経営判断の原則、欧米ではビジネスジャッジメントルールといわれる法理ですが、会社のトップたちがヘマをやらかし会社の経営がおかしくなった場合の責任追及の場面で顔を出すものです。

これも学者の先生が書いた小難しい理論的記述をみてみましょう。

曰く
取締役は日常的な業務執行に関して、一定の裁量を有していると考えられている。元来、経営にあたってはリスクが伴うのが常であり、結果的に会社が損害を負った場合に、事後的に経営者の判断を審査して取締役などの責任を問うことを無限定に認めるならば、取締役の経営判断が不合理に萎縮されるおそれがある。そこで、取締役などの経営者が行った判断を事後的に裁判所が審査することについて一定の限界を設けるものとし、会社の取締役が必要な情報を得た上で、その会社の最大の利益になると正直に信じて行った場合には、取締役を義務違反に問わない
なんてことが書かかれています。

この“外国語”もフツーの日本語に“翻訳”しますと、要するに、
「経営に失敗したからといって、なんでもかんでも取締役のせいにしたら、取締役がかわいそうだし、取締役の成り手がいなくなる。なので、よほど悪さをしたのでないかぎり、うっかりチョンボくらい大目にみてやれ」
ということなのです。

(つづく)

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01568_株式会社には責任者などおりません(2)_「有限責任」とは社会常識的には「無責任」と同義

株式会社制度に関して、立派な学者の先生が書いた理論的な説明された文章を探してみます。

すると、こんなことが書いてあります。

曰く、
株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とするものである。かかる目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を小さくできるようにした。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにした
と。

これじゃ、まるで外国語ですね。

受験偏差値65以上の人間でもこんな
「外国語」
を理解できるのはごくわずかでしょうし、一般の方にはまったく理解できないと思います。

そこで、一般の方でもわかるように“翻訳”して解説します。

日本語のセンスに相当難のある学者の先生がこの文章で言いたかったことは、
「デカい商売やるのには、少数の慎重な金持ちをナンパして口説くより、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい。とはいえ、小口の出資しかしない貧乏人に、会社がつぶれた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さない。だから、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしてやるようにした。これが株式会社だ」
ということなのです。

「株主は有限責任を負う」
なんてご大層に書いてありますが、要するに、
法律でいう「有限責任」
とは、会社が無茶なことをして世間様に迷惑をかけても事業オーナーが知らんふりできる、という意味であり、
社会的には「無責任」という意味と同義
です。

ついでにいいますと、
「有限会社」や「有限責任組合」
とは、われわれの常識でわかる言い方をすれば
「無責任会社」「無責任組合」
という意味です。

さらに余計な話をしますと、
「ホニャララ有限監査法人」
とは、
「監査法人がどんなにあり得ない不祥事を起こしても、出資した社員の一部は合法的に責任逃れできる法人」
の意味であると理解されます。

東日本大震災後の原発事故で、日本に甚大な被害をもたらした東京電力も
「株式会社」
という仕組を使って商売をしています。

したがって、あれだけの厄災をばらまいておきながら、東京電力の企業オーナーである株主は一切責任を取らされません。

実際、震災前の東京電力は、超のつく優良企業で、株主は毎年結構な配当を享受しておりましたが、大事故を起こして社会に迷惑をかけても、株主に対して
「損害賠償を負担しろ」
とか、
「去年の配当を返金しろ」
などといわれることはありません。

だからこそ、小銭しか持っていない一般大衆が、電力事業という大きなビジネスに参加できるわけであり、
「”有限責任制度”という偉大な社会制度の発明が、現在の産業社会を創出した」
といわれる所以なのです。

ちなみに、私個人の意見としては、
「原子力発電事業は、有限責任のメリットを享受できない企業体で運営すべき」
と考えています。

例えば、合名会社という企業制度ですが、株式会社と違い、無限責任制度を採用しています。

すなわち、出資したオーナー全員が無限連帯責任を負いますので、こういう組織に原子力発電事業を担わせるのも一計ではないでしょうか。

適当でいい加減なことをやって事故を起こすのは、
「どうせ他人事」
という意識があるからであって、
「失敗したら、関係者全員、手をつないで地獄行き」
という前提であれば、真剣に仕事をしてくれるはずです。

原子力事業の参加資格を合名会社に限定し、東京電力の課長以上の職員全員が合名会社の出資者となる合名会社が事業を運営すれば、安全性が相当向上するのではないでしょうか。

東京電力の課長ともなると年収は1000万円を超えるでしょうし、不景気の時代ですから、無限責任というリスクがあっても、残留を希望する部課長や役員はたくさん出てくると思われますので、案外、うまく機能するかもしれません。

(つづく)

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01567_株式会社には責任者などおりません(1)_責任者不在の組織、株式会社

経済社会においては、
「株式会社」
という存在は欠かせないものであり、皆さんも日常よく耳にされているかと思います。

他方、株式会社という法律上の仕組みは意外と難しく、大学法学部生は
「会社法」
という科目として1年かけて勉強するのですが、それだけ勉強してもなお定期試験で悲惨な成績しか取れない学生が結構多い、という厄介な代物です。

本シリーズでは、この
「株式会社」
という法的制度について、できる限りわかりやすく解説してみたいと思います。

企業不祥事が発生すると、マスコミ等はこぞって、
「企業はきっちり責任を自覚せよ」
「経営者は責任を免れない」
「株主責任を果たすべき」
などと報道します。

しかしながら、結論から申せば、株式会社には、法理論上、責任者不在の組織となっています。

といいますか、株式会社制度自体が、そもそも
「誰も責任を取ることなく、好き勝手やりたい放題して、金もうけができ、もうかったら分け前がもらえるオイシイ仕組み」
として誕生したものなのです。

すなわち、株式会社制度の本質上、
「関係者は事業がヤバくなったら、とっとと逃げ出せる」
ように設計されているのです。

(つづく)

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01566_「『特定手続に関する、非公知の情報や特別の知見や特殊なシキタリ』なるものがあるはず」と愚かにも盲信し、その種の裏技をしつこく求めるクライアントへの“説教”メール_助言メールサンプル

===========================
XX様

お話の概要、拝承しました。

お話をお伺いする限り、XX様の現状は、
「このゲーム性顕著なプロジェクト(「一定の手続きを踏めば、希望の結果が必ず出るような事務ルーティン的な事案」ではなく、「結果が、すべて蓋然性に左右される」という程度の意味です)を、よく理解せずに、素人考えで、甘く、軽く考えて、専門家に相談せずにおっ始められた挙げ句、ドツボに嵌まり込んでいる」
という印象を持ちます。

確か、●●●の段階では比較的自由に●●●できるはずですが、一旦、●●●を●●●すると、●●の変更は極度の難事になる、と理解されています。

この「難事」を「難事」と正しく認識・理解・評価できないまま、楽観バイアスに罹患して、素人判断で安易かつ雑に手続着手したことが、現下の悲惨な状況を招いたグラウンドゼロ(爆心地)と思料します。

XX様は、本手続について、
間違った認識、
間違った評価、
間違った展開予測、
間違った選択、
をしてしまった挙げ句、構造的な欠陥を抱えている可能性が濃厚です。

構造的な欠陥は、根源的原因を正しく認識、評価、理解し、そこをたださない限り、何をやってもうまく改善できません。
一瞬、うまくいきそうなこともあるかもしれませんが、構造や本質は必ず露呈し、長期的・最終的には必ず足を引っ張ります。
下りのエスカレーターを上るのと同様です。
一瞬うまくいっても、持続可能性がなく、いずれ、ダラダラと下がっていきます。
構造的欠陥は、小手先や表層的な技術で修正できないのです。

そもそもの前提に立ち返って、本手続について、認知不全がないか、評価や解釈の誤りがないか、冷静かつ客観的な検証が必要と思います。

なお、小職は、
「オープンソースの情報・知見を所与とし、これに基づき認識把握されるゲームロジック、ゲームルール、プレースタイルを前提とする、法的ゲーム」
については、四半世紀のキャリアがあり、相応の自信がございます。

しかしながら、
「特定手続に関する、非公知の情報や知見やシキタリを前提とする、裏技、寝技、小技、反則技、奥の手、禁じ手、と言ったプラクティス(そのような代物が、法治国家の我が国において存在するとは思えませんが、仮に存在するとして)」
には、長けておりません。

すなわち、
「法と論理と理性を前提に、
正しい状況認知、
正しい状況解釈、
正しい目標設定、
正しい課題の発見・抽出、
正しい試行錯誤、
を基礎にしたロジカルで効果的なゲームの構築と実践を依頼される」
ということであれば、小職としては、控えめにいっても、相当な自信がございます。

しかしながら、
「●●●案件」
という特定事象における、(そのような代物があるとして、という前提で)非公知の情報や特別の知見や特殊なシキタリなるもの
を期待されても、全くお役に立てないと思います。

なお、
「訴訟の帰趨が特定の弁護士の選任によって決定づけられるような『一般の弁護士には知られていない、特定の専門的な弁護士にだけ知られている、訴訟に勝利をもたらすような高い価値と決定的な意味を有する、 特定の知識や専門性や秘密の情報』」
といった類のものについてですが、(下品な独裁国家ならいざしらず)洗練された法治国家たる我が国においては、小職は、都市伝説や迷信に過ぎず、そのようなものは、日本の司法の分野には全く存在しない、と思っております。

そして、本件につきましても、XX様の独善的希望を叶えるような、
「訴訟の帰趨が特定の弁護士の選任によって決定づけられるような『一般の弁護士には知られていない、特定の専門的な弁護士にだけ知られている、訴訟に勝利をもたらすような高い価値と決定的な意味を有する、 特定の知識や専門性や秘密の情報』」
は全く存在しないであろう、と考えます。

本件について、上記のような情報の提供ないし実践を私に期待されても、全くお役に立てない可能性がありますこと、あらかじめご了承下さい。

ちなみに、
「訴訟の帰趨が特定の弁護士の選任によって決定づけられるような『一般の弁護士には知られていない、特定の専門的な弁護士にだけ知られている、訴訟に勝利をもたらすような高い価値と決定的な意味を有する、 特定の知識や専門性や秘密の情報』」
といった類のものは、ひょっとしたらあるかもしれませんが、あるにしても極めて少ないもの(か、もっと端的には、実はまるっきり存在しない駄法螺やデマカセの類の可能性が高いシロモノ)だと思う、というのが、私の所与とする立場、認識です。

ご参考までに、
00674_「ホニャララの訴訟に強い弁護士」「チョメチョメの分野で勝てる弁護士」という話の信頼性
をよくご高覧下さい。

畑中鐵丸拝
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01565_ウソをついて何が悪い(15・完)_「ウソついたら、ハリセンボン級のペナルティ(重罪犯か罰金100億円)」のアメリカその3・終

ディスカバリーで、膨大な資料をめでたく提出できても、まったく安心はできません。

提出した後の方が、もっと大変です。

提出されたこれらの資料に基づいて証言録取(デポジション:deposition)という手続きが行われます。

海外の法廷ドラマで、証人に宣誓をさせた上で、面前に三脚に乗せた小型カメラを設置し録画しながら、凄(すご)腕の弁護士が証言の矛盾点などを突いていくシーン、これと同じことを当局が行うのです。

客観的事実に反する証言や、少しでも矛盾点が出たら偽証罪として刑事罰に問われます。

こちらも重罪、その運用も厳格なのです。

実体的にみて
「本当に罰すべきカルテルがあった」こと
によって処罰されるのではなく、形式的にみて
「単純に矛盾した発言をした」だけ
で処罰されてしまうところに、偽証罪の恐ろしさがあります。

日本においては、偽証罪での立件・起訴は、冗談のように少なく、
「裁判でウソをつかない奴の方がバカ」
ということを国家が認めているのと同じと捉えても不思議ではない状況です。

日本の感覚に慣れていると、証人や弁護士がなぜ偽証罪の恐怖におびえるのか、今一つピンとこないかもしれません。

そこで、アメリカ司法システムの恐ろしさをよくわかっていない海外進出ビギナーの日本企業においては、日本の場合と同じように考えてしまい、ナメてかかった結果、
「そこそこの企業のそこそこの立場にある、およそ犯罪とは縁がなさそうな、知性も教養も品格もある、超エリートビジネスマン」
が、司法妨害という罪で逮捕・拘束される事態も現実に発生し得るのです。

自動車用部品の価格カルテル事件において、名だたる企業が制裁金を課されたことに触れましたが、制裁金だけでなく、逮捕・拘束までされ、計12名が収監された、との報道があります。

捜査手法には対象企業の油断を突いてくるものもあります。

具体的には、サピーナに基づく強制捜査前に、捜査機関が任意で従業員に事情聴取する
「ドロップイン・インタビュー」
という手法です。

「まだ強制捜査に入ってないから」
とのんきに構えていると、当局からインタビューを受けた従業員が不用意な供述をしてしまい、知らない間に決定的な証拠をつかまれてしまう場合もあるのです。

米国では、捜査を受ける側に「秘匿特権」という権利があります。

企業が弁護士から法的助言を受ける権利を保護するもので、企業と弁護士間におけるやり取りの提出を拒むことができます。

すなわち、弁護士を間に介在させておけば、原則、秘匿特権の対象にでき、サピーナやディスカバリーで要求される内容を隠すことができます。

「偽証罪なんて、いわば死文となった法律。黙っているより、煙に巻いた方がいい」
といったやり方が横行する日本の司法環境では、司法妨害を避けるための武器としての
「黙秘権(偽証をしないためには、下手に答えるより黙っていることが一番であることから、重要性を有します)」

「秘匿特権」
は、あまり意識されることもありません。

このため、日本企業では、弁護士を介在させずに、
「司法当局に露見したら一発でアウトになるような司法妨害と疑われる、ヤバすぎるコミュニケーション」
を証拠が残るような形で安易に行ってしまい、その結果、捜査当局の餌食になる原因をどんどん作り出して、どツボにハマりまくっていきます。

米国弁護士資格を持たない法務部長が、ニッポンの感覚で、堂々と司法妨害と疑われる指示を、しかもメールという痕跡が残る形でやらかしていたりして、ツッコミどころ満載の対応をしていて、これがモロバレで万事休す、という企業もあったりします。

こうやって役職員がそこそこ逮捕・拘束されてしまった場合に登場するのが、最近、日本でも導入されて話題になった司法取引です。

刑事訴追が濃厚という理由で拘束された同じ会社に勤める
「人質」
というか
「生け贄(にえ)」
というか
「人柱」
の返還交渉として、罪を認めて制裁金を支払う、という趣の交渉が本質です。

制裁金を支払うことを条件に、DPA(Deferred Prosecution Agreement:訴追延期合意)やNPA(Non-Prosecution Agreement:不訴追合意)を当局との間で締結して、司法省対応は決着……だけでは済まされないのが、この問題の厄介なところです。

制裁金支払によりDPAやNPAが結ばれると大半の者は刑事訴追を免れます。

しかし、一部の役職者については、
「カーブアウト」
といって、刑事訴追を受けること(有罪判決が出れば刑務所に入れられる)を当局から求められることもあります。

ただ、これもどれだけ制裁金を払うか(あるいは、渋るか)によって微妙に変わってくるのです。

罪のカウントの仕方にもよりますが、
「こんだけのカルテルだから1本じゃ済まない」
「もう一声必要かな。よし、もう1本だね」
といった趣の交渉になりますが、独禁法違反等の連邦犯罪の場合、
「1本」
「一声」
の単位が
「100億円(一〇〇ミリオンドル)」
という相場観です。

あまりに渋っていると、逮捕・勾留されている
「人質」
の返還人数や返還時期にも関わってきます。

泣きっ面にスズメバチの大群が襲ってくるようなものです。

以上のとおり、
「ウソに寛容な社会」
「ウソをついてもOK牧場な捜査機関」
「ウソに鷹揚で、心の広い裁判所」
「裁判ではウソつき放題」
「偽証罪が吠えない番犬状態で、裁判でウソをつかない奴はバカ、ということを国家も事実上認めるほどの、ウソつき天国」
なのは、ニッポンに限定した話であり、そんなニッポンから12海里離れた瞬間、
「ウソついたらハリセンボンのまされる」
ようなシビアなペナルティが待ち構えている場合もあるので、くれぐれも注意が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01564_ウソをついて何が悪い(14)_「ウソついたら、「ウソついたら、ハリセンボン級のペナルティ(重罪犯か罰金100億円)」のアメリカその2

アメリカで独禁法違反を疑われた場合、まず、遭遇する特徴的な捜査手法として、
「ディスカバリー(discovery)」
が挙げられます。

一言でいうと、強制的な証拠開示手続です。

日本法においても証拠開示手続がありますが、米国のそれは、日本とは比べものにならないくらい、強力な制裁によって担保され、いい加減なことをすると現実にキッツイお仕置きが課される、強制の契機を内包した、厄介で大変なものです。

ディスカバリーは、合衆国法典第28編1782条に規定されています。

その内容は、連邦地方裁判所は、利害関係人の申立等によって、裁判で用いることになる資料の提出を求める(文書提出命令を発する)ことができるというものです。

提出を求める資料はかなり広範に及び、ボリュームも相当なものになり、企業の担当部署の仕事がしばらくストップするくらい、負荷のある要求事項が課せられます。

まあ、東京地検特捜部の強制捜査や、脱税事件の犯則調査(査察)が始まると、大量のダンボールが持ち出され、引越しのような光景となりますが、
「そのような書類のデリバリを自分たちで任意にやれ。ただし、漏れ抜けなどがあったら、タダじゃおかんぞ」
という感じのものです。

具体的には、会社概要に始まり、カルテルを疑われている関連部署の組織図、カルテルが疑われる取引に関与した者や、その上司まで含めた氏名・役職等の情報開示、そして、取引に関する文書やメールのやり取りといった電子データ、社内でのチャットや電話の通話記録などもすべて提出することが求められます。

契約書、協定書や覚書といった、カルテルの合意が示されている文書だけでなく、そこに至るまでの会議の議事録、果ては、メモやノートなどにまで及びます。

また、純然たる文書だけではなく、図、表、グラフ、写真、マイクロフィルムなども提出対象に含まれます。メールのやり取りだけでなく、ICレコーダーの録音等、音声までもが提出対象になります。

さらに、これらの提出にあたっては、所有、管理、専有といった保有形態は問題にならないとされています。

ですから、例えば
「電子メールは、外部のシステム管理委託先のサーバ保管となっておりますので、提出いたしかねます」
といった対応は、通用しないのです。

考えてみれば当たり前の話で、今どき、カルテルを書面で合意するようなドン臭い企業はありません。

その意味では、価格や数量の合意の存在を基礎づける直接の証拠はなく、捜査機関は合意が疑われる時点から相当範囲のコミュニケーションをつぶさに調べ、間接事実を積み上げないと捜査が前に進みません。

そんなこともあり、途方もない量のコミュニケーションの痕跡の提出を要求されるのです。

複数年にわたる膨大な資料をごく短期間で提出することが求められるため、社内の陣容だけで対応していては、お手上げ状態になります。

弁護士と協議しつつ対応するのはもちろんですが、該当資料を発掘するために専門業者を雇う必要も発生する場合があります。

「サピーナによる文書提出命令」
への不協力、例えば、文書の改ざん、破棄、電子データの削除は、それだけで司法妨害として刑事罰、しかも重罪(フェロニー:felony)に問われます。

「ちょっとくらいなら、ズルやウソもいいんじゃね?」
という
「ウソ天国ニッポン」
のノリで、たまに、全社を挙げて改ざん・隠ぺいするような企業もあるようですが、そんなことをするのは、火にガソリンを注ぎ、ナパーム弾を放り込むくらい、危険でイケナイ行いです。

また、
「聞かれているのは独禁法で、隠ぺいしたのは、明らかに関係性の薄い事項だから、セーフだろ」
という弁解も通りません。

米捜査当局としては、本来のゴールである独禁法違反行為の立証が難しければ、司法妨害という形式的で明快な犯罪を追及し、そこを突破口にして、問題企業をイテコマシてもいいわけです。

すなわち、
「証拠が少なく、立証も面倒な独禁法違反行為」
は、司法取引の際に、
「司法妨害という新たな罪、逃れようもなくバッチリ証明される形で犯してしまった」こと
をネタに揺さぶって、交渉で認めさせてもいいわけですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01563_ウソをついて何が悪い(13)_「ウソついたら、ハリセンボン級のペナルティ(重罪犯か罰金100億円)」のアメリカその1

これまで見たきましたとおり、我がニッポンでは、ウソに寛容で、裁判でもウソはつき放題で、偽証罪すらまともに処罰されることなく、もはや、
「裁判でウソをつかない奴の方がバカ」
ということを国家が暗に認めるような、そんな
「ウソ天国」
です。

では、
「ウソ天国」
は世界の常識で、
「ウソついたとしても痛くも痒くもないし、ウソをつかない奴の方がバカ」
というメンタリティは、世界でも通用するのでしょうか?

答えは、NOです。

完全にNOです。

ここで、アメリカを例にとってみてみます。

「カルテルは違法」
という意識が低く、リスク管理がおざなりの日本企業を狙い撃ちした方が摘発しやすいからでしょうか、米司法省反トラスト局から、独禁法違反のカドで日本企業が狙われるケースが多いようです。

米国政府の意図は不明ですが、自動車部品カルテル等では、名だたる日本企業に、軒並み百億円単位の課徴金が課されています。

しかしながら、今どき、カルテルを書面で合意するようなドン臭い企業はないはずです。

その意味では、価格や数量の合意の存在を基礎づける直接の証拠はなく、独禁法違反を
「合理的疑いを容れない程度にまで」
立証しようとすると、捜査機関は合意が疑われる時点から相当範囲のコミュニケーションをつぶさに調べ、間接事実を積み上げないと捜査が前に進みません。

しかも、このコミュケーションは、当然日本語がほとんどですし、しかも、とかく意味不明で含みのある曖昧な日本語の言語としての特徴に加え、業界特有の符牒等も使われることもあり、アメリカの捜査機関の方々がこのような言語的・非言語的障害を乗り越えて、独禁法違反を
「合理的疑いを容れない程度にまで」
立証するなど、ちょっと想像できません。

ところが、この話には、ウラがあります。

というのは、独禁法違反を疑われた日本企業で、米司法省から、公判手続でガチに争われ、結果、司法省によって、独禁法違反が
「合理的疑いを容れない程度にまで」
立証された、という例はほぼありません(少なくとも、私は、寡聞にして知りません)。

じゃあ、なぜ、多くの日本企業が、独禁法違反をしたとの理由で、軒並み百億円単位の課徴金をされるのでしょうか。

これは、
「独禁法違反をした」
という事実が司法省によって独禁法違反が
「合理的疑いを容れない程度にまで」
立証されたから、ではありません。

多くの日本企業が、独禁法の捜査のプロセスにおいて、
「ウソに寛容なニッポンの捜査手続きや裁判手続き」
のノリで、気軽に、いい加減に、適当にウソをついてしまい、これが致命的なミスとして急所を押さえられ、司法取引において、泣く泣く、あるいは不承不承、
「独禁法違反をした」
という事実を認めさせられるからです。

そして、さらにこの背景には、アメリカの捜査手続や司法手続における、日本とは真逆の、
「ウソ」
を絶対に容認しない、厳しい法制度と法運用実態があるのです。

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