01294_独禁法実務>法人向営業に関する個別法務課題>独禁法実務(フェーズ1)>アセスメント・環境整備フェーズ>法令環境その2

独禁法実務に関係する法令としては、刑法も関わってきます。

例えば談合行為は独占禁止法違反行為として刑事罰が科される場合がありますが、談合行為が
「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」
で行われた場合、刑法の談合罪(刑法96条の6第2項)にも問われることになります。

また、営業・販売活動においてセールストークを行う際、自由競争で許される範囲を逸脱した違法な欺岡行為を行った場合、当該行為が刑法上の詐欺罪(刑法246条)に該当すると判断される場合があります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

企業によっては、流通ネットワークを一挙に拡大すべく、事業モデルとしてフランチャイズ・システムを採用し、短期間に多くのチェーンストア店舗の展開を行う戦略を採用するところもあります。

フランチャイズ契約とは、本部(フランチャイザー)が、事業提携を希望する個人・法人(フランチャイジー)に対して、店舗名称や看板・店舗イメージや商品名称などの商標を使用する権利や、自己の開発した商品を提供する権利や営業上のノウハウなどを統合した無形の営業権(ビジネスパッケージやフランチャイズパッケージなどと呼ばれます)を、定額あるいは売上連動型の対価(ロイヤルティ)にて提供し、統一したイメージやブランドでの営業を展開する契約モデルです。

このフランチャイズ契約に関しては、様々な法律が関係してきます。

自己の商号や屋号を他人に貸与するという点で名板貸責任(商法14条)が生じる場合がありますし、商標の登録や使用許諾については商標法が関係しますし、ビジネスパッケージを構成する各種ノウハウには
「営業秘密」
として不正競争防止法が適用される場合もあります。

加えて、フランチャイズ事業には、中小小売商業振興法が適用される場合があり、その場合、同法11条及び同法施行規則11条により、本部(同法にいう特定連鎖化事業を行う者)は、以下のような事項を記載した書面をフランチャイジーに交付し、当該事項に関する説明を行うことが求められます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

なお、この開示に関する規制は、違反に対して、是正勧告がなされ、是正がなされない場合に公表がなされるという、ソフトな態様となっています。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01293_独禁法実務>法人向営業に関する個別法務課題>独禁法実務(フェーズ1)>アセスメント・環境整備フェーズ>法令環境その1

独禁法実務における課題解決のための関係法令としては、まず、取引基本法たる民法及び商法が挙げられます。

無論、民法・商法の規定の多くは任意法規であり、特約で排除できます。

むしろ、多くの企業は、漫然と民法・商法の適用を前提とした取引構築をするのではなく、競争優位を確立するために、自己に有利な多数の特約を作り出し、契約関係に盛り込んでいきます。

企業の営業・販売活動の法務に関わる重要な法令としては
「経済活動の憲法」
といわれる独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)が挙げられます。

同法は、下記のような内容となっており、私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法を禁止するとともに、事業者団体の規制や企業結合の規制を通じて、公正かつ自由な競争の促進を図ろうとしています。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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なお、独占禁止法の所管官庁は、独立行政委員会である公正取引委員会です。

「独占禁止法」
という語感からは、禁止行為は独占やカルテルだけのように思われがちですが、
「不公正な取引方法の禁止」
を通じて、様々な取引行為に広く規制を及ぼしていることに注意する必要があります。

独占禁止法に違反した場合、当該違反企業に対して、民刑事上の様々な不利益が生じることになります。

課徴金額については、次のとおりです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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独占禁止法の規範としては、法律や公正取引委員会の行為指定だけではなく、公正取引委員会が公表する各種ガイドラインが重要です。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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すなわち、公正取引委員会では、独占禁止法違反を防ぐべく、下記のとおり具体的に企業のどのような行為が独占禁止法違反に該当するのかについて各種ガイドラインを作成し、ウェブサイト上で公表しています。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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01292_独禁法実務>法人向営業に関する個別法務課題>独禁法実務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>課題と対応の基本

本ブログにおいては、事業者対事業者の営業関係(BtoB)が念頭に置かれています。

企業者間の競争というものを考えた場合、対消費者との間で検討すべき様な交渉力の格差等は基本的に存在しないものと考えて構いません。

それにもかかわらず特定の取引行為が禁じられるのは、
「反競争的」
であるためです。

そこには、かかる取引態様を放置しておくことで、競争が促されないために、結局、消費者が損をすることになるという価値観があります。

したがって、どのような取引が独占禁止法上禁じられるのかを考えるためには、そのような取引が続くことで競争が阻害され、一般消費者が損をする可能性があるのではないか、という視点を欠かすことができません。

どのような取引が反競争的として禁じられるのか、という点については、独占禁止法上子細に定められているわけではありません。

独占禁止法違反が疑われた事例を参考に、具体的にどのような事例で法的な問題が生じうるのかは、公正取引委員会において、ガイドラインという形で蓄積されています。

このため、ガイドラインを参照しながら、適切な行動を採ることが求められます。

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01291_独禁法実務>法人向営業に関する個別法務課題>独禁法実務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>概説

「ヒト」「モノ」「カネ」「情報・技術・ノウハウ」
といった各経営資源を調達・運用した企業は、企業内部に
「商品在庫や役務提供のための設備・人員等」
という形で付加価値(未実現収益)を蓄積していきます。

次に、企業は、営業・販売活動によって、これら付加価値(未実現収益)を収益として実現していくことになります。

そして、このような営業・販売活動は、営業相手先(販売先)の属性によって、2つに分類されます。

すなわち、企業が行う営業・販売活動は、相手先が企業の場合(コーポレートセールス)と、消費者の場合(コンシューマーセールス)との2種に大別されますが、それぞれに対して、異なる規制目的から異なる法規制が整備されています。

つまり、コーポレートセールス(法人向営業)に対しては、能率競争、すなわち
「価格と品質による競争」
を活性化させることを通じて国民実質所得を向上させるという目的から、独占禁止法(独禁法)によって反競争的行為が禁止されます。

他方、コンシューマーセールスに対しては、
「企業に比して、情報・取引能力において圧倒的劣位に立たされる弱者である消費者」
を保護することにより消費者と企業との取引の実質的公平を図る、という観点から、消費者基本法、消費者契約法や特定商取引法等の規制が整備されています。

企業の営業活動に関しては、以下のような整理を前提に、
「独禁法実務」
ではコーポレートセールス(法人向営業)とこれに対する規制法である独占禁止法を巡る法務課題について述べていきます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

コーポレートセールス、すなわち営利活動が企業間で行われる場合を考察しますと、当然ながら売手企業・買手企業において、その利害は厳しく対立します。

すなわち、モノやサービスを販売する側の企業は買手に対し、より高く、より大量に、より早期に買ってもらうことを求めます。

他方、モノやサービスを購入する側の企業は、より安く、必要最小限度のみのロットで、必要とされる時期の直前に調達しようとします。

自由主義経済体制下にあるわが国では、契約自由の原則に基づき、このような企業間の取引交渉は、企業間の自主的かつ自由な交渉に委ねられています。

すなわち、より交渉力のあるところが、よりクレバーな対応をしたところが有利な取引条件を勝ち取ることができ、交渉の結果である契約は、自己責任の帰結として法的に双方を拘束するのです。

しかし、営業・販売活動が自由であるとしても、モノやサービスを提供する側がカルテルを形成してお互い競争を回避するような場合や、巨大メーカーが経営規模の小さい問屋や販売店に不当な取引条件を課するような場合は、反競争的行為として、独占禁止法による厳しい規制が働きます。

このように、コーポレートセールス(法人向営業)においては、一方で契約自由の原則が働く反面、公正な競争秩序が破壊され、あるいはその前提が崩れているような場合には、独占禁止法が取引の自由に介入し、特定の反競争行為を排除し、あるいは課徴金を課す形で強制的に修正を加えます。

無論、談合や不正入札に関しては、排除・課徴金といった独占禁止法上の制裁に加え、入札資格の剥奪(指名停止処分)や担当者の逮捕・刑事裁判等の問題、さらには報道機関の報道による企業イメージの低下など、深刻な法務トラブルを招きます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01290_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>2011年特許法改正その4_ユーザーの利便性の向上

01287】の3(4ではなく3)について概説します。

2011年特許法改正においては、特許制度をより使いやすい制度とすべく特許料等の減免制度が拡充されたほか、
「発明の新規性の例外」
に関する規定についても修正が施されています。

新規性とは
「発明が世間一般に知られていないこと」
を意味する特許要件ですが、これは、
「特許権とは、発明者が、“誰も知らない、新たな”発明を公開し、社会に提供したことの対価として与えられる独占権である」
という特許制度の本質に根差す要件です。

とはいえ、新規性要件を厳格に解釈し、ある研究者が新たな発明を完成させた場合において、
「特許権を取得したければ、すぐさま特許明細書等を完成させて出願手続を完遂すべきであり、このような煩瑣な出願手続を先行させず、漫然と学会等で発表したのであれば、未来永劫特許は取らせない」
という過酷な要求を維持すると、それはそれで科学技術の発展の障害となってしまいます。

この点、現行特許法においても、
「刊行物での発表や特許庁長官指定の学会での文書を用いた発表等の特定の発表形態で発表した場合に限っては、当該発表後6ケ月間は新規性を喪失しない」
という新規性の例外要件を設けることでバランスを図っていました。

本改正法では、この新規性の例外要件をさらに拡充し(発表の形態に関する限定を解除しました)、
「発明者として、新規性を維持しつつ、発明完成後、適時にかつ自由に、発明内容を世間に公表したい」
というニーズを充足するようにしています。

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01289_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>2011年特許法改正その3_審決取消訴訟等の手続の合理化

01287】の4(3ではなく、先に4)について概説します。

これまで、無効審判の確定審決に対して審決取消訴訟が提起されるような場合には、裁判の途中で訂正審判が申立てられることが度々ありました。

具体的には、特許庁から無効審判を受けた特許権者が、当該無効審判を争って知財高裁に提訴しておきながら、他方で、特許庁に対して
「(審判により無効と判断された特許を)法的に瑕疵のない請求項(クレーム)」
に訂正する申立てを同時並行的に行うという事例となって現れます。

これは、
「ダブルトラック問題(行政と司法の双方が共同で所管する、という特許権制度に由来する混乱要因)を巧みに利用して、特許無効化という事態を実質的に回避する戦略」
によるものです。

そして、前記のように、知財高裁継続中に訂正審判申立を並行して行って訂正審判が出された場合、
「訂正審判に基づき、知財高裁によって無効審判が取り消される(審決取消判決)」
という事態が生じ、この審決取消判決を前提として、また特許庁において無効審判が再開される、といった形で手続が大混乱に陥ることになります。

この問題の元凶が
「訂正審判の申立てが自由にできる」
という取扱いによるものであったことから、本改正において
「裁判所に審決取消訴訟が係属している間は、特許庁に対して、訂正審判の申立てを行うことができない」
という形で訂正審判申立に合理的制限が加えられることにより、問題の解決が図られることとになりました。

その他、本改正では、審決取消訴訟等の手続の合理化による迅速な紛争処理の実現のため、再審の訴え等における主張制限の規定も設けられました。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01288_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>2011年特許法改正その2_共同発明等における冒認出願の保護

01287】の2について概説します。

特許出願の場面において、
・発明が全くの第三者に盗まれ、発明者に無断で特許出願手続が進められてしまうケース(冒認出願事例)
・企業等において共同で発明を行ったにもかかわらず、発明者の1人を「(単独)発明者」として特許出願手続が進められてしまうケース(共同出願における特許法38条違反事例)
といった事件が発生する場合があります。

以上のような出願行為は、
「真の発明者」
に対する重大な権利侵害であり、かつ、違法無効な出願であることは明らかですが、特許法上、このような事態に対する発明者の権利回復措置はほとんど整備されていません。

無論、上記各事態において、発明者(真の権利者)は、当該違法の特許出願に対して無効審判請求を行ったり、冒認出願者等に対して損害賠償請求をすることは可能です。

しかしながら、当該発明について、ほとんどのケースで出願公開となってしまっており(公開されてはじめて冒認という事態を知ることが多いので、「事態が判明したときにはすでに出願公開されている」という場合がほとんどです)、
「新規性がすでに喪失している」
という理由で、同一発明では、二度と特許が受けられないことになります。

したがって、冒認被害に遭った
「真の発明者」
は、二度とその地位を回復することができないことになってしまいます。

この点、最高裁は、そのような事態は、真の発明者の保護に欠けるとして、真の発明者からの特許権移転登録を認めました(生ゴミ処理装置事件 最高裁平成13年6月12日判決)が、法的根拠が乏しく、
「超法規的措置」
などと評する論者も出てくるほど特異な構成でした。

以上の状況を改善すべく、本改正が行われ、上記の最高裁の措置に、明確な法律上の根拠が付与される形となっています(改正法74条「特許権の移転の特例」参照)。

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01287_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>2011年特許法改正その1_ライセンス契約の保護

特許法改正案が2011年5月31日に可決され、2012年4月に施行されました。

経済産業省による説明によれば、同改正は、

1 事業の安定性を確保するため、企業が社外の技術を活用するために必要なライセンス契約の保護を強化する
2 企業や大学等で一般化している共同研究・共同開発の成果等を適切に保護する
3 中小企業等の負担を軽減するため、知的財産制度のユーザーの利便性向上を図る
4 知的財産を巡る紛争のコストを低減するため、紛争の迅速・効率的な解決を図る
という観点に基づいたものであり、当時の特許法(「当時の」とは、2011年6月1日現在施行されている改正の内容を含まない、との意味で用います。以下、同)に対して大幅な修正を施すものです。

1について概説します。

当時の特許法においては、ある特許のライセンスを受けた者(実施許諾権者)は、自己の実施許諾権を第三者に対抗(権利者であると主張すること)するためには、特許原簿への
「登録」(特許法98条1項)が必要とされています。

簡単に言えば、当時の特許法上、不動産の登記制度のように
「ライセンス契約を受けている(通常実施権を得ている)という権利を公示」
しておかない限り、ライセンサー等以外の第三者に権利を主張できないということです。

具体的なケースでいうと、ライセンサーが、実施許諾を与えた後、当該特許権を許諾権者以外の第三者に譲渡してしまったような場合、当時の特許法においては、当該実施許諾権者が登録をしない限り、特許権を新たに譲り受けた者との関係で侵害者とされる危険がありました。

これが、改正によって、実施許諾権者は、特段登録などをしなくとも、
「ライセンスを受けており、当該特許権を適法に利用することができる地位」
にあることを譲受人にも主張できるようになったのです。

当時の特許法における通常実施権登録制度ですが、
「(登録の)手間がかかる」
という理由から、これまでほとんど利用されてきませんでした。

また、主要諸外国の特許法においては、
「ライセンス契約等により通常実施権を受けた者については、登録がなくとも当該ライセンスを第三者に対抗できる」
と定められていることもあり、日本の特許法でも、改正により、これと同様の取扱いに移行した、というものです。

本改正施行後は、ライセンス契約の締結さえすれば、登録なくして第三者に対抗することができるのですから、例えばM&A等によってライセンサーの地位が移転した場合であっても、問題なく当該特許を利用し続けられるものとなり、実施許諾制度の使い勝手が大幅に増すものと期待されています。

運営管理コード:CLBP384TO386

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01286_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>転職してくる従業員から営業秘密を受ける場合のリスク

不正競争防止法上の要件を充足した企業内機密情報は
営業秘密
として法的に保護されます。

ところで、この
「法的な保護」
の態様については、やや複雑な規定ぶりとなっています。

これは、
「営業秘密」
を取得した従業員が第三者たる他企業に開示する状況としては様々なケースが想定されることから、多数の
「営業秘密」
開示状況における各禁止行為を個別的に列挙していることによるものです。

以下、不正競争防止法における規定に従い、従業員が
「営業秘密」
を不正に取得した場合と、正当に取得した場合とに分けて、営業秘密取得行為が
「不正競争」
となる場合を整理します。

1 従業員が「営業秘密」を不正に取得した場合 

この場合において、当該従業員から
「営業秘密」
を取得したり使用・開示を受けた第三者がどのような形で
「不正競争」者
とされるのかについては、図のとおり整理されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

2 従業員が「営業秘密」を正当に取得した場合

この場合においても、図のとおり、一定の場合、当該従業員から
「営業秘密」
を取得したり使用・開示を受けた第三者が
「不正競争」者
とされる場合もあります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
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ライバル会社から転職してきた他社の
「営業秘密」
に接するような場合、当該
「営業秘密」
を取得等する前後の状況によっては、不正競争防止法違反上のトラブルに巻き込まれる危険が生じます。

特に、
「営業秘密」
の二次取得者に刑事罰(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金又はこれらの併科。法人にも刑事罰として罰金)が科される場合もありますので、ライバル企業から
「営業秘密」
と思われる情報を持参して転職してくる従業員を受け入れる企業は、不正競争防止法の
「営業秘密」
保護の仕組みを十分理解した上で、慎重な対応を行うことが求められます。

なお、営業秘密を持ち出された側の企業(被害企業)は、
「当該営業秘密を漏洩した従業員等を経由して、当該営業秘密を取得し、あるいは使用・開示を受ける企業を、悪意あるいは重過失に陥らせる」
ことを企図して、報道を通じて被害を公表し、あるいは警告を発したりすることがありますので、こうした動きにも十分な注意を払う必要があるでしょう。

運営管理コード:CLBP383TO384

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01285_知的財産法務>知的財産及び情報マネジメント法務。経営資源「チエ」の調達・活用に関する個別法務課題>特殊な課題・新たな課題>企業内従事者が職務上発明・創作した知的財産>職務著作、商標権

職務著作は、職務発明とは逆に、契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、原則として企業が著作者となる扱いになっています(著作権法15条)。

無論、コンピュータ・プログラム著作権についてもこの規定が適用され、エンジニア等が職務上作成したプログラムの著作権は、規則等がなくとも企業に帰属します。

しかし、システム関連発明については特許権を生じる場合もありえますし、その点では、
「プログラム著作権は著作権法15条があるので企業がはじめから所有することになる」
と安易に考え、職務発明予約承継のための規定整備を憚怠すると、職務上開発されたシステムに特許権が生じた場合に取扱いを巡った紛議が起きかねません。

したがって、著作権法15条の確認の趣旨も含めて、システム関連発明が生じた場合の取扱いも適正にルール化した勤務規則を整備しておくべきと考えられます。

さて、従業者が職務上作成したブランドネームに関する商標権については、職務上生じた成果物を企業が承継する制度がないことに注意すべきです。

通常は、従業員が考えた商標出願の対象となるブランドネームやロゴには創作性があり、職務著作として企業が取得することになるものと思われますが、
「創作性があるとは言い難いが識別性がある新商品名」
等については
「著作」
性に疑義が生じえます。

したがって、従業員の商標出願を禁じたり、新しい商品名について第三者が商標出願をすることのないよう、新商品名選定に関与する従業員の機密保持や競業禁止を義務づけるなどの方策をとるべきです。

運営管理コード:CLBP382TO382

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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