02082_ビジネスと法律問題、アプローチの違いを紐解く

ビジネスの現場では、
「正解」
が存在することが多く、その正解を見つけるためのルールや手順が整備されています。

たとえば、新商品の販売戦略を考えるとき、過去のデータや市場分析をもとに
「何をすべきか」
が具体的に見えてきます。

このように、正解に向けて効率的に資源を投入しながら進むのがビジネスプロセスの基本です。

一方で、法律問題には、そもそも
「正解」
がない場合が少なくありません。

紛争が起きたとき、
「どちらの主張が正しいのか」
を決めることができる明確な基準がないこともあります。

その結果、解決の糸口が見えないまま、時間や資金だけが浪費される
「手探り状態」
に陥りやすいのが法律問題の特徴です。

森で道に迷ったときに何が必要か?

法律問題を森の中で迷う状況にたとえると、正解が見えないなかで
「この道だろう」
と選んだ進路が間違っていることに気づくことがあります。

しかし、多くの人は
「今さら引き返すのはもったいない」
と考え、進むべき道が見えないまま、
「これで合っている」
と自分に言い聞かせて進み続けてしまいがちです。

このような状況では、正解にたどり着くどころか、事態がさらに悪化してしまうことも珍しくありません。

そうならないためには、進む方向を見直す勇気が必要です。

そして、
「現在の状況を冷静に理解し、まったく別の視点から問題を考える」
ことが重要です。

「発想次元の転換」とは?

この
「まったく別の視点」
を持ち込むのが弁護士の役割です。

戦いで行き詰まったときには次のような段階的なアプローチが必要です。

・素手の殴り合いが行き詰まれば、刃物を持ち出す。
・刃物での斬り合いで決着がつかなければ、飛び道具を使う。
・地上戦でにっちもさっちもいかないなら、空中戦に切り替える。
・空中戦でも進展がなければ、宇宙から全体を俯瞰して新たな戦略を考える。

法律問題においても、これと同じように、
「これまでのやり方」
を見直し、まったく新しい方法や視点を導入する必要があります。

このプロセスを私は
「発想次元の転換」
と呼びます。

なぜ「間違いを認める」のが難しいのか?

ただし、この
「発想次元の転換」
を当事者に受け入れてもらうのは簡単ではありません。

その最大の障壁となるのが
「プライド」
です。

自分の選択や判断が間違っていたと認めることは、多くの人にとって耐えがたいことです。

これは、独裁者に
「お前は裸だ」
と指摘するようなものです。

あるいは、中世のバチカンで
「地球は動いている」
と地動説を主張した科学者が火あぶりにされるようなもので、間違いを認めるのはそれほど辛く、時に激しい抵抗を伴うのです。

解決しない「付き添い」の選択肢

こうした当事者の抵抗を前にしたとき、別の選択肢もあります。

それが
「問題を解決せずに寄り添う」
というアプローチです。

私はこれを
「ベイビーシッティングサービス」
と呼んでいます。

この方法では、問題を根本的に解決することはできませんが、当事者の安心感を得るために付き添う役割を果たします。

しかし、これはあくまで当事者の感情に寄り添うだけのものであり、問題の本質を解決するものではありません。

状況の改善には繋がらないのが、この方法の限界です。

柔軟な解決策が求められる

法律問題はビジネスのように
「正解」
が明確に見えるものではありません。

そのため、正解がない中で柔軟に対応し、新しい道を切り開く発想が求められます。

このプロセスでは、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
といった多様な戦略が必要です。

弁護士は、状況を冷静に見極め、当事者のプライドや固定観念に配慮しながら、柔軟かつ実効性のある解決策を提示する役割を担っています。

それこそが、法律問題における
「解決」
の道筋なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02081_企業法務ケーススタディ:期限を盾にした交渉術の本質を見抜く

<事例/質問>

ある企業と業務提携をすすめてきましたが、資金面等で話の食い違いが生じ、紆余曲折の末、契約を解除することにしました。

仲介をしたコンサルタントが出向き、契約解除を目指し、交渉を行いました。

ところが、コンサルタントは、先方から以下のような質問を受けてきたうえに、
「先方は怒っている。先方の質問に答えることと、月曜までにカネを振り込めば、私が丸く収めましょう」
と、本社に連絡してきました。

この対応が本当に交渉に必要なのか、先生にご意見をいただきたいと考えています。

以下は、コンサルタントから提示された質問内容です。

1 ●●社に関して
・これまでの交渉の議事録
・問題対策の合意事項と課題
・こちらが示したM月末の契約解除の根拠

2 今後の●●社との交渉に向けて
・誰が事業責任者か
・誰が契約解除を条件にしたのか
・誰が交渉の期限を条件にしたのか
・誰の責任で何が交渉できるのか

以上の内容について、どう対応すべきか、アドバイスをお願いいたします。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

1 時間的冗長性の確保が最優先課題

コンサルタント氏の行動は、交渉でもビジネスでもなく、
「時間」
を人質にした対応です。

そして、当方を焦らせることによって、
「冷静に考え、対処する」
という機会を奪おうとしています。

人間も組織も、時間的冗長性を奪われ、冷静さを失われれば、一時的に、認知機能を喪失し、偏見が助長され、合理的で戦略的に対処する能力が低下します。

この状況は、
「オレオレ詐欺」
に見られる心理的な操作と本質的に同じです。

例えば、
「お母さん、息子さんが交通事故で人をはね、大変なことになっています。このままでは息子さんはエライことになります。いますぐ示談金を振り込めば何とかなるかもしれません。時間がないんです。月曜までなんです。早く早く」
という状況と酷似しています。

2 疑問点を整理する必要性

まず、以下の点について冷静に疑問を整理し、検討する必要があります。

・「月曜まで」の期限は絶対的なものなのか? 延長の可能性は?
・その期限が絶対で、最後の通告であれば、通常は書面で通告されるはずだが、その文書はあるのか?
・期限を徒過ないし遷延した場合のペナルティやリスクやダメージは、何なのか?

コンサルタント氏は、提示された条件や期限について、根拠とデータを明確に示すべき立場にあります。

そうすることで、当方としても適切な判断を下すための資料が整います。

3 具体的な対応方針

当方としては、詳細がわかるまで、指一本動かす必要はなく、
「期限の遷延や、応答の拒否が、具体的にどのようなメカニズムで、どのような具体的な厄災を招くのか、わかるように、根拠と資料を添えて、(あとからすっとぼけたり、弁解を変遷させないよう)文書で説明せよ。
要求に応じないと決定したわけではないし、詳細が判明し、メリットないしダメージの予防に効果的であれば、合理的な対応として、提案に応じる可能性はあるが、現時点では、說明があまりに不確定であやふやなので、暫時留保せざるを得ない」
と言えばいいだけです。

4 結論

先方の主張内容が明らかになってから、その急所となっているところを崩して窮地に追い込めば、こちらが優勢に立ちますが、先方の主張内容が明らかになっていない段階で、急所もわからず、闇雲に、先方に乗り込んで、探偵ごっこするのは、愚策です。

有限で貴重な資源動員のあり方として、賛成できません。

それよりも、まずは
「時間的冗長性」
を確保し、先方に主導権を渡さず、冷静に交渉を進めるべきです。

また、十分な情報を得るまで行動を起こさないという毅然とした態度で臨むべきです。

コンサルタント氏には、文書での説明を求め、交渉のペースをこちらに引き寄せることで、後々の言い逃れや主張の妥協を防ぐことができ、その後の展開を有利に進められるでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02080_企業法務ケーススタディ:法務部人手不足対策、その適否を問う

事例/質問

会社では、
「事業全体のスマート化」
を推進する方針が示されており、社長からは
「業務のスリム化と余剰人員の活用を通じて業務の見直しを進めるように」
との指示を受けています。

しかし法務部では人手不足が深刻で、法務担当者が夜23時まで残業してもなお残務が増え続け、業務に支障が出始めています。

そのため、法務以外の部門からの異動による人員補填も検討しましたが、法務業務のスキル不足が懸念されるため断念し、取り急ぎとして人件費総額を増やさず、固定化リスクも抑えられる3カ月契約の派遣社員を雇うことにしました。

鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南

今回の対応が、
「業務のスリム化と余剰人員の活用による業務の見直し」
という方針に反していないか、確認が必要です。

特に、間接部門での新規採用が本当に必要かどうかを考えるべきです。

御社が目指す
「事業全体のスマート化」
に対して逆の判断になっているのではないかと懸念しています。

もちろん、その判断を踏まえた上で、あえて派遣社員を採用するのならば、それについて否定はしません。

しかし、理解されているとおり、人材には高いコストがかかります。

そのため、派遣社員の採用が場当たり的な対応になっていないかも見極めるべきです。

現状の業務量に応じて人を増やすのではなく、
「その業務がどういう役割を果たしているか、それは本当に意味があるか」
という観点から、根本的に検討することをお勧めします。

例えば、法務部門で行っている法律確認が既に外部の弁護士に委託されているならば、法務部での業務は実質
「文書管理」
といった作業に限られているのではないでしょうか?

それならば、派遣社員ではなく、アルバイトでも可能な業務範囲になっているかもしれません。

もしこのような状況であれば、法務部門を
「現状維持するため」
の採用は、特に慎重に検討が必要です。

社内の人の手不足を
「余剰業務の見直し」
と捉えてみてはいかがでしょうか。

今や、ホワイトカラー業務の多くがICTや外部委託で対応可能となり、スマホ1台で昭和時代のホワイトカラー20人分の生産性を発揮できるくらいの環境です。

まずは、今回の採用が本当に有効なのか、徹底的に
「合理性の検証」
を行うことが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02079_弁護士が語る、民事紛争問題における決意と現実

民事紛争を前にしたとき、弁護士からの見解が
「否定的」
に感じられることがあります。

しかしそれは、
「協力しない」
という意味ではありません。

「困難な状況でもクライアントが覚悟を持って臨むなら、弁護士も全力で支援する」
という姿勢の表れです。

特に複雑でハードルが高い案件であっても、クライアントが意欲を示し、必要な費用や時間を投入する覚悟を持つなら、弁護士はその覚悟に応える準備があります。

当事務所は、紛争対応において真摯であることがクライアントの利益に繋がると考え、常に情緒やバイアスを交えずに、専門家としての経験とスキルに基づいた率直な意見をお伝えすることを方針としています。

民事紛争においては、いくつか注意すべきリスクがあります。

1つ目は、戦略目的が曖昧であることです。
目的が明確でない場合、クライアントと弁護士の解釈がずれやすく、バイアスが働いて信頼関係が壊れてしまうことも少なくありません。

2つ目は、「相手を圧倒して戦意喪失を狙う」といった漠然とした期待です。
紛争において「やってみなければわからない、やれば何とかなる」という楽天的な考えは、現実的な対応とは言いがたく、リスクの要因になります。

3つ目は、その場の「感情」や「空気」によって影響される作戦です。
これに流された作戦は、ロジックに欠け、失敗する可能性が高いといえます。

このように、弁護士が関与する際には、クライアント側にも状況の厳しさと、紛争が必ずしも経済的に報われるわけではないことを理解していただくことが重要です。

また、経済合理性を重視するならば
「あきらめる」
「泣き寝入りする」
という選択肢も存在することを踏まえておく必要があります。

とはいえ、クライアントが
「一矢報いる」
という強い覚悟を持ち、長期戦とそれに伴う時間・コスト・エネルギーの投入を惜しまないのであれば、弁護士もその真剣な覚悟に応える姿勢でサポートに臨みます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02078_民事交渉における主導権の握り方:軍事ルートと外交ルートの使い分け

民事交渉において主導権を握ることは、成功に直結する重要な要素です。

しかし、それは
「先に意図を示唆するメッセージを出す」
ことではありません。

むしろ、交渉の場面では、先に意図を示唆した側が負け、あるいは限りない譲歩を迫られる可能性が高まります。

言い換えれば、
「しびれを切らした方が負け」
という状況です。

交渉の主導権を確保するには、
「軍事ルート(代理人間)」

「外交ルート(本人間)」
を明確に分けて運用することが肝要です。

軍事ルート

・態度:一貫して強固な態度を保ち、こちらからは一切の譲歩やその意思を見せないようにします。
・目的:相手に和解を望んでいないと認識させ、交渉上の譲歩を引き出すことです。

外交ルート

外交ルートはさらに2つの役割に分け、異なる接し方を取ります。

1 事務折衝
・態度:相手にある程度ソフトに接し、「お付き合いモード」を維持します。
・目的:関係維持を重視し、相手に安心感を与えます。このルートは先方も日常業務を進めるために使っていることが多いため、関係を維持する程度の「ややデレデレ」な態度をとります。

2 プロジェクトオーナー
・態度:「ツンツン」とした態度を取ります。ただし、相手が先に明確かつ具体的な条件提示をしてきた場合のみ、「聞いてやらんでもない」という上から目線で対応することです。
・目的:相手に優位性を感じさせないことで、譲歩を避け、主導権を維持します。

ルートの混同を避け、スタンドアロンでの運用を

注意すべき点として、この2つのルートを混同して運用することは避けるべきです。

ルートが混在すると
「軍事ルートでは強気を維持するが、外交ルートでは和平を探る」
という使い分けが難しくなり、先方の暗黙のメッセージが探知しにくくなります(=相手の腹のうちが探りにくくなる)。

それだけでなく、こちらの見通しや腹のうちを相手に読まれ、主導権を握られてしまう危険性もあります。

特に、相手が
「軍事ルート」
ではなく
「外交ルート」
で接触してきた場合は、こちらとしても最大限の警戒が求められます。

「外交ルートと軍事ルートは、それぞれスタンドアロンで運用すること」
を肝に銘じ、慎重に対応しましょう。

ルートの使い分けで交渉を有利に進める

よく見られる事例として、外交ルートの担当者が(これまでの良好な関係などを理由に)うかつに
「話を聞いてやってもよい」
と善意で出てしまい、腹のうちをもらしてしまうことがあります。

これは交渉において
「負け」

「限りない譲歩」
を意味する結果になりかねません。

今まで良好だった関係があっても、ルートごとに異なる役割と態度を明確に使い分けることが肝要です。

ルートごとに異なる態度を巧みに使い分け、
「舌を三枚持って」
パイプラインを複数化することで、慎重に先方の思惑を探りつつ主導権を渡さないようにしましょう。

先方も同様に
「軍事ルート」

「外交ルート」
を採用していることを忘れず、
「腹の探り合い」
を有利に進めることが、交渉戦略の要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02077_法律相談を活かし、継続的なサポート体制を検討する

法律相談(02076)を一度受けた企業が抱く期待として、
「初回の相談だけで全ての疑問が氷解し、問題が解決する」
と思われがちですが、実際にはそれで全てが完結するわけではありません。

法的リスクに備える企業にとって、法律相談は今後の方向性を考えるための重要な一歩であり、その後の対応方法もさまざまです。

例えば、企業が初回相談を経て選択する方向性には、以下の3つが考えられます。

1 「初回相談だけで十分だ」として、今後の継続相談が不要と判断するケース
2 今回の相談内容に関してさらに詳しい改善策を得たいと、弁護士に依頼するケース
3 単発の相談に留まらず、顧問弁護士として恒常的なサポート体制を検討し、見積もりやサービス内容を改めて相談するケース

多くの企業がこのように判断したうえで、将来的な
「恒常的・継続的な法務課題対処リソース」
として、顧問弁護士制度を選択します。

顧問弁護士との関係を築くことで、事業運営上の法的課題を迅速に解決でき、問題が生じた際も相談がスムーズに進むため、無駄な時間やコストを抑えることが可能です。

反対に、初回の相談だけで十分と判断した場合も、
「やはり再度相談したい」
となれば、その時点で一から状況説明をし直す必要が生じます。

これは再び手間とコストがかかることを意味し、後に再相談したくなった場合の無駄なエネルギーや費用負担についても慎重に考えることが勧められます。

当法人としては、相談や依頼を積極的に勧誘する姿勢はとっていません。

その理由は、
「特に顧客獲得や金銭的な問題で困っているわけではなく、ご縁を大切にしたい」
と考えているためです。

ただし、相談を受ける以上、クライアントの態度や意図があいまいで
「継続して依頼したり、相談したいのかどうなのか、はっきりしない状態」
を続くことを強いられることは困る、というスタンスです。

はっきりとした姿勢で相談に臨むことで、より有意義で無駄のないサポートを受けることができましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02076_初回法律相談の主眼

初回の無料法律相談では、相談者に
「法常識と一般常識のギャップ」
を、よく理解してもらうことに主眼が置かれます。

これは医療で言えば、
「自分の病状や病気の概要を、極めて大雑把に認識した」
というレベルに過ぎません。

すなわち、医療という比喩を用いると、
・詳細な病気のメカニズムや
・治療ないし改善すべき課題の特定や
・治療方針(治療方針がいくつかの選択肢に整理出来る場合、各選択肢の功利分析を含む)の策定・把握や
・治療実施
といったところまでは、初回法律相談においては、全く到達しません。

法的なトラブルに関しては、そもそも課題の発見・特定すらできていないまま、ゲームのルールもよくわからないまま(あるいは”知ったかぶり”が災いして)、シビアな状況に追い込まれる方が多い、という特徴があります。

そのような状況を考えると、初回法律相談において、
「法律上の問題の発見・特定ができた」
こと自体は、相応の価値がありますが、これで解決したと安心するのは危険です。

病院で問診を受けただけで
「自分が病気に罹患していることがわかって一歩前進した」
と安堵するのと同様です。

法的なトラブルに関しては、問題の全体像や具体的な対応策にはまだ到達していない段階であり、それがそのまま問題の解決につながるものではなく、問題の本質に取り組むには引き続き検討が必要である、ということです。

また、
「ハインリッヒの法則」
にもある通り、1つの重大事故の裏には29の軽微な事故があり、さらに300の異常が潜んでいるとされます。

この視点から見ても、事業を営む場合、
・ガバナンスの不全
・労働関係(ヒトの取引)の問題
・モノすなわち各種調達取引にまつわる問題
・カネにまつわる問題
・チエやノウハウに関わる問題
・営業取引にまつわる問題
・債権回収にまつわる問題
・会計税務にまつわる問題
その他各種取引プロセスにおいて、
「現状、顕現せざるも、その萌芽が発生している法的に異常な状態」
が存在することも十分想定されるところです。

今後、継続して、相談者の企業経営のありかたや法務の取組の現状を弁護士が把握して、問題ないしその萌芽が発見された場合に、状況に即応し、問題の特定と改善する体制が必要とも考えられます。

無論、
「営業を重視して管理や法務を軽視する」
というスタンスで、法的なリスクマネジメントを充実しない形で経営を継続する方向性も純論理的にあり得ましょうが、事業を可及的永続的に存続させる観点からは、採用しえない方向性と考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02075_M&Aを検討する全ての企業経営者がふまえておくべき教訓

2017年4月、日本郵政は、2015年5月に買収した豪州の大手物流会社、トールホールディングスについて4003億円の特別損失を計上すると発表しました。

買収の際には、のれん、商標権として52億7600万豪ドル(5048億円)を計上していました。

例え話を使って、ざっくりいいますと、5048万円の3LDKの投資用マンションを買ったところ、2年投資運用しても全然家賃収入が入ってこないので、よく調べたら、実は、ボロいワンルームの部屋で、1000万円程度の価値しかなく、4000万円ほど損していたことが判明した、という趣の話です。

経営陣が敗戦の弁を語る様子が、
https://www.logi-today.com/286558
に克明に記されています。

記録って重要ですね。

過去の愚行を克明に記し、未来に向けて晒すことで、歴史に学び、愚行を避け、賢く行動することができる。

上記会見の中から、M&Aを検討する全ての企業経営者がふまえておくべき教訓とすべき印象的なやり取りをピックアップしておきます。

なお、ツッコミどころ満載なので、筆者注、という形で筆者の意見等を付記しております。

――日本郵政は無謀なことをやっている認識があるのか郵便配達と国際物流はまったく別物で、物流をわかってる人はトール社にどれだけいるのか親会社として子会社をきちんとチェックできていたのか。

長門氏:自社にないノウハウを持つ会社を買えるのか、という指摘だと思うが(←筆者注:ノウハウの問題ではなく、土地勘の問題ではいか。)、自動車工場を買ったわけではない 筆者注:自動車工場なみに違う分野ではなかったか。そもそも、土地勘すらなかったことを理解していなかったのではないか)。さらに成長するために、自分たちと近いところを買ったほうがいいのなら買うという判断だった。準備できてから買うというのは順番が逆( 筆者注:準備できていないのに買い物をするからこそ失敗する。それこそ順序が逆)。トール社は自社の事業に割と近いと思っていたので、手を出した。ただそもそも6200億円という買収金額は高かった(←筆者注:「高い」ではなく、「凄まじく高く」、かつ、カモられた、とみるべき)

横山氏素人だから見えることもある(←筆者注:素人だからこそ、鉄火場に来てはダメ)。日本郵便は宅配を手がけているが、トールも豪州の宅配事業が中核事業の一つだ(←筆者注:それほどよくわかっている事業分野というなら、なぜ凄まじい高値掴みをしたり、PMIに失敗したのか?)



――今後も国内外でM&Aを継続するといったが、高値づかみポストマージャー戦略が描けていない証券会社の「カモ」にされている面もある。なぜ日本企業はこんなに買い物が下手なのだと思うか。

長門氏高値づかみは欲がそろばんに勝った場合に起こる(←筆者注:ローンでブランド物買って自己破産する若者じゃないんだから、もうちょっと理性的になるべきだったのでは?)。ポストマージャ―戦略については、買った方の企業も(買われた方と)同じ血を流す気でやらないとできない(←筆者注:買われた方は、新しいオーナーが「どこか遠くの国の、目が節穴の、ド素人」とわかったら、学級崩壊よろしく、サボリまくるもの)

――今回の欲は何だったのか

長門氏「海外もできるといい」ということだったと思う(←筆者注:大きな海外進出は、地味で小さな失敗を積み重ねて、できるようになってから、にすべき)

横山氏自社の身の丈よりも高ければ、身の丈に合うまで待つべきだった(←筆者注:これはその通り。ただ、大きな買い物の前に知っておくべきだった)統合を決めるまでに、シナジーが何なのかを買うまでにはっきりさせる必要があった(←筆者注:結婚して何をしたいか、というのは結婚前に考えておくべき) 。PMIはこれでやるんだということをはっきりさせるべきだった。


「今まで車など見たこともない金を算出する某国の王子様が、はじめて日本にやってきて、人生ではじめて軽自動車をみて、凄まじい便利さに感動し、随行していた通訳兼アドバイザーに相談した上で『その軽自動車を適価で買いたい』と伝えたところ、『持参していた500万円相当の金のインゴットと中古軽自動車とを交換する』という形で話がまとまり、得意絶頂で、母国に軽自動車を持って帰り、2年間乗り回していた。しかし、その軽自動車が時価100万円を下回ることを知り、400万円損したことが判明した」
のと類似した状況が浮かび上がってきます。

値段や相場がよくわからないものを、よく調べないまま、あわてて買って、カモにされた、という話ですね。

以上を、教訓として単純化すれば
1 よくわからないM&Aには手を出さない
2 買った後の投資回収シナリオを考えて買う
3 買ってからどうしたいか、準備できてから買う
4 身の丈のあった買い物をする
5 買い物においては、

 ①「カモ」にされる現実的リスクと、
 ②「ニコニコしながら、揉み手をしながら味方や仲間のふりをして近づき、当事者の横にいて『カモ』にしようとして周囲に蠢いている方々」の存在する現実的可能性、
の両方をわきまえておく
6 5をわきまえた上で、「カモ」にされないようにする

ということになりますね。

以上は、海外にいって、よくわからない骨董や民芸品を買うときの注意点とほぼ同じです。

他方で、ニッポンの社長さんたちは、そういう小さな失敗経験をしたことがないためか、あるいは他人のカネで買い物できる、という気軽さからか、数千億単位で、ロクでもない骨董や民芸品のような企業を買って、取り返しのつかない大失敗をよくされます。

皆さん、気をつけましょうね。

者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02074_弁護士とクライアントの共闘のために必要な情報共有の重要性

訴訟が始まり、相手方から訴状が届くと、弁護士はまず、クライアントに対して相手方の主張に対する反論を求めます。

しかし、この際にクライアントが感じやすいのは、
「弁護士は高い料金を取るのに、自分で何もせず、すべてをこちらに押し付けている」
という不満です。

これは、弁護士とクライアントのコミュニケーションのズレが原因であり、実際には、弁護士はクライアントと共に戦うために、まずはクライアントからの情報提供が不可欠であるという現実があります。

弁護士の役割は、法的知識と技術を駆使してクライアントを守ることですが、事件の事実関係を最もよく知っているのはクライアント自身です。

弁護士が効果的な弁護を行うためには、クライアントから正確で詳細な事実を聞き取る必要があります。

これを
「上工程」
と呼ぶこともできます。

すなわち、クライアントが持つ情報をしっかりと弁護士に伝えることが、訴訟の準備における最初の重要なステップなのです。

弁護士は、クライアントから得た事実をもとに、それらを有利な事実と不利な事実に分けます。

有利な事実については、多角的に分析し、裁判で最大限有利に働くような主張を構築します。

不利な事実については、なるべく目立たないようにするか、または事実の解釈を微妙に変えて、相手の攻撃を防ぐようにします。

つまり、弁護士は情報という素材をもとに、最適な戦略を練り上げる
「完成品」
を作り上げるわけですが、その素材が不十分では、どんなに優れた弁護士でもその力を発揮することはできません。

このため、クライアントには、
「相手方が主張している事実が本当かどうかの確認」
「事実と異なる部分や誤解を招く表現への反論」
「訴訟に関連して伝えたい追加のエピソード」
などを、できるだけ詳細に文書化してもらうことが求められます。これは、ただ単に
「反論を書いてください」
という漠然とした要求ではなく、具体的に何を確認し、何を伝えるべきかを明確にしたうえでのお願いです。

弁護士がクライアントにこのような作業を依頼するのは、決して怠けているわけでも、仕事を放棄しているわけでもありません。

クライアントにしかわからない事実をもとに弁護士が全力で戦うための準備を整えているのです。

「がんばって上工程をやってほしい」
というのは、弁護士とクライアントが一緒になって、訴訟という難敵に立ち向かうための必要不可欠な協力要請です。

このように、訴訟準における情報共有は、弁護士とクライアントの
「共闘」
を実現するための第一歩です。

弁護士が持つ法的なスキルと、クライアントが持つ事実の情報がしっかりと結びついて初めて、強固な防御と攻撃が可能になります。

お互いの役割を理解し、しっかりと協力することで、より良い結果を引き出すことができるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02073_「初手の設計」と戦略的リスクの見極め

プロジェクトにおいて、目的軸の設計、課題の抽出、そしてシナリオ(仮説)や実施上の問題について、まだ明確な責任者が決まっていない時点で、
「弁護士が出る必要はない」
という判断をくだすのは、早計に失するといえましょう。

この
「弁護士が出る必要はない」
という判断が、適切であるかについて一考する必要があります。

具体的には、
“「(弁護士が出るのではなく)クライアント本人が先方に出向いて話を聞く」初手”
が戦略的に正しいかどうか、また、それが誤っていた場合のリスクやその対処については、十分に議論が必要です。

もし戦略として、この
「初手」
が誤っている場合、次のような事態が起こるリスクが考えられます。

1 目的設計や課題抽出、シナリオ策定が不十分なまま、表面的な対応を重ねる

2 その結果、プロジェクトの中盤で深刻な問題が浮上し、計画が迷走する

3 最後には弁護士に全ての修正を依頼し、「初手から相談しておけばよかった」となる

このような事態になると、弁護士としても
「初手の段階で戦略的助言ができていれば」
と感じざるを得ません。

そのため、弁護士がこの段階で関わっていない場合、後から修正に関する期待値を大幅に下げてもらう必要が出てくるかもしれませんし、場合によっては依頼をお断りすることもあるでしょう。

プロジェクトの初動から戦略設計が十分でなければ、クライアントが思わぬリスクを招き入れることになります。

このリスクに備え、
「あの手、この手、奥の手」
など多様な戦略が予め議論されているか、再確認が必要です。

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