02151_顧問弁護士交代という選択:なぜ経営者は、顧問弁護士を“替えたくなる”のか

企業のトラブルや課題というのは、表に出るものもあれば、裏に隠れたままのものもあります。

そして、その中間に揺れ続ける“グレーゾーン”という場所に、とどまり続けるものもあります。

法務の現場では、表に見えるストーリーと、その裏で進んでいる本音や意図が、まったく別の形で動いていることが少なくありません。

たとえば、ある企業の経営者が、長年付き合ってきた顧問弁護士とは別のルートを通じて、私たちの事務所に連絡をくださることがあります。

いわば、“もう一人の弁護士”を持つという行動です。

一体、何があったのでしょうか。

表向きには
「別の観点からのアドバイスを受けたい」
とおっしゃいます。

けれども実際には、それまでの代理人との信頼関係に、どこかで歪みや行き違いが生じていたのではないかと推察できます(依頼者の言動をよくよく観察しなければわからないほど微細です)。

ここで重要なのは、
「裏切り」

「信頼喪失」
といった感情的なレッテル貼りではありません。

むしろ注目すべきは、
「経営者がなぜ別の声を聞きたくなるのか」
という、心の動きのほうだと考えています。

経営者というのは、いつでも孤独です。

社内の誰にも話せないことがあります。

取締役にも言えない悩みを抱えていることもあります。

そして、顧問弁護士に対しても、なぜかうまく伝えきれない
「違和感」
が残ることがあるのです。

これは、法的な専門知識の問題ではありません。

知識や技術で言えば、どの弁護士もある程度の水準は持っています。

違いが出るのは、
「寄り添い方」

「思考の寄り道のさせ方」
なのだと思います。

たとえば、ある企業のトラブルに対して、顧問弁護士は守りの姿勢を貫きます。

けれども経営者は、それだけでは納得しきれない。

何か一歩、踏み出す方法を探しているのです。

そうしたときに、
「他の弁護士にも聞いてみようか」
と思うのでしょう。

この構図は、医療の
「セカンドオピニオン」
に近いかもしれません。

ただし、法務の場合は意見を聞くだけでは済みません。

次の段階として、
「誰が代理人になるのか」
という問題に、すぐ発展します。

つまり、
「もう一人の弁護士」
は、単なる助言者ではなく、
「もうひとつの戦略」
を担う存在として登場するのです。

顧問弁護士が替わるとき。

そこには、経営者自身の“未解決の問い”が潜んでいます。

・今のままでいいのか
・誰を信じるべきなのか
・誰に会社の未来を託すのか

その答えを求めて、経営者は、あの手、この手、奥の手を使って、道を探します。

そして、ときに、それまでの信頼関係に静かに終止符を打つ決断をします。

私たちにできることは、単に代理人として法的手続を代行することではありません。

むしろ、経営者の言葉にならない声を、ミエル化し、カタチ化していくことだと考えています。

弁護士とは、争いを“止める人”ではありません。

経営の判断を“ともに考える人”です。

だからこそ、
「もう一人」
が求められます。

そして、ときにその
「もう一人」
が、いつの間にか
「ただ一人」
になることもあります。

そのような場面こそ、誠実な助言と、文書化された戦略、そして、積み重ねられた対話が、企業の未来を動かす力になるのです。

以上のような感覚は、経営者の顔をもつ弁護士にしか、実感しにくいものかもしれません。

とはいえ、うなずいてくださる経営者や法務担当者も、きっと少なくないはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02150_非公式な話を公式に流されないために、弁護士ができること_情報戦時代の名誉と信用

たとえば、こんな場面を想像してみてください。

あなたのもとに突然、記者から一本の電話がかかってきます。

「そちらの報酬について、不当な要求があったと、当事者の方からうかがっているのですが……」

耳を疑うような内容です。

(そんな話は聞いていない。事実無根。むしろ円満に話が進んでいるはず――。)

ところが、あなたの名を挙げて、そのような発言が記者に伝わっているというのです。

弁護士にとって、もっとも慎重であるべき情報が、外部の口から逆流してくる。

このようなとき、弁護士は、どうふるまうべきなのでしょうか。

引き継ぎの最中、舞い込んできた“記者の言葉”

ある事件で、依頼者が顧問弁護士を辞任させ、後任として著者に白羽の矢が立ちました。

引き継ぎの最中、前任の弁護士から、著者に連絡がありました。

取材記者から、思わぬ発言を伝え聞いたというのです。

「本日、●●社の○○なる記者から、当職の弁護士報酬に関し、依頼者氏が、当職らから不当な要求を受けているなどと述べられた旨聞きました。
少なくとも現在は円満な解決に向けて先生と協議をしている中で、依頼者氏においてそのような対応を取られることについては、甚だ遺憾です。
適切な対応をお願いしたく存じます」
という連絡でした。

前任の弁護士としては、抗議をするべきか、静観するべきか、判断に迷ったことでしょう。

(いったい誰が、何を、どこまで話したのか・・・。)

言葉の断片だけが、記者を通じて逆流してくるのです。

弁護士としての限界と割り切り

著者としては、こう返答するしかありませんでした。

「下記ですが、依頼者氏がメディアその他の第三者にどのような対応をするかについては、我々が関知するものではないと考えておりますし、関知することもできません。悪しからずご了承ください」

情報というものは、完全にコントロールできるものではありません。

特に、当事者が
「話したつもりはない」
と言っている場合、真相の特定は難しいものです。

たとえ事実誤認であったとしても、報道された時点で名誉は損なわれてしまいます。

そして、否定すること自体が、火に油を注ぐ結果になることもあります。

なぜ“情報”が外に出るのか

そもそも、なぜこのような情報が“外”に出るのでしょうか。

著者の経験則として、背景には当事者(今回の場合だと依頼者)の
「心の揺れ」
があると考えています。

依頼者は、メディアに話すつもりはなかったのかもしれません。

しかし、ちょっとした一言が、記者には“裏話”として聞こえてしまう。

あるいは、まったく別の第三者が、伝聞を
「さも本人の言葉のように」
語った可能性もあります。

これは、弁護士であるならば、また事件が大きければ大きいほど、誰にでも起こり得ることです。

非公式な話”が公式に響く時代に

こうした“情報の歪み”に備えるには、交渉や協議のプロセスを、
ミエル化・カタチ化
しておくしかありません。

「言った・言わない」
「伝えた・伝えていない」

そうした水掛け論を避けるためにこそ、やりとりの前提と立場を、あらかじめ文書にしておくことが必要です。

「非公式な話」
がいかに公式に響くか――。

現代の法務担当者にとって、これはもはや常識に近いといえるでしょう。

弁護士が信頼を損なうのは、契約違反をしたときだけではありません。

それ以上に、
「誤解を与えた」
と感じさせたときに、信用は音を立てて崩れていきます。

だからこそ、たとえ協議の最中でも、報酬、交渉経緯、役割分担を丁寧に言語化しておくことが求められます。

言わずもがなですが、口頭の了解も、後から文書で裏打ちしておくことが重要です。

一言”に耐えるための地味な備え

「先生のところ、報酬でもめてるらしいですね」
そんな一言に、耐えうる準備をしておくことです。

たとえば、
・協議の場で取り交わしたやりとりの概要を、メールや議事メモとして残しておくこと
・報酬に関する合意内容を、口頭ではなく書面で明文化しておくこと
・相手の文面が急にそっけなくなったり、語調に違和感を覚えたときには、あえて電話で確認し、感情のずれを整えておくこと
・依頼者の発言に“トゲ”を感じたら、面談の場を設けて、表に出ない不満や誤解を早期にほぐしておくこと
・万が一のメディア対応に備え、社内の広報担当とも情報整理の準備をしておくこと

こうした“地味な手当て”が、あとで効いてくるのです。

そうした備えを、どんなときでも怠らない。

それが、法務のプロフェッショナルに求められる
「ぶれない姿勢」
すなわち、“地味でも続ける”“目立たなくても揺るがない”という意味での姿勢だと、著者は考えています。

そしてもうひとつ。

情報の波を前にして、感情的にならないことです。

怒りたくなることがあっても、反射的に動かず、
「静かに、強く、きっちりと」
対応すること。

それこそが、信用を守る、もっとも実務的なふるまいではないでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02149_弁護士は自動販売機ではない_企業が抱える“丸投げ法務”という病

法務というのは、どこか
「外に頼ればなんとかなる」
と思われがちな領域です。

そして、法については、
「困ったときはプロに任せるべきだ」
というのも、ビジネスの鉄則でしょう。

とはいえ、それは
「任せ方」
さえ間違えなければの話です。

「誰に」
「どう頼むか」
が明確であってこそ、初めて成立するのです。

ある会社が、ガバナンス不全と悪意ある攻撃に直面し、慌てて有名な法律事務所に多額のギャランティを払い、泣きつきました。

「急ぐから、任せる。詳しいことは言えない。カネは払う。好きにやってくれ」

要するに、状況の全体像や問題の本質をきちんと整理できないまま、
「どうにかしてほしい」
とだけ言って、外部の弁護士に丸ごと任せてしまいました。

「“高級”で“有名”な法律事務所だから、この状況を何とかしてくれるのだろう」
そんな期待をこめたのでしょう。

ところが、ガバナンス不全と悪意ある攻撃に直面した会社は、問題が軽減・解決するどころか、さらに複雑化してしまったのです。

丸投げの果てに、時間とカネだけが消える

相手が“高級”で“有名”な法律事務所であればあるほど、クライアントの側から
「段取り」

「設計」
をきちんと示さなければ、対応は空回りし、誤解とズレが積み重なっていきます。

・見た目は頼りになりそうでも、本質が分かっていない
・一見わかってくれそうでも、実際には言いたいことが伝わらない
・お願いすれば助けてくれると信じていたが、実は相手には「理解力」も「戦略性」もない

結局、依頼した法律事務所がやったのは、解決ではなく、“解釈したつもり、動いたふり”だけでした。

戦略がないまま事態は進み、時間とカネだけが失われていきました。

高級リフォーム会社”と同じ構造

“高級”で“有名”な法律事務所というのは、あえて言えば、“高級”で“有名”なリフォーム会社のようなものです。

こちらが明確な設計図や完成イメージを示せば、それなりにカタチにしてくれます。

しかし、
「とにかく急いで。全部任せる」
と依頼すれば、最初の打ち合わせこそベテランが顔を出しはするものの、あとの現場は下請けや新人任せです。

そのくせ、請求だけは積み上がっていきます。

しかも、何がどこまで進んでいるのかも見えにくい。

気づけば、仕上がりは
「思っていたのと違う」。

請求書を見ても
「何にいくら使われたのか、はっきりしない」。

そして、誰も責任を取らない。

“高級”で“有名”な法律事務所も、構造は同じです。

目の肥えた、勝手の分かったクライアントに対しては、それなりに成果を出すでしょう。

しかし、
「とにかく対応を急げ」
とラッシュで丸投げされると、裏では新人が実務を担い、結局、何も解決せず、コストばかりが膨らんでいきます。

「委託」ではなく「統制」へ

企業法務において、
「外注」
は避けられない現実です。

けれども、
「任せっぱなし」
は論外です。

委託するなら、進捗と成果を管理する
「統制」
でなければなりません。

その覚悟がなければ、むしろ外注はリスクでしかありません。

ちなみに、米国の企業では、社内にロースクール経験者や弁護士を置くことが一般的です。

これは、
「丸投げ」
を避け、法律事務所と対等な関係を築くための防波堤なのです。

顧問弁護士も「放っておいていい存在」ではない

顧問弁護士であっても、例外ではありません。

・顧問だから、味方のはず
・顧問だから、こちらの意図を汲んでくれるはず
・顧問だから、リスクは低いはず

そのような期待は、あっさりと裏切られることがあります。

たとえば、先ほどの会社のケースでも、顧問弁護士が機能しなかった場面がありました。

・勝算も準備もないまま、新たに訴訟を起こして敗訴
・不利な状況なのに、無理な差止請求を試みて失敗
・根拠となる事実や資料の調査も不十分なまま進められた

クライアントの要望を“カタチだけ”で受け止め、あとは高級事務所への窓口となって、伝書鳩のように動いただけでした。

当然ながら、意味のある成果を残すどころか、問題は何も解決しませんでした。

「顧問」
という肩書があっても、コントロールを失えば、結局、ただの“外注先”にすぎません。

「うちは顧問がいるから大丈夫だ」
「何かあれば法律事務所に聞けばいい」
弁護士への依存が続くと、社内の判断機能や管理能力は、みるみるうちに弱っていきます。

(経営に注力しなければならないから、と)考えることすら手放してしまう会社は、実は少なくありません。

しかし、丸投げが常態化すれば、依存体質が根づき、会社そのものが機能しなくなっていきます。

気づけば、リスクが社内に蓄積されていくのです。

弁護士は、自動販売機ではない

弁護士は、自動販売機ではありません。

「困っている」
「カネは払う」
「あとは頼む」
と言えば、欲しい成果がポンと出てくる——そんな都合のいい“機械”ではないのです。

外注である以上、むしろ
「管理すべき対象」
であるべきです。

「任せる」には、設計が必要だ

では、どうすればよいのしょうか。

答えは、いたってシンプルです。

「明確な目標」
「戦略」
「実施アプローチ」
「段取り」
「予算」
この5つを、ミエル化し、カタチ化し、言語化し、文書化して、フォーマル化して、弁護士に提示するのです。

それが、“任せる”のではなく“動かす”ための第一歩です。

難しければ、社内の知見を集めて、できるところまで近づけてください。

それでも足りなければ、第三の弁護士に
「設計そのもの(何を、どの順番で、どう進めるか)」
を相談するのも、有効な選択肢です。

弁護士は万能ではありません。

「何をしてほしいか」
がわからない依頼に対しては、動けません。

あるいは、依頼者の想像を絶するような形で
「(先を見越して)勝手に動いてしまう」
のです。

「カネさえ払えば思い通りの成果をもたらしてくれる」
と勘違いしがちですが、むしろ、カネだけ払わされ、現実が何も動かないこともあるのです。

それは顧問だろうが、スポットだろうが、同じです。

動かす力”を社内に持て

法務の仕事は、文書をつくることではありません。

リスクを、コントロールすることです。

「任せて安心」
ではなく、
「任せるために設計する」
のです。

弁護士に、何を、どう頼むか。

弁護士費用は“投資”にもなり、“浪費”にもなり得るからこそ、弁護士を“動かす力”を社内に持つことです。

まずは、目標や段取りなど、依頼の“設計”を言語化することから始めてください。

それが、依存体質を脱却する、一歩目となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02418_キャンペーンの裏にも法あり:年齢、賞金、個人情報─懸賞が企業にもたらす3つの盲点

企業がキャンペーンや懸賞を行う場面は、広報・販促の現場で日常茶飯事となっています。

さて、
「賞金」

「受賞」
というフェーズでは、企業側にとって、思わぬ落とし穴があります。

たとえば、
・年齢確認の抜け落ち
・受賞者が18歳未満だった場合の対応
・賞金の送金に伴う個人情報の取扱い
など、
「見落としがちな論点」
が次々と浮かびます。

そもそも懸賞とは、企業が外部の不特定多数の
「個人」
と関係を結ぶ場です。

個人からすれば、ある日、
「当選しました」
「おめでとうございます」
と、まるでサプライズのように企業から通知が舞い込みます。

それは単なる“通知”ではありません。

その背後には、企業と個人が対話も契約もないまま、法的な関係に入ってしまうという構造があります。

このような構造があるからこそ、企業側には、応募資格の明記や、本人確認、個人情報の取扱いについて、あらかじめルールを定めておくことが求められるのです。

たとえば、あるクライアントから、次のような質問が寄せられました。

「受賞者が18歳未満だった場合、賞金はどうすべきでしょうか?」
「送金時の個人情報は、どこまで取得してよいのでしょうか?」

それに対しては、次のようにお伝えしました。

1 まず、応募時に「18歳以上であること」という資格要件を明記すること
2 さらに、受賞時には「本人確認」をお願いする旨を、注意書きにしっかり記載すること
3 そのうえで、賞金授与に際しては「確認書」にご署名いただく方式をとること

3の
「確認書」
の中で、氏名・住所・送金先を明記し、個人情報の利用目的と管理体制を説明することが大切です、と。

これは、形式だけの対策ではありません。

法的に、説明責任・取得根拠・本人同意といった三拍子がそろう、合理的な対処です。

もうひとつ、忘れてはならないのが
「柔軟性」
です。

もし、
「受賞はうれしいが、個人情報は明かしたくない」
「賞金はいらない」
という受賞者がいた場合は、
「賞金のみ辞退」
という選択肢も用意しておきましょう。

企業側は、このように、あらかじめ“逃げ道”をつくっておくことで、混乱や紛争を防ぐことができるのです。

キャンペーンは、華やかに始まります。

懸賞の場に、法は見えません。

けれども、法のリスクは必ずあります。

だからこそ、
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
この5つの視点で、事前にルールと対応方針を整えておくことが重要です。

“備えている”企業は、
「万が一」
の対策に静かに手を打っているのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02147_投資検討段階における法務DDのリアルな使われ方_ミエル化で十分な“準備段階”の視点

法務デューデリジェンス、通称
「法務DD」。

M&Aやファンドレイズの現場では、欠かすことのできない調査項目のひとつです。

この法務DD、投資検討段階では、どこまで“重”装備する必要があるのでしょうか。

実際の現場での扱われ方は、少々異なっているように思われます。

たとえば、投資案件が持ち込まれ、投資判断が下される前の場面を想像してみてください。

関係者が集まり、利回り、リスク、マーケットの成長性、経営陣の実績など、投資の
「肝」
を徹底的に吟味します。

その一方で、
「法務DDレポート」
はどうでしょう。

おそらく、大半の投資委員会では、そこに書かれた内容が議論の俎上にあがることはありません。

なぜなら、そこに書かれているのは、ほとんどが法律用語と形式的な整備状況だからです。

そして、
「どうせ四大事務所があとでチェックするんでしょ?」
という、ある種の安心感も相まって・・・。

言い換えれば、法務DDは
「刺身のツマ」
「ステーキの上のクレソン」
「オムライスの上のパセリ」
のようなものです。

あれば見栄えは整いますが、それを食べて満足する人は、まずいません。

もし、割烹あるいはレストランで、
「ウチの刺身のツマは有機栽培の大根を使っています」
「このパセリは希少な産地から特別に取り寄せたものです」
などと力説されたら、思わずこう言いたくなるのではないでしょうか。

「いや、そうじゃなくて、料理そのものの味を見せてくれよ」
と。

もちろん、法務DDが無意味だというわけではありません。

むしろ、投資の現場では
「最低限の整備」
が求められます。

そして、それが“見えて”いればよい。
すなわち、
「ミエル化」
されていることが重要なのです。

(誤解をおそれずに言うと、)ポートの中身が精緻であるか否かより、
「きちんと法律事務所のロゴが入っているか」
「それなりの体裁になっているか」
という、いわば“様式美”がチェックポイントになっています。

ここで勘違いしてはいけないのは、
「法務DDは他の評価項目を“補完”しない」
という事実です。

たとえば、
「利回りも低く、事業も冴えないけど、法務DDが完璧だったから投資しよう」
なんて話は、まずありません。

けれども逆に、
「法務リスクはあるけど、利回りが高いから投資する」
という判断は、十分にあり得ます。

法務DDが他の評価項目をカバーすることはありません。

しかし、他の評価項目が法務DDの粗を“帳消しにする”ことはあります。

この“非対称性”を読み違えると、とてつもなく無駄なコストをかけて、結果として、財政が苦しくなり、チームに不協和音が生じる、という悪循環に陥るのです。

だからこそ、投資判断のために法務DDを整える必要があり、しかも、限られた予算しかなく、時間もない、というような現場では、
・既存レポートを活用する
・手間のかかる調査は、ディスクレーマーでスコープ外に
・前段の情報収集は対象会社に依頼する
ムダを省き、あるものを活かし、工夫を凝らして、コストをできる限り抑えることが重要です。 

“投資検討段階”における法務DDは、主菜ではありません。

主菜を引き立てるための
「見た目の整え役」
です。

だからこそ、“ミエル化”されていれば、それで十分です。

過剰なこだわりは、財政も信頼関係も壊しかません。

法務DDを、あくまで
「料理の飾り」
としてとらえる冷静な目線。

それが、“投資検討段階”では、求められているのだと思います
(ただし、投資判断の場面では、がらりと変わることもあり得ます)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02146_突然、警察が会社に来たら―企業としての正しい“構え方”とは?

1 警察から会社に連絡がきたら、まず心がけるべきこと

ある日、警察から会社に電話がかかってきた――。

こう聞くと、
「うちは関係ない」
「そんなこと滅多にない」
と感じる方もいるかもしれません。

けれども実際には、企業が思いがけない形で捜査機関の関心を受けることは、決して珍しくありません。

そして、そんな突然の要請に、現場が慌てて対応してしまうケースは少なくありません。

「突然、警察から電話がありました」
「『一度お話を伺いたい』と言われたんですが、どうすれば…」
こうしたご相談が、企業の現場から寄せられることは、少なくないのです。

・社員の関与した事案
・取引先や委託先で発生したトラブル

または、まったく心当たりがないのに、情報提供を求められるようなケースもあります。

業種や規模に関係なく、企業が思わぬカタチで
「捜査機関の関心」
を受けることはあるのです。

そんなとき、企業としてまず何より大切なのは、
「慌てないこと」。

そして、
「必要以上に協力しすぎないこと」。

警察からの連絡というだけで、
「すぐに答えなければならない」
「言われた通りに資料を出さなければならない」
と感じてしまうこともあります。

けれど、それは早計です。

言い換えるなら、
「慎重に、でも誠実に、冷静に向き合う」
ことです。

この“構え方”ひとつで、企業のリスクは大きく変わります。

事実を誤って伝えてしまったり、不要な資料を出してしまったり・・・。

その“善意の対応”が、あとで大きな問題を引き起こすこともあるのです。

2 受任通知書とはなにか―警察との窓口を一本化する意味

たとえば、ある企業に、生活安全課から連絡が入りました。

「少し確認したいことがある」
「担当者と直接、お話しできませんか」
そうした申し入れに対し、企業の経理部はすぐに顧問弁護士に連絡を入れました。

そして、弁護士から警察署宛に
「受任通知書」
が送付されました。

「受任通知書」
とは、
「今後、この件については、会社の代理人として弁護士が対応します」
という、法的な意思表示を正式に伝える文書です。

いわば、会社としての“対応窓口を一本化する”行為です。

これにより、現場担当者が個別に警察とやりとりする必要がなくなります。

誤解や食い違いを防ぎ、会社としての意思決定を明確にできるのです。

なお、この通知書の中には、資料提出や事情聴取への協力について
「いったん留保する」
旨も丁寧に記載されていました。

これは、
「今すぐの協力は難しいが、無視するわけではない」
という、企業としての冷静かつ誠実なスタンスの表れです。

警察に対してケンカを売るものではなく、むしろ後の混乱を避けるための、最も平和的で、フォーマルな一手なのです。

3 “任意の協力”にどう向き合うか―小さな工夫でリスクを下げる

警察からの要請には、
「任意」

「強制」
の2種類があります。

強制ならば令状が必要ですが、任意の場合には、協力するかどうかは企業側が判断できます。

だからといって、頑なに拒む必要はありません。

ただ、
「なんでもすぐに出す」
ことは避けるべきです。

ここで大事なのは、
「協力しない」
のではなく、
「協力のしかたを選ぶ」
という考え方です。

捜査機関の要請が
「任意」
である限り、企業には対応の裁量があります。

これは、ルール違反でも不誠実でもありません。

むしろ、会社としてのリスク管理の第一歩です。

たとえば、
・やりとりの記録は、電話での対応は避け、できるだけメールや文書でのやりとりに切り替える
・やりとりが避けられない場合は「筆談」を申し入れる
という工夫があります。

少し変わった方法に見えるかもしれませんが、筆談にすることで、会話の内容が“カタチとして”残ります。

誰が何を言ったか、どこまで話したか。

「言った・言わない」
の齟齬を避け、後から検証できる状態をつくるための、有効な手段です。

こうした記録があることで、後日問題になった際も冷静な検証が可能になります。

“あとから振り返れる”状態をつくっておくことこそが、企業の危機管理の基本なのです。

これらは、弁護士がいなくても現場でできる、シンプルな工夫です。

こうした
「現場対応の型」
を、あらかじめ社内で共有しておくことが、じつは一番の予防策なのです。

警察は敵ではありません。

だからといって、過剰に迎合する必要もありません。

企業としての“ちょうどよい構え”を持つことが、誤解を防ぎ、信頼を守る道なのです。

4 社内連携と情報共有―“弁護士の壁”を越えるには社内の動きがカギ

そして、もうひとつ大切なのが、社内での連携です。

子会社が警察から連絡を受けた場合、親会社に報告しないという選択肢はありません。

法務部、内部監査、広報など、関係部門との情報共有は“やるべきこと”ではなく、“やらなければならないこと”です。

「顧問弁護士がいるから安心」
「顧問弁護士がやってくれるはず」
そう思いたくなる気持ちはわかります。

でも、実際にはそうではありません。

顧問弁護士は、あくまでも会社の“後ろ盾”です。

会社自身が何も動かず、情報を上げず、判断を回さずにいては、弁護士も動くことができません。

しかも、顧問弁護士はそれぞれの会社と個別に契約関係を持っています。

守秘義務も会社ごとに発生しており、親会社と子会社の間に“壁”が生じることがあります。

たとえ同じグループ内であっても、弁護士から勝手に情報提供をすることはできないのです。

とはいえ、親会社側の了解があれば、子会社の相談対応や弁護士の紹介が行われることも実務上は多くあります。

だからこそ、子会社側から正式に報告し、親会社としてのスタンス確認や支援要請を“前倒しで”行っておきましょう。

この初動こそが、企業グループとしての対応力を決定づけるのです。

5 供述書は“対立”ではなく“準備”―企業を守る平時の設計図

事態が深刻化する前に、事実関係を社内で整理することは欠かせません。

そこで、備えておきたいのが、供述書の準備です。

「そんな大げさな…」
「まさかうちが…」
そう思うかもしれません。

けれど、企業のトラブルは“予告なし”にやってきます。

関係者の記憶が新しいうちにヒアリングを行い、書面として残す。

“なんとなく記憶にある範囲で”ではなく、できる限り正確に。

そして、証拠となる資料と照らし合わせながら、“カタチある文書”に落とし込むことが大切です。

誤解のないようにお伝えすると、供述書は“捜査との対立”を目的としたものではありません。

むしろ、正確な事実を整理し、企業が“間違った方向に巻き込まれない”ための防御策です。

そして、こうした準備ができている企業は、たとえ強制捜査や報道があっても、ブレずに対応できます。

内部が動揺せず、外部に説明ができる。

そして、万が一、強制捜査や報道などが発生した場合には、こうした準備の有無が、その後の命運を大きく分けることになるのです。

その差は、まさに
「備えていたか、いなかったか」
に尽きるのです。

企業として、丁寧に、でも毅然と、対応の
「型」
を持つこと。

「ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化」
それこそが、企業としての“リスク感度”であり、“平時の準備力”なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02145_ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が、経営を守る_05法務の沈黙が、経営判断を狂わせる―議事録に“口を出さない”リスク

ある会社での話です。

経営会議の場で、役員のひとりがこう言いました。

「この案件、正式な契約はまだだけど、先に動いてしまおう」
「一昨日、ゴルフに行ったんだけど、先方のトップ以下3名が了解してたから、大丈夫でしょ」

その場では、誰も強く反対せず、話は流れていきました。

法務担当者も出席していましたが、何も言いませんでした。

そのやり取りは、議事録にも残されませんでした。

ところが数か月後、その取引をめぐってトラブルが起きました。

取引先は、
「正式契約前に勝手に着手され、手付金まで請求された」
と主張し、損害賠償の話にまで発展したのです。

社内での検証では、当時の会議で
「誰が何を言い、誰が了承したのか」
が問われましたが、議事録には何も書かれておらず、会社として説明責任を果たせないまま、対応が後手に回ってしまいました。

法務担当者はこう言いました。

「会議では特に意見を求められなかったので、発言しませんでした」
「議事録についても、事務局から確認依頼はなかったので、見ていません」

このように、
「求められない限り、黙っている」
という姿勢は、結果として、
「経営判断を誤らせる沈黙のリスク」
を生みます。

法務の仕事とは、ただ契約書を見るだけではありません。

会議でどのような議論が交わされ、どのような決定がなされ、それがきちんと形になっているか。

その一連のプロセスを、
「見て」
「気づいて」
「整える」
ことが求められます。

法務とは、判断に対するブレーキ役であると同時に、合意形成を支える舵取り役でもあります。

その法務が、
・議事録に関与しない
・会議にもコメントしない
・議論の流れにリスクを感じても、指摘しない

そうやって
「沈黙」
が続くうちに、組織の中に
「見えないリスク」
が静かに積み重なり、やがて大きなリスクとして表面化するのです。

たとえば、以下のような議事録は、法的にはきわめて危ういものになります。

・発言者が明記されていない
・誰が了承したかが不明
・リスクに関するコメントが記載されていない
・反対意見や留保意見が「なかったこと」になっている

こうした議事録は、後から見れば
「誰も反対していなかった」
「全員が合意していた」
という“決まったこと風の記録”になります。

何も問題提起されないまま、“全員が納得して進んだ”ように見える議事録が残るのです。

しかしそれは、実際の議論とは異なる
「記録上だけの合意」
にすぎません。

これでは、仮に社外から指摘が入ったときに、会社として
「検討の痕跡」

「留意点」
を示すことができません。

結果的に、
「リスクを放置した」
「なぜ誰も止めなかったのか」
という追及を受けることになります。

議事録は、会議の内容を記録するためだけのものではありません。

企業法務の視点から見れば、
「経営判断の軌跡」
「意思決定の根拠」
「責任の所在」
を残す、きわめて重要な文書(証拠)です。

法務の役割は、
「問題が起きてから対応する」
のではなく、
「問題が起きないように、手を打つ」
ことにあります。

そして、リスクへの先回りは、
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
によって実現されます。

1 ミエル化:どこにリスクがあるかを見抜く
2 カタチ化・言語化:それを、他の部門にも伝わるかたちで表現する
3 文書化・フォーマル化:議事録や会議資料として明記し、説明可能なかたちにする

つまり、会議の中に埋もれているリスクを、記録というかたちで
「ミエル化」
するのです。

それが、法務が経営に貢献できる最大の力です。

とりわけ、次のような局面では、法務がきちんと
「見て」
「指摘して」
「残す」
ことが求められます。

1 契約リスクが含まれる発言があったとき
2 未確定事項が“了承されたこと”になっているとき
3 決定に対する根拠や異論が省略されているとき
4 議事録の内容と、実際の議論に齟齬があるとき

だからこそ、法務は議事録に関与しなければなりません。

・会議で気になる表現があれば、その場で確認する。
・会議の後には、法務部門が議事録にきちんと目を通す。
・議事録にあいまいな記述があれば、レビューを入れる。
・決まっていないことが、あたかも決まったように記されている場合には、必ず差し戻す。

こうした“ひと手間”が、未来のコンプライアンス違反や訴訟リスク、株主・監査対応の火種を防ぎます。

反対に、その“ひと手間”を惜しめば、
「記録に残っていない=存在しなかったことになる」
という事態になりかねません。

黙っていても、誰も気づきません。

しかし、黙っていたことで、後から全体が責任を問われます。

だからこそ、法務は黙っていてはいけないのです。

会議体にもしっかり関与する。

議事録にも目を光らせる。

記録は、経営の実務を支える土台です。

その小さな積み重ねが、組織を動かし、経営を守る力になるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02144_ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が、経営を守る_04会議で決まったのに動かない組織―原因は“やらない議事録”にあった

ある会社での話です。

その会社では、毎週定例の会議が開かれており、さまざまな課題が持ち寄られ、活発な意見交換が行われていました。

プロジェクトの遅れ、顧客対応、業務フローの見直し、取り上げられる議題は毎回盛りだくさんで、会議時間も足りないほどでした。

ところが、数週間後に同じ会議が開かれると、また同じ議題が俎上に載ってきます。
「それ、前回も話したよね?」
「いや、それって、結局どうなったんだっけ?」
そんなやり取りの中で、会議は再び“確認と雑談”に終始してしまいます。

たしかに、会議では
「話し合い」
はされています。

けれども、実際には何も決まっておらず、プロジェクトは進まない。

あるいは、
「決まったはずのこと」
が動かない。

あるいは動いているはずなのに成果が見えない。

これは、まさに企業の現場でよく見られる、決まったのに、動かない組織の典型例です。

この原因のひとつが、会議や議事録の形骸化です。
・議事録が「会議の記録」にとどまり、実行につながらない(=報告メモ)
・議題の優先順位が整理されていない
・決定事項と検討事項が混在し、曖昧なまま残されている
・「誰がやるのか」「いつまでにやるのか」が記載されていない

このような状態では、会議とは
「話したことで満足して終わる場」
になってしまいます。

そして、議事録とは、その満足感を記録したメモにすぎなくなってしまうのです。

まるで、
「検討中の棚」
に書類を積み上げているようなものです。

その場ではたしかに話し合われているように見えても、誰も責任を持って“取りに行かない”棚が、日に日に増えていくだけなのです。

では、どうすればいいのでしょう。

実務の記録を根本から見直す視点で言えば、
「記録とは、“話したこと”ではなく、“やること”を書くもの」
と言えるでしょう。

要するに、議事録とは、
「会議で何が話されたか」
を記すものではなく、
「これから何がなされるべきか」
「誰が動くべきか」
を明記するための
「実行設計書」
でなければならないということです。

たとえば、社内会議で
「来月中に新サービスの企画案をまとめよう」
という話が出たとします。

このまま議事録に一文だけ書いても、プロジェクトは動きません。

そこに、
・誰がリーダー(責任者)となるのか
・誰が協力メンバーか
・初稿の提出期限はいつか
・その後のレビューと承認の流れはどうするか
といった情報が明記されて、はじめて
「動く記録」
となります。

「決まったのに進まない会議」
とは、
「決まったようで、実は決まっていなかった会議」
です。

つまり、“決まった感”のまま会議を終えてしまう組織には、実は“決定事項”が存在していないという現実があります。

決定事項として記録された内容が、実は誰の責任でもなく、期限もなく、ただ言葉として置かれているだけ。

そうした会議は、やがて動かない組織をつくり出します。

では、どうすればよいのでしょうか。

ここでもやはり、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化の“5化”が大切です。

・ミエル化:議題や論点が整理され、参加者に可視化されているか
・カタチ化・言語化:意思決定が抽象的な言葉ではなく、具体的な行動指示に言い換えられているか
・文書化・フォーマル化:誰が、いつまでに、何をするのかが文書として明記されているか

たとえば、以下のように記録されていれば、議事録はもはや単なる記録ではなく、責任の設計図となります。

1 〇〇マネージャーが、新サービス企画案のリーダーを務めることを了承
2 協力メンバーは、△△部□□課のA、B、Cとする
3 初稿の提出期限は、〇月〇日(月)を目安とする
4 提出後、部長レビューを経て、第1週目の全社会議で承認を目指す

このように書かれた議事録は、もはやただの記録ではありません。

プロジェクトの責任と期限を記した
「実行計画書」
になっているのです。

誰が読んでも、
「何を」
「誰が」
「いつまでに」
やるのかが明確です。

そして、それこそが、組織が実行に移るための最低限の設計なのです。

動かない組織に共通するのは、
「会議が多い」
「会話が多い」
「けれども動かす仕組みがない」
という点です。

「動く組織」
には
「仕組み」
があります。

この仕組みは、形式的なマニュアルではなく、議事録の中で責任と期限を明確にする“ひと手間”です。

そのひと手間が、実行を生み、成果を生みます。

だからこそ、議事録は
「責任の設計図」
でなければなりません。

そして、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化の“5化”が、それを実現する最も実務的な手法なのです。

会議を動かし、組織を動かすのは、言葉ではありません。

言葉を記録し、責任と行動にまで落とし込む“5化”の技術こそが、企業の経営を静かに、そして確実に支えていくのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02143_法務デュー・ディリジェンスのプロセス詳細分析

法務デュー・ディリジェンス(法務DD)は、M&A、投資、事業再編などの取引において、対象会社や対象事業ないし取引の法的なリスクや課題を洗い出すために実施される重要なプロセスです。

ビジネス弁護士にとっては、普段、何気なくやりはじめ、なんとなく形にして、終わらせてしまいがちな法務DDのプロセスを、理論的かつ段階的に分析・整理してみます。

フェーズ1:準備と情報収集

  1. 状況の痕跡が残っている資料やデータの推察:
    • 目的: 対象会社の事業内容、組織構造、過去の取引、紛争履歴など、法的なリスクや課題を示唆する可能性のある情報源を初期段階で特定する。
    • 分析:
      • 対象会社のウェブサイト、公開情報(プレスリリース、IR情報など)の調査。
      • 業界動向、競合他社の状況に関する情報の収集。
      • 過去の類似取引における法務DDの経験や知見の活用。
      • 依頼者からの事前情報(対象会社の概要、取引の目的、懸念事項など)の確認。
    • 推察される資料・データ例: 会社概要、組織図、事業報告書、過去の契約書リスト、訴訟・紛争の記録、ニュース記事、業界レポートなど。
  2. 資料のリクエスト:
    • 目的: 推察された資料やデータ、および法務DDに必要な網羅的な資料リストを作成し、対象会社に提供を依頼する。
    • 分析:
      • 標準的な法務DD資料リストを基礎としつつ、対象会社の事業特性や取引の目的に合わせてカスタマイズ。
      • 各資料の重要度、入手可能性、レビューの優先順位を考慮。
      • 機密保持契約(NDA)の締結状況の確認。
      • 資料の提出期限、提出方法(物理媒体、データルームなど)の指定。
  3. 資料の収集:
    • 目的: 対象会社から提供された資料やデータを適切に受け取り、管理する。
    • 分析:
      • 受領した資料のリスト作成と管理。
      • 不足している資料や不明な点があれば、対象会社に確認・再依頼。
      • 機密性の高い資料の取り扱いに関するルール遵守。
  4. 収集した資料の整理秩序の構築:
    • 目的: 大量の資料を効率的にレビューするために、論理的かつ体系的な整理方法を確立する。
    • 分析:
      • 資料の種類(契約書、登記簿、許認可、訴訟関連資料など)に基づく分類。
      • 日付順、取引先別、事業部門別などの属性に基づく分類。
      • 重要度やリスクの可能性に基づく優先順位付け。
      • デジタルデータの場合は、フォルダ構成、ファイル命名規則などの設計。
  5. 構築した整理秩序にしたがったファイリング:
    • 目的: 整理秩序に基づき、収集した資料を物理的または電子的に格納する。
    • 分析:
      • 物理ファイルの場合は、ラベルの作成、バインダーへの綴じ込みなど。
      • 電子データの場合は、フォルダへの格納、ファイル名の修正など。
      • アクセス権限の設定(必要な担当者のみがアクセスできるようにする)。
  6. 資料の第一次閲読(ラフレビュー)による第二次閲読(精読)方針の確立:
    • 目的: 収集した資料全体を迅速に把握し、重点的にレビューすべき資料やリスクの高い領域を特定する。
    • 分析:
      • 資料のタイトル、概要、主要条項などを中心に目を通す。
      • 契約期間、契約金額、解約条項、知的財産権、係争の有無など、リスクを示唆する可能性のあるキーワードや項目に注目。
      • 第一次閲読の結果に基づき、第二次閲読の対象範囲、レビューの深さ、必要な専門家の検討などを決定。
      • レビュー担当者への指示や役割分担。

フェーズ2:事実認定と体系化

  1. 第二次閲読(精読)の実施:
    • 目的: 第一次閲読で特定された重要資料やリスク領域について、詳細な内容を確認し、事実関係を正確に把握する。
    • 分析:
      • 契約書の各条項、議事録の詳細、訴訟関連書類などを精査。
      • 契約不履行、債務超過、知的財産侵害、環境汚染、労働問題など、潜在的な法的リスクや課題を特定。
      • 不明な点や追加確認が必要な事項を記録。
  2. 事実概要の全体像の把握:
    • 目的: 第二次閲読で得られた個々の事実を統合し、対象会社の法的な状況全体の概要を理解する。
    • 分析:
      • 事業内容と関連法規の適合性。
      • 契約関係の全体像と主要な契約条件。
      • 過去および現在の紛争状況。
      • 許認可の取得状況と有効性。
      • コンプライアンス体制の整備状況。
  3. 事実・状況の摘示・体系整理ロジックの構築:
    • 目的: 把握した事実や状況を、後の分析や報告に活用しやすいように、論理的かつ体系的に整理するための枠組みを構築する。
    • 分析:
      • リスクの種類別(契約リスク、訴訟リスク、コンプライアンスリスクなど)の分類。
      • 事業部門別、地域別の分類。
      • 時系列順の整理。
      • 重要度、金額規模などの観点からのグルーピング。
  4. 事実・状況の摘示・体系整理:
    • 目的: 構築したロジックに基づき、第二次閲読で抽出された事実や状況を整理・分類する。
    • 分析:
      • 各事実について、関連する資料、日付、当事者、内容などを明確にする。
      • 事実間の関連性や相互作用を考慮。
      • 整理された情報をデータベースやスプレッドシートなどに記録。
  5. 摘示・体系整理した事実・状況のミエル化・カタチ化・言語化(定性化)/数字化(定量化):
    • 目的: 整理された事実や状況を、視覚的に理解しやすく、かつ具体的な言葉や数値で表現する。
    • 分析:
      • 図表、グラフ、マトリックスなどの活用による可視化。
      • リスクの程度、影響範囲、発生可能性などを定性的に記述。
      • 潜在的な損害額、訴訟費用などを定量的に算出(可能な範囲で)。
  6. 摘示・体系整理した事実・状況の言語化・文書化/データ化・明確化・明白化:
    • 目的: ミエル化・カタチ化された情報を、報告書などの文書形式やデータ形式で記録し、内容を明確かつ明白にする。
    • 分析:
      • 各事実について、簡潔かつ正確な説明文を作成。
      • 関連する資料への参照情報を付記。
      • データ形式で記録する場合は、分析ツールで活用しやすい形式を選択。
  7. 摘示・体系整理した事実・状況のフォーマル化:
    • 目的: 文書化・データ化された情報を、正式な報告書の一部として組み込むために、体裁や表現を整える。
    • 分析:
      • 報告書の構成に合わせた情報の再配置。
      • 専門用語の適切な使用と解説。
      • 客観的かつ中立的な表現の採用。

フェーズ3:法的分析と評価

  1. 事実・状況に適用され、あるいは障害・課題となるべき法規範の初期検討(あたりをつける):
    • 目的: 整理された事実や状況に対して、関連する可能性のある法律、判例、規制などを初期段階で予測する。
    • 分析:
      • 対象会社の事業内容、業種、所在地などに基づいて、関連法規の候補をリストアップ。
      • 過去の類似事例や判例の調査。
      • 法務DDチーム内の専門知識や経験の活用。
  2. 事実・状況に適用され、あるいは障害・課題となるべき法規範の発見・特定:
    • 目的: 初期検討を踏まえ、具体的な事実や状況に直接的に適用される、または潜在的な障害や課題となる可能性のある法規範を特定する。
    • 分析:
      • 契約内容と関連する契約法、民法などの検討。
      • 事業活動に関連する業法、規制法の検討。
      • 労働関係に関する労働法規の検討。
      • 知的財産権に関する知的財産関連法の検討。
      • 環境問題に関する環境関連法の検討。
      • 訴訟・紛争に関連する民事訴訟法、刑事訴訟法などの検討。
  3. 関連法規範に関する公的資料の調査・発見(オープンソースデータベースによる):
    • 目的: 特定された法規範に関する法令、判例、行政解釈などの公的な情報を、無料で利用できるデータベースから収集する。
    • 分析:
      • e-Gov(日本の法令データ提供システム)、裁判所ウェブサイトの判例検索システムなどの利用。
      • 政府機関や自治体のウェブサイトで公開されている情報(ガイドライン、通知など)の検索。
      • 学術論文データベースや法律情報サイトの活用(無料公開されている範囲)。
  4. 関連法規範に関する公的資料の調査・発見(クローズドソースデータベースによる):
    • 目的: より網羅的かつ専門的な情報を得るために、有料の法律情報データベース(例:Westlaw、LexisNexis、D1-Law.com、判例秘書など)を利用して、関連法規範に関する資料を収集する。
    • 分析:
      • 法令、判例、文献、ニュース記事など、幅広い情報源からの検索。
      • キーワード検索、引用文献検索、テーマ別検索などの高度な検索機能の活用。
  5. 関連法規範に関する公的資料の調査・発見(書籍等データ化されていない文献による):
    • 目的: 電子データベースに収録されていない書籍、法律雑誌、専門書などの文献から、関連する法規範や解釈を探し出す。
    • 分析:
      • 弁護士会図書館や国会図書館等の利用。
      • 専門家へのヒアリング。
      • 参考文献リストの確認。
  6. 関連法規範に関する公的資料のラフレビュー:
    • 目的: 収集した法規範に関する資料全体を迅速に把握し、重要な情報や論点を特定する。
    • 分析:
      • 法令の条文、判決書の要旨、文献の概要などを中心に目を通す。
      • 事実・状況との関連性が高いと思われる部分に注目。
  7. 関連法規範に関する公的資料の整理・選別・意味付け・重み付け:
    • 目的: ラフレビューの結果に基づき、重要な法規範に関する資料を整理し、事実・状況との関連性を分析し、その意味合いや重要度を評価する。
    • 分析:
      • 法令、判例、学説などを分類・整理。
      • 事実・状況に直接適用される可能性が高い法規範を選別。
      • 判例の射程、学説の有力性などを考慮して、各法規範の重み付けを行う。
  8. 関連法規範に関する公的資料の精読:
    • 目的: 整理・選別された重要な法規範に関する資料について、詳細な内容を精査し、正確な理解を得る。
    • 分析:
      • 法令の条文の文言、判決理由の詳細、学説の論理構成などを深く読み込む。
      • 過去の解釈や適用事例なども検討。
  9. 関連法規範に関する公的資料と事実・状況との整合性検証:
    • 目的: 精読した法規範の内容と、整理・分析された事実・状況とを照らし合わせ、法的リスクや課題の有無、程度を評価する。
    • 分析:
      • 各事実が、特定の法規範に抵触するかどうかを検討。
      • 法規範が、対象会社の事業活動や契約関係にどのような影響を与えるかを評価。
      • 潜在的な法的紛争の可能性やその結果を予測。

フェーズ4:結論と報告

  1. 法的心証の形成:
    • 目的: 事実、法規範、および両者の整合性検証の結果を踏まえ、法的なリスクや課題に関する最終的な判断や意見を形成する。
    • 分析:
      • 各リスクの発生可能性、影響度などを総合的に評価。
      • 取引の成否や条件に影響を与える可能性のある重要事項を特定。
      • 複数の法的解釈が可能な場合は、その可能性と根拠を示す。
  2. 形成された法的心証に関する討議:
    • 目的: 法的心証の内容について、法務DDチーム内や依頼者との間で議論を行い、意見交換や認識の共有を図る。
    • 分析:
      • 異なる意見や見解を出し合い、多角的な視点から検討。
      • 不明な点や追加検討が必要な事項を確認。
      • 最終的な結論に向けて議論を収束させる。
  3. 結論のミエル化・カタチ化・言語化(定性化)・文書化・明確化・明白化:
    • 目的: 討議を経て合意された結論を、視覚的に理解しやすく、具体的な言葉で表現し、報告書などの文書形式で明確かつ明白に記録する。
    • 分析:
      • リスクの概要、根拠となる事実や法規範、潜在的な影響などを記述。
      • 図表やリストなどを活用して、情報を整理。
      • 専門用語は分かりやすく解説。
  4. 結論のフォーマル化(外部化):
    • 目的: 文書化された結論を、正式な法務DD報告書としてまとめ、依頼者に提出するために、体裁や表現を整える。
    • 分析:
      • 報告書の構成要素(目次、概要、結論、詳細な分析、提言など)を適切に配置。
      • 客観的かつ論理的な記述を心がける。
      • 必要に応じて、免責事項などを記載。
  5. 結論のサマリー作成(カジュアル化・可読化を含む):
    • 目的: 法務DD報告書の要点を、依頼者が短時間で理解できるように、簡潔かつ分かりやすくまとめたサマリーを作成する。
    • 分析:
      • 主要なリスクや課題を箇条書きで提示。
      • 専門用語を避け、平易な言葉で説明。
      • 図や表などを活用して、視覚的な分かりやすさを追求。

以上のプロセスを通じて、法務DDは対象会社や対象取引・事業の法的なリスクや課題を詳細に分析し、取引の意思決定や条件交渉に役立つ情報を提供します。

各ステップは相互に関連しており、丁寧かつ分析的に実施することで、より質の高い法務DDが可能となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02142_ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が、経営を守る_03リモート会議と議事録。AIに任せきりで大丈夫か?

最近では、リモート会議の普及により、TeamsやZoomなどのツールを使って会議を行う機会が増えています。

移動の手間がなくなり、多拠点とのやり取りもスムーズになるなど、リモートならではのメリットも大きい一方で、記録の扱い方に関して新たな課題が生まれています。

特に問題となるのが、チャットログと正式な議事録、そしてAI議事録の違いです。

たとえば、ある会社での話です。

プロジェクトの進捗確認のため、週1回のリモート会議が開かれていました。

議題は共有され、会議は録画され、AIが自動で議事録を生成していました。

見た目はとてもスマートで、効率的です。

ところが3か月後、ある議題をめぐって社内に混乱が生じました。

「たしかに合意したはず」
「いや、その件は“持ち帰り”だった」
「録画を見れば分かる」
確認のため、録画とAI議事録を見直しました。

けれども、AIが出力した議事録には、誰がどの発言をしたかが曖昧で、文脈のつながりも不自然。

録画を再生しても、全体を見直すには時間がかかりすぎ、肝心の論点を見つけるのが困難でした。

つまり、そこにあるのは、会話の断片や反応の記録という
「ログ」
であって、会議の流れや意思決定のプロセスを整理した
「意思決定の記録」
ではなかったのです。

その会社では、チャットのログや自動生成されたテキストがあるからといって、それで済ませた気になってしまっていたのです。

録音やAI議事録があると、つい
「何かあったら見返せばいい」
と安心してしまいがちですが、ログと議事録は、そもそも目的も性質もまったく違います。

たとえば、録画データやAI議事録は、
・会話を一応記録している
・検索もできる(ことがある)
といった意味では便利です。

でもそこには、
・誰が発言したのか明確でない
・決定事項と検討事項の区別があいまい
・責任者や期限が抜け落ちている
という欠点があります。

これはまさに
「工事現場に材料が届いたけど、図面がない」
という状態です。

いまは、オンライン会議とAI議事録が当たり前になりつつある時代です。

そして、リモート会議では、議事録がつい後回しになりがちです。

けれども、記録があることと、責任が明確になっていることは別問題です。

ログや録画はあっても、それが
「使える記録」
になるとは限りません。

ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化を経て、ようやく
「使える記録」
になるのです。

AI議事録は、便利な下書きにはなっても、それだけで完結させてはいけません。

最後の確認、つまり
・誰が言ったか
・何が決まったか
・誰がいつまでにやるのか
を、人間が見て、詰める必要があります。

発言者の立場や、文脈のニュアンス、あるいは会議中の
「温度感」
「空気感のようなもの」

「決まっていないこと」
も、AIは拾いきれません。

たとえば、誰かが
「うーん…まあ、そうですね」
と言ったとき、それが本当に合意なのか、ただ流されただけなのか。

こうした
「曖昧な同意」
をそのまま見過ごせば、後から
「聞いてない」
「そんなつもりじゃなかった」
というトラブルに発展します。

会議の責任をカタチにするのは、録画でも、AIでもなく、人の目と判断です。

そのひと手間を怠れば、
「記録はあるけど、使えない」
という、もっとも厄介な状態に陥ってしまいます。

議事録とは、あとから誰が見ても、
・なにが話し合われ、
・なにが決まり、
・誰が責任を負うのか
がひと目で分かる
「責任の設計図」
です。

たとえリモートでも、AIがいても、それは変わりません。

会議で交わされた発言や決定事項は、人の目で整理し直し、必要に応じて補足しながら、正式な文書に落とし込む必要があります。

結局のところ、AIや自動録画は便利な
「補助ツール」
ですが、最終的な確認や判断は人間が行わなければなりません。

「とりあえず残っているから安心」
ではなく、記録をきちんと整える意識が重要です。

AIに記録を
「任せきり」
にせず、最後は人間が責任を持って
「フォーマル化」する。

それが、これからの時代の議事録運用です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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