会社のルールというのは、案外あいまいな時期があるものです。
特に、経営ルールの整備には、どうしても時間がかかります。
新しい組織が立ち上がるタイミングや、制度を切り替える局面では、どうしても
「仮運用」
の状態が生まれます。
要するに、ルールが整っていない間、現場では
「仮運用」
という言葉で日々の判断が下されることになります。
仮運用だからといって、やってよいことと、やってはいけないことがあります。
ある企業では、経営委員会が正式に動き出す前段階として、いくつかの決裁を
「仮運用」
で進めていく必要が出てきました。
新規事業の決裁、取引条件の変更や資産の処分、社外への発信に関すること、子会社への貸付といった場面で、現場からは、
「これは、社長代理の決裁でよいのか」
「今までどおりのやり方で流していいか」
こうした確認が、経営委員会、すなわち始動前の経営本部に入ってきました。
これらはすべて、たとえ仮運用中でも、あとから
「なぜその判断をしたのか?」
と問われる可能性のあるテーマです。
社長代理の決裁で進める場合でも、関係者がフォーマットに沿って内容を整理し、簡潔にまとめておくだけで、判断の質が変わってきます。
いわば、立ち止まって考える時間を一度つくること。
それが、結果として組織の意思決定の精度を上げていくのです。
貸付などの金額が大きい案件では、特に記録の重みが増してきます。
どんなに善意の判断であっても、根拠が示されていなければ、後から誰にも説明できません。
つまり、記録があることで、正当性が支えられるのです。
仮運用中は、ルールの完成を待つだけの時間はありません。
むしろ、この時期にどれだけ地道に記録を重ねられるかが、組織の成長に差をつけていきます。
たとえ仮であったとしても、
「決裁フォーマット」
とは単なる
「様式」
ではなく、後からの見直しや事後検証を可能にするための
「しくみ」
なのです。
言い換えると、
「決裁フォーマット」
に記入することは、ただの手続きではありません。
あとから見返したときに、
「なぜこの判断をしたのか」
「そのとき何が前提になっていたのか」
を確認できるようにするための、いわば足あとです。
仮運用の時期というのは、どうしてもルールが不明確で、判断が人に寄ってしまいがちです。
だからこそ、記録に残すという作業が大事になってきます。
しかも、これは誰かのためというよりも、自分たちの未来のための記録です。
あとから振り返ったとき、何も残っていなければ、
「その場のノリで決めたのでは」
と疑われかねません。
判断の背景を残すことで、時間がたったあとでも、その決裁が妥当だったかを振り返ることができるのです。
経営判断というのは、タイミングによっては、状況を乗り切るために、手段を選ばず、知恵と工夫を総動員して突破口を見つけなくてはならない局面もあります。
しかし、そういう場面でも、きちんとした記録が残っていれば、後からの検証に耐えられます。
逆に、
「なぜそうしたのか」
が記録されていなければ、判断そのものの正当性が揺らいでしまうのです。
特に、貸付や資産処分のように金額が大きく、会社全体の信用にもかかわる話では、なおさらです。
「仮運用だから、まあいいか」
ではなく、
「仮運用だからこそ、記録を残す」。
この意識の切り替えが、組織の透明性を保ち、後々の信頼にもつながっていくのです。
「決裁フォーマットを埋める」
たったそれだけのことが、未来の自分たちを守ることになります。
一見すると些細な作業に見えるかもしれませんが、こうした積み重ねが、いざというときに、組織の信頼や意思決定の正当性を支えてくれるのです。
実際、私は、このことを地道に実践してきた企業と、
「後でやればいい」
と軽んじた企業とでは、その後の結末に、明確な違いが出てきています。
法務の現場で、私は何度もその差を目の当たりにしてきました。
ルールがまだ曖昧な時期だからこそ、フォーマットを活用して、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化を進めていくことが重要なのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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