02251_ケーススタディ:「見栄え」は超一流、「コスト」は三流? 投資家を唸らせる“ダブルネーム”リーガルDDの錬金術

「M&Aやファンド組成において、提出されるリーガルレポートの表紙にある『法律事務所のロゴ』は、中身以上にモノを言う」。 

これは、業界の公然の秘密です。 

しかし、一流の
「ブランド事務所」
に依頼すれば、目玉が飛び出るような請求書が届きます。

予算はない、だが信用は欲しい。 

そんな二律背反に悩む法務担当者に朗報です。

世の中には、実務部隊は安価な事務所を使いつつ、表紙には大物弁護士の名前を冠する
「ダブルネーム」
という裏技が存在します。

本記事では、大物フィクサーの威光を借りて
「見栄え」
を最大化するスキームと、その際に絶対に踏み外してはいけない
「礼節(スジ)」
という地雷について解説します。

【この記事でわかること】

• 実務は「手頃な事務所」、看板は「著名事務所」というハイブリッド戦略の仕組み
• 「ダブルネーム」でレポートを発行し、投資家の安心感を醸成するテクニック
• 「金はないが心はある」という言い訳が、なぜビジネスの世界で最も無礼とされるのか

——————————————————————————–

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 グランド・イリュージョン 経営企画室長 見栄晴 飾(みえはる かざる) 
業種 : 投資ファンド運営・不動産開発
状況 : 新規ファンド組成にあたり、投資家向け資料としてのリーガル・デューディリジェンス(DD)レポートが必要だが、予算が極端に少ない。

【相談内容】 

先生、正直に申し上げます。

カネがありません。 

しかし、今回のファンド組成を成功させるためには、出資者となる金融機関や機関投資家を納得させるだけの
「格調高いリーガルレポート」
が必要です。

無名の町弁護士が書いたレポートでは、中身がいくら正しくても
「誰だそれは?」
と一蹴されてしまいます。

かといって、四大法律事務所のようなところに頼めば、数千万円単位のフィーが飛びます。 

「いかに費用をかけずに、見た目のいい法律事務所にDDを担当させたことにするか」。 

そんな虫のいい解決策はないものでしょうか?

「虎の威」は借りるものではなく「実装」するもの

見栄晴室長、その
「虫のいい話」、
やりようによっては可能です。

料理の世界で言えば、下ごしらえは若手がやり、最後の仕上げと監修だけを三ツ星シェフが行って
「巨匠の味」
として出すようなものです。

秘技「ダブルネーム・スキーム」の正体

このスキームの肝は、
「実働部隊」

「看板(ブランド)」
を分離することにあります。

1 実働部隊: 
我が事務所や、手頃な中堅事務所が「友情価格」で汗をかき、DDの実務とレポート原案を作成します

2 看板: 
元大蔵省や著名事務所の客員を務めるような「大物弁護士」に、監修またはアドバイザーとして入ってもらいます

そして、最終的なレポートには、 
法律顧問 ●●弁護士(〇〇法律事務所)」 
というクレジットを、実務担当事務所と並記(ダブルネーム)して記載するのです。

これにより、投資家は
「あの大手事務所の●●先生が関与しているなら安心だ」
と錯覚・・・いえ、ご安心召されるわけです。

「ネームドロップ」の効果

これを業界用語で
「ネームドロップ」
といいます。

大物弁護士の
「名前」
があるだけで、レポートの信用力は跳ね上がります。

さらに、その大物弁護士が
「農林中金」

「信金連合会」
といった金融界のドンたちに顔が利く場合、単なる法務チェックを超えて、資金調達のパイプラインまで提供してもらえる可能性があります。

まさに
「1粒で2度おいしい」Gリコ
のような展開です。

「金はないが心はある」は禁句中の禁句

ただし、このスキームを使うには、絶対的な条件があります。 

それは、
「礼節(スジ)を通すこと」
です。

大物弁護士は、カミソリのように鋭く、同時に義理人情に厚い方が多い。 

懐に入れば
「一肌も二肌も脱いで」
くれます。

しかし、彼らが最も嫌うのは
「無礼者」
です。

よく
「予算がないので、気持ちだけでお願いします」
と言う人がいますが、プロの世界において、
「お金はないが、心はある」
というセリフは、最も無礼でスジが通らない言い草です。

「貴方の名前には価値があるが、対価は払いたくない」
と言っているのと同じだからです。

紹介者である私も、トラブルが起きたら身銭を切る覚悟で紹介するわけです。 

したがって、最低限の
「見せ金(キャッシュ)」
と、礼を尽くす姿勢が見えない限り、このカードは切れません。

【今回の相談者・見栄晴室長への処方箋】

見栄晴室長、見栄を張るなら、そのための
「入場料」
は払いましょう。

1 ダブルネームでのレポート発行 

実務は安価な事務所、監修は著名弁護士という体制を組み、投資家向け資料(特定少数向けレジュメ)に限定して、著名弁護士の名前を記載する許諾を取り付けます。

2 「スジ」を通す資金の確保 

「友情価格」
とはいえ、著名弁護士への謝礼と実働部隊への報酬は必須です。

成功報酬などではなく、着手金として
「最低限の財力」
を示してください。

それが信頼の証です。

3 紹介者の顔を立てる 

このスキームは、紹介者(私)と大物弁護士との
「兄弟分」
のような人間関係の上に成り立っています。

貴社の不手際は私の顔に泥を塗ることになると肝に銘じてください。

「ブランド」
は高いからこそ価値があるのです。

それを安く使わせてもらうなら、せめて
「礼儀」
という通貨で不足分を補うのが、大人の流儀というものです。

※本記事は、架空の事例をもとに、専門家の起用戦略および企業間取引におけるリスク管理(レピュテーションリスク等)に関する一般論を解説したものです。 
実際のDDや専門家の起用においては、各専門家の所属する事務所の規定や弁護士倫理規定(利益相反等)、および契約内容を遵守する必要があります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02250_ケーススタディ:契約書は「憲法」であり「マニュアル」ではない_プレスの時間を“あえて書かない”ことが、上場企業の法務における「大人の嗜み」である理由

「契約書には、合意したすべての事項を詳細に記載しなければならない」。 

真面目な法務担当者ほど、この強迫観念に囚われがちです。 

しかし、百戦錬磨のビジネス弁護士に言わせれば、契約書に書き込むべきは
「権利義務の基本構造(憲法)」
であり、すぐに消えてなくなる
「事務手続き(マニュアル)」
ではありません。 

特に、上場企業同士の提携発表において、
「〇月〇日〇時発表」
と契約書に刻み込むことは、リスク管理として正しいようでいて、実は自らの首を絞める
「愚策」
になり得ます。 

本記事では、契約書を汚さずにリスクを制御する、プロフェッショナルな
「寸止め」
の美学と、その裏にある実務的な保全術について解説します。

【この記事でわかること】

• なぜ、「スケジュールの詳細」を契約書に書くと「自爆」するのか
• 「契約書を汚す」という表現に込められた、法務実務の哲学
• 「口頭合意」を「鉄の結束」に変える、たった一本のメール活用術

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 サイバー・ネクサス 経営企画室長 石橋 渡(いしばし わたる) 
業種 : Webサービス・システム開発(東証上場) 
相手方: 株式会社 メディア・ネクサス(同業の上場企業)

【相談内容】 

先生、メディア・ネクサス社との資本業務提携、いよいよ大詰めです。 

契約書の条文はほぼ固まりましたが、最後に一点、揉めているわけではないのですが、悩んでいます。 

「適時開示(プレスリリース)」
のタイミングです。 

双方が上場企業ですから、株価に影響を与える重要事実の公表は、一分の隙もなく同調して行わなければなりません。 

私は「〇月〇日午後3時に同時発表する」
と契約書に明記すべきだと思うのですが、顧問弁護士は
「そんなことは書かなくていい。口頭で十分だ」
と言います。 

本当に口約束で大丈夫なのでしょうか?

万が一、相手がフライング発表したら大事故になります。

契約書に「賞味期限切れのゴミ」を混ぜるな

石橋室長、その不安はごもっともです。

しかし、今回は顧問弁護士の感覚が
「プロの正解」
です。 

契約書とは、両社の関係が続く限り、数年、数十年と参照される
「憲法」
のような文書です。 

そこに、
「〇月〇日の〇時」
という、一度発表してしまえば意味をなさなくなる
「瞬間的な事務連絡」
を書き込むことは、契約書の品格を下げる行為、法曹用語的なニュアンスで言えば
「契約書を汚す」行為
にあたります。

「厳格さ」が「あだ」になるメカニズム

もし、契約書に
「午後3時」
と書いたとしましょう。 

当日、東証のシステムトラブルや、緊急のシステムメンテナンスで、発表を
「3時30分」
にずらさざるを得なくなったらどうしますか? 

厳密に言えば、
「契約違反」
になります。

あるいは、変更のために
「契約変更覚書」
を大急ぎで締結しますか?

ナンセンスですよね。

ビジネスの現場は流動的です。

確定的な権利義務以外の手続き事項をガチガチに固めることは、リスク管理ではなく、
「自らの機動力を殺す拘束衣」
を着るようなものです。

「口頭」+「証拠化」のハイブリッド戦略

では、どうすればいいか。 

答えは、
「契約書(本丸)はシンプルに、実務(現場)で証拠を残す」
です。

1 契約書は聖域として守る 

契約書には
「公表の時期・方法については、両社協議の上、決定する」
とだけ書き、詳細は書きません。

これで契約書は美しく保たれます。

2 実務で「事実上の契約」を結ぶ 

その代わり、担当者レベルで、以下のようなメールを一本送るのです。

「本日の打ち合わせ通り、プレスのタイミングは〇月〇日 15:00で進めます。

変更がある場合は、前日までに相互に連絡し合いましょう」

このメールへの返信(「承知しました」)があれば、それは立派な
「合意の証拠」
です。 

これなら、時間が変更になってもメール一本で修正でき、かつ
「言った言わない」
のリスクも完全に排除できます。

「運命共同体」に裏切りはない

そもそも、今回の提携は、双方が上場企業であり、成功させることがお互いの利益です。 

相手が勝手にフライング発表をして、市場を混乱させ、自社の評判も落とすような
「自爆テロ」
を行うメリットがどこにあるでしょうか? 

「相手を裏切るメリットがない」関係性
においては、性悪説に基づく重厚な契約条項よりも、性善説と経済合理性に基づく
「紳士協定(と確認メール)」
の方が、はるかにスマートに機能するのです。

【今回の相談者・石橋室長への処方箋】

石橋室長、契約書は
「不安を埋めるための落書き帳」
ではありません。

1 契約書への記載見送り 
リリースの日時など、一過性の事務事項は契約書から削除し、スリム化します。
2 「確認メール」による保全 
口頭合意の後、必ず
「決定事項の確認」
としてメールを送り、相手の同意(返信)を取り付けてください。
これで法的な保全は完璧です。

3 担当者間のホットライン確立 
契約書の条文をいじるよりも、IR担当者同士が携帯電話で
「今からアップします」
「OKです」
と連絡を取り合う関係を作ることの方が、事故防止には100倍有効です。

真の法務力とは、すべてを契約書に書くことではなく、
「契約書に書くべきこと」

「運用でカバーすべきこと」
を切り分ける判断力にあるのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業間の契約実務およびリスク管理の手法に関する一般論を解説したものです。 
実際の契約締結や適時開示においては、金融商品取引法、取引所規則、および個別の事情に応じた法的検討が必要です。 
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02249_ケーススタディ:大家が倒産寸前! 敷金・保証金を取り戻すための、合法的な「居座り」と「家賃ストップ」の奥義

「大家の羽振りが悪い。噂では差押えも食らっているらしい」 

そんな時、真面目なテナントは
「立つ鳥跡を濁さず」
とばかりに、家賃をきれいに払って退去しようとします。

しかし、法務の観点からは、それは
「自殺行為」
です。

なぜなら、あなたが払った家賃は大家の借金返済に消え、あなたが預けた
「敷金・保証金」
は二度と戻ってこないからです。

本記事では、経営危機の大家から敷金を“実質的に”全額回収するための、一見行儀の悪い、しかし法的には極めて高度な
「相殺(そうさい)マジック」
と、それを認めた裁判例のロジックについて解説します。

【この記事でわかること】

• 大家が危ない時に「家賃を払ってはいけない」理由
• 「明け渡し」と「敷金返還」のタイムラグを埋める、逆転の法解釈
• 「鍵は返すから金返せ」と迫り、合法的に家賃を踏み倒す(相殺する)手順

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 饗宴(きょうえん)フードシステム 店舗開発部長 剣持 守(けんもち まもる) 
業種 : 飲食チェーン展開
相手方: 有限会社 バブル・エステート(ビルのオーナー)
状況 : 入居中のビルオーナーに信用不安が発生。保証金3000万円の回収が危ぶまれている。

【相談内容】 

先生、嫌な噂を聞きました。 

当社が旗艦店を出しているビルのオーナー(バブル社)が、銀行や他の債権者から差押えを受けているようです。 

このままでは、バブル社が倒産するのは時間の問題です。 

当社としては、早々に撤退したいのですが、入居時に預けた
「保証金3000万円」
が返ってくる気がしません。

一方で、毎月の家賃は200万円です。 

いっそのこと、家賃を払わずに、その分を保証金から差し引いてもらいたい(相殺したい)のですが、契約書には
「保証金は明け渡し後に返還する」
「保証金との相殺は禁止」
と書いてあります。

やはり、泣く泣く家賃を払って退去し、保証金は諦めるしかないのでしょうか?

「正直者」がバカを見るメカニズム

剣持部長、その
「真面目さ」
は美徳ですが、倒産実務の世界では
「カモ」
と呼ばれます。

もし、契約書通りに家賃を払い続け、きれいに明け渡したとしましょう。 

その瞬間、バブル社には
「保証金返還義務」
が発生しますが、彼らには返す金などありません。

結果、あなたは家賃という現金を失い、保証金という不良債権だけを手にして途方に暮れることになります。

「相殺」という名の“自力救済”

ここで使うべき最強の武器が
「相殺(そうさい)」
です。

「私が払うべき家賃」

「あなたが返すべき保証金」
をチャラにする。

これなら、相手にお金がなくても、確実に回収(支払免除)できます。

しかし、ここには大きな
「法的ハードル」
があります。

通常、保証金は
「建物を明け渡した後」
に初めて返還請求権が発生します。

つまり、まだ入居している間は、
「家賃を払え(今すぐ)」vs「保証金を返せ(まだ先)」
となり、時期がずれているため相殺できないのが原則なのです。

司法が認めたウルトラC:「鍵は返すから金をくれ」

ここで、東京高裁の判決(平成8年11月20日)が放った、起死回生のロジックをご紹介しましょう。

この事例のテナントは、次のような行動に出ました。

1 店を閉め、荷物を運び出し、「明け渡しの準備」を完了させた。
2 その上で、大家に「鍵を返す(明け渡す)から、引換えに保証金を返せ」と通知した。
3 大家は金がないので「保証金は返せない(だから鍵も受け取れない)」と拒否した。
4 テナントは「あなたが受け取らないから、私はまだここに居座らざるを得ない。その間の家賃(損害金)と、保証金を相殺する」と宣言した。

裁判所はこのテナントの主張を認めました。 

ポイントは、
「契約期間満了」
という言葉を
「契約終了全般」
と広く解釈し、さらに
「テナントが明け渡しの提供をした以上、大家は保証金を返す義務がある(同時履行)」
と判断した点です。

要するに、
「返す準備はできているのに、お前が保証金を返さないから明け渡せないんだ。その間に発生する家賃は、当然、保証金から引かせてもらうぞ」
という論法です。

「相殺禁止特約」も無効化する

さらに、契約書にある
「相殺禁止特約」
についても、裁判所は、
「契約終了して清算する段階で、相殺を認めずにわざわざ現金を払わせるのは、迂遠で不合理だ」
として、あっさりと退けました。

有事(契約終了・倒産危機)においては、平時のルール(特約)は及ばない、というわけです。

【今回の相談者・剣持部長への処方箋】

剣持部長、座して死を待つ必要はありません。

以下の手順で
「戦略的居座り」
を決行をご提案します。

1 信用不安の指摘と「最後通告」 

まず、バブル社に対し、
「差押え等の信用不安があるため、保証金返還が危ぶまれる」
と指摘し、信用不安解消措置(担保提供など)を求めます。

これは
「やるべきことはやった」
というアリバイ作りです。

2 契約解除と「明け渡しの提供」 

不安が解消されないことを理由に契約を解除し、荷物をまとめて
「いつでも明け渡せる状態」
にします。

その上で、
「鍵を受け取って保証金を返してくれ」
と通知します。

相手は返せないので、受領を拒否するでしょう。

3 相殺の通知 

「あなたが保証金を返さないから、明け渡しが完了しない。ついては、未払い家賃および今後の賃料相当損害金と、保証金返還請求権を対当額で相殺する」
という内容証明を送りつけます。

これで、家賃を1円も払うことなく、実質的に保証金を回収しながら、次の移転先が見つかるまで(あるいは保証金が尽きるまで)じっくりと構えることができます。 

「家賃不払い」
は、時として、身を守るための正当な「自己防衛」なのです。

※本記事は、実際の裁判例(東京高裁平成8年11月20日判決)をもとに、賃貸借契約における相殺の法理を解説したものです。 
実際の事案において相殺が認められるか否かは、契約書の文言、明け渡しの提供の程度、当事者の交渉経緯などにより判断が分かれる可能性があります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02248_ケーススタディ:エース社員が残した「裏値引き」という名の時限爆弾_“担当者が次々辞めていく”組織が支払うべき、高い授業料

「今回の代金は『借りたこと』にしておきます。その代わり、次は値引きでお返ししますから!」 

営業担当者が、目先の受注欲しさに独断で口走った
「禁断の約束」。

 経営者はこれを
「担当者の勝手な暴走」
と切り捨てようとしますが、少し待ってください。

なぜ彼はそんな無理な約束をしたのか?

なぜ後任の担当者は数週間で次々と辞めていくのか? 

顧客が
「会社が悪い」
と頑なに支払いを拒む背景には、法律論以前の、もっと深刻な
「組織の病理」
が潜んでいます。

本記事では、離職率の高い職場が生み出す
「現場の歪み」
が、いかにして法的リスクとなって会社に跳ね返ってくるか、そのメカニズムを解説します。

【この記事でわかること】

• 「借ります」という言葉の裏にある、過酷なノルマと現場の疲弊
• 「担当者がコロコロ変わる会社」が、顧客からの信用(と抗弁権)を失うプロセス
• 社員個人の責任を追及する前に、経営者が直視すべき「使用者責任」の本質

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 アド・バンス・クリエイション 代表取締役 広尾 告(ひろお つげる) 
業種 : 広告代理店・メディアプランニング
相手方: エステティックサロン「ビューティーA」 A社長
元社員: 伊野(いの)(独断でA社長と変則的な約束を交わした元営業担当)

【相談内容】 

先生、売掛金の回収についての相談です。

元社員の伊野が、在職中、顧客のA社長から20万円の広告受注をとるために、独断で
「今回の代金は『お借りした』ことにします。今後1年間かけて料金を値引きすることで、お返しします」
などと約束していました。

実は、そのあと、すぐに、伊野はやめてしまいました。

伊野が退職した後、A社長は
「あの時の20万円分を引いてくれ」
と言い出し、次の広告料25万円のうち、差額の5万円しか支払ってきません。

A社長は
「伊野君は有能だったが、御社の体制がなっていないから辞めたんだ」
「後任もすぐ辞めたし、フォローもない」
などと会社の悪口を言い、残金の支払いを拒絶しています。

伊野を呼び出して問い詰めると
「責任は感じている」
と言いますが、具体的な弁済はしません。

伊野に損害賠償を請求したいのですが、いけますよね?

「借ります」と言わせたのは誰か?

広尾社長、まず現実を直視しましょう。 

伊野氏が使った
「借ります」
という言葉。

これは、個人的な遊興費のためではありません。

「御社の売上(受注)を作るため」
の方便です。

おそらく、正規の料金では契約が取れない、しかしノルマは達成しなければならない。 

その板挟みの中で彼がひねり出した苦肉の策が、
「個人的に借りたことにして、実質的な値引き(キャッシュバック)を行う」
というスキームだったのでしょう。

「人が居着かない」こと自体が最大のリスク

さらに深刻なのは、伊野氏が辞めた後の状況です。 

後任の担当者は2週間で退職し、その次の担当者も数週間で退職しています。 

顧客のA社長から見れば、 
「担当者がコロコロ変わり、引き継ぎもされず、誰もフォローしてくれない無責任な会社」
に映っています。

A社長が
「伊野君は有能だった。悪いのは御社の体制だ」
と主張するのは、単なる支払拒絶の言い訳ではありません。

「組織として機能していない御社に、契約どおりの支払いを求める資格があるのか?」 
という、痛烈な経営批判なのです。

「使用者責任」からは逃げられない

法的に見ても、御社の分は悪すぎます。 

伊野氏の行為は、会社の業務執行(広告受注)に関連して行われたものであり、状況次第では、
「使用者責任(民法715条)」

「表見代理」
が成立し得ます。

「担当者が勝手にやった」
という理屈は、管理体制が崩壊している(担当者が次々辞めていく)現状では、裁判所に対して何の説得力も持ちません。

むしろ、
「そのような無理な営業をさせ、管理もできていなかった会社の過失」
が厳しく問われるでしょう。

元社員を訴えるのは「天に唾する」行為

元社員の伊野氏を訴えたいとのことですが、お勧めしません。 

彼を法廷に引きずり出せば、彼はきっとこう証言するでしょう。 

「過酷なノルマがあった」
「上司は数字さえ上がればやり方は黙認していた」
「会社は慢性的な人手不足で、まともな教育も管理もなかった」
これらが公になれば、御社の
「ブラックな体質」
が白日の下に晒され、さらなる人材流出と評判の低下を招きます。

まさに
「ミイラ取りがミイラになる」
結末です。

【今回の相談者・広尾社長への処方箋】

広尾社長、これは、売掛金回収の話ではありません。

「元従業員への貸し」
の話でもありません。

今回の20万円は、御社が支払うべき
「組織改革のための手付金」
です。

1 A社長への請求放棄と関係修復 

A社長の主張を受け入れ、20万円の請求は断念(事実上の債務免除)します。

その上で、5万円を支払ってくれたことに感謝し、今後は社長直轄または信頼できるベテランが担当することで、信頼回復に努めましょう。

2 元社員への法的措置の断念 

伊野氏への責任追及は、時間とコストの無駄であるばかりか、会社の恥部を晒すリスクがあります。

「責任を感じている」
という言葉を鵜呑みにせず、静かに幕を引くのが賢明です。

3 「人が辞めない組織」への転換 

これが本質的な解決策です。

なぜ担当者が数週間で辞めていくのか。

その原因(過度なノルマ、パワハラ、教育不足など)を解消しない限り、第2、第3の伊野氏は必ず現れます。 

契約書やルールの整備も大切ですが、まずは
「社員が定着する(まともな引き継ぎができる)環境」
を作ることが、最強の予防法務です。

※本記事は、架空の事例をもとに、従業員の不正行為と企業の使用者責任、および組織管理の法的リスクに関する一般論を解説したものです。 
実際の法的責任については、具体的な事実関係や就業規則の規定等により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02247_ケーススタディ:「中抜き」天国か、「板挟み」地獄か? 商流の真ん中に立つ者が習得すべき、究極の“ミラーリング”契約術

「右から来た仕事を、左に流すだけでマージンが抜ける。こんな美味しい商売はない」 
そう思っている経営者や営業マンは、遅かれ早かれ
「法務の地雷」
を踏んで爆死します。

商流の真ん中(中間業者)に立つということは、上流(クライアント)からの
「金払わんぞ」
という圧力と、下流(再委託先)からの
「金払え」
という突上げの、両方を受け止めるサンドバッグになるリスクを背負うことだからです。

本記事では、この板挟み地獄を回避し、安全にマージンだけを確保するための契約テクニック
「ミラーイメージの原則」
と、相手を黙らせる
「支払留保のジョーカー」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 元請け契約と下請け契約を「双子」にすることの重要性
• 「クライアントが払わないなら、私も払わない」という論理の組み立て方
• 自らの存在意義を問われるリスクを背負ってでも、切るべきカードとは

【相談者プロフィール】

 相談者: 株式会社 ミディ・エージェンシー 営業部長 挟間 渡(はざま わたる) 
業種 : 広告・編集プロダクション(コンテンツ制作の仲介・ディレクション) 
取引構造: スポーツクラブ(発注元) ⇒ ミディ(当社) ⇒ 制作会社GG(再委託先)

【相談内容】 

先生、今度、大手スポーツクラブの出版物を請け負うことになりました。 

実作業は、すべて制作会社のGG社に
「丸投げ」
・・・いえ、
「再委託」
します。

当社はディレクション料としてマージンをいただく、いわゆる
「中抜き」構造
です。

キャッシュフロー上、当社が持ち出しにならないようにしたいのですが、GG社との契約書はどのような点に気をつければよいでしょうか?

もし、スポーツクラブが
「出来が悪い」
と言って支払いを渋った時に、GG社から
「ウチは納品したんだから金払え」
と詰められたら、当社が破綻してしまいます。

そんな
「板挟みの悲劇」
だけは避けたいのです。

「中抜き」の極意は「透明人間」になること

挟間部長、正直でよろしい。

「中抜き」
は立派なビジネスモデルです。

しかし、その極意は、法的に
「透明なパイプ」
になることです。

上流から流れてきた水(カネ)を、そのまま下流に流す。

もし上流が止まったら、自動的に下流への水も止まる。 

そこに、あなたという
「ダム(支払義務)」
を残してはいけません。

契約書は「双子(ミラーイメージ)」でなければならない

ここで最も重要なのは、スポーツクラブ(発注元)と御社との契約(契約A)と、御社とGG社(再委託先)との契約(契約B)を、
「ミラーイメージ(鏡像)」
にすることです。

契約Aで
「検収合格後60日払い」
なら、契約Bも
「60日払い」
にする(もちろん下請法が適用されない範囲で)。

契約Aで
「危険負担は受注者持ち」
なら、契約Bもそうする。

もし、ここがズレていると、 
「スポーツクラブからは検収不合格でお金が入ってこないのに、GG社には支払日が来てしまった」
という事態になり、御社のキャッシュフローはショートします。

理論上、2つの契約が鏡写しになっていれば、御社のリスクはゼロになります。

伝家の宝刀「お前が悪いから、親がカネをくれない」条項

しかし、世の中そう甘くはありません。 

万が一、GG社の仕事の質が悪くて、スポーツクラブが
「金は払わん」
と怒り出した場合、どうするか。

ここで、心を鬼にして契約書に忍ばせておくべき
「特約」
があります。

「本件は、当社がスポーツクラブから受けた仕事を、GG社に再委託するものです。 
したがって、GG社の仕事の不備でスポーツクラブが金を払ってくれない場合、当社はGG社への支払いを留保します。 
文句があるなら、スポーツクラブが納得する仕事をしてください」

要するに、 
「お父さん(発注元)がお小遣いくれないのは、君(GG社)の成績が悪いからだ。だから私(中間業者)は君に払わないよ」
という理屈を明記しておくのです。これを
「支払留保特約」
といいます。

「じゃあ、あんた何のためにいるの?」と言われる覚悟

もちろん、このカードを切るには副作用があります。 

GG社はきっとこう言うでしょう。 

「リスクを取らないなら、間に挟まっている御社の役割って何ですか? 全く意味ねえじゃねえか」

おっしゃる通りです。ぐうの音も出ません。 

しかし、ここでひるんではいけません。 

「それが嫌なら、直接取引してください(できるものならね)」
という顔をして、交渉状況を見ながらこのカードを切ってください。

リスクを遮断するためには、時に
「役立たず」
と罵られる勇気も必要なのです。

最後に:名前くらいは確認しましょう

あ、そうそう挟間部長。 

契約書を拝見しましたが、相手方の代表取締役の名前が、御社の社長になっていますよ。

いくら
「ミラーイメージ」
を作るからといって、相手の社長まで自社の社長にしてしまっては、それは契約ではなく
「独り言」
です。

コピペもほどほどにお願いします。

【今回の相談者・挟間部長への処方箋】

挟間部長、中間業者の生きる道は
「連動性」
の確保です。

1 契約のミラーリング 

元請契約と下請契約の条件(検収、支払、危険負担)を完全に一致させ、タイムラグや条件のズレによる
「自腹リスク」
を消滅させます。

2 支払留保特約の準備 

「上流が払わないなら、下流にも払わない」
という条項を準備し、いざという時の防波堤にします。

ただし、相手のプライドを傷つける諸刃の剣なので、抜くタイミングは慎重に。

3 最低限のチェック 

代表者名などの基本事項は確認しましょう。

神は細部に宿り、悪魔はコピペに宿ります。

※本記事は、架空の事例をもとに、請負契約および再委託契約におけるリスク管理手法に関する一般論を解説したものです。 
実際の契約においては、下請代金支払遅延等防止法(下請法)により、発注元からの支払いの有無にかかわらず、親事業者に支払義務が生じるケースが多々あります。
上記のような「支払留保特約」が下請法違反と認定されるリスクについては、取引の規模や資本金等を踏まえ、慎重な検討が必要です。 個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02246_ケーススタディ:銀行口座凍結!「仮差押え」という名の“心肺停止”攻撃を、民事再生という“AED”で吹き飛ばす、起死回生の法的蘇生術

「メインバンクの口座が仮差押えされた。もう終わりだ」 

多くの経営者は、この瞬間、思考停止に陥ります。 

仮差押えは、企業の血液であるキャッシュを止める、まさに
「心肺停止」
へのカウントダウンです。

しかし、ここで諦めるのは早計です。 

法律には、この強力な
「凍結魔法」
を強制解除し、さらに無効化してしまう、さらに強力な
「解呪(かいじゅ)の呪文」
が存在します。

本記事では、民事再生法が持つ、債権者の権利行使をストップさせる強大な
「公権力」
の正体と、それを発動させるための条件について解説します。

【この記事でわかること】

• 「原則は自由、現実は禁止」という、法律特有のダブルスタンダード
• 仮差押えを「一時停止(中止)」させるだけでなく、「消滅(取消)」させるウルトラC
• 裁判所を味方につけるために必要な「ハッピーエンドの脚本(再生計画)」

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 トドロキ・ロジスティクス 代表取締役 再起 賭(さいき かける) 
業種 : 運送・物流業
状況 : 資金繰り悪化により、一部債権者から預金口座の仮差押えを受けた状態

【相談内容】 

先生、緊急事態です。 

かねてより支払いが遅れていた大口債権者が、当社のメインバンクの預金口座に
「仮差押え」
をかけてきました。

このままでは、月末の従業員の給与も、燃料代も払えません。 

事業を継続するために
「民事再生」
の申立て準備を進めていましたが、仮差押えをされてしまった以上、もう手遅れでしょうか?

「民事再生を申し立てても、債権者の権利行使(差押え)は止まらない」
という噂を聞いたことがあるのですが・・・。

「原則」という名の“建前”に騙されるな

再起社長、まずは深呼吸してください。 

社長が耳にされた
「民事再生を申し立てても、債権者は権利行使できる」
という噂。

これは、法律の教科書的な
「原則(建前)」
としては正解です。 

民事再生を申し立てたからといって、自動的に全ての借金取りが魔法のように消えるわけではありません。

しかし、実務の現場、すなわち
「現実(本音)」
は全く違います。

結論から言えば、民事再生というリングの上では、仮差押えは
「中断」
させられるか、あるいは強制的に
「取り消される(吹き飛ぶ)」
運命にあります。

なぜなら、民事再生とは、
「一人の債権者が抜け駆けして回収し、会社を潰すこと」
を防ぎ、
「会社を生かして、みんなで少しずつ分かち合う(債権者平等の原則)」
ための手続きだからです。

裁判所が発動する「待った(中止命令)」

民事再生の申立てから開始決定までの間、裁判所は強力な権限を行使します。 

それが
「中止命令」
です(民事再生法26条、27条)。

イメージしてください。 

債権者が、御社の首に
「仮差押え」
というロープをかけて締め上げようとしています。

そこに、裁判所というレフェリーが割って入り、 
「おい、試合(再生手続)が始まるんだから、そのロープを緩めろ(中止せよ)」
と命令するのです。

さらに、再生手続が正式に開始決定されれば、この
「待った」
は法律上当然の効果となり、最終的に再生計画が認可された暁には、仮差押えは効力を失います。

さらに強力な「取消命令」という名の“爆破スイッチ”

さらに、単に
「止める(中止)」
だけではありません。

 御社の事業継続のために、その預金や資産がどうしても必要だと裁判所が判断すれば、仮差押えそのものを
「取り消す(なかったことにする)」
命令すら発動できます(民事再生法26条3項など)。

これは、首にかけられたロープを緩めるどころか、
「ロープそのものを切断して焼却処分する」
ようなものです。

ここまで強力な効果を持つのが、民事再生法という法律の真の姿です。

条件は「まともなシナリオ」を描くこと

ただし、この強力な魔法は、無条件には発動しません。 

裁判所を動かすには、以下の心証を抱かせる必要があります。

1 「この再生プランは、まともな話(実現可能性が高い)である」

2 「会社を再生させたほうが、仮差押えを放置して会社を潰すよりも、債権者全員にとってハッピーである」

要するに、自分勝手な延命策ではなく、
「みんなのための再生」
という大義名分(脚本)が必要です。

これさえあれば、裁判所は
「この仮差押えは、みんなの利益を邪魔する障害物だ」
と判断し、容赦なく排除してくれます。

【今回の相談者・再起社長への処方箋】

再起社長、仮差押えは
「終わり」
の合図ではありません。

「反撃(再生)」
の合図です。

1 即座に民事再生申立て 

仮差押えに対抗する最強のカードを切ります。

申立てと同時に、仮差押えの
「中止命令」
または
「取消命令」
を裁判所に求めます。

2 「全体最適」のロジックで説得 

「この仮差押えを放置すれば会社は倒産し、他の債権者への配当もゼロになる。しかし、再生できれば全員に配当ができる」
という経済合理性を、裁判所にアピールします。

3 事業継続資金の確保 

取消命令が出れば、凍結されていた預金は解放されます。

これを原資に、事業を回し、再生への道筋をつけます。

法律は、
「権利の上に眠る者」
は助けませんが、
「知恵を使って生き残ろうとする者」
には、強力な武器を与えてくれます。

その武器(民事再生法)を、今こそ抜く時です。

※本記事は、架空の事例をもとに、民事再生法における保全処分(仮差押えの中止・取消し)に関する一般的法理を解説したものです。 
実際の中止命令や取消命令の発令には、裁判所の厳格な審査が必要となり、担保の提供が求められる場合もあります。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02245_ケーススタディ:「訴訟=リスク」という常識を疑え。あえて「法廷」という土俵に乗ることで、法外な手切れ金を“適正価格”まで暴落させる「訴訟活用型」値切り術

「訴えてやる!」 
この言葉を聞いて、震え上がる経営者は二流です。

百戦錬磨の法務参謀にとって、相手からの提訴は、時に
「ラッキー」
な展開となり得ます。

というのは、密室での
「言ったもん勝ち」
のゆすり・たかりが、法廷という
「衆人環視の理性の場」
に引きずり出された瞬間、その法外な要求は魔法が解けたように色あせ、しぼんでいくからです。

本記事では、経営権を巡る泥沼の争いにおいて、あえて
「訴訟リスク」
を飲み込み、相手の弁護士のやる気すら削ぎ落として勝利をつかむ、
「司法エコノミクス(経済学)」
の極意を解説します。

【この記事でわかること】

• 「経営する気がないのに権利を主張する者」に対する裁判所の冷ややかな視線
• 相手の弁護士の戦意を喪失させる「期待値コントロール」のメカニズム
• 訴訟が「最大のリスク」ではなく「最大のディスカウントツール」になる瞬間

【相談者プロフィール】 

相談者: 医療法人社団 氷壁会(ひょうへきかい) 理事長 雪解 待人(ゆきげ まちと) 
業種 : 医療・介護事業
相手方: 海千・山千(うみせん・やません)(経営の実権を持たない名ばかり社員・元理事)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

法人運営の正常化を目指して、既得権益にしがみつく古参メンバー(海千氏・山千氏)を排除し、私と親族中心の体制にする
「社員変更手続き」
を粛々と進めています。

ところが、彼らは
「俺たちの権利を奪うな」
「俺たちをやめさせたいなら、相応の金銭を要求する」
と猛反発し、
「地位確認訴訟を起こすぞ」
と脅してきています。

彼らに経営する気も能力もないことは明白ですが、もし訴訟になって負けたらどうしようと不安です。 

早期解決のために、彼らが要求する法外な
「解決金」
を支払ってでも、示談で済ませるべきでしょうか?

「どうぞ訴えてください」が最強のカード

雪解理事長、ここでビビってはいけません。 

相手が
「訴えるぞ」
と言ってきたら、満面の笑みでこう返してください。

「ぜひ、そうしてください。裁判所の公正な判断を仰ぎましょう」

なぜなら、今回のケースにおいては、訴訟は
「リスク」
ではなく、
「相手の要求を強制的に値切るためのフィルタリング装置」
だからです。

裁判所は「ゴネ得」を許さない

海千氏・山千氏の目的は何でしょうか? 

理事長のお話を伺い、証拠となりそうな書類をみている限り、
「崇高な医療の理念を実現したい」
わけでも
「経営に参画して汗をかきたい」
わけでもないようですね。

彼らの目的は、ただ1つ。

「カネ」
でしょう。

裁判所という場所は、この手の
「経営する意思も能力もないのに、権利だけ主張してカネをせびる人間」
を、生理的に嫌悪します。

もし彼らが、裁判官の前で、法外な金額をふっかけたらどうなるか。

「あなたは経営に関与しないのに、そんな大金を要求するのですか? それは権利の濫用ではありませんか?」 
と、裁判官から冷たい視線を浴びせられ、心証を悪化させ、自滅するのがオチです。

密室の交渉では
「ゴネ得」
がまかり通っても、法廷という
「理性のリング」
では、不合理な要求はただの
「ワガママ」
として切り捨てられます。

相手の弁護士を「兵糧攻め」にする

さらに、ここからが
「司法エコノミクス」
の真骨頂です。

こちらの
「示談目線(払うつもりの金額)」
が、相手の要求よりはるかに低いことを、訴訟を通じて明確にします。

すると、相手方の弁護士はどう思うでしょうか。 

「この事件、勝てるかどうかも怪しいし、仮に勝っても取れる金額はたかが知れている。成功報酬(歩合)は期待できないな・・・」 
と計算します。

弁護士もビジネスです。 

「儲からない案件」
に、全力を注ぐ弁護士はいません。

期待値が低いとわかれば、相手の弁護士は真剣に戦う意欲を失い、あるいは依頼者(海千・山千)に対して
「この辺で手を打った方がいいですよ」
と、低い金額での和解を説得し始めます。

つまり、訴訟を歓迎することで、相手の弁護士を
「こちらの味方(説得役)」
に変えてしまうのです。

【今回の相談者・雪解理事長への処方箋】

雪解理事長、小切手を切る必要はありません。 

以下の実行を提案します。

覚悟を決めましょう。

1 社員変更手続きをすすめる 

脅しに屈せず、手続きを粛々と進め、既成事実を作ります。

2 訴訟を待つ 

相手が訴えてくるのを待ちます。

訴訟になれば、相手の
「法外な要求」

「常識的な相場」
へと強制的に修正されます。

3 和解で手打ち

相手の弁護士が
「割に合わない」
と悟ったタイミングで、こちらの想定する低い金額での和解を提示し、手打ちにします。

「訴訟」
というプロセスを通すことで、不純物をろ過し、適正価格で平和を買う。

これが、泥沼の争いをスマートに制する、大人の解決法です。

※本記事は、架空の事例をもとに、法人間や個人間の紛争における交渉戦略および訴訟戦術の一般論を解説したものです。 
実際の契約関係や権利義務の帰趨、訴訟の勝敗見込みについては、契約書の文言や詳細な事実関係、裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02244_ケーススタディ:「節税」のつもりが「上場廃止」の引き金に? “名目”の変更が招く、法務ロジック崩壊の恐怖

「役員報酬を、個人の懐に入れるか、自分の資産管理会社に入れるか。単なるポケットの違いだろう?」 
経営者やオーナーは、しばしば税務メリットや資金繰りの観点から、こうした
「おカネのルート変更」
を安易に提案してきます。

しかし、その
「単なる変更」
が、過去に金融庁や証券取引所に対して行った
「命がけの釈明」
を、根底から覆す“自白”になるとしたらどうでしょうか?

本記事では、目先の利益(節税・資金還流)に目がくらみ、自ら
「私は嘘つきでした」
と公言してしまいそうになる経営者を、法務担当者がいかにして止めるべきか、そのロジックを解説します。

【この記事でわかること】

• 「役員報酬」と「経営指導料」の決定的違いとは
• 当局や取引所に対する「建前(ストーリー)」を一貫させることの重要性
• 整合性を無視した「つまみ食い」が、企業の命取りになる理由

【相談者プロフィール】

相談者: 株式会社 メメ・ホールディングス 法務部長 論理 守(ろんり まもる) 
業種 : 自動車関連サービス(東証上場)
登場人物: 剛田会長(メメHDのオーナー会長)、
ゼータ・アセット(剛田会長の個人の資産管理会社)

【相談内容】 

先生、また会長が思いつきで危ないことを言い出しました。 

現在、剛田会長は当社(メメHD)から「役員報酬」をもらっています。 

これを、会長個人への支払いではなく、会長の資産管理会社である
「ゼータ社」
への
「経営指導料」
という名目に切り替えて支払えないか、と言ってきたのです。

どうやら、ゼータ社がメメ株を取得した際の借入金返済や、税務上のメリットを考えてのことのようです。 

「私が指導しているのだから、私の会社に払っても同じだろう」
と会長は言うのですが、法務としてこれを通してしまって良いものでしょうか?

確か、ゼータ社がメメ株を持った時の
「建付け」
が気になっていまして・・・。

「名目」はただのラベルではない

論理部長、会長のそのアイデア、実行すれば
「自爆スイッチ」
を押すことになります。

全力で止めてください。 

経営者にとって、おカネは
「水」
のようなもので、Aというコップ(個人)に入ろうが、Bというバケツ(資産管理会社)に入ろうが、中身は同じに見えるかもしれません。

しかし、法務の世界では、AとBは
「別人格」
であり、その名目は
「法的性質」
そのものを決定づけます。

「救世主」か「支配者」か? 過去のストーリーを思い出せ

ここで重要なのは、過去の経緯です。 

かつて、ゼータ社が御社(メメHD)の株を持った際、証券取引所や当局に対して、どのような
「ストーリー(建付け)」
で説明したか覚えていますか?

おそらく、こう説明したはずです。 

「ゼータ社は、経営支配を目的として株を持ったわけではありません(=純投資)。経営に口を出すつもりはないが、メメ社が『どうしても助けてくれ』と泣きついてきたので、会長職を『しぶしぶ』引き受けたのです」
と。

つまり、ゼータ社は
「物言わぬ、静かなるスポンサー」
という仮面を被ることで、支配株主としての厳しい規制や審査をクリアしてきたはずです。

「経営指導料」=「私は支配しています」という自白

ところが、今回会長が提案している
「経営指導料」
とは何でしょうか?

これは文字通り、
「ゼータ社が、メメ社に対して、経営の指図(指導)を行い、その対価をもらう」
という契約です。

もしこれを締結してしまえば、これまでの
「静かなるスポンサー」
という説明は真っ赤な嘘だったことになります。

「経営には関与しないと言っていましたが、ガッツリ指導して、対価まで取ってますよ」 
と、自ら取引所に自白状を送りつけるようなものです。

これは、
「私はベジタリアンです」
と宣言しながら、堂々とステーキハウスで肉を焼き、その代金を請求書に乗せようとしているのと同じです。

当局の「お目こぼし」を無にするな

もし、御社がすでに対外的な危機を完全に脱し、取引所との関係も良好で、
「もう誰に何を言われても痛くも痒くもない」
という完全無欠の状態(危機は去ったとみる状況)なら、会長のワガママを通しても良いかもしれません(それでも会社法上の利益相反取引等の問題は残りますが)。

しかし、
「あまり下手なことをすると、お咎めがあるかも」
という緊張関係がまだ残っているなら、答えは明白な
「NG」
です。

「節税」

「資金繰り」
という些細なメリットのために、企業の存立基盤である
「コンプライアンス(対外的な説明の整合性)」
を売り渡してはいけません。

【今回の相談者・論理部長への処方箋】

論理部長、会長にはこう伝えてください。

「会長、それは『法的な自殺行為』です。ゼータ社は『物言わぬ株主』という約束で、今の地位にいます。ここで『指導料』を受け取れば、過去の取引所への説明がすべて『虚偽』とみなされ、最悪の場合、上場廃止基準に抵触します。税金を安くするために、会社を潰すおつもりですか?」

経営者は、数字(カネ)の計算は得意ですが、ロジック(理屈)の整合性には無頓着なことが多々あります。

「カネのなる木」
を守るためにこそ、今はその
「果実」
を我慢すべき時です。

※本記事は、架空の事例をもとに、上場企業のガバナンスおよび開示規制に関する一般論を解説したものです。 
実際の役員報酬の変更や関連当事者取引においては、会社法上の利益相反取引規制、金融商品取引法上の開示規制、および法人税法上の取扱いなど、多角的な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士や税理士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02243_ケーススタディ:「強硬な債権者」が会社を潰す前に。事業だけを別船に移し、借金の泥舟を沈める「第二会社方式」という名の“脱出ポッド”戦略

「全額払え。さもなくば差押えは取り下げない」
経営再建中の企業にとって、一部の強硬な債権者は、再建の道を閉ざす巨大な岩石です。

話し合い(特定調停)で解決しようとしても、彼らは聞く耳を持ちません。 

ならば、発想を変えましょう。 

「岩」
をどかすのではなく、私たちが
「別の道」
へ進むのです。

本記事では、強硬な債権者を置き去りにし、事業と従業員、そして大切な資産だけを新しい器(会社)に移して生き延びる、究極の再生スキーム
「第二会社方式」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 「話し合い(調停)」に応じない債権者に対する、次の一手
• 事業を新会社に移し、旧会社を法的に処理する「第二会社方式」のメカニズム
• 交渉決裂の経緯を客観的に示し、再建手法変更の正当性を主張する広報戦略

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ライフ・ストレージ・デポ 代表取締役 内 蔵人(うち くらんど) 
業種 : リサイクルショップ・倉庫業(全国チェーン展開)
相手方: カーライフ・セブン社(大手カー用品チェーン・大口債権者)

【相談内容】 

先生、もう限界です。 

経営不振からの脱却を目指し、裁判所の
「特定調停」
を使って、銀行や取引先とリスケ(返済猶予)の話し合いを進めてきました。

しかし、大口債権者である
「カーライフ・セブン社」
だけが、強硬な態度を崩しません。

「一時金として1500万円払え。さらに毎月100万円払え。それができなければ、社長個人の資産への差押えは取り下げない」
と、無理難題を突きつけてきます。

彼らは調停の席にも着こうとしません。

このままでは、彼らの差押えが引き金となって、会社全体が倒産してしまいます。 

理屈の通じない相手に、どう対抗すればよいのでしょうか?

「話し合い」がダメなら「ルール(法律)」で強制する

堀之内社長、相手は
「話し合い(調停)」
のテーブルに着く気がないようです。

彼らは
「強気でいれば、音を上げて払ってくるだろう」
と高を括っているように見受けられます。

このまま調停を続けても、時間を浪費するだけです。 ここは方針を大転換し、
「法的整理(民事再生)」

「第二会社方式」
を組み合わせた、より強力な外科手術に踏み切るべきです。

借金の「泥舟」から、事業という「宝」だけを移し替える

現在の会社(ライフ・ストレージ・デポ)は、巨額の負債を抱えた
「泥舟」
です。

このままでは、カーライフ・セブン社という
「重り」
によって沈没させられます。

そこで、以下の手順で
「第二会社方式」
を提案します。

1 新会社の設立(受け皿の用意): スポンサーの支援を得て、全く新しい会社(例:株式会社LSD新社)を設立します

2 事業譲渡(宝の移動): 現在の会社から、店舗、在庫、什器、従業員など、事業継続に必要な「中身」だけを、新会社に譲渡します。
この対価(譲渡代金)は、適正価格でなければなりませんが、今の状況なら安価に設定できる可能性があります

3 旧会社の処理(泥舟の廃棄): 中身が空っぽになった旧会社(借金だけが残った会社)は、民事再生法(または破産)の申立てを行い、法的に清算します

これにより、事業は新会社で継続され、カーライフ・セブン社を含む債権者は、空っぽになった旧会社の残余財産からわずかな配当を受け取るだけになります。 

彼らが強硬に回収しようとしていた債権は、法的にカット(免除)されるのです。

再建プロセスの「不成立理由」を明確にする

このスキームの肝は、
「大義名分」
の構築です。

通常、会社を潰して別会社で事業を続けることは
「借金逃れ」
と批判されるリスクがあります。

しかし、今回は違います。

「我々は、特定調停で全債権者と話し合い、誠実に返済しようとした。しかし、カーライフ・セブン社だけが法外な要求をし、差押えを強行したため、調停による円満な解決が不可能になった。事業と雇用を守るためには、この方法しかなかった」
という経緯を明確にするのです。

つまり、特定の債権者を攻撃するのではなく、 
「円満な話し合いによる解決が不可能となった原因は、一部債権者による強硬な回収措置にある」
という客観的な事実経過をステークホルダーに説明することで、今回のスキーム(第二会社方式)の不可避性と正当性を主張し、世間や他の債権者からの批判をかわすのです。

店舗と不動産の処理:居座り戦略

店舗の家賃や、担保に入っている不動産についても、ドライに割り切ります。 

民事再生に入れば、弁済禁止の保全処分により、家賃などの支払いをストップできます。 

その間に、新会社名義で新たに賃貸契約を結び直すか(家賃の踏み倒しと居抜き契約)、あるいは家賃をリスケジュールして新会社が保証する形で継続するか、有利な方を選択します。 

担保付きの自社物件については、銀行が競売にかけるまで、新会社が事実上タダ同然で使い続ける(居座る)ことも、交渉のカードとして有効です。

【今回の相談者・内社長への処方箋】

内社長、もはや
「お願い」
する段階は過ぎました。

以下の手順で、強権的に事業を守り抜きます。

1 スポンサーの確保と新会社設立 

支援表明を取り付け、事業の受け皿となる新会社を早急に設立します。

2 事業譲渡と民事再生の同時決行 

主要な事業資産を新会社に移し、即座に旧会社について民事再生を申し立てます。

これにより、カーライフ・セブン社の差押えは効力を失い(または中止され)、彼らの回収手段を封じます。

3 「経緯」の説明 

債権者説明会等において、
「一部債権者の強硬な回収行動により、特定調停が頓挫した」事実
を淡々と説明し、今回のスキームの正当性を主張します。

「損して得取れ」
と言いますが、今回は
「泥舟を捨てて命(事業)を取る」
局面です。

冷徹な法的戦略こそが、従業員と事業を守る唯一の盾となります。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業再生における第二会社方式および法的整理の手法に関する一般論を解説したものです。 
実際のスキーム実行においては、詐害行為取消権の対象とならないよう適正な対価設定やプロセスが必要となり、高度な専門的判断が求められます。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02242_ケーススタディ:FC契約解除は「泥沼の離婚裁判」と同じ? 違約金の一括回収と“ゾンビ営業”を阻止する、本部法務のための「絶縁状(合意書)」作成術

「加盟店がロイヤリティを滞納している。契約解除だ!」 

経営陣がそう決断した時、法務担当者の仕事は
「通知書」
を送って終わりではありません。

むしろ、そこからが本当の戦いです。 

フランチャイズ契約の解消は、こじれた夫婦の離婚によく似ています。 

「金(違約金)は払いたくない」 
「店(看板)はそのまま使わせろ」
「近所で同じ商売を続けさせろ」

そんな加盟店のワガママを許せば、フランチャイズ・チェーン全体の規律(ブランド)が崩壊します。 

本記事では、不良加盟店との関係を“完全かつ不可逆的”に断ち切るための、違約金回収の鬼手と、解約後の
「居抜き営業(競業)」
を封じ込める鉄壁の合意書作成術について解説します。

【この記事でわかること】

• 「分割払い」という甘えを許さず、違約金を満額回収する交渉ロジック
• 解約後の「看板の書き換え営業(競業)」を法的に封殺する方法
• 複数店舗の解約を1枚の紙で仕留める、実務的な合意書のまとめ方

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ショク・イノベーション・チェーン 店舗開発本部長 辛島 厳(からしま げん) 
業種 : 飲食フランチャイズチェーン本部(居酒屋業態)
相手方: 株式会社 独立ダイニング(複数店舗を運営する加盟店)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

当社のFC(フランチャイズ)に加盟している企業が、看板料(ロイヤリティ)を数ヶ月滞納しています。 

契約に基づき
「解約」
を通告したところ、相手は
「ない袖は振れない。手元に現金がないから、未払い分も違約金もすべて長期の分割払いにしてほしい」
と泣きついてきました。

回収できないよりはマシかと思い、この分割案に応じるべきか迷っています。

しかも、彼らは契約解除後も、看板だけ掛け替えて、同じ場所で、同じメニューで、居酒屋を続けようとしているフシがあります。 

当社のノウハウを盗んだまま、知らぬ顔で商売を続けられては、真面目にロイヤリティを払っている他の加盟店に示しがつきません。 

相手の言う通り分割を認めて良いのか、そして二度と当社の真似をさせないようにするには、どのような
「合意書」
を結べばよいのでしょうか?

「無い袖は振れない」は嘘? 違約金回収は「一括」が鉄則

辛島本部長、相手の
「金がないから分割で」
という泣き落としに、安易に乗ってはいけません。

FC契約の解除において、金銭回収の鉄則は
「一括払い」
です。

なぜなら、契約が切れた加盟店にとって、本部(御社)はもはや
「生殺与奪を握る親分」
ではなく、
「ただのうるさい債権者」
に成り下がるからです。

一度
「分割」
を許せば、数回払って
「やっぱり苦しい」
と踏み倒されるのがオチです。

ここは心を鬼にして、こう交渉します。 

「FC事業としての規律(ケジメ)の問題です。一括で支払わなければ、即座に訴訟提起し、資産の差押えを行います」

プランB:「分割」を認めるなら「鎖」をつける

もし、どうしても相手が資金調達できず、現実的な回収手段として
「分割」
を認めざるを得ない場合は、ただでは認めません。

以下の
「鎖」
をつけて、逃げられないようにします。

1 金利の上乗せ: 遅延損害金(年14%など)を付加し、「待ってやるコスト」を意識させる
2 連帯保証人の徴求: 代表者個人の連帯保証はもちろん、可能なら資力のある第三者を保証人に立てさせる
3 公正証書化: 裁判なしで強制執行できる「執行認諾文言付き公正証書」を作成させる(費用は相手持ち)

「看板だけ変えればいい」という甘えを断つ(競業避止義務)

次に問題となるのが、解約後の
「ゾンビ営業」
です。

FC契約を解除されたのに、看板を変えただけで、中身は御社のノウハウそのままの店を続ける。

これは、御社のブランドに対するタダ乗り(フリーライド)です。

これを防ぐために、合意書には以下の条項を明記し、相手にサインさせます。

• 競業避止: 「同一店舗および隣接都道府県内において、2年間は同種または類似の事業(居酒屋など)を行ってはならない」
• 違反時のペナルティ: 「違反した場合は、加盟金の3倍の違約金を支払う」

「商売あがったりだ!」
と相手は騒ぐでしょうが、
「それが嫌なら、FC契約を継続してロイヤリティを払うか、違約金を積んで綺麗に別れるか、どちらかです」
と突き放すのです。

複数店舗の解約も「一本釣り」で処理する

相手が複数の店舗を運営している場合、契約書ごとに合意書を作る必要はありません。

「1通の合意書」
にまとめてしまいましょう。

ただし、ドンブリ勘定は禁物です。 

合意書の中で、
「●●店分の違約金〇〇円」
「●●店分の違約金〇〇円」
「10月分の未払い看板料〇〇円」
と、債務の内訳を明確に特定してください。

これが、後で訴訟になった際、
「何の金か分からない」
という言い逃れを許さないための証拠となります。

【今回の相談者・辛島本部長への処方箋】

辛島本部長、今回の戦いは
「情け」
をかけた方が負けです。

 当事務所としては、以下の手順で進めることを推奨します。

1 最強の武器「合意解約書(一括払い型)」の提示 

まずは、違約金一括払い、競業避止(同種営業の禁止)、秘密保持を明記した合意書を突きつけます。

ここで
「債務があること」
を文書で認めさせることが、最大の勝利です。

2 分割の条件闘争 

相手が泣きついてきたら、
「商標の使用即時中止」
「業態の変更(看板替えではなく、全く違う商売にすること)」
を条件に、違約金のみ分割を検討します。

ただし、連帯保証人は必須です。

3 違反時の即時提訴 

もし合意後に隠れて類似営業をしたり、支払いが遅れたりしたら、即座に内容証明で警告し、訴訟へ移行します。

そのための
「債務承認(合意書)」
なのです。

FC本部の威厳を守るため、最後まできっちりと
「ケジメ」
をつけさせましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、フランチャイズ契約の解約実務における違約金回収および競業避止義務に関する一般論を解説したものです。 
実際の競業避止義務の有効性(期間・場所・業種の範囲)は、裁判所の判断により無効とされる場合もあり、事案ごとに慎重な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
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