00324_破産直前期に横行するドサクサ紛れの違法行為とその抑止システム

企業の経営が傾き、破産までカウントダウンの状態になると、ドサクサ紛れの不当な行為が横行するようになります。

まず、破産する企業の社長などは、将来の生活や再起に備えて少しでも多くしようと、あの手この手で財産を隠匿しようと画策します。

また、債権者の方も、1円でも多く自己の債権を回収しようと、脅し、すかし、だまし、なだめながら、強硬な取立てを試みようとします。

このような事態がそのまま放置されるとすれば、
「裁判所が後見的に介入し、多くの債権者に、できるだけ多額かつ平等の回収を」
という破産手続の目的が達成できなくなります。

そこで、破産直前に行われがちな
財産の投げ売りや叩き売り(詐害行為と呼ばれます)
や、
抜け駆け的回収行為(偏頗<へんぱ>行為とよびます)
については、後日、そのような行為の効力を取り消されたり、あるいは否認されたりして、買い取った財産や支払を受けた金銭を返還させる制度が設けられています。

これが破産管財制度と呼ばれるものです。

企業が破産すると、“社長交代”が起こります。

株主総会や取締役会といったきちんとした社長交代手続きもなく、実質的・事実上の政権交代が、いつの間にか、静かに行われます。

すなわち、それまで企業を取り仕切っていた社長が一切の権限を喪失し、代わって、裁判所が指定する弁護士が、事実上、その企業のトップに就任することになります。

この弁護士のことを、破産した企業の財産を管理する人、すなわち、管財人と呼びます。

そして、管財人は、破産直前期のドサクサ紛れの違法行為を調査し、
「レッドカード」
を出して、本来破産企業が保持しておくべき財産を取り戻す権限を有しています。

これが、否認権制度と呼ばれるものです。

すなわち、債務者が支払できなくなった時点あるいは支払を停止した時点を基準として、これより後になされた債務の支払について、支払不能状態を知っていながら支払を受けることは、破産管財人による否認対象行為とされており、このような行為を発見した管財人は、
「御社が債務の支払を受けたこともこれに該当するので、その効力を否認する。支払が無効となったので、当該支払により受けた金銭を返せ」
という主張をしてくる、というわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00323_マイカー通勤制による使用者責任リスク

従業員にマイカー通勤をさせると、経費削減や時間短縮につながることがあり、特に自動車での移動頻度が高い地方の企業等においては、マイカー利用を前提とした通勤体制を構築する企業も多いようです。

しかしながら、マイカー通勤を採用することは、メリットばかりではありません。

マイカー通勤する従業員が事故を起こしたことによって従業員個人が負うべき損害賠償義務を、企業が負わされるリスクが存在するのです。

「江戸時代であれば、子の責任を親が負うってことはあったかもしれない。しかし、現代の私的自治・自己責任原則を基本とする近代法の下で、子供ですらない従業員の不始末を会社が負うなんてことはあるはずないだろ!」
とお考えの向きもいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、民法715条において
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」
と定められています。

すなわち、
「たくさんの従業員を働かせることにより、大きく儲けている企業については、当該従業員の業務遂行中の不始末についても責任を負うのが公平だ」(報償責任の法理)
という考えに基づき、民法上の自己責任原理に大きな修正が加えられているのです。

もちろん、民法715条は、従業員がひき起こしたあらゆる賠償義務を企業が負担せよ、といっているわけではなく、企業が賠償義務を負うべき範囲を
「その事業の執行について第三者に加えた損害」
に限定しています。

しかしながら、裁判の動向をみると
「その事業の執行について」
の概念は拡張の一途を辿っており、
「私生活」か
「勤務中」か
微妙な場合、ことごとく
「勤務中」
とみなされ、企業側に賠償責任を負担させる方向での司法判断が増加しています。

また、
「マイカー通勤をタテマエでは禁止していたのだけれども黙認していた」
というような事例においてすら、マイカー通勤中の事故について、会社に賠償責任を負わせた裁判例も存在します。

このように、マイカー通勤を認めた企業については、通勤中に従業員が起こした事故についてすべからく連座させられるリスクが発生することになるのです。

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00322_事業者団体(業界団体)の自主規制が独占禁止法違反となる場合

学校のイジメや村八分ではありませんが、特定の企業が集まって、部外者企業を除け者にしていじめ倒すようなことをする場合があります。

その際、事業者団体の加入企業による個別のカルテルや各種不公正取引行為だけでなく、事業者団体そのものが主体となった反競争的行為も厳しく取り締まられることになります。

例えば、安全審査基準を設けること自体は問題ないとしても、安全性向上に名を借りて、非会員企業の商品を事実上市場から締め出す行為は、事業者団体による不当な競争制限行為(独禁法8条1項1号)や、事業者団体による間接の取引拒絶(独禁法8条1項5号、一般指定1項2号)に該当する可能性があります。

この場合、事業者団体としては、
「安全対策のためのやむを得ない措置」
といった弁解を試み、
「消費者の安全安心を考えた結果、たまたまそうなったのであって、反競争的意図はない」
という主張をしがちです。

この種の弁解が通用するか否かは、
1 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
2 事業者間で不当に差別的なものではないか
3 正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
といった各要素が考慮された上で、公正競争阻害性が判断されることになります(公正取引委員会「事業者団体の活動に関するガイドライン」参照)。

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00321_企業の集まり(事業者団体)を独占禁止法が目の敵にする理由と背景

憲法では、集会・結社の自由が人権として保障されていますが、企業が集まる場合、
「経済活動の憲法」
たる
「独占禁止法」
は、保障しているどころか、あまり快く思わず、むしろ、目の敵にしているような状況です。

例えば、ある事業者団体が、
「製造・販売業者の団体が製品の安全確保のため、自主的に厳しい安全基準を課す」
として、高圧的な自主基準を定めて基準を守れない部外者を排除するようなことをやりだした場合、建前としては一見聞こえはいいですが、
「団体の意向に沿わない製品の駆逐行為」
という反競争的な意図が透けてみえます。

このような自主規制の名を借りた弱い者イジメは、独占禁止法違反の問題が生じます。

独占禁止法は、
「経済活動の憲法」
とも呼ばれ、企業の営業・販売活動の法務に関わる重要な法令ですが、規制の対象は企業だけではありません。

すなわち、企業の集まり(独占禁止法では、「事業者団体」といいます)についても、独占禁止法の規制が及びます。

独占禁止法上の
「事業者団体」
とは
「事業者としての共通の利益を増進することを主な目的とする複数の事業者の結合体」
ですが、特に、登記や登録等がなくとも、任意組合や、単なる寄り合い所帯もこれに該当します。

「この種の団体は反競争行為の温床となる可能性が高い」
という認識を前提に、このような隠れ蓑を通じた独禁法違反行為も厳しく取り締まるというのが規則の趣旨のようです。

独禁法は、このように、性悪説に立って 企業のやることなすこと、全て悪意に解して、悪さを企図・計画するはるか手前の段階で
「釘を刺す」
ような規制をします。

それほど邪悪な思考をしない企業にとっては、いい迷惑ですが、特に独禁法の祖国アメリカでは、企業がやりたい放題やって社会に悪影響を与えた歴史上の事実があったことから、
「ちょっとヤリ過ぎと思われるくらい、“ド手前”からシメといて、ちょうどいい加減になる」
という規制スタンスに立っているのです。

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00320_原価割れ販売でも、独禁法上の「不当廉売」に該当しない場合

取得原価を下回る対価での販売(「原価割れ販売」)は不当廉売行為に該当する可能性が高いといえます。

とはいえ、原価割れ販売がすべて違法というわけではなく、例外的に不当廉売に該当しないと解釈されない場合があります。

市価が相当下がってしまった場合の値引き販売、季節遅れ商品や流行遅れ商品のバーゲンセールなど商習慣上妥当と認められる場合には、期間や対象商品が一定であり、公正な競争への影響が小さい等といった付加的事情等も勘案し、廉売は廉売でも
「不当」
廉売ではない、とされる場合があります。

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00319_一生懸命、廉売(安売り)したら、なぜ公取委に怒られるのか?

一般に、安売りは競争を活発化させ国民の実質的所得の向上に貢献しますし、何より消費者にとってメリットがありますので、公取委からホメられてもいいような話です。

ところが、過激な安売りをすると、当該事業者は、不当廉売したという理由で、いきなり公取委から文句をいわれることがあります。

「ホメられてもいいはずの安売りをしたら、なぜ、公取委に怒られるのか、ワケがわからない」
という安売り事業者の気持ちも理解できます。

しかしながら、一時的に損失が出ることを覚悟で体力にモノをいわせて原価割れ販売等が行われた場合、対抗する気も失せたライバルは、そこに踏みとどまって勝負せず市場から退出していくことになります。

そうなると、競争が活発化するどころか将来的には競争はなくなってしまいます。

そして、ライバル全員を市場から追い出した後、
「体力勝負の原価割れ販売を続けて生き残った事業者」
は、今度は高い価格で商品販売して、原価割れ販売によって被った一時的な損失を容易に取り返すことができます。

このように、競争自体はいいとしても、
「行き過ぎた」
安売り行為は、独占禁止法の意図する
「効率性に基づく競争(能率競争。価格と品質に基づく競争)」
ではなく、
「資本力・体力勝負の競争(零細業者を根絶やしにするための暴力的イジメ)」
を助長することにつながりかねません。

このようなことから、独占禁止法上、
「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為 」(不当廉売) 
は、違法とされているのです(一般指定6項)。

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00318_「内部通報者」が「外部通報者」に豹変するリスク

公益通報者保護法は、公益目的で企業内部の非違行為を外部公表した従業員(公益通報者)を企業が不当に解雇することを禁じています。

この法律は、公益通報者を企業の報復的な解雇から保護することにより、従業員等が、解雇などの不利益を恐れずに企業の内部の不正等を通報することを可能としていますが、この法制度により、企業内で発生した問題が重篤化する前に早期に是正されるべきことが期待されています。

例えば、
「基準値以上の毒性を含む廃液を排出している工場がある場合、重篤な公害問題に発展する前の段階で通報を行う機会が保護されていれば、初期の段階で公害対策に取り組むことが可能となり、国民の健康を守ることができる」
といったものが公益通報者保護法の意図するところといわれています。

公益通報者保護法は、
「従業員等が、企業が設置した内部通報窓口等に通報すること」
を保護するだけではありません。

せっかく通報者が公益通報をしたにもかかわらず、一定の期間が経過しても通報先が何の調査も行わないような場合などには、通報者が
「その者に対し通報対象事実を通報することがその発生、またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」
に通報することを認めています。

要するに、企業内部の通報窓口に通報しても放置されたり、取り合ってくれなかったりした場合、
「企業の不正等により発生する被害やその拡大を防止するための一定の影響力を有する者」、
すなわちマスコミや政治家や圧力団体等に駆け込んで、企業内部の不正をベラベラしゃべっても問題ない、と法が積極的に認めているのです(これらを「内部通報」に対し、「外部通報」と呼ばれております。公益通報者保護法3条3号等)。

無論、法は
「外部通報を行ったことを理由とする解雇」
も禁止することで、通報者に対する手厚い保護を図っております。

なお、通報先が何の調査も行わない場合のほか、通報先から解雇などの不利益な扱いを受ける可能性が高い場合や、証拠の隠滅がされてしまうなどの危険性が高い場合には、即刻
「外部通報」
することも許されています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00317_「契約上の地位の譲渡を、相手の承諾なく行う」ことを可能とする、戦略的手法

契約上の地位の譲渡については、一般に他方当事者の承諾が必要とされており、基本的には、勝手に契約上の地位を第三者に売ることは困難です。

しかしながら、方法を工夫すれば、承諾なくして、契約上の地位を売却することは可能です。

例えば、契約を引き受けるための100%出資会社(子会社)を設立し、契約を締結します。

そして、契約が軌道に乗った段階で、契約上の地位ではなく、
「契約上の地位を有する、当該子会社の株式全部」
を第三者に売却してしまえばいいのです。

自社で保有する当該子会社の株を誰に売ろうが自由ですし、株主に移動があっても契約当事者が当該子会社であることに何ら変わりはありませんので、契約相手としては一切文句がいえません。

もちろん、このようなことをされないような対抗手段もあります。

子会社株式全部譲渡という姑息な方法で、
「無断での契約上の地位の譲渡」
をさせないためには、チェンジ・オブ・コントロール条項が有効なリスクヘッジとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00316_取締役会の賛同を得るつもりで開始した友好的MBOで、根回し不足で取締役会が造反した場合のリスク

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣による会社買収のことをいいますが、上場にまつわるさまざまなコストを忌避して、創業社長が上場廃止策として実施するケースが増えてきました。

「大変な思いをして上場しておきながら上場廃止にする」
など何とももったいない話ですが、逆に言えば、そのくらい上場維持のための直接間接の負担や敵対的買収リスクが大きくなっているのだといえます。

MBOを実施するといっても、創業社長等の筆頭株主がポケットマネーで市場に出回っている株式を買い戻すのは困難ですので、金融機関から借り入れたり、共同でTOBを実行したりすることとなります。

協力してくれる金融機関はリスクを嫌いますので、契約上
「TOBについて取締役会が異議なく賛同表明すること」
をファイナンスや投資の条件として要求してきます。

創業社長が取締役会を押さえ切れず、取締役会がTOBへの協力を拒むと、MBOの契約(実際はTOBのファイナンスや共同買付契約)上、金融機関が直ちに手を引くことを定めておりますので、MBOはたちまち頓挫することとなります。

2007年に社長として招聘した元バレーボール日本代表選手を解任するという騒動を起こした婦人用下着販売会社のシャルレですが、同社創業家は、2008年9月、モルガン・スタンレーグループと共同してMBOを提案しました。

当初、シャルレ社取締役会は、このMBO提案について、TOB価格の妥当性も含め、賛同していました。

ところが、その後、取締役会が豹変します。

「TOB価格が不当に安い等の内部通報が相次いだ」
として、外部弁護士を含む第三者調査委員会を立ち上げます。

そして、同委員会が
「利益相反行為があったとの疑念を払拭できない」
との調査結果を提出したことをもって、シャルレ取締役会として賛同表明を撤回し、創業家と真っ向から対立する構えを見せたのです。

モルガン・スタンレーとの契約上、
「シャルレ社取締役会の賛同」
が共同買付実行の条件となっていたため、結局TOBが不成立となり、ここにMBOが頓挫することとなったのです。

この後の詳細は不明です。

MBO・TOBが頓挫するだけであればいいですが、
「転んでもタダでは起きない」
外資系証券会社のことですから、取締役会が賛同表明せずにTOBが失敗した場合、MBO実施当事者(証券会社からファイナンスを受けた創業家)が成功報酬相当額の違約金を払わされることもあり得ます。

さらに、もし株価が下落した場合、混乱によって不測の損害を被ったとして、株主から代表訴訟を提起される危険性も考えられます。

いずれにせよ、MBOをやるならやるで、ボードをしっかりコントロールしておくべきであり、さらに言えば、波乱要因となるような無茶なTOB価格を設定したりしないように注意・警戒すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00315_課徴金についての審判手続開始決定通知書が来た場合、おとなしく受諾答弁すべきか、無駄とわかっていても悪あがきして争っておくべきか?

金融庁は、有価証券報告書に虚偽記載があったとして、株式会社IHIに対し、2008(平成20)年6月に審判手続き開始決定をしました。

課徴金についての審判手続開始決定通知書が金融庁長官より発出され、これを受けた IHIは、審判手続きで争わず、法令違反事実や納付すべき課徴金額を認める答弁書を提出したことから、金融庁は同年7月、約15億9千万円の課徴金納付命令を決定しました。

ところが、その後、 IHIの株主が
「有価証券報告書の虚偽記載の発覚が原因で同社の株価が下落し損害を被った」
として同社に対して総額1億4千万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

IHIは、この裁判において全面的に争う姿勢を示したものの、
「虚偽記載の有無について長期間争えば企業価値が低下し、かえって株主のためにならないと思い課徴金納付命令を認める答弁をしたが、虚偽記載を認めたわけではない」
等という相当苦しい弁解を強いられる羽目に陥りました。

審判手続きといっても、弁護士を代理人として選任し、自己に有利な証拠も提出して徹底して争うことができますし、いったん、課徴金納付命令が発令された場合であっても、これをさらに裁判所で争うことも可能です。

どんなに状況が不利であっても、認めてしまうと、後日、株主からの賠償請求訴訟で、弁解ができず、サンドバッグ状態になりかねません。

株主代表訴訟リスクを考えると、審判段階、さらにはその後の審決取消訴訟も視野に入れてとことん争うべき、というのが、正解ではないにせよ、現実解・最適解というところになるかと考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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