00275_従業員のメール・パソコン監視の可否

従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングについては、
「会社の資産であって私物じゃないから、会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然」
という論理も成り立ち得ます。

しかし、モニタリングの可否については裁判例で結構争われており、
「会社による利用状況のモニタリングが無条件、無限定に可能」
というわけではない、というのが一般的見解です。

裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所2001<平成13>年12月3日判決)では、
「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
とされており、判例上、原則として、従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングがプライバシシー権侵害となり得ることのルールが採用されています。

とはいえ、上記裁判例では、
「従業員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく、従業員の電子メールの私的使用に対する会社の調査に関する基準や指針等、会社による私的電子メールの閲覧の可能性等が従業員に告知されたこともない・・(中略)・・ような事実関係の下では」
ということ“も”述べられています。

つまり、
「何の前触れも告知もなく、いきなり、興味本位で覗き見するようなタイプのモニタリングはプライバシー権侵害の問題となり得る」
ということです。

以上からしますと、従業員からあらかじめ
「必要かつ相当な範囲においてネットワーク利用状況をモニタリングを了解する」旨
の文書を徴収しておくと、不祥事調査にまつわるプライバシー権侵害云々のクレームを逓減させることが可能となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00274_「ライバルは特許侵害しているぞ!」と公言することが、競争者営業誹謗行為(不正競争防止法)とされるリスク

当方が特定の技術に関し特許権を有していて、ライバルメーカーの製造販売した商品が当方の商品と似ているからといって、直ちに特許権を侵害したことになるかは定かではありません。

すなわち、特許権があるといっても特定の技術範囲にしか及ばず、しかもこの範囲は、新規性・進歩性という要件をクリアする点から、出願後登録を得るまでの間に著しく狭められてしまうことが多々あります。

また、特許庁がお墨付を与えた特許権が裁判所でいきなり無効と判断されてしまうこともあります。

加えて、一般人の感覚で
「特許権が侵害された」
と思っていても、特許の範囲をよく観察すると、
「対象商品はギリギリ特許を侵害していなかった」
なんていうこともザラにあります。

対象商品が
「特許を侵害している」
との主張を裁判所に訴え出るならともかく、いまだ公的に確定していない
「特許侵害」
という事実を、あたかも特許侵害が既定の事実であるかのように装い、ライバルメーカーへの間接的な圧力を加える目的で取引先に触れ回るというのは不正競争防止法で禁止されている
「虚偽の事実を告知して競争者の営業を誹謗する行為」
と判断される危険があります。

特許権を侵害されたと考えた企業がライバル企業の取引先に
「特許権侵害の恐れあり」
との警告状を送付した事件で、競争者営業誹謗行為に該当するとして、通知の差し止め、損害賠償に加え、謝罪広告まで認められた裁判例もあるくらいです。

勇み足で過激なことをすると、逆にこちらが詫びを入れさせられる、というのが不正競争防止法の世界です。

別の高裁判決では、
「仮処分申立自体に告知性はなく営業誹謗行為には該当しない」
としつつ、
「申立行為や記者発表は民法上の不法行為になる」
と判断しています。

前述のとおり特許庁の判断を裁判所がひっくり返すことが特許法上認められており、
「特許権侵害を訴え出たら、逆撃をくらって、裁判で大事な特許がつぶされた」
なんて悲劇もよく聞きます。

真似られた、パクられた、と怒って感情にまかせて激烈な行動に出る前に、取りあえず、特許の有効性と侵害性の有無を今一度冷静かつ保守的に判断すべきです。

仮に、販売差止等を裁判所に訴え出るとしても、まずは競争者だけを相手に仮処分申立をした方が無難です。

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00273_ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない、経済取引における一般法理・不正競争防止法

不正競争防止法という法律を聞いたことがある方も多いと思いますが、
「どんな法律か」
と聞かれても、その特徴を一言で答えるのはなかなか難しい法律です。

それもそのはずで、不正競争防止法は、その名のとおり、経済社会における不正な手段を弄した競争を防ぐ目的の制定された法律で、経済取引における一般法理ともいうべき法律であり、いろいろな行為を広汎に規制しています。

デッドコピーを禁止しているかと思えば、企業の営業秘密を保護したり、ブランドの保護をしてみたり、はては外国公務員への贈賄を禁止したり、ある意味
「ごった煮」
のような法律です。

逆に言えば、ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない法律で、設例のケースも、不正競争防止法の競争者営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)の禁止に該当しないかどうか慎重に検討しておかないと思わぬところで足をすくわれかねません。

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00272_判決によらず、裁判を強制終了させる方法

普通、裁判の解決というと、
「勝訴、敗訴いずれかの判決が出されて一件落着」
ということをイメージされる方が多いと思いますが、判決以外にも訴訟が終了する場合というのがあります。

といいますか、実際の裁判では、提起された訴訟のおおよそ半数が判決以外で終了するといわれています。

判決以外の訴訟終了の場合としては、放棄、認諾、和解の3つがありますが、代表的なものは和解による訴訟終了です。

和解といっても、裁判所での和解はただの話し合いとは違って、その内容は弁論調書という公文書に記載され、和解で定められた権利は判決で言い渡されたのと同様の強制力が生じます。

さらに、和解の後に気が変わっても、和解を不服として高裁に持ち込んだり、再度訴訟を提起することができなくなりますので、和解には判決に匹敵する事件解決機能があるといえます。

ちなみに、裁判所も、
「解決した事件数で出世が決まる」
といわれるほどノルマが厳しいようですが、判決も和解も
「いっちょ解決」
としてノルマ達成上のカウントがされるそうです。

和解の場合、判決書を書かなくてもいいし、控訴で争われて高裁とかからダメ出しされることもないので、裁判所からは大変歓迎される訴訟終結方法のようです。

和解は相手がウンといわないとできませんが、相手の意向に関係なく訴訟を終わらせる方法として、放棄と認諾というのがあります。

請求の放棄というのは、原告が訴訟をヤメてしまうことですが、これにより訴訟が強制的に終了します。

「せっかく印紙を貼って訴訟まで提起したのに何で放棄とかする必要あんの?」
と不思議に思われるかもしれませんが、
「ちょいとビビらせて和解金せしめようと訴訟提起したものの、相手から予想外の猛反撃に遭ってしまい、これ以上事実を調べると、こちらが隠しておきたいことまで洗いざらい暴露されてしまうので、その前に強制終了」
みたいなケースで使われることがあるようです。

認諾は、放棄と逆で、被告が原告の請求をすべて認めてしまうことです。

いずれも、一方当事者が
「相手の要求を全部呑みます」
という以上、裁判所がお節介焼いてあれこれ事実を調べるのは無駄ですから、放棄ないし認諾後は、裁判は直ちに終了してしまいます。

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00271_節税規模に応じた税務処理:損金経理までの前提環境作り

それでは、一体どこまでのことをすれば、税務当局として
「債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった」
と認めてくれるのでしょうか。

もし、簡単に巨額の貸し倒れが認められるとすると、役員・家族・友人・知人にどんどんお金を貸し、片っ端から貸し倒れということにしてしまえば、寄付や賞与認定を免れる不当な脱税が横行することとなります。

とはいえ、夜逃げした零細業者に対する数十万円の債権にまで、逐一面倒くさい手続きを要求されたらたまったもんじゃありません。

つまるところ、税務当局をしかるべき形で納得させる状況を作っておくべきというほかなく、現実には
「損金処理を考えている債権額の規模に比例して、適正と考えられる、回収行動や債務者の資産状況検証を行う」
ということが推奨されます。

規模の大きい債権で、しかも貸し付け年度内に貸し倒れたことにする状況の場合、単に、
「夜逃げしたようです。督促状が届きません」
というだけでは、税務当局が損金経理を認めてくれない可能性もあります。

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00270_債権貸し倒れによる損金経理

公開企業や公開に興味のない企業(要するに、税金の支払いを極力抑えたいと考えている非公開企業)においては、決算期末が近づき、当期に多くの利益の計上が見込まれると、何とかかんとか税務上認められた方法で損金を大きくして、無駄な税金を払わない方索を思案します。

損金計上による節税手法の中で、債権貸し倒れによる損金経理というものがあります。

債権の貸し倒れとは、借金や債権が踏み倒されたことを言いますが、法人税法基本通達では、法的な整理の開始に伴う債権の消滅や長期債務超過の状態に伴う債権放棄により債権が消滅したと認められる場合(通達9ー6ー1)や、債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった場合(通達9ー6ー2)に損金経理を認めてくれます。

債務者お金を返さない理由として、債務の存在や額を争っているから、という場合もありますが、返したくてもスッテンテンになってしまってお金が返せないという場合は、無駄な回収努力を続けるよりも、貸し倒れに基づく損金経理をして、その分法人税の支払いを減らしたほうが容易かつ賢明な選択といえます。

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00269_事業承継を行うべき3つの課題クリアポイント

事業承継のポイントの1つめは、誰に承継させるかという問題です。

かつては、事業承継といえば、身内に承継させるのが相場でしたが、最近では、番頭さん格の役員への承継(MBO)や、事業をそのまま第三者に譲り渡す(M&A)ことも検討されるようになってきました。

ポイントの2つめは、会社法の活用です。

会社法は、非常に使い勝手のいい事業承継のツールといえます。

例えば、議決権制限株式、無議決権株式、黄金株を活用することにより、個々の承継ニーズに応じた企業オーナーシップをカスタムメイドで設計・運用できます。 

ポイントの3つめは、税務課題と相続問題への配慮です。

事業承継で厄介なのは、当面の承継が効果的に抑止できたとしても、株式譲渡や特殊な株式発行に絡んで非常な税負担が発生したり、オーナーの死後に親族と後継者の間で
「血で血を洗う相続紛争」
が生じたりするので、注意が必要です。

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00268_事業承継を行う必要性と、乗り越えるべき様々な課題

最近、事業承継がクローズアップされてきたのは、戦後創業された数多くの中小企業の後継問題が原因といわれています。

戦後、団塊の世代が多くの中小企業を創業しましたが、間もなくこの世代の経営者が大量かつ同時にリタイヤ期を迎えます。

大抵の中小企業の経営者は、後継のことを考えずに最後まで現場に踏みとどまって、がむしゃらに猛進されますが、いざ脳梗塞や心筋梗塞でブッ倒れたときや死んだときには、相続人や株主の利害対立が先鋭化し、求心力を失った会社組織が、無残に崩壊することになります。

また、事業承継をした途端、後継者が無謀な経営方針を取り始め、元オーナーの制止を聞かず暴走するケースもあります。

事業承継は、このようなドロドロとした人間ドラマに加え、税の問題、会社法の問題、相続の問題が複雑に絡むのです。

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00267_並行輸入品の修理を持ち込まれた正規ディーラーとして、修理拒否して「安く並行輸入品を買った小賢しい消費者」に意地悪する場合のエクスキューズテクニック

公正取引委員会としては、並行輸入を保護する観点から、
「並行輸入品を排除しようとする正規代理店」
サイドを厳しく取締まろうとしております。

そして、そのひとつの表れとして、公正取引委員会は
「正規代理店が並行輸入品をメンテナンス拒否など差別的に取り扱う場合、独占禁止法上違法となり得る」
などとしています。

すなわち、公正取引委員会が作成する流通取引慣行ガイドラインには、
「総代理店以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難である場合において、正規品でないことのみを理由として修理拒否することは、正規品の価格維持のために行われている不公正な取引であり、一般指定15条に定める競争者に対する取引妨害として、違法」
であるという趣旨のことが書かれています(第3部第3―2(6))。

正規ディーラーにとっては噴飯ものの話ですが、並行輸入品ユーザーの修理要求は、公正取引委員会の示す独禁法運用に則ったものであり、十分な法的根拠があり、原則として、正規ディーラーは、修理拒否して
「安く並行輸入品を買った小賢しい消費者」
に意地悪することはできない、ということになります。

とはいえ、原則には常に例外があるように、前記の公正取引委員会のルールにも例外があります。

公正取引委員会としても
「合理的理由があれば、正規代理店が並行輸入品の修理を拒否し得る」
としています。

具体的には、
「代理店の社内資源の制約上、自社販売品の修理対応だけで手いっぱいで、並行輸入品の修理の対応は現実問題としては困難である」
あるいは
「メーカーは、修理部品や修理マニュアルを海外ユーザー向けにも提供しており、並行輸入業者や個人ユーザーがこれらを入手して修理することは、面倒くさいが、困難というほどではない」
から
「修理を拒否するのは合理的理由に基づくもので独禁法違反ではない」
というロジックが成り立つような状況の整備が絶対不可能、というわけではありません。

このような合理的理由に基づき、高潔かつエレガントに、心の底から、悔しく残念がって修理拒否をし、意図したわけではないにせよ、
「安く並行輸入品を買った小賢しい消費者」
には、結果的に、意地悪い対応になっちゃう状況が出来しました、ということで、何とかエクスキューズの外形が整えられそうです。

とはいえ、公取委とモメるのは必至であり、思い切って価格を下げるとか、正規品ユーザーならではの付属サービス特典を強化する(オーナークラブのサービス内容の充実)とか、商売面でガチンコ勝負し、価格競争・品質競争に勝利し、並行輸入業者をビジネス面で正々堂々と駆逐することを考えるべきかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00266_国際ビジネス展開秩序を混乱させる「並行輸入」を巡る、「メーカー・正規ディーラー」VS「公取委・業者・消費者」の仁義なき抗争の構図

海外商品を輸入・販売する場合、一般的には、メーカーの現地法人や、メーカーと正規の販売契約を結んだ代理店によって、輸入・販売されます。

しかし、商品の内外価格差が大きい場合、本ケースのように他の業者や個人輸入代行等が海外から商品を直接輸入し販売するという方法が取られることがあります。

これは、複数の輸入ルートが並行することから、並行輸入といわれます。

並行輸入品は、その安い価格の代償として、返品や購入後のメンテナンスなど、アフターケアが不十分な場合があることはよく知られていますし、並行輸入品を買っておいて、正規代理店に持ち込んで修理を依頼しようなんて、随分図太い話です。

しかしながら、公正取引委員会としては、
「並行輸入品は価格競争を促進させる効果を有する」
との思想を有しており、その意味では並行輸入を保護するスタンスを取っております。

要するに、メーカー及び正規代理店としては、きちんと秩序だった国際展開をしたいし、各国の価格についても、地域の実情に応じて、最適な価格で販売したい、という経済的狙いをもっており、並行輸入を行う業者は、単なる秩序撹乱者として、
「邪魔で面倒な奴ら。消えてなくなっちまえ」
と思い、あの手この手奥の手使いながら、並行輸入業者や、並行輸入品を買った連中に嫌がらせをしようとします。

他方で、独禁法の規制当局である公取委は、
「どんな形にせよ、価格と品質の競争が激しくなれば、市場と消費者にとってはプラスであり、この競争の邪魔をするメーカーと正規ディーラーの方が不届き千万」
という感覚です。

ここで、並行輸入をめぐり、
「メーカー・正規代理店 VS 公取委・並行輸入業者・並行輸入品を買った消費者」
というタッグによる仁義なきデスマッチが展開される、という構図が浮かび上がってくるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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