00129_企業法務ケーススタディ(No.0083):自爆出願にご注意

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社太陽広場 中野 訓 (なかの くん、49歳)

相談内容: 
ウチのヒット商品
「リゾートラバー」
について相談させてください。
この商品、単に腕に着けるだけのゴム製のアクセサリーで見た目も全然お洒落じゃないんですけど・・・。
ほら!
匂いません?
すごい良い香りでしょ?
けっこう人気なんですよ。
ただ、実はこれ、けっこう簡単に作れちゃうんです。
高い値段で売るために、素材のゴムに特殊な製法があるような雰囲気でPRしてるんですけど、本当のところ、どんなゴムでもできちゃうんですよね。
香り付けのほうも、コーラとラー油と大きな玉ねぎを・・・、おっと、いかん。
とにかく、そこらへんのお店で手に入るような材料とか薬品を混ぜた液体の中にテキトーなゴム製品を1週間も漬け込んでおけば、誰でも作れちゃう~みたいな。
だから、この製法、絶対バラしちゃダメなんです。
そうしたら、先日、中堅パソコンメーカー法務部の勤務経験のあるウチの八原(ぱっぱら)法務部長が、
「社長! そういう知的財産は、特許を出願しておかないと危ないですよ」
っていうんです。
確かに、他社にマネされたり、先に特許出願されちゃったら大変だし、やっぱり早急に出願しておいたほうがいいですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:自爆出願の代
特許権、実用新案権、意匠権及び商標権を総称して、産業財産権(かつての工業所有権)といいます。
近年のわが国の
「知的財産戦略」
のお陰で、特許権をはじめとする産業財産権は一躍脚光を浴び、マスコミ等が騒ぎ立てる
「発明で大金持ち」
のシンデレラストーリーと相まって、
「何でもかんでもとにかく出願」
という風潮が高まりました。
しかしここ最近、こうした状況に疑問を呈する声が上がり始めました。
といいますのも、特許権をはじめとする産業財産権に共通する特徴として、権利として保護されるためには
「登録」
が必要であるという点が挙げられます。
この
「登録」
という制度は、裏を返せば
「企業機密を世界中に暴露する」
ことを示しています(ただし、意匠権については3年以内に限り登録内容を秘密にする制度があります)。
確かに、登録された権利を侵害して商売する企業などには、利用の中止を求めたり、利用許諾の対価を請求したりできますが、単に家庭内で利用する場合等、個人使用の範囲にとどまっている限りは利用の中止や対価を求めることができません。
つまり、一般消費者を対象とする
「誰でも作れちゃう」
商品の作り方を出願して、これが一般に公開された場合、たとえ他企業がマネしなくても、商品の売れ行きは落ち込んでしまうわけです。
さらに、知的財産権の属地主義(登録した国の国内のみしか効力が及ばないこと)の原則のお陰で、わが国でせっかく出願・登録されても、海外で別途出願の手続をとらなければ、海外ではパクられ放題となってしまい、これを避けようとして、たくさんの国で出願すれば、それだけ多額の費用が掛かります。
「わが国での無計画な出願の乱発が、かえってわが国の貴重な知的財産流出の深刻な要因となっている」
との批判がなされている所以です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:営業秘密の重要性
それでは、今回の
「リゾートラバー」
の製造方法のような企業秘密は、法律上の保護を一切受けられないのか、というと、そんなことはありません。
ここで登場するのが企業法務の伝家の宝刀、不正競争防止法に規定される
「営業秘密」
です。
あまり知られていませんが、
「営業秘密」
は広い意味での
「知的財産権」
に含まれるもので、産業財産権に負けない重要なものです。
「営業秘密」
に該当する情報は、法律上の手厚い保護が与えられており、営業秘密の不正な取得・使用・開示行為に対しては、民事上、差し止め請求や損害賠償請求が認められている上、悪質なものには刑事罰まで課されます。
「営業秘密」として保護される対象は、特許権や実用新案権等と異なり大変幅広く、およそ事業に有用な情報であればOKです。
1 秘密として管理されている
2 有用な情報であり
3 公然と知られてはいないものであれば
「営業秘密」
としての手厚い保護を享受できます。
つまり、厳重なパスワードをかけて保管し従業員に厳格な守秘義務を課すなど、営業に有用な秘密情報を厳重に管理しておけば、ライバル企業も迂闊に手出しできなくなるというわけです。

モデル助言: 
そんな簡単に作れるものが特許として認められるかどうか甚だ疑問ですし、実用新案にしても、保護の対象は
「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法1条)
ですから、製造方法や定まった形のない液体などはそもそも対象外です。
特許出願して企業秘密を自主的にさらした挙げ句、結果的に特許が取れなかった場合には、競争優位性を失うわ、恥はかくわ、出願費用は無駄になるわで目も当てられません。
「リゾートラバー」
なんて、商品の性質上、出願に最も適さないものの典型例ですよ。
「知財の時代だから、なんでもかんでも出願すべき」
なんてのは、実務を知らないアタマでっかちの生兵法もいいところです。
そういう
「知ったかぶりの知財バカ」
の話など無視して、営業秘密として法律上の保護が与えられるよう、しっかりとした情報管理体制を構築することにこそ心血を注ぐべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00128_企業法務ケーススタディ(No.0082):下請業者への購入規制の問題点

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社アイネ化粧品 横分 剣 (よこわけ けん、49歳)

相談内容: 
こんな御時世だと、かえってギラギラしててゴージャスなほうがウケるんでしょうネ。
当社は、古き良き昭和時代をコンセプトに、そんなイメージの化粧品を作ってるんですけど、売れ行きは昇る龍のごとく上昇中です。
ただ、ちょっと困ってることがありまして。
当社の本年度の戦略商品
「クレイジー・ポマード」
だけが全然売れないんですよ。
ハンサムボーイにはポマードが必需品だと思うんですけど、ベトベト過ぎて今の若い人は嫌がるみたいですネ。
それで、当社も考えまして、来月から
「クレイジー・ポマード販売キャンペーン」
と称して、役員や従業員の知人とか、取引先に対して、協力を求めることにしたんですよ。
まぁ、主なターゲットは、当社製品の製造を請け負っている下請業者なんですけどネ。
下請業者との取引担当者が、各下請業者に対して、取引額に応じて1社につき10~100ダースの目標個数を決めて
「クレイジー・ポマード」
の購入を要請するんです。
下請業者たちからは
「ポマードなんて買わされても持て余すだけだ」
という強い反対があったみたいですけど、結局、取引担当者が
「俺の話を聞け! 5ダースだけでもいいから! 嫌なら他の企業の仕事でも請け負うか?」
なんて強気で何度も要請し続けたら、一部を除いてほとんどの下請業者がそれぞれの目標個数の購入を了承してくれそうみたいで、一安心してます。
当社も下請業者には沢山仕事をあげてるわけだし、あくまで任意の協力を要請してるだけだから、問題ないですよネ?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:独禁法と下請法
独禁法は、大企業など取引上優越した地位にある企業が、その地位を不当に利用して圧力をかけるなどし、相手方企業に不利な取引条件等を強要することを、
「不公正な取引方法」
のうちのひとつ、
「優越的地位の濫用」
として禁止しています。
もっとも、この弱肉強食の資本主義経済においては、契約締結や取引条件の交渉等の局面において厳しい交渉が行われるのは当然のことであり、
「どこまでやると不当なのか」
の判断は難しく、その分、公取委(公正取引委員会)が
「優越的地位の濫用」
として独禁法違反を認定するためには、長時間を要する慎重な調査や手続が不可欠となっています。
そこで、一般に極めて弱い立場にあるといえる下請業者を画一的な基準と簡易な手続で迅速に救済するために、独禁法の補完法としての下請代金支払遅延等防止法(長ったらしいので「下請法」と略称されます)が制定されました。
例えば、化粧品といった
「物品の製造委託」
の場合、原則として、
1 資本金3億円を超える企業が3億円以下の業者に下請けさせる場合、
もしくは
2 資本金1千万円を超える企業が1千万以下の業者に下請けさせる場合に、
下請法が適用されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:物の購入強制の禁止
下請法は、適用対象となる下請取引について、発注元会社に対し
「下請代金の減額」「買いたたき」等の
「11の禁止事項」
を命じており、そのうちのひとつとして、
「正当な理由なく自己の指定する物を強制して購入させること」
を禁止しています(物の購入強制の禁止。同法4条1項6号)。
違反した発注元会社には、公取委による警告や勧告措置等が待っています。
ここにいう
「正当な理由」
とは、例えば、
「下請業者に発注した製品の品質を一定に保つために、発注元会社が自社製原材料の(適正な価格での)購入を要請する場合」
などが挙げられますが、今回のように、単に自社の在庫の消化を目的としているような場合には、正当な理由があるとは認められません。
また、
「強制して購入させること」
とは、下請業者による上辺だけの
「任意の了承」
の有無で決まるわけではなく、発注元会社としての強い立場を利用し、物の購入を取引条件に組み入れさせる場合はもちろん、事実上、物の購入を余儀なくさせているような場合も含まれます。
典型例としては、
1 発注担当者など下請取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請する場合
2 下請業者ごとに目標額や目標量を定めて購入を要請する場合
3 購入しなければ不利益な取扱いをする旨を示唆するような場合
4 下請業者が反対したにもかかわらず重ねて購入を要請する場合
等が挙げられます。
今回のキャンペーンは、このすべてに該当するものといえるでしょう。

モデル助言: 
確かに、市場競争社会では合意があればどんな取引をすることも自由なのが原則ですが、強い立場を利用して弱い立場の業者にアンフェアな合意を要求することは、もはや
「自由で公正な市場競争」
とはいえません。
最近では、2008年4月に、物の購入強制の禁止に違反した発注元会社に対して、
「違反行為で得た利益額(約一千万円)を下請業者に速やかに支払うこと」
等を求める公取委の勧告なんかも公表されてますし、会社名の公表等による企業信用の失墜を回避するためにも、今回のキャンペーンは即中止すべきですね。
だいたい、商売に失敗したからといって、そのツケを下請けに押しつけるのは商売道に反しますよ。
ここは潔くビジネスでの負けを認めて、マット系とかワックスとか今風の売れ線のものを作って挽回した方がいいですね!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00127_企業法務ケーススタディ(No.0081):偽りの“限定”“割引”広告

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
三森中央電工株式会社 会長 小島 美幸(こじま みゆき、29歳)

相談内容:
先生ご承知のとおり、当社は、海外のしょぼい健康商品や美容品を見つけて買いつけてきては、テレビやインターネットなどで通信販売していますが、昨年、当社の企画部長が、台湾の会社からなかなか見栄えのいい美顔器具を見つけてきたんです。
海外のよくわかんない大学の先生が特許を取得した秘密の光線を発することで肌を活性化させるという代物なんですが、やってみると結構効果があるんです。
さっそく、健康器具ブームに乗っかって大々的に売り出そうってことで、今年初めに定価4万9800円で売り出したんです。
ところが、これがぜんぜん売れずに、在庫が積み上がる一方でどうしようもない。
そこで、営業の連中に
「あんたらなんとかしなさい。
期末まで在庫残したら承知しないわよ」
ってハッパかけたら、ウマい販売方法を考えてきたんです。
日本人って、「期間限定」とか、「限定何個」ってのに弱いじゃないですか。
そこに目をつけて、
「限定50個をご提供! 早い者勝ち! 今週土曜日までに購入すれば1万円引!」
ってキャッチコピーで販売することにしたんです。
もちろん、商品はたくさんあるから50個超えても販売しちゃうし、ホトボリ冷めたらまた同じように、
「販売再開! 限定50個」
「土曜日までなら安い」 
って具合です。
このキャッチコピーが大当たりして、倉庫で眠っていた商品がまたたくまに売れて、在庫がどんどん減っていきました。
そうやって喜んでいたんですが、昨日、いきなり、消費者庁っていう役所からの通知がきて、このキャッチコピーは景品表示法に違反する行為だから詳しく調べる、とかいって脅すんですよ。
在庫を一挙に掃くか、限定して小出しにするかなんてウチの自由だし、お客さんも商品を安く買えるわけだから、何の問題もないじゃないですか。
こんなの、嫌がらせですよ、まったく。
先生、とっとと追い返してください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景品表示法
景品表示法とは、正式には不当景品類及び不当表示防止法といいます。
消費者は、商品を購入するにあたり、より質の高いもの、より価格の安いものを求めますし、商品を販売する事業者等はそのような消費者の期待に応えるため、他の事業者の商品よりも質を向上させ、また、より安く販売する努力をし、このような過程を通じて市場経済が発展していきます。
ところが、品質や価格などに関して、誇大な広告や過大な景品類の提供が行われるようになると、消費者が誇大な広告に惑わされたり、商品を選択する際に商品の品質ではなく景品の善しあしに左右されるようになり、その結果、質が良く安い商品を選ぼうとする消費者の適正な選択に悪影響を与えてしまい、本来あるべき
「商品の価格と品質による競争」
がなくなってしまいます。
そこで、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することを目的として景品表示法が制定されたのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:有利誤認表示
以上のような趣旨で定められた景品表示法ですが、第4条第1項第2号において
「実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる広告」
等を禁止しています。
具体的には、商品・サービスの取引条件、購入方法などについて、実際よりも顧客にとって有利であると偽って宣伝したりする行為、例えば、過去に定価で販売したことがないにも関わらず、広告などで
「今なら通常価格から1000円引!」
などと表示する行為が
「有利誤認表示」
に該当することになります。
消費者庁(かつての所管官庁であった公正取引委員会から平成21年9月1日付で消費者庁に移管されました)から、当該
「有利誤認表示」
行為の排除命令がなされ、命令の公表等を通じて対消費者イメージが急激に悪化してしまう場合があります。

モデル助言: 
ま、おっしゃるとおり、在庫をどのように切り取って売るかは企業の経営判断ですし、お客さんに対しても定価以下の割引販売なので、一見すると損がないように思える。
しかしながら、実際50個を超えても販売しているにもかかわらず限定50個と謳って販売するのは、価格と品質以外の
「飢餓感」
という要素を不当に誇張して消費者の選択を誤らせるものですし、当初から50個以上であっても売るつもりであれば宣伝文句自体虚偽といわれても仕方ないですね。
また、恒常的に
「1万円引き」
で販売しているなら、最初から
「1万円引きの値段」
を表示すればよいわけで、恣意的に実績のない定価を提示してそこからの値引きを不当に誇張するのは、
「お客さんに虚偽のお得感」
を与えているともいえます。
ま、争ってもいいですが、争えば争うほど、消費者がドン引きするだけで、強気は愚の骨頂です。
一応争う姿勢を見せつつ、
「規制の基準の公表がなかったので問題ないだろうと早合点したが、今後はご指導を得て慎むので、寛恕されたし」
と平伏し、注意・警告で静かに幕引きさせるのが一番でしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00126_企業法務ケーススタディ(No.0080):違約金を上回る実損害が発生した!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
木暮製パン株式会社 社長 木暮 伝右衛門(こぐれ でんえもん、47歳)

相談内容: 
鐵丸先生、そのパン、美味しいであろう。
最高級の特別な小麦粉で作ったわが輩の会社の自信作なのだよ。
これが今、巷で大人気であり、わが輩の会社もがっぽがっぽの大儲けである。
そして、聞いて驚いてほしい。
先日、ついにあの有名なフレンチ・レストラン
「レーニン・ギョームの館」
から、わが輩の会社のパンを卸してほしい旨の申し入れがあったのだ。
今回のパンの研究開発には多額の投資を行い、社運を懸けてきただけに、このように大成功を収めると深い感動が押し寄せるものだな。
ところが、今回のパンの要となっている最高級小麦粉の仕入れ先である世紀粉末株式会社が、わが輩の会社がウハウハなのを見て悔しがり、突然小麦粉の値上げを要求してきたのである。
そんな不当な要求など当然はねのけてやったら、世紀粉末は、今度は返す刀で、
「わが社は、御社には絶対小麦を卸さない。
契約が切れる本年末まで、契約に書かれているとおり、先月の売買代金の5分の1の違約金を振り込んでやる!」
などいってきた。
世紀粉末の社長め、世界的な小麦粉不足をいいこと幸いに、もっと高い値段で買ってくれる取引先を見つけ出してきたに違いない。
冗談ではないぞ!
こちらはもう
「レーニン・ギョームの館」
と契約してしまっているのだ。
あの小麦粉で作ったパンでなければ
「レーニン・ギョームの館」
も納得しないだろうし、わが輩の会社が被る大損害は、小麦粉の売買代金の5分の1程度のケチ臭いカネでは全く埋め合わせできんぞ。
こんなことがあっていいのか!
もっと賠償金をふんだくることはできないのか、鐵丸先生!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:玉虫色の言葉「違約金」
「違約金」「制裁金」「ペナルティ」
という言葉は、ビジネスの世界でもよく耳にしますが、その実際の意味について正確に理解している方はあまり多くないように思われます。
それもそのはず、
「違約金」
という言葉は、
「債務者が債務不履行の場合に、債権者に対して給付することを約束した金銭」
などと説明されるものの、実際には、次のように
1 予め定められた損害賠償額(損害賠償額の予定)
2 実際の損害のほかにプラスαで課される制裁金(違約罰)
などなど、多種多様な意味で用いられる、いわば「玉虫色のマジックワード」なのです。
これらは、それぞれ似たようなものに見えるかもしれませんが、
「1 損害賠償額の予定」
の意味であれば、実際に発生した損害額がいくらであるかとは無関係に予定額の賠償しか請求できないのに対し、
「2 違約罰」
の意味であれば、当該金額の請求に加えて、別個に、実際に生じた損害額の賠償をも請求できます。
このようにたかが言葉一つですが、解釈によって、時に巨額の差を生み出します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:民法の原則
わが国の民法は、
「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
この場合においては、裁判所は、その額を増減することができない」(420条1項)
と規定し、
「1 損害賠償額の予定」
に拘束されます(ただし、法外に高額または低額の予定をすると公序良俗違反として無効にされることがあるほか、利息制限法などの特別法による規制もあります)。
その上で、同条3項は、
「違約金は、賠償額の予定と推定する」
と規定し、
「違約金」
は、(推定を覆すような)特段の定めがない限り、
「2 違約罰」
ではなく
「1 損害賠償額の予定」
であるとしています。
したがって、契約書の中に特段の説明がなく
「違約金」
とだけ書かれた約定が存在する場合、損害賠償を請求する側は、この推定を覆さない限り、実際に発生した損害額が予定額を上回ったとしても、予定額しか請求することができません。
予定額以上の損害を請求するには、あらかじめ契約書の中で、
「違約罰として○○円を支払う。
ただし、甲はさらに契約の履行を請求し、あるいは実際に生じた損害の賠償を求めることができる」
等と定める必要があるのです。

モデル助言: 
今回の御社と世紀粉末株式会社との間の契約書を見る限り、
「違約金」

「違約罰」
の意味であると解釈させるような明確な文言はないようですね。
てゆうか、なんで直近売買金額の5分の1なんてみみっちいペナルティにしたんですか。
5倍なら理解できますが。こんなの、契約違反を誘発するようなもんじゃないですか。
え?
よく読んでなかった?
ま、これからは、あやふやな表現を避け、明確な違約罰条項を記載するようにして、違約罰の額も、契約遵守を促すような高額なものにすべきですね。
とはいえ、このまま放置するのも悔しいでしょうから、少しドンパチやりましょうか。
「違約金条項の『5分の1』は錯誤で、契約上の真の意思表示は『5倍』であり、そのことは相手方も知っていた。そうでないと、あまりにも不合理でおかしい」
等と主張してみましょうか。
また、世紀粉末の一連の行動を全体としてとらえ、
「不当な取引拒絶や優越的地位の濫用に該当し、独禁法に違反する」
と構成し、公正取引委員会への被害申告も同時にやっちゃいましょう。
落とし所としては、取引数量をコミットするとか、支払条件を改善して手打ち、といったところでしょうかね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00125_企業法務ケーススタディ(No.0079):外国消費者のクレーム対応

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
エトセトラ株式会社 社長 大抜 由美(おおぬき ゆみ、35歳)

相談内容: 
近頃、わが社のアクセサリー
「アジアの純金」
がいい感じなんです。
わざと重くしてあって、ピッカピカの金メッキが純金よりも純金らしいですよ。
ま、お値段はお手頃ですが。
純和風のデザインが疲れたOLの癒しアイテムに大人気なんです。
その上わが社は、輸出や通販はやらず、純粋に国内向けのみの販売戦略をとってますが、それがかえって
「黄金の国ジパングを実際に訪れないと買えない」
って噂になって、最近は、直営店舗に外国人のお客様も増えてきました。
ところが、ひとつ困った問題が起きています。
P国から旅行で来た裕福なお客様が
「アジアの純金」

「愛人のプレゼント用」
にと30個まとめ買いしたんですが、後日、
「重すぎる割に鎖が貧弱で、買ったもののうち18個がすぐに鎖が切れて壊れてしまった。
プレゼントしたのに恥かいたぞ」
ってクレームがきたんです。
非常に繊細な商品なので、ちょっと手荒な扱いをしたら壊れてしまうのはしょっちゅうで、いちいち対応してたら会社がもちません。
売価が手頃なこともあり、わが社では
「ノークレーム・ノーリターン」
という内容で欠陥の責任(瑕疵担保責任)を一切負わない内容の約款をつけてます。
お客様には購入の際に詳しく説明して十分に納得していただいた上で、その場で欠陥がないことを確認してもらってます。
でも、そのお客様は、
「P国の消費者契約法によれば、相当な理由なしに業者の担保責任を排除する条項は無効である」
なんていって、わが社の約款など関係ない、と息巻いています。
裁判も辞さないなんて脅されてますが、おとなしく返品受けた方がいいんですかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:売買契約の準拠法
場所や当事者などの要素に外国が絡む渉外的な法律関係には、
「どこの国の法律により規律されるのか」
という問題があり、規律する国の法律を
「準拠法」
と呼びます。
わが国の法の適用に関する通則法(通則法)7条によれば、私人同士の契約の成立や効力についての準拠法は、当事者が契約の際に合意した国の法律となります。
仮に契約の際に準拠法を決めなかった場合には、例えば通常の動産売買契約であれば売主側の国の法律が準拠法となります(通則法8条)。
今回の場合、売買契約の際に準拠法が決められていなかったようなので、売主側の国の法律、すなわち日本法が契約準拠法となるのが原則です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:新設された「消費者契約の特例」
ところが、平成19年1月から施行された通則法において、消費者と事業者の間の契約(消費者契約)について、消費者保護の観点から、
「消費者契約の特例」
が新設されました(通則法11条)。
これによると、契約の際に準拠法が決められていなかった場合には、消費者が常日頃生活している国(常居所地)の法律が準拠法となります。
また、準拠法が決められていた場合でも、消費者が、自分の常居所地の法律のうち特定の強行規定(契約当事者同士が適用しない旨を合意しても、強制的に適用されてしまう規定)も適用するよう求めた場合には、その規定が適用されることになっています。
ですから、事業者は、外国人のお客さんと契約の場合、十分注意をしないと、思わぬところで
「アウェーの法律」
に縛られることになります。
もっとも、
「消費者契約の特例」
にも例外があります。
消費者自らが事業者側の国に赴いて契約を締結した場合(「能動的消費者」と呼ばれます)、
「自ら進んで外国の事業者と取引したのだから保護してあげる必要はない」
とされ、適用がなくなるのです。
ただし、事業者が消費者に対し、当該消費者の常居所地で
「勧誘」
を行っていた場合には、
「消費者契約の特例」
が適用されるので注意してください。
この場合は、
「外国の事業者の勧誘に乗っかって取引をしてしまったのだから、保護してあげる必要がある」
というわけです。

モデル助言: 
今回は、P国人のお客さんが日本に出向いてアクセサリーを買って帰ったわけですから、能動的消費者に当たり、
「消費者契約の特例」
は適用されません。
従って、原則どおり日本法が契約準拠法となり、P国の消費者契約法の適用されませんので、問題ありませんね。
御社はウェブサイトで
「アジアの純金」
の宣伝をしているようですが、海外では具体的な販売に向けての電話やダイレクトメール等の個別的な勧誘は一切していないということなので、この程度であれば
「消費者契約の特例」
が適用される
「勧誘」
には当たりません。
それに、18個とはいえ、廉価なアクセサリーのために弁護士費用を使ってまで本気で訴訟を提起するということも考えられませんし、単なるブラフと見ていいでしょう。
とはいえ、それほど大きな額ではありませんし、せっかくいい評判を博している海外で悪い噂をたてられるリスクもありますから、ここから先の対応は御社の
「客商売」
としての経営判断の問題ともいえますね。
ま、
「訴訟となると、18名の愛人の方全員に出廷いただき、具体的な商品使用方法を証言いただくことになりますが・・・」
とか牽制して相手の戦意を喪失させつつ、特別の計らいとして
「最新製品を優待価格で提供する」
というあたりで事態を収束させるのが現実的なところでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00124_企業法務ケーススタディ(No.0078):白地手形の取り扱いの極意!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
小林通商株式会社 社長 小林 健道(こばやし けんどう、37歳)

相談内容: 
5年ほど前、つきあいのあった宮川商事にお金を貸して、借用証がわりに約束手形を受け取ったんですわ。
もちろん、チラシの裏とかじゃなくて、正真正銘、銀行の手形帳から切り取ったヤツですわ。
そのころの宮川商事は深刻な経営危機の状態で、返済時期も決めらず、
「手形の満期日は、今、決めんでええさかい、宮川商事の業績が復活した時期を支払期日にしとこか」
なんてユルイ合意にしときました。
ゆうても、その他の部分、手形の振出日や金額、受取人などの事項は、ちゃんと記載させましたわ。
ところが、宮川商事は最近エライ景気がええ様子で、逆に今度はウチの会社が危ないことになってきました。
それで、このあいだ、宮川商事の社長の宮川に、
「エライ景気ええらしいやんけ。5年ほど前に貸したお金を返してくれへんか」
って話したんですわ。
そしたら、宮川の奴、
「返済期限もユルかった話やし、今請求されても困るわ。
それに、あんなもん時効で、手形なんかもう使えへんで。
ゆうとくけど、ウチに無断で手形にグチャグチャ書き加えたらほんなもん、偽造やで。
気ぃつけや!」
なんてぬかしよる。
確かに手形法の条文を見てみたら、70条に
「満期ノ日ヨリ三年」
で時効になるとか書いてあるんですよね。
ちゅうことは、5年前の手形はもう時効なんでしょうか。
それに偽造だとかどうとか物騒なこと言われるし、もう、この手形には見切りをつけた方がいいんでしょうかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:白地補充権とは
手形は、振出人が重大な債務を負うという性格から、その記載方法は、厳しく規律されます。
すなわち、法律上、
「必ず記載しないと、未完成手形として、法的効力が生じない事項(必要的記載事項)」
というのが定まっています。
とはいえ、実際の手形取引においては、設例のケースのように、手形の必要的記載事項の一部をブランク(白地)にしたまま振り出され、後日、その手形の受取人が振出人との合意にしたがってブランクを埋めること(「補充」と呼ばれます)で、その手形を完成させる取扱とすることが多く見受けられます。
設例のように、手形の決済日を後日取り決める趣旨で白地にしておくような場合は、
「満期白地」
などといい商業取引でよく使われます。
そして、白地手形の白地部分に必要な記載を行い、完成手形に仕上げることのできる権利は
「白地補充権」
と呼ばれ、当該権利は、振出人と受取人の合意によって生じるものとされています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:満期白地手形の白地補充権の時効
満期日が記載された手形であれば、その手形の時効は、記載された満期日から3年後ということになります(手形法70条「満期ノ日ヨリ三年」)。
すなわち、記載された満期日から3年が経過してしまえば、その手形本体が時効にかかってしまいますので、白地補充権が行使できなくなり、手形としての強力な権利行使が不可能となり、単なる民商事債権の証拠としてしか使えなくなります。
他方、満期日が記載されず空白のままである場合については、手形法70条が
「満期ノ日ヨリ三年」
と規定する以上、時効がいつまでたっても始まらないのではないか、との疑問が生じます。
この点については、簡便な金融手段として手形が飛び交い、これに比例して事故が多発した昭和30年代まで裁判例・学説が入り乱れた状態でしたが、昭和36年11月24日に、最高裁が小切手に関する訴訟において、
「『手形に関する行為』(商法501条4号)に準じて5年間の消滅時効にかかる」
との判断を下すことにより、理論上の決着がつきました。
この判例法理により、手形についても、満期が白地とされた場合、振出日から5年間で白地補充権が消滅時効にかかり、以後、手形としての権利行使ができなくなると解釈されています。

モデル助言: 
宮川商事から受け取った満期白地手形については、振出日から5年間で白地補充権が消滅してしまいますから、
「5年ほど前」
というのが5年経過してしまったのか否かで結論が異なってきます。
至急、振出日の特定をお願いします。
もし、まだ時効が来ていなかったら、急いで満期日を補充して、手形としての権利を行使しましょう。
宮川は偽造だとかなんとか言っていますが、法的には、満期白地の手形を交付した行為自体が、白地補充権を付与したと解釈できますし、補充しても無断で偽造したことにはなりませんね。
心配であれば、宮川に対して
「偽造云々言っておられるが、白地補充権を制限した旨の別段の合意があるのであれば、具体的合意内容とその証拠をご提示いただきたい。
応答がなければ、手形交付とともに無制限の白地補充権を付与したとの当方の認識に貴方も同意したものと考える」
との内容証明でも送りつけておきましょうか。
最後に、5年となると貸金としての商事時効も到来しますから、別途催告もしておきましょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00123_企業法務ケーススタディ(No.0077):マンションの建築確認申請が留保された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
星屋建設株式会社 社長 星屋 英俊(ほしや ひでとし、37歳)

相談内容: 
今、うちの会社では、不動産不況をお笑いでフッとばそうと、
「爆笑マンション」
っていうのを計画しているんです。
それで、一番の特徴は、窓やベランダの配置や壁の色なんかで工夫して、マンションの壁面がボクの顔に見えるように設計して、鼻の穴の部分に当たる3階のガラスに白色の上下稼働のタペストリーカーテンを付けて、上げ下げすると鼻からうどんが出てくるように見えて笑いが取れる仕掛けになっているんです。
一応、建築基準法とかその他の法令に則って建築確認申請していたんですけど、最近、周辺住民が、下品だとか、環境破壊だとか失礼なことを言い出して、マンションの建設に大反対をし始めたんです。
さらに悪いことには、どうやら、マンション建設反対住民の中心メンバーがウチの会社と周辺住民が揉めていることを役所にタレこんだらしくて、役所から、
「周辺住民とよく話合いを行って円満に紛争を解決するように」
と指導されてしまったんです。
建築士の先生がいうには、そもそも、住民説明会ってのは条例で決められているだけで、住民説明会で反対されたからって建築確認をもらえないなんてことはないっていうじゃないですか。
それなのに、役所は、
「周辺住民の皆様と話し合って円満な解決をせよ、という行政指導をした以上、話し合いができるまでは貴方の建築確認は留保しますので、建築確認は下ろせません」
の一点張りなんです。
これって、絶対、役所の嫌がらせですよね。
先生、行政訴訟とか一発食らわして、役所にぎゃふんといわせてやってくださいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:建築確認とは
建築確認とは、建築基準法に基づき建築確認を行う建築主事等が、一定規模以上の建築物の建築を希望する者の申請にかかる建築計画が建築基準法や建築基準関係の規定に適合しているかどうかを工事開始前に審査する行政行為をいいます。
そして、この行政行為としての建築確認は、
「許可」

「認可」
といった一定の裁量を伴う行為ではなく、その文言通り、
「申請」
に添付された設計図書などが建築基準法やその他の建築基準関係規定に適合するか否かを機械的に
「確認」
する作業に過ぎません。
したがって、適正に行われた建築申請に対し、建築主事等が何らかの裁量をはたらかせることは原則としてできないと考えられています。
ところで、星屋建設が受けた行政指導とは、行政機関が、一定の行政目的を実現するために特定の者に対し一定の作為や不作為を求める勧告や助言などをいいます。
このような行政指導に従うか否かはあくまで任意とされていますが、行政指導に従わないことを理由として一定の不利益処分(行政処分)が課されることもあるので注意が必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:建築確認を留保する行政指導における問題
設例と同様に、建築主と周辺住民との間の紛争に関する行政指導が行われていることのみを理由として建築確認申請に対する処分を留保したことにつき、当該
「建築確認を留保したこと」
の是非をめぐって国家賠償請求訴訟が提起されたことがあります。
これに対し、最高裁判所(昭和60年7月16日判決)は、原則として
「建築主事が当該確認申請について行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものと解するのが相当である。(中略)建築主事としては速やかに確認処分を行う義務があるものといわなければならない」
としつつ、
「建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合」
などには、当該留保も例外的に適法としました。
しかしながら、さらなる例外則として、
「建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、(中略)行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは違法である」
としました。

モデル助言: 
星屋さんの場合、法令上の建築基準を全て満たしているのに
「周辺住民の皆様と話し合って円満な解決がされるまで建築確認は留保します」
といわれているわけですが、最高裁の理屈によれば、原則当該
「留保」
は違法とされますが、建築主が当該行政指導に任意に応じている場合には、確認申請留保も問題ないとされてしまいます。
逆に、
「話し合いなんかせえへんで! さっさと確認せんかい!」
というのであれば、星屋さんとして
「行政指導に不協力・不服従の意思を表明」
しておかなければなりませんので、役所宛に、内容証明郵便による通知書で
「周辺住民の皆様と話し合えという行政指導には従うつもりはありませんので、早急に確認申請に対して所要の判断を下してください」
とはっきり意思表示をする必要がありますね。
とはいえ、地域住民と軋轢を抱えたままでは、行政上問題なくても、別途司法上の問題として建築が差止訴訟が提起されるリスクもありますので、まずは円満な話し合いを進めた方がいいと思いますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00122_企業法務ケーススタディ(No.0076):外国人雇用の際の注意点!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オリエント商会 社長 若崎 麻王(わかさき まおう、46歳)

相談内容: 
当社は、長年、東南アジアの日用雑貨の輸入・販売を行ってきましたが、景気も底を打ってこれから回復に向かうようですし、今度、思い切って事業拡大を図ろうと考えて、インドとの取引拡大を目指すことにしたんです。
そんな中、新商品として目をつけたのが、今、オランダでブームになっている、「アッシシ紅茶」です。
なんでも、疲れたときに飲むと、不幸をサッパリ忘れて、いい夢がみれてスッキリする、という魔法の紅茶だそうです。
でも、このアッシシ紅茶、なんでもインドの山奥でしか栽培されていないらしく、そもそも、取引量も少ないみたいだし、日本の商社経由で買おうとするとめちゃめちゃ高くなってしまうんですよ。
そこで、インドの山奥の農家と直接交渉して根こそぎ買い占めてやろうって考えて、誰か現地の言葉が分るインド人とかいないかなぁって思って、インド人の通訳を募集したら、長年、インドの首相官邸でインド山岳料理のコックを務めた後、日本のインド料理レストランでコックとして勤務しているっていうラジバンダリカイヨという女性が応募してきたんです。
さっそく、面接したところ、見た目はちょっと怖いけど、至って真面目そうだし、彼女が言うには、日本のレストランで勤務するために取得したって言うビザの期限もあと2年あるみたいだし、すぐに、バイヤーとして正式採用しました。
そしたら、昨日、入国管理局の人間がうちの会社にドヤドヤと乗り込んできて、ラジバンダリカイヨの在留資格ではバイヤーの仕事はできないからすぐに辞めさせろ、そうじゃなきゃ国外退去だ、って言うんですよ。
もちろん、彼女を採用する時には、ちゃんと就労ビザを確認してるし、全く失礼な話ですよね、先生。
一発、国家賠償請求でもカマしてやってくださいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:旅券(パスポート)と在留資格(ビザ)の違い
まず、旅券(パスポート)とは、その国の国籍を有している者に対して、その国が発行し、交付するものです。
例えば、日本の国籍保有者には、日本国が日本の旅券を、米国の国籍保有者には米国が、米国の旅券を発行することになります。
これに対し、在留資格(ビザ)は、外国人に対して、つまり、入国を認める側の国が、入国を求める外国人に対して発行するものです。
したがって、日本人が米国へ行くときは、短期の観光などで行く場合など在留資格が免除される場合は別として、原則として米国政府の在留資格が必要となります。
ちなみに、在留資格を付与するか否か等については、当該国の主権の本質的なものとして、入管当局の広汎な裁量に属します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国人の入国・在留許可制度
外国人が日本に入国し在留するためには、前記のとおり、旅券以外にも在留資格が原則必要となりますが、当該在留資格は、日本に滞在する目的ごとに付与されることになります。
現在、出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)は、
「外交」
「報道」
「留学」
「家族滞在」
といった27種類の在留資格を規定しておりますが、外国人は、日本国から与えられた在留資格以外の活動は行うことができません。
ここで注意しなければならないのは、入管法は、日本国内にて就労する資格については、
「就労」
という一般的抽象的な在留資格ではなく、個別具体的に就労資格の種類を規定しているということです。
例えば、日本の中学校で外国語を教えるために
「教育」
の在留資格で在留している外国人が、本来、
「技能」
の在留資格が必要となるコックとして就労した場合などには、最高で1年以下の懲役刑が科せられたり(入管法73条)、日本からの退去強制に処せられる場合もあります(入管法27条以下)し、そのような外国人を雇った者も、不法就労助長罪として、最高で3年以下の懲役刑が科せられることがあります(入管法73条の2)。

モデル助言: 
日本において適法な在留資格に基づき就労していた外国人を採用する場合には、雇用にあたって、まず、入国管理局に対し
「就労資格証明書交付申請」
を行い、転職後も現在の在留資格で就労させることができるかどうかを確認しなければなりません。
申請の結果、転職後の職種や業務内容が現在の在留資格の範囲に該当しないと判断された場合にはそもそも雇用することができません。
ラジバンダリカイヨさんの場合、明らかに
「技能」
の在留資格で在留していたのでしょうから、
「人文知識・国際業務」
の在留資格を必要とするバイヤーとして雇用することはおよそできません。
何とかしてあげたいところですが、本来、
「就労させることができない外国人」
を雇用してしまった以上、どうすることもできません。
ラジバンダリカイヨさんには、元の職場に戻るよう進めるか、一度、インドに帰って改めて
「人文知識・国際業務」
の在留資格を取得してもらうほかありません。
そうじゃないと、ラジバンダリカイヨさんの現在の在留資格すら取消されてしまったり、若崎社長も連座させられることだってありますので、注意してください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00121_企業法務ケーススタディ(No.0075):比較広告もほどほどに

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
松竹梅食品株式会社 営業部長 蟻野 晋也(ありの しんや、39歳)

相談内容: 
ちょっと前まで、アメリカのCMを勉強しに、アメリカに出張していたんですよ。
勉強になることばかりだったんですけど、一番驚いたのが、アメリカでは、商品のCMなんかで、他社製品によく似た映像を堂々と流して自社製品と比較したり、
「あなたはそれでも○○を選びますか。
それよりも△△をどうぞ!」
といったように、具体的な他社製品との比較を宣伝に利用したりしているんですね。
やっぱ、アメリカって国は自由の国ですよね。
さっそく、出張の成果を社長に伝えたら、よし、うちもやるぞってことになって、うちの主力商品のレトルト食品
「松竹梅カレー」
と、ライバルのナンバ食品株式会社の
「ナンバ・グランドカレー(NGカレー)」
を比較した広告を作ろう、ってことになったんです。
でも、正直なところ、カレーの味なんてそんなに変わるもんじゃないし、どうせやるなら、消費者が
「オッ」
思ってくれないと意味ないじゃないですか。
それで、社内で知恵をしぼった揚げ句、
「安いだけのカレーを食べると脂肪が増えてNG。
松竹梅カレーを食べてみんなもスリムになろう」
ってキャッチコピーにしようということになったんです。
そしたら、これが、大当たりして、
「松竹梅カレー」
の売上はぐんぐんのびて、社長は大喜びです。
ところが、先日、ナンバ食品の顧問弁護士から、
「貴社のキャッチコピーは、当社のNGカレーについて、虚偽の事実を流布している。
キャッチコピーの使用を直ちに中止するとともに、損害賠償として1億円を支払え」
って内容のごつい文書が届いたんです。
たかだが、キャッチコピーぐらいで目くじらたてて、まったくジョークがわからない会社なんだから困りますよね。
ホントに。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:比較広告と景表法
日本では、憲法21条で表現の自由が保障されていることもあり、名誉棄損罪や侮辱罪といった犯罪に該当する場合を別として、キャッチコピーにどのような文句を使用したとしても、使用差し止めや損害賠償を請求されるいわれはないとも考えられます。
しかしながら、景表法(景品表示法)第4条は、
「自己の供給する商品等の内容や取引条件について、実際のものまたは競争事業者のものよりも、著しく優良または有利であると一般消費者に誤認される表示」
を不当表示として禁止し、公正取引委員会は、これに違反する行為の差し止めなどの命令を行うことができると規定しております。
この規定ゆえ、日本では、長年、競合する他社商品と比較して自社商品の優位性をアピールするいわゆる比較広告の手法については忌避されてきました。
しかしながら、昭和62年4月21日に公表された公正取引委員会の比較広告に関するガイドラインにより、
1 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
2 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
3 比較の方法が公正であること
といった3つの要件を満たすことを条件として、行政解釈により、比較広告が許容されるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:比較広告と不正競争防止法との関係
ところで、不正競争防止法2条1項14号は、前記景品表示法とは別個に、
「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為」
を不正競争と定義し、被害者は、違反者に対しては当該行為の差し止めや損害賠償を求めうるものとしています。
これは、
「虚偽の事実を告げるなどして他社(商品を含む)の信用を害する営業行為は自由競争としての保護に値しない」
との趣旨によるもので、景表法がBtoC規制とすれば、本規定はBtoC規制として、別個に規律されるべきものです。
最近でも、
「ある企業の自社商品の説明会などで他社商品の材質や品質に関し虚偽の事実を告げて自社商品をアピールした行為」
が、不正競争防止法2条1項14号に該当するとして、東京地裁は、当該行為の差し止めと損害賠償の一部が認容するとともに、信用回復措置として当該説明会に出席した業者に対する訂正文の送付などを命じました。

モデル助言: 
松竹梅食品株式会社の場合も、前記のキャッチコピーのうち、
「NGカレーを食べると脂肪が増えてNG」
との部分については、そもそも、客観的に実証されたデータが存在するのかどうか不明ですし、同じレトルトカレー食品である
「松竹梅カレー」

「その他のカレー」
との間に、材料や成分に顕著な違いがあるのかすら怪しいところです。
もとより、
「比較」
とは、
「2つ以上のものを互いにくらべ合わせること(小学館『大辞泉』)」
ですので、松竹梅食品株式会社は、前記のキャッチコピーを使用する前に、きちんと両者の含有成分や効果を検証しなければなりませんが、どうせ、そんな面倒臭いプロセスも経ずに、適当に考えたキャッチコピーなんでしょう。
まぁ、1億円という損害賠償については半分牽制でしょうし、こちらは適当にあしらってうやむやにするとして、大至急、キャッチコピーを変更することをお薦めします。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00120_企業法務ケーススタディ(No.0074):国立大学の医学部教授とのおつきあいにはご用心

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
高中製薬株式会社 社長 高中 尚人(たかなか なおと、53歳)

相談内容: 
先日、東京地検の特捜部ってとこが、突然、少しオレの話を聞きたいって連絡してきたんで、出かけていったんですよ。
そしたら、この前、国立大学法人東西大学医学部の教授を誘ってゴルフに行った件について、
「贈賄罪だ」
とかなんだかいって、すんごい剣幕で怒られたんです。
ま、幸いたいした額ではなかったので、おとがめなしですみそうな感じなんですが。
医薬品の開発も手掛ける当社は、大きな研究施設を持っている病院や大学の医学部なんかと提携して新薬の開発に取り組んだりしているので、そりゃ、社会儀礼の範囲のお付き合いはしますよ。
それでこの前も、東西大学で進められているインフルエンザ新薬開発のプロジェクトに当社も参加できるように、ゴルフ好きな医学部の青芝教授を誘ってゴルフをやって、夜は六本木でどんちゃん騒ぎして接待していたわけなんです。
こんなのこれまで普通にやってきましたし、税務署だって交際費として認めてくれてます。
検察官ってのは、よほど世の中のことを知らないんですかね。
明後日、調書を取るとかで、もう1回検察庁に呼ばれているんですが、一緒に来てもらって、世間知らずの検察官の兄ちゃんに
「てめえは友達とゴルフしたり、飲んだりしねえのか!」
ってガツンと説教してやってもらえませんかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:刑法における贈賄罪と公務員
刑法198条は、
「賄賂を供与し、またはその申込みもしくは約束をした者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処する」
と規定し、公務員に公権力の行使に関して何らかの便宜をはかってもらうために、金品などを提供したりする行為を
「贈賄罪」
としています。
そして、ここでいう
「公務員」
について、刑法は、
「この法律において公務員とは、国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう」
と定義しています。
このように、公務員に対し、公権力の行使に関して何らかの便宜をはかってもらうために、金品などを提供したりすることは厳罰をもって禁止されています。
ところで、一口に公務員といっても、霞が関の中央省庁に勤務している一見して明らかな公務員から、かつての旧国鉄、旧電信電話公社のように、民間の鉄道会社や電話会社と変わらない業務を行っている公務員もいます。
その後、このような民間企業と同様の業務を行っていた公務員などは、所属先が民営化したり、また、行政改革推進法の施行など、一連の行政改革などによりその所属先が独立行政法人として組織改変などが行われたことなどによりその身分を失うこととなりました。
その一方で、独立行政法人造幣局など、一部の
「業務の停滞が国民生活又は社会経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼすと認められる」
業務を行う独立行政法人の役職員は、公務員としての身分を保持することとされる場合があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:国立大学教授の場合
国立大学は、かつては、その名のとおり国が運営する大学でしたが、一連の行政改革等により、その運営主体が国から国立大学法人に移行することとなり、これまで公務員の地位を有していた国立大学の教授や職員は、その地位を失うこととなりました。
設例で言えば、青芝教授は、もはや公務員ではない以上、
「インフルエンザ新薬開発のプロジェクトに参加するための便宜を図ってもらうこと」
を目的にゴルフ接待をしても収賄罪は成立しないようにも考えられます。
しかしながら、国立大学法人法19条は、
「国立大学法人の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」
とし、刑法などの罰則が適用される限りにおいて、国立大学の教授や職員は、公務員とみなされますので、高中社長の行為は贈賄罪に該当する可能性があります。

モデル助言: 
確かに、やってる業務内容は、国立大学法人が運営する国立大学も私立大学も同じなので、国立大学の教授を接待した時だけ、贈賄罪で罰せられるというのはおかしな話と考えるかもしれません。
しかしながら、国立大学教授は立派な公務員であり、行政改革によって国立大学法人に変わったといっても、贈収賄規定が適用される身分に変わりありません。
実際、治験や医療機器選定に関して、業者が通常のお医者さんに対する接待感覚で金品その他を提供した結果、後日、逮捕・起訴され、有罪となるケースが頻発しています。
このように、国立大学やその他税金で運営されている医療機関・研究機関に所属する医師や研究者を、民間の感覚でお付き合いすると後で大変なことになりますので、くれぐれも注意してください。
ま、検察対策ですが、お説教なんてのはとんでもない。
贖罪寄付をして、真摯に反省した様子をアピールし、なんとか穏便に不起訴にしてもらいましょう。
一緒に土下座するつもりでついていってあげますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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