00050_「企業が『契約自由の原則』『私的自治』を理由に好き勝手やろうとした場合に、制限介入する法律」としての独禁法

「ドッキンホウ」
という言葉を聞かれた方は多いでしょうし、その内容についても、独占やカルテルを禁止する、というくらいのことは皆さんご存じだと思います。

「ドッキンホウ」
の正式名称は、
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
といわれるものですが、市場の独占やカルテルを禁止しているほか、その名称のとおり、
「公正取引の確保をすること」
も法律の目的になっています。

自由競争を是とする資本主義社会においては、
「契約自由の原則」
「私的自治」
が金科玉条のルールとされており、
「地獄の沙汰もカネ次第」
の諺どおりであり、札束や取引上の権力があってできないことは見当たりません。

しかしながら、あまりいい気になって横暴に振る舞っていると、
「独禁法上禁止される不公正取引に該当する」
と言われて、きついお灸がすえられる可能性が出てきます。

「不公正取引がダメ」
といっても、具体的に何が公正で不公正かということがルール化されていないと昔の社会主義国のように経済活動が停滞してしまいます。

そこで、
「不公正取引」
とされる行為は、公正取引委員会が指定するという形で具体化されています(なお、指定には、全業種に適用される一般指定と、特定業種に適用される特殊指定があります)。

例えば、不公正取引のうち
「優越的地位の濫用」
といわれるものですが、
「取引上の地位が取引相手に優越していることを利用し、商慣習上不当な形で、取引相手に対し、役員の選任について、自己の指示に従わせたりすること」
が一般指定14項によって禁止されています。

メインバンクが役員選任を干渉するようなことを融資先に求めることがありますが、金融機関の通常の債権保全の目的や限度を超えたと認められる場合には、アウトと判断される可能性があったりします。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00049_企業法務ケーススタディ(No.0013):メインバンクから、社外役員の選任を求められる干渉をしてこられた場合の対処法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社東海スタイル 社長 野村 聖子(のむら せいこ、46歳)

相談内容:
当社は、長年、地元民間銀行、通称ジミン銀行、をメインバンクとしてがんばってきたんですけどね、昨年、ジミン銀行から助言されたリストラ策を拒否して、事業拡大のため営業人員を増強したのですが、これが見事に裏目に出ちゃいました。
このままでは年内には資金繰りが破綻するので、先日、ジミン銀行からの貸付金のリスケジュールを相談するため、土下座覚悟で
「ジミン銀行詣(もうで)」
をしました。
担当役員の大泉さんからは、散々厭味を言われた挙げ句、リスケジュールの条件として、経営陣を刷新することを求められました。
で、その内容が、ひどいのなんのって。
私が代表権のない会長になることや、夫のツルヤスや友人のキャサリンを役員から辞任させることはまだガマンできますが、新しい社長に、株式会社江崎ファッションの佐田ゆかりを迎えろ、と強硬に言われました。
江崎ファッションは、当社のライバル企業ですし、佐田ゆかりとは、大学こそ同期ですが、犬猿の仲。
嫌がらせとしか思えません。
ジミン銀行の大泉さんは
「リスケジュールしてほしいんでしょ。
条件呑めなきゃ、御社は民事再生でもしてもらうしかないですな。
そうしたら、大口債権者である当行主導で、いずれ、江崎ファッションさんに二足三文で、営業譲渡しちゃいますよ」
と言い放って、仕事だか遊びだかわからない用事でアメリカ旅行に出かけてしまいました。
彼が帰ってくるまでに、当社としてどう対応したらいいか決めなきゃなりません。
先生、どうしましょう。
佐田ゆかりに代表権譲くらいなら、死んだ方がマシです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:優越的地位の濫用と
本件においては、銀行の強引で高圧的な干渉行為を、何らかの法律違反に問えないか、ということがポイントになります。
ここで、出てくるのは、独禁法です。
独禁法は、競争を無くす行為である私的独占やカルテルを禁止する、というイメージが強いですが、この種の、経済的に強い立場を利用した不当な干渉行為も、公正な競争を歪める行為と考え、
「優越的地位の濫用」
として禁止しています。

モデル助言:
御社の事業戦略上の失敗は失敗として反省しなければなりませんが、ジミン銀行さんもちょっとやりすぎですね。
教科書的に言えば、公正取引委員会への被害申告、要するにタレコミですね、を行って、排除措置を求めるわけですが、手続に相応の時間を要する上、公正取引委員会が動いてくれるかどうかも微妙なところです。
下手に動いて、こちらの動きを察知されると、
「江戸の仇を長崎で取る」
の諺どおり銀行が報復措置に出て、交渉の余地なく、全面戦争になる危険があります。
ですので、独禁法一本で正面からゴリ押すというのは賢い方法とはいえません。
独禁法の話は、問題を指摘する際のスパイスの一つくらいの扱いにしておき、基本的には浪花節路線で交渉すべきですね。
顧問弁護士から
「佐田ゆかりさんがライバル会社である江崎ファッション社の社長の地位を維持したまま、弊社の社長職を兼任すると、利益相反の問題も出てくる。
どうしても佐田ゆかりさんが新社長になるなら、江崎ファッション社を辞めてもらう必要がある。加えて独禁法上の不公正取引に該当する」
との指摘を受けたので、なんとか再考いただけないか、という感じがいいでしょう。
とはいえ、
「もはや失うものはない。全面戦争突入だ」
というときには躊躇せずに独禁法カードを切るべきですし、いつでも被害申告できるよう、事実経緯をまとめておき、関連証拠は揃えておきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00048_「たかが買い物(会社を買うだけ)」に過ぎないM&Aが、なぜ、そんなに難しい課題とされるのか?

M&Aといっても、その本質は売買取引で、売買の対象が、車や不動産ではなく、事業や会社に変化しただけです。

さらにいえば、売買形態の圧倒的多数を占めるのは株式譲渡であり、いってみれば、会社の株全部を売買する、という株の売買取引、というのがM&Aのほとんどの取引の実体です 。

では、M&Aがなぜ小難しいかといいますと、
1 売買の対象が極めて不明確で移転が観念しにくい点(事業譲渡の場合に顕著ですが、株式譲渡でも現実の支配交代が完全なものとなるまで、PMI(=Post Merger Integration、“占領統治”的な意味合いを持つ、買収後の経営統合実務]と呼ばれる面倒な実務上のプロセスが発生します)、
2 企業をいくらで売り買いするか、という点については、いわゆる相場というものが観念しにくいので商品(事業)に値段を付けにくいという点、また、
3 企業再編税制という複雑な税制があり、取引組成の仕方を間違えると税務上のデメリットを被る場合もあり、取引の設計に神経を使う点、
4 買収後に想定外の事象が起こることが多、特に、騙された場合のリスクを大きく負担することになる買い手にとって予防法務的な観点でリスクの発見・特定やリスクに対処するための契約設計が大変、
5 その他労働法、(上場企業の場合)インサイダー関連法規、(市場でのプレゼンスが大きい企業の場合)独禁法等、規制遵守項目も多い、
などによります。

これらの項目はすべて専門家に委ねられますので、買収の打合せが始まると、偏差値の高そうな方が集まって専門用語を使ったコミュニケーションをするので、当事会社の経営陣にとっては実に面倒くさい、眠い話が続くということになります。

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00047_M&A取引で必ず出てくる、デューディリジェンスとは?

M&A取引で、よく
「デューデリ」「DD」
などという言葉が出てきますが、これはどういう内容なのでしょうか?

「デューデリ」「DD」
とは、正式名称デュー・ディリジェンス(Due diligence)と呼ばれるもので、私なりにざっくり訳すと、
「(ボーっとしてたら、騙されるさかい)騙されんように、よう、注意しとかんと、あきまへんで」的プロセス、
とでもいうものです。

M&Aを結婚になぞらえると、お嫁さんにもらう予定の女性(買収対象企業)が、健康体か、過去の妙な男性関係をひきずっていないか、変な感染症に罹患していないか等、円満な結婚生活にとって障害となるべき事項を調査することがデューディリジェンスに相当します。

この話から透けて見える、常識では考えられない、異常ともいえる取引ルールがあり、これを踏まえていないと、
「デューデリ」
をなぜ、そんなに御大層に取り上げるのか、いまいちピンとこないと思いますので、この辺も含めて解説します。

すなわち、M&Aの取引の大前提として、
「よく調べず、漫然と相手を信頼して、『これはそれなりに良い企業だ』と思ってある企業を買ったところ、実際の中身は、ボロボロで、ほとんど価値がなかった」
という場合、120%、良く調べずに買った方がアホ、騙される方が悪い、というのが、この種の取引の基本中の基本中の基本ルールだからです。

さらにいえば、そもそも、車や不動産等とは違い、企業の値段には相場というものが観念しがたく、企業の値段自体、いってしまえば
「あってないようなもの」
であり、よく調べずに、適当な値段をつけてしまうと、大損することもあります。

そして、このような
「大損」
の事態は、全て買い手1人の全責任となるのです。

古代ローマ以来の
「買い手は注意せよ(=買い物に失敗したら、全て買い手が悪い)」
というルールが極めてシンプルかつ劇的に作用するのがM&A取引、というわけです。

だからこそ、この
「デューデリ」
という称するプロセスが、M&Aにおいて非常に重要、といわれるのです。

この
「デューデリ」
ですが、一般に、公認会計士の方が財務諸表の中味をチェックし、我々弁護士が権利関係や契約関係をチェックしますが、その他、対象企業が知的財産権を保有している場合弁理士さんが参加したりする場合がありますし、さらに工場跡地等の土地資産を保有する企業の場合、有害物質の有無まで調査するための専門機関が関与することもあります。

さきほどの比喩でいうと、一見美人で器量も良さそうな女性だが、よくよく調べたら、病気で、清算していない複数の男性関係があり、妙な感染症にも罹患していた、ということになると、男性側(買手企業)としては、持参金を多く付けてもらう等の経済的代償措置で調整したり、さらには結婚そのものをとりやめたり、という対応をとることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00046_企業法務ケーススタディ(No.0012):はじめてのM&A、どうやって進めるべきか?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社京葉土建 会長 浜田 幸二(はまだ こうじ、78歳)

相談内容:
ウチの会社は千葉ではまだいい客先つかんで、いまだに売上は伸びている。
いい土地も相当押さえているんで、含み資産も山ほどある。
でもよお、会社継がせようとして一生懸命商売教えてきた娘婿の野郎が他に女作ったばかりか、会社の金も横領してやがったから、告訴は先生にやってもらんだな。
もう後継者育てるのが疲れちまってよお。
海山証券の社長に相談したら、ブラザーだかなんだかっていう、やたらと長ったらしい名前の外資系で、ウチの会社買いたいなんて言っている連中を紹介してきた。
いい値段なら売る気はあるんで
「ワン・プリーズ(ひとつ、よろしく)」
って握手したら、この前、いきなり会社に会計士やら弁護士やらがやってきて、ジュースだかデラックスだか、その・・・、デューデリジェンスやりたいとかぬかして、帳簿見せろとか言い出した。
経理部長もボケてて、税務調査と間違えて
「ここには書類がありません」
とか半泣きしたので、連中も呆れて帰りやがった。
土建屋としてはソコソコやり手だが、何せ中卒だから、小難しいことはわからねえ。
ちっとそのあたり、わかりやすく教えてくんねえか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:デュー・ディリジェンスとは
M&Aというと、
「多額の資金を預かっているアタマの良さそうな方が、動きがトロくて脇の甘い大企業を敵対的に乗っ取る」
みたいなことを想像される方が多いのですが、実際は、本件のような後継者難になっている事業の承継や無秩序な多角経営を再編・統合するため、友好に会社の売買を行うというM&Aが圧倒的に多数を占めます。
M&Aといっても、その本質は売買取引で、売買の対象が、車や不動産ではなく、事業や会社に変化しただけです。
今回問題になっている
「デューディリジェンス」
ですが、浜田会長のような、M&Aど初心者の方でもわかるように、思いっきり会話の水準を下げて説明してみます。
M&Aを結婚になぞらえると、お嫁さんにもらう予定の女性(買収対象企業)が、健康体か、過去の妙な男性関係をひきずっていないか、変な感染症に罹患していないか等、円満な結婚生活にとって障害となるべき事項を調査することがデューディリジェンスに相当します。

モデル助言:
会長、生兵法は怪我のもとですから、何事もきちんと理解して進めてください。
今回の場合、御社は売手側ですので、価額面で折り合えば、買手に比して作業は少ないです。
ただ、買手が外資系企業だと、様々な契約条項を押しつける可能性がありますので、価額面で合意に至っても、契約設計で不利な立場に追い込められる可能性があるので安心しない方がいいでしょう。
また、当然ながら、相手のある話ですから、散々当社の中味を調査した挙げ句、破談する場合だってあります。
交渉するのであれば、破談という事態を常に想定や選択肢から外してはいけません。
特に、会長は、年取って気が短くなっていますので、粘りに負けないようにしましょう。
相手は御社保有不動産にうまみを感じており、是が非でもほしいはずですから、他の交渉相手の存在をちらつかせたり、破談をほのめかすブラフも有効です。
最後に、デューディリジェンスにより御社は丸裸にされて隅から隅まで内部情報を取得されるわけですから、きちんとした守秘義務契約をしてからじゃないと一切応じるべきではないです。

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00045_企業法務ケーススタディ(No.0011):知財トラブル、恐るるに足りず

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ニシナ製薬 副社長 仁科 弘樹(にしな ひろき、64歳)

相談内容:
先生、先生、先生、先生、どうもですぅ。
今日はですね、特許の話でお邪魔させていただきました。
弊社が最近発売しました
「ルイコちゃん」
っていう目薬がありまして。
これ、タマネギや唐辛子の成分を抽出したものを使ったカンタンなもんなんですが、要するに涙腺を刺激して涙が滝のように流れ出る目薬です。
こんなもん売れんのかな、なんて思っていたところ、
「涙目で彼氏をゲッ~~ト」
っていうCMで女子高生向けに売り出したところ、バカ売れしちゃいまして。
涙どころか笑いがとまらないくらい売れているんですが、3日前にマツカタ製薬っていう当社のライバル会社から
「マツカタ製薬はタマネギや唐辛子の抽出物を成分とする目薬に関する特許を出願し、公開にまで至っている。
ルイコちゃんはマツカタ製薬の特許を侵害している」
なんてこと書いた内容証明郵便が来てから、大変な騒ぎになっちゃって。
弊社も、
「これからは知財経営が重要」
なんてコンサルタントにいわれて、昨年、知的財産部をつくりまして、部長が調べたら、たしかにマツカタ製薬が当社の目薬に関する特許を出願し、公開している。
部長は、
「もう負けだ。
いうこと聞いた方がいい。
和解を考えましょう」
なんて弱気なこといっている。
もう、どうしたら、いいんでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:知的財産権がとっつきにくく難解に感じる理由
最近、新聞や雑誌でやたら「知的財産権(以下、「知財」)」という言葉をみかけるようになりました。
確かに、現代では、多くの企業において、経営資源が
「モノやサービス」
から
「アイデアやブランド」
にシフトしていく時代ですから、知財を意識して経営することは重要です。
他方、
「経営に関わる人間のほとんどが知財の実体や本質を知らないにもかかわらず、知財という言葉が実態や本質以上に祭り上げられている」
という
「知財バブル」
というべき現象がみられることも事実です。
「まんじゅう怖い」
という笑い話がありますが、実に多くの企業において、実体や本質を知らずに知財を必要以上に怖がることによる企業経営上の混乱が見受けられます。
企業経営者において、知財が難しいと感じるのは、いろいろ原因があると思いますが、
・特許や実用新案においては自然科学法則を取り扱うため文系出身者が多い経営者がアレルギーを感じてしまうこと
・具体的な物ではなく、抽象的な観念を扱うため、法律関係を議論する上で、難解な言語や論理操作が必要となる
・知財の中の権利には、行政(特許庁)と司法(裁判所)という二つの国家機関が関与し、それぞれに複雑な手続が定められているタイプのものもあり、純法的課題としても複雑である
・知財に関わる弁護士や弁理士が極度に専門化してしまい、企業経営者と効果的にコミュニケーションできないことがある
などといった事情が挙げられます。
知財問題については、象牙の塔に閉じこもるようなタイプの方ではなく、コミュニケーション能力に長けた弁護士や弁理士を身近に置き、問題の本質や実体を見極め、不要に恐れたり、乱暴に無視することなく、適正かつ効果的に対応していく必要があります。

モデル助言:
そもそも特許権というのは、それまで誰も考えたことのない新しいもので、既存のアイデアからは到底思いつかないような発明にしか成立しません。
タマネギや唐辛子の成分抽出した目薬なんて代物に特許が成立するなんて悪い冗談ですよ。
特許出願して公開するまでなら、誰でもカネさえ払えばできますし、実際、公開公報に乗っている出願特許なんてゴミの山ですよ。
それに、ほら、よくみてくださいよ。
マツカタが出願した特許は、タマネギや唐辛子の成分抽出
「方法」
に関するものじゃないですか。
この抽出方法も、従来の特許にちょっと変更を加えただけで、こんなの業界の人なら誰でも思いつくものだから、特許になりっこない。
マツカタ製薬の内容証明も、補償金請求のための警告で、要するに
「今はまだ特許権になっていないが、そのうち特許になったらカネをせびるから覚悟しとけ」
というコケ脅しです。
ニシナ製薬さんの目薬はタマネギや唐辛子の成分をよく知られた方法で抽出して作られたありふれた目薬であり、まったく心配する必要ありません。
要するに、嫌がらせでしょうね。
放っておいても問題ありませんが、ナメられても困りますので、今私が申した内容をしっかりとした法的応答にまとめて、内容証明で回答しておきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00044_法的責任は回避しつつも、マスコミのバッシングやネットでの炎上を回避するため、世間体を考え、道義的責任に配慮した示談を申し出る際の通知書(応答書)サンプル

本件につきまして、まずは、当社としても想定せざる経緯による望まない結果であり、現状については極めて遺憾であると考えております。

他方で、当社としても、慎重に社内の担当者及び関係者に対する聴取を含めた調査を実施し、また、中立な第三者である外部専門家にも意見を頂戴しました。

その結果でございますが、誠に申し上げにくいものではございますが、当社に過失となるべき点は見いだせない、という結論に至っております。

以下、その結論に至る、調査・聴取及び判断経緯を、関係者のプライバシー等も勘案し、差し支えない範囲で申し述べさせていただきます。

(中略)

以上のとおりでございますので、前述のとおり、当社としても、決して進んで望むものではございませんが、当社に過失となるべき点は見出し難い、という結論に至っております。

以上のとおり、当社には法律上の過失と判断されるべき点が見出し難く、したがって法的責任を負担していないという理論上の結論に至りますことから、誠に申し上げにくいところではございますが、貴方からの損害賠償請求には応じかねるとのお答えを差し上げざるを得ません。

しかしながら、当社としては、貴方にご心痛をおかけしたことに対し、法的責任とはまったく別の次元で、
「社会とともに発展していくべき、社会の公器たる企業」
の道義的責任として、心よりお見舞いを申し上げたく存じます。

そして、当社としては、貴方に心よりお見舞いを申し上げることの具体的表明として、貴方が当社商品をお買い上げいただいた際の代金はご返金させていただき、加えて、お見舞金をお支払いさせていただきたく存じます。

他方、お見舞金の額を具体的に定めることにつきましては、当社においても特段の基準等がないため、まずは、貴方のお考えを賜りたいと考えております。

お電話でも文書でも結構ですので、まずは、貴方として適切と考える額をご教示賜りたく存じます。

当社としても、株主その他利害関係者に対する説明すべき立場を負担しておりますことから、貴方からのご提案額を必ずしも全額を即時かつ無条件にお支払いする、ということまではお約束いたしかねますものの、ご教示いただきました内容は、全て、真摯かつ誠実に、可能な限り貴意に沿うべく、検討することは確実にお約束させていただく所存です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00043_債権管理の際に必須の法律知識としての時効制度

時効というのは、ある事実状態が一定の期間(時効期間)継続したことに基づき、法律関係より事実状態を優先してしまう制度です。

よく刑事事件なんかで話題になったりしますが、民事・商事の取引関係においても時効制度は存在します。

一定期間不動産等を占有していると本来権利がないにもかかわらず権利を取得するタイプの時効(取得時効)と債権を不払いのまま放置しておいたらそのうち債権が消滅するタイプの時効(消滅時効)とがありますが、企業経営者にとって重要なのは後者です。

すなわち、債権債務が約定期限に問題なく履行されていれば問題ないのですが、担当者がぼんやりしていて、請求漏れのまま放置したりなんてことは結構あったりします。

こういう場合、時効期間が経過し、債務者が
「時効だから支払いません」
と主張(援用)した瞬間、法律上、債務が消滅してしまうのです。

商売をやっていく上では、債権が時効にかかることのないようきっちり管理する必要がありますし、反対に、ずいぶん前の債権を請求されたような場合、まず時効を検討し、時効が完成していればすかさず援用して無駄金を払わない、というような賢い対応が必要です。

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00042_企業法務ケーススタディ(No.0010):消滅時効で売掛金が消失するリスクに注意を

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相談者プロフィール:
株式会社イダテン急便 会長 佐山 信(さやま しん、67歳)

相談内容:
先生、どうもお世話になっております。
ようやく景気が戻ってまいりまして弊社取扱高もうなぎ登りです。
ネット企業っていうんですか、最近は、インターネット販売の業者からの依頼が急増しており、時代を感じますね。
ただ、ネット企業ってのはタチが悪いですな。
先日もちょっとおかしなことがありまして、今日は、相談に参りました。
最近、本やDVDをネットで格安販売している会社がありますよね。
そうそう、
「サバンナ・ドット・コム」
とかいう会社です。
サバンナは、彼らがまだまだ小さい会社のころから受注品の配達を請け負って参りました。
ところが、最近当社に税務調査に入ったことがきっかけで、請求漏れが判明しました。
私もそんな大した額ではなかろうと思っていたのですが、それが結構な額でして、ざっと2000万円にもなります。
ちょっと前に実家の酒屋を継ぐってことで辞めてった営業課長がいい加減な人間で、どうやらそいつのチョンボらしい。
当社が仕事をしたのは紛れもない事実なので、サバンナさんに払ってくれっていいましたところ、担当の経理部長は
「すぐ払わしていただきます」
なんていってたのに、最近入った法務部長が横やりを入れてきて
「時効だから支払わない」
なんて言い出した。
私も時効ぐらい知っていますが、5年だとか10年だとかの話でしょ。
せいぜい2、3年前の話で時効はないでしょう。
サバンナだか野蛮人だか知らないけど、こちらとしてもそんな社歴もない、成金企業風情からバカにされて、黙っているわけにはいかない。
先生、お願いですから、利息も含めてきっちり支払わせ、オトシマエをつけてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:時効のバリエーション(2020年4月1日民法改正により解消予定)
本ケースでは、時効が問題になっています。
一般に、債務が消滅する時効期間は、民事10年、商事5年といわれており、原則としてはその理解で差し支えありません。
民法改正(2020年4月1日施行)によってずいぶん統一化され、混乱は少なくなりましたが、現時点(2019年4月)では、かなり様々なバリエーションが存在しており、5年より短い時効で消滅してしまう債権が相当数あります。
例えば、請負人の工事に関する債権の時効は3年ですし、メーカーや問屋の商品売掛代金債権の時効は2年、ホテルや旅館の宿泊料・クラブやレストランなどの飲食料の債権の時効は1年です。
そして、今回問題になっているイダテン急便のような運送料の債権も1年で時効消滅することが定められています(民法第174条第3号)。
すなわち、サバンナ社の法務部長の主張は明確な法的根拠に基づくもので、イダテン急便の債権は時効で消滅していることになります。

モデル助言:
御社の場合、債権を1年以上放置したら基本的にアウトです。
もっとしっかり管理すべきですね。
営業部隊は仕事を取るのに必死で、細かい管理は苦手でしょうから、セールスと請求管理は別ラインで動かす方がいいかもしれませんね。
今回の件は確かに時効が完成してほぼ絶望的ですが、
「いったん時効が完成しても、債務者が債務を承認したりその素振りを見せたりした場合は時効が中断したり援用できなくなったりする」
という判例法理(時効援用権喪失法理)があるので、これが使えるかもしれません。
サバンナの経理部長が、当初支払う意思を見せたとのことですが、これについてファックス等の記録が残っていれば、この法理を用いて、時効の抗弁を封殺できるかもしれませんね。
とにかく詳細を調べてみましょう。

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00041_創業社長引退後の内紛防止をするための、会社法活用術

会社法は、旧商法時代と比べ、会社運営設計に格段の柔軟性をもたらしました。

旧商法時代から機関設計(マネジメント・ストラクチャー)については相当程度柔軟な方向で法改正(法発展)がなされてきましたが、会社法時代になって、この柔軟性の指向が、所有設計(オーナーシップ・ストラクチャー)にまで及び、ついに、一定数以上の株主の賛与を前提ないし条件として、
「株式」
という基本的な権利についても、権利内容を自由に設計できるようになりました。

この
「株式の内容の多様化(さらに敷衍すれば、不平等化、差別形成)」
という法改正(法発展、法進化)、企業の新しいファイナンス手法の開発を促したり、上場企業の買収防衛策に活用できたり、と大企業にとって非常に大きな意味をもつことになりました。

しかしながら、このような
「株式の内容の多様化(=不平等化、差別形成)」
は、非公開のファミリー企業においても、会社の内紛防止策として活用することもでき、使いようによっては、(伝統的な会社法概念を前提とすると)革命的ともいえる劇的な効果を発揮する体制整備が可能となります。

家族経営の企業で、何らの措置も講じることなく創業社長が逝去すると、血で血を洗う内紛が生じます。

株式会社は
「保有株式の多数決により役員選任や会社の基本事項を決める」
という建前に立っていることから、株式が思惑や利害の異なる人間に分散すると、何を決めるにも一々衝突が顕在化してしまうからです。

東京地方裁判所に商事部という会社紛争を専門に裁く部(東京地裁民事8部)がありますが、
「東京地裁商事部に持ち込まれる紛争のほとんどが、会社紛争に名を借りた、ファミリー企業の身内のゴタゴタである」
というのは、法曹界ではよく知られた事実です。

創業社長としてこういう事態を避けたいのであれば、会社運営の投票権(株式)を不平等化・差別化し、
「後継者として指定した子“のみ”が“非民主的に”会社運営する体制」
に変更してしまえばいいのです。

具体的にいいますと、会社の定款を変更して、現在発行済の普通株式の一部を
「議決権制限株式」
にしてしまい、後継者のみが議決権付株式を遺言で取得するようにする方法を用いるのです。

その他、非公開会社では、株主の権利(利益の分配や議決権)について、持株数に関わりなく株主毎に不平等に定めたり、その代償措置として他の株主の配当を多くするようなこともできます。

例えば、
「三男には会社支配権を残し、長男と次男にはその分カネを多くもらえるようにする」
ということも可能です。

ただ、この方法ですと、遺言というシステムになじまないので、死後にオートマチックな政権移譲を行うことは難しくなりますが、税務的な問題をクリアして事前に株式譲渡を行っておいたり、これに信託を絡めると、相応の内紛防止のための体制整備が可能となるはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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