00078_企業法務ケーススタディ(No.0032):システムエンジニア派遣事業のリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社スッキリ・ソリューション 社長 佐藤 公次(さとう こうじ、38歳)

相談内容: 
先生、おはようございます。
当社は、銀行や証券会社に対して、クライアント企業内部のシステム開発要員としてシステム・エンジニアを派遣しております。
ま、要するに、一匹狼のエンジニアに2次発注し、当社の名刺を持たせて、客先での開発に従事させるというわけです。
この種の仕事は波がありますので、当社としても、受託の見込みが不透明なまま、大量の要員を抱えるのはリスクです。
社会保険や有給休暇、さらには福利厚生の負担なんかしていたら商売あがったりですし。
ところで、先日、同業の会社に税務調査が入ったようなんです。
その会社は当社と同じく、各エンジニアを独立事業者として取り扱い、外部請負のような形で契約をしていたようなんですが、各エンジニアが全く税務申告をしていなかったらしいんです。
社長は、各エンジニアが脱税しているだけで会社は特に問題がないと思っていたようなんですが、税務調査では、
「各エンジニアとの契約実態は雇用だから、会社が源泉徴収税額を払え」
と言われたそうなんです。
当社も事業実態は同じですし、各エンジニアは、税務申告などしたことない様子です。
私としては、雇用という形での費用が固定化するリスクを避けたいのですが、他方で、エンジニアが税務申告をしないことが原因で、後ろから税務署からとばっちりを受けるのも御免被りたいところです。
何か、いい解決策ありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:請負と委任と雇用の区別
「お金をもらって仕事をする」
というのは経済的には単純な話ですが、法律的には、それが請負ないし委任なのか雇用なのかはなかなか悩ましいところです。
悩ましいといっても、理論的な議論だけならいくらでも悩めばいいのですが、設例のように税務の問題が絡むと、議論の方向性を誤ると無用な税務リスクに発展するので、慎重に取り扱う必要があります。
各エンジニアが独自の裁量で仕事を遂行し、勤怠管理や作業報告義務等も一切行なわないということであれば、独立事業者との請負ないし委任契約ということになるのでしょうが、エンジニアに仕事の裁量がなく、勤怠管理に服し、作業報告義務までも課されているのであれば、契約名目にかかわらず、雇用という法律関係が形成されているものと見られます。
請負や委任というのは、独立の事業者として義務を遂行するものであり、誰かの指導命令に服するということとは相いれませんから、当たり前といえば当たり前の話なのですが、世の中には契約の名称だけ
「請負」

「委任」
としておけば税務署も同じように法的におかしな理解をしてくれる、などということを考えられる会社もあるようです。
もちろん税務署はこんな話をまともに受け取ってくれるほど甘くはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇用認定を避けるための方法
理論上の回避策としては、まず、エンジニアに法人を設立させ、法人間契約とすることが考えられます。
ただ、新会社法で設立が従来に比べ簡単になっているとはいえ、エンジニアの数を考えると、設立手続き負担の重さはあまりに非現実的です。
あと、エンジニアに独立個人事業主であることの客観的状況を具備させる方法として、商法11条に基づく屋号登記を実行させるとともに、税務署に個人事業開始届を提出させるという方策も、理論上の選択肢としては考えられます。
これに加えて、会社で税理士を用意し、税理士が管理する金融機関の特別口座を準備し、各エンジニアから半強制的に申告税相当の金銭を預かり、この口座にプールし、確実に税金を支払わせるという方法もアイデアレベルでは考えられます。
しかしながら、このような方法であっても、下請法や独禁法上の優越的地位の濫用の問題は回避し得ませんし、さらには近時社会問題になっている偽装請負等の問題については、未解決のリスクとして残ってしまいます。

モデル助言:
実態が雇用であるのにもかかわらず、雇用認定を避けるなどということは所詮小手先の解決法にはなり得ません。
この種の彌縫策を続けると、事業が大きくなるにつれ、リスクがどんどん増大しますし、健全な事業展開を望めなくなります。
問題の根本的な解決のためには、正攻法しかあり得ません。
すなわち、現場での作業をエンジニアの裁量にゆだねるのではなく、御社として指揮命令や管理を続けるのであれば、雇用という契約処理をきちんとするほかありません。
御社の作業実態を観察しない限り何とも言えませんが、エンジニアの個性や裁量が反映されるような業務を請け負っているわけではないようですので、雇用という形態は動かしがたいと存じます。
ただ、雇用と言っても、終身雇用以外の雇用契約もあり得るわけで、更新のない期間雇用としておくことでしょう。
もちろん、期間雇用といえども解雇権濫用法理の適用があり得るところですが、このようなリスクは顕在化するとは限らないわけですし、発生した時にコントロールする、と腹をくくるほかありませんね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00077_企業法務ケーススタディ(No.0031):M&A取引における売り手側は契約書を作るな

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社五十田珈琲 社長 五十田 紀里(いそだ きり、27歳)

相談内容: 
先生、聞いてください、ようやく、会社売却のめどが立ったんです。
これで私もやっと好きな演劇の世界に戻れます。
先生もご存じのとおり、父に勘当された後、劇団員として楽しい毎日を過ごしていたんですが、ある日、突然、父の会社を継ぐことになってしまいました。
以来、右も左も分からず会社を切り盛りさせられ、過労死寸前の毎日でした。
会社経営なんて早く辞めたかったですし、どこか会社を買ってくれるところがあれば早く売り払って、好きな演劇だけして暮らしたいと思っていたところ、専務の叔父がコーヒー専門店のチェーン展開をしている取引先の社長と共同で、M&Aという形で事業を継承してくれることになりました。
契約も含めた細かい処理は、取引先社長の知人のコンサルタントの方が全部やってくれるみたいです。
税務的な確認も終わり、M&A資金の融資の準備も整ったということで、コンサルタントの方が契約書の案を送ってくださいました。
それがこれなんです。
A4で2枚のこれです。
恐らくコンサルタントの方が適当に書かれたものなんですが、素人目に見てもどうも言葉遣いが法律的でないような気がしますし、大体、契約書のボリュームが少ないのが気になります。
M&Aって言うと、ほら、フツー、もっとたくさんのページの契約書になるはずでしょ。
こんなペラペラの契約書じゃ、なんか不安で。
先生のお力で、もっときちんとした契約書を作ってほしいんですよ。
お願いできますか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:欧米流契約文化の浸透と契約書のボリュームアップ化
日本の産業界では、ついこの前まで、どんなに大きな取引でも欧米流の分厚い契約書は嫌がられ、
「信頼関係」
という日本独特の美風と伝統に基づく、簡素な(と言うか法的にほとんど意味のない)契約書による取引(あるいは契約書すらあえて作らない取引)が尊ばれてきました。
また、
「契約書に想定しないような状況や契約文書の解釈に相違が生じた場合は、トップ同士酒食を共にして仲良く話し合い、それでもダメなら業界の顔役や監督官庁の指導で、解決を先延ばしにするなり適当に手打ちをする」
というやり方が支配的で、弁護士に依頼して裁判で徹底して自己の主張を展開するなんて下品なことはまず行なわれませんでした。
ところが、市場が縮小し業界内競争が熾烈化するとともに、
「規制緩和」
の流れの中で役所も業界のリーダーも業界内秩序維持の役割を放棄するようになりました。
さらに、外資や新興企業の参入が常態化するようになると、古き良き取引文化は消滅し始め、欧米流の法的合理性に基づく取引構築が主流となってきました。
そんなわけで、最近では、設例の五十田さんのように、
「ペラペラの適当な契約書はイヤ、欧米流のきっちりとした契約書を作成してほしい」
という要望を持つクライアントが増えてきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:きちんとした契約書を作らないほうが有利な取引
とはいえ、どのような取引のどのような立場であっても、事細かな取り決めを定めた分厚い契約書があったほうがいい、というものではありません。
設例のような
「M&Aのセルサイド(売り手側)」
にとっては、きっちりとした契約書は百害あって一利なしです。
セルサイドにとって最も有利な法的立場は、
「現状有姿で、売り逃げる」
ことに尽きます。
M&Aの契約書のボリュームを増やすことに比例して、セルサイドは、売った後もさまざまな責任を負担させられることになりますので、ごつい契約書はあえて避けるべきなのです。
すなわち、会社内容が見掛けよりボロボロであろうが、見えざる債務や偶発的リスクが山のようにあろうが、保証なんか一切せず、
「発行する書類は代金の領収証だけで、その他の文書へのサインは一切拒否」
という状態こそが、セルサイドにとって功利的に最も正しい取引姿勢ということになります。

モデル助言: 
契約書を見る限り、五十田さんが保有する株式会社五十田珈琲の全株式譲渡とその対価が書いているだけで、あとはほとんど無意味な内容です。
法的におかしな言葉づかいもありますが、これはご愛嬌でしょう。
相手方(買い手側)がこういうアホな、と言うか無内容な契約書を提案してきたことは歓迎すべきことです。
これ以上、細々とした契約内容を定めることは自分で自分のクビを絞めてくれ、と言っているのと同じです。
せっかく、こちらの義務を軽くしてあげるって言ってきたわけですから、悪びれることなく無条件に相手の提案を受け入れましょう。
ま、あえて一言なにか言うとすれば、
「売り切り御免。
保証なし」
を明確にする趣旨で、
「契約書に定める外、双方に債権債務関係が一切存在しない」
という清算条項を入れておきましょうか。
決済については、マフィアの麻薬の取引と同じで、株券の引き渡しと代金の支払は完全なる同時履行にしましょうね。
「株券だけ先に渡して、お代は後からで結構」
なんてことにすると、買い手側がお金を払うまでの間に契約リスクに気付いてぐずぐず言い出すかもしれませんから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00076_企業法務ケーススタディ(No.0030):不良社員の正しいクビの切り方

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社内田石材加工 社長 内田 雄也(うちだ ゆうや、68歳)

相談内容:
先生、聞いてください。
ウチの従業員の安岡が、会社のカネをネコババしたんですよ。
300万円もですよ。
なんでもクラブ遊びにはまったらしく、
「社長の指示だ」
と経理をだまして勝手に会社のカネをひっぱってやがった。
いい加減な奴だとは前からわかってましたが、営業成績もそこそこで、目をかけて育てていた奴ですから、裏切られたのが悔しくて悔しくて。
とりあえず、
「この野郎、警察突き出すぞ」
って怒鳴りつけて、すべて白状させて、詫び状書かせて、
「追っての沙汰待ち」
ってことにして自宅待機にしていたんですよ。
そしたら、安岡の野郎、社労士だか司法書士だかに相談したらしく、
「私は横領したわけではない。
会社の指示に基づく得意先の接待をするため、交際用経費を仮払名目で預かっただけ。
領収書もすべて取ってある。
今は、会社の命令で自宅にて待機しているが、今月分の給料を払ってほしい」
なんて内容の文書を送りつけてきやがった。
こんなのありですか?
どういう風にすりゃいいんですか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:労働契約法の「解雇不自由の原則」のシビアさとこれを回避してうまくクビを切る方法
労働法の世界では、解雇権濫用の法理といわれるルールがあるほか、解雇予告制度や即時解雇の際の事前認定制度等、労働者保護の建前の下、どんなに労働者に非違性があっても、解雇が容易に実施できないようなさまざまな仕組が存在します。
映画やドラマで町工場の経営者が、娘と交際した勤労青年に対して
「ウチの娘に手ぇ出しやがって。
お前なんか今すぐクビだ、ここから出てけ!」
なんていう科白を言う場面がありますが、こんなことは労働法上到底許されない蛮行です。
そもそも、解雇権濫用法理(使用者の解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することが出来ない場合には、解雇権の濫用として無効になる)からすれば、代表取締役の娘と従業員が交際した事実を解雇理由とすることは濫用の典型事例であり、解雇は明らかに無効です。
仮に解雇理由があっても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定を取らない限り、解雇は1カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払って即時解雇することしかできませんので、
「今すぐクビ」
というのも手続上無理。
婚姻関係が
「婚姻は自由だが、離婚は不自由」
といわれるのと同様、従業員雇用も
「採用は自由だが、解雇は不自由」
ともいうべき原則が働きますので、解雇は
「勢い」
でするのではなく、法的環境を冷静に認識した上で、慎重かつ合理的に行うべき必要があります。
では、スマートにクビを切るにはどのようにするかというと、従業員側から退職届を出してもらうことに尽きます。
さまざまな規制が及ぶ
「解雇」
とは、あくまで
「嫌がる従業員を無視して、会社の一方的意思表示により雇用関係を消滅させること」
を意味します。
すなわち、会社の一方的都合でラディカルな行為が行われるから、さまざまな解雇の法規制が働くのです。
他方、従業員が自主的に雇用関係を消滅させることは全く自由であり、そのような形での雇用関係の解消には法は介入しません。
男女の交際関係を上手に解消する手段として、
「こちらからフるのではなく、相手に愛想を尽かせて相手からフらせるようにもっていけ」
なんて方法が推奨されることがありますが、雇用関係の解消もこれと同様に進めれば、カドをたてず所定の目的を達成できる、ということになります。

モデル助言: 
横領か詐欺かの議論を法的に煮詰めて、ネコババされた300万円について刑事告訴。
といっても、死人やけが人が出てれば格別、警察もこの手の問題は多すぎて手が回らず、下手すりゃ時効直前まで捜査されずに放置されることだってあります。
「告訴状を提示して基準監督署から除外申請をもらって即時解雇」
とうまく事が運べばいいですが、除外申請が出るまで時間がかかったり、除外申請が出なかったりする場合もある。
給与全額払原則があるので、未払給与については、損害である300万円と相殺はできませんので、損害賠償は、正式解雇に至るまでの未払給与をいったん支払った上で、民事訴訟を提起して勝訴してから、となります。
無論、勝訴しても安岡が無一文だと取りっぱぐれになります。
ま、悔しいのはわかりますが、一番いいのは、
「解雇」
にこだわらず、相手から退職届を徴収して、自主的辞めてもらうことでしょうね。
早急に面談し、
「退職届を書けば受理する。
いったん認めた事実を覆し、労働者の権利に借口して、長期に不当な争いをしかけてくるのであれば、こちらとしてもそれなりの法的措置を取らざるを得ない」
といって辞めてもらう方向で説得することでしょうね。
その際、未払給与や退職金等はいったん現金で相手に手交し、その場で損害賠償の内金として領収しておけば、相殺したことにはならないので、合理的に損害回復することも可能です。
最後に、
「脅迫された」
などといわれないよう、この種のやりとりは、安岡の承諾を得て、録音等をしておいた方がより安全ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00075_企業法務ケーススタディ(No.0029):食品加工委託先の偽装行為防止法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社木村商事 社長 木村 洋一(きむら よういち、41歳)

相談内容: 
当社は、東北の食品加工会社に、OEMで、当社ブランドのシューマイやギョーザやハンバーグやらを作らせてスーパー等の小売店に卸しております。
ところで、最近、北海道の食品加工会社が、牛肉コロッケに豚肉や羊肉入れたり、賞味期限切れたコロッケをもう1回作り直したり無茶苦茶やっとったことがニュースになってます。
先日、当社の卸先の大手スーパーのサトームイカ堂の部長さんとゴルフしたとき、
「御社の製品は大丈夫でっか?
委託先さんの管理はちゃんとやったはるんでしょうな。
今度、契約の状況とかチェックさせていただきますからね」
と釘をさされました。
委託先の会社探してきよった役員はクビになって辞めてもうてますので、どんな委託先でどういう話し合いがあり、委託の取決めしたのかは私自身ようわかってません。
委託先との契約書についても、クビにした前の経理部長が紙ぴら1枚の頼りないやつを適当に作りよったみたいですが、こちらが判子押した契約書のコピーしかない状況です。
おそらく、こちらが押印したのを委託先に送っただけで、まだ相手が押印したのが返ってきてないんやと思います。
何せ、当社もそうですが、委託先はええ加減な会社ですから。
取引の力関係上、こちらからきちんとした契約書作って
「ちゃんと判子押せ」
ゆうたら、委託先も仕事ほしいでっさかい応じるでしょうが、どんな契約書にしたらよろしいでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約自由の原則
民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。
これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。
逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
みたいな法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。
無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
ということを許すことになります。
要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。
逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:性悪説に立った契約書
今回のケースでいえば、これだけニュースで食品加工における偽装が取り沙汰されていて、しかも卸し先から今後厳しい管理を要求されることが予告されているわけですから、木村商事としては、当該委託先を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
としたうえで、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することが求められます。
・輸入肉や指定外の肉を排除する等の使用食材の厳格な指定
・食材仕入先についての調査義務
・加工にあたって使用する機械の洗浄や清掃の頻度
・加工人員の除菌を保持すべき体制の確保
・加工にあたって使用する水の指定
・委託先の監査権限
・偽装があった場合のペナルティ条項
等、委託先をとことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような契約条項を考案しておけば、委託先もナメた行動をしなくなります。
本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような委託先は、
「ずるをしても文句を言わないでくれ」
というのを求めているのと同じわけですから、とっと契約を解消し、信頼に足る別の委託先を探した方がいいということになります。

モデル助言: 
食品加工業界では、契約書が一切なく、伝票だけで巨額の取引をしているケースも多いと聞きます。
信頼関係重視といえば聞こえはいいですが、そんなのは面倒くさい法務管理をサボる言い訳です。
各取引の契約書の整備など必要な法務管理を
「面倒くさい」
「法務部を抱えるお金なんてない」
「トラブルになっているわけでもないのに弁護士費用払うなんてばかばかしい」
ということで後回しにしておくと、あとで必ず、ズルをする取引相手に足をすくわれることになります。
契約自由の原則は、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
も保障しておりますが、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
を存分に満喫された方には、自己責任の帰結として、
「取り決めをしなかったことによるリスクを背負わされる」
という過酷な法的帰結が待っています。
契約書を厳格な形で取り交わすことにより、相手先の不正は予備や未遂の段階で止めさせることが可能となり、結果として品質の維持に貢献します。
ま、取引規模や御社における本OEM事業の重要性も含めると、きちんとした契約書を作っておいた方がいいでしょうね。
少し時間をいただければ、サトームイカ堂の部長さんにも評価いただけるような契約書のドラフトを送りますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00074_企業法務ケーススタディ(No.0028):国際契約での仲裁地の引っ張り合い解消法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ビューティーホワイト 社長 陣内 紀子(じんのうち のりこ、35歳)

相談内容: 
先生、当社の販売店網は、昨年ついに日本を網羅し、今年から、いよいよ念願の海外進出に着手する運びとなりました。
第一弾として、ロサンゼルスを中心にダイエット用サプリ等の健康食品販売を広くてがけているハリウッド・スタイル社(以下、「ハ社」)と業務提携することになりました。
当社は、ハ社の商品の日本の総販売代理店となり、当社の販売店網を通じた販売活動を展開し、他方、ハ社にも同様の形で当社のカリフォルニア州の総販売代理店として当社の美白化粧品を販売してもらう予定です。
先月もロサンゼルスに行ってきて、契約条件の詰めが終わり、先日、ハ社の法務担当から業務提携契約書案が送られてきました。
ところで、当社には商社出身の常務がいるのですが、彼曰く、
「この契約書案では仲裁地がロサンゼルスになっており、いざ紛争になったら極めて不利です。
私は商社員時代に相手国仲裁を経験しておりますが、多大な時間とエネルギーを費消したあげく、当社には非常に不利な仲裁判断が下されました。
仲裁地は絶対日本国内とし、一歩も譲るべきではありません」
といい、ハ社と全く調整がつかない状態です。
私としては、この取引はうまくいくと思っており、トラブルになったときのことなどどうでもいいのですが、常務の話も気になるところです。
このまま調整できずに時間を空費するのは無駄だと思うのですが、両方とも納得できるような妙案ありませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:アウェー戦となると、戦う前から経済的敗北が決定的となる国際民事紛争
日本国内の会社同士の取引なんかですと、ある程度中味のしっかりした契約書を取り交わし、日常のコミュニケーションがしっかりしている限り、トラブルが裁判に発展するなんてことはありません。
とはいえ、いざ裁判になった場合、弁護士として一番気になるのは裁判管轄です。
サッカーや野球の場合、
「試合の場所がホーム(当地)であるかアウェー(敵地)であるかは、試合結果を左右するくらい重要」
などと言われますが、これは裁判でも同じです。
私の場合、東京地方裁判所の裁判ですと散歩感覚で行けるのですが、地方での裁判は移動の時間やこれにかかるエネルギー(弁護士は膨大な書類を持ち歩く必要があり、遠隔地への移動は大変体力を消耗します)は非常に重くのしかかります。
依頼者にとっては、日当や稼働時間報酬というコスト負担の問題が生じます。
これが海外になると、アウェーでの裁判や仲裁はさらに不利になります。
裁判官なり仲裁人は現地の文化や言語を基礎に手続を進めますし、当然ながら、相手国の弁護士を採用しないとこちらの言い分が満足に伝えられません。
仲裁期日のほか、相手国の弁護士との打合せに要する時間やコスト、コーディネイターのコスト、証人等社内関係者の渡航による事業活動への影響等々を考えると、紛争を継続するコストは、ホームでやる場合に比べ、ケタが1つないし2つくらい違ってきます。
商社出身の常務の話のとおりで、国際仲裁において仲裁地を相手国とすることは非常な不利を招き、トラブルが生じても仲裁でこれを是正する途が事実上閉ざされてしまうことになりかねません。
以上のようなことがあるので、国際契約においては、お互い仲裁地を譲らないことが多いです。
無論、どちらかが契約交渉上に有利な地位を有していれば、力関係を通じて解決されます。
すなわち、強者が弱者に
「契約条件についてオレの言うこときけないなら、契約はヤメだ」
と要求すれば済む話です。
しかしながら、両者対等の立場ですと、調整は難航します。
ひとつの案としては、第三国を選ぶという考え方です。
すなわち、各当事者の国以外の特定の国、例えばイギリスとかスイスとかを仲裁地とする方法です。
とはいえ、当該第三国の仲裁地までの移動にかかる負荷や当該仲裁地における仲裁の質や信頼性、当該仲裁地の弁護士が確保できるか等いろいろ調査の手間がかかります。
もう1つの案としては、仲裁を申し立てる側が、相手方当事者の場所に乗り込んで仲裁するという方法です。
すなわち、陣内さんの会社が契約に関して文句があるときはロサンゼルスを仲裁地とする仲裁を申立て、ハ社が契約に関して文句があるときは東京を仲裁地とする仲裁を申し立てる、という方法です。

モデル助言: 
私としては、最後の方法、すなわち、
「仲裁を申し立てる側が、相手方当事者の場所に乗り込んで仲裁するという方法」
をお勧めします。
確かに、こちらから仲裁を申し立てる場合、大変な負荷がかかりますが、それは相手も同じこと。
一方が相手のやり方に文句があっても、仲裁を行う場合の時間やコストの膨大さを聞くと戦意が萎え、
「面倒な仲裁するくらいなら、少しアタマを冷やして、もう一度冷静に話し合ってみるか」
と思うようになることもあるでしょう。
このように、
「過激な行動を出ようとする側が、常に高いハードルにぶつかるような状況を設けておく」
という契約の仕組は、無駄な紛争を減らし、冷静な話し合いの機会を増やし、結果として紛争予防効果を高めてくれると思います。

参考:
00241_管轄地・仲裁地の重要性
00242_国際取引において、仲裁地の交渉がデッドロックになった場合のブレイクスルー・テクニック

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00073_企業法務ケーススタディ(No.0027):商品売掛先に騙された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ウッディータイヤ 社長 鈴木 有働(すずき うどう、37歳)

相談内容: 
先生、いつもお世話になっています。
ほら、ウチが輸入総販売代理店の権利を買ったイタリアのメーカーのタイヤあんじゃないすか。
最近新製品出したんすけど、これ、今、スゲー売れてんすよ。
ところで、ちょっと前、若手実業家の会合で知り合った人間がいるんです。
結構いい身なりで、いかにもやり手のビジネスマンみたいな感じなんですよ。
彼が言うには、手広くカー用品のチェーン店をやっている企業のトップだっていうことで、頂いた名刺みると、
「内村カー用品チェーン CEO 内村輝夫」
って書いてある。
その内村が、ウチの扱っているタイヤをどうしても売ってほしい、ていうんですよ。
意気投合したこともあり、在庫でスポーツタイヤが400本ほどあったんで、売りましょうという話になったんです。
翌日ウチのオフィスで注文書を書いてもらい、引渡方法については
「一刻も早くほしいので、こちらからトラックで取りにいきます」
ってことで、3日後にトラックで持っていきました。
その後、請求書を送ったんですけど、待てど暮らせど入金がされない。
会社の電話もつながらない。
やっと携帯でつかまえ、問い詰めると、
「内村カー用品チェーンは屋号で、私は個人事業主です。
タイヤはすでに売却済。
現在資金繰りが苦しいので代金は待ってほしい。
破産も検討している」
なんて言っている。
「そんなの詐欺じゃないですか。
名刺のCEOって普通大きな会社のトップって意味でしょ」
って怒鳴ったら、内村は笑いながら
「CEOは“チョット・エロい・オヤジ”の略称です。
法人代表者の意味ではなくて、ジョークで使っているだけ」
なんて言い出す始末です。
こんなの当然詐欺でしょ。
なんとかして下さいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:掛売は「商品代金相当分の無担保融資」と同義
今回、鈴木さんは、身なりだけで判断して取引を開始し、売掛という形で信用を供与したわけですが、非常に脇が甘かったと言わざるを得ません。
売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じです。
鈴木さんの行為は、見ず知らずの人に担保もなしにカネを貸したのと同じくらいアホなものだったということです。
代金引換で売り渡すのであればリスクはないですが、掛で売る以上は、取引相手が信用に足るかどうか調査した上で、債権を適正に保全する方法を構築することが必要です。
掛で売ることはカネを貸すのと同じといいましたが、
「どうやって信用を調査するか」
には、銀行がカネを貸す時に行うことを参考にするのが手っとり早く確実な方法です。
銀行からカネを借りる時には、登記簿謄本をもってこい、印鑑証明もってこい、決算書もってこいなんて鬱陶しいことを言われますが、掛売を行う際は、この状況を彼我の立場を替えて再現すればいいだけです。
すなわち、今回の場合も、
「内村カー用品チェーン」
なる組織について登記簿謄本や決算書を要求すればその実態がないことや信用がないことが簡単に判明したわけです。
次に、代金債権の保全についてです。
先取特権という法定の担保物権があるにはありますが、現実に行使するのは困難です。
銀行が貸付けるときと同様、代表者に連帯保証を入れてもらうのは当然として、取引開始にあたって決算書を開示させるなどして信用状況を把握し、代引にする、相当額の内金を入れてもらう、信用ある人に連帯保証人として加わってもらう等の措置を取ることが必要です。
「あんた銀行でもないのに、決算書見せろなんて無礼だ!」
なんてキレる連中がいるかもしれませんが、そういうところとは最初から大きな信用取引をしなければ済む話です。
無論、すべての取引にこれらの措置を画一的に取らなければならないわけではありません。
例えば、明らかに信用がある東証一部上場企業のカー用品店に対してタイヤを卸すときに
「登記簿謄本をよこせ、連帯保証を入れろ」
なんて言うのは馬鹿げています(上場企業の情報は、有価証券報告書をみれば全てわかります。なお、新興市場で財務体質が脆弱な企業や問題企業の場合は、連帯保証を要求してもいい場合があります)。
小口の取引しかないところに一々こんな手間のかかることをしていたら大変ですが、大きな企業やしっかりとした企業の場合、取引の大小にかかわらず、会社の氏素性に関する情報を全てもってこさせて、基本契約を締結してから(取引口座の開設)、取引がはじまります。
逆に、会社の氏素性も不明で、基本契約がない場合、たとえ100円の商品でも売ってくれない。
それが、
「大きな企業やしっかりとした企業」
のやり方ですが、別に中小だろうが、零細だろうが、このやり方を真似ちゃいけないという法律があるわけではありません。
100円や1万円ならともかく、
「焦げ付いたら痛いと感じる額の売掛」
の取引を行う場合については、相手先の実体、信用状況を相手先から自主的に情報をもってこさせる形で把握し、基本契約を締結し、必要な連帯保証を徴求すべきだと考えます。

モデル助言: 
今回の場合、鈴木さんの信用の基礎は
「いい身なり」

「名刺のCEOという肩書」
だったわけですが、こんなことだけを頼りに、ロクに調べもしないで、全く新規の取引先に多額の掛売する方がアホですね。
流通業でもきちんとしたところは、取引開始にあたって、素性や信用に関する公的資料を提出させた上できちんとした契約書を取り交わしますし、信用枠の設定や増減も合理的に、かつ秩序立てて行っています。
確かに、支払能力がないことを秘匿として物を買うことは、不作為による欺罔行為に該当し、詐欺罪が成立する可能性があります。
とはいえ、警察にはこの手の詐欺の告訴相談が山のようにきますし、ドラマのように機敏かつ熱心に捜査してもらうことは期待しないほうがいいでしょう。
仮に内村を聴取できたとしても
「当初はきちんと払うつもりがあったが、カネの手当てができなくなった。
民事の債務不履行であって、刑事事件ではない」
と弁解することは目に見えてます。
詐欺の被害者が100%被害回復できた例はほぼ皆無ですし、この種の取引事故は事前の予防が何より重要であると肝に命じておいてください。

参考:
00240_売掛で商品を卸すということは、代金相当のカネを貸すのと同じ

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00072_企業法務ケーススタディ(No.0026):開発委託契約書はよく読むべし

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社松友引越便 社長 松友 等(まつとも ひとし、41歳)

相談内容: 
商売の方は、ほんま、順調で、儲かってしゃーないですわ。
とはいえ、ウチの商売は、学生とか外国人とかをむっちゃ安いバイト代で使うんで、人集めんのも一苦労なんですわ。
ずーと、大阪の芳本総合アルバイトあっせんセンターちゅうところに人集めお願いしてたんですけど、何せ、マージンきつくてやってられませんねや。
ほんでインターネットで直接バイト募集しようかあちゅう話になりまして、何社かプレゼンさせて、一番プレゼンがよかった東京の大手業者にシステムやらホームページの制作やらを全部お願いすることにしたんですわ。
まあ、初期費用は高いですが、保守とか更新とかは地元の安い業者に任せればええかな、とか思てます。
業者の担当者は、定型的なもんやから適当に判子ついといてくれ、みたいな感じで渡しよったけど、昔、そんな調子でごっつ不利な契約書に判子ついてもうて、先生にえらいお世話になった経験もあるので、一応、先生に見といてもらおう思たんですわ。
それなりに値がはる取引なんで、何や注意点とか書き直す点とかあったら、あんじょう教えたってください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:「カネを出した客より、カネをもらって仕事を請け負った職人の方がエライ」という異常な初期設定がまかり通る、知的財産権の世界
知的財産権の世界では、カネを払って開発を委託したケースにおいて、契約上開発成果物に生じた権利の帰属が明記されていないと、当該権利は、カネを払った人間ではなく、開発した業者の所有に帰すことになります。
無論、カネを払った側は少なくとも開発成果を使うくらいは許されそうです。
しかし、契約書に明記していない以上、開発成果に関する権利は業者の所有物として、業者が特許を取得しようが、その特許を委託者のライバル企業に売り渡そうが、法律上は許されることになります。
「そんなアホな」
と言われそうですが、知的財産権制度は
「知恵を出した人間が知的財産権者である」
という建前で構築されており、カネやインフラを提供した奴は部外者という扱いです。
契約で権利者として扱うことを取り決めがない限り、少なくとも知的財産権の世界ではカネを出した人間は
「お呼びでない」
ことになります。
委託した物が著作物の場合、制作者の権利はさらに強化されることとなります。
すなわち、契約書上
「代金支払とともに全ての著作権を譲り受ける」
との約定を明記して、ある著作物の制作を依頼した場合であっても、カネを払って買い上げた側が勝手に著作物に変更を加えることができないのです。
例えば、著名な画家に肖像画の制作を依頼して引渡しを受けた後、当該肖像画にヒゲやメガネや鼻毛を書き加えた場合、当該画家の「著作者人格権の侵害という法的問題」が生じます。
ウェッブサイトの制作も同様で、納入されたページデザインを勝手にいじったりすると、場合によっては制作を委託した業者から著作者人格権の侵害などとケチをつけられる場合が考えられます。

モデル助言: 
問題の契約書を見ると、
「開発成果は、開発を遂行した者がその権利を取得する」
なんて書いていますが、松友さんの会社は開発を丸投げして開発に関わらないわけですから、カネを出したにもかかわらず成果は業者がすべて取得します。
大工の例でいうと、この契約書に基づく限り、松友さんの会社は、工事代金を支払ってもあくまで借家人扱いです。
ですから、契約書には、開発成果に関して生じるべき権利は松友さんの会社に排他的に帰属する旨明記する必要がありますね。
今回の場合、特許性がある開発は想定できませんので相手方の会社の職務発明に関する規程整備状況まで調べる必要はありません。
特許を生じ得るような開発の場合はこういうことも契約上盛り込む必要が出てきます。
松友さんがおっしゃっていたように保守や更新を別の業者に委託する場合、相手方業者が著作者人格権云々などと難癖をつけてくる可能性があるので、契約書には
「業者は著作者人格権を行使しない」
との一文を入れておく必要もあるでしょうね。
ま、契約書案は全面リフォームが必要です。
相手が強硬で契約書の校正に応じない場合がありますので、最後は
「校正に応じないと支払わない」
という態度に出る必要がありますので、契約書の調印まで一切支払をしないでください。
また、最悪、業者を変える必要も出てきますので、見積をもらった業者との関係も維持しておいてください。

参考:
00238_知的財産権のデフォルトルール:権利は、誰のもの? 作った人? カネを出したスポンサー?
00239_著作者人格権:著作物を買った人間は、カネを払った以上、煮るなり焼くなり、いじくり回したり、落書きしたり、やりたい放題できるか?

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00071_企業法務ケーススタディ(No.0025):飲食店買収の落とし穴

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社青木派遣センター 社長 青木 小夜子(あおき さよこ、38歳)

相談内容: 
先生、すごくいい話が舞い込んできたんですよ。
ちょっと相談に乗ってください。
私、麻布とか青山とか銀座とかにイタリアンとかフレンチとかおしゃれな飲食店を持つのが東京に出てきたときからの夢だったんです。
ま、確かに今やっている派遣会社とは全く関係ありませんけど、この商売もそこそこ軌道に乗って小金も貯まってきたし、そろそろお店出そうかなあ、なんて思ってたんです。
とはいえ、今、都内はバブッてて、家賃は高いし、内装屋とかもいい気になってて高い値段ふっかけてくるし、大変なんですよ。
というか、そもそも麻布とか青山とか銀座とかには、出店希望が殺到しているみたいで、物件自体が出てこないんです。
そしたら、知り合いの波田不動産の波田社長からいい話が舞い込んできたんです。
話を聞くと、天現寺と乃木坂と築地の賃借店舗で味噌煮込みうどん屋を個人経営している知り合いがいて、引退するから3店まとめて売りに出してるっていうんです。
ま、麻布、青山、銀座という夢の立地からは微妙にずれていますし、味噌煮込みうどん屋というのもおしゃれとはいえませんが、この際、背に腹は変えられません。
波田社長からは
「この買収案件は買手が殺到しているので、ホールドするにも限界がある。
買う気なら、明後日まで代金1億円振り込んでくれ」
って急かされています。
とりあえず、お金を用意して、明日にでも支払いしようと思うんですが、先生、買っちゃって問題ないですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:「曖昧で具体性のない取引を行う買い手」が負うリスク
取引設計上、最も基本的かつ重要な事柄は、
「何を買うか」
を明らかにすることです。
すなわち、
「目に見えるものを買う取引」
については、取引対象について神経を尖らせなくても後でトラブルになる危険は相対的に少ないと言えます。
ところが、
「目に見えない何かを買う取引」
の場合、そもそも取引構築以前の問題として、取引対象の特定が重要になります。
世の中には、ライセンス取引やオプション取引、代理店の権利の取引等
「何を取引したのか、その対象自体よく分からない取引」
が横行していますが、こういうものを弁護士に関与させずに勧めると大抵ヤケドを負います。
この種の
「なんだかよくワカンナイ」
ものを買う取引において買う側は
「お金を払う」
という疑義を入れようのない明確な義務を負う半面、売る側は
「何だかよくワカンナイもの」
を提供する義務を負います。
取引対象がこんな緩い感じですと、買う側は
「妄想を叶えてくれるべくありとあらゆることをしてくれる」
と考えますし、売る側からすると
「あまり過大なことを求められても困る」
と考えます。
両者の思惑が180度違った方を向いていて、齟齬を修正する契約文言が緩いわけですから、紛争になるのは当然です。
本件において、取引対象がある程度明確化され、青木さんが十分理解して1億円支払ったとしても、さらにさまざまな困難が待ち構えています。
たいていの賃貸借契約には無断譲渡ないし転貸を禁止する旨の条項が付着しており、この条項違反は賃貸借契約の即時解除事由になります。
青木さんとしては
「業態が変わるわけではないからそんな細かいこと言わないでよ」
なんて言うかもしれませんが、それは青木さんの理屈であって、大家が青木さんの理屈に付き合う義務はありません。
むしろ、現在の地価上昇トレンドからすると、青木さんが賃借権譲渡や転貸の承諾を求めようものなら大家は結構な額の承諾料を要求するでしょうし、無断で青木さんが売主に入れ替わって経営し始めようもんなら、賃貸借契約を解除して追い出し現在の地価を反映した高い家賃のテナントに入ってもらうでしょう。
その他、従業員に引き続き働いてもらう場合も、前のオーナーとの雇用関係をいったん解消し、新たに青木さんの会社で新たに雇用する形とならざるを得ません。
今まで形ばかりの忠誠を示してきた従業員は、これ以上いい子にしていても何のメリットもないと考え、解雇を争ったり、これまでの未払い残業代を請求したり、勤務条件を上げろと言ったりする場合も考えられます。
さらに、リース品の扱いをどうするか、仕入先が従来どおりの仕入れ条件を維持してくれるか等青木さんにはさまざまな困難が生じることでしょう。

モデル助言: 
本件の場合、取引対象をあえて明確化すると、
「大家の承諾を条件として当該店舗の賃借権を譲り受け、また従業員の承諾を条件として従業員との雇用契約関係を継承し、店舗で使用するリース物件についてリース会社の承諾を条件としてリース契約関係を承継し、さらに仕入先の承諾を条件として仕入先との契約関係を承継し、その他店舗で使用する動産を譲り受けること等を内容とする取引」
ということになります。
どうしてもトライしたいのなら話し合うこと自体いいですが、こんな不確実なものに前金で全額支払うことだけは絶対やめてください。
以上のような諸問題をクリアし、契約書を取り交わし、各種の承認や引き渡しや承継が完了してから支払う形にすべきです。
あと、オーナーに多額の負債があった場合、商法17条の商号続用に伴う責任が生じますし、オーナーに競合禁止義務を課しておかないとお客さんを全部持っていかれることもありますので、このあたりのヘッジも契約書に明記しておくべきです。
取引の詳細が合理的に詰められないままお金を払うのであれば、買うのは
「紛争の種」
だけです。
相手のペースに巻き込まれないよう、少し冷静になられてはいかがですか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00070_企業法務ケーススタディ(No.0024):パクリ製品が出回った!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社市原玩具 社長 小野 米助(おの よねすけ、58歳)

相談内容:
先生、大変ですよ。
パクられちゃいましたよ。
いえ、この前先生にもご紹介しました
「突撃シャモジくん」
のことなんですよ。
これは、ウチの常務、甥の米太朗のアイデアだったんですが、
「ママゴトが好きな女の子とメカが好きな男の子の両方へのウケ狙い」
ということで、ラジコンで動くシャモジ形ロボットを作ったんですよ。
ま、正直、私も絶対売れないと思ったんですが、昨年、冗談でシャモジくんの歌を作ってCMで流したら小学生の間でたちまち話題になり、商品もバカ売れし続け、当社の数年ぶりのヒット商品になったんです。
そうしたところ、大手の玩具メーカーが、ものすごく似た商品を売り始めたんですよ。
「隣のシャモジマン」
とかなんとか言うらしいんです。
ウチの商品は、木のシャモジをモチーフにしており、競合品はエンボス加工したプラスチックのシャモジをモチーフにしており、よくみれば違うといえば違いますが、明らかなパクリ製品。
実際、競合品のユーザーから当社のカスタマーサポートに何本も電話がかかってきたり、問屋さんから
「隣のシャモジマン1000個至急納品されたし」
なんて連絡来たり、当社は大混乱です。
大手食品メーカーの知的財産部出身の当社の総務部長は、
「意匠登録していないから、裁判したってムリですよ」
と、なんともつれない意見です。
これ、なんとかなりませんかね、先生。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:パクリ商品撃退にも使える、闇鍋・坩堝・雑食的法律インフラとしての「不正競争防止法」
原則論をふりかざせば、総務部長のおっしゃるとおりであり、こちらの商品も意匠登録しておくべきでしたということになります。
すなわち、意匠登録していれば、侵害の停止や予防のための措置、損害賠償請求に加え、謝罪広告等も求められたところです。
とはいえ、自動車なんかとは違い、おもちゃなんて突然どんな商品がどんなキッカケでヒットするかどうかわからないわけですから、長期の戦略にしたがって販売を取り組む主力商品でもない限り、逐一、意匠登録するなんて現実的ではありません。
すなわち、意匠制度は、登録費用や手間の負担があるため、おもちゃのように多品種少量生産品で、はやりすたりの激しい(商品ライフサイクルの短い)ものには、マッチしない制度です。
とはいえ、意匠登録をしていなければすべてのパクリ商品を黙ってみていなければならない、というわけではありません。
すなわち、不正競争防止法という法律があり、模倣品を売るような連中に対しては、この法律にもとづいてヤキを入れてやることができます。
今回のケースの場合、相手方は、市原玩具の販売する商品の形態を模倣して製造販売したものと考えられます。
不正競争防止法は、商品の最初に販売の日から3年は、当該商品の形態を保護しており、形態模倣をされた被害者は、差止請求、損害賠償請求が可能です。
さらに、平成17年改正に刑事罰も導入され、商品形態の保護が強化されております。

モデル助言: 
ま、とりあえず、不正競争防止法の商品形態模倣を理由として相手方会社にヤキ入れできないか、検討してみましょう。
今回の模倣はデッドコピーというわけではありませんし、
「印象として似てるから」
というだけでは法的請求をおこなうには不十分です。
外観と内部構造双方において同一性を比較して模倣かどうかを検証しましょう。
2つの商品の外観を比較すると、
「木のシャモジ」

「プラスチックのシャモジ」
ということですから、
「実質的に同一の形態」
とはいえるでしょうね。
あとは、内部構造の比較ですが、動き方についてはこちらの商品の方がダサイ動き方で、競合品の方が優れているようです。
とはいえ、動力部の格納方法や動力の伝え方までほぼ同じですし、外観の形態の酷似性とも併せ考えると、法的には模倣と認定できそうですね。
相手方の出方にもよりますが、会社としての規模や商品人気の沸騰ぶりから考えると、相手方は弁護士費用には糸目をつけず争ってきそうですし、示談での解決は困難かもしれません。
即座に訴訟に移行することを見越して、十分な準備をしていった方がいいでしょう。
ある程度事件が進行すると、相手方からは競合品の販売を認めることを前提とした和解が申入れられるかもしれませんが、これは
「毒饅頭」
ですね。
相手方の規模を考えると、競合品の販売を認めたら最後、相手方の販売力に駆逐されてしまいますことは明らかです。
ま、腹を括って、ガチンコ勝負ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00069_企業法務ケーススタディ(No.0023):敵対的TOBは、グズグズせず、一気呵成に成し遂げるべし

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社プリンス製粉 社長 温味噌 洋一(ぬくみそ よういち、45歳)

相談内容:
これはトップシークレットなんですが、この度、当社は、東証2部に公開している東北製粉を買収することにしました。
当社はかねてから設備増強と商圏の整理統合を考えていたのですが、現在の当業界における再編のスピードを考えると、チンタラやっている余裕はありません。
幸い、手元キャッシュとメインバンクからの借入とファンドからの資金提供もあって、過去3カ月の東北製粉の平均株価に20%ほどプレミアムを付けた価格で公開買付できる算段がつきました。
東北製粉は現状買収防衛策等一切整えていないようであり、敵対的な公開買付を実施しても、特段障害は見当たりません。
ただ、いよいよ敵対的TOB実施段階になって、今回買収アドバイザーを依頼したよこしま銀行から
「乗っ取りだとイメージが悪い。
過去敵対的に公開買付をして成功した例は少ない。
TOBが可能な状況であることをブラフに用いて、東北製粉の経営陣と話し合い、彼らを説得して、友好的に進めてみるべきだ」
という助言がありました。
とはいえ、東北製粉の経営陣は独立不羈の気風が顕著で、会社を我が物と考えているような節があります。
プライドの高い経営陣が、
「業界再編の中、共に生き残ろう」
という当社の説得に応じてくれる可能性はゼロでしょうが、アドバイザーの助言も気になります。
硬軟両策あり得るところですが、鐵丸先生のご意見はいかがでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:熾烈な攻防戦が目まぐるしく展開する敵対的買収戦
かなり前の話になりますが、王子製紙と北陸製紙との間で敵対的買収の攻防が繰り広げられました。
王子製紙は、当初、北陸製紙に対して経営統合を申し入れたようですが、北陸製紙側はこれを拒否。
その後、王子製紙の乗っ取りの動きを察知した北陸製紙は、ホワイトナイトとして三菱商事に第三者割当増資の引受を依頼する等、着々と防御策を講じ始めました。
王子製紙は、経営統合打診から20日も経過した後、公表前の終値に35%以上のプレミアムを付けた価格(860円)によるTOB実施計画を発表しました。
北陸製紙経営陣側は、ホワイトナイトの三菱商事に1株607円という安値での増資引受を進めるほか、さらに、日本製紙がTOB阻止目的で北陸製紙株の8.85%(約150億円相当)を取得したこと表明するなど邪魔が入りだしました。
三菱商事の増資が完了して出資比率が24.4%になりましたが、王子製紙は、増資を非難するも、差止のための裁判は見合わせる態度を取りました。
TOB価格を800円に引き下げたこともあってかTOB応募は5.3%にとどまり、最終的に、王子製紙は、TOBの不成立を宣言するに至りました。
王子・北陸の攻防戦が行われた当時、製紙業界は、原料の高騰に加え、外国の廉価品の流入、国内企業間の過当競争という、典型的な再編圧力下状況にありました。
王子製紙の敵対的買収は、それまでのファンド主導の買収事案と異なり、
「事業会社による至当な理由によるもの」
と評価されたこと、さらには、王子製紙のTOB価格に妥当なプレミアムが付けられていたこと等もあり、当初、王子製紙の敵対的買収は株式市場から好評価を受け、買収成功との見通しが支配的でした。
しかしながら、経営統合打診からTOBの公表までに20日間、TOBの公表からTOBの実施までに10日間、という無意味な
「間」
を空けてしまったことから、北陸製紙に防御策を実施する余裕を与えてしまい、また、TOB阻止目的での日本製紙の参戦を招くという失敗を犯しました。
三菱商事への安値での増資については、有事に実施された点も含めて考えると、不公正な増資である疑いがあるので、これを裁判所に訴え出ることも可能であったにもかかわらず、王子製紙は、手をこまねいてみているだけでした。
専門家の間では、このような無意味な時間の空費と、
「やられたら、即座にやり返す」
という応戦姿勢の欠如が、王子製紙失敗の原因であるとの評価がなされているようです。

モデル助言:
TOBに宣戦布告なんて不要ですから、話し合い抜きで、いきなりTOBを開始すりゃいいんですよ。
そうしたら、相手方も、なりふりかまわず、安値で募集株式発行したり、重要な資産を切り離したり、無意味な提携を強引に進めたりとさまざまな防衛策を実施する場合があります。
「防衛策」
といえば聞こえはいいですが、
「有事にできる防衛策」
なんて、所詮、どれも会社法に違反するような代物です。
「防衛策」
なんてふざけた真似したら、間髪入れずに仮処分申立ててヤキを入れてやりゃいいんですよ。
とにかく、相手に余裕を与えることは有害無益です。
「事業会社のTOB」
であっても、
「アタマの切れるファンドや行儀の悪いベンチャー企業のTOB」
を見習い、相手に考える余裕もないくらいに先手を取り続けるべきです。
話し合いがすべて無駄とはいいませんが、話し合いをするなら、勝敗が決した段階で、刃を喉元に突き刺した状態でやるのが正しいあり方です。
ケンカなんて、準備を万全にし、気合と根性入れて、下品に、一気呵成に、進めた奴が勝つに決まってます。
無駄な上品さを追及する買収アドバイザーのアホな助言なんか無視して、徹頭徹尾
「ケンカ上等!」
モードで進めてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所