00084_企業法務ケーススタディ(No.0038):会社と個人とを使い分けて責任逃れをする者への対処法!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社テイクワン・ビル 社長 高田 潤一(たかだ じゅんいち、60歳)

相談内容: 
先生おはようございます。
いつもステキな高田潤一です。
いやー、朝からいい男ですいませんね。
まあ、冗談はさておき、ちょっと聞いてくださいよ。
貸しビル業なんてオレでもできると思って、適当なことやっていたら、とんだ目に遭っちゃいまして。
いえね、昨年、知り合いからの紹介でオフィスのテナントとしてウチのビルに入ってきた会社があるんですよ。
オズマ商事株式会社っていうんですけどね。
オーナー兼社長の名刺には、
「武者小路♂将」
なんて書いてある。なんすか「♂」って。
私もいい加減な人間ですが、こんなスットコドッコイはじめてですよ。
とはいえ、古くからの知り合いからの紹介でしたし、法人契約で入居させることとしました。
そしたら、この会社、入居して2ヶ月したら家賃を滞納しはじめるわ、何やら妙な造作を勝手に付け始めるわ、騒音は出すわ、どうしょうもない状況だったんです。
それで仲介した知人を通じて、オズマ商事との間で示談をして、先月末までに明渡すという約束を取り付けたんです。
ところが、期限になっても出ていく様子がないので、オフィスを見に行ったら
「NPO法人 ♂義士団♂ 本部」
なんてプレートが貼ってある。
武者小路と話をしても、
「明渡しの示談は法人であるオズマ商事株式会社との話でしょ。
会社が借りていた部分は明け渡しますが、私が個人として借りている部分や別法人の♂義士団♂が借りている部分はそんな話知りません」
なんて言いぐさです。
こういうスットコドッコイをギャフンと言わせる、適当な方法ありませんかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:個人と法人は法律上別人扱
一般社会では、人というと、
「手足があって、目があって、耳があって、口があって・・・」
というものですが、
「法人」
というのは、グループ(社団法人)や財産の集まり(財団法人)に過ぎず、現実には影も形もないものです。
法律の世界では、脳や体はなく、会話や挨拶ができなくとも、ひとかたまりのゼニが存在し、そこに権利を移転し義務を負担させられるのであれば、「人」並に扱うことに何ら問題はないとされます。
このような観点から、
「組織であれ財産の集まりであれ、ゼニさえ持たせられれば『人』並みに扱う」
というフィクションが構築され、法律上の人格をもつべきモノとして、
「法人」
という概念が出来上がりました。
法人でもっとも身近なのは株式会社です。
株式会社は営利追求目的で集まった株主のグループに過ぎませんが、法律上
「営利社団法人」
として、株主とは別個の「人」として扱われます。
一般の中小零細企業では、株式会社といっても、現実には株主はオトーチャンひとりだけで、個人事業と何ら変わりありませんが、それでもやはり法律上オーナーの株主トーチャンとは
別「人」扱
となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:法人格否認の法理
こういう建前を貫くと、高田さんが遭遇したケースのように、
「オーナーと法人は別人だから、オレには関係ない」
「A法人とB法人は別人だから、こっちの法人はそんな義務知らねえ」
などの詭弁を弄する輩が出てきて、不都合・不公平な事態が生じます。
こういうことから、あまりにひどい場合は、
「法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからずものというべきであり、法人格を否認すべき」(最高裁昭和44年判決)
等とされます。
「法人格を弄ぶスットコドッコイ野郎に対しては、法人だろうが個人だろうが関係なく義務や責任を負わせるべし」
という粋な計らいは、法人格否認の法理と言われ、法律家の世界では非常にメジャーな法理です。
しかしながら、このような伝家の宝刀がブンブン振り回されると法人格概念が崩壊するということも懸念され、最近では、この法理の安易な使用を制限する動きも出てきています。

モデル助言: 
まず、こういうケースに備えて、武者小路♂氏に対して、連帯保証を取っておくべきでしたね。なんだったら、その仲介者からも連帯保証を徴収しておいてもよかったんですよ。
「こんないい加減そうな野郎を紹介するんだったら、テメエもケツをもて」
とか言ってね。
お話ししたとおり、法人格否認の法理というのは、裁判所がしょっちゅう認めてくれるようなものではありません。
実際、銀行が法人にカネを貸す場合、法人倒産後にオーナーやその親族を追い込む方法としては、こんなあやふやな法理に頼ることなく、あらかじめ約束させた連帯保証責任に基づきとっとと身ぐるみ剥ぎにかかります。
こういう抜け目のなさは皆さんもっと金貸しに学ぶべきですね。
とはいえ、本件はあまりに悪質ですから、裁判所を説得し、この法理の適用を認めてもらいましょうか。
今後、さらに別の法人や素性不明の人物が出入りして占有を主張することもありますから、保全処分を実施してから早速訴訟を提起しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00083_企業法務ケーススタディ(No.0034):株券がホニャララ団の手に渡ってしまう!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社海砂利リゾート 社長 有田 哲也(ありた てつや、36歳)

相談内容: 
先生、大変なことになりました。
高校の同級生で、25年前の創業時から一緒に頑張ってきた専務の上田がやらかしてくれたんですよ。
いえ、どうも前から上田の様子がおかしいなと思っていたんですが、上田の無断欠勤が続くのでいろいろと調べてみると、奴はえらい借金があるようで、それも相当あぶない筋から借りていたとのことなんです。
上田には当社株式10%に相当する株式を持たせていましたが、当社の他の発行済株式と同様、現在のところは、株券は発行しておりません。
ところが、先日、ホニャララ団とおぼしき人物から、当社の総務部に電話があり、
「オレは上田にカネ貸してんだけどよ。あんまり返さねえんで、上田の持ってる株式を質に入れさせたんだよ。でさ、オレもさ、質入れしてもらった以上、おたくの株券を持っときたいわけ。
上田宛に株券発行してやってくんねえかな」
とかいう連絡がありました。
当社はまだ株式公開に至っておりませんので、定款上株式譲渡制限を付けております。
しかしながら、再来年には株式公開予定であり、現状で素性の芳しくない方が株主として入ってきてもらうと困るのです。
当社の監査役の会計士の先生は、
「旧商法時代に設立された御社は、株券発行会社のままであり、会社法上株券を発行する義務があるので、正式に株券発行請求されたらすみやかに株券を発行せざるを得ない」
との意見です。
他方、主幹事となっていただく予定で株式公開の面倒を見てもらっている証券会社の方は
「株券が変な方の手に渡るならまず株式公開は無理」
と言っています。
ほんと、大変な状況です。
どうすればいいのでしょうか。
何かいい方法があればぜひ教えてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株券発行は会社の義務
旧会社法(商法)の時代から、株式公開をしない企業の中には、
「ウチは株券発行していません。株券発行要求なんかあっても当然拒否します」
などということを平然とのたまうところが少なからずありました。
株券がややこしいところに流れると、たとえ株式譲渡に制限をかけていても少なからずトラブルが生じ、株式公開に差し支えるということから、主に証券代行(株主名簿管理人として行動する信託銀行)が
「株券なんか発行するな」
という指導をしており、これがいつのまにか
「ウチは株券していない取り扱いであることを告げれば、株主が株券発行を要求してこようがシカトしても構わないんだ」
という都市伝説になったのだと思われます。
しかしこのような会社の言い草には全く根拠がありません。
旧商法時代においては、すべての株式会社は、株主から株券発行の要求があれば、これに応じなければならず、法律上これを拒否することができないとされていました。
旧商法時代からの株式会社で、 「定款変更を実施し、株券不発行会社に移行する」という手続きをわざわざやるような「会社法的に意識高い系企業」であれば格別、この種の小賢しいことをしていない、多くのフツーの旧商法時代からの株式会社は株券不発行会社のままです。
監査役のいうとおり、やはり、株券発行を拒否する根拠がないのです。
ちなみに、現在の会社法下で設立された会社では、原則・例外が見事に逆転した制度構造となっており、デフォルト設定として、全ての株式会社は株券不発行会社とされています。
したがって、どうしても、紙の株券が大好きで株主に発行して現実の株券をもってもらいたくて仕方がない(変わった)企業については、定款に「当社は、株券発行会社とする」という条項を挿入し、会社法のデフォルト設定を上書きすることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株券不発行会社
確かに、株券譲渡に制限をかけておけば、株券がホニャララ組の手に渡ろうが、ハニャララ連合の手に渡ろうが、ヘニャララ一家の手に渡ろうが、そのようなところから株式譲渡承認申請を拒否すれば足りるだけだとも言えますし、株主に株券をバンバン発行してやっても問題ないはずです。
しかし、
「そんな連中に株券を所持されてるだけでお尻がむずむずして寝覚めが悪い」
という企業は、とっとと定款変更し、株券不発行会社に移行したほうがいいかもしれません。

モデル助言: 
上田さんの債権者と称するホニャララ団の方からの株券発行請求ですが、取りあえず、委任状とかもありませんし、上田さん以外の第三者が
「株券よこせ」
だのなんだの電話口で怒鳴ったところで、法律的にはただの雑音です。
適当にあしらっておけばいいでしょう。
とはいえ、そのうち、正式に弁護士を立てて、上田さんの代理人として内容証明郵便とかで
「株券を発行せよ」
とオフィシャルに求めてくるかもしれません。
そうすれば株券を発行せざるを得なくなります。
このような事態に備えるのであれば、株券不発行会社に移行する以外手段はありません。
御社はまだ未公開会社なわけですから、臨時株主総会といってもそれほど手間はかからないはずです。
ただ、御社株主の中には、エラそうだけど会社法をあまり勉強していないベンチャーキャピタルの方々もいらっしゃるのですよね。
そういう残念な連中に逐一説明するのが少々面倒くさいかもしれませんが、とっとと定款変更して株券不発行会社になってしまえば、株券を出す必要は一切なくなります。
ま、そんなにビビる話ではありませんよ。
なお、上田さんに対する賃金や損害賠償請求権等があれば、訴訟提起して欠席のまま判決を取ってしまうことができます。
上田さんが行方不明ということであれば、このシナリオは現実的です。
判決が取れれば、この債権で上田さんの株式を差し押さえし、譲渡命令で会社のものしてしまうことができます。
この方法の検討も始めましょうか。
ホニャララ団が騒ぎ出す前に、臨時株主総会、定款変更、上田から株式を取り上げる手段の構築と実施、と超高速で完遂しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00082_企業法務ケーススタディ(No.0037):社内不祥事を勝手にマスコミに公表された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社黒福本舗 社長 黒田 福三(くろだ ふくぞう、27歳)

相談内容: 
いやー、先日の問題は大変でした。
当社の主力製品、白玉を黒い漉し餡でくるんだ
「黒福餅」
の売れ残りを、冷凍保存して、もう一度売っていた問題ですよ。
今後は廃棄在庫は養豚業者に売却して売却証明文書をもらうようにしたり、製造過程の安全性を第三者委員会によりチェックしてもらったり、いろいろ改善した結果、営業再開の目処が立ちました。
ところで、まず今回の件をいきなりマスコミに通報した従業員の処分について相談したいんです。
本人は、全く悪びれておらず、辞める気もサラサラないようで、今も職場にとどまっています。
とはいえ、彼の上司は
「なんで私に相談せずにいきなり公表したんだ」
と悩んだ余り自殺未遂を図り今も療養中ですし、彼の同僚たちに至っては
「愛社精神がないのか!」
と憤り、私的制裁を加えかねない状況です。
そりゃ、私としても、当社として誤解を招くようなことをしたことは悪かったとは思いますが、内部でやりなおす機会もなく、いきなりマスコミで報道されても黙って認めろというのは釈然としない気分です。
今回のことは現場主導でやってしまっていたわけなんですが、私としては、きちんと現場の声を聞いていたら放置するつもりはなかったですし、今後はこういうことは会社内で処理できるようにしていきたいと考えています。
そこでなんですが、まず彼は解雇できるんでしょうか。
それと、今後、いきなりマスコミに公表するのではなく、まず企業内部できっちりと不正をなくすための行動を従業員に推奨する方策として何かできることはありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公益通報者保護法
談合、各種食品偽装、リコール隠し等々、最近、企業内部の不正が多く報道されるようになりましたが、これらの不祥事報道のきっかけのほとんどが企業の従業員等の内部告発によるものだと言われています。
そして、このような内部告発した従業員が、後に解雇されたり、職場で様々な不利益を受けることもよく知られた話です。
企業のこの種の報復から内部告発者を守るため、2006(平成18)年4月に公益通報者保護法が施行されました。
ちょっと前まで、企業内で秘匿されている
「表立っては言えないような事情」
を口外しないことは従業員のモラルとされ、逆に、その種の事情を口外するときは辞職覚悟で行うものとされていましたが、この法律により、
「企業内部の不正を公表するには、辞職を覚悟しなくてもいい」
という新たな企業文化が確立されました。
企業としては、
「コンプライアンスの観点上、企業内不正の密告は奨励される」
という理屈が法制化されたことを理解しなければならず、
「この対策を怠ると、信じていた身内からの裏切りにより簡単に企業組織が崩壊すること」
を認識する必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:内部通報制度を設けるメリット
公益通報者保護法は
「従業員が企業内の不正を発見すれば、どんな場合や状況にかかわらず、ベラベラしゃべってよく、解雇もされない」
ということを定めているわけではありません。
とくに、従業員のタレ込み先がマスコミの場合、通報を正当化するためのハードルは相当高くなります。
そして、内部通報制度を設置することにより、従業員による企業内不正の外部公表行為は相当抑止されます。
すなわち、公益通報者保護法上も、企業内部の自浄を高めるべく、
「社内不正の発見に際して、上司を通さず直接経営トップに通報するための仕組(内部通報制度)」
を設けた場合、従業員は、いきなり企業内不正を外部公表するのではなく、まずは企業内部の自浄に協力すべく、内部通報制度の利用をすべきことが原則として定められているからです。

モデル助言: 
まず、今回マスコミに社内不正を知らせて外部公表した従業員の処遇ですが、解雇は難しいですね。
御社に、事件前から適切な内部通報制度があれば、
「適正な内部通報制度を利用せず、何故、いきなり外部公表に加担したんだ」
ということで従業員を責めることも考えられます。
しかしながら、御社にこういう制度がなかったわけですし、また、今回のような不正は
「個人の身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」
として、法律上も外部公表への加担を理由に解雇するのは困難です。
とはいえ、今後を考えるのであれば、きちんとした内部通報制度を設け、この種の社内不正がいきなり外部に公表されるリスクを少なくしておくべきでしょうね。
無論、こういう後ろ向きの業務を社内で行うのが困難であれば、当弁護士法人が通報窓口となる形での運用も可能です。
といいますか、内部通報制度が適切に利用されることにより社内の風通しがよくなりますし、不正は確実に減少することは経験上明らかです。
「不正を外に漏らさないため」
ではなく、
「不正自体を減らし自浄により企業をよくするため」
に早急に導入すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00081_企業法務ケーススタディ(No.0036):労働組合から団体交渉の申入通知がやってきた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オーシャン・パシフィック 社長 野島 芳雄(のじま よしお、27歳)

相談内容: 
先生、昨日、労働解放ユニオンってところから、こんなのが郵便で送られてきたんですよ。
何すかこれ。
「組合加入通知書及び団体交渉申入書」
って、意味わかんないんすけど。
そこに書いてある、江頭ってのは知っていますよ。
中途で入ってきた人間なんですが、先月クビにしたんですよ。
まあ、入社して2、3カ月はそれなりにまじめにやっていたんですが、試用期間が過ぎると、勤務時間中にエロサイトはみるし、ネットの株取引はやるし、営業に出たら出たでサボるし、どうしようもない奴だったんですよ。
経理から
「江頭が半年以上仮払の清算をしない」
っていうクレームがあって、追及したんですよ。
そしたら、個人の借金の返済に流用したことを認めたので、さすがの私も堪忍袋の尾が切れて、その場でクビを言い渡したんですよ。
その日のうちに荷物をまとめて会社から出ていったところまではよかったんですが、そしたら、こんなのが来ちゃって。
解雇を撤回して、仕事に復帰させろなんて書いてある。
ホント、訳わかんないですよ。
だいたい、当社は労働組合を認めたこともないですし、それに、労働組合ってのは、賃上げとか残業時間とか、労使全体の話をするものでしょう。
こんな一不良社員の解雇問題に口出しするなんて、どうかしてますよ。
とにかく、
「こんなの関係ねえ!」
って思ってますし、この通知は無視しようと思っているんですが、一応、顧問の鐵丸先生にも意見を聞いておこうということになりました。
無視しといていいですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働組合
日本の多くの企業では、企業毎に労働組合が結成され、いわゆる
「御用組合」
という形で企業とそれなりに仲良く共生している例が多いです。
しかし、労働組合一般についていえば、日本国憲法により労働組合を結成する権利が認められており、労働組合を作るのに、一々会社の了解が必要というわけではありません。
そもそも労働組合を作ること自体、漁業協同組合や農業協同組合等を作るときのような意味不明な制約があるわけではなく、かなり自由にできるものです。
すなわち、2人以上の労働者が
「組合作ろう」
「そうしよう」
と意気投合し、地方労働委員会に規約等が労働組合法に適合していることを確認しさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられます。
本件のように、企業内の労働組合が存在しない状況において、従業員が企業外の独立系労働組合の組合員となることは可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:団体交渉事項
本ケースは、組合員の解雇という個人的な問題を、団体交渉の目的たる事項として、企業外の独立系労働組合から団体交渉が申し入れられています。
確かに、一個人の労働契約に関する問題を、企業内のことをあまり知らない労働組合からとやかく口を差し挟まれるのは奇異な感じがします。
しかし、本件のような問題も
「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」
である以上、義務的団体交渉事項として、会社は交渉に誠実に応じるべき義務を負います。
会社が、かような交渉事項に関し、正当な理由なく交渉を拒絶した場合、労働組合法に違反する労働組合活動の妨害行為(「不当労働行為」といいます)として、様々なペナルティを負担することとなります。

モデル助言: 
「解雇した江頭氏側に相当問題があり、しかも本人が一度は解雇に応じているのに、なんで突然出てきた部外の者と話し合わなければならないんだ!」
という野島さんの気持ちもわかります。
ですが、ご説明したとおり、先方の団体交渉申入は法的根拠を具備したものであり、
「そんなの関係ねぇ!」
というノリで根拠なく交渉を拒否したりしたら、不当労働行為として、直ちに地方労働委員会に訴えられます。
また、一旦、交渉がはじまりますと、先方は、労働法の理論と判例を頭に詰め込んだ切れ者の交渉担当者が出てきます。
組合側が法と判例を基礎に理詰めで解雇の撤回を求めるのに対して、
「そんなの関係ねぇ!」
とか言って交渉に協力しない場合も、やはり不当労働行為となりえます。
とはいえ、誠実交渉義務といっても、会社は労働組合の主張をなんでもかんでも承諾しなければならないというものではなく、合理的根拠を示して妥結を拒否することは許されています。
すなわち、
「これこれ、こういう法的理由で当方は解雇を正当と考えており、貴方の解釈は本件にはあてはまらない。
これ以上の交渉しても接点を見いだし得ないので、後は裁判所の判断を仰ぐほかありませんね」
というような対応は認められています。
いずれにせよ、理論武装をして交渉に臨みましょう。無論、当職も立ち会いますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00080_企業法務ケーススタディ(No.0035):ベンチャーキャピタルから株主代表訴訟を提起すると通告された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社バブルネット 社長 大芝 透(おおしば とおる、53歳)

相談内容: 
先生さあ、ちょっとさあ、大変なんだけどさあ、聞いてくれるかなあ。
うちってさあ、カネが足んなかったもんでさあ、メーンバンクの支店長さんから紹介を受けたベンチャーキャピタリストの小堺ってのに
「トゥギャザーしようぜ!!」
ってお願いして、出資してもらったわけさ。
でさ、小堺が取締役会に出席するようになったんだけど、こいつがとんでもない奴でさ。
数字は読めない、ベンチャービジネスはわかんない、英語はできない、ITに至ってはEメールすら使えない、大馬鹿だったわけさ。
この間の取締役会で、小堺があんまりアホな意見ばかり言うもんだから、こっちもキレちゃって、最後に
「シャラップ! バカはひっこんでろ」
って言ってやったわけさ。
小堺の野郎、顔を真っ赤にして、何を言い出すかと思ったら、
「当社は御社の株主ですよ。
そんな口聞いていいんですか。
わかりました。
御社の財務資料を徹底的に洗い直して、代表訴訟を提起します」
なんて言って帰りやがった。
野郎、当社の取引先の中にオレのダディが経営している会社が入っていることとか、司法書士業務とか社労士業務をオレのワイフのブラザーに発注していることとか、いろいろ嗅ぎ回っているらしい。
ま、どうせロクなことを言ってこないと思うけどさ、株主代表訴訟なんてのがよくわかんないもんでさ、なんか対抗策とかあればさ、先生からアドヴァイスほしいわけさ。
というわけでさ、ティーチ・ミー、プリーズ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
株式会社の取締役が会社に迷惑をかけた場合、本来、会社がチョンボした取締役に損害賠償をすべきなのでしょうが(この場合監査役が会社の代表として訴訟提起します)、現実問題として、会社を牛耳る取締役に対して、役員仲間である監査役が責任追求するなんてことは期待できるはずもありません。
その結果、取締役としては、絶大な権限を利用して会社の財産を食いちらかすことが可能となってしまいます。
そこで、会社法は、あまりにもひどい場合に、株主が会社に代わって、取締役に対して損害賠償請求することを認めています。
とはいえ、株主の代表訴訟を無制限に認めると濫用される弊害の多く出てきます。
すなわち、暴力団やライバル企業が株式を取得して代表訴訟を濫発すれば、対象企業を事実上機能停止に追い込むことが可能となってしまいます。
そういうわけで、会社法は、取締役の専横を防止する制度として株主代表訴訟を設けつつ、濫用されないような仕組も同時に設けています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主代表訴訟防御策
会社の経営陣の方々から、よく
「株主代表訴訟は怖い」
という言葉を聞きますが、
「饅頭怖い」
の落語のように本質を理解せずただ抽象的に怖がっているため、防御策をほったらかしにしているところがほとんどです。
本質的な対策としては、取締役において代表訴訟の原因となるべき任務懈怠あるいはこれと疑われるべき行為を減らす努力が必要です。
問題となりそうな取引や行為については、代表取締役の独断には付さず、取締役会できちんと議論するとともに、議論と承認可決された経緯を議事録に漏らさず記録しておくことにより、代表訴訟のリスクが相当程度逓減されます。
あと、代表訴訟提起前に株主から会社宛に、
「お前んとこの悪徳役員を訴えろ」
という内容の訴訟提起を求める書面が参ります。
ほとんどの会社は当該書面をシカトしますが、シカトの結果、怒り狂っている株主相手と役員との仁義なき直接対決を誘発してしまいます。
ケースによっては、株主の言い分どおり訴訟提起をしてあげて、話が通じる者の間で適正に解決した方がいい場合もあります。
最後に、防御策というより責任軽減策として、役員賠償責任保険に加入することや賠償額の制限を定款に盛り込むことも考えられます。

モデル助言: 
まず、相手方が問題としそうな取引、法律上取締役会の承認が必要だったものや、道義上取締役会に付議しておいた方がよかったものを洗い出してください。
議事録を遡って作成することは厳禁ですが、事後の承認を得ることは可能ですので、問題となりそうな取引については、事後的であれ、法的クリアランスをやっておいた方がいいでしょう。
それと、小堺が取締役会で面罵されて個人的な恨みをいだいていた経緯を書面として残しておきましょう。
代表訴訟提起が不当な害意を目的とするものである場合、訴訟自体却下されることもありますので。
究極の手段としては、小堺から会社に対して訴訟提起を促す通知が来たら、これを放置せず、小堺の要望どおり会社が訴訟を提起することですね。
この場合、相手は小堺ではなく、見知った監査役となります。
どうせ裁判するなら、敵意を抱いている人間より気心の知れた人間の方がやりやすいですから。
ただ、気心知れた監査役に露骨な馴れ合い訴訟をしていい加減なことをしてお茶を濁そうとしても、このような不当な手法に対しては会社法で制限措置が設けられていますので、この点は十分注意すべきです。
ま、そんなことより、いい気になって他人を無用に怒らせるのは、トラブルを増やすだけですから、今後の会社運営はくれぐれもご自重ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00079_企業法務ケーススタディ(No.0033):買収防衛策としてのチェンジ・オブ・コントロール条項

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社加藤茶業 社長 加藤 英幸(かとう ひでゆき、64歳)

相談内容: 
当社は、有機栽培で有名な高木茶園と古くからお付き合いがあるほか、苦みと甘味を醸しだす製法は志村工業の特許の独占許諾を得ておりますが、これらの協力により独自の飲料商品を生み出し、ようやく株式を公開するまでになったのです。
ところで、先日、総務部長の仲本が、外資系のファンドが相当当社株を買い増しして、いつの間にか25%も買い占めていると慌てた様子で報告してきました。
このことを高木さんや志村さんに相談したところ、
「オレたちは加藤さんと一緒に加藤茶業を大きくしてきた。
買収されるようなことがあったら、オレたちも困る。
何でも協力する」
と言ってくれています。
とはいえ、2人とも安定株主として株を買い増すという形での協力は無理なようです。
ところで、高木茶園との茶葉の仕入れ契約は今月で修了となり、更新の話となりますし、志村工業との特許ライセンス契約も来月に一端終了となります。
ファンドは純投資目的で保有しているようですが、米国大手メーカーが当社を買収する動きがあるとの噂もあり、ファンドがこのような動きに併せて買い増しをしているとも考えられます。
敵対的買収を防ぐための妙案で、何かいいものはありませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:買収防衛策としての取引先との連携
かつて日本の産業界を賑わせたニッポン放送買収騒動の際、ライブドアによる買収が現実化しそうになったとき、フジテレビでは、
「ニッポン放送がライブドアに買収されるような事態に陥ったときには、コンテンツ提供を打ち切ることもあり得る」
という趣旨の公表をしました。
これは
「買収した途端、ニッポン放送の企業価値が下がるかもしれないから、ライブドアの買収は無駄に終わるよ」
ということであり、
「寄り切りで負けそうになってもこちらの土俵を後ろにずらすから、負けないよ」
と宣言したようなものです。
ここで、注目されるのは、買収防衛策の多様性です。
すなわち、買収防衛策としては、株式(新株予約権)という企業持ち分の分捕り合戦を中心に構築されることがほとんどですが、会社の利害関係者は何も株主だけではありません。
現代的ステークホールダーズ論によれば、
「会社の利害関係は株主だけではない。
顧客や従業員や取引先、さらには行政や地域社会までもが会社の利害関係者である」
ということがいわれることからも明らかです。
ですので、敵方に株を過半数以上取られないための方策と並行して、
「暴力的に会社を奪おうとすると、株主以外の利害関係者が牙を剥き、会社が存立し得ない状況に陥る」
という布石を打っておくことも買収防衛策としては有効に機能します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:チェンジ・オブ・コントロール条項
ところで、外資系企業と取引すると、チェンジ・オブ・コントロール条項(あるいはチェンジ・イン・コントロール条項)というものを目にすることがあります。
これは、
「取引先企業の支配権が合併や買収で変動した場合、相手方企業が契約を破棄・変更できる」
という仕組みです。
アメリカなどでは、ソフトウエア会社が顧客企業に特殊なソフトウエアを供給していたところ、ライバル会社が顧客企業を買収してしまうという事態も起こり得ます。
そうした場合に備えた契約解除権を設けておかないと、ライバル会社が顧客企業を通じて顧客向けにしか開示しない企業秘密を入手することになりかねません。
最近、買収防衛策のひとつとして、チェンジ・オブ・コントロール条項の利用が検討されているようです。
すなわち、ニッポン放送の事例と同じく
「買収して株主構成が変わったら、チェンジ・オブ・コントロール条項が発動され、取引先を喪失することにもなるから、あまり強引なことはおやめなさいよ」
という形で強硬な敵対的買収の実施を躊躇させる、というわけです。

モデル助言: 
本ケースで言えば、高木茶園や志村工業が加藤茶業との契約を更新する際、
「加藤茶業の支配株主が変更したような場合、高木茶園や志村工業が契約解除権を取得する」
という条項を加えることが考えられます。
これにより、米国大手飲料メーカーが敵対的買収をした場合、加藤茶業の企業価値の根幹とも言うべき高木茶園からの茶葉供給や、志村工業の特許ライセンスが喪失することになるので、米国大手飲料メーカーとしても、強引な乗っ取りがやりにくくなります。
また、同様の発想に立つものとして、労働者に結束してもらうというのもいいでしょう。
御社には労働組合は存在しませんが、これを機会に従業員が労働組合をつくるのもいいかもしれません。
無論、御用組合でなくては困りますが、組合の姿勢として
「現経営陣は理解があるので、仲良くやっていくが、あまり強引な買収をする輩に対しては戦闘的な行動に出る」
なんてことを表明してくれれば、買収防衛策としては理想的です。
とはいえ、これらのことを買収防衛策を目的として会社が積極的かつ露骨に実施するのはお勧めできません。
あくまで
「株主を含む広汎なステークホールダーズとの関係を良好に維持し、企業を長期的に発展させる」
という大義名分の下、受け身の立場で粛々と対応していき、気が付いたら強力な買収防衛策になっていた、という形で進めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00078_企業法務ケーススタディ(No.0032):システムエンジニア派遣事業のリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社スッキリ・ソリューション 社長 佐藤 公次(さとう こうじ、38歳)

相談内容: 
先生、おはようございます。
当社は、銀行や証券会社に対して、クライアント企業内部のシステム開発要員としてシステム・エンジニアを派遣しております。
ま、要するに、一匹狼のエンジニアに2次発注し、当社の名刺を持たせて、客先での開発に従事させるというわけです。
この種の仕事は波がありますので、当社としても、受託の見込みが不透明なまま、大量の要員を抱えるのはリスクです。
社会保険や有給休暇、さらには福利厚生の負担なんかしていたら商売あがったりですし。
ところで、先日、同業の会社に税務調査が入ったようなんです。
その会社は当社と同じく、各エンジニアを独立事業者として取り扱い、外部請負のような形で契約をしていたようなんですが、各エンジニアが全く税務申告をしていなかったらしいんです。
社長は、各エンジニアが脱税しているだけで会社は特に問題がないと思っていたようなんですが、税務調査では、
「各エンジニアとの契約実態は雇用だから、会社が源泉徴収税額を払え」
と言われたそうなんです。
当社も事業実態は同じですし、各エンジニアは、税務申告などしたことない様子です。
私としては、雇用という形での費用が固定化するリスクを避けたいのですが、他方で、エンジニアが税務申告をしないことが原因で、後ろから税務署からとばっちりを受けるのも御免被りたいところです。
何か、いい解決策ありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:請負と委任と雇用の区別
「お金をもらって仕事をする」
というのは経済的には単純な話ですが、法律的には、それが請負ないし委任なのか雇用なのかはなかなか悩ましいところです。
悩ましいといっても、理論的な議論だけならいくらでも悩めばいいのですが、設例のように税務の問題が絡むと、議論の方向性を誤ると無用な税務リスクに発展するので、慎重に取り扱う必要があります。
各エンジニアが独自の裁量で仕事を遂行し、勤怠管理や作業報告義務等も一切行なわないということであれば、独立事業者との請負ないし委任契約ということになるのでしょうが、エンジニアに仕事の裁量がなく、勤怠管理に服し、作業報告義務までも課されているのであれば、契約名目にかかわらず、雇用という法律関係が形成されているものと見られます。
請負や委任というのは、独立の事業者として義務を遂行するものであり、誰かの指導命令に服するということとは相いれませんから、当たり前といえば当たり前の話なのですが、世の中には契約の名称だけ
「請負」

「委任」
としておけば税務署も同じように法的におかしな理解をしてくれる、などということを考えられる会社もあるようです。
もちろん税務署はこんな話をまともに受け取ってくれるほど甘くはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇用認定を避けるための方法
理論上の回避策としては、まず、エンジニアに法人を設立させ、法人間契約とすることが考えられます。
ただ、新会社法で設立が従来に比べ簡単になっているとはいえ、エンジニアの数を考えると、設立手続き負担の重さはあまりに非現実的です。
あと、エンジニアに独立個人事業主であることの客観的状況を具備させる方法として、商法11条に基づく屋号登記を実行させるとともに、税務署に個人事業開始届を提出させるという方策も、理論上の選択肢としては考えられます。
これに加えて、会社で税理士を用意し、税理士が管理する金融機関の特別口座を準備し、各エンジニアから半強制的に申告税相当の金銭を預かり、この口座にプールし、確実に税金を支払わせるという方法もアイデアレベルでは考えられます。
しかしながら、このような方法であっても、下請法や独禁法上の優越的地位の濫用の問題は回避し得ませんし、さらには近時社会問題になっている偽装請負等の問題については、未解決のリスクとして残ってしまいます。

モデル助言:
実態が雇用であるのにもかかわらず、雇用認定を避けるなどということは所詮小手先の解決法にはなり得ません。
この種の彌縫策を続けると、事業が大きくなるにつれ、リスクがどんどん増大しますし、健全な事業展開を望めなくなります。
問題の根本的な解決のためには、正攻法しかあり得ません。
すなわち、現場での作業をエンジニアの裁量にゆだねるのではなく、御社として指揮命令や管理を続けるのであれば、雇用という契約処理をきちんとするほかありません。
御社の作業実態を観察しない限り何とも言えませんが、エンジニアの個性や裁量が反映されるような業務を請け負っているわけではないようですので、雇用という形態は動かしがたいと存じます。
ただ、雇用と言っても、終身雇用以外の雇用契約もあり得るわけで、更新のない期間雇用としておくことでしょう。
もちろん、期間雇用といえども解雇権濫用法理の適用があり得るところですが、このようなリスクは顕在化するとは限らないわけですし、発生した時にコントロールする、と腹をくくるほかありませんね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00077_企業法務ケーススタディ(No.0031):M&A取引における売り手側は契約書を作るな

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社五十田珈琲 社長 五十田 紀里(いそだ きり、27歳)

相談内容: 
先生、聞いてください、ようやく、会社売却のめどが立ったんです。
これで私もやっと好きな演劇の世界に戻れます。
先生もご存じのとおり、父に勘当された後、劇団員として楽しい毎日を過ごしていたんですが、ある日、突然、父の会社を継ぐことになってしまいました。
以来、右も左も分からず会社を切り盛りさせられ、過労死寸前の毎日でした。
会社経営なんて早く辞めたかったですし、どこか会社を買ってくれるところがあれば早く売り払って、好きな演劇だけして暮らしたいと思っていたところ、専務の叔父がコーヒー専門店のチェーン展開をしている取引先の社長と共同で、M&Aという形で事業を継承してくれることになりました。
契約も含めた細かい処理は、取引先社長の知人のコンサルタントの方が全部やってくれるみたいです。
税務的な確認も終わり、M&A資金の融資の準備も整ったということで、コンサルタントの方が契約書の案を送ってくださいました。
それがこれなんです。
A4で2枚のこれです。
恐らくコンサルタントの方が適当に書かれたものなんですが、素人目に見てもどうも言葉遣いが法律的でないような気がしますし、大体、契約書のボリュームが少ないのが気になります。
M&Aって言うと、ほら、フツー、もっとたくさんのページの契約書になるはずでしょ。
こんなペラペラの契約書じゃ、なんか不安で。
先生のお力で、もっときちんとした契約書を作ってほしいんですよ。
お願いできますか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:欧米流契約文化の浸透と契約書のボリュームアップ化
日本の産業界では、ついこの前まで、どんなに大きな取引でも欧米流の分厚い契約書は嫌がられ、
「信頼関係」
という日本独特の美風と伝統に基づく、簡素な(と言うか法的にほとんど意味のない)契約書による取引(あるいは契約書すらあえて作らない取引)が尊ばれてきました。
また、
「契約書に想定しないような状況や契約文書の解釈に相違が生じた場合は、トップ同士酒食を共にして仲良く話し合い、それでもダメなら業界の顔役や監督官庁の指導で、解決を先延ばしにするなり適当に手打ちをする」
というやり方が支配的で、弁護士に依頼して裁判で徹底して自己の主張を展開するなんて下品なことはまず行なわれませんでした。
ところが、市場が縮小し業界内競争が熾烈化するとともに、
「規制緩和」
の流れの中で役所も業界のリーダーも業界内秩序維持の役割を放棄するようになりました。
さらに、外資や新興企業の参入が常態化するようになると、古き良き取引文化は消滅し始め、欧米流の法的合理性に基づく取引構築が主流となってきました。
そんなわけで、最近では、設例の五十田さんのように、
「ペラペラの適当な契約書はイヤ、欧米流のきっちりとした契約書を作成してほしい」
という要望を持つクライアントが増えてきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:きちんとした契約書を作らないほうが有利な取引
とはいえ、どのような取引のどのような立場であっても、事細かな取り決めを定めた分厚い契約書があったほうがいい、というものではありません。
設例のような
「M&Aのセルサイド(売り手側)」
にとっては、きっちりとした契約書は百害あって一利なしです。
セルサイドにとって最も有利な法的立場は、
「現状有姿で、売り逃げる」
ことに尽きます。
M&Aの契約書のボリュームを増やすことに比例して、セルサイドは、売った後もさまざまな責任を負担させられることになりますので、ごつい契約書はあえて避けるべきなのです。
すなわち、会社内容が見掛けよりボロボロであろうが、見えざる債務や偶発的リスクが山のようにあろうが、保証なんか一切せず、
「発行する書類は代金の領収証だけで、その他の文書へのサインは一切拒否」
という状態こそが、セルサイドにとって功利的に最も正しい取引姿勢ということになります。

モデル助言: 
契約書を見る限り、五十田さんが保有する株式会社五十田珈琲の全株式譲渡とその対価が書いているだけで、あとはほとんど無意味な内容です。
法的におかしな言葉づかいもありますが、これはご愛嬌でしょう。
相手方(買い手側)がこういうアホな、と言うか無内容な契約書を提案してきたことは歓迎すべきことです。
これ以上、細々とした契約内容を定めることは自分で自分のクビを絞めてくれ、と言っているのと同じです。
せっかく、こちらの義務を軽くしてあげるって言ってきたわけですから、悪びれることなく無条件に相手の提案を受け入れましょう。
ま、あえて一言なにか言うとすれば、
「売り切り御免。
保証なし」
を明確にする趣旨で、
「契約書に定める外、双方に債権債務関係が一切存在しない」
という清算条項を入れておきましょうか。
決済については、マフィアの麻薬の取引と同じで、株券の引き渡しと代金の支払は完全なる同時履行にしましょうね。
「株券だけ先に渡して、お代は後からで結構」
なんてことにすると、買い手側がお金を払うまでの間に契約リスクに気付いてぐずぐず言い出すかもしれませんから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00076_企業法務ケーススタディ(No.0030):不良社員の正しいクビの切り方

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社内田石材加工 社長 内田 雄也(うちだ ゆうや、68歳)

相談内容:
先生、聞いてください。
ウチの従業員の安岡が、会社のカネをネコババしたんですよ。
300万円もですよ。
なんでもクラブ遊びにはまったらしく、
「社長の指示だ」
と経理をだまして勝手に会社のカネをひっぱってやがった。
いい加減な奴だとは前からわかってましたが、営業成績もそこそこで、目をかけて育てていた奴ですから、裏切られたのが悔しくて悔しくて。
とりあえず、
「この野郎、警察突き出すぞ」
って怒鳴りつけて、すべて白状させて、詫び状書かせて、
「追っての沙汰待ち」
ってことにして自宅待機にしていたんですよ。
そしたら、安岡の野郎、社労士だか司法書士だかに相談したらしく、
「私は横領したわけではない。
会社の指示に基づく得意先の接待をするため、交際用経費を仮払名目で預かっただけ。
領収書もすべて取ってある。
今は、会社の命令で自宅にて待機しているが、今月分の給料を払ってほしい」
なんて内容の文書を送りつけてきやがった。
こんなのありですか?
どういう風にすりゃいいんですか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:労働契約法の「解雇不自由の原則」のシビアさとこれを回避してうまくクビを切る方法
労働法の世界では、解雇権濫用の法理といわれるルールがあるほか、解雇予告制度や即時解雇の際の事前認定制度等、労働者保護の建前の下、どんなに労働者に非違性があっても、解雇が容易に実施できないようなさまざまな仕組が存在します。
映画やドラマで町工場の経営者が、娘と交際した勤労青年に対して
「ウチの娘に手ぇ出しやがって。
お前なんか今すぐクビだ、ここから出てけ!」
なんていう科白を言う場面がありますが、こんなことは労働法上到底許されない蛮行です。
そもそも、解雇権濫用法理(使用者の解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することが出来ない場合には、解雇権の濫用として無効になる)からすれば、代表取締役の娘と従業員が交際した事実を解雇理由とすることは濫用の典型事例であり、解雇は明らかに無効です。
仮に解雇理由があっても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定を取らない限り、解雇は1カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払って即時解雇することしかできませんので、
「今すぐクビ」
というのも手続上無理。
婚姻関係が
「婚姻は自由だが、離婚は不自由」
といわれるのと同様、従業員雇用も
「採用は自由だが、解雇は不自由」
ともいうべき原則が働きますので、解雇は
「勢い」
でするのではなく、法的環境を冷静に認識した上で、慎重かつ合理的に行うべき必要があります。
では、スマートにクビを切るにはどのようにするかというと、従業員側から退職届を出してもらうことに尽きます。
さまざまな規制が及ぶ
「解雇」
とは、あくまで
「嫌がる従業員を無視して、会社の一方的意思表示により雇用関係を消滅させること」
を意味します。
すなわち、会社の一方的都合でラディカルな行為が行われるから、さまざまな解雇の法規制が働くのです。
他方、従業員が自主的に雇用関係を消滅させることは全く自由であり、そのような形での雇用関係の解消には法は介入しません。
男女の交際関係を上手に解消する手段として、
「こちらからフるのではなく、相手に愛想を尽かせて相手からフらせるようにもっていけ」
なんて方法が推奨されることがありますが、雇用関係の解消もこれと同様に進めれば、カドをたてず所定の目的を達成できる、ということになります。

モデル助言: 
横領か詐欺かの議論を法的に煮詰めて、ネコババされた300万円について刑事告訴。
といっても、死人やけが人が出てれば格別、警察もこの手の問題は多すぎて手が回らず、下手すりゃ時効直前まで捜査されずに放置されることだってあります。
「告訴状を提示して基準監督署から除外申請をもらって即時解雇」
とうまく事が運べばいいですが、除外申請が出るまで時間がかかったり、除外申請が出なかったりする場合もある。
給与全額払原則があるので、未払給与については、損害である300万円と相殺はできませんので、損害賠償は、正式解雇に至るまでの未払給与をいったん支払った上で、民事訴訟を提起して勝訴してから、となります。
無論、勝訴しても安岡が無一文だと取りっぱぐれになります。
ま、悔しいのはわかりますが、一番いいのは、
「解雇」
にこだわらず、相手から退職届を徴収して、自主的辞めてもらうことでしょうね。
早急に面談し、
「退職届を書けば受理する。
いったん認めた事実を覆し、労働者の権利に借口して、長期に不当な争いをしかけてくるのであれば、こちらとしてもそれなりの法的措置を取らざるを得ない」
といって辞めてもらう方向で説得することでしょうね。
その際、未払給与や退職金等はいったん現金で相手に手交し、その場で損害賠償の内金として領収しておけば、相殺したことにはならないので、合理的に損害回復することも可能です。
最後に、
「脅迫された」
などといわれないよう、この種のやりとりは、安岡の承諾を得て、録音等をしておいた方がより安全ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00075_企業法務ケーススタディ(No.0029):食品加工委託先の偽装行為防止法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社木村商事 社長 木村 洋一(きむら よういち、41歳)

相談内容: 
当社は、東北の食品加工会社に、OEMで、当社ブランドのシューマイやギョーザやハンバーグやらを作らせてスーパー等の小売店に卸しております。
ところで、最近、北海道の食品加工会社が、牛肉コロッケに豚肉や羊肉入れたり、賞味期限切れたコロッケをもう1回作り直したり無茶苦茶やっとったことがニュースになってます。
先日、当社の卸先の大手スーパーのサトームイカ堂の部長さんとゴルフしたとき、
「御社の製品は大丈夫でっか?
委託先さんの管理はちゃんとやったはるんでしょうな。
今度、契約の状況とかチェックさせていただきますからね」
と釘をさされました。
委託先の会社探してきよった役員はクビになって辞めてもうてますので、どんな委託先でどういう話し合いがあり、委託の取決めしたのかは私自身ようわかってません。
委託先との契約書についても、クビにした前の経理部長が紙ぴら1枚の頼りないやつを適当に作りよったみたいですが、こちらが判子押した契約書のコピーしかない状況です。
おそらく、こちらが押印したのを委託先に送っただけで、まだ相手が押印したのが返ってきてないんやと思います。
何せ、当社もそうですが、委託先はええ加減な会社ですから。
取引の力関係上、こちらからきちんとした契約書作って
「ちゃんと判子押せ」
ゆうたら、委託先も仕事ほしいでっさかい応じるでしょうが、どんな契約書にしたらよろしいでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約自由の原則
民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。
これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。
逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
みたいな法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。
無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
ということを許すことになります。
要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。
逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:性悪説に立った契約書
今回のケースでいえば、これだけニュースで食品加工における偽装が取り沙汰されていて、しかも卸し先から今後厳しい管理を要求されることが予告されているわけですから、木村商事としては、当該委託先を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
としたうえで、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することが求められます。
・輸入肉や指定外の肉を排除する等の使用食材の厳格な指定
・食材仕入先についての調査義務
・加工にあたって使用する機械の洗浄や清掃の頻度
・加工人員の除菌を保持すべき体制の確保
・加工にあたって使用する水の指定
・委託先の監査権限
・偽装があった場合のペナルティ条項
等、委託先をとことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような契約条項を考案しておけば、委託先もナメた行動をしなくなります。
本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような委託先は、
「ずるをしても文句を言わないでくれ」
というのを求めているのと同じわけですから、とっと契約を解消し、信頼に足る別の委託先を探した方がいいということになります。

モデル助言: 
食品加工業界では、契約書が一切なく、伝票だけで巨額の取引をしているケースも多いと聞きます。
信頼関係重視といえば聞こえはいいですが、そんなのは面倒くさい法務管理をサボる言い訳です。
各取引の契約書の整備など必要な法務管理を
「面倒くさい」
「法務部を抱えるお金なんてない」
「トラブルになっているわけでもないのに弁護士費用払うなんてばかばかしい」
ということで後回しにしておくと、あとで必ず、ズルをする取引相手に足をすくわれることになります。
契約自由の原則は、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
も保障しておりますが、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
を存分に満喫された方には、自己責任の帰結として、
「取り決めをしなかったことによるリスクを背負わされる」
という過酷な法的帰結が待っています。
契約書を厳格な形で取り交わすことにより、相手先の不正は予備や未遂の段階で止めさせることが可能となり、結果として品質の維持に貢献します。
ま、取引規模や御社における本OEM事業の重要性も含めると、きちんとした契約書を作っておいた方がいいでしょうね。
少し時間をいただければ、サトームイカ堂の部長さんにも評価いただけるような契約書のドラフトを送りますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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