01741_広告用のロゴに著作権は発生しますか?

ロゴは、企業のミッションやバリュー、製品・サービスのユニークさといったものを、ミエル化・カタチ化したもので、企業のブランドイメージを確立し認知してもらうためのものとして位置づけられているようなデザインツールです。

ロゴタイプ、シンボルマーク、ロゴマークを総称したものを
「ロゴ」
といいます。

ロゴタイプは企業名や製品名、ブランド名(固有名詞)を装飾的に意匠化したものです。

シンボルマークは、企業が追求するミッションや価値観や、製品やサービスの特徴等を象徴として図案化ものが使われます。

ロゴマークとは、ロゴタイプとシンボルマークを組み合わせたものです
(シンボルマーク+ロゴタイプ=ロゴマーク)。

「ロゴ」
は、著作権法10条1項4号の
「その他の美術品」
に該当すると考えられますが、裁判例には、否定的な判断を下しているものも見受けられます。

「ロゴ」
に著作権が発生するかについては、その創作性などを考慮した判断が必要になります。

結局、特定のロゴが著作物とされるかどうかは、争われたときに、担当する裁判官の感受性が
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)
と認めるどうか次第です。

なお、裁判官といっても2800名近くいて(簡裁判事を除く)、それぞれ、天下御免・やりたい放題・スーパーフリー・得手勝手に、感受性を自由に駆使して、独自に判断してよろしいという、事になっていますので(憲法76条3項、裁判官職権行使独立の原則)、著作物性が微妙なものですと、裁判官の感受性次第、といった趣きの
「ギャンブル」
になります。

こういうあやふやな扱いを避けたければ、商標として登録し、商標法による保護を求めていくことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01740_広告物に著作権は発生しますか?

広告コンテンツには、新聞・雑誌の宣伝広告、パンフレット、ポスター、ダイレクトメール、チラシ、屋外広告物などがあります。

著作権法2条1項1号
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」
とされており、他方、広告物は、
「宣伝」
を目的とするものである以上、著作物の定義に該当するかは、個別に考える必要があると思います。

「買うなら、◯◯で決まり」
「地域で一番、◯◯◯最高!」
みたいな、ひねりもなければ、もののあわれも感じない、雑な宣伝文句が
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」
と言われれば、画家や小説家が怒り狂うかもしれません。

他方で、広告コンテンツといっても、かなり創作性が高く、芸術的価値あるコンテンツもあって、そこらへんの同人誌に書かれた陳腐なパクリ小説よりも価値が高いものもありますので、広告コンテンツだから著作物性が否定されるようなものでもない、と考えられます。

要するに、著作物としての定義に該当すれば、著作権が生じる、というだけの話です。

一般的傾向、という形で申し上げれば、広告のキャッチフレーズや標語などは、簡単で短い表現であるなどの理由から著作物性が否定される傾向にあるともいえます。

また、広告コンテンツに著作物性が認められたとしても、表現の短さや簡潔性から保護範囲が限定されることも少なくありません。

「潤い生活」
「美肌習慣」
「いつやるの? 今でしょ」
なんてキャッチコピーや、キャッチフレーズも、(簡裁判事を除き、2800人近くもいますので、その感受性や芸術的感性は様々ですが)裁判官によっては、著作物性を認めることもあるでしょうが(認めないこともあるでしょう)、この程度のものが著作権をもって、同じような表現を権利で縛るような窮屈な社会を許容する、ということも考えられませんしね。

要するに、特定のロゴが著作物とされるかどうかは、争われたときに、担当する裁判官の感受性が
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)
と認めるどうか次第です。

なお、裁判官といっても2800名近くいて(簡裁判事を除く)、それぞれ、天下御免・やりたい放題・スーパーフリー・得手勝手に、感受性を自由に駆使して、独自に判断してよろしいという、事になっていますので(憲法76条3項、裁判官職権行使独立の原則)、著作物性が微妙なものですと、裁判官の感受性次第、といった趣きの
「ギャンブル」
なります。

こういうあやふやな扱いを避けたければ、商標として登録し、商標法による保護を求めていくことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01739_企業(法人)会社が作った著作物の著作権は従業員個人のものとなるのか?企業(法人)のものにすることができるか?

著作者となるのは、実際に創作活動を行った者ですので、自然人たる個人が原則です。

しかし、企業(法人)とその従業員との関係では、

・著作物の創作にかかわるリスクは雇用主である企業(法人)が負担していることや、
・著作物についての社会的評価や信頼を得て、その内容について責任を有するのは従業員個人というよりも企業(法人)であると考えられること、
・また、実質的・現実的な状況を前提とすると、発明や特許は日常頻繁に生じませんが、著作については、1日、1時間単位で、膨大な数生まれます。例えば、新聞や雑誌、ネットでの情報発信など、これら著作物は、ものすごい勢いでその数を増殖させます。企業が組織として、創作するこれら著作物について、逐一、
「従業員個人に原始的に著作権が発生し、これが何らかの法的なフィクション(こじつけ)を通じて、企業(法人)に承継される」
などという面倒で煩瑣(でかつ嘘くさい)なロジックに依拠しなけらばならない、とすると、歪な感じが拭えませんし、トラブルの萌芽も感得されるところであり、経済社会が混乱しそうです。そういうこともあって、経済社会の現実としても、企業(法人)が企業活動として創作した著作は、法人著作として認める強い必然性があること、

から、一定の要件の下に企業(法人)が、従業員の創作した著作物を、オートマチックかつデフォルト設定として、法人著作とする制度が法律で定められています。

著作権法15条1項は、
1 「法人その他使用人の発意」に基づいて、
従業員が
2 「職務上作成する著作物」で、
3 「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の著作者を、
4 「その作成のときにおける契約、就業規則その他に別段の定めがない限り」、
「法人等とする。」
として各要件を満たす場合に著作権の原則的な帰属主体を法人等と定めています。

1の要件については、著作物の創作についての意思決定が、直接的又は間接的に使用者の判断に係っていることが必要です。

とはいっても、明確かつ具体的な職務命令までは不要です。
例えば、従業員が自分で企画を出して上司の了解を得て作成活動を行う場合でも法人等の発意に基づくものと解されています。

2の要件については、勤務時間の内外は問題ではなく、従業員の職務として作成されたか、すなわち、著作物が従業員の義務の遂行による成果として位置づけられるかが問題となります。
小椋佳、というシンガー・ソング・ライターがいます。
プロの歌手で作曲家ですが、この方、実は、東大法学部卒の、バリバリの銀行員であり、銀行と作曲家・歌手の二足のわらじを履いていました(昨今の副業トレンドのパイオニアです)。歌手デビューは1971年ですが、これと並行して、日本勧業銀行(後の第一勧業銀行、現:みずほ銀行)入行し、証券部証券企画次長、浜松支店長、本店財務サービス部長などを歴任(この間にノースウェスタン大学留学や、メリルリンチ証券派遣など、米国滞在も経験するエリート銀行員)。
この場合、小椋佳さんが作詞作曲した楽曲の著作権は、みずほ銀行が著作権をもつか、と言われると、まあ、無理でしょうね。「著作物が従業員の義務の遂行による成果として位置づけられる」とは言えないでしょうから。

3の要件については、プログラムの著作物に関しては、不要とされています(著作権法15条2項)。

4の要件の例としては、就業規則・労働協約・内規などがあります。

最後に、
「従業員」
であることが前提となっていますので、取引先や、派遣社員や、インターンについては、問題が生じてきます。

こういうグレーな状況をどうやって乗り越えるか?

簡単です。

上書きしちゃえばいいんです。

取引先や協力会社や派遣社員やインターンが作ったものも企業(法人)の著作としたいなら、
「私が制作した著作物について生じるべき著作権は、対価の支払いを要することなく、御社にのみ排他的帰属することとし、これを争いません」
などといった確認書なり念書なりを徴求しておいて、状況を自己に有利に上書きしておけば、問題は一瞬で解決します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01738_企業が行うべき最新ネット風評対策_(8・終)総括

ネットという新しいメディアを用いた企業攻撃は、今後も、ますます増大する傾向にあります。

他方、官公署(行政)、裁判所(司法)ともに、
「及び腰」
を通り越して、もはや
「レッセ・フェール(放任主義)」
を標榜しているようにすら思える対応であり、これは、憲法が、独裁体制を忌避し、自由な表現活動を徹底して保護する体制を志向する以上、やむを得ない、ともいえます。

企業の法務部・広報部署ともに、以上のような法的環境を踏まえ、また、対抗言論法理に基づく対応戦略や、第三者委員会という、企業法務安全保障実務・企業不祥事対応実務における新たな戦略手段を効果的に学びながら、適切な対応によって、企業組織の維持とその活動の擁護に努めてもらいたいものです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01737_企業が行うべき最新ネット風評対策_(7)ネットメディアによる企業攻撃が行われた場合における、企業法務安全保障の先端知見を活用した効果的対策(ⅲ):第三者委員会の活用~「私的裁判所」を作って、禊(みそぎ)を迅速に~

3 第三者委員会の活用~「私的裁判所」を作って、禊(みそぎ)を迅速に~

ネット上の書き込みの中には、
「まったくの事実無根」
というものではなく、時には
「まったくの事実無根というわけではない、ある意味、“事実有根”のスキャンダルに誇張が加えられただけ」
という趣のものもあります。

このような場合に、監督官庁や裁判所による公的判断を待っていては、判断の方向性を制御できず、却って事態を悪化させることもあり、また、長期間、スキャンダルの渦中に身を置く結果となって、企業信用の低下に拍車をかける結果になりかねません。

迅速に禊(みそぎ)を済ませ、不必要に騒動が拡大する前に、被害を最小限にとどめるためには、自前で、
「裁判所」
を作ってしまう方法が便宜です。

もちろん、この
「私設裁判所」
は、
「第三者委員会」
という形で設置・運用されます。

第三者委員会とは、日本弁護士連合会が策定・公表する
「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」
によって設置運営されるものです。

外部の弁護士や有識者によって構成され、企業不祥事の原因などを調査、公表する組織であるが、端的に表現するなら
「(企業にとっての)自前の裁判所」
のようなものです。

この第三者委員会の特徴は、あたかも裁判所のような公正さを持ちながら、本物の裁判所と違って、根拠となる法律がなく、実際には企業の求めに応じて公表内容、公表時期などが柔軟に決められることです。

また、有識者や弁護士の調査に対する報酬を出すのも企業自身であり、まったく制御が効かず暴走することもないと考えられますし(このあたりの機微は、どうしても微妙な表現になるので詳細は割愛するが、想像力を働かして各自ご理解・ご納得いただけますでしょうか)、他方で、現在の企業の不祥事対策実務において、相応の信用性を獲得した機関として認知されており、ネット炎上対策において、必要な時期に、必要な調査結果を公表できるという点において、本物の裁判所よりはるかに便利です。

金融業界において第三者委員会を活用して早期の事態収拾に成功した例としては、みずほフィナンシャルグループ他が、金融庁から反社会的勢力への不適切融資に関する業務改善命令を出されてから、1か月程度で第三者委員会による調査報告書を公表した事例が挙げられます。

これによって、完全に問題解明をしたとまではいえないが、当面不必要なネット炎上や信用不安など風評被害は回避できたもの、と評価されています。

短期間に不祥事の原因を調査、公表するには、正式な裁判手続きや、法制度ではなく、
「第三者委員会方式(自前の裁判所による調査・判断)」
が、企業の法務安全保障として、極めて適切かつ効果的だったものといえる、重要事例なのです。

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01736_企業が行うべき最新ネット風評対策_(6)ネットメディアによる企業攻撃が行われた場合における、企業法務安全保障の先端知見を活用した効果的対策(ⅱ):言論には言論で対抗すべし~但し、「泥試合」ではなく、「品位の次元を超越したエレガントな対抗言論」で~

2 言論には言論で対抗すべし~但し、「泥試合」ではなく、「品位の次元を超越したエレガントな対抗言論」で~

ネット上に、自社の悪評を発見した場合に、犯人探しをしたり(匿名の書き込み者の特定)、その者や掲示板管理者に対して削除を求めたり、損害賠償を求めたりするのは、時間的にもコスト的にも労力的にも無駄であり、かつ、
「表現の自由」
を徹底して保障する傾向にある裁判所から冷淡な対応をされ、敗訴の憂き目に遭う可能性すらあります。

加えて、
「削除を求める」
という企業自身の行動が、さらにネットにさらされ、好奇の目にさらされ、炎上が加速化し、より、収拾不能な事態に陥る危険も否めません。

憲法が表現の自由を徹底して保障するのは、
「思想の自由市場論」
という論理的前提があります。

すなわち、
「各人が自己の意見を自由に表明し、競争することによって真理に到達することができるのであり、誤った意見や表現は、市場が低劣な評価をすることによって、淘汰されるので、放置しておいて問題ないし、規制すると却って、萎縮的効果によって、社会が真理に到達できなくなる」
という哲学です。

すなわち、
「間違ったこと言われたら、お上に泣きついて規制を求めないで、自身で、堂々と反論して、市場から駆逐せよ」
というのが、言論活動のあるべき姿である、というのが憲法の求めているあるべき姿・あるべき対処法です。

したがって、ネットで不当なこと、間違ったことが書き込まれたのであれば、
「それはこれこれ、こういう根拠と理由で間違いであり、根も葉もないデマである」
と反論(対抗言論)によって糺すことがもっとも推奨される方法である、といえます。

ここで、重要なのは、
「相手と同じ土俵に立たず、品位の次元において、発言者と隔絶した高みから反論する」
ということです。

一般論としてですが、ケンカの必勝法は、
「素手で殴られたらナイフで応戦、ナイフで斬りかかれたら銃で応戦、銃には戦車で応戦、地上戦を挑まれたら空中戦で、空中戦を挑まれたら宇宙戦で」
というものであり、
「同じ土俵に立たず、高位の次元から、圧倒的なパワーで封殺する」
ということが肝要です。

匿名掲示板の書き込みはいわば、
「便所の匿名の落書き」
のようなもので、
「闇に隠れて姑息なテロ戦を挑んできた」
ような趣のものです。

これを封殺するに最も効果的なのは、
「空爆という効果的な方法で瞬時に圧倒して、制圧する」こと、
すなわち、
「企業の公式ウェッブサイトにおいて、きちんとした根拠とデータを示し、格調と品位を整えた、フォーマルな形式の文書で、一見して書き込みがガセであることがわかるように、世間にアピールすること」
です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01735_企業が行うべき最新ネット風評対策_(5)ネットメディアによる企業攻撃が行われた場合における、企業法務安全保障の先端知見を活用した効果的対策(ⅰ):迅速な火種、予兆の発見

ネットメディアを用いて企業の信用低下を狙った攻撃が行われた場合の対策としては、法律や裁判を振り回すことは適切とは言い難い、といえます。

そこで、ネットメディアによる企業攻撃が行われた場合においては、一部取組が進んでいる企業において、企業法務安全保障の先端知見を活用した効果的対策が構築され、運用され始めています。

1 迅速な火種、予兆の発見

ネットメディアによる企業攻撃が行われた場合のリスク管理でもっとも重要かつ初歩的な推奨行動としては、リスクの発見・特定を迅速に行い、対応のための時間と冗長性を確保することです。

そのためには、炎上の予兆や火種を素早く発見することでが必要ですが、その方法としては、専門部署の設置、専門業者の利用といったことが挙げられます。

社内の専門部署を設置する場合の肝は、クレームや悪い噂を、冷静かつ中立的に抽出するため、業績への影響や自社サービスへの愛着というバイアスを排除する必要があり、営業部門や広報部門から分離独立する形で専門部署を設置することです。

中立性や専門性を重視して、業者による企業の風評被害対策サービスを利用した火種や予兆の探索や発見を委託することも考えられます。

そして、火種や予兆を発見したならば、拡散した場合には制御困難状況に陥る、というネットトラブルの脅威を十分考え、先手を打った鎮火行動(調査活動、情報開示、対応広報)を開始すべきなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01734_企業が行うべき最新ネット風評対策_(4)ネットを通じた企業攻撃に対し、裁判手続きは「時代遅れで、役立たず」

ネットメディアは、瞬時に全世界中に情報が拡散してしまう特徴を有し、風評被害対策においてもスピードが求められますが、法制度や裁判制度はこのようなネットメディア環境のスピード感に対応しているとは言い難く、端的に言えば、
「時代遅れで、役立たず」の代物
なのです。

たとえば、
「XX銀行は、不良債権処理とかスゲーいい加減で、実際は債務超過状態で、やばいらしいよ。あそこの定期とかやたらと高い金利謳ってっけど、日本ホニャララ銀行がぶっつぶれたとき、ペイオフやられちゃったみたいに、マジ、ヤヴぇーよ」
などと匿名掲示板やSNSにおいて匿名アカウントによって書かれた場合を例にとって考えてみましょう。

このような書込みは、放っておくと大炎上し、それこそ取り付け騒ぎに発展しかねない火種であり、銀行としては何らかの対処をする必要があります。

そこで銀行法務部としては、この書込みは事実に反するとして、法的手続きにしたがって書き込みの削除請求や損害賠償請求を行うことを考えます。

しかしながら、銀行のこの法務戦略は、出だしから法制度の壁に突き当たるのです。

そもそも、日本国憲法は表現の自由を
「不磨の大典」
として徹底して保障し、検閲などというシステムは、独裁体制であった過去の日本を連想させる野蛮な制度として絶対的禁止としており、これらの考え方は国家公務員試験や司法試験の憲法科目の受験勉強を通して、法律を作るキャリア官僚、法律を適用する裁判官の頭脳の隅々に浸透しています。

違法不当なネット書込みへの対応を整備した法制度(プロバイダ責任制限法。「プロ責法」などと言われる)は、
「検閲に堕した」
と評されないための慎重な手続きが内包されている上、裁判官も
「自由な表現活動を公権的に抑圧した」
等と非難されないように、ネット上の書き込みに対する差止や損害賠償は、容易に認めない傾向にあります。

実際、下級審裁判例ですが、飲食店情報口コミサイトが、飲食店からの情報の削除要求にこたえなかったために受けた損害賠償請求において、口コミサイト側が表現の自由の主張を主張したところ、口コミサイトは損害賠償する必要はないと判断した裁判例が出されています(大阪地方裁判所平成27年2月23日判決)。

加えて、ネット掲示板の運営会社やサーバーが海外にある場合には、裁判手続きはさらに煩雑なものになり、解決期間も長引いてしまう。

さらに加えて、匿名で書き込みした者を特定することですら、法律や裁判は、慎重に対応する姿勢を貫徹しており、差し止めや損害賠償を申し立てようにも、
「相手の素性を明らかにする」
という前段階で頓挫することすら珍しくありません。

仮に、多数の法的障害を乗り越えて、見事、削除請求や損害賠償請求が認められたとしても、解決には相当長期間かかり、弁護士費用だけで多額の出費を要することになる。

多くの時間とコストとエネルギーを費やして、匿名の書き込み者を特定し、同人に対して裁判で勝訴したところで、それまでに別の火種が次々と炎上して
「イタチごっこ」「もぐらたたき」
が間に合わず、消しそびれた火種が大炎上して、企業自体が破綻してしまったら、全く意味をなさしません。

このように、法制度や裁判手続きは、
「匿名性を前提に、スピード・効率・広汎性という点で革命的な環境を装備するネットメディア」
には対応できておらず、企業攻撃にネットメディアが用いられた場合の風評被害対策としては、
「時代遅れで、役立たず」
の代物としか評しようがないのが現実です。

この点、発信者開示や削除請求等の法的手続きや、逆SEO等といった対処法の有用性を説くセールストークもネット等でみられますが、瞬時に効果が発揮できる効率的かつ終局的な対処法というより、
対処療法的・ 「イタチごっこ」「もぐらたたき」的
に色々動いているうちに、
「75日の経過で人の噂が自然消失した」
「別の面白いスキャンダルや耳目をひく事件・事故が発生した、相対的に世間に興味が失せた」
という他律的事象で、棚ぼた的に解決した、ということも少なからずあるものと推測されます。

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01733_企業が行うべき最新ネット風評対策_(3)ネットメディアの登場により企業攻撃の態様は革命的に変化:企業攻撃に用いられるネットメディアの尋常ならざるパワー

「リアル」な企業攻撃の代表例である街宣活動
と比較して、
ネットメディアが企業攻撃に用いられた場合はどうか、
その特徴を観察してみましょう。

まず、ネットメディアには、その特質上、時間的・地理的範囲に制限がなく、世界中の人間が24時間閲覧可能です。

さらには、スマホ、タブレット等の急速な普及により、スマホ、タブレットでネットから情報を入手するのが常識になりつつあります。

平成28年版 情報通信白書73頁に掲載された引用図を貼付
平成28年版 情報通信白書72頁に掲載された引用図を貼付

このような、
「悪評を、スピーディーかつ効果的かつ効率的に広げる、という意味で最適」
ともいえるネット空間で、一度、特定の企業の悪評や信用を毀損する情報が発生してしまうと、企業が受ける影響は、街宣車による企業攻撃とは全く比較にならないほど、甚大で回復困難な損害が発生します。

街宣活動を通じた誹謗中傷は、その表現や態様の激烈さから、一見すると厄介であると感得されますが、もともと
「高コスト・低パフォーマンス」
ということもあり、そのような攻撃の蓋然性が極めて低く、また、仮に実施されたとしても
「高コスト・低パフォーマンス」ゆえの持続可能性の欠如性
という点から時間的、空間的に極めて限定されたもので、企業としても対応が容易です。

他方、ネット上の誹謗は、時間的には24時間365日、空間的には世界中、費用的には低コストで
「炎上(ネットスラングでネット上に悪評価が立つことを「炎上」という)」し続ける
ことになります。

しかも、
「この情報の削除や抹消は、事実上不可能であり、有意で効果的な対策は皆無」
という過酷なものなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01732_企業が行うべき最新ネット風評対策_(2)ネットメディアの登場により企業攻撃の態様は革命的に変化:昭和・平成初期の企業攻撃のあり方

2014年にはブルガリアにおいて、ネット上の情報が発端とされる銀行の取り付け騒ぎが起きたことが報道さましれた(ロイター通信2014年6月30日配信)。

無論、これは海外の事例ですが、現に日本でも、2003年にチェーンメールを発端とした地方銀行の取り付け騒ぎが起きています。

銀行の取り付け騒ぎは、ネット上の風評のみが唯一の原因とというわけではないでしょうが、ネットがメディアの主要プレーヤーとなっている現代の情報流通市場においては、大きな要因を構成することは疑いないものと推測されます。

殊に、信用を唯一無二の基礎として展開する金融機関にあっては、取り付け騒ぎのような事態は例外的であるとしても、ネット上の風評が、自ら、発行し、あるいは取り扱う金融商品の信用性、さらには、自身の株価にも多大な影響を与える可能性があるので、十分な注意と警戒が必要だと考えられます。

また、広く
「企業活動」
「事業活動」
ということを考えれば、例えば、学生の間で
「ブラック企業」
という風評がSNS等で拡散することも、採用活動に大きな支障が出かねません。

ネットメディアの特徴を浮き彫りにするために、従来の企業に対する攻撃行動と比較してみたいと思います。

企業の信用低下等を目論んで行われた、従来の企業攻撃の手法としては、不買運動のデモ行進や、怪文書、ビラの流布などが挙げられます。

昭和後期や平成初期においては、社会運動標榜ホニャララ(純粋な政治的信条を旨として行動する思想家や社会運動家ではなく、暴力団の傘下にあって、単純な利得行為や詐欺・恐喝目的で、形式的に右翼等を標榜する団体。以下、「社会運動標榜(中略)」といいます)による、街頭宣伝車(「街宣車(ガイセンシャ)」と略されることがあるので、以下、この用語を用います)を用いた示威的な企業攻撃です。

街宣車による街頭宣伝という企業攻撃を仕掛けられた企業には、信用面で相応なダメージが生じるため、従来、企業においては大きな脅威として恐れられてきました(令和に時代にあっては、企業側の総合的な対応力が具備されたことや、この種の攻撃を行う団体自体、いわゆる暴対法等によって活動が消極化しており、現在においては、それほど恐れられていないと推測されるところです)。

企業攻撃を生業とする多くの
「社会運動標榜(中略)」
は、フリーランスで活動している者も相当数おり、街宣車を所有しておらず、いわゆる
「レンタル」
で街宣車を調達していることもあるようです。

とはいえ、この種の特殊な車両(国旗の日章旗や事実上は国章の十六八重菊や「北方領土返還」といった政治的スローガンを描き、軍歌などを大音量で拡声できる機能を装備した、黒塗りの大型車両)は、一般のレンタカー会社で借りることはほぼ不可能であり、特殊な業者や同業者から借りることになるが、このレンタル料は通常より高額であり(街宣車に同乗する、特殊な出立の、特異な経歴と、特殊なスキルをもつ人員を、「抱き合わせ」でレンタルさせることがある、とも仄聞されるところです)、街宣車を用いた街宣活動による企業攻撃は、極めて高コストの活動であると推認されます。

とはいえ、街宣活動に基づく企業の信用低下の影響度合いといっても、街宣車の拡声器が到達する範囲は、最大限見積もっても500メートルが限界(ゴルフ場でフォアサインを発して届く範囲と同等と考えられます)、そして
「社会運動標榜(中略)」
が街宣車を回しているのは1日3時間~4時間程度が相場です(「社会運動標榜(中略)」の日常のライフスタイルや警察の規制強化といった状況を考えると、午後に活動を開始し、夕刻には活動を終了する、ということが多いようです)。

以上の攻撃実体を考えると、
「社会運動標榜(中略)」
による企業行動といっても、実は、企業にとってそれほど脅威ではなく、
「社会運動標榜(中略)」
が活発に活動しても、盤石な財政基盤を有する優良企業がそのことのみが原因となって破綻する、ということは少ないように思われます(無論、「もともと財政基盤が脆弱な企業が破綻が早まってしまった例」や、「蛇の目ミシン・光進グループ事件のように、焦る必要がないにもかかわらず、無駄に焦って、理性を失い、愚劣な行動に及んで企業崩壊寸前の危機にまで至ってしまった例」がないわけではありません)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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