00394_会社の定款を紛失してしまった場合の対処法

株式公開企業や資本金5億円以上の大企業ならまだしも、これまで、多くの中小企業にとってみれば、会社の定款の管理をしたり、内容の確認をしたりするといった必要性はなかったかもしれません。

しかしながら、2017年に会社法が施行され、所定の手続を経て定款に定めることで利用できる新しい制度等が増えたこともあって、昨今、その重要性が再認識されています(定款自治の拡大)。

例えば、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て
「取締役会を設置しない」
旨を定款に記載することで、それまで義務付けられていた取締役会を設置しなくてもよくなりましたし、また、株主総会の特別決議を経て
「役員の会社に対する損害賠償責任の範囲を、報酬の4倍以内とする」
といった内容の責任制限規定を定款に記載することで、株主代表訴訟が提起された場合の役員の責任の範囲を限定することもできるようになりました。

もっとも、このような会社法上の便利な制度等を利用するためには、そもそも定款がなければ始まりません。

しかしながら、中小企業の場合、さまざまな理由で定款自体を紛失してしまっているケースが少なからず見受けられます。

定款を紛失した場合、まず、会社設立後、5年以内であれば、法務局に会社の設立登記申請書類一式と定款の写しが保存されています(商業登記規則34条)ので、法務局で閲覧することができます。

次に、会社設立後、20年以内であれば、会社設立時に定款認証手続きを行った公証役場に定款が保存されています(公証人法施行規則27条)ので、当該公証役場で定款謄本の交付を受けることができます。

もっとも、会社の文書管理は内部統制の前提ともいうべき基本課題であり、定款のような重要な文書すら紛失してしまう会社については文書管理体制を徹底的に直しておく必要があります。

経営トップが
「文書管理の重要性」
すなわち
「文書の保管・運用コストを掛けても解決すべき課題である」
ということを認識した上で、文書を種類ごとに選別し、重要度合いごとに適切な保管方法を選択するなどして立体的な管理方法を確立する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00393_整理解雇の進め方

整理解雇を行う際には、整理解雇の各要件を詳しく検討する必要があります。

まず、
1 人員削減の必要性について
は、人件費削減の必要性や業績悪化などという抽象的な理由では足りません。

もっとも、裁判所が、人員削減の必要性の有無について検討する際、使用者の経営判断(裁量)が尊重される傾向にあるため、人員削減の必要性がないことが明白な場合を除き、当該要件自体は認められることが通常です。

次に、
2 解雇回避努力義務
については、新規募集の停止、ボーナスのカット、希望退職者の募集などの手段を尽くす必要があります。

このような努力義務を尽くすことなくいきなり整理解雇という強硬な手段に出た場合には、解雇権の乱用と判断されてしまいますから十分な留意が必要です。

さらに、
3  人選の合理性
における人選基準については、人員削減基準が客観的かつ合理的である必要があります。

整理解雇は、決して恣意的な解雇を認めているわけではありませんから、後日の訴訟をも見越して、客観的な基準を整備しておくべきでしょう。

最後に
4  解雇するに際して説明・協議等をしたか
として、十分な手続・手順を踏むことも求められます。

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00392_「解雇絶対的不自由原則」の例外:整理解雇

会社が人を雇うという行為は結婚に、解雇は離婚に例えることができます。

すなわち、
「結婚は自由だが離婚は不自由」
といわれるように、採用は非常にイージーにできますが、離婚(解雇)は大問題になります。

例えば、裁判離婚(強制離婚とも呼ばれます)では、裁判所が相当と認めない限り離婚が認められることはありませんし、解雇についても、従業員側に相当な非違事由がない限り、裁判所は、解雇をほとんど認めてくれないのが現状です。

もっとも会社が存続しなくては雇用関係も意味がなくなってしまいます。

そこで、会社がつぶれそうな場合には、従業員側に非違行為がなくても、次の要件を満たすことで特別の解雇(整理解雇)が認められています。

すなわち、
1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力義務の履行
3 人選の合理性
という整理解雇理由の要件と
4 解雇するに際して説明・協議等をしたか
という手続要件の計4要件です。

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00391_賃料を払っていたが、敷金を差押さえられた。もはや、賃貸借の解除はやむを得ないか?

そもそも、わが国においては、私人間でどのような約束をしても、原則自由であり、法的効力が認められます。

これは、旧来の封建的な制約をなくして、自由な経済活動をできるだけ拡大することが、競争による経済の発展を目指すわが国の国是にかなうと判断されたことによります。

ところが、契約を全く当事者の自由に任せてしまうと、強者による弱者の恒常的支配が生じ、このような歪な経済環境を放置すると、社会不安を生じ、かえって経済の発展を阻害しかねない、ということが認識されるようになりました。

こうして、私人間の契約原理にも社会政策目的が反映されるようになり、特定の契約関係に関し、契約自由の原則が大幅に修正されるようになりました。

その大きな例として挙げられるのが、本事例でも問題となっている借地借家契約です。

店子に債務不履行があった場合、大家からの解除によって賃貸借契約は終了するはずです。

しかし、些細な債務不履行で即時契約が解除されるとなると、店子は簡単に住居や営業拠点を失い、店子の経済活動が著しく制限されてしまいます。

このような背景のもと、1964年に
「相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意が賃借人にあると断定できないから、賃貸人による解除権の行使は信義則に反し、許さない」
との最高裁判例が下され、以来、大家からの自由な解除を制限する理屈として
「信頼関係破壊の法理」
なる判例法が確立しました。

すなわち、
「信頼関係を破壊しない程度の契約違反くらい大目にみてやんなさい」
などと、
「約束したことは守るべし」
という単純かつ明快な契約の本質が、大家にとってこの上なく迷惑な形で、大幅修正されるに至ったのです。

設例と類似のケースとして、店子が銀行取引停止処分を受け、さらに税金の滞納処分として差し押さえを受けたものの、店子が破産宣告を受けることなく営業を継続して賃料支払に不履行がなかったが、大家が賃貸借契約を解除した、という事件がありました。

この事件について、東京地裁平成4年12月9日判決は、
「賃貸借契約を継続しがたい事実関係が発生したとは言えない」
として、銀行取引停止処分と差し押さえを理由とする大家からの賃貸借契約解除を認めませんでした。

すなわち、東京地裁は、
「賃料の支払はしているわけだから、敷金にちょいとツバを付けられたくらいで、ガタガタ騒ぎなさんな」
と考え、
「この程度では信頼関係は破壊されていない」
という評価をしたわけです。

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00390_会社分割を行う際の障害:労働契約の移管

「会社の一方的都合だけで契約関係が電光石火の如く切り替えられる」
というのは会社にとっては実に都合がいいようですが、見ず知らずの承継会社に突如転籍させられてしまった従業員にとっては大事です。

そこで、会社と従業員の利害調整のため
「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」
が定められております。

同法は、従業員を、
1 承継される事業に従事していた従業員
2 それ以外の従業員(承継される事業に従事していなかった従業員)
に分類した上で、会社分割において、
1 の従業員を承継会社に「承継させない」場合と
2 従業員を「承継させる」場合に
それぞれの従業員に
「異議権」
を与えています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00389_事業譲渡の煩雑さを回避することのできる会社分割の妙味・効用

会社分割とは、大きく分けて、会社がその事業の一部を切り離し、新しく設立する会社に事業を承継させる
「新設分割」
と、既存の別会社に事業の一部を承継させる
「吸収分割」
があります。

この制度は、2001年の商法改正の際に導入されたものですが、その後、05年に成立した会社法によってより簡易な手続きで会社分割等ができるように制度整備がなされ、組織再編の一手法として多用されるようになってきています。

会社分割という手法の妙味は、会社の経営に関わる各契約関係を、事業を承継する新しい会社(あるいは、事業を承継する既存の会社。以下、「承継会社」)に一挙に付け替えることができるという点です。

すなわち、事業譲渡のように、取引先との契約や従業員との間の労働契約を締結し直したり、事業用設備・商品在庫・預金等をはじめとする会社資産の譲渡手続きを行ったり、といった面倒なことをせず、スムーズに分社化ができるところが会社分割の旨味といえます。

具体的には、承継会社に承継させたい各契約関係や資産等を、会社分割手続きにおいて作成する新設分割計画書ないし吸収分割契約に記載すれば、原則として、取引相手の個別の同意を要することなく承継先に引き継がれていくことになるのです。

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00388_金融リテラシーの欠如した企業が余剰資金運用に手を出す場合の重大なリスク

リーマンショックのちょっと前から、本件のように、大学が資産運用に色気を見せ始めるようになりました。

ただその結果といえばお粗末なもので、K澤大学は190億円の損失、K応大学は179億円の損失、I知大学、いえ、もとい、A知大学、N山大学、J智大学も軒並み100億円程度の損失を出していました。

他にも数十億円の単位で損失を出していた大学が多数ありますが、その中でも、K奈川歯科大学では、損失問題から刑事事件にまで発展しました。

同校では、人事権を掌握する理事が、その権力を背景に、実体のない投資先に巨額の投資をし、業務上横領等で逮捕されています。

経営陣が逮捕されるという異常事態から、年間7億円の補助金も打ち切られかねないという状況に陥りました。

K奈川歯科大学では、強大な権力を一手に握る理事を誰も止めることができなかったというガバナンスの欠如を指摘することができます。

また、K澤大学においては、多額の損失が通貨スワップ等のデリバティブ取引により生じましたが、これを運用していたのは一経理課長でした。

取引開始時には、理事長による最終決裁を経ていたものの、その後の取引を、同課長が理事長名義で捺印することにより行い、市況の悪化に伴い追加保証金が要求されたときにも、ひとりで処理を続けていたようです。

このことからは、商品特性に応じた運用ルールが全く定められていなかったことも明白といえます。

これらのガバナンスの問題や、運用ルールの不備は、組織作りの観点からの分析ですが、より重大なことは、担当者を含む学校経営陣に金融知識が全く欠如していることでしょう。

このことは、刑事事件等に発展してはいないものの、多額の損失を生んでいる多くの大学に共通していえることです。

金融リテラシーの欠如した経営人らがなぜ複雑な金融商品に手を出すのかといえば、金融機関に完全に依存した結果であるといわざるを得ません。

金融に明るい人が大学経営陣にいればよいのですが、そのようなことは稀ですし、多額のキャッシュを有する大学は金融機関にとってはおいしいカモ、もとい、お客様として、強烈な営業の対象となりがちです。

知識はないのに営業攻勢をかけられ、かつ、組織としてもやめる仕組みを設けていないとなったら、金融機関の食い物にされることは明らかでしょう。

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00387_「ホワイトナイトを依頼した際に買ってもらった株が塩漬け状態となった場合」の買受・引取テクニック

敵対的 TOBで乗っ取られそうになっている企業を助太刀すべく、ホワイトナイトとして登場し、第三者割当増資等で株式を引き受けたりする会社がときどき脚光を浴びることがあります。

しかし、ホワイトナイトとして活躍して役目を終えた会社が、その後、
「どのようにして舞台をハケていくのか」
という点についてはあまり語られません。

ホワイトナイトとして助太刀したのはいいが、そのために買い取った大量の株式(しかも買収騒動が終わった後は、もとの地味な会社に戻るため、株価はぐんぐん下がり始める)の処理は、ホワイトナイト側として正直頭を痛めるところです。

市場で大量に売却するとなると、株価の下落にさらに拍車をかけることになりますし、自己株式として引き取るといっても株主全員に対して声をかける必要があり(株主平等原則)、
「ホワイトナイトさんだけ特別扱いしてあげて、会社が株を引き取ってあげる」
というのも会社法上特別決議を要します(会社法160条1項、309条2項2号)。

このように、通常は、特定の株主から自己株式を取得することは非常に難しいのですが、
「会社の合併など、組織再編行為の場合の、反対株主からの自己株式の取得」
については、このような制限がありません。

その理由ですが、
「会社が合併などの組織再編をする必要性の高さと、それに反対する株主の利益を両立させるためにはやむを得ない措置であるから」
等と説明されています。

そこで、このような株式買取請求制度に目を付け、
「ホワイトナイトの手許の塩漬け株を自己株式として引き取る」
という離れ業をやってのけた事例が出てきました。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00386_TOBに最後まで反対する株主が残存した場合の対処法

会社法は、例えば取締役を選任する場合や新たに株式を発行する場合など、会社における基本的な事項を決めたり変更したりする場合には、一部の例外を除き、議決権の過半数をもって決することとしています(資本多数決の原則)。

もちろん、反対する株主であっても、一度、多数決が採られた以上、これに従わなければなりません。

しかしながら、
「常にかつ絶対的に多数決原理が優先され、反対株主(少数派株主)は、いついかなるときでもこれに従い続けなければならない」
というルールがまかり通れば、多数派が企業価値を下げるような不合理な多数決に及んだ場合、反対株主にとってあまりにも不当な結果を招来しかねません。

そこで、会社法は、株式の権利内容を変更したり、重要な事業を譲渡する場合など、株主権の変更や会社の重要事項の変更を伴う決議に反対する株主について、会社に対して自己の株式を
「公正な価格」
で買い取ることを請求できる権利を付与する旨の規定を設けています。

そして、このような株式買い取り請求があった場合、会社は反対株主と株式の買い取り価格に関する協議を行うこととなります。

しかしながら、反対株主側とすれば1円でも高く買い取って欲しいし、会社側とすればなるべく安く買い取りたいところであり、実際は、互いの利害が相反し、なかなか協議が進みません。

そこで、会社法は、30日以内に当該協議が整わない場合には、会社または反対株主からも申し立てにより、裁判所は、会社の資産内容、財務状況、収益力、将来の業績見通し、直近の株価などを総合的に考慮し、
「公正な価格」
を決定することとなります。

これまで、設例のような投資ファンド主導による企業買収のケースにおいて、個人株主等の少数株主が、意に反して予想外に安い価格での株式売却を迫られ、泣き寝入りすることが多かったようです。

しかしながら、昨今では、個人株主がインターネットを通じて同じ立場の個人株主を探し出し、被害者の会を結成するなどして、会社側が提示した株式の買い取り価格に集団で反対を表明したり、場合によっては、前記のとおり、裁判所に対し、株価を決定する手続を申し立てたりするケースが出始めており(旧カネボウ株式買い取り価格決定事件、レックス・ホールディングス株式買い取り価格決定事件など) 、今後、このような傾向が顕著になることが予想されています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00385_譲受しようとした債権に譲渡禁止特約がついていた場合の取扱テクニック

債権譲渡禁止特約とは、通常、債権者と債務者との間の契約で、(債務者の承諾なしに)債権を譲渡してもその効力を認めないものとすることをいいます。

具体的には、
「もとの債権者」

「債務者」
との間で
「売掛債権は譲渡できないものとする」
と約束すると、
「もとの債権者」
は第三者に売掛債権を譲渡できなくなります。

その結果、
「債務者」
から承諾のないまま
「もとの債権者」
との間で売掛債権を譲り受ける約束をしても、
「新しい債権者」(債権の譲受人)
は当該売掛債権を取得することができないことになります(譲渡禁止特約の物権的効力)。

なお、取引基本契約書とは、当事者の間で個々に行われる取引に共通して適用される約束事を定めたもので、
「債務者」
が示した取引基本契約の対象に含まれる限り、同社と
「もとの債権者」
との間の個々の取引に適用されることになります。

しかしながら、民法466条1項は
「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない」
として、原則として、債権は自由に譲り渡すことができる旨宣言しています。

これは
「信用流通を高め、金融資本主義を発展させるためにも債権は自由に譲渡されるべき」
というわけです(債権の自由譲渡性)。

そして、譲渡禁止特約の効力を定める同条2項は、その但書において、
「(譲渡禁止特約は)善意の第三者に対抗することができない」
と規定し、譲受人(新しい債権者)が
「譲渡禁止特約の存在」
を知らなかったのであれば譲渡は有効になるとしました。

この点については、かつ
「譲渡禁止特約の存在を知らなかった(善意)としても、知らなかったことに過失があれば、やはり債権譲渡は無効」
という議論もありましたが、通常の過失を超えた重大な過失のない限り、善意の譲受人は当該債権を取得することができるというのが裁判の趨勢です。 

債権の自由譲渡性という原則を重んじ、譲受人の保護を重視しているものといえるでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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