00379_「借主の地位が強くなる借地借家法を潜脱しつつ、商売の場所を提供したい場合」のテクニック

落語で出てくる大家と店子の諍いのように
「この野郎、店子の分際で大家に楯突きやがって! ええい、うるせえ! 店あげてどっか行きやがれ」
なんて形で借家人の事情を無視して大家の都合だけで借家契約がいきなり解除されると、借家人が住む所を失い、町はたちまち浮浪者が増え、社会不安が増大します。

こういう事態を防止するため、社会政策立法として借地借家法が定められており、かつ司法解釈としても借家人を保護する解釈姿勢が長年積み重ねられてきた結果、現在においては、
「貸したら最後、譲渡したのも同じ」
といわれるほど、借家人の立場は強化されてきました。

すなわち、借家契約が一度締結されると、原則として、借家人側が出ていかない限り、契約は半永久的に更新されていき、借地借家法により強力に保護された借家人を追い出そうとしても、大家側は、多大な立ち退き料を支払う必要が出てくるのです。

このような解釈は、一般住宅に限ったものではありません。

商業施設における物件賃貸借についても、当然に借地借家法が適用され、プロパティオーナー側は、いったん物件賃貸契約を締結したら最後、
「こちらの都合だけで自由に解除できない」
という極めて大きな不利益を被ることになるのです。

例えばワゴン販売をさせるという契約は、スーパーやデパート等の経営者からすると、時機に応じて業者を代えたいこともあるでしょうし、売り場のリニューアル等の都合で営業場所を変更させたいというニーズもあるでしょう。

そういった場合、ワゴン業者との契約に借地借家法を適用させず、いつでも気ままに契約を解除できるような方法はないのでしょうか。

そもそも、借家契約(賃貸借契約)とは、
1 ある物を特定した上でこれを独立した立場で使用収益させ、
2 当該使用収益の対価として賃料を支払うこと、
の2つを本質的要素としています。

逆に考えれば、ワゴン業者を独立の占有主体ではなく、単に
「商品販売を実施する代理業務を行っているにすぎない者」
と解釈されるような工夫を事前にしておけば、スーパーとワゴン業者との契約関係については賃貸借契約の本質的要素のうち1を欠くものと扱われ、借地借家法の適用を排除し、ワゴン業者の適宜追い出しや、営業場所の変更が可能になってくる、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00378_期間終了後、高額な値上げの受諾か退去を迫られる、借主にとってあまりに過酷な定期賃貸借契約

借り主の地位を強化しすぎてしまうと、不動産オーナーは、不動産を貸すということを躊躇するようになりますし、これが原因となり、かえって賃貸物件の円滑な供給を阻害することになりかねません。

そこで、借地借家法は、
「更新がないことを前提とした賃貸借契約制度(定期賃貸借契約制度)」
を設け、貸主、借り主の調整を図ることとしました。 

この結果、法律上、適式に定期賃貸借契約が締結された場合、借り主は、当然には賃貸借契約の更新を主張することができず、たとえ当該物件に愛着があっても、四の五の言わず出ていかなければならない、という過酷な帰結になります。

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00377_「不動産なんて、一度貸したら、自分の所有ではなくなる」と言われる賃貸借契約の特徴

賃貸借契約では、一定の期間が経過すれば、当然に、借りた物を返還しなければなりませんので、もし、借り主が、借りた物を気に入るなどして、一定の期間経過後も、同じ物を借り続けたいのであれば、再度、貸主と交渉し、新たな賃貸借契約を締結しなければなりません。

民法は、
「賃貸借の存続期間は、更新することができる(民法604条2項)」
と規定するのみで、いかに借主が同じ物を借り続けたいという希望を持っていたとしても、貸主が了解しない限り、当然には賃貸借契約が継続することはない、との立場を採用しております。

このように、民法上、借り主は、賃貸借契約を継続させるという点において、非常に弱い立場にあることは否めません。

ところが、立場の弱い借り主をそのまま放置することは社会政策上好ましくないという配慮から、不動産の借り主の立場を強化した借地借家法は、26条、28条において、建物賃貸借は更新されることを原則とし、かつ更新を拒絶するには貸主がその物を使用する必要がある場合や借り主に対し立退料を支払うという特殊事情(「正当の事由」)を必要としました。

このように、建物賃貸借契約の終了が原則として、借り主側の都合や腹積もりに委ねられることとなり、借り主の法的地位が著しく強化されるとともに、
「不動産なんて、一度貸したら、自分の所有ではなくなる」
とまで言われるようになったのです。

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00376_ノーアクションレター制度

ビジネススキームが法令に違反するのかどうかが判断できないような状況であるにもかかわらず、これを確認する手段が一切存在しないとすれば、企業は法令違反を必要以上に恐れてしまい(萎縮効果)、積極的な経済活動が阻害されかねません。

こうした事態を回避するために、規制緩和政策の一環として、ノーアクションレター(法令適用事前確認手続)という制度が整備されました。

ノーアクションレターとは、
「具体的な事業内容を明らかにすることにより、当該事業が法令に違反するかどうかを事前に官庁に問い合わせることができる」
制度です。

企業は、違反するかどうかを確認したい法令と条文、具体的な事業の内容、自社の法令適合性に関する見解、連絡先などを記載した照会書を当該規制法令の所管官庁の担当窓口に提出することにより、多くの場合30日以内程度で、当該官庁からの回答を得ることができます。

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00375_新規事業立ち上げ時のリスク・アセスメントの手法

企業が新規事業を検討する際、
「いかに儲けるか」
という積極的な検討課題とともに、
「儲ける仕組が法律によって禁止されていないか」
という保守的な検討課題が必ずつきまといます。

「これって、なんか儲かりそう!」
という魅力的な事業であればあるほど、企業が行き過ぎた営利活動に突っ走らないように、必ず周到に規制の壁が用意されているものです。

このようなことから、新規事業の立ち上げに際しては、法令適合性を事前に調査する作業が非常に重要となります。

この作業において、企業は2つの問題にぶつかります。

ひとつは
「新規事業に関連する規制法令と該当条文を漏れなく全部ピックアップできるか」
という問題(法的リスクアセスメントの問題)、もうひとつは
「当該新規事業について、ピックアップした法令や条文に違反することがないかを正確に見極められるか」
という問題です(規制解釈の問題)。

法的リスクアセスメントは
「星の数ほど存在する法令から、特定の事業に関係するものを漏れなく抜き出す」
わけですから、これ自体相当大変です。

ところがさらにやっかいなのが、見つけ出した規制をどう解釈するかという問題です。

例えば、ショッピングカート機能を省略したネット通販システムを立ち上げようとした場合、
「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」
に該当するか否かという判断をしなければなりませんが、必ずしも白黒がはっきりするわけではなく、極めて微妙な判断とならざるを得ません。

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00374_株式を公開していなくても金商法が適用される場合

金融商品取引法(金商法)は、金融市場における取引が適切な情報に基づき公正に行われるようにするため、金融市場というインフラを用いる企業に厳格な情報開示を求めています。

金商法は、
「金融市場というインフラを用いる企業」
すなわち、株式公開企業を主な規制の対象とし、当該企業に適切な情報を開示することを要求しています。

株式公開企業にとっては、金商法違反を犯すと刑事罰・行政処分に加え上場廃止というペナルティが課される可能性があることから、金商法は
「“御家おとり潰し(=上場廃止)”にならないようにすべき、死んでも守るべき法律」
として重要視されています。

この意味では、
「ウチは未公開会社だから、金融商品取引法は関係ない」
と断言できそうな気がします。

とはいえ、金商法は、
「上場会社向けに限って適用され、株式を公開していない会社には一切適用されない」
というものではありません。

金融商品取引法は、個人投資家等を保護するため、金融商品について幅広く横断的なルールを規定する法律でもあり、すべての会社が発行できる株式の取引を規制しているため、一定規模以上の非公開会社の増資や新株予約権発行に関しても規制を及ぼします。

すなわち、未公開会社であっても、発行価格の総額が1千万円を超え、かつ、50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合などには、有価証券通知書や、有価証券届出書の提出をすることが義務づけられる場合があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00373_「勘違い」「アテが外れた」「想定外」を理由に取引をキャンセルするには?

私法の世界では、
「人は自らの意思に基づいた約束にのみ拘束される」
というのが原則です。

この原則に照らせば、
「勘違いによる契約」
は、自分が思ったこととは違うわけですから、
「自らの意思に基づいた約束」
とは言えませんので、その人はその契約に拘束されないことになります。

そこで、民法95条本文は、
「法律行為の要素に錯誤があったとき」、
つまり、
1 その勘違いがなければ契約を締結しなかったといえる場合で
2 通常人の基準からいっても(一般取引の通念に照らしても)その勘違いがなければ契約を締結しなかったことがもっともであるといえる場合には
「錯誤による契約」
として無効となる旨が規定されています(錯誤による無効)。

ところで、契約自体には何の勘違いもないが、契約内容とは別個の背景事情や動機や目論見や皮算用が狂ったこと場合、契約には何らの
「錯誤」
もないので、どんなにひどい勘違いがあっても、契約相手からすると
「知ったこっちゃない。契約キャンセルなんて、とんでもない」
という話になります。

このように、
「契約の内容自体には勘違いがないものの、契約しようと思った背景事情に勘違いがある場合」

「動機の錯誤」
と言います。

そして、判例は、
「動機の錯誤」
について、勘違いしてしまった者と契約の相手方との利益を調整するため、
「その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となった場合」
には契約が無効になるとしています。

背景事情や動機や目論見や皮算用が契約の相手方に(黙示的にでも)表示されていた場合には、契約が無効となりえますし、キャンセルを主張し得る可能性が出てきます。

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00372_M&Aや事業提携等において、「名板貸」責任が発生する具体的場合

名板貸人は、どのような場合に、名板貸人の責任を負わされることになるのでしょうか。

自らの意思に基づいて約束を交わしたわけではない名板貸人に、私的自治の大原則を修正してまで、本来他人であるはずの名板借人が勝手に背負った債務まで弁済させるという重い責任を発生させるわけですから、それなりの要件が要求されます。

すなわち、
1 虚偽の外観の存在(名板借人による商号の使用)
2 当該外観への信頼(第三者が名板借人を名板貸人であると信じたこと)
3 当該外観作出についての名板貸人の帰責性(名板貸人が自己の商号を使用して事業を行うことを自ら許諾していたこと)
という要件が必要となります。

たとえば、
2の第三者が名板貸人と名板借人とが別の業者であることを知っていた場合や(悪意)、
普通なら誰でも気付けた状況なのに気付かなかったような場合(重過失)には、
第三者側の落ち度ですから、名板貸人に責任は発生しません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00371_M&Aや事業提携の際に発生する名板貸リスクとは?

江戸時代においては
「連座制」
なんて制度があり、自分に責任がなくても他人のケツを拭かされるということが当たり前のようにありましたが、近代法制においては
「人は自らの意思に基づいた約束にのみ拘束される」
というのが基本的な考え方であり、
「自らが合意したものでない限り、他人が勝手に締結した契約に拘束されることはない」
というのが原則です(私的自治の原則)。

とはいえ、取引社会を円滑にするためには、この原則を貫くと不都合な場合があり、
「取引社会において紛らわしい外観が存在し、これを信頼して取引してしまった第三者が損害を被ろうとしている場合、外観作出に責任のある者がケツを拭くべき」
とのルール(「外観法理」といいます)が登場しました。

たとえば、会社法第9条は、
「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社と取引しているものと誤信した第三者に対し、商号使用の許諾先である他人とともに連帯して、その取引によって生じた債務を弁済しなければならない」
と規定しています。

「自社と誤解されるような紛らわしい商号の使用を許したのはテメエなんだから、商号使用者の不始末はテメエがとれよな」
というわけです。

なお、
「自己の商号の使用を他人に許諾すること」

「名板貸(ないたがし)」
と言い、商号使用の許諾元を
「名板貸人」、
許諾先を
「名板借人」
と呼びます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00370_職務発明を企業のモノにするためのハードル

企業が職務発明を自社のモノとして専有するにはいくつかハードルがあります。

まず前提として、職務発明に該当するためには、
1 企業等に雇用される従業員が、
2 その業務の範囲内において行った発明で、
3 現在または過去の職務に属する発明である
必要があります(特許法35条1項)。

当該企業等に雇用されていない委託先の別会社の従業員が発明しても職務発明とはいえませんし、製薬会社の従業員が
「高性能モニター」
を発明しても
「業務の範囲内の発明」
ではありませんし、また、製薬会社の人事担当が
「ガンの特効薬」
を発明しても
「現在または過去の職務に属する発明」
ではないので職務発明には当たりません。

「職務発明」
に該当すると、企業としては、タダで当該発明を実施する権利を取得します(特許法35条1項、通常実施権)。

ですが、その権利では、発明をした従業員が他社に実施を許諾し、類似製品が販売されたときに、これを差し止めることまではできません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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