00279_「コンソーシアム」なる主体と契約する場合のリスク

取引相手と目される主体が、コンソーシアム(ある目的のために形成された複数の企業や団体の集まりのことを指します)となっている場合があります。

ですが、このコンソーシアムには、法人格があるのかないのか、一体誰がどのような責任を持って運営しているのか、法的には一義的に明確ではなく、要するに、素姓は明らかではない幽霊とあまり変わりありません。

集団と約束する、ということは、究極の無責任主体と約束することと同義です。

すなわち、当該集団に一定の統治秩序や責任秩序がルール化・法定化されていない場合、
「人格なき社団」
として例外法理による救済を求めるほかなく、
「8、9割は敗訴必至の苦しい状況」
に追い込まれるリスクを背負い込む事になりかねません。

「コンソーシアム」
なる集団ないし組織の法的正体がハッキリしない場合、責任の所在もハッキリしないこととなります。

すなわち、この種の法的な素姓が定かではない団体を相手に取引を進めるということは、
法人格があるのかないのか、
契約上の権利や義務の帰属はどうなっているのか、
誰が代表でどのような機関決定に執行が拘束されるのか、
という基本的取引条件が不明のまま、時間、カネ、リソースをつぎ込むことにほかならず、何も得られず徒労に終わるリスクを負う可能性があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00278_海外取引先企業の素姓確認

海外企業との取引についてですが、一般に、株式市場で上場しているような著名な企業を取引の相手とするような場合、逐一素性を確認するような野暮なマネをする必要は乏しいといえます。

他方、あまり著名でない未公開の法人と取引する場合、著名法人自体ではなくその子会社や関連会社と取引するような場合、さらにはコンソーシアムとして運営されている企業連合体と取引するような場合、取引相手の法的素姓を正確に確認することは非常に重要です。

こんなことを言うと、
「はあ? 会社の素姓なんて確認する必要ねえよ。実際、現地に行って担当者とか社長と会っているわけだし」
なんて声が聞こえてきそうです。

しかし、著名企業と提携したりする場合でも、実際契約相手として指定されたのは親会社の関係法人とはいえ
「ホニャララLLC」
という名の別法人だった、なんてケースがあったりします。

「LLC」
とは、Limited Liability Corporation(有限責任会社)という意味ですが、法律概念における
「有限責任法人」
とは
社会通念上「無責任法人」
という意味にほかなりません。

それなりの資産や経済実体をもっている親会社と取引するならともかく、
「無責任法人」
ともいうべき関連法人と組まされて莫大な投資をさせられた挙げ句大失敗し、当の親会社を問い詰めても、
「ホニャララLLCは、当社とは別法人なので、関係ありません」
などスットボケられることがあったりします。

とはいえ、この弁解は
「法的には完璧な正当性をもつ言い草」
であり、
「そんな無責任な法人と組んで莫大なカネを突っ込んで損した方がバカ」
という結末となります。

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00277_企業が、モニタリング受諾書なしでも、従業員に無断で従業員のメールやパソコンを監視できる場合

「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
との裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所2001<平成13>年12月3日判決)を前提規範として、許容される例外的場合を検討しますと、

・書き込み内容や調査の前提となった従業員による行為が企業価値を損ねるような誹謗中傷等であって、
・公益目的も推認できず、
また、
・手段方法面においても、私用のデータを含む地引き網的な探索ではなく、犯人特定の範囲で必要かつ合理的な範囲のモニタリングや調査

であれば、企業が、従業員に無断で、従業員のメールやパソコンを監視できる場合として許容さる場合と考えることが可能です。

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00276_従業員のメール・パソコンの監視を可能とさせるために徴求すべきモニタリング受諾書サンプル

ABC株式会社御中

私は、
「貴社が、機密情報の保護・雇用管理その他貴社の経営の都合上、私に断りなく、私の発信しあるいは受信する電子メールの内容や、『貴社の業務処理に用い、あるいは就業時間中用いている、私が保有しあるいは貴社から貸与を受けたパーソナルコンピュータその他の電子機器ないし端末』から社内外のサーバその他の設備にアクセスしあるいは操作した状況等を、貴社が必要とする任意の時期、方法、範囲ないし態様にてモニタリングすること」
をあらかじ予め異議なく承諾し、同意します。

以上

X年Y月Z日 

従業員氏名

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00275_従業員のメール・パソコン監視の可否

従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングについては、
「会社の資産であって私物じゃないから、会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然」
という論理も成り立ち得ます。

しかし、モニタリングの可否については裁判例で結構争われており、
「会社による利用状況のモニタリングが無条件、無限定に可能」
というわけではない、というのが一般的見解です。

裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所2001<平成13>年12月3日判決)では、
「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
とされており、判例上、原則として、従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングがプライバシシー権侵害となり得ることのルールが採用されています。

とはいえ、上記裁判例では、
「従業員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく、従業員の電子メールの私的使用に対する会社の調査に関する基準や指針等、会社による私的電子メールの閲覧の可能性等が従業員に告知されたこともない・・(中略)・・ような事実関係の下では」
ということ“も”述べられています。

つまり、
「何の前触れも告知もなく、いきなり、興味本位で覗き見するようなタイプのモニタリングはプライバシー権侵害の問題となり得る」
ということです。

以上からしますと、従業員からあらかじめ
「必要かつ相当な範囲においてネットワーク利用状況をモニタリングを了解する」旨
の文書を徴収しておくと、不祥事調査にまつわるプライバシー権侵害云々のクレームを逓減させることが可能となります。

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00274_「ライバルは特許侵害しているぞ!」と公言することが、競争者営業誹謗行為(不正競争防止法)とされるリスク

当方が特定の技術に関し特許権を有していて、ライバルメーカーの製造販売した商品が当方の商品と似ているからといって、直ちに特許権を侵害したことになるかは定かではありません。

すなわち、特許権があるといっても特定の技術範囲にしか及ばず、しかもこの範囲は、新規性・進歩性という要件をクリアする点から、出願後登録を得るまでの間に著しく狭められてしまうことが多々あります。

また、特許庁がお墨付を与えた特許権が裁判所でいきなり無効と判断されてしまうこともあります。

加えて、一般人の感覚で
「特許権が侵害された」
と思っていても、特許の範囲をよく観察すると、
「対象商品はギリギリ特許を侵害していなかった」
なんていうこともザラにあります。

対象商品が
「特許を侵害している」
との主張を裁判所に訴え出るならともかく、いまだ公的に確定していない
「特許侵害」
という事実を、あたかも特許侵害が既定の事実であるかのように装い、ライバルメーカーへの間接的な圧力を加える目的で取引先に触れ回るというのは不正競争防止法で禁止されている
「虚偽の事実を告知して競争者の営業を誹謗する行為」
と判断される危険があります。

特許権を侵害されたと考えた企業がライバル企業の取引先に
「特許権侵害の恐れあり」
との警告状を送付した事件で、競争者営業誹謗行為に該当するとして、通知の差し止め、損害賠償に加え、謝罪広告まで認められた裁判例もあるくらいです。

勇み足で過激なことをすると、逆にこちらが詫びを入れさせられる、というのが不正競争防止法の世界です。

別の高裁判決では、
「仮処分申立自体に告知性はなく営業誹謗行為には該当しない」
としつつ、
「申立行為や記者発表は民法上の不法行為になる」
と判断しています。

前述のとおり特許庁の判断を裁判所がひっくり返すことが特許法上認められており、
「特許権侵害を訴え出たら、逆撃をくらって、裁判で大事な特許がつぶされた」
なんて悲劇もよく聞きます。

真似られた、パクられた、と怒って感情にまかせて激烈な行動に出る前に、取りあえず、特許の有効性と侵害性の有無を今一度冷静かつ保守的に判断すべきです。

仮に、販売差止等を裁判所に訴え出るとしても、まずは競争者だけを相手に仮処分申立をした方が無難です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00273_ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない、経済取引における一般法理・不正競争防止法

不正競争防止法という法律を聞いたことがある方も多いと思いますが、
「どんな法律か」
と聞かれても、その特徴を一言で答えるのはなかなか難しい法律です。

それもそのはずで、不正競争防止法は、その名のとおり、経済社会における不正な手段を弄した競争を防ぐ目的の制定された法律で、経済取引における一般法理ともいうべき法律であり、いろいろな行為を広汎に規制しています。

デッドコピーを禁止しているかと思えば、企業の営業秘密を保護したり、ブランドの保護をしてみたり、はては外国公務員への贈賄を禁止したり、ある意味
「ごった煮」
のような法律です。

逆に言えば、ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない法律で、設例のケースも、不正競争防止法の競争者営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)の禁止に該当しないかどうか慎重に検討しておかないと思わぬところで足をすくわれかねません。

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00272_判決によらず、裁判を強制終了させる方法

普通、裁判の解決というと、
「勝訴、敗訴いずれかの判決が出されて一件落着」
ということをイメージされる方が多いと思いますが、判決以外にも訴訟が終了する場合というのがあります。

といいますか、実際の裁判では、提起された訴訟のおおよそ半数が判決以外で終了するといわれています。

判決以外の訴訟終了の場合としては、放棄、認諾、和解の3つがありますが、代表的なものは和解による訴訟終了です。

和解といっても、裁判所での和解はただの話し合いとは違って、その内容は弁論調書という公文書に記載され、和解で定められた権利は判決で言い渡されたのと同様の強制力が生じます。

さらに、和解の後に気が変わっても、和解を不服として高裁に持ち込んだり、再度訴訟を提起することができなくなりますので、和解には判決に匹敵する事件解決機能があるといえます。

ちなみに、裁判所も、
「解決した事件数で出世が決まる」
といわれるほどノルマが厳しいようですが、判決も和解も
「いっちょ解決」
としてノルマ達成上のカウントがされるそうです。

和解の場合、判決書を書かなくてもいいし、控訴で争われて高裁とかからダメ出しされることもないので、裁判所からは大変歓迎される訴訟終結方法のようです。

和解は相手がウンといわないとできませんが、相手の意向に関係なく訴訟を終わらせる方法として、放棄と認諾というのがあります。

請求の放棄というのは、原告が訴訟をヤメてしまうことですが、これにより訴訟が強制的に終了します。

「せっかく印紙を貼って訴訟まで提起したのに何で放棄とかする必要あんの?」
と不思議に思われるかもしれませんが、
「ちょいとビビらせて和解金せしめようと訴訟提起したものの、相手から予想外の猛反撃に遭ってしまい、これ以上事実を調べると、こちらが隠しておきたいことまで洗いざらい暴露されてしまうので、その前に強制終了」
みたいなケースで使われることがあるようです。

認諾は、放棄と逆で、被告が原告の請求をすべて認めてしまうことです。

いずれも、一方当事者が
「相手の要求を全部呑みます」
という以上、裁判所がお節介焼いてあれこれ事実を調べるのは無駄ですから、放棄ないし認諾後は、裁判は直ちに終了してしまいます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00271_節税規模に応じた税務処理:損金経理までの前提環境作り

それでは、一体どこまでのことをすれば、税務当局として
「債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった」
と認めてくれるのでしょうか。

もし、簡単に巨額の貸し倒れが認められるとすると、役員・家族・友人・知人にどんどんお金を貸し、片っ端から貸し倒れということにしてしまえば、寄付や賞与認定を免れる不当な脱税が横行することとなります。

とはいえ、夜逃げした零細業者に対する数十万円の債権にまで、逐一面倒くさい手続きを要求されたらたまったもんじゃありません。

つまるところ、税務当局をしかるべき形で納得させる状況を作っておくべきというほかなく、現実には
「損金処理を考えている債権額の規模に比例して、適正と考えられる、回収行動や債務者の資産状況検証を行う」
ということが推奨されます。

規模の大きい債権で、しかも貸し付け年度内に貸し倒れたことにする状況の場合、単に、
「夜逃げしたようです。督促状が届きません」
というだけでは、税務当局が損金経理を認めてくれない可能性もあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00270_債権貸し倒れによる損金経理

公開企業や公開に興味のない企業(要するに、税金の支払いを極力抑えたいと考えている非公開企業)においては、決算期末が近づき、当期に多くの利益の計上が見込まれると、何とかかんとか税務上認められた方法で損金を大きくして、無駄な税金を払わない方索を思案します。

損金計上による節税手法の中で、債権貸し倒れによる損金経理というものがあります。

債権の貸し倒れとは、借金や債権が踏み倒されたことを言いますが、法人税法基本通達では、法的な整理の開始に伴う債権の消滅や長期債務超過の状態に伴う債権放棄により債権が消滅したと認められる場合(通達9ー6ー1)や、債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった場合(通達9ー6ー2)に損金経理を認めてくれます。

債務者お金を返さない理由として、債務の存在や額を争っているから、という場合もありますが、返したくてもスッテンテンになってしまってお金が返せないという場合は、無駄な回収努力を続けるよりも、貸し倒れに基づく損金経理をして、その分法人税の支払いを減らしたほうが容易かつ賢明な選択といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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