01642_法律相談の技法8_初回法律相談(2)_相談者へ「ゲームの環境、ゲームのロジック、ゲームのルール」を教示し、啓蒙する

相談者が直面している事実ないし状況及びそこに至る経緯について、証拠資料(事実の痕跡)の有無や信用性の程度も含め、確認され、また、過誤や齟齬や虚偽や誇張が介在する蓋然性を前提としたストレステストを加え、大まかな客観的状況を把握できたとします。

次に、行うべきは、
「相談者が求めるゴールを達成するゲーム」
について、
「ゲームの環境、ゲームのロジック、ゲームのルール」
を教示し、相談者を啓蒙するプロセスを行います。

1 相談者が現在置かれている不愉快な状況を改善し、相談者が望むようなあるべき状況に至ることが、法律や裁判制度を用いて、実現できるのか否か
2 実現できるとして、どのような課題が障害として立ちはだかるのか
3 当該課題をクリアするためにどういうルールの下、どういう営みを行う必要があるのか
4 一般的な実務の相場観として、課題がクリアできる蓋然性があるのか、クリアするとしてどういう資源動員負荷が生じるのか
5 総じて、改善を期待することができるのか、そもそも不可能あるいは難しいのか
という点について、理論上、経験上の裏付けをもとに、相談者に解説することになります。

法律の実体面の分析としては、いわゆる法的三段論法を活用して、
「相談者が現在置かれている不愉快な状況を改善し、相談者が望むようなあるべき状況にもっていくことができるのか」
ということを検証・判断し、解説しますが、その際、類似事例のケーススタディを提供することが、推奨されます。

条文と理屈だけであれやこれや述べても、相談者からすれば、今ひとつ現実味をもてません。

特に、悲観的な見立てを伝える際、
「先生の言うことは所詮理屈。やってみないとわからないではないか」
と反論されてしまいます。

百聞は一見に如かずではありませんが、千の理屈より1つの先行事例を示すことが、不毛な議論と憶測を遮断するのに有益です。

ネットリサーチや新聞記事検索、判例検索、専門家の書いたケーススタディを探し、こういうったものを、印刷して、提示することが、もっとも簡単で、有益です。

筆者の場合、本企業法務大百科に記したケーススタディを用いて、事件解決相場観を伝えることが多いです。

手前味噌となりますが、筆者の執筆したケーススタディは、平均的知性と教養があれば誰でも読解できるプレイン・ランゲージ(平易な日常用語)で記述しており、また、無駄に期待値を高めるような楽観的な結末ではなく、紛争実務や裁判実務を踏まえた現実的な結論や帰結に導いており、期待値制御という点でも有益と考えるからです。

以上は、実体的なゲームの環境を述べるにとどめます。

同種の先行事例で成功したものがあるから、といって、相談者の事例についても当然成功するとは限りません。

まず、裁判例といっても、法律とは異なり、特定の事例について一般的かつ普遍的に解決する基準として適用されるものではありません。

すなわち、裁判所という司法権を取り扱う権力機関は、裁判体毎に他の干渉を配して、独立した専制君主国家並の権力を有しています。

もちろん、
「当該事件の事実認定と法適用」
という局面に限定したものですが。

平成25(2013)年時点のデータですが、裁判官の定員は、高裁長官8人、判事1,889人、判事補1,000人、簡裁判事806人であり、最高裁判所裁判官15人を含め、合計3,718人です。

裁判体としては単独体もあれば合議体もあり、その組み合わせはいくつもありますが、
こと「司法権を行使する国家機関」
としては、日本には、数千単位の
「(上司や上級機関も含め、他から一切の干渉を受けない)独立専制君主国家」
が存在しますし、当然ながら、同じ事件(同じ事実関係と同じ証拠)であっても、
事件を裁く「独立専制国家」
が異なれば、まったく違った事実が認定され、まったく異なる形で法が適用され、まったく違った結論になる可能性はあります。

その意味では、裁判例といっても、日本国内に数千単位で存在する司法権という国家権力を行使する
「独立専制君主国家」の「トレンド」
を示す程度の意味しかなく、解決相場観の把握の一助にはなっても、目の前の事件に適用され、展開予測の根拠として使える、というわけではありません。

このように、同じ事実関係といっても、担当する裁判体が違えば先行する裁判例とはまったく違った展開になることもありますし、加えて、事実は類似しても、証拠の強弱や全体としての経緯や利害状況が異なっていたり、プレゼンする弁護士のスキルや投入する労力の多寡も影響するので、相談者の事例について有利な展開予測を示唆する裁判例やケースがあったとしても、
「裁判は水物」
の格言どおり、結果の予測はあくまで蓋然性にとどまります。

要するに、証拠の有無や証明力の程度に大きく左右されますし、
「裁判では何でもあり」
という過酷なゲーム環境においては、番狂わせも頻繁に起こりますので、実体的な解決相場観とは別に、現実の実務遂行面での各種ゲームロジックやゲームルールや相場観を含めて、相談者に教示し、その上で、ゲームの展開予測や期待できるゴール等を伝えることになります。

そして、現実的な見通しを提示する場合、相談者にとっては
「受け入れがたいほど不愉快な悲観的で保守的な見通し」
と認識され、啓蒙に難渋するという事態も頻繁に発生します。

「お人好し」
「楽観的」
「物事を安易に考える」
「脇が甘い」弁護士の方で、
「客観的状況」の深刻さ
を分析することなく、
「こうあるべき」
「こうだろう」
「こうなるはず」
などを連発し、依頼者を無責任に鼓舞して、無闇に期待値を高めるような方もいます。

そして、こういう方は、
「ゴールをあいまいにしたまま、依頼者の意図を実現するための法的環境を無視して、とりあえず手続に着手し、様子をみようか」
などという無責任・無定見なことを平気でやります。

こんな仕事をしていてうまくいくはずがなく、無残に失敗し、最後に依頼者に迷惑をかけてしまいます。

「頼もしそうな」弁護士
というのもクセモノです。

相談の席で
「勝てます」
「その権利は認められてしかるべき」
などと自信をもって語る弁護士は、たいそう頼もしくみえます。

ですが、その種のことをいうのは、単に弁護士が事件遂行上の課題を理解していないことによることが多く、
「頼もしそうにみえる弁護士」
は、紛争経験値の欠如による、根拠なき自信を有しているだけ、ということがあります。

実際、着手前に
「これは勝てるし、勝つべき事案だ」
「私に任せれば大丈夫」
などという無責任なことを平気で言っていた弁護士が、慢心から想定すべき事態を考慮せず、前提が次々と崩れる中、挙げ句の果てに依頼者から
「着手金泥棒」呼ばわりされる
といったこともよくあるようです。

以上とは逆に、物事を真剣に堅実に現実的に考える弁護士ほど、厳しいゲーム環境を看取し、過酷なゲームロジックやゲームルールを前提として、悲観的で保守的な見通しを伝えることが多いのですが、相談者からすれば、話としては理解できても、まったく納得できず、誠実に、堅実に見通しを伝えようとすればするほど、慣れていない相談者の忌避と反感を買い、溝が深まっていくことになります。

相談対応する弁護士とすれば、このようなコミュニケーション断絶事例が頻繁に生じることを的確に予測し、特に、相談者に不愉快な帰結を伝えるときには、
「物事を難しくみせかけることによって着手金を高くしようとする魂胆だ」
「やりたくないから、自信やスキルがないから、臆病風に吹かれているだけ」
「期待値を下げて、仕事の困難さをアピールしたいから、三味線を弾いてる」
などと邪推されないためにも、先行事例や裁判例等、自説を根拠づけるブツ(動かぬ実例)を提供して、誤解を避けるべきです。

なお、相談者の中には、そこまで啓蒙に努めても、
「1つの話としてはある程度理解しても、まったく納得できず、誠実に、堅実に現実に即した見通しを伝えようとすればするほど、忌避と反感を強めた挙げ句、不愉快さが昂じて、席を蹴って帰る」
という方もいます。

そういうときは、無理せず、去る者は追わずで、相談者が離れるままにするべきです。

筆者は、このように、暗い見通しを忌避して相談を中断する依頼者を引き止めずに望み通りお帰りいただくことを、
「放流」
と呼んでいます。

放流した相談者は、他の楽観的見通しを述べる弁護士を探す旅に出て、場合によっては、そのような
「頼もしい弁護士」
に依頼して、甘い見通しと、粗漏だらけの準備で、
「いきあたりばったりの出たとこ勝負」
の感覚で、適当に事件をおっぱじめるかもしれません。

しかし、鮭や鰻と同様、筆者が相談で予言ないし予測したとおりの不愉快な展開がものの見事に現実化し、相談者は、手痛い失敗とともに、筆者の展開予測の正しさを実感することになります。

尾羽打ち枯らした相談者が、
「やっぱり先生が正しかったです。お見立てどおりでした。ようやく先生のおっしゃることが判りました」
と言って、恥も外聞も捨てて、再度の相談に訪れる場合も少なからずあります。

そうした場合、筆者としては、
「言わんこっちゃない」
と嫌味を言いつつ、もともと
「半ば言い分を認めてもらえる程度の和解が可能」
といった程度の期待値しかない状況であったところ、いい加減な事件処理が介在したことで、より劣悪となった状況と低下・劣化した期待値を前提に、
「『ボロ負け・完敗』を『ほどほどの負け』にする程度」
にすることしかできなくなった状況における
「敗戦処理」
を引き受けることになります。

もちろん、このような結果は、啓蒙を拒否して、自らの誤った考えにしたがい、誤った行動によって、時間とコストとエネルギーと機会を喪失した相談者の自業自得、自己責任、因果応報ですので、相談者自身が引き受けるほかないのですが。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01641_法律相談の技法7_初回法律相談(1)_事実ないし状況及び経緯の確認とストレステスト

初回法律相談は、相談者から、まず事実ないし状況及びこれらに至る経緯を確認し、重要な事実については痕跡(資料等文書として存在する証拠)の有無を確認することから始めることになります。

「事実ないし状況及び経緯の確認」
というと、
「困っていることやそこに至る経緯について、相談者に思い出してもらい、しゃべってもらうだけ。だから、簡単なプロセスだ」
と安易に考えられがちです。

しかし、このプロセスすら、相当な負荷のかかる営みとなることを想定しなければなりません。

もちろん、
「確認すべき事実の精度(あるいは密度ないし粒度)」
ですが、
「初回相談のゴール(初回相談において到達すべき目標)は、大まかな態度決定(詳細な作戦計画や動員資源見積もりのためのさらなる時間とコストと労力を追加投入するべきか否か)を行うことにある」
という点から、
「法律実務に照らした経験則に基づく大まかな展開予測が可能になる程度のざっくりとしたもの(ラフなもの)」
で差し支えありません。

とはいえ、重要な点を含め、ある程度の事件の顛末は把握しないと、大まかな態度決定すらできないことになります。

したがって、初回相談実施前に、
「事実」ないし「状況」及びのその前後の経緯
について、相談者の宿題(相談実施前に準備いただくべき事務的準備課題)として、
・時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)
・関連する資料・文書をすべて探し出し、時系列にしたがって整序させる
ことはきっちりしてきてもらう必要があります。

これは、
「初回相談における貴重な時間を無駄にしない」
という点において必須のプロセスですので、
「宿題を忘れました」
などという事態が発生しないよう、しっかりとやってきてもらうべきです。

もちろん
上記「宿題」
をある程度やってきてもらえれば概ね
「事実ないし状況及び経緯の確認」
は把握できますので、初回相談において対面で直接行う
「事実ないし状況及び経緯の確認」のプロセス
で何をやるか、といいますと、
・相談者にブリーフィングをして要領よく事実ないし状況及び経緯について理解を深めることと、
・言語化・文書化が不可能あるいは困難な、行間情報や非記述情報を中心に、口頭の応答によって補完・補充し、事件に関連する事情をよりビビッドに共有する
という点に注力することになります。

このように申しますと、
「何だ、そんなことか。簡単じゃないか」
と思われ、あたかもイージーでカジュアルなプロセスのように考えられがちですが、実際は、相談者で、
「この『事実ないし状況及び経緯の確認』プロセスをまともに遂行できる能力がある人は、ほとんどいない」という現実
を、弁護士も相談者も理解しておくべきです。

官僚や弁護士や新聞記者や文筆家といった、日常的に、事態や状況を5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)という知的作業に慣れている知的専門家は別として、
「そうでない一般の素人の方」
は、そもそも、
「認識内容や記憶した内容を言語にし、文書化する」という営み
が、しびれるくらい不得手で、下手くそです。

さらに言えば、人間全体の傾向として、
「過去のことを細かく思い出し、客観的に叙述する(印象やイメージとしてアバウトに思い出すのではなく、5W2Hの要素を含む客観的事実として想起する)こと」自体、
非常に苦手であり、そんな営みを行うこと自体苦痛に感じます。

例えば、
「5日前の昼飯のこととかって覚えています? 誰と、どこで、どのメニューを注文し、どの順番で、どんな話をしながら食べたか? 食後のデザートに何を選んだか? 飲んだのはコーヒーか紅茶か、レモンかミルクかストレートか、おかわりをしたか? おごったか、おごられたか、割り勘にしたか、傾斜配分にしたか? 勘定はいくらだったか?とか、覚えていますか?」
と言われて、すらすら答えられるような方は皆無だと思います。

筆者は、別に認知機能に問題なく、東大文一に現役合格する程度の暗記能力・記憶力は備えていますが、自慢ではありませんが、
「5日前の昼飯のこととか、そんなもん、いちいち覚えてるわけないやろ!」
と胸を張って言えるくらいです。

といいますか、仕事の関係で、食事は不規則であり、忙しくて昼飯をすっ飛ばしたり、朝食ミーティングがあれば、夜まで食べないこともあるので、昼飯を食べたかどうかすら、いちいち覚えていません(何度も言いますが、認知機能に問題があるわけではなく、あまりにどうでもいいというか、くだらないことなので、覚えていないのです)。

もちろん、
「がんばって5日前の昼飯のこと、思い出せ」
と言われれば、思い出せないこともありません。

それなりに、認知機能もありますし、記憶力や暗記力も平均以上だと思いますので。

スケジュールを確認し、前後の予定や行動履歴を、メールや通話記録をみながら、記憶の中で復元していき、手元の領収書や店への問い合わせや店が保管している記録を前提に、一定の時間と労力を投入すれば、状況を相当程度再現していくことは可能であり、さらに時間と労力を投入すれば、これを記録として文書化することもできなくはありません。

とはいえ、それをするなら、投入する時間や労力をはるかに上回るメリットがないと、こんなくだらないことに0.5秒たりとも関わりたくありません。

もともと、人間のメンタリティとして、
「過ぎたことは今更変えられないし、どうでもいい。未来のことはあれこれ悩んでも仕方ないし、考えるだけ鬱陶しい。今、この瞬間のことだけ、楽しく考えて、生きていたい」
という志向がある以上、
「過ぎ去ったことを調べたり考えたり、さらには、内容を文書化したりする、なんてこと、あまりやりたくない」
という考えは実に正常で、健全といえます。

すなわち、
「がんばって5日前の昼飯のこと、思い出せ。思い出して、文書化できたら30万円あげる」
と言われたら、ヒマでやることないし、あるいは期限や他の予定との兼ね合いをみながら、少し小遣いに困っているなら、その話を受けるかも、という感覚です。

要するに、
「自ら直接体験した事実ないし状況及び経緯の『想起』レベル」の営み
すら、困難で相当な負荷のかかるものなのです。

加えて、さらに、想起した内容を、言語化・文書化するとなると、慣れていないいうこともあり、おそろしく時間がかかるか、できたとしても非常に貧弱で、口を酸っぱくして宿題をきちんとやって来いと指示しても
「どういう起承転結で顛末なのか、さっぱりわからない代物を持ってくる」
という事態が普通に生じます。

以上のような負荷や困難をきちんと踏まえながら、 相談者には、
「事実」ないし「状況」及びその前後の経緯
について、相談者の宿題(事前課題)として、
・時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)
・関連する資料・文書をすべて探し出し、時系列にしたがって整序させる
ことをきっちり仕上げてきてもらい、これに基づき、どういう顛末であったか、その概要を把握します。

では、相談者から事実ないし状況及び経緯を、宿題の成果であるファクトレポートやヒヤリングによって聞き出せれば、それを所与として次のプロセスに移行して問題ないか、というと、そういうわけにもいきません。

相談者が叙述する内容を、額面通り受けとるのは非常に危険なことであり、必ず、
・相談者が叙述する内容は事実であり、発生した事実と齟齬はないか
・仮に事実として、裏付けがあるか
の2点についてストレステストを加えておく必要があります。

すなわち、
「相談者が書いてきた、あるいは相談において述べる事実ないし状況及び経緯」なるもの
も、
「事実と程遠いものである蓋然性も相当ある」という現実
を踏まえて、警戒と疑念の気持ちをもって確認・検証しておくべき必要があるのです。

ストレステストの実践、言い換えれば、
「相談者の叙述する事実ないし状況及び経緯は、本当に存在するのか。見間違いや、記憶違いや言い間違いや筆や口が滑って齟齬があるのではないか。あるいは、事実とは違うのではないか」
という疑いをもって、その真否や信用の程度を確認していくことになります。

こういう言い方をすると、
「お互い、日本人同士、言葉が通じるし、話は通じるし、状況認知に齟齬など生じようもないし、相談者がウソをつくはずなどない。ストレステストとか、そんな必要ないだろう。それはいくらなんでも信用しなさすぎではないか。そんなに疑ってばかりいれば、先に進まない」
などと考えがちです。

しかしながら、相談者の語る「事実」ないし「状況」の各プロセス、すなわち
・知覚(→見間違い、聞き間違い、噂話を自己体験と取り違える可能性)
・記憶(→記憶違い、記憶の上書き、不名誉な事実や不愉快な事実を身勝手に忘却する可能性)
・表現(→言い間違い、大げさな形容をして実体と異なる表現をする可能性)
・叙述(自己正当化・自己保存のため、誇張や不名誉なことを隠蔽したり誤魔化したりして、全体として事実と違う話をする可能性)
の各過程に、上記()内に示したような過誤が介在する可能性が常に生じます。

また、相談者の語る
当該「事実」ないし「状況」
が、真実そのとおり存在したとしても、
・痕跡(記録、証拠資料等)が存在する「事実」ないし「状況」と、
・痕跡が存在しない「事実」ないし「状況」
とでは、法律実務上、当該事実の取り扱われ方ないし価値(信用性)が異なるので、この点もきっちりと確認しておくべき必要が生じます。

特に相手と認識に隔たりが出るであろう
重要な「事実」ないし「状況」
について、裏付けとなる痕跡があるのか無いのかという点を確認しておく必要があります。

さらにいえば、
「『相談者の語る事実ないし状況及び経緯』と全く逆の『事実ないし状況及び経緯』を示す痕跡」
が存在しており、しかも、それが相手の掌中にある、という事態があるのかという点についても、しっかりと確認しておく必要があります。

こういう場合、相談者は
「先生、こんなの形だけなんです。事実と違うんです。全くのウソなんです。こんなウソ通るわけないですよね。相手も、形だけの領収書を示して、お金は返した、なんてまったく虚偽の事実を裁判で述べるなんで、そこまで恥知らずのことをしてこないでしょう」
ということをいいますが、
そもそも裁判は
「客観証拠に反しない限り、ウソは付き放題、何でもあり」というゲーム
であり、当然ながら、相手は領収書を振りかざして平然とウソを真実として主張してくると想定されます。

例えば、話の上では、債務は弁済していないのに、書類上・形式上は、相手方に協力するため、
「形だけ」
と言われて領収書を作成して、相手方に渡してしまっている、という状況です。

そうなると、相談者が申し述べる
「債務は弁済していないのに、書類上・形式上は、相手方に協力するため、『形だけ』と言われて領収書を作成して、相手方に渡してしまった」
などという話は、裁判においては、寝言あるいはウソ、妄言と扱われます。

この場合、
「相談者が平然とウソをつく、ゴミか汚物のようなどうしょうもない人間」
と裁判上確定することは火を見るより明らかです。

前述のとおり、
「体験ないし認知した事実ないし状況及び経緯を、時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)」
という至極簡単なタスクも、
1 知覚段階において、見間違い、聞き間違い、噂話を自己体験と取り違える可能性
2 記憶したものを想起する段階において、記憶違い、記憶の上書き、不名誉な事実や不愉快な事実を身勝手に忘却する可能性
3 言語化(表現)する段階で、言い間違い、大げさな形容をする可能性
4 文書化(叙述)する段階で、自己正当化・自己保存のため、誇張や不名誉なことを隠蔽したり誤魔化したりして、全体として事実と違う話をする(平たく言うとウソをつく)可能性
がそれぞれ存在します。

したがって、相談者の叙述する事実経緯等も、ストレステストを加えながら(疑ってかかる姿勢で)、確認していく必要があります。

その際、相談者が持参してきた痕跡資料が有力な手がかりとなります。

相談者が言っている内容と、痕跡である証拠資料との間に齟齬があったり、両者がまったく反対の内容となっていたりする、という状況は頻繁に生じます。

相談者の話を鵜呑みにせず、むしろ、
「相談者は、自己正当化・自己保存のため、あるいは何とか相手に優位に立ちたい、裁判で勝ちたい、専門家から色よい見立てをもらいたいという、歪んだ感情から、息を吐くようにウソをつく」
くらいに思いながら、斜に構えて聞いておく方が、誤った事実認識・状況認識に陥る危険性を排除できます。

事実認識や状況認識が誤っていれば、三段論法の小前提が狂っているわけですから、どんなに正しい法律や解釈論を展開しても、狂った帰結、間違った結論しか出てきませんし、結果、苦しむのは弁護士本人です(もちろん、相談者も被害を受けます)。

以上が
「事実ないし状況及び経緯の確認とストレステスト」のプロセス
となります。

一見すると簡単なようですが、結構タフで神経を使う営みである、といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01640_法律相談の技法6_初回法律相談に先立つコミュニケーション環境の確認_「ゲームの環境、ゲームのロジック、ゲームのルールを教示し、啓蒙する」という営みを阻害する前提状況としての「相談者の知的状況・内面状況」の理解・把握

法律相談にいらっしゃる方は、当然のことですが、法律や法律実務や裁判のことを知らない素人の方です。

知っていれば、わざわざ、(知っていることを聞くため)カネと時間を使って弁護士のところまで来ません。

当然ながら、何にも知りません。

まったくの不知、無知です。

それどころか、間違った考えに罹患している蓋然性も高いです。

すなわち、
「正義が勝つ(※勝つのは証拠を持っている方です)」
「裁判官は何でもお見通しで、書類とか証拠とかそんな些末なことに振り回されず、明敏な知性と洞察力で、真実を見抜き、事件を鮮やかに解決し、正義を実現する(※裁判官は、証拠に基づき事実を認定し、認定した事実に法律をあてはめ、そのとおり結論を出します)」
といった、(映画やテレビドラマや小説という虚構により形成された)誤った考えが脳内に充満しており、
「(裁判実務上の経験則からして)愚劣で愚昧で狂った前提知識という前提妄想」
によって洗脳されてしまっています。

それに加えて、ストレスや怒りと欲と他罰的(外罰的)思考傾向と天動説的な自己中心性が、理性的な状況理解や自己客観視を一時的に不可能としてしまい(理性的な状況理解や自己客観視が恒常的に不能となった不幸な相談者もいらっしゃいますが)、冷静に状況や展開予測を受容することが困難あるいは不可能となっている内面状況にも置かれている蓋然性が高いです。

すなわち、法律事務所の門を叩いて相談に訪れる方は、かなりズレているというか、身勝手で、あり得ないくらい自己中心的で、自分の認識ないし記憶している事実を世界中の皆がそのとおり確認、了解してくれるし、自分の言い分は絶対叶えられる、と強く認識している、
「20世紀になってもなお、頑なに天動説を信奉していたバチカンの天文学者(※バチカンが天動説を捨て、地動説に転向したのは1993年です)」
なみに頑迷固陋でマッチョな思考の方が多いです。

「ストレスや怒りで我を見失い、身勝手で自己中心的な方が、知性が低下し、状況を見誤る」
という事実は、経験上の蓋然性としてよく知られています。

もともと、無知、あるいは狂っていて、さらに、知性が(ストレス等によって)一時的に低下しており、状況認知能力が(自己中心的な認識傾向が災いして)一時的あるいは恒常的に欠如している。

相談者の一般的傾向ないし蓋然性として(誤解のないようにいっておきますが、あくまで「傾向」「蓋然性」です)、相談者の内面傾向を分析しているだけです。

謙虚で控えめで奥ゆかしくて諸事慎ましやかな方は、弁護士のところに来て、法律的な解決を志すはるか手前の段階で、
「こんなトラブルに遭ったのも、トラブルを起こすような人間と接点をもったのも、不徳のいたすであり、人を見る目がなかったからであり、欲に目がくらんで一時的に知能が劣化したからであって、いってみれば、自業自得、因果応報、自己責任。だから、我が所業を振り返って自らを反省し、今後のため、生きる糧としよう」
と悟り、くだらないカネや財産や権利や意地や沽券のため、さらなる時間や労力やカネを使うのではなく、前を向いて、未来に生きることを志向します。

弁護士にところに来て、声高に権利や言い分の正当性を叫び、それが充たされない不幸を怒り、法律的な解決を志すような方で、(通り魔事件の被害者や青信号で車にはねられた歩行者のような例は別として、)
「100%相手が悪く、 こちらは一片の非も手落ちもない」
という方は稀です。

たいていの法律トラブルについては、
「相談者側にも責められる部分、愚かな部分、疎漏のある部分」
というものが存在します。

しかしながら、
「弁護士にところに来て、声高に権利や言い分の正当性を叫び、それが充たされない不幸を怒り、法律的な解決を志すような方」
は、そのような、自身における
「責められる部分、愚かな部分、疎漏のある部分」
は存在しないか過小にしか認知せず、ひたすら、相手が悪い、自分は正しい、ということを叫びます。

こういう言い方をすると、
「きちとした借用書を取り交わしてカネを貸したが返さないような事件においては、貸した側においては全く非がないのでは?」
と言われそうですが、実際、お金が返済されない状況を招いたのは、適切な与信管理をしなかった貸主側の不備疎漏が原因であり、賢い人間や一流の金融機関なら返せる能力のない人間にはカネを貸しませんし、そもそも、そんな連中とは接点すら持ちません。

こういう点を踏まえると、ロクに信用調査もせずに、債権管理という営みをせず、漫然と借用書に依存し、返済能力のない人間に大金を貸す側にも相当落ち度がありますし、自業自得、自己責任、因果応報の帰結です。

なお、債権回収の相談は、そのほとんどが返済能力のない債務者を相手とする事案であり、
「どんなに怖いヤクザでも、どんなに優秀な弁護士でも、(お金が)ないところからは取れない」
という法律実務上の経験則を前提とする限り、この種の事案の相談については、
「やられてもやり返すな。関われば関わるほど、時間とカネと労力という貴重な資源を消失する。諦めて、とっとと忘れるのが吉」という回答
が最善手となります。

しかし、この状況ないし回答内容を、ニコニコ笑って受容し、感謝をもって受け止めるような(債権回収事案の)相談者は絶無です。

以上のとおり、相談者は、そもそも法律的に無知ですし、謙虚さや奥ゆかしさや慎ましさはゼロというかマイナスであり、
「身勝手で、ありえないくらい自己中心的で、自分の認識ないし記憶している事実を世界中の皆がそのとおり確認、了解してくれるし、自分の言い分は絶対叶えられる、と強く認識している、『頑なに天動説を信奉していたバチカンの天文学者』なみに頑迷固陋でマッチョな思考」
で度し難い方で、しかも
「自分は聖なる存在で、自分の主張は正義であり、自分が主張する正義は必ず世間も裁判所も認める」
と固い信念をもった状態で、鼻息荒く、弁護士のところに相談に訪れます。

もともと無知な方で、しかも、
「自分が世界の中心にいて、自分が聖なる存在で主張する内容はすべて正しく、かつ相手が邪悪な存在で何から何まで間違っている」
という狂った考えに罹患しており、そのような主観的正義が実現されない現状にストレスを感じて激高している、という心理的状態にあるわけですから、こういう方に、客観的なゲームの環境、ゲームのロジック、ゲームのルールを伝え、不愉快な現実や容認しがたい展開予測を教示しても、容易に受け入れることは困難です。

「契約書がない、あるいはあっても疎漏だらけの記載内容で空文に等しい契約書」
を振りかざして、自分が正しいと考える内容を前提に、相手の契約違反をあげつらい、責任追及する、とわめきたてている相談者に対して、
・記憶があっても記録がなければ、法律実務上、事実が存在しないのと同じ
・契約書がないあるいは空文であれば、約束がないのと同じ
・約束がなければ、約束違反も生じ得ないし、約束違反、すなわち債務不履行がなければ、損害賠償請求権も解除権も出てくる道理はない
と、真っ当なお話をしても、ニコニコ笑って、平常心で理解するような相談者は稀です。

逆に、正しい、客観的な情報を提供した弁護士を、
・「自分が世界の中心にいて、自分が聖なる存在で主張する内容はすべて正しく、かつ相手が邪悪な存在で何から何まで間違っている」という狂った考えを理解したり、共感してたりしてくれない
相手の立場に偏した邪悪な存在として忌避し、無能な役立たずとして嫌悪して、怒り狂うことが想定されます。

弁護士としては、コミュニケーションの相手方が、多かれ少なかれ、上記のようなメンタリティを有している、という前提状況を理解しておくべきです。

もちろん、相談者の中には、謙虚で控えめで奥ゆかしくて諸事慎ましやかな方もいらっしゃるかもしれませんし(「カネを払って時間を使って、弁護士のところにやってきて、自分の言い分を通そう」というビヘイビアを実践される方の内面としてはかなり矛盾を感じますが)、聞き分けのいい方もいらっしゃるかもしれませんが、
・言葉が通じない、認知状況が共有できない
・話が通じない
・情緒が通じない
というコミュニケーションを阻害する構造的状況が存在する、と警戒しておいた方がいいかもしれません。

このような構造的な状況を理解せず、相談者を
「知的で理解力があって温和で控えめで謙虚で諸事慎ましやかで、情緒を安定しており、自己客観視ができ、思考の柔軟性や経験の開放性や新規探索性を有する人格者」
と過大評価してしまい、
「理屈として、経験として、現実的相場観として、知っていること、理解していること、合理的に予測できる内容、本当のこと」
がそのまま語りさえすれば、たちまち肝胆相照らし、
「言葉が通じ、認知状況が共有出来、話が通じ、情緒が通じる」
と誤認・誤解すると、(弁護士、相談者双方にとって)無駄で無価値で無意味で不幸なプロセスとなってしまうリスクが生じます。

筆者が若いころ(20年以上前のことです)に経験した法律相談において、いまだに印象に残っている事例があります。

相談者が相応の企業の経営者ということもり、また、
「忌憚のない意見を言ってほしい」
「ストレートに言ってくれたほうがいい」
と言われたこともあり、
「知的で理解力があって温和で控えめで謙虚で諸事慎ましやかで、情緒を安定しており、自己客観視ができ、思考の柔軟性や経験の開放性や新規探索性を有する人格者」
と考え、
「言葉が通じ、認知状況が共有出来、話が通じ、情緒が通じる相手」
として、
「理屈として、経験として、現実的相場観として、知っていること、理解していること、合理的に予測できる内容、本当のこと」

「頭の中に浮かんだことをそのまま口に出す」という形で
相談者にお伝えしました。

そうしたところ、話が進んでいくうちに、相談者が、苦虫を数十匹噛み潰したような顔をして、やがて、激高しはじめました。

そのうち、
「先生、何言ってもいいよ。そりゃ、そう言ったよ。何言っても大丈夫って。何言ってもいいけどさ。でもね、本当のことは言っちゃダメだよ」
とおっしゃられました。

私は、
「わかりました。お急ぎのようだったので、なるべく早く理解到達したいかな、と考えて、ストレートに状況をお伝えしました。やや感情的になられた様子ですが、これは、問題の核心に到達したことによる好転反応と捉えていましたが、そのような志向であれば、言葉を選び、ジェントルでエレガントでソフィスティケートされた表現でお伝えします。そのかわり、このような、マナーやトーンでお話すると、実体を糊塗した、いってみれば真実と程遠いウソを交えながら状況認知を共有し問題の核心に迫り、展開予測を理解いただき、プレースタイルとしての選択肢を決定いただくことになりますので、さらに5回ほど相談にお越しいただく必要が出てきます。そうなりますと、これに比例して、時間と費用と労力資源を消失し、着手が遅れ、機会損失が増大します。この点は、自己責任、自業自得、因果応報の帰結としてご了解いただけますね」
と念押ししましたところ、鼻白んでおられました。

これは極端な例かもしれませんが、相談者の内面状況を多かれ少なかれ表した事例として、お伝えしておきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01639_法律相談の技法5_初回法律相談実施までの具体的手順(3)_相談者が持ち込む「(間違った)相談内容」を矯正する

相談者のプロフィールや相談の前提状況も確認できました。

相談者に宿題を与え、相談事項にまつわる法的なリテラシーや解決相場観も概ね共有できました。

もちろん、概要レベルですが、問診票と持参いただいた資料から、時系列での経緯や顛末も把握できました。

いよいよ、法律相談開始です。

ここで、まず行うべきは、相談者が語る
「相談内容」
の矯正です。

すなわち、「質問」「問いかけ内容」の修正・矯正・補正・正常化です。

相談者は、素人です。

素人は、そもそも正しい質問、問いかけが出来ません。弁護士やリスク対処の専門家からみれば
「狂った質問」
「前提理解が誤っており、その点で全体として狂っている問いかけ」
「ゲームのロジックやゲームのルールやゲームの相場観を全く理解していないため、そもそもゲームとして成立しないプレースタイルの実践要求(無理筋、筋悪の事件の求め)」
をしがちです。

素人が、素人の頭と、素人の常識と、素人の経験と、素人の妄想するロジック・ルールとで思い描いた課題、というのは、そもそも
「ど手前」
のはるか以前で、致命的に間違っているかもしれません。

素人が語る、間違った相談内容を、矯正することなく、真に受け、そのまま相談をすすめると、時間と労力の無駄になる可能性が出てきます。

ですから、相談者の相談内容ないし質問については、
「正しい相談内容」
「適切な質問内容」
「まともな問いかけ」
となるように、置き換え・言い換え・再構築が必要となります。

「相談者がよこしてきた相談にそのまま答えれば正しい回答になる」ということはほぼない、
「法律の素人の相談者が語る質問や問いかけや実践要求はたいてい狂っている」
くらいに考えていたほうが無難です。

「いろいろおっしゃっていますが、整理すると、ご質問は、これこれこういうことですね」

「かなり遠大で壮大な展開を語っていますが、現実的な保有資源(カネや時間や労力や事務スキルや手持ち資料)と、実際の裁判ないし法律実務におけるゲームのロジックやルールを前提とすると、これをお求めになる、ということで整理してよろしいでしょうか」

契約書のチェックをしてくれ、というご要望ですが、私の国語読解能力や機能的識字能力からして、この『契約書』という『難解な文字の羅列』はまったく私の読解や理解の範囲を超えているので、代読の要請と意味把握の補助を乞う、ということですね」

契約書のチェックをしてくれ、ということですが、前提とされた契約内容の合理性の検証はよろしいのでしょうか? 
契約書としてミエル化・言語化・文書化・フォーマル化された、その内容たる取引内容やビジネスモデルについては、タームシートや取引モデルの資料をお持ちいただいておりませんが、この点の合理性や整合性は確認・検証の対象ではなく、たとえ、表現・叙述された取引内容やビジネスモデルが愚劣で狂ったものであったとしても、その点は検証や確認の対象ではなく、契約文書そのもののについての意味把握だけ、ということで、本当によろしいのでしょうか」

「『この英文文書に署名をしていいかどうか』とのお尋ねのようですね。
英文文書の言語的意味や内容や意義の解釈のプロセスが経由されていないようですが、まず、この英文文書のコトバは理解されていますか、文書の内容や意義は理解されていますか、署名をすることのメリット・デメリットの分析はされていますか、署名にメリットが乏しいようであり却って署名によるリスクが想定できない場合、署名留保や一部趣旨を限定して署名するなどの対案を検討されていますか。
以上について、ご不安であれば、各プロセスに還元し、それぞれ課題対処すべきと思いますが、これらの点のサポートが必要ですか?
ひょっとしたら、コトバも読解しておられず、意味内容の把握も懈怠され、さらにいえば、取引内容すらよく把握しておられず、『あたらしくみつけた海外取引先と、海外で流行っている新しいものを取引すれば、儲かる』という安易な考えで、内容も検証せず、読む努力もせず、雑に盲判(めくらばん)を押すつもりで、とりあえず、雑駁に弁護士に聞いて安心しとこう、などと無責任でイージーなノリで、丸投げされてます?」

と、間違った相談内容を、矯正し、訂正する必要が生じます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01638_法律相談の技法4_初回法律相談実施までの具体的手順(2)_相談実施前に相談者に“宿題”を与える

法律相談を受付、アポイントメントを調整して来所の運びになった場合、効率的に相談を実施するために、相談者には「宿題」を与える、すなわち、
1 法的リテラシーを改善し、正しい法的相場観の醸成してもらうために、関連資料を閲読させる
2 事前問診票を作成させる
3 関係資料を収集し、整理し、事前にメールで送付させ、あるいは当日持参させる

という指示を与えることが推奨されます。

弁護士や相談者の中には、何の事前準備や理論武装もせず、面談してから話を聴取するような、適当でイージーな雑談的相談から始める方もいますが、このような方法論ですと、初回相談は、せいぜい相談者のプロファイルや事業や問題取引の前提概要等を聞き出すところで初回1コマ(1時間)を使い果たしてしまい、抱えている法的課題の発見・特定(具体化)・解決相場観の共有・展開予測・解決ないし改善の是非や蓋然性・大まかな選択肢の抽出とプロコン分析、といったカウンセリングの最重要部分にまでたどり着かない可能性が出てきます。

手際よく、相談者のプロファイルや、前提事情を把握し、問題の核心を把握し、展開予測を行い、相談者の認知改善を行い、啓蒙・教化を遂げ、正しい法的相場観を醸成してもらい、

1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、
5 以上を前提に、相談者が、基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)のか
をしていただくこと

という、初回相談のゴールにたどり着く、という点からすると、相談者に
「宿題(事前準備)」
を遂げてもらい、お互い時間と費用(相談時間が長引くと、相談者にとってコスト上昇を招く)の無駄を省略するべきです。

この観点から、相談者に対して、
「しかるべき宿題」
を設計し、当該宿題遂行を求めるべきです。

1  宿題1:法的リテラシーを改善し、正しい法的相場観の醸成してもらうために、関連資料を閲読させる

相談者に賦課する
「宿題(事前準備)」
の1つ目は、法的相場観の醸成をしてもらうことであり、このため、
「世間の常識」
とはまったく異なる、
「法律の常識」
「法律実務の常識」
「裁判実務の常識」
を(どんなに思い込みが激しく、機能的文盲が重篤で、総じて理解力が乏しい相談者であっても、一般的な識字能力さえあれば瞬時に状況や相場観が理解把握可能な)シビれるくらいわかりやすく伝える啓蒙資料を探し出し、これを相談者に付与し、法的な相場観を醸成させておくべきです。

例えば、相談者が企業で、
「怠惰で、疎漏が多く、総じて出来の悪い従業員」
を解雇したら、解雇を争って労働審判が申し立てられた、というケースの場合、
「世間の常識」
としては、
「『怠惰で、疎漏が多く、総じて出来の悪い従業員』がクビになるのは当然であり、クビにしたはずの従業員が解雇が無効などと騒いで、復職を求めて、認められるわけはない」
というものであり、相談者がこのような
「世間の常識」
という
「誤ったバイアス」
に罹患した状態で相談に乗り込んでくることが想定されます。

そうすると、前記、初回相談のゴールの、
1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、

に至るはるか手前で、手間取ってしまい、無駄な時間や費用を費消してしまう危険性が浮上します。

このような場合、
「『世間の常識』とはまったく異なる、『法律の常識』『法律実務の常識』『裁判実務の常識』 を(どんなに思い込みが激しく、機能的文盲が重篤で、総じて理解力が乏しい相談者であっても、一般的な識字能力さえあれば瞬時に状況や相場観が理解把握可能な)シビれるくらいわかりやすく伝える啓蒙資料」
として、例えば、
00245_解雇不自由の原則
00902_企業法務ケーススタディ(No.0230):解雇
00621_企業法務ケーススタディ(No.0212):あな恐ろしや、ブラックの烙印押されかねない労働審判
といったものを事前送付して閲読をしてもらっておけば、無駄な時間や費用を費消してしまう危険性を減らすことが出来ます。

2 宿題2:事前問診票を作成させる

また、相談者には、事前に、自分が置かれた状況を思い出し、これを客観性あるファクト(5W2H)としてミエル化・カタチ化・具体化・言語化・文書化した上で、時系列で整理し、要領よくかつ客観的に事情を説明できるような
「ブツ(資料、文書、アウトプット)」
を用意させておくべきです。
すなわち、弁護士は、
「依頼者の、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、ある程度文書化された事件にまつわる全体験事実」(ファクトレポート)
を所与として、そこから、依頼者が求める権利や法的立場を基礎づけるストーリー(メインの事実)ないしエピソード(副次的・背景的事情)を抽出し、こちらの手元にある痕跡(証拠)や相手方が手元に有すると推測される痕跡(証拠)を想定しながら、破綻のない形で、裁判所に提出し、より有利なリングを設営して、試合を有利に運べるお膳立てをすることが主たる役割として担います。
そのために、避けて通れないのは、相談者が「事実経緯を、記憶喚起・復元・再現し、これを言語化し、記録化し、文書化する」という前置作業です

ここで、初回相談の効率化・充実化のため、弁護士サイドから、相談者に、ファクトレポートフォームを事前に送付し、そこに「問診票」のような形で、相談実施までに記入・作成させることが推奨されます(私の事務所では、このようなフォームを整備して、運用しています)。

3 宿題3:関係資料を収集し、整理し、事前にメールで送付させ、あるいは当日持参させる

最後に、相談者には、相談事項に関係する全ての資料を収集・整理し、これを持参(あるいはスキャニングしてPDF化してメールで事前に送付する)をさせるべきです。
手ぶらで、痕跡を示さず、曖昧な状況説明をする相談者(そういういい加減な対応を許す弁護士)もいますが、痕跡の有無や質がわからないのでは、具体的な助言はほぼ不可能です。
たとえ、言い分(主張、ストーリー)が至極もっともであっても、「契約があっても契約“書”がない、というストーリー」や「記憶があっても記録がない、というストーリー」
については、裁判所においては、「寝言」「妄想」(もしくは、より端的に言えば「ウソ」)
として片付けられる、というのが訴訟の現実だからです。

そして、整理する基準ですが、必ず、時系列で整理してもらうべきです。
三次元空間で生存する我々は、
「時間」
という不可逆的かつ直線的に流れる絶対的な次元を世界中の全人類と共有しており、この意味では、時系列を用いた事実整理は、もっとも客観性があり、過誤の介在する余地のない整理軸だからです。
これは要領さえ得てればさほど難しいものではありません。
相談事項に関するすべての痕跡や資料(証拠資料)をまず一箇所に集め、これを、古いものから最近のものに並べ替えれば完成です。
月や日毎にタグ付けしたり、重要な資料には付箋を貼ったりしてもいいですが、コアの基準は時系列、とすべきです。
このような資料が相談時、あるいは相談前にあれば、相当程度具体的な助言が可能となり、弁護士にとっても、相談者にとっても大きな時間とコストの効率化・節約につながります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01637_法律相談の技法3_初回法律相談実施までの具体的手順(1)_法律相談申込の受付(あるいは拒否)

法律相談の申込を受けた場合、この申込を受付けるか、拒否する(門前払いする)か、という課題が生じます。

医師の場合、応召義務(あるいは応招義務)、すなわち、
「医師・歯科医師の職にある者が診療行為を求められたときに、正当な理由が無い限りこれを拒んではならない」
とする医師法及び歯科医師法で定められた義務がありますが、弁護士においては、このような義務を負担しておりません。

弁護士は、依頼者との間の高度な信頼関係に支えられて職務を遂行する立場にありますが、依頼者の中には、言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できないといった方も少なからずいらっしゃいます。

例えば、筋の通った話はされるものの証拠が全くない(記憶はあっても記録がない)という事件の場合、弁護士としては、
「裁判所は、物事を証拠と法律を通じてしか判断できない役所なので、証拠もなく、法律的にも分が悪い事案で、過大な期待をしても難しいですよ」
と至極当然の説明をします。

しかし、依頼者の中には、
「 自分がトラブル回避措置を怠ったこと(よく読まずに契約書に押印したとか、付き合いの浅い人間に契約書もなくお金や財産を預けてしまったとか)」
を棚にあげ、
「証拠がなくて、法律的に不利なトラブルでも、裁判所に行ったら、ナントカなる。いや、裁判官様がナントカしてくれるはずだ!」
などと身勝手な妄想から離れず、まともなコミュニケーションが取れない、といった状況です。

こういうタイプの依頼者と曖昧な関係構築が出来てしまうと、受任をお断りしたはずが、依頼放置だ、不利なる時期の辞任だ、と騒ぎ出し、面倒なトラブルに巻き込まれることもあり得ます。

「君子危うきに近寄らず」
という私としても個人的に大好きな格言がありますが、こういう
「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」
というタイプの方とは、極力接点を持たない方が賢明です。

顧問契約を締結している企業または個人については、上記のような
「困った」タイプ
の依頼者はまずいないので(そもそも、「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」というタイプの企業や個人とは顧問契約を締結しないことが多いので)、顧問先からの相談であれば、このような事前スクリーニングなくスムーズに相談実現にたどり着けます。

加えて、顧問契約を締結している企業または個人については、展開している事業等を日常的に情報共有しているので、相談の前提として理解すべき事業内容やビジネスモデルやこれらの課題をよく理解できており、その意味でも、相談プロセスはかなりスピードアップします。

他方で、依頼者や顧問先からの紹介で相談申込されてきた方や、紹介もなく飛び込みで相談申込されてきた方については、
・相談者のプロフィール
・大まかな相談事項
・相談者として抱いているゴールイメージ(期待値)
・動員資源(弁護士費用や事務的課題に対する遂行能力や遂行体制)の有無・程度
・思考の柔軟性、経験の開放性、新奇探索性、謙虚な自己評価、外向性、安定した情緒、健全な一般常識の有無・程度
を事前問診の段階でヒヤリングしながら、慎重に、信頼関係が構築可能な程度に
「言葉が通じ、話が通じ、心が通じる(感受性が共有できる)か」
を見定める必要があります。

その上で、もし、相談を申し込んできた方が、
「言葉が通じない、話が通じない、感受性が共有できない」
というタイプの方である蓋然性が高い、と判断されれば、丁重にお断りをして接点を持たないようにするか、あるいは、相談は実施するもさらに依頼を受けるかどうか、顧問契約を締結するかどうか、は慎重な構えを崩さず、対応することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01636_法律相談の技法2_初回法律相談のゴール

初回法律相談を行うに際して、ゴールをきちんと把握しておく必要があります。

何事も、ゴールが明確かつ具体的に設定され、そこから逆算して業務を設計し運営しないと、時間と労力と費用の無駄が生じるからです。

初回法律相談のゴールは、(相談対応をする弁護士の啓蒙・教化・誘導によって)

1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、
5 以上を前提に、相談者が、基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)のか
をしていただくこと

です。

というのは、案件によっては、いくら事情を掘り下げ、そのために時間とコストとエネルギーを費やしても、構造上・論理上、
「時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのもの」
が無駄で無益であり、どんなに優秀な弁護士を雇い入れて、どんなに弁護士費用をかけても、
「1万円札を10万円で購入する」
が如く、経済的に無意味な営み、というものが少なからず存在するからです。

例えば、
「15億円貸付けて、きちんとした金銭消費貸借契約書も存在するが、相手方が、倒産して、夜逃げをしてしまったところ、たまたま、隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしているところを見つけたので債権回収してほしい」
という相談があったします。

この相談に対する正しい対処課題は、
「相談者において『この事件を一刻も早く忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない』というマインドセットが確立すること」
をゴールとした知的啓蒙だからです。

このあたりのメカニズム(「〔一般常識とは全く異質の〕法律実務における一般的な相場観」を前提にした、展開予測〔場合によってはゴールや着地点の予測〕)については、
00996_企業法務ケーススタディ(No.0316):債権が焦げついた!?  債務者を相手に裁判!?  やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!

00640_企業法務ケーススタディ(No.0222):訴訟のコスパ やられたらやり返すな!
に詳細を記しています。

要するに、
「(お金が)ないところからは一銭も回収できない」
「『手元不如意の抗弁』という最強・最凶の支払拒否理由を出されると債権者は手出し不能となる」
という厳然たる法則の前には、どんなに優秀・有能で経験のある弁護士であろうが、どんなにえげつないヤクザだろうが、あるいは国家権力でさえ、無力だからです。

15億円の金銭消費貸借契約書があろうが、100億円の手形があろうが、1000億円の貸付を示す公正証書があろうが、
「隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしている債務者」
に訴訟をしようが、強制執行しようが、手に入るのは、ダンボールくらいです。

したがって、
「15億円貸付けて、きちんとした金銭消費貸借契約書も存在するが、相手方が、倒産して、夜逃げをしてしまったところ、たまたま、隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしているところを見つけたので債権回収してほしい」
という相談がされた場合、相談を受けた弁護士としては、事情を掘り下げて聞くべきではなく、内容証明郵便で催告通知をするべきでもなく(そもそも隅田川のほとりの段ボールの家に内容証明が届くか、という根源的前提課題もありますが)、保全処分や訴訟の準備をするべきでもありません。

このような相談(回収不能な債権の回収事案)を受けたら、
1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、

といった前述の実施手順の下、
「この事件については、『相談者が、一刻も早く事件を忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない』マインドセット確立がゴールである」
という
「明確なゴール」
を想定し、
5 以上を前提に、相談者に基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
ではなく、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
でもなく、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)

という冷静かつ客観的にみてもっとも正しい決定を行していただく
すなわち、
目の前にいる相談者が一刻も早く
「一刻も早く事件を忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない」
というマインドセットが確立されるよう、知的啓蒙・教化・誘導をするべきことが法律相談のゴールとなるのです。

いずれにせよ、冷静に展開予測(筋読み)をして、早期に、明確かつ具体的かつ現実的なゴールを設定し、当該ゴールに向けて、相談者に働きかけ、相談者との認識ギャップや解釈ギャップや知的ギャップを埋めることが、初回相談で行うべきこととなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01635_法律相談の技法1_相談者からサポート要求メッセージを受けた際の初動(相談実施前に行っておくべき、事前の「前提状況確認」)

1 前提

まず、相談者が何やらサポートメッセージを言語として発していてもこれを素直に受け付けるべきではありません。
法律や事件対処の素人である顧客・相談者が、正しい理解と認識の下、正しいことを要求しているとは限りません。
相談者(素人)が言語として発しているメッセージが、正しいものなのか、それとも正しくないもの(間違ったもの、不合理なもの、狂ったもの、「前提において致命的な誤りがあり、当該前提から矯正すべきもの」等)かを見定める必要があります。
そして、後者、すなわち、相談者が
「正しくないもの(間違ったもの、不合理なもの、狂ったもの、「前提において致命的な誤りがあり、当該前提から矯正すべきもの」等)」
をサポートリクエストメッセージとして申し出てきている場合、当該メッセージ の解釈・補正が必要となります。
といいますか、
「正しく状況認知ができ、正しく状況評価・解釈ができ、正しく合理的な支援要求できるような相談者」
は稀、というか、まずそんな素人いません。
デフォルト状況として、
「素人であり、ただでさえ知識も経験もないのに、事件の当事者であり、トラブルの渦中にいて、パニックになって認知能力も知性も精神的安定性も欠如している相談者」
は、
「『欲によって曇った目』と『都合の悪いことが聞こえない耳』で認知・認識した歪んだ状況を、自己保存のバイアスで自己に都合よく評価・解釈し、間違った考えの下、間違った内容として構成した話」
を、自信たっぷりに語りだすため、普通に観察すれば、
「息を吐くように嘘を付く」
ようになってしまっていることが、経験則上、多く見受けられます。

2 相談者に対する気構え

したがって、
性「愚」説
に立ち、
「相談者は、常に間違ったこと、事実と違うこと、おかしなこと、不合理なこと、誤ったことを、ときに本人として嘘や間違いを話しているという意識もなく、語っている」
という前提に立つべきであり、そのような気構えをもって接することとなります。

3 「相談者が求める『相談内容そのもの』や『そもそもの相談の前提』が致命的に間違っており、一見して狂ったものである可能性」がありうることを常に念頭におく

例えば、相談者が契約書を持参し、
「契約書をチェックしてください」
と依頼してくる場合があります。
ところが、相談者は、「フォーマルな文書」に対する識字能力が欠如しており、契約書の記述内容をまともに読解できておらず、
「契約書のチェック」
といっても、実際は、代読の要請、すなわち、
「ブックリーディングレベル(字が読めない子供に絵本を読み聞かせるようなレベル)の支援要求」
であることが判明することもあります。
また、契約書により記述されたビジネスモデル自体に不合理性や欠陥が顕著に存在しており、契約書作成以前に課題があり、
「相談者が直面している真の課題」
は、
・ビジネスモデルのストレステスト

・ビジネスモデル変更に伴うタームシートレベル(契約条件設計書)の内容変更に関するカウンセリング
であり、
「契約書起案や構成」
のはるか以前の前提段階の支援要求であることが判明することもあります。
さらに言えば、相談者には、取引構造自体の意味やポイント把握が必要な知的レベルすら欠如しており、
「契約書で記述された取引構造やビジネスモデル」
を読解して整理すると、現実には、
「1万円札を1万2000円で買い、当該1万円札は、ほとんど売れず、8000円でも売れない状況である可能性が内包する、という構造的欠陥が存在する」
という構造的欠陥が存在しており、にも関わらず、相談者において当該欠陥に気づいておらず、事態をシンプルに表現すれば、
「相談者は、詐欺師に騙されて、詐欺の内容の契約を提案され、これを受諾しようとしている」
というお粗末な状況が判明することもあります。
このような状況が判明した場合、必要なことは、
「契約締結を所与として、提案された契約書を緻密に査読して、そのテニヲハを緻密に修正して、文書を完璧にチューンナップすること」
ではなく、
「(詐欺師から提案された内容が詐欺の)契約そのものをしない」
ように助言することとなります。
このような本質的状況や前提を理解せず、
「契約書の査読とありうべき修正をされたい」
という
「状況を理解していない素人の相談者」
が当初要求する課題を馬鹿正直に字義通り受け取り、
「契約締結を所与として、提案された契約書を緻密に査読して、そのテニヲハを緻密に修正して、文書を完璧にチューンナップし」
て 契約を取り交わした場合、
「『契約書の記述・表現』の前提となったビジネスモデルの構造的欠陥」
が原因で、相談者が大きな損害を被ることとなり、弁護士は、そのような危険を見抜けなかった自体を責められることになりかねません。

4 相談者の要求メッセージを実行する前の事前カウンセリング

たいていの新規相談については、相談者から発せされた要求メッセージに着手する前に事前のカウンセリング(前提状況把握)が必要なことがありえます。
医療(病気の治療)のアナロジーで解説しますと、患者が医者に
「私はインフルエンザA型なので、早く、インフルエンザA型に効く薬を出してくれ」
と訴えて来たとしても、その訴えどおりにいきなり
「インフルエンザA型に効く薬」
を渡すような医者はいません。
そんなことをやれば医者は医療過誤で訴えられます。
普通の医者は
「何、あんた、勝手に病名語ってんの? 病名はこっちが決定するから。あんたに聞いてんのは病名じゃなくて、病状。とっとと、病状話してくれよ」
とたしなめるものです。
これと同様、相談者の当初要求メッセージは、
「素人の戯言」
程度に認識するにとどめ、少なくとも、話を深掘りしたり、前提を推察して、前提や構造における、欠陥や異常性や不合理性を見つけ出すべきであり、そのために、事前のカウンセリングを実施すべき場合があります。
経験のある弁護士がこの種の事前カウンセリングを行うと、
「前提が不合理あるいは狂った、全体として間違った支援要求」
は、必ず、ボロが出ることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01634_企業法務におけるリーガルマインド

「法律の実際の適用に必要とされる、柔軟、的確な判断」

一般に
「リーガルマインド」
などという趣旨不明、意味不明な言葉が使われることがありますが、これって何なのでしょう?

1 具体的な社会的事実や問題から、法的に重要である事実を選び出し、 法律問題として把握し、分析すること。
2 関係者の言い分を公平に聞くこと。
3 各問題について、法原則や条文を根拠とする合理的な推論によって論理的に考え、きちんとした法的理論構成を行うこと。
4 自分の結論が社会の常識や良識からかけ離れていないか、またその結 論をとった場合に社会的に不都合が生じないか、生じるとしても許容 範囲といえるかどうかをチェックすること。また、その際、正義・人権・自由・平等などの法的な価値を重視すること。
5 各問題から導き出した結論を、条文によって根拠づけ、思考の過程とともに関係者へ示し、説得すること

具体的事件から法的な抽象化をなして法的結論を導く論理を駆使できる、法律家集団の集団精神(the group-mind)

法律を使って適切に問題を解決する能力

などなど、ネットを探すだけでも、様々な定義が発見されますが、私としては、どれも意味不明ですし、何を言っているかさっぱりわかりません。

25年弁護士として仕事をしてきた実務家としても、まったくしっくりきません。

法律家といっても、弁護士に裁判官に検察官、弁護士といっても、人権派弁護士、ビジネス弁護士、マチ弁、ブル弁、都会の弁護士、田舎の弁護士、不動産事件中心の弁護士、破産村の弁護士、刑事事件専門の弁護士等々、実に雑多に存在し、それぞれもっているマインドは違います。

検察官の「リーガルマインド」

刑事弁護人の「リーガルマインド」
とは、まったく別物だと思われます。

検察官のリーガルマインドとは、
「人間はすべからく犯罪者であり、この世には2種類の人間、すでに罪を犯した人間か、これから罪を犯す人間のいずれかしかいない。そして、目の前にいる被告人は、前者である」
という信念ですが、刑事弁護人はまた別の信念があるのだと思います。

また、
「司法研修所を修了した裁判官になりたてホヤホヤの若手(というか未熟な)刑事裁判官」の「リーガルマインド」
と、
「件数をビシバシ稼ぎ、最高裁事務総局の覚えめでたく、田舎に左遷させられる回数も少なく、『花のお江戸の旗本暮らし』よろしく、東京地裁か東京高裁で、肩で風を切って、闊歩するようなベテラン民事裁判官」の「リーガルマインド」
も違うでしょう。

前者(「司法研修所を修了した裁判官になりたてホヤホヤの若手(というか未熟な)刑事裁判官」)の「リーガルマインド」
は、
「予断と偏見で、被告人を罪人と決めつけてはいけない」
という謙抑的で慎重な物事の観察態度かと思われます。

他方で、
後者の「リーガルマインド」
とは、
「滞留事件をスピーディーに処理するべく、圧倒的な思考経済、訴訟経済を機能させるべく、予断と偏見だけで、事件を観察して、とっとと結論と筋書きを決めてしまう。『結論と筋書きを破綻させるような、矛盾する事実や証拠』を『敗訴させる予定の当事者』を小生意気にも提出してきたら、有害なノイズとして、断固として無視する」
というような、大胆にして苛烈な思考の働きかもしれません。

このように、人生いろいろ、法律家もいろいろ、リーガルマインドもさまざま、といったことがいえるかと思います。

ここで、
「企業法務弁護士としてのリーガルマインド」
とは何か、という点について、
「畑中鐵丸としての矮小な経験と独断と偏見により形成された満ちた、『企業法務におけるリーガルマインド』」
を定義してみたいと思います。

「企業法務におけるリーガルマインド(※ただし、畑中鐵丸が勝手に作ったものです)」とは、

1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、地獄をみる羽目に陥ったとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない

というゲーム状況を所与として、あらゆる仕事を設計し、構築し、遂行すること

というものです。

誤解がないようにいっておきますが、
「 1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない」
という考え方を心得て実践せよ、と言っているわけではありません。

また、私個人としても、
「1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない」
なんてあまりに世知辛い考え方については、反吐が出るほど嫌悪します。

他方で、

「世の中は平和で、善人に満ちていて、渡る世間には鬼がおらず、
『1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない 』
などという思考回路の人間などいるはずがないし、少なくとも目の前の人間がそういう人間であるはずはない」
という理解・認識を前提に、あらゆる仕事を設計し、構築し、遂行する

と確実に地獄をみます。

なぜなら、
「1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない」
という
「世知辛い考え方」こそ
が、グローバルスタンダードであり、世界標準だからです。

「そんな世知辛い思考回路の人間などいるはずがないし、少なくとも目の前の人間がそういう人間であるはずはない」
を所与とする日本人の考え方は、世界標準からすると、
「どローカル」のガラパゴス的思考の極地
といえます。

確かに、ビジネスは信頼関係、相互互恵、ウィンウィンが基本にあります。

ですから、ビジネスネゴにおいて、そのような牧歌的な考え方で話をまとめるのはもちろんあり得ますし、実際世界では普通に行われています。

他方で、
「ビジネスマター」
から
「リーガルマター」
に移行するとき、すなわち、ビジネスパースンから案件がリーガルパースンにバトンタッチされ、ビジネスネゴによる成果を
「ミエル化・カタチ化・数字化・具体化・言語化・文書化・フォーマル化」契約文書
に落とし込むという
「法務としての仕事」
が遂行される際には、
「企業法務におけるリーガルマインド」
を機能させて、仕事を設計・構築・実践しなければなりません。

もちろん、すべてが思い通りに運び、想定した結果が100%実現するのであれば、ウィンウィンの楽観論だけで十分です。

しかしながら、人間は皆、オールマイティではありません。

世の中、将来どうなるか、次に何が起こるか、なんてわかるはずもありません。

だから、約束した事柄を思い通りにコントロールする、なんてことはできるはずもありません。

したがって、ウィンウィンゲーム・プラスサムゲーム(拡大均衡して相互互恵の結果となる)のはずが、想定外の事態に直面して、ゼロサムゲーム、マイナスサムゲームに陥るなど日常茶飯事です。

そうなると、責任やダメージを相手になすりつけ、相手を地獄の底に突き落としてでも、自分の身の保全を図って、生き延びなければなりません。

その際、不愉快な想定外が生じた場合に備え、企業法務におけるリーガルマインド、すなわち、

「1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、地獄をみる羽目に陥ったとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない」
というゲーム状況を所与として、あらゆる仕事を設計し、構築し、遂行する

という観念ないし思想に支えられた、契約文書が身を守る盾となるのです。

法曹界で、
「あいつは本当にいいヤツ」
「あいつみたいないいヤツはみたことない」
と言われる御仁がいます。

これは、いってみれば、
「あいつには『企業法務におけるリーガルマインド』が欠落しており、(小さい事件や地味な事件は各別)あいつには絶対大きな事件を任せられない。任せたら、必ず失敗して、こちらも被害を受ける」
「あいつは、弁護士としてはヤブだ」
という
「最大限の蔑みの言葉」
を意味します。

もちろん、
「あいつは約束を守らない」
「あいつはよく人を騙す」
「あいつは平気で嘘をつく」
「あいつは汚い」
というのもよくありません。

法曹界において
「企業法務におけるリーガルマインド」
を有している法律家というのは、

「『1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない』という思想を実践する悪人」

というわけではなく、かといって、

「『そんな世知辛い思考回路の人間などいるはずがないし、少なくとも目の前の人間がそういう人間であるはずはない』を所与とする牧歌的なヌケサクの甘ちゃん」

というわけでもなく、

「『1 ズルは正義、
2 相手は常にズルをする、
3 無知な奴、ズルをされた奴、ズルをされることに気が付かない間抜けな奴が常にかつ一方的に悪い、
4 無知で無警戒な善人がズルの被害に遭って、破産して、勝手に死んだとしてもそれは自業自得・自己責任・因果応報の帰結として捨て置かれるほかない』というゲーム状況を所与として、あらゆる仕事を設計し、構築し、遂行すること」
を旨とする、
「したたかな奴」
「抜け目ない奴」
「疎漏がない奴」
「食えない奴」
などと評価をされる、グローバルスタンダードの思考と感性を有する人間

を指すものと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01633_契約書チェック術_建物賃貸借契約

1 契約の性質:普通賃貸借か、定期賃貸借か
2 適用法令:借地借家法が適用されるか、同法が適用されず民法が適用される賃貸借契約(駐車場や借家以外の構築物やケース賃貸やスペース賃貸)か
3 賃貸借期間
4 期間更新:自動更新条項の有無
5 賃借人による中途解約の可否・制約:違約金規定の有無と違約金額
6 賃料等:賃料のほか共益費等。売上歩合方式の場合等における固定額(最低保証額)の有無や計算方法
7 賃料改定条項:改定メカニズムやロジック。定期賃貸借における賃料減額請求排除条項の有無
8 敷金・保証金:金額と償却割合。返還までのメカニズム。建設協力金や金銭消費貸借としての性格の有無
9 借地権の譲渡や転貸の可否・チェンジオブコントロール条項の有無:チェンジオブコントロール条項に関連して、「資本構成の変動、上場廃止、会社分割」がトリガーイベントとなって解除される場合など
10 建物買取義務や買取に関する優先交渉権の有無
11 修繕や改装:修繕義務の負担帰属。修繕や改装についての許可制の場合のメカニズム
12 賃貸目的変更の可否
13 解除後明渡しが遅れた場合の損害金条項
14 管轄条項

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