1 企業の経営資源としてのカネの重要性
企業の運営・存続にとって最も貴重な経営資源は
「カネ」
といえます。
かの堀江貴文氏(ホリエモン)は、
「カネさえあれば買えないものはない。女の心もカネで買える」
といって物議をかもしましたが、表現の品位は別として、これは核心をついた発言です。
「カネ」
さえあれば、ヒト、モノ、チエその他の経営資源はいくらでも調達できます。
さらにいえば、M&Aという手法を使えば、
「カネ」
さえあれば企業まるごとを買うことだって可能です。
ヒトやモノやチエがなかったからといってそれだけで倒産する会社はありませんが、カネがなければ会社はたちまち倒産します。
その意味で、カネは、企業経営に欠くことのできない経営資源といえます。
2 企業経営における「カネ」の意味
企業活動において
「カネ」
を調達したり運用したりといったビジネス活動をファイナンスあるいはファイナンスマネジメントと言ったりします。
カネに関わる仕事は、単純に金に関する管理だけにとどまりません。
株式・社債・リース等を含めた企業の資金調達・資金運用といった企業の信用創造・信用管理等を含め、仕事として大きな広がりをもちます。
他方、
「(具象化された価値そのものである)カネ」
については、その価値の重大性や、移転が簡単に行えることから事故発生の可能性が高く、取扱に慎重さが要求されますし、
「カネ」
を抽象化・観念化した形而上の価値としての
「信用」
については、取り扱う上で、慎重さに加え、技術的難解さのため、一定の知的水準が要求されます。
このため、
「カネ」
や信用の取引・管理・運用は、
「ヒト」
や
「モノ」
といった経営資源の場合に比べて、技術的色彩が強くその運用は複雑で困難なものとなっており、これに比例してビジネスの活動としての管理の重要性は増します。
企業の資金調達(コーポレート・ファイナンス)、さらには
「カネ」
や
「信用」
の管理・運用に関する企業活動と、これを安全かつ戦略的に実現するために、取引・管理・運用の合理性や合法性や安全性を担保する上で、企業法務の担当者・責任者は、重要な役割を期待されることになります。
3 カネの魔力
カネを継続的に増やすという本能をもった
「企業」
ないしその責任者となれば、カネに対する執着と欲は異常なほど強力なものとなります。
そもそも、カネという経営資源の特徴ですが、決裁手段として使うならともかく、カネを運用手段として自己増殖的に増やそうとした途端、不可視性、抽象的かつ複雑、高度の技術性という点が如実に現れます。
要するに、バカでは扱えないし、バカが扱うとエライ目に遭う、という危険を内包しているのです。
ところが、カネの欲は、冷静さや理性的判断や謙虚さを吹き飛ばします。
カネに対する強い欲望と、
「オレはバカではない」
と謙虚さのない知ったかぶりが昂じると、聞いてはいけない人間の助言(有害なノイズ)に踊らされ、ゲームのルールを理解しないまま、危険な立場を取らされ、リスクを取らされ、損害を被り、損害を隠蔽するため、さらに危険なマネを強いられ、最後は会社を傾かせることになります。
4 運用話や節税商品や会計マジックといった話のリスク
これほどまでに運用が困難な時代に、
「リスクが少なく、リターンが大きな、安全な投資」
などあり得ませんし、仮にそういうものがあっても、
「資産といってもほどほどの額しかなく、金融に関する知識にも乏しい、そこらへんの一般企業」
のところには決して回ってきません。
一般的に申し挙げて、
「余剰資金運用や節税にエネルギーを使う企業」
は、
「健全な成長・発展してきちんと納税する企業」
との比較において、短命といえます。
企業が
「一発逆転」
を狙って自分の頭脳で理解できない利殖商品に手を出したり、何度聞いてもよく分からない節税商品に手を出すのは、方向性としても、実際問題としても大きなリスクがあり、企業生命を危うくするものと考えられるのです。
おカネないしファイナンスというものは、サイズが大きくなっていくにつれ、その価値の構成が抽象化され、時間やリスクというファクターが複雑に組み合わさっていき、どんどん理解が困難な仕組みになっていきます。
また、
「銀行は、晴れた日に傘を貸して、雨が降ったら取り上げる」
などといわれますが、おカネを扱う方の品性や野蛮さは、着用しているスーツの品のよさや学歴の高さと見事に反比例しています。
無論、これは褒め言葉です。
「百獣の王と呼ばれ、動物の世界で頂点に立つライオン」
が、知的で、狡猾で、慎重で、自己中心的で、冷酷で、残忍であるように、
「金融資本主義が高度化した現代において、経済社会の頂点に立つ、金融関係者」
も、強靭で、知的で、狡猾で、慎重であることは当然です。
金融のプロからみれば、
「知ったかぶりで、無防備な企業の社長」
をひねりつぶすなどいとも簡単なのです。
バブル期の不動産担保ローン、変額保険、高額会員権、為替デリバティブ等、
「カネの知識のない一般企業」
が銀行や金融機関によって経済生命を奪われた例は枚挙に暇がありません。
「身の丈を知る」
という言葉がありますが、実業に徹し、ラクをすることを考えず、慎重かつ保守的に行動し、理解できないものには手を出さず、手を出すなら売る側の金融機関担当者を上回るくらいきっちり勉強して、諸事疑ってかかれば、おカネやファイナンスで失敗することはありません。
5 カネのマネジメントの基本
以上のとおり、おカネにまつわる仕事をする際は、おカネやファイナンスの難しさや、おカネやファイナンスをとりまく人間のずる賢さや恐ろしさといったものを適切に理解し、勉強を怠らず、慎重に行動していくことが求められるのです。
特に、企業法務の担当者の役割としては、複雑な専門用語や高度で難解な表現が散りばめられた資料の奥底にある、本質とメカニズムをきっちり把握した上で、
「カネの知識のない一般企業」
が知的で、狡猾で、慎重で、自己中心的で、冷酷で、残忍な金融プレーヤーや危険な節税提案をする方々の食い物にされることのないよう、リスクをきちんと把握し、これをしっかりとカネを取り扱う責任者に警告することが役割として求められます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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